第2節 男女の健康支援

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第2節 男女の健康支援

1 平均寿命と健康寿命

我が国の平成28年の平均寿命は女性が87.14年,男性が80.98年と世界でも高い水準を示し60,今後もさらに延伸することが予測されている。一方,厚生労働科学研究班が発表した平成28年の健康寿命(日常生活に制限のない期間)は女性が74.79年,男性が72.14年であり,平均寿命と健康寿命の差(日常生活に制限のある「不健康な期間」)は女性が12.35年,男性が8.84年となった(I-特-26図)。女性は男性より長生きだが,男性の1.4倍ほど「不健康な期間」も長い。なお,経済協力開発機構(OECD)の分析61によると,欧州各国も日本と同様,女性において「不健康な期間」が長い状況にある。

最後まで健康で自立した生活を営み,豊かな老後を実現するために,男女とも健康寿命の延伸が重要である。厚生労働省では,平成25年度からの「健康日本21(第二次)」の最終的な目標として健康寿命の延伸と健康格差の縮小を掲げ,「健康寿命をのばそう!」をスローガンに,「運動」「食生活」「禁煙」の3つのアクションに加え,「健診・検診の受診」を推進していく「スマート・ライフ・プロジェクト」を推進する等の取組を行っている。

I-特-26図 平均寿命と健康寿命の推移別ウインドウで開きます
I-特-26図 平均寿命と健康寿命の推移

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60「平成28年簡易生命表の概況」(厚生労働省,平成29年7月27日)

61“Health at a Glance 2017” (OECD)

2 生活習慣

生活習慣病を予防し,健康寿命を延ばすためには,身体活動・運動(スポーツ含む),食事,喫煙,飲酒等の生活習慣の改善に生涯を通じて取り組むことが重要である。スポーツ習慣は前節で説明したため,ここでは,不適切な食生活がもたらすやせ・肥満と,生活習慣病のリスクを高める量の飲酒や,喫煙の状況について,性差に注目し,現状と課題を整理する。

(1) やせ・肥満度

(やせ・肥満度に関する国際的な状況)

OECD加盟各国と比較すると,日本は男女ともに最も肥満の少ない国である。国際的に見ると,加盟国中男女ともに最も肥満の割合が高い米国のように,男性より女性で肥満の割合が高い国も多いほか,多くの国で男女ともに肥満者の割合が上昇している(I-特-27図)。一方,女性のやせが問題となっている日本は,他の先進国と異なる健康上の課題を有すると考えられる。

I-特-27図 肥満(BMI30以上)の占める割合の推移(国際比較)別ウインドウで開きます
I-特-27図 肥満(BMI30以上)の占める割合の推移(国際比較)

I-特-27図[CSV形式:2KB]CSVファイル

(20~40代女性のやせの傾向)

日本人の若い女性は「やせたい」という願望が強い傾向にあり,特に10~30代にやせすぎの女性が多い。加えて最近では,やせの傾向が40代女性にも広がってきたことが指摘されている。やせ(BMI18.5未満)の女性の割合は,昭和50年代半ばと比較すると,20~40代のいずれも大きく増えた。平成28年の20代の女性のやせの割合は20.7%,30代の女性は16.8%であり,過去5年程度の推移を見ると下げ止まりと思われるが,40代は増加傾向にある(I-特-28図)。

I-特-28図 やせ(BMI18.5未満)の占める割合の推移別ウインドウで開きます
I-特-28図 やせ(BMI18.5未満)の占める割合の推移

I-特-28図[CSV形式:2KB]CSVファイル

前節においても,「女性アスリートの三主徴(FAT)」として触れたが,BMIが極端に低かったり,ダイエットなどで急激に体重を落とすと,無月経などの月経異常が起こりやすくなり,体脂肪率が17%以下になると,体重減少性無月経に陥りやすくなると言われる62。無月経に伴う女性ホルモンの分泌の減少は骨にも影響し,疲労骨折のリスクが高まること,10代で十分な骨量を獲得しないと,生涯に渡り骨量が低いまま経過し,閉経後,骨粗しょう症及び骨折により介護を要するリスクが高まる可能性があることも,アスリートだけでなく,女性一般に共通した課題である。

なお,男性は,肥満の割合が女性より高く,生活習慣病の発症前の段階であるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)など,肥満に伴う問題を指摘されることが多いが,やせについて見ると,10代後半の男性を除き,昭和50年代半ばから現在まで大幅な変化は見られない。ただし,10代では男性でもやせが増加傾向にあり,近年では同年代の女性と並ぶ割合となっている。

62平井千裕,竹田省「やせすぎ,肥満の女性への影響」(日本産科婦人科学会編著『HUMAN+』,2014年)。なお,肥満も無月経や月経不順・月経異常の要因の一つと指摘されているが,ここでは,若い女性を中心に問題となっているやせについて取り上げた。

(低出生体重児の課題)

女性のBMI低下に伴い,低出生体重児が増えたことも問題となっている63。年間出生数は昭和40年代後半の第2次ベビーブーム期を境に減少しているが,低出生体重児の割合は,昭和50年頃から上昇し,平成28年は9.4%と過去10年ほど高止まりが続いている(I-特-29図)。低出生体重児は,将来,高血圧症や糖尿病などの,いわゆる生活習慣病を発症する頻度が高くなる可能性が指摘されている64。国際的に見ても,日本は低出生体重児の割合が高く,また,1990(平成2)年当時と比較した増加率も高い(I-特-30図)。

I-特-29図 出生数及び出生時体重2,500g未満の出生割合の推移別ウインドウで開きます
I-特-29図 出生数及び出生時体重2,500g未満の出生割合の推移

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I-特-30図 低出生体重児の割合と過去25年の変化(国際比較)別ウインドウで開きます
I-特-30図 低出生体重児の割合と過去25年の変化(国際比較)

I-特-30図[CSV形式:1KB]CSVファイル

63澤倫太郎「妊婦さんの体重管理の新常識」(日本産科婦人科学会編著『HUMAN+』,2014年)。なお,低出生体重児が産まれる要因は,妊婦のやせに限るものでなく,多胎妊娠,母体の年齢,喫煙習慣,妊娠高血圧症候群等や胎児の疾病など様々である。また,妊婦の肥満も,妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病等のリスクが高まることが指摘されている。

64岩下光利「出生時体重と赤ちゃんの発育」(日本産科婦人科学会編著『HUMAN+』,2014年)

(2) 喫煙率及び飲酒率の動向

平成15年から28年にかけての喫煙率の推移を男女別・年齢別に見ると,男女ともに全体として低下傾向にあるが,女性は20代女性の喫煙率が19.0%から6.3%まで大きく減ったのに対し,30代,40代はわずかな低下にとどまり,50代は上昇傾向にある。一方,男性の喫煙率は,30~50代の働き盛り世代でいまだ約4割の水準である(I-特-31図)。飲酒について,生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合を男女別・年代別に見ると,女性の場合,20代,30代の若い世代はほぼ横ばいであるのに対し,40代以上の年代で増加した65(I-特-32図)。

平成17年から25年にかけての妊娠中の女性の喫煙率及び飲酒率の推移を見ると,喫煙率は7.8%から3.8%へと低下し,飲酒率は16.1%から4.3%へと顕著に低下している(I-特-33図)。

I-特-31図 現在習慣的に喫煙している者の割合の年次推移別ウインドウで開きます
I-特-31図 現在習慣的に喫煙している者の割合の年次推移

I-特-31図[CSV形式:2KB]CSVファイル

I-特-32図 生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合の推移別ウインドウで開きます
I-特-32図 生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合の推移

I-特-32図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-33図 妊娠中の女性の喫煙率及び飲酒率の推移別ウインドウで開きます
I-特-33図 妊娠中の女性の喫煙率及び飲酒率の推移

I-特-33図[CSV形式:1KB]CSVファイル

65厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット「女性の飲酒と健康」によると,アルコールは乳がん等の女性特有の疾患のリスクを増大させる。

3 ライフステージに応じた女性の健康支援

女性は思春期,成熟期,更年期,老年期と,ライフステージにより発生する疾患や健康の課題が変遷する。理由の一つは性ホルモンの動きの違いである。女性の場合,男性のように常に一定して性ホルモンが分泌されるのでなく,月経,排卵,次の月経と,およそ1か月単位で変動が繰り返される。また,男性の性ホルモンは加齢によって緩やかに下降するのに対し,女性の卵巣機能は40代後半~50代に急速に低下・喪失する(I-特-34図)。

