本編 > 第1部 > 特集 > 第3節 我が国におけるポジティブ・アクション
第3節 我が国におけるポジティブ・アクション
我が国においても,政府や各団体においてポジティブ・アクションに関する次のような取組が行われている。
1 政府の取組
(1) 府省の取組
各府省では女性の参画拡大や,ポジティブ・アクションの推進に向けて次のような取組が行われている。
ア 内閣府
内閣府では,様々な分野におけるポジティブ・アクションの推進に向け,各分野・団体への働きかけや個人・団体に対する表彰等を行っている。
(各分野におけるポジティブ・アクション導入の推進)
平成17年12月27日に閣議決定した男女共同参画基本計画(第2次)を踏まえ,平成18年9月,都道府県,政令指定都市,独立行政法人,特殊法人,認可法人及び各種機関・団体等の長宛に,政策・方針決定過程への女性の参画拡大について要請を行った。
その後,平成20年4月に,あらゆる分野における女性の参画を加速するため,「女性の参画加速プログラム」を策定し,平成22年度末までの具体的な取組内容としてあらゆる分野における女性の参画加速のための基盤整備や,活躍が期待されながら女性の参画が進んでいない分野(医師,研究者,公務員)の重点的取組が定められた。同年には内閣府特命担当大臣(男女共同参画)を筆頭に,経営者団体,労働者団体,地方自治体等の関係団体のトップ等に対して女性が活躍できる環境の整備等の働きかけも行われた。
さらに,平成23年2月には,第3次基本計画において「2020年30%」の目標の達成に向けて今後取り組むべき喫緊の課題として実効性のあるポジティブ・アクションの推進を掲げていることを踏まえ,都道府県,政令指定都市,地方六団体,各種機関・団体等にポジティブ・アクションの導入に向けた要請文を発出した。
また,第3次基本計画では,政治分野における女性の参画拡大が盛り込まれたことから,各政党の役員等に占める女性の割合や,衆議院議員及び参議院議員の選挙,地方公共団体の議会の選挙における女性候補者の割合が高まるよう,内閣府副大臣による政党の幹事長への要請文の手交等の協力要請を実施した(左下写真参照)。
このように,政治における女性の参画拡大に向けた要請を行ったことから,ここで直近の衆議院議員総選挙及び参議院議員通常選挙の候補者・当選者に占める女性割合や,地方公共団体の議会・首長の女性の参画状況を概観する。
平成21年8月30日に執行された衆議院議員総選挙では,候補者に占める女性割合は16.7%,当選者に占める女性割合は11.3%であり,当選者に占める女性割合は候補者に占める女性割合よりも低くなっている。
党派別の候補者に占める女性割合については,30%以上が3団体,20%以上30%未満が2団体,10%以上20%未満が2団体,10%未満が5団体(うち2団体は女性候補者なし)となっている(第1-特-12表)。
第1-特-12表 平成21年8月30日執行・衆議院議員総選挙の党派別・候補者と当選者に占める女性割合一覧
また,平成22年7月11日に執行された参議院議員通常選挙では,候補者に占める女性割合は22.9%,当選者に占める女性割合は14.0%であり,参議院も衆議院と同様に当選者に占める女性割合は候補者に占める女性割合よりも低くなっている。党派別の候補者に占める女性割合は,30%以上が2団体,20%以上30%未満が5団体,10%以上20%未満が4団体,10%未満が1団体となっている(第1-特-13表)。
第1-特-13表 平成22年7月11日執行・参議院議員通常選挙の党派別・候補者と当選者に占める女性割合一覧
次に,地方議会における女性の参画状況(平成22年12月31日現在)を見ていく。
都道府県議会議員に占める女性の割合は全体で8.1%であるが,女性議員の割合が10%未満の団体が全体の約4分の3にあたる36団体と大半を占めている。また,女性議員割合が5%未満の団体も11団体ある7(第1-特-14図)。
7 なお,平成23年4月に執行された統一地方選挙の結果,都道府県議会では女性議員がいない議会はなくなった。
