第3節 社会人の学び

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第3節 社会人の学び

1 仕事のための学び

「多様な選択を可能にする学びに関する調査」によると,女性にとって望ましい結婚や就業の在り方について,「結婚し,子どもを持つが,仕事も続ける」の割合が43.0%,「結婚し子どもを持つが,結婚あるいは出産の機会にいったん退職し,子育て後に再び仕事を持つ」の割合が36.0%となっている。性別及び年代別に見ると,男女のいずれの世代も,この2つで7~8割を占めている(I-特-28図)。そこで,女性にとっての仕事のための学びについて,企業で仕事を続けていく場合の学びと,子育て等によりいったん退職して再就職する場合の学びに分けて見てみることとする。

I-特-28図 女性にとって望ましい結婚や就業の在り方別ウインドウで開きます
I-特-28図 女性にとって望ましい結婚や就業の在り方

I-特-28図[CSV形式:1KB]CSVファイル

また,女性が仕事を続けたり子育て後に再び仕事を持つ方法としては起業することも考えられるところ,起業のための学びについても概観する。

(1)企業における学び

「多様な選択を可能にする学びに関する調査」によると現在の仕事に必要な知識・技能は,男女共に約8割の人が,仕事をする中で身に付けたとしており,勤め先において得られる学びが果たす役割が大きいことがうかがわれる(I-特-29図)。

I-特-29図 仕事に必要な知識・技能をどのようにして得たか別ウインドウで開きます
I-特-29図 仕事に必要な知識・技能をどのようにして得たか

I-特-29図[CSV形式:1KB]CSVファイル

企業における研修34の受講状況について厚生労働省「能力開発基本調査」(平成30年度)により見ると,女性の場合,正社員で37.2%(男性は48.9%),正社員以外では16.4%(男性は22.7%)となっている。

勤め先企業における研修が研修内容ごとにどの程度実施されているかを見ると,全ての項目について女性が男性より低い水準となっている(I-特-30図)。また,OJT(Onthe-Job Training)35の実施率を国際的に見ると,我が国では,男性と比較し,女性のOJTの実施率が低く,OECD平均を大きく下回っている36

I-特-30図 勤め先企業における教育訓練の適用状況(正社員)別ウインドウで開きます
I-特-30図 勤め先企業における教育訓練の適用状況(正社員)

I-特-30図[CSV形式:1KB]CSVファイル

34業務命令に基づき,通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練(研修)。

35OECD「国際成人力調査(PIAAC)」の調査では「この1年間に,実践研修(OJT)や上司または同僚による研修に参加したことがあるか」といった設問となっており,「実践研修」については「通常の仕事で使用する道具などを用いて,計画的に一定期間行われる研修,指導,実践」としている(本調査の調査票による。)。

36OJTの実施率の国際比較については,平成30年版「労働経済の分析」86頁参照。我が国は男性が50.7%,女性が45.5%となっており,OECD諸国と比較すると,男性が4.4%ポイント,女性が11.5%ポイント低くなっている。特に,女性においてOECD平均との乖離幅が大きい。

(企業における学びの充実に向けて)

企業における人材育成は,正社員・正職員が中心となっているところ,若い世代の女性の非正規雇用労働者の割合は男性より高く(I-2-7図参照別ウインドウで開きます),非正規で就職することにより多くの女性にとって初期の段階から企業における学びの機会が限られているという問題がある。

役職別研修など管理職の育成については,我が国の管理的職業従事者に占める女性の割合が低い現状において(I-2-14図参照別ウインドウで開きます),男性と比較して管理職として育成される対象者の数がそもそも少ないという問題がある。これについては,管理職育成や中核的人材の育成を始めるタイミングが出産・子育てのピークに重なっており,育児や家事の負担が女性に偏在している我が国においては(I-3-10図参照別ウインドウで開きますI-3-11図参照別ウインドウで開きます),女性が出産・子育て等による勤務形態の制約等により管理職に必要とされている経験を積めないといった本人の能力等に関わらない要因によるものもあるのではないかといった指摘37もなされている。

女性が企業における学びを通じて能力を高めていくためには,働き方の多様化に応じたきめ細かな雇用管理や研修・人材育成のためのマネジメントに着実に取り組んでいくことが重要である。

また,就業者に占める女性割合が高い産業について見ても,管理職に占める女性割合は,必ずしも高いものとなっておらず38,キャリアアップの機会が充実しているとは言えない状況にあるが,こうした女性就業者割合が高い産業から,女性の企業における学びの機会を充実させて中核的人材を育成していく試みが増えていくことも,諸外国と比較して管理的職業従事者における男女差が顕著な状況が改善されていく一歩になるのではないかと考えられる。