I-特-34図 男性・女性ホルモンの推移別ウインドウで開きます
I-特-34図 男性・女性ホルモンの推移

働く女性の増加,晩産化や少産化,平均寿命の伸長など,社会状況やライフスタイルの変化も女性の心身の健康に影響を及ぼす。例えば,昔,多産だった時代には,妊娠と授乳を繰り返していたため,女性の生涯月経回数は50~100回程度だったと言われている。他方,現代では450~500回の月経を経験する。これにより,排卵・月経周期に伴う女性ホルモンの変動が原因で発生する月経痛や月経前症候群(PMS)などによるパフォーマンスの低下も,無視できない回数になった。また,初産年齢の上昇や月経回数の増加により,子宮内膜症,乳がん,卵巣がん,子宮体がん(子宮内膜がん)などが増えている。

女性特有の健康問題については,厚生労働省では,毎年3月1日から8日までを「女性の健康週間」と定め,女性の健康づくりを国民運動として展開している。また,厚生労働科学研究費補助金により,女性の健康管理の支援を目的としたホームページ「女性の健康推進室ヘルスケアラボ」を開設し,女性特有の疾患や,女性に多い不快な症状・疾患等について情報提供している。

経済産業省でも,東京証券取引所と共同で健康経営に優れた上場企業を「健康経営銘柄」として選定したり,「健康経営優良法人(大規模法人部門)(通称ホワイト500)」の認定制度を実施したり,その基礎となる健康経営度調査において,妊娠中の従業員に対する業務上の配慮,更年期障害への対応,婦人科検診への補助等を含む「女性の健康保持・増進に特化した取組」を調査項目の一つとしている。また,平成29年度には,「働く女性の健康推進」に関する調査を実施した。この調査により,女性従業員の約5割が女性特有の健康課題などにより職場で困った経験があること,女性の健康課題が労働損失や生産性等へ影響していることについて,男性や管理職を含む回答者全体の約7割以上が知らなかった・わからないと回答しており,男性や管理職だけでなく,女性自身の知識不足も課題であること,女性向けのサポート整備状況について,ワーク・ライフ・バランス関連の取り組みは比較的進んでいる一方,女性特有の健康課題に対する取組(リテラシー向上施策や相談窓口等)は制度整備状況や認知度が低いこと等が明らかになった。

ここでは,女性が直面しやすい疾病など健康上の課題やそれに対する支援について,ライフステージごとに概観していく。

(1) 若年層の妊娠・性感染症

(人工妊娠中絶,若年層の予期しない妊娠の防止等)

人工妊娠中絶件数及び人工妊娠中絶実施率(15歳以上50歳未満女子人口千対)の長期的な推移を見ると,昭和30年から平成7年にかけて件数,実施率とも大きく減少した。年齢階級別に人工妊娠中絶実施率を見ると,昭和30年代には20歳代及び30歳代で特に高く,20歳未満は低かったが,現在は年齢階級間の差は縮小している。平成28年度の人工妊娠中絶実施率(年齢計)は6.5であり,年齢階級別では20歳未満が5.0,20歳代が11.7,30歳代が8.5である。7年以降も人工妊娠中絶数は全体として減少傾向であり,10代も減少しているものの,28年度における10代の人工妊娠中絶件数は約15,000件であり,うち義務教育の年齢にあたる15歳以下が約840件であった66(I-特-35図)。10代での予期しない妊娠は,学業を中断するきっかけとなったり,母子ともに貧困に陥るリスクを抱える。加えて,予期しない妊娠や若年妊娠は虐待のリスク要因の一つであることも指摘されている67。思春期から,性や避妊に関する正確な知識を習得し,妊娠や出産に関して,男女ともに責任を持った判断,自己決定ができるよう,適切な教育を行い,若年女性がアクセスしやすい相談・支援体制を充実させることが求められる。

I-特-35図 年齢階級別人工妊娠中絶件数及び実施率の推移別ウインドウで開きます
I-特-35図 年齢階級別人工妊娠中絶件数及び実施率の推移

I-特-35図[CSV形式:2KB]CSVファイル

文部科学省では,全国の公立高等学校における妊娠を理由とした退学等の実態を把握した上で,平成30年3月に,妊娠した生徒への対応等について,各都道府県教育委員会等に対し通知を発出し,関係者間で十分に話し合い,母体の保護を最優先としつつ,教育上必要な配慮を行うべきこと,その際,生徒に学業継続の意思がある場合は,安易に退学処分や事実上の退学勧告等の対処を行わないという対応も十分に考えられること等を求めた。また,全国の生徒指導担当者を対象とした会議等において,この通知の趣旨を徹底するよう,周知を図っている。

66若年妊娠した子どもたちへの支援を行う医療法人社団藤聖会女性クリニックWe富山院長 種部恭子医師(産婦人科医)によると,義務教育の年齢での妊娠の相手は大半が成人男性であり,居場所のない子どもを狙った性的搾取や暴力が背景にあるケースも多いという。

67「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第13次報告)」(社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会,平成29年8月)

(性感染症の予防)

性感染症について,近年,梅毒68が,女性は10~20代の若い世代を中心に,男性は幅広い年代で増加している。また,性器クラミジア感染症69等の感染数は横ばいだが,20代男女の感染の報告が多いなど,憂慮すべき状況である(I-特-36図)。

I-特-36図 梅毒と性器クラミジア感染症の年次推移(男女別)別ウインドウで開きます
I-特-36図 梅毒と性器クラミジア感染症の年次推移(男女別)

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性感染症は,特別な人がかかるものではなく,性行為経験があれば誰でも感染する可能性がある。自覚症状に乏しい性感染症は治療に結び付かないほか,知らない間に感染し相手にうつしているという状況も生じ得る。特に性器クラミジア感染症は,男女ともにほとんど症状がないが,クラミジアの感染自体がHIV感染のリスクを高めたり70,流産や早産の原因にもなり得る71。予防するには性行為時にコンドームを付けることなど72,思春期からの正しい知識と理解の普及が必要である。性感染症は,早期発見・治療により,治癒又は重症化を防ぐことが可能であり,感染拡大も防ぐことができる。厚生労働省では,主要な性感染症について,感染症法73に基づく医療機関からの届出により発生動向を把握するほか,性感染症の検査・治療を呼び掛けるポスターによる啓発,相談窓口の周知,関係団体等を通じた中学生・高校生やその保護者への正しい知識の普及等に取り組んでいる。また,梅毒に関して,妊娠中の女性から胎児に感染する「先天梅毒」が増加傾向にあることを受けて,厚生労働省では,専門家委員会での議論を踏まえ,感染した妊婦数の把握と適切な治療による胎児への影響の軽減を図るため,平成30年末までに,医療機関からの梅毒の届出事項に「妊娠の有無」等を新たに加える予定である。

68梅毒は,痛みのない潰瘍が性器に形成され,治療せずにいると,全身の疼痛・リンパ節の膨張,さらには数年~数十年後には血管や神経の障害等,全身に多様な症状を来すことがある。妊婦の感染は早産や死産,胎児の重篤な異常につながる可能性がある。(厚生労働省性感染症予防啓発リーフレット「検査しないとおしおきよ!!」)

69性器クラミジア感染症は,男性では排尿痛,女性ではおりものの変化等の症状を来すことがあるが,無症状な場合も多い。男女とも不妊の原因となることがある。(前同)

70WHO Media Center “HIV/AIDS-Fact sheet” (Updated November 2017)

71上村茂仁「性感染症にならないようにするには?」(日本産科婦人科学会編著『HUMAN+』,2014年)

72梅毒など,コンドームを装着できない部位に病変ができる性感染症もあり,この場合,コンドームを装着しても感染を完全に予防することはできない。感染拡大を防ぐために,性行為の前に,まずは治療を優先すべきである。

73感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)

コラム4 予期しない妊娠の防止と性感染症の予防に向けた取組~英国とフィンランドの事例~

I-特-37図 人工妊娠中絶率(国際比較)別ウインドウで開きます
I-特-37図 人工妊娠中絶率(国際比較)

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(2) 月経に伴う不調や疾病

(月経痛,月経前症候群(PMS)など)

現代の女性の平均初潮年齢は12歳2か月であり,昭和30年代半ばと比べて1歳程度早まっている74。月経時に下腹痛(月経痛),腰痛,吐気,頭痛などの随伴症状が出現する女性は多いが,そのうち日常生活に支障を来すほどのものを月経困難症という。