第1-特-14図 地方議会議員に占める女性の割合(都道府県議会)
一方,市区議会及び町村議会については,女性議員がいない議会がいまだ数多く存在している。
全国の809市区議会のうち,全体の7%にあたる57議会では女性議員がおらず,47都道府県のうち33団体では女性議員がいない議会が存在している。
町村議会では,市区議会よりも更に女性議員がいない議会の割合が高くなっている。全国941町村議会のうち,全体の38%にあたる358議会で女性議員がおらず,全ての町村議会に少なくとも1名は女性議員がいるのは3団体のみであり,47都道府県の9割以上にあたる44団体では女性議員がいない町村議会が存在している。また,そのうち9団体では女性議員がいない議会の割合が50%を超えている(第1-特-15表)。
第1-特-15表 都道府県別の市区議会及び町村議会における女性議員がゼロである議会の状況
また,都道府県及び市区町村の長に占める女性割合(平成22年12月31日現在)について見ると,全国の都道府県知事47名のうち女性は3名(北海道,山形県,滋賀県)であり,全体に占める割合は6.4%である。市区長に占める女性の割合について見ると,全国の市区長808名(欠員1名除く)のうち女性は18名であり,全体に占める割合は2.2%である。47都道府県中34団体では女性の市区長がおらず,女性市区長が存在する13団体についても,複数の市区長がいるのは3団体のみである(第1-特-16図)。
さらに,町村長に占める女性の割合について見ると,全国の町村長940名(欠員1名除く)のうち女性は6名であり,全体に占める割合はわずか0.6%である。女性の町村長がいる団体は47都道府県中6団体のみであり,そのうち複数の女性町村長がいる団体はゼロである(第1-特-17図)。
以上のとおり,地方公共団体の首長については,女性は少数にとどまっている。内閣府では,平成21年12月19日,全国の地方公共団体の29名(開催当時)の女性首長のうち22名の参加を得て「女性首長大集合!」を開催した。同会議では,各首長から男女共同参画や子育て支援等に関する取組紹介があり,「女性の活躍で,社会を変えよう!」,「意思決定の場にもっと女性を!」等の宣言がまとめられた。
(男女共同参画会議の有識者議員におけるクオータ制)
内閣府には,重要政策に関する会議の一つとして,男女共同参画社会の形成の促進に関する基本的な方針,基本的な政策及び重要事項の調査審議等を行う男女共同参画会議が設置されている。
男女共同参画会議は議長(内閣官房長官)及び議員24名以内をもって組織すると定められており,議員には内閣官房長官以外の国務大臣のうちから内閣総理大臣が指定する者と有識者が充てられる(基本法第23条,第24条第1項,第25条第1項第1号及び第2号)。
基本法第25条第3項は男女共同参画会議の有識者議員について「第一項第二号の議員8のうち男女のいずれか一方の議員の数は,同号に規定する議員の総数の10分の4未満であってはならない」としており,クオータ制を定めている。
8 有識者議員。
(女性のチャレンジ賞)
平成15年4月に男女共同参画会議において決定された「女性のチャレンジ支援策」において,身近なチャレンジの事例を提示するために,活躍する女性を顕彰する制度創設の検討が提言された。
これを受けて,内閣府では,平成16年度より起業,特定非営利活動法人での活動,地域活動等にチャレンジすることで輝いている女性個人,女性団体・グループ及びそのようなチャレンジを支援する団体・グループに対し,内閣府特命担当大臣(男女共同参画)による「女性のチャレンジ賞」の顕彰を行っている。チャレンジの身近なモデル等を示すことにより男女共同参画社会の実現のための機運を高めることを目的とする。
また,平成17年度からは年度ごとに異なるテーマで特別部門賞を設けている。これまでの特別部門賞のテーマは,地域づくり(平成17年度),再チャレンジで活躍する個人及び団体と再チャレンジする女性の採用・登用に取り組む企業(平成18年度),地域の魅力の発信(平成19年度),環境(平成20年度),安心して暮らせる地域づくり(平成21年度),新しい公共(平成22年度)となっている。