37独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究報告書No.192(2017年3月)「育児・介護と職業キャリア―女性活躍と男性の家庭生活―」

38総務省「労働力調査」(平成30年)によると,就業者の女性割合が高い産業は「医療,福祉」75.5%,「宿泊業,飲食サービス業」62.5%,「生活関連サービス業,娯楽業」60.2%,「教育,学習支援業」57.9%,「金融業,保険業」54.0%となっている。これらの産業の管理的職業従事者の女性割合は,「医療,福祉」33.3%,「宿泊業,飲食サービス業」25.0%,「生活関連サービス業,娯楽業」25.0%,「教育,学習支援業」33.3%,「金融業,保険業」0.0%となっている。なお,小数点第2位を四捨五入して算出している。

コラム7 柔軟なキャリアパスの支援による多様な働き方の創出の取組

コラム8 「生命保険業界の取組~女性管理職登用プロセスの確立,退職時の役職での再雇用」

コラム9 「若手社員に基幹事業を任せ,次期管理職としての育成に繋げる」

コラム10 男性保育士が活躍している保育園~「保育園をめぐる課題,世の中の課題を解決するために取り組んで来たら,男性保育士が増えてきた」~

(2)再就職に当たっての学び直し

女性の場合,男性と比較すると,若いうちから転職を経験している人が多い39。平成26年に実施された調査40( 以下「出産・育児等を機に離職した女性の再就職調査」とする。)によると,出産・育児等を機に離職した仕事は,正社員であった者の約半数,非正社員であった者の約6割が初職ではなかったとしており,出産・育児等のライフイベントを迎える以前にライフイベントを理由としない転職を経験している人も少なくないことがうかがわれる。

また,第一子出産に際し就業を継続する女性の割合は増えているものの,2人に1人は離職しており(I-3-8図参照別ウインドウで開きます),いわゆるM字カーブの左右のピークが「25~29歳」と「40~44歳」,「45~49歳」になっていることに照らすと(I-2-3図参照別ウインドウで開きます),出産・育児等のブランクを経て再就職をすることは女性の就業パターンの一つとなっている。

(再就職に当たっての学び直しの充実に向けて)

女性の就職希望は,正規雇用・非正規雇用を問わず,事務的職業が最も多いが,事務的職業は慢性的に求職超過の程度が最も大きい職業である41。離職中の女性の場合,過去に経験のある業種,職種,生活に身近でイメージしやすいサービス業や一般事務に再就職先を限定してしまい,自ら選択肢を狭めてしまっていることも考えられる。

労働市場を踏まえ,社会に求められている多様な職種や業種について知り,選択肢を広げる学びが重要である。

出産・育児等によって就業にブランクのある女性について見ると,働くこと自体に対する不安が大きく,就業を希望しながらも再就職活動になかなか踏み出せないという状況もある。「出産・育児等を機に離職した女性の再就職調査」によると,再就職の際にキャリアや自分の能力を生かすことについてどう思っていたかを見ると,離職の時点で,正社員であった者の約半数,非正社員であった者の6割前後が難しいと思っていたと答えている。

また,出産・育児等によるブランクのある女性は,離職中の子育て等の経験や地域活動はキャリアにつながらず仕事に役に立つことはないと考えてしまいがちであり,自尊感情が低いことが働くことに対する不安の強さにつながっていることも考えられる。

こうしたケースでは,仕事に直結するスキルアップのための学びの前に,不安を取り除き自己肯定感を高めて仕事に就くことを後押しする学びが必要である。

一方,離職中の子育て等の経験や地域活動は,仕事をしていく上でも必要なコミュニケーション能力,調整力,継続力を高めることにもつながり,キャリア形成の基盤ともなる。このため,子育てや地域活動も含めた経験の中から適性を発見したり,自分が置かれている状況を見つめて,子育て後の人生も含めたライフプラン(人生設計)を考えるなどの学びも重要である。

また,出産・育児のために離職した女性の中には,離職前に企業の基幹的業務を担うなど職務経験が豊富で仕事に対して高い意欲を持つ層があり,高学歴化や晩産化等により,こうした層の厚みが増している。「出産・育児等を機に離職した女性の再就職調査」によると,離職前の仕事にやりがいを感じていた女性は,離職した時点においても早い時期に再就職することを希望する傾向が強く,社会との関わりを持ち社会の役に立ちたい,自分の技術や能力や勉強したことを社会で活かしたいなどの動機で再就職を希望する人が多かった。企業が必要とする一定の専門性,経験が必要とされる人材に必要な資質を潜在的に有している層とも考えられ,こうした層の特性に応じた学び直しの機会も重要である。

コラム11 「離職した女性の再就職を伴走型で支援する」

39リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2018」により,正規の職員・従業員の退職回数を見ると,「退職回数0回」の人は,女性の場合,25~34歳で52.9%(男性は57.3%),35~44歳で34.7%(男性は44.4%)となっている。