月経困難症には子宮や卵巣に異常がないもの(機能性月経困難症)と,子宮内膜症や子宮筋腫などの疾患に起因するもの(器質性月経困難症)がある75。月経痛が強い場合は後者を見据えて,婦人科医による診断を受けることが推奨される。

また,月経前3~10日の間,イライラ感,怒りっぽくなる,集中力低下といった精神的症状や,下腹部痛,腰痛,乳房が張るといった身体的症状を感じる女性も多く,これを月経前症候群(PMS)という。症状の種類や程度は人により様々であり,特に精神症状が主で,その症状が強いものを月経前不安気分障害(PMDD)という。

内閣府男女共同参画局の調査によると,20代女性の約6割,30代女性の約5割が月経痛があると回答し,また,月経前の不調を感じると回答した女性も20代で約3割に上るなど,20代,30代の相当数の女性が月経に関する不調を感じていることが分かった(I-特-38図)。平成20年,22年と相次いで低用量ピルが月経困難症の治療薬として保険収載されるなど,現在は,治療法の選択肢も数多いため,不調を我慢せず,早目に婦人科の診察を受けることが重要である。なお,低用量ピルについて,月経痛の治療のほか,月経前症候群(PMS)の症状改善,月経過多の改善などの効用があることも指摘されている76

I-特-38図 月経に関する不調別ウインドウで開きます
I-特-38図 月経に関する不調

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74「第13回全国初潮調査」(大阪大学大学院人間科学研究科・発達心理学研究室,平成23年)

75「Health Management for Female Athletes Ver.3」(東京大学医学部附属病院女性診療科・産科,2018年3月)

76「低用量ピルの副作用について心配しておられる女性へ」(日本産科婦人科学会,平成25年12月27日)。ただし,喫煙,高年齢,肥満は低用量ピルによる静脈血栓症のリスクが高いと言われるなど,留意点もあるため,服用を希望する場合,医師によく相談する必要がある。

(子宮内膜症等)

子宮内膜症は,本来,子宮の内側にある子宮内膜組織が,子宮の内側以外の卵巣等で発生・増殖する疾患である。卵巣や腹膜等で炎症や癒着が起こり,卵巣に病変ができると卵子の質の低下を来すことなどにより,不妊の原因となる。卵巣の病変が大きい場合は,卵巣がんが発生する可能性が高くなる。月経が起こることで発症し,女性ホルモンにより進行する疾患であり,近年,増加が指摘されている77。20~30代の若年・働き盛り世代での発症が多く,ピークは30~34歳といわれる78

内閣府男女共同参画局の調査でも,通院しながら働く女性79のうち,子宮内膜症で通院していると回答した者は30代がピークであった80。子宮内膜症は進行性の慢性疾患であり,閉経まで長期に渡り,痛みや症状の進行を管理する必要がある。妊娠を考える前に子宮内膜症が発症すると,妊娠までに要する時間が長くなり,不妊治療が必要となる場合もある77

子宮内膜症と同じく,女性ホルモンで進行する病気として子宮筋腫や子宮腺筋症があるが,同じ調査によると,子宮筋腫で通院していると回答した者は40代がピークとなった81。子宮筋腫は発生部位により症状がない場合も多いが,子宮に変形を来す場合は,月経量の増加により貧血を伴う。また,妊娠時に大きな子宮筋腫を合併している場合は,早産などのリスクがある77

子宮内膜症も子宮筋腫も,働き盛りの女性に好発する。女性が活躍する上で,パフォーマンスを低下させ,かつ将来の妊孕性に影響を与える疾患でもあるため,キャリア設計と併せて治療計画を考える必要がある。

77疾患の説明は,医療法人社団藤聖会女性クリニックWe富山院長 種部恭子医師(産婦人科医)によるもの。

78「病気を知ろう:婦人科の病気『子宮内膜症』」(日本産科婦人科学会ホームページ)

79有職で何らかの傷病で通院している20歳以上の女性を対象とした調査の結果。有効回答数は2,088名。

80通院しながら働く女性のうち,子宮内膜症の割合を年代別に見ると,20代:12.5%,30代:16.3%,40代:12.9%,50代:5.6%であった。

81通院しながら働く女性のうち,子宮筋腫の割合を年代別に見ると,20代:4.8%,30代:15.2%,40代:27.9%,50代:16.3%であった。

(3) 妊娠に伴う心身の症状

(妊娠期)

妊娠中,女性の身体は胎児の成長や出産に向けて準備をし,変化する。つわり,妊娠悪阻(つわりの強いもので,食事が取れなくなり,嘔吐が激しく栄養状態が悪化する症状),妊婦貧血,妊娠浮腫(むくみ)などのトラブルはあるものの,多くの女性は順調に出産に至るが,時には妊娠高血圧症候群,切迫早産等の合併症が発生することもある82

女性の職場進出が進む中で,女性が働きながら安心して子どもを産めるよう,事業主には,妊婦健診のための時間の確保に加え,主治医等の指導があった場合は,勤務時間の短縮,休憩時間の延長,休業等の措置を取ることが義務付けられている83。厚生労働省では,妊産婦が医師等による指導内容を事業主に的確に伝えられるよう,「母性健康管理指導事項連絡カード」を作成している。また,母性健康管理のための制度の利用を含め,妊娠・出産・育児休業等を理由とする解雇等の不利益な取扱いは法律で禁止されており,平成29年1月からは,上司・同僚が職場において,妊娠・出産・育児休業等を理由とする就業環境を害する行為を行うことがないよう防止措置を取ることが事業主に義務付けられた。

82厚生労働省委託 母性健康管理サイト「妊娠・出産をサポートする女性にやさしい職場づくりナビ」

83雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)第13条第1項

(産後)

出産後の女性は,わけもなくイライラしたり,気持ちが落ち込んだりすることがある。産後のホルモンなど体の内部の変化や,慣れない育児の疲れなどが原因とされている。「産後うつ」は,産後の女性の10~15%に起こるとされている84。出産後は,女性は子どもの世話に追われ,自分の心や体の異常については後回しにしがちである。産後うつかもしれない,と思ったときは,迷わず医師,助産師,保健師に相談することが望ましい。

また,妊娠中や出産時に異常があった場合は,出産後も引き続き治療や受診が必要な場合がある。経過が順調と思われるときでも,医師の診察を受けることが望ましいとされる。

厚生労働科学研究の研究班が平成27年に全国約2,500の分娩取扱施設(有効回答数1,073施設)に対して行った調査によると,メンタルヘルスに問題があり介入が必要な妊産婦の割合は4%で,全国で年間約4万人と推計されている。メンタルヘルスの介入が必要と判断された妊産婦のうち,約半数は精神疾患を有しているか,又は精神疾患の既往があった85

また,平成29年度に,厚生労働省の補助により民間調査機関が実施した産後の女性を対象とした調査86によると,妊娠・出産で女性が不安や負担を感じるのは,産後2週未満では「自分の体のトラブル」,「妊娠・出産・育児による体の疲れ」等があったと回答した者は半数超となった87。不安を解消するために,産後2週未満の時期に必要なサービスとして,「自分の体のトラブルへの助言」,「育児の相談」,「悩み相談などや精神的支援」を求める意見が多く88,国や自治体に期待することとして,「産後,訪問指導員がもっと早く来てくれると一番大変な時に相談できてよい」,「産後1~2か月は,感情のコントロールが難しく,不安があったので,この時期のサポートを強化してほしい」,「産後うつについて父親も交えて説明を受ける機会があるとよい」等の意見が挙げられた89

産後うつ病は,母親が辛いだけでなく,母子間の愛着形成を損ない,育児機能や乳児の発達に影響を与える90。虐待のリスク因子の一つであり,母子保健による見守りや介入等が必要である90。厚生労働省では,平成21年度から,児童福祉法による乳児家庭全戸訪問(こんにちは赤ちゃん事業)を実施しているほか,妊娠期から子育て期にわたる切れ目ない支援を提供するために,子育て世代包括支援センターを27年度から本格的に実施している。29年度には,センターの設置が市区町村の努力義務として法定化され,32年度末までに,地域の実情を踏まえながら全国展開を目指すこととしている。29年4月1日現在,525市区町村の1,106か所で実施されている。

