配偶者からの暴力被害者支援情報

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関連法令・制度一覧 配偶者からの暴力防止にかかわる関連法令・制度の概要

配偶者暴力防止法に関するQ&A

※本ページの情報は、令和6年4月1日から施行される配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律の一部を改正する法律(令和5年法律第30号)による改正後の情報です。

総論関係

国及び地方公共団体の責務規定の改正関係

基本方針・都道府県計画等への自立支援・多機関連携の記載義務化関係

配偶者暴力相談支援センター関係

協議会関係

保護命令の強化関係

その他

保護命令手続のデジタル化

総論関係

配偶者暴力防止法の見直しを行う理由及びその内容は何ですか。

 最近のDVに関する相談件数等は増加傾向にある中、相談内容の約6割を占める精神的DVにより心身に重大な被害が生じた例も報告されています。一方で、被害者の申立てに基づき裁判所が加害者に接近等を禁止する命令を出す保護命令の認容件数は、一貫して減少しています。
 このような状況も踏まえ、現行制度では身体に対する暴力などを受けた被害者のみを対象とする保護命令の強化や生活再建支援等の必要性が指摘されていました。
 これを受け、本改正法は、保護命令の拡充として、
 ・接近禁止命令等について、自由・名誉・財産への脅迫を受けた被害者による申立てを可能とし、精
  神への重大な危害のおそれがある場合にも拡大
 ・命令期間の伸長、電話等禁止命令等における禁止行為の拡大、子への電話等禁止命令の創設、退去
  等命令の期間の特例の創設、保護命令違反に関する罰則の加重
を行うこととしました。
 また、被害者の自立支援及び多機関連携を進める観点等から、国が定める基本方針及び都道府県基本計画の記載事項の拡充や協議会の法定化等の措置を講ずるものです。

国及び地方公共団体の責務規定の改正関係

国及び地方公共団体の責務規定を改正する趣旨は何ですか。

 被害者の自立支援は被害者の保護の重要な要素の一つです。また、配偶者暴力から逃れた後の自立への不安から泣き寝入りしている被害者も少なからずいると考えられます。
 このような状況を踏まえ、被害者の保護に「被害者の自立の支援」が含まれることを明確にする趣旨です。

基本方針・都道府県計画等への自立支援・多機関連携の記載義務化関係

多機関連携の記載義務化を行う趣旨は何ですか。

 法では、被害者の保護のための関係機関の連携協力(第9条)、民間の団体に対する援助の努力義務を定めており(第26条)、また、被害者の自立のためには、職業や住居の確保、各種の経済的支援等の制度の活用が必要になります(第3条第3項第4号参照)。また、これらに関わる機関の連携及び協力体制を平時から構築することにより、被害者の自立支援が円滑に行われることになります。このような重要性にもかかわらず、従来の規定では、関係機関の連携協力は、「その他」の事項として記載するか否かは任意とされていました。
 これらを踏まえ、基本方針及び都道府県計画の必要的記載事項に、関係機関の連携協力規定を設けるものです。

配偶者暴力相談支援センター関係

女性相談支援センター(旧婦人相談所)の一時保護の委託を受けた者について、守秘義務を課す理由は何ですか。

 一時保護時においては、所在場所の秘密の確保の必要性はもとより、その相談支援の過程で夫婦間の私生活に関わる情報など機微にわたる情報を取り扱うことが多くあります。万が一、このような所在場所の秘密や夫婦間の私生活に関わる情報など機微にわたる情報の漏えいがあった場合、当該被害者にとどまらず、他の被害者が利用をためらうなど業務に多大な支障を来すことになります。
 また、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律では、女性相談支援センターが行う一時保護の委託を受けた者について、守秘義務を課すこととなっています(同法第9条第8項)。
 これらを踏まえ、守秘義務を設け情報の漏えいを防ぐこととしたものです。