40「出産・育児等を機に離職した女性の再就職等に係る調査研究事業」(平成26年度厚生労働省委託事業・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)。出産・育児等を機に離職しその後再就職した女性(既婚,子どもあり,末子が小学校6年生以下)を対象にしている。

41平成30年版「労働経済の分析」第1-(2)-10図では,求人,求職の分布の差を職業分類別に「職業間ミスマッチ指標」として算出しており,事務的職業は,求人に対する求職が最も多い職業になっている。また,第1-(2)-11図では,2017年の有効求職者が希望する職業について,女性は事務的職業が最も多く,正社員を希望する者のうちの51.0%,パート労働者を希望する者のうちの27.8%を占めている。

(3)起業のための学び

近年,起業家に占める女性の割合は3割強で推移している(I-2-15図参照別ウインドウで開きます)が,フリーランスやクラウドソーシングを利用した働き方など雇用関係によらない働き方も注目されるようになっている42

実際にも女性が働き方の一つとして起業を考えるようになっているものの,なかなか起業にまで至っていない43。女性が起業に至っていない理由としては,男性に比べて起業の具体的なイメージが十分にできておらず,起業に必要な専門知識や経営知識も不足しているために起業準備が行えていないことが指摘されている44

また,起業希望者や実際に開業の準備をしている者が起業に関心を持ったきっかけとしては,男女ともに,59歳以下の年齢層では「周囲の起業家・経営者の影響」が,60歳以上の世代では「時間的な余裕が出来た」とする回答の割合が最も高いが,女性の場合は,次いで「家庭環境の変化」とする回答の割合が高い45。女性の起業希望者は,男性と比較すると,いずれの世代についても結婚・出産・介護等といった家庭環境の変化により起業に関心を持つ傾向にある。出産や育児等の経験により気づいた社会問題等に対する問題意識が起点となるケースや,出産や育児等,配偶者の転勤等のライフイベントにより企業に勤めるという選択肢と比較した上で自ら事業主となることを選ぶケースが考えられる。

一方,「女性起業家等実態調査」46によると,ここ数年で,女性の起業の特徴とされてきた「趣味や特技を生かしたかった」という理由が減少し,「収入を増やしたかった」,「事業経営という仕事に興味があった」が増加しており,よりビジネス志向の起業希望者の増加がうかがわれ,女性の起業理由が多様化している。

(起業のための学びの充実に向けて)

従来の起業支援で中心的な役割を果たしているのはビジネススキルの習得支援,法制度・手続きの支援,融資などの経営的支援といった起業準備以降の支援であるが,起業を希望する女性が具体的なイメージを持って起業に向けた行動を起こすことができるようになるためには,先輩起業家からの学び,やりたいことやアイデアを引きだす学びや事業化体験の場といった学びの機会が求められている。

特に,ライフイベントにより企業に勤めるという選択肢と比較した上で起業を考えるケースでは,「どのようなビジネスを実現したいか」の前に「どのように働きたいか」,「何をしたいか」を明確にする段階が必要になってくる。こうした場合には,地方自治体や男女共同参画センターなど生活に身近な場で,ライフプラン(生活設計)を考えながら起業を準備する学びを提供することも有益である。

一方,女性の起業希望の多様化を踏まえると,「事業経営に挑戦したい」,「ビジネスを展開していきたい」という女性のニーズに合った学びも重要である。後述する「職業実践力育成プログラム」((4)3参照)においては,起業を対象としたプログラムを提供している事例もあり(コラム14参照),女性起業家に特有の課題も踏まえつつ,ビジネススキルを習得できる学びを提供することが有益である。

コラム12 「カフェ開業のための実践的な学び」

42経済産業省「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書(平成29年3月),厚生労働省「雇用類似の働き方に関する検討会」報告書(平成30年3月)参照。

43平成29年版「中小企業白書」93頁参照。「1997年以降,女性の起業希望者割合が増加傾向にある一方で,全体の起業家に占める女性起業家の割合は,1997年以降減少傾向にある」としている。

44平成29年版「中小企業白書」125頁参照。

45平成29年版「中小企業白書」第2-1-19図参照。

46「女性起業家等実態調査」(平成27年度産業経済研究委託事業・EYアドバイザリー株式会社)

(4)社会人の学び直しの場

(1)~(3)で見たとおり,同じ職場で仕事を続けていく場合でも,再就職あるいは起業する場合でも,中長期的な視点で仕事を充実させていくために学びが重要となっているが,社会人が仕事等から離れ学びの場に身を置いて学び直すことは身近ではない。