さらに,平成29年7月に閣議決定された「自殺総合対策大綱」では,産後うつの予防等を図る観点から,産婦健康診査で精神状態の把握を行い,適切な支援に結び付けるほか,産後ケア事業の法律上の枠組みについて今後の事業の実施状況等を踏まえ検討することが盛り込まれた。

84厚生科学研究「産後うつ病の実態調査ならびに予防的介入のためのスタッフの教育研修活動」(平成13,14年度)

85平成27年度厚生労働科学研究「妊婦健康診査および妊娠届を活用したハイリスク妊産婦の把握と効果的な保健指導のあり方に関する研究」。日本婦人科医会の会員で分娩を取り扱う2,453施設に平成27年11月の1か月間に分娩管理した妊婦についてアンケート調査を実施し,1,073施設(44%)から有効回答を得た。

86平成29年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「妊産婦に対するメンタルヘルスケアのための保健・医療の連携体制に関する調査研究」報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,平成30年3月)

8716の市の協力を得て,3~4か月児健康診査の機会を活用し,産後の女性を対象に,「妊娠中」,「産後2週未満」,「産後2~8週」,「現在」の時期ごとに,どのような不安や負担を感じたかを調査した(複数回答)。

88同じく,「妊娠中」,「産後2週未満」,「産後2~8週」,「現在」の時期ごとに,妊娠・出産・産後期間の不安を解消するために必要なサービスを調査した(複数回答)。

89自由記入で回答。

90増山寿「産後のうつ」(日本産科婦人科学会編著『HUMAN+』,2014年)

コラム5 「妊娠期からの切れ目のない支援の充実と産婦健診等の取組」(横浜市)

コラム6 「県,市町村,民間が連携した民立民営の宿泊型施設で産後ケアをサポート」(山梨県)

(4) 不妊

婚姻年齢の上昇や晩産化に伴い,不妊に悩む者や不妊治療を受ける者の数も増加傾向にある。国立社会保障・人口問題研究所の平成27年調査では,不妊の心配をしたことがある夫婦の割合は35%(17年調査では25.8%),実際に不妊の検査や治療を受けたことのある夫婦は18.2%(5.5組に1組,17年調査では13.4%)と,いずれも10年前と比べて増加した91。体外受精の延べ件数を見ても,27年には40万件を突破し,10年前の3倍となった(I-特-39図)。ただし,生産分娩率(総治療数に占める生産分娩数の割合)を見ると,年齢の上昇に伴って下がる(I-特-40図)こと等から,必ずしも治療を始めてすぐに希望通りに妊娠することができるとは限らず,費用や仕事の調整などの負担を抱える者も多い。男女が希望する妊娠・出産を実現するためには,妊娠等に関する正確な知識の普及啓発のほか,不妊等の相談体制の整備,仕事と治療との両立支援,経済的支援等が求められる。

I-特-39図 体外受精の延べ件数の推移別ウインドウで開きます
I-特-39図 体外受精の延べ件数の推移

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I-特-40図 体外受精における年齢と生産分娩率別ウインドウで開きます
I-特-40図 体外受精における年齢と生産分娩率

I-特-40図[CSV形式:1KB]CSVファイル

厚生労働省では,不妊治療を行う者の経済的負担の軽減を図るため,一定の要件の下,1回の治療につき15万円(初回は30万円)の助成を実施している92。助成延件数は,事業創設当時(平成16年度)に約1万8千件だったが,平成28年度には14万2千件となった。また,不妊や不育症に悩む夫婦等に対して,不妊治療に関する専門的知識を有する医師等が相談支援を行う不妊専門相談センター事業を実施している。29年7月1日現在,全国に66か所のセンターが設置されており,28年度には全国で2万件超の相談対応を行った。実施主体は都道府県・指定都市・中核市であり,相談者の意見や地域の状況等を踏まえ,センターごとに,不妊に悩む当事者間の交流会や週末・夜間の相談対応の実施など,独自の取組も行っている。厚生労働省では,28年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」に基づき,31年度末までに,全都道府県・指定都市・中核市にセンターを配置するよう取組を進めている。

91「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(国立社会保障・人口問題研究所,平成29年3月31日)

92初めて助成を受けた際の治療期間の初日における妻の年齢が40歳未満の時は通算6回まで,40歳以上43歳未満の時は通算3回まで助成。また,730万円(夫婦合算の所得ベース)の所得制限がある。

(5) 女性とがん

国立がん研究センターによると,生涯でがんに罹患する確率は,男性62%(2人に1人),女性46%(同)である。また,生涯でがんにより死亡する確率は,男性25%(4人に1人),女性は16%(6人に1人)であり93,罹患率,死亡率ともに男性の方が高い。

しかしながら,年齢階級別にがんの罹患率を見ると,20代後半から50代前半までは,女性が男性を上回る。この理由として,男女別に罹患数が多い順に上位5つのがんを見ると,女性で1位の乳がんと5位の子宮がんは,20代後半から罹患率が上昇し,40代後半~50代前半でピークになるのに対し,胃がんや大腸がん,肺がんなど男性の罹患率が高いがんは,年齢が上がるほど罹患率も上がる(I-特-41図)。乳がんは年間約7万7,000人,子宮がんは約2万4,000人,そのうち子宮頸がんは約1万人が罹患する重大な疾患である93。また,乳がんや子宮がんは5年相対生存率が高く94,早期発見のために検診受診率の向上が重要である。40~50代は働き盛り世代であり,罹患者本人にとっても企業にとっても,治療と仕事の両立が重要な課題である。

I-特-41図 年齢階級別がん罹患率(平成25年)別ウインドウで開きます
I-特-41図 年齢階級別がん罹患率(平成25年)

I-特-41図[CSV形式:3KB]CSVファイル

93国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」

94国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」。2006~2008年診断例による5年相対生存率は,乳がん(女性)91.1%,子宮がん76.9%,子宮頸がん73.4%であり,全部位(女性)66.0%,全部位(男性)59.1%と比較して高い。

コラム7 乳がん治療と仕事を両立できる職場づくりに向けた取組~NPO法人ビーシーアンドミー古田代表の挑戦~

(6) 更年期障害

日本人女性の閉経の平均年齢は50歳であり,その前後の約5年(45~55歳頃)を更年期という。この期間に現れるさまざまな症状の中で他の病気に伴わないものを更年期症状,その中でも症状が重く日常生活に支障を来すものを更年期障害と呼ぶ。I-特-34図で示した通り,女性の場合,閉経に伴って女性ホルモン(エストロゲン)の量が急減する。更年期障害の主な原因はこの女性ホルモンの急激な低下であり,のぼせ,汗,寒気,冷え症,動悸等の自律神経失調症状や,イライラ,不眠,抑うつ気分,思考力の低下等の精神症状,関節痛,肌の乾燥などのエストロゲン(女性ホルモン)欠乏症状など多彩な症状が発現する95

更年期障害は,有症率に関する正確な統計がなく実態の把握が遅れており,医療政策において,これまであまり強調されてこなかった分野だと言える。更年期症状の程度は個人差が大きく,日常生活に支障を来すほど症状の重い者は一部であること,一生続くことはなく,閉経後一定の年数を経過すると鎮静化すること,発症した場合,QOL(生活の質)は低下するが生命に関わるものではないこと等が背景にあるものと考えられる。なお,かつて更年期障害は女性の病気と考えられていたが,最近では,男性ホルモンであるテストステロンの低下により,男性でも更年期障害の症状が現れることが分かっている(LOH(ロー)症候群;加齢男性性腺機能低下症候群)。ただし,男性の場合,更年期障害が起こる時期は個人差がより大きく,男性ホルモンの低下が始まる40歳以降,どの年代でも起こる可能性がある96

内閣府男女共同参画局の調査によると,40代女性では約4割が,50代女性では5割以上が更年期の症状を感じており,うち1割前後の者が治療をしていると回答した。一方,男性も,40~60代以上の年代で,2割前後が更年期に関わる不調を有していた。

更年期の年代の女性は,更年期障害によりパフォーマンスが低下する一方で,仕事や生活の負荷が大きい。介護を抱える年代でもあり,自身の将来への不安も大きくなり,うつ病も発症しやすいと言われる97。更年期障害の治療法として,少なくなったホルモンを補う治療法(ホルモン補充療法)が有効であるとされている98。更年期障害と同じ症状が現れる他の疾患もあるため,まずは医師の診断を受けることが重要である。