協議会関係

協議会を法定化する趣旨は何ですか。

 配偶者暴力に関する協議会については、従来、国が策定する基本方針において、連携協力の方法として、配偶者暴力相談支援センターを中心とした関係機関の協議会の設置等が有効である旨を記述していました。
 一方で、法定外の協議会の場合、守秘義務がかかっていないことから、配偶者からの暴力の防止や被害者支援の実効性を確保するためには、機微にわたる情報も含め必要な情報が関係者間で適切に共有される必要があるにもかかわらず、民間支援団体を含めた関係者間での情報のやり取りが必ずしも円滑に行える状況ではありませんでした。
 このため、構成員に守秘義務を課した上で、協議会を法定化するものです。

保護命令の強化関係

接近禁止命令等の対象について、自由、名誉又は財産に対する脅迫を追加する趣旨は何ですか。

 配偶者からの暴力は、加害者が自己への従属を強いるために用いられることが指摘されています。このような配偶者からの暴力の特殊性に鑑みると、生命や身体に対するものにとどまらず、害悪を告知することにより畏怖させる行為について広く対象にする必要があります。
このため、生命又は身体に加え、自由、名誉又は財産に対する脅迫を受けた被害者についても接近禁止命令等の申立ての対象とすることとしたものです。

 注:法第10条各項に規定する、退去等命令以外の保護命令のこと。以下同じ。

接近禁止命令等の対象となる「脅迫」の具体的な内容は何ですか。

 接近禁止命令等の対象となる「脅迫」は、「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知してする脅迫」です。これは、脅迫罪(刑法第222条第1項)と同じ文言としています。
 これまでは告知の内容となる加害の対象については、被害者の生命又は身体に対するものに限られていましたが、新たに自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知してする脅迫も対象となります。

 注:告知される害悪の内容は、一般に人を畏怖させるに足りる程度のものであることが必要です。また、害悪告知
   が人を畏怖させるに足りる程度のものであるかどうかは、害悪告知に至る経緯、加害者と被害者との関係、被
   害者の心理的状況などの個別的事情をも考慮に入れることになります。
   告知の方法は、言葉による方法、態度・動作による方法、暗示的方法や他人を介して間接的に通告する方法も
   含まれ得ます。

告知する害悪の内容は、実現することによって犯罪となるものであることを要するのですか。

 害悪の内容については、それが実現することによって犯罪となるものであることを要しないと考えられます。

権利行使(「裁判を起こす」、「・・・を請求する」など)を告げる場合は、「脅迫」に該当しますか。

 具体的な言動が接近禁止命令等の対象となる「脅迫」に該当するか否かは、個別の事案における証拠に基づき裁判所が判断することとなるものです。
 一般論としては、保護命令の対象となる身体に対する暴力等は、不法なものであることを前提としており、正当な権利の行使として行われたと認められる場合には接近禁止命令等の対象となる「脅迫」に該当せず、正当な権利の行使として行われたと認められない場合には接近禁止命令等の対象となる「脅迫」に該当し得ると考えられます。

 注:「身体に対する暴力又は生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨をしてする脅迫」のこと。
   以下同じ。

被害者が「恐怖を感じた」と言えば、「脅迫」に該当することになるのではないでしょうか。

 接近禁止命令等の対象となる「脅迫」は、一般に「人を畏怖させるに足りる程度のもの」であることが必要であり、個別具体的な事情によって判断される事柄であるため、必ずしも被害者が「恐怖を感じた」と言ったことのみをもって「脅迫」に該当すると判断されるとは限らないと考えられます。

害悪の告知は、直接伝える必要がありますか。

 害を加える旨の告知は、直接伝える必要はなく、間接的な手段(他人を介した間接的な通告など)であっても対象になり得ると考えられます。

既に自由、名誉又は財産に危害を加えている旨の告知は接近禁止命令等の対象になりますか。

 加害は未然のものであることを要し、単に過去の加害行為の告知に過ぎないときは、「脅迫」には該当しませんが、行為者の行為が将来にわたる害悪の告知と認められる場合には、「脅迫」に該当し得ます。

