コラム21 溶接の仕事を目指す女性が学ぶ職業能力開発施設~「活躍する溶接女子」~

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コラム21

溶接の仕事を目指す女性が学ぶ職業能力開発施設~「活躍する溶接女子」~


(新潟県立三条テクノスクール)

金属加工や機械製造などの「ものづくり」の現場は,今も昔も男性が多い。伝統的な地場産業,特に家内工業が発展してきた産業などでは,地域の女性の主要な職場ともなってきたが,女性の仕事は,事務作業や,製造の仕事をする場合も主に軽作業や検品を中心とした工程の一部を担うという役割分担がなされていた。このため,「ものづくり」を仕事にするために学ぶ,「ものづくり」をさらに極めるために学ぶというのは,まだまだ男性が多いのが現状である。

新潟県立三条テクノスクールは,金物のまち,三条市,燕市,加茂市などを抱える新潟県県央地域に位置する職業能力開発施設である。近隣には,産業集積都市の長岡市もある。地域の職業能力開発の拠点施設として,長年,地場産業であるものづくり分野の公共職業訓練を行っている。地域のものづくり産業の特色として,薄板板金の製品製造が盛んなことなどから溶接科1が設けられているが,他のものづくり分野の職業訓練と同様に,これまで女性の受講生がほとんどいなかった。

一方で,地域のものづくりの現場には,溶接技能者の活躍の場が多くあり,団塊世代の退職などにより求人が増えているが,溶接科の受講生数は伸び悩み,地元企業の求人ニーズに応えきれておらず,ものづくり分野の潜在的な労働力を発掘する必要があった。

他方,この地域では,ものづくり分野で働く女性が他の地域に比べて多く,女性の工場等での就業に抵抗感が少ない。また地場産業の特色として,包丁や洋食器などの台所・食卓用品,ハウスウェア,宅配ボックスなどの生活雑貨といった軽量な薄板板金の製造が盛んなことから,製造工程に重労働を求めない職場が多く,さらに,機械化等による工場環境の改善もあり,女性が働きやすい環境にもある。薄板板金の溶接技術は特に繊細な感覚が必要で女性に向いているともされる。このように,女性がものづくりを学び,ものづくりの現場で活躍する素地があるといえる。

新潟県立三条テクノスクールで受講する「溶接女子」の写真

そのような中,平成28(2016)年に初めて女性の溶接科指導員が赴任したこと,「溶接女子」と打ち出しPR活動に力を入れたことなどをきっかけに女性の受講生を増やしている。それまではほとんどいなかった女性の受講者が,平成28(2016)年度は6名,平成29(2017)年度は18名と増え,年間受講者数もそれに伴い,約20名から約40名に倍増した。平成30(2018)年度は,女性受講者が8名,年間受講者数は48名となっている。

初めて赴任した女性の溶接科指導員は,学生の頃は福祉の仕事を目指しておりいったんはその関係の進学をしたが,福祉機器の製作に関心が移り,職業能力開発総合大学校に入学して機械加工を学んだ。平成24(2012)年に三条テクノスクールの指導員として採用されてからも機械加工の科目を指導していたが,溶接科も指導してはどうかという話があり,指導員としての仕事をしながら,6カ月間再度職業能力開発総合大学校に通い,溶接を学んだ。溶接を学ぶ中で,扱う金属などによって溶接の仕方が千差万別であり,作業を何度も繰り返しながらコツをつかんでいく必要があること,また技術の向上にも終わりがないことなどから,溶接の奥深さ,繊細さに魅せられたという。現在は,奥深い溶接の技術を高め,その技術を受講生に伝えていくことにやりがいを持って働くことが出来ているとのこと。技術を的確に教えていくとともに,「溶接女子」の先頭に立って女性の受講生を増やすことにより,地場産業に貢献していきたいという思いをもって,日々の指導に当たっている。