95症状等の説明は,「病気を知ろう:婦人科の病気『更年期障害』」(日本産科婦人科学会ホームページ)を参考に記載。

96男性の更年期障害の説明は,「よくある男性の病気『男性の更年期障害とは』」(日本Men’s Health医学会ホームページ),NHK健康ch「更年期障害対処法『男性の更年期障害』」(堀江重郎順天堂大学教授)を参考に記載。

97女性の健康推進室ヘルスケアラボ「うつ」によると,女性ホルモンの変化に連動したうつとして,「月経前症候群(PMS)の一症状としてのうつ」,「マタニティブルー」のほか,「更年期障害に伴ううつ」もよくみられる。

98 治療法の説明は,「病気を知ろう:婦人科の病気『更年期障害』」(日本産科婦人科学会ホームページ),女性の健康推進室ヘルスケアラボ「更年期障害とは?」,同「更年期の治療法」,久保田俊郎「『ホルモン補充療法』を味方につけて」(日本産科婦人科学会編著『HUMAN+』,2014年)を参考に記載。

(7) 老年期の健康上の課題

(フレイル)

フレイル(虚弱)とは,加齢とともに筋力や認知機能等の心身の活力が低下し,生活機能障害,要介護状態,死亡などの危険性が高くなった状態をいう。多くの高齢者は,健常な状態から中間的な段階であるフレイルを経て,要介護状態に陥る。フレイルは適切な介入・支援により,生活機能の維持向上が可能である。フレイルの早期発見と予防は,高齢者が健やかに過ごすために,非常に重要である。

国立長寿医療研究センターにおいて,65歳以上の高齢者を対象に,体重減少,筋力低下,疲労感など5つの観点からフレイルのチェックを行い,集計したところ,フレイルもフレイル予備群も女性で多かった(I-特-42図)。年齢が上がるほどフレイルの有症率が上がること,フレイルが自立喪失の発生リスクを高めることが分かっており99,特に平均寿命の長い女性では,高齢になるほど,フレイルの早期発見と効果的な支援が求められる。

I-特-42図 フレイルとフレイル予備群の占める割合別ウインドウで開きます
I-特-42図 フレイルとフレイル予備群の占める割合

I-特-42図[CSV形式:1KB]CSVファイル

「2 生活習慣」において,20~40代の女性のやせの傾向について説明したが,65歳以上の高齢者の女性でも,低栄養傾向(BMI20以下)の者が5人に1人に上り,増加傾向にある100。加齢に伴う食欲の低下はフレイルの身体的側面の一つである低栄養につながることから,栄養指導や口腔機能低下の予防等の側面からの支援も必要とされる。

厚生労働省では,平成28年度から,高齢者の栄養指導,口腔機能低下に関する相談・指導等のモデル事業を実施してきたが,この効果検証を踏まえ,30年度から栄養,口腔,服薬などの面からの高齢者の保健事業の全国的な横展開を進めている。

99地方独立行政法人東京都健康長寿医療センターが群馬県草津市の高齢者約1,500人の平均7年(最大12年)の追跡研究を行った結果,フレイル無し群に比べて,フレイル群では自立喪失の発生リスクが約2.4倍となった。

100「平成28年国民健康・栄養調査」(厚生労働省,平成29年9月21日)

「フレイル」とは

フレイルとは,健康と要介護の中間の状態で,虚弱を意味する“Frailty”を語源に作られた言葉である。従前,“Frailty”を表す日本語として,「虚弱」や「老衰」などが使われてきたが,加齢で老い衰えた状態で,健常な状態には戻らないという誤った印象を与える等の指摘があった。そこで,“Frailty”について正しい理解を促進し,社会の認知度を上げるため,日本老年医学会のワーキンググループで検討した結果,「フレイル」の用語を使用することで合意した。フレイルの定義や判定基準は,世界中で議論されているが,いまだコンセンサスを得られていない。国立長寿医療研究センターでは,体重減少,筋力低下,疲労感,歩行速度の低下,身体活動の低下の5つの基準のうち3つに該当した場合に,フレイルと判定している。

高齢になることはフレイルの危険因子の一つだが,それ以外に,高血圧や糖尿病,骨粗しょう症などの慢性疾患,体脂肪率が高く筋肉量が少ないなどの体型の特徴などもフレイルの危険因子とされる。また,身体的要因だけでなく,うつや認知症などの精神・心理的要因,社会的な活動の低下や閉じこもりなどの社会的要因もフレイルに密接に関連しており,これらの要因がお互いに影響しながら悪循環を形成し,フレイルに陥ると考えられている。

<フレイルの概念図>

<フレイルの概念図>

葛谷雅文(2009)日本老年医学会雑誌を参考に一部改変
(国立長寿医療研究センターホームページより抜粋)

(備考)フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント(平成26年5月),女性の健康推進室ヘルスケアラボ「フレイル」,国立長寿医療研究センター「健康長寿教室テキスト」(平成26年7月),国立長寿医療研究センターNILS-LSA研究室「No.27 フレイルに気をつけて」等を参考に作成。

(要支援・要介護)

前述の通り,フレイルに陥っても,栄養の改善や運動などで健全な状態に戻ることは十分に可能である。一方で,加齢に伴う心身の衰弱は人によって進行や状態が異なるほか,傷病等により介護が必要な状態となる者もいる。

厚生労働省の「介護保険事業状況報告」によると,65歳以上の要介護認定者数は,平成27年度末現在で607万人(女性422万人,男性185万人)であり,12年の247万人から伸び続け,2.5倍となっている。また,各年齢階層の人口に占める認定割合を男女別に見ると,男女とも80歳以上になると認定率が急上昇するが,特に女性の上昇率が男性と比べて高い(I-特-43図)。

I-特-43図 要介護認定者数と認定率(年齢階級別)別ウインドウで開きます
I-特-43図 要介護認定者数と認定率(年齢階級別)

I-特-43図[CSV形式:1KB]CSVファイル

男女別に介護が必要となった主な原因を見ると,男性は「脳血管疾患(脳卒中など)」が多いのに対し,女性は「関節疾患(リウマチ等)」,「認知症」,「骨折・転倒」,「高齢による衰弱」が多い(I-特-44図)。このように,認定の原因の違いにも男女の違いが現れている。なお,関節疾患や骨折・転倒に見られるように,加齢や病気で骨や筋肉等の「運動器」の機能が落ちて,歩行や日常生活に支障がでている状態を「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」と呼び,進行すると介護のリスクが高まるため,日本整形外科学会等は,「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」などの運動習慣で移動機能の低下を予防するよう呼びかけている101

I-特-44図 介護を要する者の性別に見た介護が必要となった主な原因(65歳以上)別ウインドウで開きます
I-特-44図 介護を要する者の性別に見た介護が必要となった主な原因(65歳以上)

I-特-44図[CSV形式:1KB]CSVファイル

ここで説明した更年期障害やフレイル等のほか,骨粗しょう症なども50代以降の女性の大きな健康問題の一つだが,これについては「6 性差医療と女性外来の取組」で述べたい。

101「ロコモパンフレット2015年度版」(日本整形外科学会)

4 定期健診やがん検診等による健康の維持・病気の予防

(定期健診等)

定期健診(一般健診)や,生活習慣病予防のための特定健診は,健康の保持増進のために,そのときの健康状態を調べて,問題があった場合に改善するために,毎年定期的に受診することが重要である。男女別・年齢別に健診等(健康診断,健康診査,人間ドック)の受診状況を見ると,いずれの年代でも男性の方が受診率が高く,特に働き盛り世代の30~50代で男女の差が大きい。女性のうち,正規職員,非正規職員,仕事なしで家事を担う者を比べると,正規職員の場合,いずれの年代でも8割以上の者が健診を受けているのに対し,非正規職員では30代で約6割,40代で約7割であり,仕事なしで家事を担う者では30代で約3割,40代で約5割である。(I-特-45図)。

I-特-45図 女性の健診受診率別ウインドウで開きます
I-特-45図 女性の健診受診率

I-特-45図[CSV形式:1KB]CSVファイル

(市町村や職域のがん検診)

がん検診は,病気の早期発見・早期治療を可能にするために極めて重要である。厚生労働省では平成20年に指針102を策定し,市町村による科学的根拠に基づく検診を推進している。ほとんどの市町村では,がん検診の費用の多くを公費で負担しており,無料又は一部の自己負担でがん検診を受けることができる103。勤務先で加入する健康保険組合等でもがん検診を実施している場合がある。