「脅迫」について、告知内容の加害の対象に「自由、名誉又は財産」を追加することにより、具体的にどのような行為が接近禁止命令等の対象となりますか。

 今回の改正は、配偶者からの暴力は、加害者が自己への従属を強いるために用いるという特殊性に鑑み、害悪を告知することにより畏怖させる行為として、「脅迫」を対象としたものです。具体的な言動が「脅迫」に該当するか否かは、個別の事案における証拠に基づき裁判所が判断することとなるものですが、例えば、
 ・「「言うことを聞く」と言うまで外に出さない。」などと告げるような場合(自由に対する脅迫)
 ・「性的な画像をネットで拡散する。」などと告げるような場合(名誉に対する脅迫)
 ・「キャッシュカードを取り上げる。」などと告げるような場合(財産に対する脅迫)
などが対象となり得ると考えられます。
 これらのほか、個別具体的な状況により、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨の告知と認められるものは、「脅迫」に該当し得ます。

自由に対する脅迫については、どのようなものがありますか。

 自由に対する脅迫については、例えば、刑法の脅迫罪に関し、身体・行動の自由、謝罪に関する意思の自由、職業選択の自由に関して裁判例があります。

(想定される例:いずれも個別具体的な状況により判断されます。)
 身体・行動の自由:部屋に閉じ込め、外出しようとすると怒鳴るなど
 謝罪に関する意思の自由:土下座を強制するなど
 職業選択の自由:従わなければ仕事を辞めさせると告げるなど

名誉に対する脅迫については、どのようなものがありますか。

 具体的な言動が接近禁止命令等の対象となる「脅迫」に該当するか否かは、個別の事案における証拠に基づき裁判所が判断することとなるものですが、一般論としては、例えば、性的な画像を広く流布させると告げる行為や、悪評をネットに流して攻撃すると告げる行為が名誉に対する害悪の告知と認められる場合には、「脅迫」に該当し得ます。

いわゆる経済的DVは、財産に対する脅迫に該当しますか。

 具体的な言動が接近禁止命令等の対象となる「脅迫」に該当するか否かは、個別の事案における証拠に基づき裁判所が判断することとなるものですが、一般論としては、例えば、キャッシュカードや通帳を取り上げると告げる、被害者の財産を勝手に使うと告げるなどの行為が財産に対する害悪の告知と認められる場合には、「脅迫」に該当し得ます。

性的自由に対して害を加える旨を告知した場合には、自由に対する脅迫に該当しますか。

 性的自由に対して害を加える旨の告知も自由に対する脅迫となり得ます。

同意のない性交や避妊に協力しない場合については、接近禁止命令等の対象になりますか。

 同意のない性交や避妊に協力しないことが直ちに「脅迫」に該当するものではなく、個別具体的な状況に照らし、性的自由に対し害を加える旨を告知してする脅迫か否かが判断されることになります。

夫婦間での口喧嘩も「脅迫」として扱われるのでしょうか。

 接近禁止命令等の対象となる「脅迫」に該当するか否かは、個別具体的な状況に照らして判断されるものですが、
 ・「脅迫」は、一般に「人を畏怖させるに足りる程度」のものであることが必要であること
 ・接近禁止命令等が発令されるには更なる身体に対する暴力等により、その生命又は心身に重大な危
  害を受けるおそれが大きいことを要件としていること
から、このような要件を満たさない場合には、対象とはなりません。

相手が不貞行為を行った場合や挑発した場合など相手に原因があって「脅迫」が行われた場合には、どうなりますか。

 例えば、突発的に「脅迫」に該当する行為が行われた場合であっても、更なる身体に対する暴力等により心身に重大な危害が生じるおそれが大きいとは認められない場合には、要件を満たしません。
 一方で、配偶者から身体に対する暴力等を受けた者について、更なる身体に対する暴力等により、心身に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、その原因を問わず生命・心身を保護する必要があることから、接近禁止命令等が発令されることになります。

「身体に重大な危害を受けるおそれ」を「心身に重大な危害を受けるおそれ」に改正する趣旨は何ですか。

 「身体に重大な危害」との規定では、裁判実務において、精神のみについて害が生じた場合について対象と判断されないおそれがあります。このため、自由、名誉又は財産に対する脅迫を受けた者を接近禁止命令等の対象に追加することに伴い、「身体」を「心身」に改め、「心身に重大な危害」とするものです。

