第4節 学びの充実を通じた男女共同参画社会の実現に向けて

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第4節 学びの充実を通じた男女共同参画社会の実現に向けて

本節では,これまでの節を振り返りながら,学生時代と社会人を通じた学びをめぐる課題を整理する。仕事のための学びについては,第1節4で見たとおり,学校を卒業して就く仕事(職業)が多様化してきたことを踏まえ,専門的・技術的職業の場合と事務職とに分けて考察する。特に事務職の場合には,学校での学びよりOJTを含めた企業における学びの比重が大きく企業における働き方やキャリアアップをめぐる課題と表裏一体の関係にあると考えられるため,いわゆる一般職や総合職といったコース別雇用管理にも着目しつつ働き方等をめぐる課題を踏まえて考察する。

1 学びの制約

(固定的な性別役割分担意識による制約)

女子の高等教育機関への進学率は大きく上昇してきており,第2節1で見たとおり,家族の意向や経済的理由による進学の制約は若い女性ほど減少している。しかしながら,仕事のための学びについては,女性は,ハードルとして家事や育児などの負担を挙げる人が多く,特に小さな子供がいる女性に顕著である。家事・育児等の負担が女性に偏っていることが,女性にとって,社会人の学びに当たって大きなハードルになっていると言える。

また,第3節2(1)で見たとおり社会人になって「家庭のため」に学ぶ人は全ての世代において女性の方が10~15%ポイント程度高い。何を学ぶかにおいても固定的な性別役割分担意識やそれに基づいて家事・育児等の負担が女性に偏っている現状が影響していることも考えられる。

(男性中心型労働慣行による制約)

女子学生の進路選択からは,男性中心型労働慣行が,若い世代の学びの選択を制約していることも考えられる。

女性は大学等への進学時に「就職のために資格が取れる」ことをより重視する傾向がある。これは,男性中心型労働慣行の中で第一子出産に際して女性の2人に1人は離職している現状を踏まえて,子供が小さいうちは仕事を継続することが困難であることを前提に,再就職に備えて資格取得を重視する進路選択をしていることも考えられる。

また,第2節2で見たとおり,我が国は,特に理工系分野において女性研究者の割合が低い。女子が大学等への進学に際して,理工系分野は特に女性研究者が少ないことや,子育てをしながら研究を続けることが困難であることを前提に,これらの選択に消極的になっていることも考えられる。

2 多様化する女性のライフコースと学び

(1)高等教育機関への進学率の上昇と女性の就業状況等の変化

第1節4で見たとおり,学校を卒業して就く仕事(職業)は,大学卒業者では男女の相違が小さくなりつつあるが,高等学校卒業の場合は,男女の相違は引き続き大きい。進学先や専攻分野など,高等教育機関への進学の状況について男女の相違が小さくなると,学校を卒業して就く職業についても男女の相違が小さくなっていくことが推察される。

(2)高等教育を修了した女性のライフコースの移り変わり

我が国では,高度経済成長期以降に女性の高学歴化が進む中でも,大学卒業者について,卒業後すぐの有業率は高いものの結婚や出産,育児を機に早期に労働市場から退出したまま,その後も労働市場に復帰しない者の割合が高かった57。諸外国では教育年数の長い女性ほど結婚後の就業率も高いことが一般的であり,高等学校卒業までの学歴の女性より高等教育を修了した女性の方が中高年層の就業率が低いというのは我が国の特徴でもあった58。しかしながら,大学卒業者でも労働市場に復帰する女性が徐々に増え,平成20(2008)年には,中高年層の女性について,大学卒業者でも高等学校卒業までの学歴の女性と同程度の有業率になったことが確認されている59。もっとも,国際的には,なお高等教育を修了した女性の就業率は低い水準60であった。その後,第2節3で触れたとおり,高等教育を修了した女性の就業率は直近10年でOECD加盟国の中で最も急激な伸びを示し,平成29(2017)年時点でOECD平均とほぼ同じ水準となっている。

高等教育を受けた女性の就業継続が増えることとあわせて,就業内容やライフコースの多様化も同時に進行してきた。

57大学・大学院卒業者の年齢階級別労働力率は「M字カーブ」ではなく,「きりん型」と称されていた。平成20年版「働く女性の実情」参照。

58大沢真知子「21世紀の女性と仕事」(2018年,放送大学叢書)第7章参照。

59平成20年版「働く女性の実情」図表2-2-2参照。

60平成18(2006)年の数値で,日本は68.4%(OECD平均は79.8%)となっている。

(専門的・技術的職業分野の多様化に対応したリカレント教育を)

従来から,専門・技術職の女性は事務職の場合と比較して就業継続につながる場合が多いとされ,また再就職も容易で女性にとって安定的就業である傾向がある。大学等で身に付けた専門性や技術を活かしてキャリアアップしたり,子育て等の事情に応じて働き方を変えつつ新たな専門性を身に付けたりしていくことは,今後も主要な就業パターンとなることが考えられる。また,同じ専門的・技術的職業であっても,昭和50(1975)年当時と比較すると就業分野が多様化しており(第1節4参照),必要な学びの内容やタイミングが異なってくることから,自らの状況や将来設計を踏まえて主体的に専門性を高めていくことが重要になってくる。