厚生労働省では,子宮頸がん,乳がん,胃がんについて2年ごと,肺がん,大腸がんについて1年ごとの検診を推奨している。「第4次男女共同参画基本計画」では,子宮頸がん検診,乳がん検診について,受診率を50%とすることを目標としているが,平成28年における子宮頸がん検診の受診率(過去2年間)は42.4%(20~69歳),乳がん検診の受診率(過去2年間)は44.9%(40~69歳)と,いずれも目標に達していない。国際的に見ても,他の先進諸国と比べると,両検診とも低い水準にとどまる(I-特-46,47図)。

I-特-46図 子宮頸がん検診を受けた20~69歳女性の割合(国際比較)別ウインドウで開きます
I-特-46図 子宮頸がん検診を受けた20~69歳女性の割合(国際比較)

I-特-46図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-47図 乳がん検診を受けた50~69歳女性の割合(国際比較)別ウインドウで開きます
I-特-47図 乳がん検診を受けた50~69歳女性の割合(国際比較)

I-特-47図[CSV形式:1KB]CSVファイル

子宮頸がん検診,乳がん検診の受診率について,正規職員,非正規職員,仕事なしで家事を担う者を比べると,子宮頸がん検診は20代,30代の若い世代で非正規職員の受診率が低い。乳がん検診は,厚生労働省が推奨する40代以上の受診状況を見ると,非正規職員と仕事なしで家事を担う者で低い。また,正規職員,非正規職員,仕事なしで家事を担う者のいずれも,年代により受診状況にばらつきがあった(I-特-48図)。

I-特-48図 女性のがん検診受診率別ウインドウで開きます
I-特-48図 女性のがん検診受診率

I-特-48図[CSV形式:1KB]CSVファイル

平成27年12月に策定された「がん対策加速化プラン」では,市町村のがん検診の受診率対策,職域のがん検診の実態把握とガイドライン策定等が取組の強化を図るべき事項とされた。また,30年3月に閣議決定された第3期の「がん対策推進基本計画」(以下「がん基本計画」という。)において,市町村による効果的な受診勧奨や女性が受診しやすい環境整備等により,がん検診の受診率向上に取り組むことや,職域におけるがん検診のガイドライン(仮称)を策定し普及を図ること等が盛り込まれた。

厚生労働省では,市町村のがん検診の受診率向上のため,平成28年度から,一定年齢の者に対して,市町村が郵送や電話などによる個別の受診勧奨・再勧奨を行う取組を進めている。29年度からは対象を拡大し,例えば子宮頸がん検診であれば20~69歳,乳がん検診であれば40~69歳の未受診の女性全員に対して,個別受診勧奨・再勧奨を行っている。

また,職域で子宮頸がん検診,乳がん検診を受けた者は,それぞれの検診受診者の約3割104に上るなど,職域でのがん検診は,がん対策の観点から大きな役割を担う。しかしながら,職域におけるがん検診は,保険者や事業者が,福利厚生の一環として任意で実施しているものであり,検査項目や対象年齢等,検査の方法は様々であるのが実態である。厚生労働省では,第3期のがん基本計画等に基づき,「職域におけるがん検診に関するマニュアル」を策定した。

さらに,厚生労働省では平成29年度に研究班105を立ち上げ,乳がん検診において,乳房の構成を受診者に通知する際に留意すべき事項を整理し,高濃度乳房106への対応のポイントに関する周知を図ることとしている。

102がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(健発第0331058号平成20年3月31日付け厚生労働省健康局長通知別添)

103厚生労働省「平成28年度 市区町村におけるがん検診の実施状況調査集計結果」によると,子宮頸がん検診,乳がん検診(集団検診)について,回答のあった自治体のうち,「対象者全員自己負担なし」が10.2%(子宮頸がん),10.3%(乳がん),「高齢者は自己負担なし」が38.2%(子宮頸がん),37%(乳がん),「一部の対象者は自己負担なし」が64.6%(子宮頸がん),63.8%(乳がん),「対象者全員自己負担あり」が16.3%(子宮頸がん),17.3%(乳がん)であった(複数回答)。また27年度調査集計結果によると,市町村のがん検診の平均単価は,子宮頸がん検診で1,396円,乳がん検診(乳房エックス線検査)で1,291円であった。

104「平成28年国民生活基礎調査」によると,職域でのがん検診受診者の割合は,子宮頸がんで32.3%,乳がんで35.8%。

105「乳がん検診における乳房の構成(高濃度乳房を含む)の適切な情報提供に資する研究」班

106高濃度乳房は,乳房の構成の1つであって疾患ではないが,マンモグラフィーの感度が低くなる傾向にある。

コラム8 「バストにいちばん近い会社」ワコールの乳がん・子宮がん検診の推進等

(HPVワクチン)

子宮頸がんの発生は,その多くがヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因であり,子宮頸がんの予防のためには,HPV感染への対策が必要である。HPVに感染した個人に着目した場合,多くの感染者で数年以内にウイルスが消失し,数%しか持続感染-前がん病変107のプロセスに移行せず,浸潤がんに至るのはさらにそのうちの一部であり,子宮頸がん自体は,早期に発見されれば予後の悪いがんではない。しかし,HPVは広くまん延しているウイルスであり,公衆衛生的観点から,我が国では年間約10,000人の子宮頸がん罹患者とそれによる約2,700人の死亡者等を来す重大な疾患となっている。

HPVワクチンは新しいワクチンのため,がんそのものを予防する効果は現段階では証明されていない。しかし,HPVの感染や子宮頸部の異形成108を予防する効果は確認されており,その有効性は一定の期間持続することを示唆する研究が報告されている。子宮頸がんのほとんどは異形成を経由して発生することを踏まえると,最終的に子宮頸がんを予防できることが期待される。HPVワクチンについては,広範な慢性の疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状108が接種後に見られたことから,平成25年6月の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(以下「副反応検討部会」という。),薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(以下「安全対策調査会」という。)(合同開催)での議論を踏まえ,この症状の発生頻度等がより明らかになり,国民に適切に情報提供できるまでの間,定期接種の積極的な勧奨を差し控えており,接種のあり方については,引き続き,同審議会において科学的な検討を進めている109

平成29年11月の同審議会においては,ワクチンの安全性及び有効性に関する最新の知見を情報提供していくとともに,「機能性身体症状」108については,医療関係者を始め,医学的知識のない方でもわかるように,理解を深めてもらう方策が必要とされた。

平成29年12月の副反応検討部会,安全対策調査会(合同開催)においては,これまでの議論の整理が行われ,HPVワクチン接種後の症状に苦しんでいる方に対しては,引き続き寄り添った支援を行うべきとされ,また,HPVワクチンについて,安全性と有効性の両方を良く理解してもらうことが必要であり,そのために国民に対する情報提供を充実すべきとされた。厚生労働省においては,こうした議論を受けて,30年1月より厚生労働省ホームページにおいて,新しいリーフレットによる情報提供を開始している。

なお,ワクチンは子宮頸がんの原因となるすべての種類のHPVの感染予防効果があるものではない110ため,ワクチンを接種した場合でも,20歳以降,2年に1度の検診が推奨されている。

107前がん病変とは,がんになる一歩手前の状態。(「HPVワクチンの接種を検討しておられるお子様と保護者の方へ」(厚生労働省,平成30年1月))

108この症状は「機能性身体症状」(何らかの身体症状があり,その身体症状に合致する検査上の異常や身体所見が見つからず,原因が特定できない状態)であると考えられている。(「HPVワクチンの接種を検討しておられるお子様と保護者の方へ」(厚生労働省,平成30年1月))

109HPVワクチン接種後に症状が生じた方々に対しては,寄り添いながら支援を行っていくことが重要であり,厚生労働省では,平成27年9月に打ち出した「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する当面の対応」に基づき,救済に係る速やかな審査,医療的な支援の充実,生活面での支援の強化等の取組を実施している。

110現在使用されているHPVワクチンは,子宮頸がんの原因の50~70%を占める2つのタイプのウイルスの感染を防ぐ。

5 治療と仕事との両立

女性の就業率の上昇や医療技術の進歩等により,男性だけでなく女性も何らかの疾病を抱えながら働く者が増えている。国民生活基礎調査によると,通院しながら企業等で働く者の占める割合は,男女とも年々増えている(I-特-49図)。