内閣府「生涯学習に関する世論調査」(平成30年)によると,社会人になった後も,学校(大学,大学院,短期大学,専門学校など)で学んだことがある(学んでいる)人は19.3%,(学習したことはないが)今後は学習してみたいという人は17.0%となっている。

また,社会人が大学等において教育を受ける割合について,OECD諸国と比較してみると,最も低い水準にとどまっている47

しかしながら,経済・社会の急速な変化に応じて,職場や働き方の在り方が様変わりしている中で,生涯を通じて社会で活躍するためには,若年期に大学等の高等教育機関において身に着けた能力だけでは不十分な場合もあり,社会に出た後も学び続けること,すなわちリカレント教育48の必要性はますます高まっている。

このため,ここでは,社会人にとって学び直しのために必要なことを把握した上で,学び直しの「場」に着目して,社会人の学び直しにはどのような場があるのか,学び直しのニーズ等に応じてどのような取組がなされているかを取り上げる。

1学び直しのために必要なこと

「多様な選択を可能にする学びに関する調査」により,仕事のための学びに必要なことについて見ると,女性は「経済的な支援があること」が最も多く,次いで,30代は「家事・育児・介護などにかかる負担が少なくなること」,それ以外の世代は「仕事にかかる負担が少なくなること」となっている。一方,男性は「仕事にかかる負担が少なくなること」が最も多く,次いで「経済的な支援があること」となっている。

同じ項目を男女で比較すると,いずれの世代も「家事・育児・介護などにかかる負担が少なくなること」の男女差が大きい(I-特-31図)。

I-特-31図 仕事のための学びに必要なこと別ウインドウで開きます
I-特-31図 仕事のための学びに必要なこと

I-特-31図[CSV形式:2KB]CSVファイル

仕事のための学びに必要なことと,子供の有無や年齢との関係を見ると,末子が小学校就学前の女性は「家事・育児・介護などにかかる負担が少なくなること」が最も多く48.4%となっている。これは同じく末子が小学校就学前の男性の約3倍であり,家事・育児等の負担が女性に偏っていることが,特に小さい子供がいる女性にとっての学び直しのハードルになっていることが明らかである(I-特-32図)。

I-特-32図 仕事のための学びに必要なこと(子供の有無・末子の年齢別)別ウインドウで開きます
I-特-32図 仕事のための学びに必要なこと(子供の有無・末子の年齢別)

I-特-32図[CSV形式:2KB]CSVファイル

47平成30年版「労働経済の分析」第2-(4)-29図によると,社会人が大学等において教育を受けている割合について,OECD平均は10.9%となっており,オーストラリアや米国,カナダなどが平均を上回っている一方で,我が国は2.4%と,平均よりも8.5%ポイント低く,OECD諸国の中で最も低くなっている。

48OECDが1973年に取りまとめた報告書「リカレント教育―生涯学習のための戦略―」によると,リカレント教育は生涯学習を実現するために行われる義務教育以後の包括的な教育戦略であり,その特徴は,青少年期という人生の初期に集中していた教育を,個人の全生涯にわたって,労働,余暇など他の諸活動と交互に行う形で分散させることであるとされている。

2社会人学生の学び直しの場の現状

(大学等で学び直すのは現在の仕事のためが多い)

大学等における社会人学生の状況を平成27(2015)年度に実施された調査49(以下「社会人の大学等における学び直しの実態把握に関する調査研究」という。)で見ると,社会人学生全体の69.0%がフルタイムで働いており,パート・アルバイトも含めると仕事に就いている者が8割である。

業種では,女性は「医療・福祉」,「教育・学習支援業」の割合が,男性では「製造業」の割合が高い。また職業は,男性は「会社員」が半数であるが,女性では1番多いのが専門職(26.9%)で,会社員は21.6%となっている。

学び直しの目的は男女ともに「現在の職務を支える広い知見・視野を得るため」が最も多く,その他にも現在の職務に生かすことを目的としているものが多い(I-特-33図)。このため,社会人学生が学んでいる専攻分野は,現在勤めている職場の業種と関連するものとなり,女性は「保健」が多く24.7%,男性は「工学」が多く24.4%となっている。

I-特-33図 社会人学生の学び直しの目的別ウインドウで開きます
I-特-33図 社会人学生の学び直しの目的

I-特-33図[CSV形式:1KB]CSVファイル

学び直しに対する満足度に男女の差はほとんどなく,全体の60.9%が「とても良い」,33.3%が「まあまあ良い」と回答している。

49「社会人の大学等における学び直しの実態把握に関する調査研究」(平成27年度文部科学省委託事業・イノベーション・デザイン&テクノロジーズ(株))

(職業訓練・教育訓練は,求職や資格取得のための学びを提供)