イ 文部科学省
文部科学省では,女性研究者の参画拡大に向けた取組が行われており,総合科学技術会議9の方針に従って同省が運用する科学技術振興調整費の公募プログラムの中には,女性研究者の研究継続や養成を目的としたものが設けられている。
9 内閣府設置法に基づき,内閣府に設置されている重要政策に関する会議の一つ。科学技術政策の推進のための司令塔として,我が国全体の科学技術を俯瞰し,総合的かつ基本的な政策の企画立案及び総合調整を行う。内閣総理大臣が議長を務め,関係閣僚を含む14名の議員から構成される。
(女性研究者支援モデル育成)
「女性研究者支援モデル育成」は,女性研究者がその能力を最大限発揮できるようにするため,大学や公的研究機関を対象として,研究環境の整備や意識改革など,女性研究者が研究と出産・育児等の両立や,その能力を十分に発揮しつつ研究活動を行える仕組み等を構築するモデルとなる優れた取組を支援するものであり,平成18年度から実施されている。採択機関では,育児期間中の研究補助員の配置,育児のための時短勤務制度,病児保育,メンター制度の導入,カウンセラーの配置,ロールモデルの収集と提示,情報交換会やシンポジウム開催等の取組が行われている。
平成18年度から平成22年度までの間に合計55件が採択されている。
(女性研究者養成システム改革加速)
「女性研究者養成システム改革加速」は,多様な人材の養成・確保及び男女共同参画の推進の観点から,特に女性研究者の採用割合等が低い理学系・工学系・農学系における女性研究者の養成を加速することを目的としており,平成21年度から実施されている。
採択機関では,女性研究者の採用に関する数値目標の設定,女性に限定した研究者の公募,女性研究者を採用した部局に対する人件費・研究費の補助,複数メンター制の実施等の取組が行われている。
平成21年度及び平成22年度で合わせて12件が採択されている。
ウ 厚生労働省
厚生労働省では,企業におけるポジティブ・アクションの推進に向け,以下のような取組が行われている。
(女性の活躍推進協議会の開催)
企業が自主的にポジティブ・アクションに取り組むことを促す仕組みとして,行政と経営者団体の連携の下,平成13年から「女性の活躍推進協議会」(以下「協議会」という。)を開催しており,平成14年には「ポジティブ・アクションのための提言」を取りまとめた。さらに,「ポジティブ・アクション取組事例集」等参考資料を作成するとともに,平成17年度からは協議会委員自ら発信し,行動することに力点を置き,シンポジウムを開催する等,様々な場面でポジティブ・アクションの普及促進を行っている。
平成22年には,ポジティブ・アクション普及促進のためのシンボルマークを公募し,愛称を「きらら」に決定した。さらに,同年7月に開催された協議会では,協議会所属企業の委員から「ポジティブ・アクション宣言」として,女性の活躍推進に関する企業としてのビジョン・方針や取組内容,企業トップのメッセージ等を発表するとともに,厚生労働省ホームページ上のサイトで公表することにより,事業主を始め社会一般にもポジティブ・アクションについての理解を深め,より多くの企業が具体的なアクションを起こすことを促している。
(均等・両立推進企業表彰(均等推進企業部門))10
平成11年度から,ポジティブ・アクションについて,他の模範となる取組を推進している企業に対する表彰を行っている。表彰によりその取組を広く周知し,男女ともに職業生活の全期間を通じて,持てる能力を発揮できる職場環境の整備を促進することを目的としており,これまでに,厚生労働大臣最優良賞2企業,均等推進企業部門厚生労働大臣賞43企業,都道府県労働局長賞371企業が受賞した。
10 平成11年度から平成18年度までは「均等推進企業表彰」,平成19年度からは「ファミリー・フレンドリー企業表彰」と統合し,「均等・両立推進企業表彰(均等推進企業部門)」として実施。