I-特-49図 仕事をしながら通院している者の割合の推移別ウインドウで開きます
I-特-49図 仕事をしながら通院している者の割合の推移

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内閣府男女共同参画局の調査によると,治療と仕事の両立の実態について,疾病罹患から1年後の勤務状況を見ると,正規職員では男女とも約8割が罹患時と同じ会社・配属先で働いていた111。離職した者の割合は,男女とも正規職員より非正規職員で高かったが,正規職員の場合,離職はしなかったが検討した者が,男性で約3人に1人,女性で約4人に1人に上った(I-特-50図)。また,通院しながら働く者のうち,正規職員,非正規職員のいずれも治療目的の休暇・休業制度の利用率が高かった。一方,利用できる制度がないとした回答も男性の正規職員で約4人に1人,女性の正規職員で約4割に上るなど,企業における両立支援制度が十分とは言えない状況にあることも分かった(I-特-51図)。

I-特-50図 治療しながら働く者の離職状況別ウインドウで開きます
I-特-50図 治療しながら働く者の離職状況

I-特-50図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-51図 治療しながら働くに当たって利用している社内の制度別ウインドウで開きます
I-特-51図 治療しながら働くに当たって利用している社内の制度

I-特-51図[CSV形式:1KB]CSVファイル

治療しながら働く人が増加していること,また,疾病を理由に離職する者がいること等を背景に,「働き方改革実行計画」(平成29年3月働き方改革実現会議決定)においても,病気の治療と仕事の両立は主要な柱の1つと位置づけられており,同計画等に基づき,厚生労働省では,「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン(平成28年2月)」に基づく,企業,医療機関等の取組の支援を行っている。また,経済産業省も,企業の両立支援を後押しするため,平成29年度から健康経営銘柄の選定及び健康経営優良法人の認定において「病気の治療と仕事の両立に向けた取組」を新たに要件として追加した。

111同じ会社・配属先で働いている割合は,女性の場合,正規職員で82.5%,非正規職員で69.7%であり,男性の場合,正規職員で78.7%,非正規職員で64.6%であった。

(がん治療と仕事の両立支援)

「女性とがん」で述べた通り,子宮頸がん,乳がんは,40~50代の働き盛り世代で罹患率が高い。また,入院日数の短縮化と通院治療へのシフトから,男女ともに,通院で治療を受けながら,仕事を続けている場合が増えてきている112。がんによる離職者の4割が診断確定時から最初の治療開始までに離職していたという調査結果もあり113,病気に対する理解不足や職場の理解・支援体制不足によって,早まって離職しないよう,医療機関や勤務先等で相談できる体制の整備も求められる。平成27年12月に策定された「がん対策加速化プラン」では,がん相談支援センターを活用した仕事の継続を重視した相談支援の実施など,がん患者の就労支援が取組を強化すべき事項とされた。また,30年3月に閣議決定された第3期のがん基本計画では,「治療と仕事両立プラン(仮称)」の開発や,医療機関向けの企業との連携のためのマニュアル作成・普及など,医療機関や職場,地域におけるがん患者の就労支援が盛り込まれた。

112事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン 参考資料「がんに関する留意事項」(厚生労働省,平成28年2月)

1132015年厚生労働科学研究費 がん対策推進総合研究事業「働くがん患者の職場復帰支援に関する研究」

コラム9 「がんに負けるな」伊藤忠商事株式会社のがんとの両立支援の取組

(不妊治療と仕事の両立支援)

不妊治療は,妊娠・出産するまで,あるいは,治療をやめる決断をするまで続くため,長期間に渡ることもある114。また,体外受精等を行う場合,排卵周期に合わせた頻繁な通院が求められるため,治療の予定を立てることが困難である114。これまで,企業における両立支援の状況等が必ずしも明らかでなかったことから,厚生労働省では,平成29年度に企業や労働者を対象に不妊治療と仕事の両立に関する実態調査を行った115。労働者への調査結果によると,不妊治療の経験者のうち,仕事との両立ができずに離職した者の割合は6人に1人(16%)となった。男女別では,女性はおよそ4人に1人(23%)が離職したのに対し,男性の離職者は2%であった。両立が難しい理由として,男女とも,通院回数の多さ,精神面の負担,仕事との日程調整の難しさ等を挙げる者が多かった。また,企業への調査結果によると,不妊治療を行う従業員への支援制度等について,「ない」と回答した企業の割合が7割となった。厚生労働省では,この調査結果等を踏まえ,30年2月に,不妊治療を行う従業員に対し適切な配慮をするよう企業に呼びかけるリーフレットを作成したほか,不妊治療を受ける従業員が,人事担当者や上司に不妊治療中であることを伝え,企業独自の両立支援制度を利用する際に用いることを目的とした「不妊治療連絡カード」を作成し,活用を呼び掛けている。

114「事業主の皆様へ:従業員が希望する妊娠・出産を実現するために」(厚生労働省,平成29年2月)

115平成29年度厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業」調査結果報告書(東京海上日動リスクコンサルティング株式会社)。労働者調査は,男女労働者2,060人を対象に実施,うち不妊治療の経験者は265人(女性176人,男性89人)であった。企業調査は,従業員規模10人以上の企業4,000社を無作為抽出して実施,回答数は779社であった。

6 性差医療と女性外来の取組

(疾患等の性差)

国内外の様々な研究により,疾患によっては,その発症頻度や好発年齢,病態,予後等に男女差があることが知られるようになってきた。

例えば,通院者率(人口千対)を見ると,痛風や脳卒中(脳出血,脳梗塞等)は男性で高く,骨粗しょう症や甲状腺の病気,関節リウマチ等は女性において高い(I-特-52図)。また,疾患ごとに,男女で好発年齢の違いも見られる。例えば,骨粗しょう症は女性の通院者率が高い疾患の一つだが,年齢別に見ると,40代までは男女の差がほとんど見られない。閉経前後の50代前半から女性の通院者率が大きく上昇する。男性も70歳頃から徐々に通院者率が上がるが,上昇率は女性に比べるとはるかに緩やかである。同じく脂質異常症(高コレステロール血症等)も女性の通院者率が高い疾患だが,50代前半までは,男性の通院者率が女性より高い。女性の通院者率は50代で大きく上昇し,その後も70代まで,男性の上昇率を大きく上回る水準で上がり続ける116(I-特-53,54図)。

I-特-52図 通院者率(人口千対)について,男女差が概ね1.5倍以上あるもの別ウインドウで開きます
I-特-52図 通院者率(人口千対)について,男女差が概ね1.5倍以上あるもの

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I-特-53図 男女別の通院者率(男性に多い疾患)別ウインドウで開きます
I-特-53図 男女別の通院者率(男性に多い疾患)

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I-特-54図 男女別の通院者率(女性に多い疾患)別ウインドウで開きます
I-特-54図 男女別の通院者率(女性に多い疾患)

I-特-54図[CSV形式:3KB]CSVファイル

疾患の発症頻度や部位,好発年齢,病態,予後等の違いは,男女別の死因の違いからも見て取れる。死因順位を見ると,男性において死因第10位までに含まれる慢性閉塞性肺疾患(COPD)117や肝疾患等は,女性では第10位までに含まれず,代わりに血管性等の認知症が死因第9位,アルツハイマー病が死因第10位となっている118。また,男女ともに悪性新生物(がん)が死因順位の第1位だが,人口十万対の死亡率は男性のほうが高いなど,疾患ごとの死亡率を見ても,男女で違いが見られる118(I-特-55図)。

I-特-55図 男女別に見た死因順位順の死亡率別ウインドウで開きます
I-特-55図 男女別に見た死因順位順の死亡率

I-特-55図[CSV形式:1KB]CSVファイル

性差医療の専門家は,こうした男女による疾患の発症頻度等の違いを,「女性の医療はQOL(生活の質)で,男性の医療は死につながる医療」と説明している119。なお,疾患の発症頻度等は国によっても違うが,OECDは,男性は肺がんや心臓発作などの致死的な疾患が多く,女性は関節疾患やうつ病など,死に至ることはないものの,日常生活に支障を来す病気が多いのは,加盟国に共通する事象であると分析している120

116「平成28年国民生活基礎調査」(厚生労働省,平成29年6月27日)

117慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは,主に長年の喫煙習慣が原因で発症し,呼吸機能が低下していく肺の病気。代表的な症状は階段や坂道での息切れ,長引く咳やたん。初期は無症状で,ゆっくりと進行し,完治することはない(厚生労働省健康局「スマート・ライフ・プロジェクト」ホームページ)。

118「平成28年(2016)人口動態統計(確定数)の概況」(厚生労働省,平成29年9月15日)

