平成24年版男女共同参画白書

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第4節 東日本大震災の教訓を未来へ

1 中央防災会議等の動き

内閣総理大臣を始めとする全閣僚,指定公共機関の代表者及び学識経験者により構成される中央防災会議では,東日本大震災を踏まえた地震・津波対策の抜本的な強化や最近の災害等を踏まえた防災対策の見直しを反映し,平成23年12月に「防災基本計画」を修正した。修正後の防災基本計画では,避難場所の運営における女性の参画を推進するとともに,女性や子育て家庭のニーズに配慮した避難場所の運営に努めること,仮設住宅の運営管理において女性の参画を推進し,女性を始めとする生活者の意見を反映できるよう配慮することといった内容がより具体的に盛り込まれた(参考3参照)。

【参考3】防災基本計画(抜粋)

第2編 地震災害対策編 (※他の災害対策編にも同様の記述がある。)

第2章 災害応急対策

第5節 避難収容及び情報提供活動

2 避難場所

(2)避難場所の運営管理

  • 地方公共団体は,避難場所の運営における女性の参画を推進するとともに,男女のニーズの違い等男女双方の視点等に配慮するものとする。特に,女性専用の物干し場,更衣室,授乳室の設置や生理用品,女性用下着の女性による配布,避難場所における安全性の確保など,女性や子育て家庭のニーズに配慮した避難場所の運営に努めるものとする。

3 応急仮設住宅等

(3)応急仮設住宅の運営管理

  • 地方公共団体は,各応急仮設住宅の適切な運営管理を行うものとする。この際,応急仮設住宅における安心・安全の確保,孤立死や引きこもりなどを防止するための心のケア,入居者によるコミュニティの形成及び運営に努めるとともに,女性の参画を推進し,女性を始めとする生活者の意見を反映できるよう配慮するものとする。また,必要に応じて,応急仮設住宅における家庭動物の受入れに配慮するものとする。

また,中央防災会議の下に設置された防災対策推進検討会議において,東日本大震災における政府の対応を検証し,大震災の教訓を総括するとともに,防災対策の充実・強化を図るため,震災の教訓・課題を受け,防災対策の全般的な見直しや,災害対策法制の見直しに関する論点の整理等が行われた。平成24年3月に取りまとめられた中間報告では,被災者支援,復旧・復興,防災等の各段階における男女共同参画の視点の重視が明記されている。

なお,中央防災会議では27人中2人,防災対策推進検討会議は20人中5人が女性委員となっている。

東日本大震災の発生とその後の対応の教訓を踏まえて,地方公共団体においても,地域防災計画を修正する動きが出ている。平成23年度中に,27道府県が地域防災計画を修正した。

東日本大震災の発生後,地域防災計画等の防災に関する政策・方針決定過程に女性の参画を拡大する必要性がより強く認識されるようになり,各地方公共団体において,地方防災会議に女性委員を積極的に登用しようとする動きが見られる。

災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づき,地方公共団体が設置する地方防災会議における女性委員の割合は,平成24年4月現在で,都道府県4.5%(前年3.5%),政令指定都市8.5%(前年7.2%)となっている。前年と比べると,女性委員がゼロとなっている都道府県は,12都府県から6都県に減少しており,前年に女性委員がゼロだった神奈川県は5人,兵庫県,高知県及び沖縄県は3人の女性委員が参画することとなった(第1-特-37表)。

第1-特-37表 地方防災会議の委員に占める女性の割合 別ウインドウで開きます
第1-特-37表 地方防災会議の委員に占める女性の割合

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このような取組をより一層推進していくため,内閣府及び消防庁は,平成24年5月に,防災対策の見直しに係る男女共同参画の推進について,各都道府県宛てに通知した。

さらに,第180回国会に提出された「災害対策基本法の一部を改正する法律案」においては,地域防災計画に多様な主体の意見を反映させる観点から,地方防災会議の委員について自主防災組織を構成する者又は学識経験のある者のうちから知事等が任命できるものとされている。