新潟県立三条テクノスクールの指導者の写真

いまや,男女問わず,受講生からも職員からも頼りにされる女性指導員であるが,当初は,家族から「女のやる仕事ではない」,「危ない」,「汚い」と言われ反対されたという。3Kのイメージが強い溶接現場であるが,実際は,機械化の進展や職場環境の改善によりそのようなイメージとは異なる職場である。三条テクノスクールでは,コンピューターを使用したものづくり(デジタルものづくり)として最先端の技術を利用した「溶接ロボット」を2台訓練に使用している。家族は,女性指導員が楽しそうに仕事をする様子を見て,今は応援してくれている。

「溶接女子」と打ち出したPR活動は,三条テクノスクール全体で取り組んでいる。体験講座やスクールの説明会の場で,女性指導員が自ら技術を披露したり,その魅力を語ったり,「実は溶接って女子向きなんです!」というキャッチフレーズを入れたチラシを作って求職者に呼びかけたりしている。また,地元産業界がお盆や年末に開催する地場産業イベントにも溶接機を持ちこんだ体験ブースを積極的に出店し,ステンレスや線材を使ったランプスタンドなど,女性目線の繊細で可愛らしいオブジェを作る体験も出来るようにして,ものづくりの新鮮なイメージを伝え,ものづくりの仕事に目を向けてもらうことにも取り組んでいる。また,受講生の確保には求職者へ職業訓練を紹介するハローワークとの連携が重要になるが,三条テクノスクールでは,ハローワークの担当者に溶接を体験してもらう機会を設けて,内容を踏まえたうえで訓練の紹介や相談対応が出来るように取り組んでいる。

指導員が女性で,女性受講者が増えると,同性がいるので入りやすかったという声も聞かれるようになった。

ケガをして仕事を休んでいた時に,女性指導員が出ている「溶接女子」のテレビ番組を見て「男の人の中で颯爽と機械を扱っていてかっこいい」と思い,体験会に申し込んだ女性がテクノスクールで溶接を学び現在は講師として働いている。指導員の場合と同じく,当初は「危ない」等の理由で周りから心配されたが,実際は3Kのイメージとは違うことや楽しく仕事をする様子が伝わり,応援する雰囲気に変わったとのことである。

また,ものづくりの現場や学びの場に女性が増えることについての受け入れ側である男性は,「女性がいることで整理整頓の意識が高くなり職場がきれいになった」,「教室が男女で切磋琢磨するような雰囲気になった」と受け止めている。受講生の数が男女とも増えていることを踏まえると,男性も含めて良い効果があったといえるだろう。人手不足感が強い分野であるので,企業からは「きちんと仕事が出来る人であれば,男女に関わらず来てほしい」という要望が多く,テクノスクールの卒業生は,即戦力として活躍できるということで求人も多い。また,実際に,女性が就職した企業からは「根気強い仕事ぶりに感心した」,「職場全体が明るくなった」という声が寄せられている。

三条テクノスクールでは,平成15(2003)年から設けられた「工業デザイン科」も女性が多い。工業デザイン科は,高卒から概ね30歳以下を対象にした2年間の訓練コースであるが,ものづくりの企画から販売までを通じて,デザインの基礎やマーケティングなどを学ぶとともに,3Dプリンタなどデジタルを活用した先端のものづくりを学ぶもので,全国的にも珍しい学科である。ものづくりの仕事は,機械を扱う現場ばかりではなく,デザインや企画のセンスが求められる仕事もあり,台所・食卓用品,生活雑貨のものづくりでは女性の感性を生かすことが出来る場面も多い。ものづくりの仕事は,男性の仕事というイメージが強いが,男女に関わらず活躍できる現場,女性の感性を生かすことが出来る現場があり,そういった仕事をしてみたいという意向を持つ女性や潜在的に適性のある女性を,ものづくりの学びにつなげていくことが重要である。

1各種溶接機,溶接ロボット等を使用して溶接,溶接作業の技能を習得するほか,プレスや磨き加工についても学ぶ。6カ月の訓練コースを年間4回開講する(1回定員15名)。