119天野惠子(司会),松﨑益德,松本好市「鼎談:なぜ性差医療なのか―女性外来の「いま」「これから」―」(『日本醫事新報』第4185号,2004年)

120“The Pursuit of Gender Equality” (OECD, 2017)

(日本における性差医療の推進)

このような発症率や病態の違いなど,疾患の背景にある性差を考慮した医療・医学が「性差医療・医学」である121。女性における生理医学的エビデンスの不足・欠如を背景に,米国で,1990年初頭から政府主導で進められた医療改革であり122,日本では,2000年代以降「女性外来」の形で具現化されてきた123。平成13年5月に,日本初の女性外来が開設され,同年9月には,公立病院で初の女性外来が開設された123。現在では全国に328(30年1月23日現在,性差医療情報ネットワーク124調べ)の女性外来が開設されており,うち約2割は都内の施設であるなど大都市への集中は見られるものの,山形県を除く46都道府県で女性外来を受診できる体制となっている。

また,近年,男性特有の疾患や,男性に発症率が高い疾患,予後が女性より悪い疾患など,男性医療(メンズヘルス)の研究や医療現場での実践も進みつつある。日本Men’s Health医学会125の調べによると,全国26都道府県に92のメンズヘルス外来(男性外来)が開設されている。

121片井みゆき「性差医学・医療―臨床から教育まで―」(『信州医誌』第53巻第6号,2005年)

122天野惠子「内科医として知っておきたい性差」(『日医雑誌』第138巻第5号,2009年)

123天野惠子「性差医学・医療」(『内分泌・糖尿病科』第22巻第2号,2006年)

124性差医療・医学に関する情報発信,ホームページ上での会員間の情報交換と知識の共有,エビデンスの構築を目指して,天野惠子医師を理事長に平成14年8月に発足した情報ネットワーク基盤。

125平成13年に日本Aging Male研究会として発足。18年に,メンズヘルスの普及啓発,調査研究,指導者や専門医の育成等を目的に,男性の健康医学を研究する研究者,医療関係者により構成される日本Men’s Health医学会となった。

コラム10 日本での性差医療の実践と展望 ~天野惠子医師に聞く~

7 医療分野における女性の参画拡大

医療分野への女性の参画状況を見ると,医師,歯科医師に占める女性の割合は増加傾向にあり,平成28年には,医師は21.1%,歯科医師は23.0%となった。近年,若年層における女性の医師,歯科医師が増えており,医学部の学生に占める女性の割合は約3分の1,歯学部は約4割となっている。薬剤師は女性の占める割合が6割を超える(I-特-56図)。医師の場合,診療科による違いも見られ,皮膚科や眼科,産婦人科といった診療科では女性医師の占める割合は高いが,外科などの診療科では低い(I-特-57図)。看護師は近年,徐々に男性の参画が進みつつあるが,依然として,女性の占める割合が高い職業の一つである。

I-特-56図 医療職,医療系学部学生に占める女性の割合別ウインドウで開きます
I-特-56図 医療職,医療系学部学生に占める女性の割合

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I-特-57図 医療施設従事医師の主たる診療科(女性の占める割合)別ウインドウで開きます
I-特-57図 医療施設従事医師の主たる診療科(女性の占める割合)

I-特-57図[CSV形式:1KB]CSVファイル

医師に占める女性の割合を国際的に見ると,OECD加盟国では,概ね医師の2人に1人が女性という状況である(I-特-58図)。我が国でも,前述の通り,若年層における女性医師等が増えており,医療の分野でも,女性医師の支援や,働き方改革が喫緊の課題である。

I-特-58図 女性医師の占める割合(国際比較)別ウインドウで開きます
I-特-58図 女性医師の占める割合(国際比較)

I-特-58図[CSV形式:1KB]CSVファイル

(女性医師の支援)

厚生労働省では,地域医療介護総合確保基金を通じ,女性の復職に関する相談窓口の設置や研修,院内保育所の運営等の都道府県の取組に対して財政支援を行っている。平成27年度からは,女性医師支援の先駆的な取組を行う医療機関を「女性医師キャリア支援モデル推進医療機関」と位置付け,効果的な取組を他の医療機関に普及させるための経費を支援している126。さらに,公益社団法人日本医師会(以下「日本医師会」という。)に委託し,女性医師の就業等に係る実情把握調査の実施や,就職を希望する女性医師への医療機関や再研修先の紹介(女性医師バンク),各医師会が実施する講習会等への託児サービス併設への補助等を行っている。

126出身大学や居住地域を問わずに復職に向けた相談を受け付け,研修先とのマッチングを行う復職支援事業(東京女子医科大学)や,学内病児保育施設の設置,学内保育所での24時間保育の提供などの育児支援(久留米大学)等が先駆的な取組例として支援を受けた。

コラム11 フィンランドの医療制度と医師の働き方

(医師の働き方改革)

「働き方改革実行計画」において,医師の時間外労働規制は,応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要であり,2年後を目途に規制の具体的な在り方や労働時間の短縮策等について検討し,5年後を目途に規制を適用することとされた。これを踏まえ,平成29年8月,厚生労働省に医療界参加の下,「医師の働き方改革に関する検討会」を開催し,30年度末までの取りまとめを目指して議論を行っている。病院常勤勤務医の勤務時間(診療時間,診療外時間,当直の待機時間の合計)は,週60時間以上の者が男性で41%,女性で28%127と,男女とも,正規労働者全体128(男性:13.6%,女性:4.6%)に比べてはるかに高い。また,診療科別週当たり勤務時間60時間以上の割合を見ると,産婦人科で約53%,臨床研修医48%,救急科約48%,外科系約47%と,約半数に上る診療科もある129。こうした医師の勤務実態も踏まえ,検討会では,30年2月に,中間的な論点整理とともに,医師の労働時間管理の適正化,36協定の自己点検,多職種へのタスク・シフティング(業務移管)の推進,女性医師等に対する支援など,勤務医を雇用する個々の医療機関における緊急的な取組事項を取りまとめ,公表した。

127第1回医師の働き方改革に関する検討会(平成29年8月2日)資料3「医師の勤務実態等について」

128総務省「労働力調査(基本集計)」(平成29年)より,全産業の正規の職員・従業員の総数(休業者除く)に占める月末1週間の就業時間が60時間以上の者(15~64歳)が占める割合を算出。

129第2回医師の働き方改革に関する検討会(平成29年9月21日)資料3「医師の勤務実態について」

(看護職員や薬剤師の勤務環境改善等)

厚生労働省では,看護職員の確保に当たり,看護職員が離職等した際に連絡先等を届け出る制度を創設し,届出情報を活用した再就業支援や各医療機関が計画的に看護職員を含めた医療従事者の勤務環境改善に取り組む仕組みを導入するなど復職支援・離職防止の取組を進めている。また,地域の実情に応じた看護職員の確保対策をより一層推進するため,地域医療介護総合確保基金を通じて,病院内保育所の整備を含む医療機関の勤務環境改善等に関する都道府県の取組を支援している。

薬剤師・薬局については,地域で暮らす患者の様々なニーズに応えるため,「かかりつけ薬剤師・薬局」の推進等の取組が進められている。平成30年度診療報酬改定において,かかりつけ薬剤師指導料等について週32時間以上の勤務を要件の一つとしているところ,育児や介護を担う薬剤師も,他の薬剤師と連携を図りながら,かかりつけ薬剤師として活躍できるよう,育児・介護休業法に基づいて短時間勤務する場合には,週の勤務要件を緩和し,週24時間以上かつ週4日以上の勤務で可とする例外規定を設けた。

(日本医師会等の役員)

日本医師会等の役員に占める女性の割合を見ると,日本医師会では9.4%,日本歯科医師会では7.4%,日本薬剤師会は6.7%であり(I-特-59表),医師や歯科医師に占める女性の割合が増える中で,組織の意思決定に関わる指導的地位にある女性医療職の育成が課題となっている。また,臨床医学系の学会では,女性役員がゼロの組織もあるため,こうした分野でも指導的立場に立つ女性医師の育成が望まれる。

I-特-59表 日本医師会・日本歯科医師会・日本薬剤師会・日本看護協会・日本栄養士会等の役員割合別ウインドウで開きます
I-特-59表 日本医師会・日本歯科医師会・日本薬剤師会・日本看護協会・日本栄養士会等の役員割合

I-特-59図[CSV形式:1KB]CSVファイル