第3節 人生100年時代における男女共同参画の課題

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第3節 人生100年時代における男女共同参画の課題

かつて、我が国では、家族は社会保障の機能を担い、多世代・3世代同居により、経済的な保障だけでなく、家事・育児、高齢者の介護は家族内で行われていた。昭和の高度成長期に、都市部では核家族化が進み、夫婦と子供という世帯が増加し、仕事は夫、家事・育児は専業主婦の妻に任されたが、地方では多世代・3世代同居が続き、家族の社会保障の機能は維持された。現在の我が国の税・社会保障制度等は、基本的には、この家族の姿を前提に作られている。

昭和、平成、令和と、時代が移り変わり、第1節、第2節で見てきたように、家族の姿の変化、家族に関する意識が変化し、家族が社会保障の機能を十分果たせなくなった。これらの変化に応じて、税・社会保障制度等は、改変されてきているが、現在の家族の姿に十分対応できておらず、制度等の恩恵を十分に受けられない人々がいる。

女性の人生は多様化し、女性にとって、もはや結婚は永久就職先ではなくなった。しかし、人生の選択肢は増えたものの、遭遇するリスクも多様化し、多様化したリスクに対応する制度等の整備が追いついていない。一方で、女性の経済的自立の手段が依然として限られているため、リスクを回避・軽減できず、不安定な状況に置かれている場合も多い。有配偶の女性(既婚女性)は、無業の場合(専業主婦)はもちろん、有業の場合でも収入が低いことが多く、配偶者との離死別で貧困に陥るリスクがある。子供がいる場合は、配偶者との離死別でひとり親となり、貧困に陥るリスクは更に高くなる。また、DV(配偶者暴力)を受けていても、経済的自立が出来なければ、逃れられず、身体的・精神的に追い詰められるリスクもある。無配偶の女性(独身女性)では、所得が低い人も少なくなく、さらにリスクヘッジの手段がなく、経済的に不安定なほか、将来が不安というリスクを抱えている。

調査結果から、実態としては、依然として結婚を経済的手段と考えている女性が一定程度いる。しかし、家族の姿が変化した今、結婚は、必ずしも安定した生活を保障してくれるセーフティネットではなくなっている。

このように、家族の姿も女性の人生も多様化する中、人生100年時代を迎え、長い人生の中で女性が経済的困窮に陥ることなく、また、尊厳と誇りをもって人生を送ることができるようにするためには、様々な政策課題があるが、特に、以下の5つが優先的に対応すべき事項と考えられる。

第一に、女性の経済的自立を可能とする環境の整備である。

女性の貧困リスクを軽減するためには、まず男女間賃金格差の解消が必要である。現状では、日本の男女間賃金格差(フルタイム、中央値)は、男性の賃金を100とすると女性の賃金は77.5と、OECD諸国平均の88.4よりも格差が大きく、国際的にみても男女間賃金格差が大きい国の部類に入る(特-73図)。こうした格差を是正するためには、同一労働同一賃金により正規雇用労働者と非正規雇用労働者の不合理な待遇差を無くすとともに、各企業における男女間賃金格差にかかる情報の開示を義務づけ、合理的に説明できない格差を解消していくことが必要である。

特-73図 男女間賃金格差の国際比較別ウインドウで開きます
特-73図 男女間賃金格差の国際比較

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また、成長の伸びしろが小さい産業から成長産業へ、賃金水準の低い産業から賃金水準が高く、職務経験とともに賃金が伸びていく産業へと、女性の労働移動を促していくことも重要である。例えば、女性のデジタル分野での活躍が挙げられる。女性の非正規雇用労働者の割合が高い宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業等が、コロナ下で打撃を受ける中、IT産業は、業績が好調であり、雇用ニーズが大きく、また、柔軟な働き方が可能であることなどから、経済的自立を目指す女性の就業先として注目されている。令和4(2022)年4月、政府は、「女性デジタル人材育成プラン」を策定した。このプランに沿って、就労に直結するデジタルスキルを身につける機会を提供するとともに、女性のデジタル分野への就労促進を官民が連携して進め、3年間の集中取組期間に成果を上げていくことが必要である39

加えて、保育・介護等ケアに関わる就労分野では、ケア労働は女性がするものというアンコンシャス・バイアスもあって、女性が多く就業してきたという実態があるが、こうしたケア労働への評価と公的価格である賃金を改善することも重要である。

地域においては、若い女性の人口流出を止め、人口減少を防ぐという観点からも、女性が活躍し、経済的に十分自立できるだけの収入が得られるような雇用の場を作っていくことが必要である。若年層では、男性よりも女性の方が大都市圏に流出する傾向が続いている。その理由として、地方には魅力的な就職先がない、女性の就職先が限られていることなどがあると分析されている40。他方、東京圏在住者においては、コロナをきっかけに家賃や生活費の高い大都市を離れ、地方での生活を考える人も増えるという傾向がみられる(特-74図)。これを大きなチャンスとしてとらえ、地方における女性活躍の契機にすべきである。

特-74図 地方移住への関心(東京圏在住者)別ウインドウで開きます
特-74図 地方移住への関心(東京圏在住者)

