平成24年版男女共同参画白書

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第3節 復興に関する施策

1 復興の基本的枠組み

被災地の住民に未来への明るい希望と勇気を与えるとともに,国民全体が共有でき,豊かで活力ある日本の再生につながる復興構想を取りまとめるため,平成23年4月11日に,有識者から成る東日本大震災復興構想会議の開催が閣議決定された。委員は15人で,このうち女性は1人であった。同会議の下に置かれた,東日本大震災復興構想会議検討部会は,委員19人中2人が女性であった。

同会議が平成23年6月に取りまとめた「復興への提言~悲惨のなかの希望~」では,「住民意見の集約にあたっては,女性,子ども,高齢者,障害者,外国人等の意見についても,これを適切に反映させ,また将来世代にも十分配慮しなければならない」ことや,「男女共同参画の視点は忘れられてはならない」ことなどが明記されている。

また,平成23年6月に成立した東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号)においても,基本理念として,「被災地域の住民の意向が尊重され,あわせて女性,子ども,障害者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと」が掲げられている。

これらを踏まえ,東日本大震災復興対策本部が平成23年7月に策定した「東日本大震災からの復興の基本方針」において,基本的考え方として,「男女共同参画の観点から,復興のあらゆる場・組織に,女性の参画を促進する」ことが明記され,復興施策に男女共同参画,特に女性の視点を反映することが記載された(参考1参照)。

【参考1】 東日本大震災からの復興の基本方針(抜粋)

1 基本的考え方

(ix)男女共同参画の観点から,復興のあらゆる場・組織に,女性の参画を促進する。あわせて,子ども・障害者等あらゆる人々が住みやすい共生社会を実現する。

5 復興施策

(1)災害に強い地域づくり

(ア)高齢化や人口減少等に対応した新しい地域づくり

(ii)高齢者や子ども,女性,障害者などに配慮したコンパクトで公共交通を活用したまちづくりを進める。

(オ)市町村の計画策定に対する人的支援,復興事業の担い手等

(ii)被災地に居住しながら,被災者の見守りやケア,集落での地域おこし活動に幅広く従事する復興支援員の配置等及びまちづくり等に関する各種専門職の被災地への派遣や人材の確保・データベース化を進める。各種専門家の派遣やデータベース化等に当たっては,女性の参画に配慮するとともに,被災した地方自治体から見て,ワンストップの対応が可能となるようにする。

(iv)まちづくりにおいて,協議会等の構成が適正に行われるなど,女性,子ども・若者,高齢者,障害者,外国人等の意見が反映しやすい環境整備に努める。

(2)地域における暮らしの再生

(ア)地域の支え合い

(i)少子高齢化社会のモデルとして,新しい形の地域の支え合いを基盤に,いつまでも安心してコミュニティで暮らしていけるよう保健・医療,介護・福祉,住まい等のサービスを一体的,継続的に提供する「地域包括ケア」の体制を整備するため,地域の利便性や防災性を考慮しつつ,被災地のニーズを踏まえ基盤整備を支援する。その際には,高齢者,子ども,女性,障害者等に配慮し,地域全体のまちづくりを進める中で,被災市町村の特性を踏まえ,安全な場所に集約化を進める。

(iv)被災地や避難先における,不安や偏見等に基づく多様な人権問題に対し適切に対処するとともに,その発生を防止する取組みを行い,被災者の孤立を防止する。このほか女性の悩み相談を実施する。

(イ)雇用対策

(ii)被災地域における人口減少・少子高齢化に対応するため,第一次産業等の生涯現役で年齢にかかわりなく働き続けられる雇用や就労のシステムを活用した全員参加型・世代継承型の先導的な雇用復興,兼業による安定的な就労を通じた所得機会の確保等を支援する。若者・女性・高齢者・障害者を含む雇用機会を被災地域で確保する。