 注:「心身」とは、「身体及び精神」であり、「重大な危害」とは、少なくとも通院加療を要する程度の危害をい
   います。

「「心(精神)」への重大な危害を受けるおそれが大きい」の具体的な内容は何ですか。

 「心身に重大な危害」とは、少なくとも通院加療を要する程度の危害であり、このうち、「心(精神)」への重大な危害としては、うつ病、心的外傷後ストレス(PTSD)、適応障害、不安障害、身体化障害(以下「うつ病等」という。)が考えられます。
 配偶者等から身体に対する暴力等を受けたことにより、これらのうつ病等の通院加療を要する症状が出ており、配偶者等から更なる身体に対する暴力等を受けるおそれがある場合には、基本的に、「重大な危害を受けるおそれが大きい」と考えられます。
 迅速な裁判(第13条)の観点からは、上述の「うつ病等の通院加療を要する症状が出て」いるという事実を立証するため、申立ての際に、うつ病等の診断書を添付することが必要になります。

 注:なお、接近禁止命令等の申立てをする際には、診断書の添付とは別に、身体に対する暴力等を受けたこと、配
   偶者からの暴力とうつ病等の因果関係、更なる身体に対する暴力等を受けるおそれが大きいこと等の接近禁止
   命令等の要件について、主張・立証が必要となります。

単に被害者の気分がめいっている場合についても該当するのでしょうか。

 接近禁止命令等の要件において、更なる身体に対する暴力等により心身に重大な危害を受けるおそれが大きいことを求めており、「被害者の気分がめいっている場合」であっても、うつ病等で通院加療を要するものと認められないときは、接近禁止命令等が発令される場合には該当しないものと考えられます。

「脅迫」によりうつ病等(うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、適応障害、不安障害、身体化障害)の症状となった場合に、仕事や家庭(DV以外の子育て・介護等)にも要因がある場合には、接近禁止命令等が認められないのですか。

 身体に対する暴力等を受けた者が、配偶者からの更なる身体に対する暴力等により、その心身に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、接近禁止命令等が認められることになります。
 お尋ねの場合には、脅迫行為及び他の要因の内容・程度等の立証により、被害者がうつ病等に至った要因として配偶者からの身体に対する暴力等以外のものがなかったとしても、配偶者からの身体に対する暴力等によりうつ病等の症状で通院加療を要するものになったといえるときであって、かつ、更なる身体に対する暴力等を受けるおそれが大きいときは、接近禁止命令等が認められ得ることになります。

うつ病等(うつ病、PTSD、適応障害、不安障害、身体化障害)の診断書が必要とされる理由は何ですか。

 うつ病等の診断書がない場合には、個別の事件ごとに医学的な専門知識を踏まえつつ、被害者の状態などの争点を整理しながら、裁判所において「重大な危害を受けるおそれが大きい」ことの有無について判断していかねばならず、迅速な裁判に支障を来すことになります。
 このため、迅速な裁判(第13条)の観点からは、うつ病等の通院加療を要する症状が出ている事実を立証するため、申立ての際に、うつ病等の診断書を添付することが必要になります。
 なお、接近禁止命令等が発令されるかどうかは、証拠に基づき裁判所が判断することになります。

接近禁止命令について、期間を延長するのはなぜですか。また、1年では足りない場合にはどうするのですか。

 被害者への接近禁止命令の有効期間は、命令の申立ての理由となった状況が鎮まるまでの期間として設けられています。今般の見直しに当たり、内閣府において調査を行ったところ、半年を経てもなお加害者からの危害や脅迫等を受けるおそれが相当程度に上る状況にあったことから、6月を1年に延長するものです。
 また、再度の申立てが可能であり、1年を超える接近禁止命令等が必要である場合には、再度の申立てに基づき判断されることになります。

子への接近禁止命令・子への電話等禁止命令について、取消し制度を設ける理由は何ですか。また、「要件を欠くに至った」としては、具体的にどのようなものが考えられますか。