特-74図[CSV形式:1KB]CSVファイル

第二に、様々な政策の制度設計において、家族の姿が多様化していることを念頭におく必要がある。具体的には、世帯単位から個人単位での保障・保護へ、また、育児・介護等無償ケア労働の担い手に配慮する場合にも、専業主婦全般を対象にしたものから、無償ケア労働を担っている人への配慮へと切り替えていくべき時である。離婚が増え、世帯そのものが流動化しているなかで、世帯単位を前提とする制度がそのまま続いていけば、制度のひずみによる問題も大きくなる。夫の扶養の範囲内で働くため就業調整を続けてきた女性が離婚すると、低年金に直面する可能性があることがその一例である41。また、世帯単位を前提とした施策を講じると、離婚直後のため受け取るべき給付金が受け取れないなど、様々な問題が生じる可能性があり、現にコロナ下でこうした問題が顕在化した。マイナンバー制度等も踏まえつつ、個人を単位とした制度設計を基本に政策を検討すべきである。

第三に、女性の早期からのキャリア教育の重要性である。

女子生徒に対しても、早い段階から将来の職業選択に資する情報を提供し、また、人生100年時代における女性の経済的自立の重要性、職業能力を身につけることの必要性をしっかりと認識できるようにするための教育を行う必要がある。また、結婚や出産などのターニングポイントで労働市場からいったん退出しても、いつでも労働市場に参入し、退出時と同等の処遇を得るための一助として、女性の就業に直結するリスキリングの機会の提供やリカレント教育等も重要である。女性が人生のターニングポイントでこれまで培ってきたキャリアを中断しないことは、女性の貧困リスクの軽減となる。もはや時代が変わったことを女性自身も認識すべきである。

第四に、柔軟な働き方を浸透させ、働き方をコロナ前に戻さないことが必要である。

男女がともに家事・育児・介護等の無償ケア労働を行いながら就労できる環境を作ることは、女性の経済的自立のためにも重要な課題である。コロナ下で、テレワークの浸透や在宅勤務等、働き方が多様化し、コロナ前に比べ、平日に自宅で仕事以外に使える時間が増えるなど、男女ともに家庭と仕事の両立をしやすくなった人が増加している(特-75図)(特-76図)。コロナ収束後においても、「働き方をコロナ前に戻さない」という決意のもとで、テレワークや在宅勤務を一層普及させ、男女ともにワーク・ライフ・バランスを実現することが重要である。

特-75図 テレワーク実施頻度の変化別ウインドウで開きます
特-75図 テレワーク実施頻度の変化

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特-76図 家事・育児時間の変化別ウインドウで開きます
特-76図 家事・育児時間の変化

特-76図[CSV形式:1KB]CSVファイル

国際的に比較して長い男性の労働時間(特-31図再掲)が是正され、男性の家事・育児参画が進めば、その妻の負担が減るだけでなく、従来型の長時間労働が暗黙の条件と考えて役職に就くことをあきらめていた女性が昇進を目指せる環境を作ることにも寄与する。

第五に、女性の人生の多様化とともに、男性の人生も多様化していることを念頭においた政策が必要である。

昭和の時代(戦後)、95%以上の男性が結婚し、いわゆる「皆婚社会」であった。その時代の典型的な家族像は、家庭のことは専業主婦の妻に任せて夫は仕事一筋、終身雇用による安定と年功序列型賃金により、やがて安定した中高年期が訪れるというものであったが、現在は、未婚者も離婚も増え、また、共働き世帯が専業主婦世帯を大きく上回っている。また、男性が地域社会で孤独・孤立に陥るリスクも増大している。このため、地方自治体の男女共同参画センター等で男性相談窓口を整備・拡充していくことが重要である。

家族の姿の変化とともに、結婚に対する考え方、子供を持つことに対する考え方も、男女ともに多様化している。他方、深刻化する少子化・人口減少に対応するためには、結婚を希望する人が結婚でき、子供を持ちたい人が子供を持てる環境をつくることが重要である。これまでも、国・地方自治体において結婚支援、子供・子育て支援を行ってきているが、こうした支援は引き続き必要である。さらに、現在の日本では恋愛結婚が結婚の9割近くを占めていることから、恋愛、交際、結婚に至る過程でお互いを尊重しあうことの重要性や、最低限身に付けるべき大切なルール、例えば、いわゆるデートDVやハラスメントの問題について、教育・啓発の中で学ぶことも重要である。

人生100年時代を迎え、日本の家族と人々の人生の姿は多様化し、昭和の時代から一変した。今後、男女共同参画を進めるに当たっては、常にこのことを念頭におき、誰ひとり取り残さない社会の実現を目指すとともに、幅広い分野で制度・政策を点検し、見直していく必要がある。

39なお、デジタルについては、女性の就業先としてだけでなく、いわゆるデジタル・ディバイドを防ぐ観点からの施策も重要である。公共サービスにおいても、パソコンやスマートフォンを活用したより利便性の高いサービスを進めており、こうしたデジタル機器をできるだけ使いこなせるよう、単独世帯の高齢者も含め支援が必要である。

40内閣府「地域の経済2020-2021―地方への新たな人の流れの創出に向けて―」(令和3(2021)年9月3日公表)、国土審議会第5回計画部会(令和4(2022)年2月21日)資料、公益財団法人東北活性化研究センター「人口の社会減と女性の定着に関する意識調査」(令和3(2021)年3月公表)等で分析されている。

41こうした低年金問題の解決に向けて、前述の短時間労働者への被用者保険の適用拡大等が行われている。また、離婚時には、婚姻期間に係る厚生年金の保険料納付記録(標準報酬)を分割する、年金分割制度がある。

コラム6 人生100年時代の結婚と家族に関する研究会について

コラム7 男女共同参画会議「計画実行・監視専門調査会」の概要

参考 「令和3年度 人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査」(内閣府男女共同参画局委託調査)