(iii)女性の起業活動等の取組みを支援するため,被災地におけるコミュニティビジネスの立ち上げの支援,農山漁村女性に対する食品加工や都市と農山漁村の交流ビジネス等の起業化の相談活動,経営ノウハウ習得のための研修等の取組みを支援する。

(3)地域経済活動の再生

(ウ)農業

(iii)戦略を組み合わせることで,地域の特性に応じた将来像を描き,力強い農業構造の実現を支援していく。

(ハ)農業経営の多角化戦略

農業生産だけでなく,復興ツーリズムの推進や再生可能エネルギーの導入,福祉との連携といった様々な取組みを組み合わせ,これに高齢者や女性等も参画することにより,地域の所得と雇用を創出していく。

7 復興支援の体制等

(1)復興対策本部・現地対策本部の役割

(iii)「東日本大震災復興対策本部」及び「現地対策本部」の事務局に,復興過程における男女共同参画を推進する体制を設けるものとする。

この間,女性団体等はシンポジウムを開催するなどして,男女共同参画の視点を徹底することなどを求めて関係機関に働きかけを行った。

平成24年2月10日に発足した復興庁では,以上のような考え方を踏まえて,本庁に男女共同参画班を置くとともに,岩手復興局,宮城復興局,福島復興局の各復興局に男女共同参画担当を置き,東日本大震災からの復興過程における男女共同参画を推進している。

なお,復興庁の発足に伴い,東日本大震災からの復興のための施策の実施状況を調査審議するため新設された復興推進委員会では,15人中4人が女性委員となっている。

2 地方公共団体における復興への取組

復興に向けて,被災地方公共団体は,今後の復興の道筋を示す復興計画を策定している。被災沿岸市町村のうち,国の職員が各市町村に赴き復興計画策定を技術的に支援した43市町村について調査したところ,平成24年4月現在,外部有識者を含めた委員会等を設置している38市町村の委員会における女性委員は,751人中84人(11.2%)となっている。このうち9市町村では,女性委員がゼロである。

また,都道府県においては,青森県復興ビジョン策定懇話会は12人中3人,岩手県東日本大震災津波復興委員会は19人中2人,宮城県震災復興会議は12人中1人,福島県復興計画検討委員会は23人中1人が女性委員となっている(第1-特-36表)。

第1-特-36表 復興計画策定に当たっての委員会等における女性委員の割合 別ウインドウで開きます
第1-特-36表 復興計画策定に当たっての委員会等における女性委員の割合

▲CSVファイル [Excel形式:2KB]CSVファイル

復興庁及び内閣府では,被災地方公共団体が復興に向けた取組に当たり,住民の意見を取りまとめる際に,多様な視点が取り入れられるよう,被災地方公共団体に申し入れを行った。

内閣府では,復興計画等の策定の場への女性の参画を推進するため,地方公共団体で復興計画の策定のための委員会を設置する際の委員選出に当たり,各地区からの代表として女性を選出するように伝えるなど,女性委員の割合を高めた事例等を,被災地方公共団体に情報提供した。

また,復興に向けたまちづくりに当たって,女性が働きやすく,ワーク・ライフ・バランスを実現しやすい環境整備や地域子育て施設の充実,災害時に避難所となることが想定される施設への多目的トイレの整備等,女性や子育て家庭等に配慮したまちづくりを行うことなどの留意点を取りまとめ,被災地方公共団体に情報提供した。

地方公共団体が策定した復興計画には,男女共同参画の視点を取り入れているものも見られる(参考2参照)。

【参考2】 復興計画に男女共同参画の視点を取り入れている例

・釜石市復興まちづくり基本計画(岩手県釜石市)

「復興にむけては,自助,共助の精神に基づき,男女共同参画のもと,高齢者や障がい者,女性,子どもも含めた幅広い市民の参画のもとで,1日も早い復興を目指した取組を推進します。」

・東松島市復興まちづくり計画(宮城県東松島市)

「女性,高齢者も含めた多様な起業として,地域課題の解決に向けたソーシャル・ビジネス,地域資源を活用したコミュニティ・ビジネス等を促進します。」

・仙台市震災復興計画(仙台市)

