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コラム22 地方都市拠点の英会話スクール~『地方都市でも最高の教育を』という企業ミッションを共有して子育て中の女性や外国人も活躍~

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コラム22

地方都市拠点の英会話スクール~『地方都市でも最高の教育を』という企業ミッションを共有して子育て中の女性や外国人も活躍~


(有限会社ジェム)

英会話スクールで教えるネイティブスピーカーの女性の写真

有限会社ジェムは,香川県観音寺市に本社を置き,香川県と愛媛県の両県で最大規模の英会話スクール(平成31(2019)年3月時点で13校・生徒数約2,000名)と学習塾を運営している。

同社は,昭和56(1981)年に代表が学習塾を始めたのが最初であるが,当時は約1万人の町で外国人と言えば同社の講師くらいという環境であった。代表がアメリカで小学校の講師をしていた際の教え子のアメリカ人がスクールに来た時,塾の生徒たちの興奮や外国人と話が通じたときの喜びを見て,ネイティブスピーカーが教える重要性を認識した。以来,講師が全てネイティブスピーカーという方針で事業を運営している。「地方都市でも最高の教育を受けることが出来る環境を作ろう」ということを企業ミッションとし,授業の改善,講師の質の向上,働きやすい環境づくりに取り組んできた。

平成29(2017)年には,「柔軟な働き方を実現するための徹底したIT活用により,優秀な人材の継続確保・活躍による事業拡大を実現」しているということで「新・ダイバーシティ経営企業100選」1に選ばれた。

「新・ダイバーシティ経営企業100選」には,大都市圏の大手企業の選出が多い中,同社は地方都市に本拠地を置き,従業員数が約40名(そのうち女性が30名)の企業である。一般的には人事や労務管理に十分なノウハウがないのではないかとも思われるが,どのようにして柔軟な働き方が出来ているのだろうか。また,教育業界全体が人手不足の中,優秀な人材を継続的に確保し,事業を拡充してきた秘訣は何だろうか。

まず,柔軟な働き方については,同社では米国の大手インターネットサービス企業が提供するクラウドサービスを利用することにより,スタッフが詳細な業務カレンダーを共有し,突発的なスケジュール変更や生徒の情報などを容易に確認できるシステムとしている。また,子育て中の女性に限らず全てのスタッフがテレワークを出来るようにしている。

制度上テレワークが可能になっていたとしても,重要な情報や判断の過程を共有できないと,勤務時間の制約がある子育て中の女性は責任のある立場から遠ざかりがちである。これに対して同社のテレワークは,全スタッフを対象に徹底した業務の効率化のために行われてきたものであり,勤務時間が制約されていても,重要な情報に触れつつ,責任のある仕事をすることが出来ている。このことは,地方都市での人材確保が難しくなっている中,英語を初めとして学生時代に学んできた知識や別の仕事で得た経験などをもつ優秀な女性が,同社で働き続けている大きな要因である。

「働きやすく,やりがいのある職場環境」が魅力的なのは子育て中の女性に限ったことではない。平成27(2015)年からは「FORTUNE」誌(日本国内での発表は「日経ビジネス」)に掲載の「Great Place to Work 働きがいのある会社」に選ばれたことが大きく影響し,外国人講師についてはアメリカのトップ層の大学から優秀な人材を継続して採用出来ている。近年は限られた採用枠に応募が殺到するが,何段階かの丁寧な選考過程を経て,1か月のインターンシップ期間を設けている。

外国人講師については,採用が決まった段階から同社が独自開発した教材を使ってオンラインでの指導が開始される。こうした指導やインターンシップは,自分のキャリアに不安もある早い段階に十分な学びの環境を提供しているともいえるだろう。

新たなレッスンの開発は毎週,半日かけて行っている講師ミーティングで行っている。英会話教室の場合,外国人講師は「英語を話すこと」のみが仕事で,レッスンの開発は日本人が行うという役割になっていることも多いと言われるが,同社では,講師同士が学び合いながらレッスンの開発を行っているのである。

「2018年ハロウィンチーム」で活動するメンバーの写真

英会話スクールでも同社のような規模になると,スクール運営のバックアップに一定の組織運営が必要となってくるが,同社は,階級や上司・部下などのヒエラルキーが存在しない「ホラクラシー型」と言われる組織で,プロジェクトごとに,チームを構成して個人の裁量が大きい形でプロジェクトが実施されている。チームには,「教材開発チーム」,「新聞掲載チーム」のように継続するものもあれば,「2018年ハロウィンチーム」などのように期間限定のものもある。その都度,適材適所で構成するが,案件によってはチーム化せず個人の自由な動きに任せることもある。同社の方針に大きく関わるようなことや重大な判断が必要となる際の相談のためには「幹部チーム」がおかれている。幹部チームは代表・副代表を含む数名のスタッフで構成されているが,子育て中のパートタイマーの女性もいれば,外国人もいる。

女性や外国人が多く働いていても,責任や役割も制約されたままでは,多様な人材の「能力を活用」するには至らないだろう。「子育て中の女性」,「外国人」,「年齢」や「入社年度」という属性にとらわれず,柔軟な組織運営によりその人の能力や経験を最大限に生かす手法をとったのが,同社の「ダイバーシティ経営」である。

また,同社の事例は,地方都市を拠点にしていることが企業の使命にもつながっている点で,地方都市の中小企業にとって大きな示唆となろう。同社は,「英会話スクール」という限られた分野ではあるが,企業努力で最高の教育環境を提供できるという信念の下に事業を実施してきた。これからも事業を継続・発展させていくことが,企業としての目標であるとともに,柔軟な働き方や組織運営が前向きに受け入れられていくためにも企業として成功していくことが重要であるとしている。

1「ダイバーシティ経営」とは,「多様な人材を活かし,その能力が最大限発揮できる機会を提供することで,イノベーションを生み出し,価値創造につなげている経営」(競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会―報告書(平成30年6月)より)のこと。経済産業省は平成24(2012)年度より,ダイバーシティ経営に取り組む企業のすそ野拡大を目的に,多様な人材の能力を活かし,価値創造につなげている企業を表彰する「ダイバーシティ経営企業100選」(平成27(2015)年度からは「新・ダイバーシティ経営起業100選」)を実施している。