社会人が仕事のために学ぶ場として,行政が実施する職業訓練・教育訓練があるが,現行制度としては,求職者が受講する公共職業訓練・求職者支援訓練50と,在職者や一定の離職者が受講する教育訓練給付51の制度がある。公共職業訓練・求職者支援訓練は,早期就職に必要な基礎力,実践的な能力のための訓練を,行政があっせんして公費負担で受けるものである。これに対して,教育訓練給付は,働く人の主体的な能力開発の取組又は中長期的なキャリア形成を支援し,雇用の安定と就職の促進を図ることを目的とし,訓練受講費用の一部について雇用保険制度により給付金が支給されるものである。

3リカレント教育推進のための課題・取組

(社会全体でリカレント教育の推進を)

「社会人の大学等における学び直しの実態把握に関する調査研究」によると大学等における社会人学生の「職場への希望」は,男女問わず「大学等へ通って卒業資格を得たものを評価する仕組みを作る」が最も高い(46.6%)。次いで学習しやすいフレキシブルな労働時間とすることが挙げられている(41.5%)。

一方,企業の8割が外部教育機関として民間の教育訓練機関(専門学校や研修・社員教育のコンサルティング会社)を活用しており,大学を活用する企業はわずかである。大学を活用しない理由としては「大学を活用する発想がそもそもなかった」,「大学でどのようなプログラムを提供しているか分からない」とする回答が上位であった。

また,大学等での学び直しを経験したことがない社会人の多くが,大学で学び直す際の障害要因として,「費用が高すぎる」(37.7%),「1年未満の短期間で学べる教育プログラムが少ない」(8.7%)を挙げている。

このため,大学等でのリカレント教育を進めていくためには,企業はもとより,社会全体で,社会人が大学等で学ぶことを応援し,受講者や企業にとっての具体的なインセンティブも示しつつ,学んで知識やスキルを身に付けたことを評価する社会にしていくことが重要である。

学び直しに関する情報を的確にかつ容易に得ることが出来る環境を整えていくことも重要である。「多様な選択を可能にする学びに関する調査」においては,社会人の学び直しのための機会や方法についての認知度は,1番高いものでも3割程度であった(I-特-34図)。また,内閣府「教育・生涯学習に関する世論調査」(平成27年)によると,社会人が高等教育機関で学びやすくするために必要な取組として,「経済的支援」や「社会人向けプログラムの拡充」などの他に,「学び直しに関する情報を得る機会の拡充」が挙げられている52

I-特-34図 学び直しのための機会や方法についての認知度別ウインドウで開きます
I-特-34図 学び直しのための機会や方法についての認知度

I-特-34図[CSV形式:1KB]CSVファイル

どこの地域に住んでいても学び直しに関する情報が容易に得られ,必要な学び直しの場につながることができるようにしていくことが求められる。

50公共職業訓練・求職者支援訓練については,厚生労働省ホームページ「ハロートレーニング」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/hellotraining_top.html)参照。

51教育訓練給付の内容については,厚生労働省ホームページ「教育訓練給付制度」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html)参照。

52回答の上位5項目(複数回答)は,「学費の負担などに対する経済的な支援」(46.1%),「就職や資格取得などに役立つ社会人向けプログラムの拡充」(35.0%),「土日祝日や夜間における授業の拡充」(34.0%),「学び直しに関する情報を得る機会の拡充」(29.8%),「学び直しに対する理解を高めるための企業などへの働きかけ」(28.0%)となっている。

(社会人のニーズに合致した職業実践力育成プログラム)

教育再生実行会議の第6次提言(平成27(2015)年3月)では,学び続ける社会の実現に向けて,社会人が職業に必要な能力や知識を高める機会を拡大するため,大学等における社会人や企業等のニーズに応じた実践的・専門的な教育プログラムを認定し,奨励する仕組みを構築するとされた。これを受けて,文部科学省では,大学等における社会人や企業等のニーズに応じた実践的・専門的プログラムを「職業実践力育成プログラム」として文部科学大臣が認定する制度を創設した。文部科学省に設置された検討会(「大学等における社会人の実践的・専門的な学び直しプログラムに関する検討会」)の報告では,社会人が学び直す選択肢の可視化を図る際に,社会の需要はあるが大学等があまり提供していない4領域について大学等における取組を奨励するとされたが,4領域の1つが「女性活躍」となっている53

プログラムの認定状況は,平成27(2015)年度に123課程,平成28(2016)年度に60課程,平成29(2017)年度に42課程,平成30(2018)年度に32課程を新たに認定しており,地域的にも広がりを見せている。

また,「女性活躍」のプログラムは,平成27(2015)年度に32課程,平成28(2016)年度に14課程,平成29(2017)年度に12課程,平成30(2018)年度に8課程が新たに認定されている。