(ポジティブ・アクションに関する総合的な情報提供)
事業主がポジティブ・アクションの実施状況を開示する場合の国の援助として,平成19年,ポジティブ・アクションを積極的に進めている企業の取組の閲覧・検索及び自社の取組を掲載できる「ポジティブ・アクション応援サイト」を開設した。さらに,平成22年には,「ポジティブ・アクション情報ポータルサイト」を開設し,自社のポジティブ・アクション推進状況の位置付けを自己診断することができる「女性活躍推進状況診断」を掲載する他,具体的なポジティブ・アクションの取組等についてアドバイザーが相談に対応する等,ポジティブ・アクションについての総合的な情報提供を行っている。
(ポジティブ・アクション実践研修の実施)
平成11年度からポジティブ・アクションの普及促進のためのセミナー等を実施しており,平成22年度には,ポジティブ・アクションに関する具体的なノウハウを提供するため,人事労務担当者等を対象に全国で研修及び相談会を実施し,先進企業による事例発表や,参加者のグループディスカッションによる事例検討を行った。
(中小企業におけるポジティブ・アクション導入に対する支援)
大企業に比べ取組の遅れている中小企業に対して,平成22年度からポジティブ・アクションを導入するための支援を行っている。これまでに,中小企業にコンサルタントを派遣し,その支援の下,ポジティブ・アクションに関する取組を行い,中小企業での取組の効果的な方法や問題点について検討・分析を行った。また,ポジティブ・アクションの取組成果が上がっている企業にヒアリングを行い,取組内容についての好事例集を作成・配布した。
エ 農林水産省の取組
農林水産省では,農山漁村における女性の参画促進に向け,以下のような取組が行われている。
(女性の参画促進に向けたクロスコンプライアンスの活用)
農林水産省では,ある施策による補助金の支給等について,別の施策によって設けられた要件の達成を求めるクロスコンプライアンスという手法を導入している。
例えば,産地競争力の強化等を目的とし,地域における農畜産物の生産・農業経営から流通・消費までの総合的な対策を推進するために交付される「強い農業づくり交付金」では,クロスコンプライアンスの導入により,平成18年度から,男女共同参画社会の形成に向けた施策の推進に配慮することを採択に当たっての要件としている。
具体的には,事業実施に当たって,交付金を受けようとする都道府県等において女性選出枠の設定等女性の参画に関する数値目標を設定していること等に留意するよう定めている。
(農業委員会等における女性の参画促進に向けた働きかけ)
農林水産省では,農業協同組合及び農業委員会における女性の役員又は委員の登用を進めるための働きかけを行っている。
平成20年7月の農業委員全国統一選挙に合わせ,同年3月,農業委員会の委員に女性が占める割合を30%とする目標に向け,農業委員会への女性の参画目標を設定するとともに,その目標の達成に向けて積極的に取り組むよう,市町村及び農業委員会に対する周知,指導の徹底を都道府県知事及び全国農業会議所宛に依頼した。
この統一選挙の結果,全体に占める女性農業委員の割合は0.5%増加し,4.6%となったが,農業委員の定数の減少等の影響もあり女性農業委員の人数自体は減少した。そこで,平成21年7月以降に行われる農業委員会の委員の改選において女性の割合が着実に増加し,農協役員,指導農業士等も含め女性の参画が加速されるよう,市町村,農業委員会及び関係機関に対する一層の周知,指導の徹底を都道府県知事及び全国農業会議所会長宛に依頼した。
また,平成22年8月には,「食料・農業・農村基本計画」(平成22年3月30日閣議決定)において「農業協同組合の女性役員や女性農業委員等の登用増等の目標を設定し,その実現のための普及・啓発等を実施する」とされたことを踏まえ,農林水産省として,(ア)次回改選時までに役員又は委員に女性がゼロの農業協同組合及び農業委員会を解消すること,(イ)平成27年3月までに各組織における2名以上の女性役員等の登用を確実に達成することを具体的な目標に設定し,都道府県知事並びに全国農業協同組合中央会会長及び全国農業会議所会長宛に,農協の非常勤の女性役員枠の設置や,農業委員会による女性が1人もいない組織に対する重点的な働きかけを促すよう協力要請した。