 子への接近禁止命令及び子への電話等禁止命令の期間について1年とすることにより、従来よりも長期にわたることから、その間に養育環境等の変化により、当該命令の要件を欠くことが生じ得ます。
 このような場合に命令を受けた者にとっての制約が過剰となることを避けるため、接近禁止命令の発令から6か月以降等の期間を設けた上で、申立てにより、子への接近禁止命令及び子への電話等禁止命令を取り消す仕組みを設けるものです。
 また、子への接近禁止命令や子への電話等禁止命令の要件は、
 ①被害者について接近禁止命令の要件(既に暴行・脅迫を受けており、更なる暴行・脅迫により生命
  ・心身に重大な危害を受けるおそれが大きいこと)を満たしていること
 ②被害者が成年に達しない子と同居していること
 ③被害者が、その同居している子に関して配偶者(加害者)と面会することを余儀なくされることを
  防止するため必要があること
 ④子が15歳以上の場合は、当該子の同意があること
です。
 「要件を欠くに至った」としては、命令の発令後に、例えば、
 ・被害者と子が同居しなくなった場合(諸般の事情により、被害者の子が命令を受けた者の実の両親
  と同居するなど)
 ・15歳以上の子が命令の維持を望まなくなった(取消しを望んだ)場合
が考えられます。

退去等命令の期間について、例外的に6月を設けるのはなぜですか。

 退去等命令については、被害者保護の要請と相手配偶者の権利制約の度合いを利益衡量した上で、期間が設けられています。
 この点、同居していた建物が、被害者が単独で所有又は賃借するものである場合は、被害者が退去せざるを得ないとした場合に被害者の権利の制約が大きい一方で、相手配偶者の居住の自由や財産権の制約の程度が小さいと考えられます。このため、同居していた建物が、被害者が単独で所有又は貸借するものである場合については、申出により、退去等命令期間を6月とするものです。

所有関係や賃借関係をどのように証明するのですか。

 例えば、土地の登記簿(所有関係)や賃貸借契約書(賃借関係)が考えられます。

土地は被害者、建物は相手配偶者が所有又は賃借する場合には、どうなるのですか。

 本要件については、被害者が居住する建物が単独で所有又は賃借するものであることとしており、建物を所有・賃借する者が被害者でない場合には、該当しません。

賃料を支払わずに借りている場合(使用貸借)は、退去等命令の期間を6か月とする対象にならないのですか。

 使用借人については、経済的負担などの面で所有権者や賃借権者と異なると考えられます。
 また、使用貸借については、口約束であることが多く、契約関係をめぐって争いになった場合、迅速な裁判に支障を来すことになります。
 このため、使用貸借については、対象とはしていません。

電話等禁止命令における禁止行為の追加の趣旨及び内容は何ですか。

 第10条第2項各号に列記されている行為(電話等禁止命令の対象行為)は、当該行為が行われた場合、「恐怖心等から、被害者が配偶者の元に戻らざるをえなくなったり、要求に応じて接触せざるをえなくなったりして、生命・身体への危険が高まる」ことから設けられたものです。今般、従来の規制対象である連絡手段・通信手段の代替手段やデジタル化の進展に伴って生じてきた新たな行為について、従来の規制対象と同様に被害者に危険をもたらし得ることから、追加を行うものです。
 具体的には、
 ①緊急やむを得ない場合を除き、連続して、文書の送付又はSNS等の送信を行うこと
 ②緊急やむを得ない場合を除き、午後十時から午前六時までの間に、SNS等の送信を行うこと
 ③性的羞恥心を害する電磁的記録を送信等すること
 ④被害者の承諾を得ないでGPSを用いて位置情報を取得すること
を追加しています。