53「4領域」は「女性活躍」の他に,「非正規労働者のキャリアアップ」,「中小企業活性化」,「地方創生」となっている。

コラム13 助産師リカレント教育プログラム~「病院の中にいても広い視野を持ち,病院から出ても活躍できるスタッフを育てる」~

コラム14 ビジネススクールを母体とした女性のリカレント教育~関西学院大学ハッピーキャリアプログラム

(受講費用給付等の支援が手厚く女性の利用も多い専門実践教育訓練)

前述した教育訓練給付は,働く人の主体的な能力開発を目的としたものであるが,特に,中長期的なキャリア形成を支援することを目的として,平成26(2014)年10月に専門実践教育訓練が創設された。専門実践教育訓練の対象となる訓練(講座)については,「就職可能性が高い仕事において必要とされる能力の教育訓練」,「その効果がキャリアにおいて長く生かせる能力の教育訓練」といった基本的な考えの下,業務独占資格・名称独占資格の養成課程(例えば,看護師・準看護師,社会福祉士などの養成課程),専門学校の職業実践専門課程(例えば,商業実務,経理・簿記など),専門職大学院(MBAなど)などが指定されている。

専門実践教育訓練を修了した場合には,受講費用について支給される給付金の支給割合が一般教育訓練より高いなど,より手厚く支援されている。また,職業実践力育成プログラムのうち,期間や就職率などの実績が一定の条件を満たすプログラムは給付金の支給対象となっている。

専門実践教育訓練の対象となる講座には,女性のキャリアアップや子育て女性の再就職に資するものも多い。直近の活用状況54として,専門実践教育訓練の受講者の約6割が女性であり,離職中に職業実践力育成プログラムを専門実践教育訓練として受けた人の4分の3が女性となっている。

(様々な学びを提供する男女共同参画センター)

地域の男女共同参画センターは,男女共同参画の総合的な施設として,様々な研修・講座,相談対応,情報発信等を行っている。研修・講座の中には,再就職や起業など就業に向けた講座も多く,その地域の女性が置かれている状況や年齢などを踏まえて様々な工夫をこらした講座が実施されている。

就業に向けた学びは,その内容が就業ニーズを踏まえたものであり,実際の就業やキャリア形成に結びつくものであることが重要であるが,就業にブランクのある女性自身が自ら就業先を開拓することは一般的にはハードルが高いと考えられる。

このため,男女共同参画センターにおいては,ハローワークや民間の職業紹介事業などの就業支援機関等と連携して研修・講座を企画・運営することが有益である。

他方,キャリア相談やライフプラン相談など,仕事に就くに当たって不安を取り除き後押しする学びの機会を提供する取組も見られる。大学等の教育機関で女性向けのリカレント教育を実施する場合に,こうした取組がなされている男女共同参画センターにおけるノウハウや関係する専門家を活用することも考えられる。

また,若い時に十分な学びができておらず,仕事や生活に必要な基礎学力を身に付けることが難しかった人55が学び直す場も重要であり,そのような学びの支援も求められている(コラム16参照)。

このように,地域の女性の学びの場として,重要な役割が期待される男女共同参画センターであるが,前述したとおり必ずしも十分に知られていない(I-特-34図参照別ウインドウで開きます)。男女共同参画センターの活用可能性を分かりやすく訴求力のある形で伝えていくとともに,施設来訪者(施設利用,講座受講,相談等)や出前講座の受講者を更なる学びの場へ誘導する取組も期待される。

コラム15 「次世代女性リーダーの育成」

コラム16 「自立を目指す女性のための“学び直し”を通したキャリア形成支援」

54平成30年度第8回労働政策審議会人材開発分科会 参考資料2「専門実践教育訓練講座の指定状況・運用状況・受講/受給者属性・訓練効果等に係る分析資料」参照。

55国立情報学研究所社会共有知研究センターでは,教科書に書かれている基本的な文章を正確に読むことができるかを科学的に診断するテスト(「リーディングスキルテスト」)を平成27(2015)年度に開発し,テストを実施してきた結果,言葉や文脈がもつ意味を理解しながら読む能力が身についていない中高生が少なからずいることを明らかにしている。

2 生涯を通じた多様な学び

社会人が学ぶ目的は必ずしも就職や資格取得など仕事に関するものばかりではない。ボランティアや地域社会での活動のための学び,家事・育児・介護などの家庭生活に活かすための学び,趣味など人生を豊かにする創造的活動のための学びといった仕事以外の活動のための学びについても,「人生100年時代」の生涯学習としては重要になってくる。

女性も男性も一人ひとりが意欲と希望に応じて,多様な生き方を選択できるようにするためには,ライフステージに応じて,仕事以外の活動のための学びも充実させていくことが求められている。

(1)学びの状況

(社会人は何のために学ぶのか)