「復興に当たっては,男女共同参画の機会を確保しながら,地域の多様な主体が自ら考え,共に行動するなど,市民一人ひとりの自立と地域の絆により,持てる知恵や力を合わせる協働を強化します。」

・山元町震災復興計画(宮城県山元町)

「各種委員会等の委員に女性を登用するなど,まちづくりの施策や方針の検討に際し,女性の参画を推進し,男女共同参画社会の実現に努めます。」

3 被災地における女性の就業・起業等の支援

被災した地方公共団体の多くで,震災前から,高齢化や人口減少が進んでいる。地域における暮らしの再生に当たっては,少子高齢化社会のモデルとして,新しい形の地域の支え合いとともに,女性がその能力を十分に発揮して経済社会に参画することが重要である。

被災地では,避難所の炊き出しのボランティアとしての活動がきっかけとなり,弁当製造販売事業やコミュニティ・カフェ等の新しい事業が生まれている。内閣府では,「新しい公共」の担い手となる特定非営利活動法人等の経営基盤の強化や,それらの団体が行政や関係者との協働により地域の課題に取り組む活動を支援する「新しい公共支援事業」を行っており,女性による被災地での「新しい公共」の活動も始まっている(コラム9参照)。

また,内閣府では,被災地における起業と雇用を創造するため,地域の生活や環境等の課題を解決することを目的とした事業を行う社会的企業の起業支援や担い手の育成を行う「復興支援型地域社会雇用創造事業」を行っている。事業を実施する事業者の中には,女性を中心に起業支援・人材育成を予定している団体もある。

厚生労働省では,被災地での安定的な雇用創出のため,生涯現役で年齢に関わりなく働き続けられる全員参加型・世代継承型の先導的な雇用復興を支援する「生涯現役・全員参加・世代継承型雇用創出事業」を実施することとした。地方公共団体から事業受託を希望する事業主,特に女性団体等から,地方公共団体に事業を提案又は事業受託に応募したくても企画書作成のノウハウがないなどの声が寄せられたことから,企画書の記載例を作成し,周知するなどの取組を行った。

経済産業省では,株式会社日本政策金融公庫が行う低利融資事業である「女性,若者/シニア起業家支援資金」において,震災の影響により離職し,新たに創業する者については,融資後3年間は基準利率を引き下げるなどの措置を講じている。

被災地においては,農林水産業が地域経済活動における基幹産業であり,地域の雇用や暮らし等の面で大きな役割を果たしている。農林水産省では,農業経営の多角化戦略として,被災地において,直売所での起業活動を再開した女性グループ等の新商品開発等の取組や,復興に向けた女性の視点からの提案等を行うセミナー開催の支援を行った。また,地域の中心となる経営体や地域農業の在り方等を定める計画の検討に当たり,検討メンバーに女性がおおむね3割以上参画することを要件化し,女性の視点を地域農業の復興にいかせるよう措置を取った。

なお,政府は,被災地の就労支援・雇用創出の総合対策として,「『日本はひとつ』しごとプロジェクト」を推進し,平成23年4月28日までに全ての都道府県に「日本はひとつ」しごと協議会が設置された。同協議会に,地方公共団体,国の出先機関,業界団体等が参画することにより,被災地での復旧・復興事業及び様々な業界に係る情報の共有,被災離職者の生活の安定と就労支援の促進が図られた。

復興段階に向けた雇用対策の実施に当たっては,女性の雇用が非常に厳しい状況下に置かれていることに加え,東日本大震災からの復興の基本方針においても女性の参画を促進するとされていることなども踏まえ,平成23年12月に,地方公共団体の男女共同参画主管部局,男女共同参画センターの長等,男女共同参画の視点を有する女性委員を協議会の構成員とするなど,女性のニーズを踏まえた雇用創出を行うこととした。

コラム9 ボランティア活動から雇用の場,交流の場づくりへ