 注:「文書の送付を行うこと」の「文書」については、具体的には、手紙、封書及びはがきのほか、相手方の氏名
   のみ記載されており便箋等が入っていない封筒等も含まれ得ます。
   「SNS等の送信を行うこと」については、第10条第2項第4号及び第5号の規定における「電子メールの送
   信等」について同条第6項に規定しており、従来から禁止行為であった「電子メールを送信すること」に加
   え、いわゆるSNSのメッセージ機能等を利用した電気通信等が該当することとなります。
   「被害者の承諾を得ないでGPSを用いて位置情報を取得すること」については、①承諾を得ない位置情報の
   取得(第10条第2項第9号)及び②承諾を得ないGPS機器等の取り付け等(同項第10号)であり、具体的な
   装置や方法等については、政令(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律施行令(令和5年
   政令第237号))に定めています。

緊急時以外の連続した電話等について、「連続して」とは、具体的にどのように判断されるのですか。

 「連続して」とは、短時間や短期間に何度もという意味です。具体的には、電話やファクシミリ装置、SNS等の連絡手段やそれにより送信した回数や間隔など個々の事案により判断されることとなります。

子への電話等禁止命令の趣旨は何ですか。

 保護命令は、被害者が更なる被害を受けることを防ぐため、退去等命令、被害者への接近禁止命令に加え、接近禁止命令の効果の減殺を防ぐ観点から、
 ①被害者への電話等禁止命令
 ②子(被害者が同居する成年に達しない子)への接近禁止命令
 ③親族等への接近禁止命令
が設けられています。
 このうち、①被害者への電話等禁止命令は、被害者への接近禁止命令が発令され、又は発令されている状況であるにもかかわらず、被害者に対して一定の面会の要求、電話をかけて何も告げないなどの第10条第2項各号に列記されている行為が行われている場合には、恐怖心等から被害者が配偶者の元に戻らざるを得なくなることや要求に応じて接触せざるを得なくなり、生命・身体への危険が高まることから、②子への接近禁止命令は、被害者がその同居している子に関して配偶者との面会を余儀なくされる場合に被害者への接近禁止命令の効果が減殺されることを防止するため、設けられています。
 今般新設する子への電話等禁止命令は、被害者が既に配偶者から暴行・脅迫を受けており、更なる暴行・脅迫により生命・心身に重大な危害を受けるおそれが大きいという接近禁止命令等が出される状況にもかかわらず、子に対して緊急時以外の連続した電話などの命令で禁止される行為が行われた場合には、
 ・(本人(被害者)が、自らへのDV被害と相まって)「戻らないといつまでも嫌がらせをされるの
  ではないか」、「もっと怖い目に遭わされるのではないか」などといった恐怖心等から、被害者が
  配偶者の下へ戻らざるを得なくなったり、要求に応じて面会(接触)せざるを得なくなること
 ・(子が恐怖を抱くこと等により)子が配偶者の下に戻った場合に、被害者自ら配偶者に会いに行か
  ざるを得なくなること
があり得ることから、子への接近禁止命令とあわせて、被害者への接近禁止命令の実効性を確保するため設けるものです。

子への電話等禁止命令について、被害者への電話等禁止命令と禁止行為が異なるのはなぜですか。

 新設する子への電話等禁止命令の趣旨は、被害者が配偶者と面会せざるを得なくなり、被害者への接近禁止命令の効果が減殺されることを防ぎ、子への接近禁止命令とあわせて被害者への接近禁止命令の実効性を確保するため設けるものです。このような観点から、
 ・行為の内容それ自体が一般に恐怖等を感じさせる行為として、第2項第3号(著しく粗野乱暴な
  言動)、第6号(汚物の送付等)、第7号・第8号(名誉や性的羞恥心を害する事項の告知
  等)を、
 ・同居している未成年の子に対するものであるという事情を踏まえ、子への危害等を想起させる行為
  である第2号(行動監視等)、第4号(無言電話や緊急時以外の連続した電話等)、第9号・
  10号(位置情報の無承諾取得)
を対象としています。
 また、第5号(緊急時以外の深夜早朝の電話等)については、その内容を問わないものですが、被害者が子と同居していることを踏まえ、被害者が容易に認識し恐怖を感じる電話やファックス送信を対象としています。