なお,平成21年10月現在,農業委員全体に占める女性農業委員の割合は4.9%である。都道府県別の女性農業委員の割合について見ると,10%を超えているのは1団体のみであり,以下,5~10%未満が20団体,3~5%未満が15団体,3%未満が11団体となっている(第1-特-18図)。
オ 経済産業省の取組
経済産業省では,株式会社日本政策金融公庫を通じ,女性の起業に対する支援を行っている。
株式会社日本政策金融公庫では,国民生活事業及び中小企業事業の融資制度として女性,若者/シニア起業家支援資金(制度創設:平成11年4月)を実施している。これは,女性又は30歳未満か55歳以上であって新たに事業を始める者や事業開始後おおむね5年以内の者に対して,設備資金等の融資につき通常の借入者に適用される基準金利よりも低い優遇金利が適用される制度であり,技術・ノウハウ等に新規性が見られる場合には,更に低い優遇金利が適用される。貸付限度額は,国民一般向け業務を行う国民生活事業では7,200万円(うち運転資金4,800万円以内),中小企業者向け業務を行う中小企業事業では7億2,000万円(うち運転資金は2億5,000万円以内)である。平成11年4月から平成23年3月末までの間の女性の利用実績は,国民生活事業では計5万20件(金額合計2,442億円),中小企業事業では計93件(金額合計53億円)である。
(2) 女性公務員の採用・登用に向けた取組
第3次基本計画は女性国家公務員の採用及び登用につき政府全体の目標を設定している(平成27年度末までに,採用について国家公務員採用試験からの採用者30%程度,登用について指定職相当3%程度,本省課室長相当職以上5%程度,地方機関課長・本省課長補佐相当職以上10%程度等)。
また,各府省では,人事院が第3次基本計画を踏まえ改定した「女性国家公務員の採用・登用の拡大等に関する指針」に基づき,平成27年度までの目標及び具体的取組を設定した5年間の計画である「女性職員の採用・登用拡大計画」を策定することとしている。
その他,女性公務員の採用・登用に向けた取組として,各省庁は独自に様々な取組を行っている。
ア 外務省「女性職員の勤務環境改善のためのタスクフォース」からの提言
外務省では,「外務省を女性が働きやすい職場に」をテーマに,女性の勤務環境改善を外務省内チームが検討し提言をまとめた。
平成22年3月25日,外務大臣のイニシアティブにより,外務省の「女性職員の勤務環境改善のためのタスクフォース」を設置した。タスクフォースは,国会答弁作成作業を含む長時間勤務に加え,頻繁な海外出張,突発的な事件への対応,複数回に渡る長期の海外勤務等の同省特有の事情が職員の勤務環境に与える影響を認識し,女性職員(特に,育児中の女性職員)の負担の軽減が,男性職員の負担を増やすことにならないよう,全職員の仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を改善する方向で解決策を見出すよう取り組んだ。その過程においては,幹部を除く全職員を対象とするアンケートを実施し,勤務継続への不安の理由,希望する改善策等を聴取し,一方で,民間企業,独立行政法人,国際機関,他国外務省に対してヒアリングを行い,先進的な取組について聴取した。同年6月4日,勤務環境改善に向けた提言を取りまとめ,改善策をリスト化し,外務大臣に提出している。同タスクフォースが特に優先順位の高い改善策として,選定している10項目は以下のとおりである(第1-特-19表)。
第1-特-19表 タスクフォースが選定した特に優先順位の高い改善策(10項目)
イ 財務省「財務省が変わるための50の提言」
財務省では,平成22年4月19日,財務大臣の指示により,財務省改革の一環として,省内プロジェクトチームが「財務省の新たなビジネスモデルの構築」のための提言をまとめた報告書を作成した。