「多様な選択を可能にする学びに関する調査」により,学びの理由について見ると,男女ともに「仕事のために学んだ/学んでいる」とする回答が最も多い。同じ項目を男女で比較すると,「家庭のために学んだ/学んでいる」とする割合は女性の方がすべての世代で高い。また,「地域活動や社会貢献活動のために学んだ/学んでいる」とする割合は,男性の方がすべての世代で高くなっているが,特に男性20代がどの世代よりも高くなっている(I-特-35図)。

I-特-35図 学びの理由別ウインドウで開きます
I-特-35図 学びの理由

I-特-35図[CSV形式:1KB]CSVファイル

また,仕事以外の活動のための学びの方法については,男女ともに「読書やインターネットで検索して」とする回答が圧倒的に多いが,女性では「民間の講座・教室等を利用して」が,男性では「ウェブ上の学習サービスを利用して」がこれに続いている。同じ項目を男女で比較すると,「民間の講座・教室等を利用して」とする割合は女性の方がすべての世代で高いが,特に40代で男女差が大きくなっている(I-特-36図)。

I-特-36図 仕事以外の活動のための学びの方法別ウインドウで開きます
I-特-36図 仕事以外の活動のための学びの方法

I-特-36図[CSV形式:1KB]CSVファイル

仕事以外の活動のための学びの効果については,男女とも,「趣味・教養が深まる,関心が広がる」が圧倒的に多いが,「生きがいや余暇の充実につながる」がこれに続いている。女性では「日々の暮らしに役に立つ」が3位で,男性では「様々な意見・価値観を知ることができる」が3位となっている。同じ項目を男女で比較すると,「日々の暮らしに役に立つ」とする割合は女性の方がすべての世代で高く,「地域への関心が高まる」とする割合は男性の方がすべての世代で高くなっている(I-特-37図)。

I-特-37図 仕事以外の活動のための学びの効果別ウインドウで開きます
I-特-37図 仕事以外の活動のための学びの効果

I-特-37図[CSV形式:2KB]CSVファイル

(今後何を学びたいか)

内閣府「生涯学習に関する世論調査」(平成30年)によると,今後学習したい内容について男女差が比較的大きいものを見ると,女性では「趣味的なもの(音楽,美術,華道,舞踊,書道,レクリエーション活動など)」,「家庭生活に役立つ技能(料理,洋裁,和裁,編み物など)」,「育児・教育(家庭教育,幼児教育,教育問題など)」が,男性では「職業上必要な知識・技能(仕事に関係のある知識の習得や資格の取得など)」,「教養的なもの(文学,歴史,科学,語学など)」,「インターネットに関すること(プログラムの使い方,ホームページの作り方など)」,「社会問題に関するもの(社会・時事,国際,環境など)」が高くなっている(I-特-38図)。

I-特-38図 今後学習したい内容別ウインドウで開きます
I-特-38図 今後学習したい内容

I-特-38図[CSV形式:1KB]CSVファイル

(仕事や家事が忙しくて学べない)

「多様な選択を可能にする学びに関する調査」により,仕事以外の活動のための学びのハードルについてみると,男女ともに「仕事が忙しくて時間がないから」とする回答が最も多いが,女性では「家事・育児・介護などが忙しくて時間がないから」が,男性では「特に理由はない」がこれに続いている。同じ項目を男女で比較すると,「家事・育児・介護などが忙しくて時間がないから」,「学習するための費用がかかるから」の割合は女性の方がすべての世代で高く,「仕事が忙しくて時間がないから」とする割合は男性の方がすべての世代で高い(I-特-39図)。

I-特-39図 仕事以外の活動のための学びのハ-ドル別ウインドウで開きます
I-特-39図 仕事以外の活動のための学びのハ-ドル

I-特-39図[CSV形式:2KB]CSVファイル

一方で,学びを終えて実際に活動へ踏み出す際のハードルとしては,男性20代で「知識・技能や経験を身につけたことを証明するものがない」とする回答が多く,女性20代と30代では「活かすことができるまでの段階に達していない」とする回答が多かった。また女性では30代以降で,男性では40代以降で「特に困っている点はない」とする回答が大幅に増えている(I-特-40図)。

I-特-40図 仕事以外の活動のための学びを実践につなげる際のハ-ドル別ウインドウで開きます
I-特-40図 仕事以外の活動のための学びを実践につなげる際のハ-ドル

I-特-40図[CSV形式:2KB]CSVファイル

(2)地域社会での活動のための学び

(学びは地域社会で活動するきっかけにも)

内閣府「生涯学習に関する世論調査」(平成30年)により,地域社会での活動に対する参加の意欲について見ると,「参加してみたい」とする者の割合が,男女ともに全体の8割程度に及んでいる。