(事務職についても意欲・能力に応じた仕事を通じた学びの充実を)

必ずしも資格などによらない事務職においては,かつて女性はいわゆる「一般職」として長期に働くことを前提としていない仕事に就くことが多かったが,仕事と家庭の両立支援制度の充実などにより,長く就業を続ける事務職の女性が増えている。一方で,業務の集約化や情報化の進展等により事務の仕事は必ずしも定型的なものばかりではなくなっている61

企業には,こうした状況を踏まえて,意欲や能力に応じて雇用管理をするとともに仕事を通じた学びを充実させていくことが求められる。

61公益財団法人21世紀職業財団「『一般職』女性の意識とコース別雇用管理制度の課題に関する調査研究」(2017年8月)参照。

(男性中心型労働慣行を見直し,女性のやりがいを引き出す)

総合職の事務職においても女性の割合は増えているものの,なお就職して10年後の離職率は約6割62にのぼる。総合職は企業の基幹的業務を担うものとして採用されており企業における学びの機会が多いと考えられるため,少なくとも女性が不本意に離職するケースを減少させることが女性にとっても企業にとっても有益である。総合職の女性の離職理由については,従来から出産・子育て等を理由に離職せざるを得ないことやロールモデルが不在であることが指摘されてきたが,家庭との両立のみが理由ではなく,職場における男性中心型労働慣行や男女の取扱いの差を背景に,仕事にやりがいを見いだせず離職するケースが相当数あるという指摘もある63

女性が学校や企業で学んだことを活かせるようにするとともに企業が人材への投資を利益につなげていくためにも,男性中心型労働慣行等の変革が求められる。

62厚生労働省「コース別雇用管理制度の実施・指導状況」(平成26年度)によると総合職女性の10年後離職割合は58.6%(総合職男性は37.1%)となっている。

63日本女子大学現代女性キャリア研究所「現代女性とキャリア」(2018年第10号,2012年第4号)

(多様なライフイベントや学びに彩られた女性の人生グラフ)

また,コラム7,15,18,20の女性達の「人生グラフ」にあるとおり,人生の様々な段階で学び,仕事や活動を広げる転機がある。このため,若い世代や,出産や子育て等による離職により就業にブランクのある女性にとって,働くことや職業イメージについて学びながら進路や仕事を選択することが重要となっている。1で見たとおり,固定的な性別役割分担意識や男性中心型労働慣行により女性にとって学びの機会や内容が制約される状況がなお認められる中で,様々な学びを通じて多様な人生を実現している事例が,女性達が制約にとらわれずそれらを乗り越えていく指針になることが期待される。

(3)地域における女性の活躍につながる学び64

若い女性が進学や就職のタイミングで生まれ育った地域を離れることがある。女性の大学等進学率の上昇に伴いそうした移動は増えており,一極集中が進む東京圏への転入について中長期的に見ると,女性の転入超過数が,リーマンショック(平成20(2008)年9月),東日本大震災(平成23(2011)年3月)以降は,男性を上回って推移している。また,女性は,男性と比較した場合,東京圏に転入すると戻らない傾向が示唆されている。

また(1)のとおり,大学卒の場合,学校を卒業して就く職業について男女の相違が減少する傾向にあり,直近では,女性の場合,専門的・技術的職業従事者が4割近く,事務従事者が3割程度となっているが,「専門的・技術的職業」や「事務」の職業は東京圏を初めとする大都市圏に比較的多い。また,東京圏への移動について,若い女性は,「地元に息苦しさを感じて移動している可能性」も指摘されている。

地域において多様な学びの選択が出来るようにすること,そして地域で学びを活かす場を作っていくことは,全国のあらゆる地域で女性が活躍していくためにも重要である。

64東京圏への移動・集中に関する記述については,第1回「第1期まち・ひと・しごと創生総合戦略」に関する検証会 資料4「東京一極集中の動向と要因について」参照。

コラム20 専門性の活用・向上による女性の継続就業の支援

コラム21 溶接の仕事を目指す女性が学ぶ職業能力開発施設~「活躍する溶接女子」~

コラム22 地方都市拠点の英会話スクール~『地方都市でも最高の教育を』という企業ミッションを共有して子育て中の女性や外国人も活躍~

3 多様な選択が可能となる学びの充実に向けて

中高年になる前の早い段階で仕事から離れることが珍しくない女性にとって,従来から社会人の学び直しについて潜在的なニーズがあったと考えられるが,その必要性が必ずしも十分に認識されていなかった。人生100年時代を見据え,働き方が多様化する現在においては,男女問わず必要性が高まっている。

固定的な性別役割分担意識や男性中心型労働慣行は進路選択の制約となったり,必要性が高まっている社会人の学び直しに当たっても阻害要因となったりしていることを踏まえると,価値観や慣行の変革と軌を一にして多様な選択を可能にする学びを充実していくことが,女性の活躍を深化させる原動力となると考えられる。

本特集の様々な学びの状況をめぐる分析やコラム等で取り上げた従来の価値観や慣行にとらわれない斬新な取組事例が,学校教育の場,社会人の学び直しの場のいずれにおいても,男女ともに多様な選択を可能にする学びを充実させる一助になることを期待したい。