内閣府では,平成23年度に「地域における男女共同参画連携支援事業」の一環で,地方公共団体における男女共同参画の視点を踏まえた防災対応への支援を行った(コラム11参照)。

コラム10 地方防災会議における女性委員の割合が高い地域の工夫

コラム11 地方公共団体における男女共同参画の視点からの防災対応

2 多様な主体の連携による支援

これまでも見てきたとおり,今回の震災では,国・地方公共団体,男女共同参画センター,大学,NPO,NGO,地縁団体,企業等の多様な主体が連携した支援が顕著な特徴として挙げられる。

前出の内閣府「男女共同参画の視点による震災対応状況調査」(平成23年)では,企業とNPO,男女共同参画センターとNPO,男女共同参画センターと業界団体等,多様な組合せによる支援が報告された。これまで災害等の対応において男女共同参画について意識することの少なかった団体が,震災を機に,地域の女性団体等と連携することにより,新たに男女共同参画の視点から取り組む必要性を認識したという例も報告された(コラム12参照)。

コラム12 災害対応をきっかけに女性支援の活動を始めた団体の例

コラム13 女性を対象としたボランティアツアーの開催

また,地域における男女共同参画推進の重要な拠点である男女共同参画センターは,日頃から情報提供,広報・啓発事業,相談事業等を通じて,地域に根ざした活動を行う様々な団体との連携体制が整っている利点をいかして,災害時においても,これらの団体が行う支援活動の中核や結節点となった。女性向け支援情報の提供や支援物資の提供等,全国の男女共同参画センター同士のネットワークを活用し被災者支援を行ったほか,これまでの知見をいかして,女性や子育て家庭に配慮した男女共同参画の視点による避難所・仮設住宅での支援を行うなど,大きな役割を果たした(コラム14参照)。

さらに,多様な団体が被災者への支援を行ったことにより,様々な課題も見えてきた。前出の内閣府「男女共同参画の視点による震災対応状況調査」(平成23年)では,病気の子を持つ親,外見では分かりにくい発達障害や内部障害のある者,アレルギー等で特別な対応が必要な者,性同一性障害を有する者,配偶者からの暴力の被害者,日本語が十分に理解できない外国人等が,避難所等において困難を抱えていたことが報告されている(コラム15参照)。

コラム14 男女共同参画センターにおける取組例

コラム15 災害時に改めて認識された課題

3 男女共同参画社会の実現と防災・復興

災害対応における男女共同参画の視点は,防災基本計画に平成16年に初めて盛り込まれ,男女共同参画基本計画(第2次)(平成17年12月27日閣議決定)でも,新たな取組を必要とする分野の一つとして防災(災害復興を含む)が盛り込まれた。また,第3次男女共同参画基本計画(平成22年12月17日閣議決定)では,「地域,防災・環境その他の分野における男女共同参画の推進」が新たに重点分野の一つとして位置付けられた。さらに,国際的にもジェンダーの視点からの災害対応についてしばしば強調されてきた。

平成7年の阪神・淡路大震災や 16年の新潟県中越地震に比べると,東日本大震災においては,発災直後から男女共同参画に関する問題提起がなされるなど,災害時の男女共同参画の視点は人々の間に浸透しつつあることがうかがえる。

しかしながら,東日本大震災においても,避難所において女性用の物資が不足したり,授乳や着替えをするための場所がなかったり,「女性だから」ということで,当然のように避難所の食事準備を割り振られたり,仮設住宅の運営が男性だけで取り仕切られていたりというように,様々な場面において男女共同参画の視点が不十分な現状が報告された。

