コラム4 予期しない妊娠の防止と性感染症の予防に向けた取組~英国とフィンランドの事例~

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コラム4

予期しない妊娠の防止と性感染症の予防に向けた取組~英国とフィンランドの事例~


女性人口千人当たりの中絶数(中絶率)を見ると,スウェーデンや英国,フランスで10代の高さが目立つほか,他の先進国も20代前半の年齢層で高くなっている(I-特-37図)。若年層の予期しない妊娠の防止と性感染症の予防は各国共通の課題であり,いずれの国も,現状を踏まえた啓発や相談指導の充実等の取組を進めている。英国とフィンランドの取組事例を概観する。

(相談内容は秘匿されるため,心配せずに医療機関に来るよう若者に呼びかけるNHSのポスター)

(相談内容は秘匿されるため,心配せずに医療機関に来るよう若者に呼びかけるNHSのポスター)

英国では,国民保健サービス(NHS)の仕組みの中で,一般家庭医(GP)の診療所や若者向けクリニック(ユース・クリニック等),避妊クリニック等において,避妊方法や予期しない妊娠等に関する相談,性感染症の検査や治療,低用量ピルを含む避妊法の提供が行われている。NHSのサービスは,英国居住者であれば誰でも原則として無料で利用できる。NHSの医師や看護師等には,利用者が未成年か否かに関わらず,守秘義務が課されている1。しかしながら,未成年者の場合,相談内容が親や教師に伝わるのではないかと心配し,相談や治療をためらうケースがある。NHSでは,必要な者に迅速に支援の手が届くよう,若者を対象としたブックレットやウェブサイト等において,生命や身体の安全に関わる場合等を除き,相談や治療の内容が家族や教師に伝わることはない旨,平易な言葉で周知している。

フィンランドでは,1970年から,学校教育の中で,予期しない妊娠や性感染症の予防策を含む性教育が行われてきた。また,中学校,高校,大学などの学校保健師と,ネウボラの医師・保健師等が,若者の予期しない妊娠の防止等に重要な役割を果たしている。学校保健師は,避妊や性感染症等を含めた生徒の健康や医療面の相談にのるほか,自治体によっては低用量ピルの提供等も行う。学校保健師のサービスを受けられない若者には,各自治体が運営する「青少年ネウボラ」や「家族計画ネウボラ」2において,月経や避妊,性感染症,人工妊娠中絶等に関する相談や医療サービスが提供される。フィンランドでも我が国同様,低用量ピルには医師の処方箋が必要である。ただし,未成年者でも,医師の診察や処方箋の発行に親の同意は不要であり,若者が医師の診察をためらうことがないよう,市町村のウェブサイト等でこうした情報が周知されている。人工妊娠中絶も同様である。例えば,ヘルシンキ市が運営するウェブサイトでは,「未成年者が中絶を希望する場合,一般には両親に相談することが望ましいが,ただし,(両親の)同意は不要である」,「本人の希望に反して,医師等が両親に事情を伝えることはない」旨案内されており,親に相談できない等の理由で若者が問題を一人で抱え込むことがないよう取組を進めている。

1ただし,利用者が13歳未満の場合,医師や看護師等の判断により,ソーシャル・ワーカー等が関与する場合がある。

2ネウボラには,妊娠期から就学前まで子を持つ家庭に切れ目ない支援を行う「出産ネウボラ」,「子どもネウボラ」のほか,避妊や性感染症の相談対応等を行う「青少年ネウボラ」や「家族計画ネウボラ」,虐待や精神疾患,離婚等の問題を抱える家庭への支援を行う「家族ネウボラ」等の種類がある。

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I-特-37図 人工妊娠中絶率(国際比較)

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