子への接近禁止命令が発令され、子への電話等禁止命令が発令されない場合がありますか。

 子への接近禁止命令と子への電話等禁止命令は、いずれも、被害者が同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するために必要があること等を要件としており、両方の命令が発令されるには、どちらも要件を満たしている必要があります。
 このため、二つの命令の両方が申し立てられた場合において、子への接近禁止命令の発令の要件を満たすと判断されるとしても、子への電話等禁止命令については、当該命令の必要性が具体的事実に基づき判断されることになります。
 なお、どちらかの命令のみを申し立てることは可能です。

保護命令違反の罰則の加重の趣旨及び内容は何ですか。

 配偶者暴力については、生命や身体に限らず、精神的・心理的にも被害者に甚大な悪影響をもたらすものであり、個人の尊厳を害する行為であり、配偶者からの暴力の現状をみると、
 ・配偶者暴力相談支援センターや警察への相談件数が近年増加傾向にある
 ・DV被害女性の7.5%が復讐をおそれて配偶者と別れないなど、DV行為の再発や復讐のおそれがあ
  るなどの理由で、事件化に消極となる状況も見受けられる
という状況にあります。
 特に、保護命令は、被害者の生命等に重大な危害を受けるおそれが大きい場合に発令されるものです。また、保護命令違反も令和4年中は46件発生しています。
 このような状況を踏まえ、法益侵害の大きさを反映するよう罰則を引上げ、加害者に配偶者暴力を行わないようにする旨の心理的抑制を機能させる等の必要があることから、罰則の加重を行うものです。
 具体的には、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金を2年以下の懲役又は200万円以下の罰金としています。

その他

配偶者暴力防止法第20条を削除する理由は何ですか。

 配偶者暴力防止法第20条は、公証人がいない場合等に法務事務官に公証人に代わって宣誓供述書の認証を行わせることができる旨を定めていましたが、公証人法第8条にも同様の規定が設けられています。
 立法時は、配偶者暴力防止法の認証のみについて行わせることができることを明確にするためにあえて本規定が設けられましたが、既に多数の支局(80か所)において法務事務官による認証を取り扱う指定がされているなど定着しており、また、法制的にも公証人法第8条の規定により対応できることから、削除を行うものです。
 配偶者暴力防止法の認証に関して広く対象支局を指定するという改正前の運用は、改正後も変わりません。

保護命令手続のデジタル化

保護命令手続のデジタル化の内容及びその実施時期はどのようなものですか。

 保護命令手続のデジタル化は、多岐にわたりますが、その内容に応じて、施行に必要となる準備が異なることから順次実施することとしています。
まず、保護命令手続における映像と音声の送受信による通話の方法による口頭弁論(新民事訴訟法注1第87条の2)等については、裁判所において新たなシステム構築を要するものではないことから、全面的なデジタル化に先行した時期、具体的には、民事訴訟法改正法の施行日注2以降に実施することが可能となります注3
 注1:「新民事訴訟法」とは、民事訴訟手続のデジタル化に関する民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4
    年法律第48号)(以下「民事訴訟法改正法」といいます。)による改正後の民事訴訟法
 注2:令和8年5月24日まで(具体的な施行日は今後決定)
 注3:保護命令手続は、配偶者暴力防止法に特段の定めがある場合を除き、その性質に反しない限り、民事訴訟
    法の規定を準用することとされているところ(第21条)、本法律では、注2の民事訴訟法改正法の施行日か
    ら下記3の民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律
    (令和5年法律第53号)の施行日までの間、新たなシステム構築を要する新民事訴訟法の規定の準用を除外
    し、さらに、民事訴訟法改正法による改正前の民事訴訟法に基づく手続にならった手続となるよう規定を
    整備しています。

 次に、保護命令手続の全面的なデジタル化(インターネットを利用した申立て(新民事訴訟法第132条の10)、決定書の電子化、電子化された事件記録の閲覧(電磁的事件記録等の閲覧)など)については、新たなシステムの構築等が必要となり、その準備に時間を要することが見込まれることから、民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律において規定を整備し、同法の施行日に実施することとしています。

 注:令和10年6月14日まで(具体的な施行日は今後決定)