報告書では,長年の間に無意識に形作られた「職種・年次・男女」などの組織における「壁」を乗り越えて財務省がオープンかつ専門性の高い組織となるためには,職員一人一人の意識改革とともに組織を挙げた対応が必要であると述べている。女性職員の登用については,過去の女性の採用数の少なさと女性職員の計画的な育成に対する認識の薄さ,家事負担等が女性に偏りがちな中,「無定量・無制限」な業務が家庭生活との両立を一層困難にさせてきたことなどが登用が十分に進んでいない要因ではないかとし,財務省全体が組織内の多様性を確保しつつ,政策立案能力をより一層高めていくためには,女性職員について,採用から登用までを意識した育成を着実に推進することが不可欠であるとしている。女性の採用・登用やワーク・ライフ・バランスについての提言は以下のとおりである(第1-特-20表)。
ウ 警察庁「女性警察官の採用・登用の拡大」
男女共同参画社会の実現は政府一体となって取り組むべき最重要課題であるとされており,他方,少子化社会が進展する中,警察官の質を確保していくためには,優秀な女性の積極的な採用が必要不可欠である。また,女性警察官の十分な能力の発揮,組織の活性化には,能力や実績を有する女性警察官の積極的な登用が重要であることから,警察庁では,平成23年2月,各都道府県警察の長に対し,女性警察官の採用・登用の拡大に向けた各都道府県警察の計画を策定するよう求める通達を発出した。通達では,女性警察官の採用目標,採用・登用の拡大,執行力の確保,女性警察官が働きやすい職場環境づくり,推進体制などの骨子を示すとともに,計画の策定に当たっての留意点として,女性警察官に係る現状や問題点等を把握すること,女性警察官からの意見聴取を行うこと,男女共同参画基本計画の変更等の機運をとらえた働きかけを行うこと,計画期間を10年程度とし,最終的な目標を各都道府県警察の警察官に占める女性警察官の割合で示すこと等を求めている。
(3) 公共調達におけるポジティブ・アクション
男女共同参画やワーク・ライフ・バランスに取り組む企業を国として積極的に評価・支援し,企業における自主的な取組を促進するため,平成22年度から,男女共同参画やワーク・ライフ・バランスに関連する調査等の事業の委託先の選定を一般競争入札の総合評価落札方式によって行う際,男女共同参画等に積極的に取り組む企業に対し加点する取組が行われている。
男女共同参画等の取組の評価のために用いられた評価項目としては,女性雇用率,女性管理職比率,労働時間縮減のための取組の実施,一般事業主行動計画に基づく認定(くるみんマーク)の取得等がある。
平成22年度には,内閣府5事業,文部科学省1事業,厚生労働省4事業の計10事業について公共調達におけるポジティブ・アクションが実施された。
2 地方公共団体の取組
(1) 女性公務員の採用・登用に向けた地方公共団体の取組
女性公務員の採用・登用のため都道府県において行われている措置としては,採用目標の設定,管理職登用目標の設定,採用・登用に関する計画の策定,採用・登用担当者の設置,庁内意見交換の実施等がある。
しかし,これらの措置を行う都道府県は多くはなく,平成22年度においては,採用目標の設定は7団体,管理職登用目標の設定は14団体,計画の策定は12団体,採用・登用担当者の設置は1団体,庁内意見交換の実施は5団体が実施しているのみである。また,これらの措置の全てに取り組んでいるのは福島県のみである(第1-特-21表)。
第1-特-21表 女性の採用・登用のための措置を実施している都道府県
都道府県の課長相当職以上の職員に占める女性割合は,全体では6.0%(平成22年)である。しかし,10%以上の都道府県が2団体ある一方で,全体の約半数にあたる22団体では5%未満であり,そのうち4団体では3%未満となっている。課長相当職以上の職員に占める女性割合については,都道府県による格差が大きい(第1-特-22図)。
第1-特-22図 地方公務員の管理職に占める女性の割合(都道府県別)