地域社会での活動に参加するためにどのような方策が必要だと思っているかについて見ると,女性では「地域や社会に関する講習会の開催など,活動への参加につながるようなきっかけ作り」を挙げた者の割合(44.4%)が最も高く,次いで「地域や社会での活動に関する情報提供」(41.6%)となっている。男性では「地域や社会での活動に関する情報提供」を挙げた者の割合(43.1%)が最も高くなっているが,女性と同じく「地域や社会に関する講習会の開催など,活動への参加につながるようなきっかけ作り」を挙げた者の割合(39.1%)も高くなっている(I-特-41図)。

I-特-41図 地域社会での活動への参加を促す方策別ウインドウで開きます
I-特-41図 地域社会での活動への参加を促す方策

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コラム17 多世代交流と子育てサロンの活動と学び

コラム18 食を通じた地域貢献活動と学び

学びながら地域社会活動を活発化させてきた事例を見ると,学びが地域社会活動の起点・きっかけとなるとともに(学びから活動へ),実際に地域社会活動をすることによってさらなる学びの必要性に気付くこととなる(活動から学びへ)。いわば学びと地域社会活動とに循環が形成され,相乗効果があると言える。

また,地域社会活動参加のための講座や講習会,セミナーなどの学びの場は,知識や技能を習得すると同時に,地域社会活動を共にする仲間やロールモデルとなる人々との出会いの場,更にはネットワーク形成の場として機能している。そして形成されたネットワークが,継続した学びを促し,また情報交換等を通して,地域社会活動の継続へとつながっている。

(女性の地域社会活動参加を後押しする学び)

女性が,学びを通して地域社会活動に参加しようとする場合の課題としては,情報不足や学びの場の提供側の問題など学びそのものに関わる課題だけではなく,既存の地域社会の組織のリーダーが男性中心となりがちであること56や固定的な性別役割分担意識など,女性が学びを終えて実際に活動へ踏み出す際の課題にも留意しなければならない。

女性が社会のあらゆる分野における活動に参加するための力をつけるため,それぞれの地域における多様なチャンネルを活用した情報提供,希望者のニーズに応じた学びの機会の提供の促進,更には地域社会の組織における固定的な性別役割分担意識を解消していくことにより女性の新たな活動の展開へとつなげていくことが今後の課題として挙げられる。

仙台市男女共同参画推進センターでは,防災・復興まちづくりを担う女性リーダーの育成を狙いとして「地域版 女性リーダー育成プログラム 決める・動く」という事業を行っている。このプログラムは,リーダーシップを発揮することを躊躇してしまう女性に対し,1足りないものを補うのではなく,既に持っている資質から強みを引き出し,自信をつけるとともに,2マネジメントのためのコミュニケーション能力を磨いて,女性が地域の「決める場」に参画することを「後押し」するプログラムとなっている。

(3)学びを通じた多様な生き方の選択に向けて

これまで見てきた通り,女性は家事・育児・介護など家庭生活のための学びが比較的多く,男性は仕事のための学びが多い。このことから固定的な性別役割分担意識が,社会人の学びの内容の選択にまで影響を及ぼしている可能性が高いと言える。

女性が固定的な性別役割分担意識にとらわれることなく学びの内容を自ら選択できるようにする必要があることは言うまでもないが,一方で男性の多様な生き方の選択を可能にするためには,男性が仕事以外の学び,とりわけ家事・育児・介護などの家庭生活のための学びを躊躇なく選択できるようにする環境も重要である。

これまで男性中心型労働慣行の下,家事・育児・介護などに慣れておらず,近所づきあいや地域活動も女性に任せてきた男性が,何らかの事情で家事・育児・介護などをせざるを得なくなることもあり得る。

しかしながら,固定的な性別役割分担意識の強い場合には,家事・育児・介護などに関する学びの場への参加自体を躊躇しがちであり,普段から地域社会との関わりもない場合には,ややもすれば家事・育児・介護などに関する基礎的知識や初歩的スキルもないまま孤立し,家庭生活に支障をきたしてしまうおそれもある。

このため,家庭生活のための基礎的知識や初歩的スキルを学ぶことができるだけでなく,同じ境遇の者同士が悩みを共有するなどして孤立しがちな男性たちの「居場所」ともなるような工夫がなされた家庭生活のための学びの場が,身近にあることが求められる。

56平成30(2018)年現在,全国の自治会長に占める女性の割合は5.7%(平成29(2017)年現在5.4%)。平成30(2018)年10月現在,PTA会長(小中学校)に占める女性の割合は13.8%(平成29(2017)年12月現在13.8%)となっている(I-4-2図参照別ウインドウで開きます)。

コラム19 困りごとの共有から地域とつながるしくみ