また,震災に関連する様々な統計のうち,避難者数や新卒者内定取消し者数については,男女別データの不備のため,現状等を分析するのが困難なものとなっている。被災地では,被災者の置かれた状況を把握するための様々な調査が実施されているが,男女別で把握・分析されていないものも多い。災害発生時やその後の避難,復旧・復興の場面において,女性は男性とは異なる状況・立場に置かれており,今後は男女別データを整備していくことで,より効果的で,きめ細かい対策の立案に結び付けていくことが重要である。

第1節以降で見てきたとおり,東日本大震災では,高齢者を中心に女性の死者が男性を上回り,都道府県間の人口移動でも福島県では男性よりも女性に大きな影響が見られた。震災後の雇用状況や健康状況についても,男性に比べて女性の置かれている状況が厳しくなっている。相談窓口に寄せられた相談からは,家事,子育て等の家庭的責任が女性に集中し,負担が増大していることや,様々なストレスにより女性に対する暴力が発生していることもうかがえる。このように,女性は,男性に比べて,総じて災害の影響を受けやすいことが見て取れる。

復興に関しては,被災地での女性の雇用情勢が特に厳しいものとなっており,女性の就業先の確保は大きな課題である。女性の就業を支援するとの観点からも,女性も含む被災地での起業を支援することが必要であり,資金の提供やノウハウ面のサポート等の拡充が求められる。

一方,仮設住宅における孤立化についての懸念は,日頃から地域社会との関わりが少ない男性に目立ち,震災後に飲酒量が増加した者も,女性に比べて男性の方が多くなっている。

避難生活やその後の復旧・復興プロセスにおいて,男女のニーズの違いに配慮が必要であった。

他方で,東日本大震災の災害対応の現場において,救出・救助,被災者支援,復旧・復興,防災の担い手として,多くの女性が活躍していた。しかしながら,国を始めとして防災や復興に係る意思決定の場での女性の参画割合は低い。

避難所,仮設住宅等では女性や子育て家庭に十分な配慮がなされないことによる課題も見られたが,女性が運営に参画することにより解消した例もあった。また,被災地において,女性がこれまでに培った経験・ネットワークをいかして,多様な団体と連携し,きめ細かな被災者支援を行った。

防災・復興の担い手として,女性は一層の活躍が期待され,防災基本計画や東日本大震災からの復興の基本方針にもあるように,女性の参画拡大を促していくことは今後の課題でもある。

以上に見てきたとおり,東日本大震災の教訓からは,災害対応における男女共同参画の視点が重要であること,多様な主体による円滑な災害対応のためには,国・地方公共団体,男女共同参画センター,大学,NPO,NGO,地縁団体,企業等の日頃からの連携が重要であること,また,防災・復興における政策・方針決定過程への女性の参画が必要不可欠であることが改めて明らかとなった。

災害に強いまちづくりのためには,土地利用や施設整備の在り方について検討し,避難場所や避難路等を計画的に整備することに加えて,そのような検討のプロセスに男女共同参画の視点を取り入れることにより,地域における生活者の多様な視点を反映した現実的かつ継続的な対策を実現させることが重要である。男性に比べて災害時に負の影響を受けやすい女性は決して守られるだけの存在ではなく,平時から男性とともに災害への備えに主体的に取り組むべき存在でもある。

声を出しにくい人々,あるいは声を出してもその声が届きにくい人々に配慮し,誰をも排除しない包摂型の社会づくりを行っていくことは,災害による影響を受けやすい脆弱な人々の社会的排除(地域社会で人間関係を保てずに孤立したり,必要なサービスを享受できなかったりする状態)のリスクを低減することにつながる。この視点は,被災地あるいは災害発生時に限られることではなく,社会全体の在り方に関わることとして日頃から必要とされるものである。男女共同参画社会の実現は,災害に強い社会づくりでもある。

コラム16 国際会議で再確認された「災害とジェンダー」の視点

【参考4 】東日本大震災に対応した内閣府男女共同参画局の主な取組

【参考4 】東日本大震災に対応した内閣府男女共同参画局の主な取組