なお,市区町村の課長相当職以上に占める女性割合は,全体では9.8%であり都道府県の課長相当職以上に占める女性割合の合計に比べて高くなっている。しかし,47都道府県のうち全ての市区町村に女性管理職がいるのはわずか5団体であり,全体では,女性管理職がゼロの市区町村の割合は24.7%にも上る。
女性管理職の割合については,都道府県以上に市区町村による格差が大きくなっている(第1-特-23表)。
第1-特-23表 都道府県別の市区町村における女性管理職がゼロである地方公共団体の状況
(2) 公共調達におけるポジティブ・アクション
都道府県及び市区町村の中には,公共調達に係る入札につき男女共同参画やワーク・ライフ・バランス等の取組を評価項目の一つとするなどの措置を導入している自治体がある。
公共調達におけるポジティブ・アクションを導入している自治体の数は,都道府県27,政令指定都市3,市町村14である(平成19年8月時点。内閣府調べ。)。
3 政府・地方公共団体以外による取組
(1) 政治分野における女性の参画拡大に向けた政党の取組
諸外国では,政治分野(国政)においてクオータ制を始めとする様々なポジティブ・アクションの導入がなされており,政党による自発的な取組も多く行われている(第2節「1 政治分野におけるポジティブ・アクション」参照)。
我が国の政党においても,政治分野における女性の参画拡大に向けて次のような取組が行われている(コラム4,5)。
(2) 司法分野における女性の参画拡大に向けた取組
裁判官,検察官,弁護士に占める女性割合は,着実に増加している(第1部第1章 第1-1-12図参照)。
全国の弁護士等によって構成される団体では,団体内部における政策・方針決定過程への女性の参画に取り組んでいる(コラム6)。
(3) 民間企業における女性の参画拡大に向けた取組
我が国の民間企業における女性管理職の割合は上昇傾向にあるものの,上位の役職ほど女性の割合は低くなっている(第1部第2章 第1-2-13図参照)。また,管理職だけでなく,役員・経営者に占める女性の割合も低い(コラム7,8)。
以上のように,全体として見ると民間企業における女性の参画状況は十分とは言えないが,自社における女性の活躍状況を分析の上,仕事と生活の調和の推進や子育て支援等とともに女性管理職等の数・割合について目標を設定し,その達成に向けて取り組む企業も見られる(コラム9,10)。
コラム9 女性管理職増加に向けた企業の取組~Fグループの取組例~
コラム10 女性管理職増加に向けた企業の取組~Gグループの取組例~
女性が活躍できる社内環境は,女性を含む多様な人材の活躍を可能とする制度設計や男女双方の働き方の見直し等を通じて作られる。こうした取組により,女性が活躍できる企業風土を醸成していくことは,仕事の効率性の向上や,多様な人々の能力・発想を生かすことによる新たなアイデア・付加価値の創出等につながると考えられ,企業業績にも良い影響を与えることが期待される。
(4) 科学技術・学術分野における女性の参画拡大に向けた取組
我が国の研究者に占める女性割合は,諸外国と比較して低いものとなっている(第1部第8章 第1-8-7図参照)。
大学や企業の中には,女性研究者の増加や女性研究者の研究継続を目的として,女性枠を設けた教員の公募や,女性研究者に対する財政的支援を行うところも見られる(コラム11,12)。
コラム11 女性研究者専用ポストの設置~国立大学法人Hの取組~
また,分野によって女性教員の割合には格差が見られる(コラム13)。
(5) その他の分野における女性の参画拡大に向けた取組
「2020年30%」の目標に向けては,上記(1)~(4)以外の分野における各種機関・団体・組織においても,女性の参画拡大に向けた中間目標や,現状において女性がゼロである場合における「最低1名・女性1割運動」の展開などの目標を設定していくことが必要である。
労働組合における男女平等参画を推進するための計画を策定し,その中で労働組合の女性役員の増加に関する取組について定めている中央労働団体もある(コラム14)。