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コラム13 助産師リカレント教育プログラム~「病院の中にいても広い視野を持ち,病院から出ても活躍できるスタッフを育てる」~

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コラム13

助産師リカレント教育プログラム~「病院の中にいても広い視野を持ち,病院から出ても活躍できるスタッフを育てる」~


(岡山大学大学院保健学研究科・医学部保健学科)

岡山大学大学院保健学研究科・医学部保健学科では,平成19(2007)年度から,助産師・看護師が総合的な実践能力を獲得するリカレント教育プログラムを実施しており,一定の実務を経験した助産師が多数受講してきた(平成29(2017)年度から文部科学省の「職業実践力育成プログラム」に認定されている)。

助産師は,出産をする時の支援や,妊娠・出産・産後の女性や赤ちゃんに対して,健康に関する指導・相談を行う専門家として,病院,診療所,助産所などで働いている。さらに,思春期の子どもへの健康教育や性教育,更年期や老年期の女性への健康支援など,地域社会の中での役割も果たしている。助産師になるには,看護師の資格を持っていること,または看護師の資格を同時に取得することを前提として,助産師になるための大学や養成所で1年以上,助産に関することを学ぶ必要がある。教育課程には,2年間で学ぶ大学院,1年間で学ぶ大学専攻科,看護系大学の助産課程,専修学校などがある。そして,助産師の国家試験に合格すると,厚生労働大臣の免許を受けて助産師として働くことができる1

助産師がリカレント教育を受ける契機の1つは,学部等でひととおり学んでいても,実務の現場で十分な対処が出来ない深刻な問題に遭遇する場合である。例えば,望まない妊娠や中絶,女性のDV被害や子どもへの虐待などへの対応は新たな課題である。また,助産師自身のライフステージが変化することにより従事していた仕事を変える場合も契機となる。例えば,病院の産科スタッフとして周産期医療をしてきた人が,自身の出産や子育てをきっかけに病院を離れ,地域保健のスタッフとして新生児訪問をしたり,子育て支援拠点で相談支援を始めたりすることも多く,新たに学ぶ必要が生じることがある。また,反対に子育てを終えて産科で再就労するときには,新しくなった知識や技術を身に付けたいと思うことが多い。

岡山大学の「助産師リカレント教育プログラム」は,最初は1超音波検査による胎児の観察,2妊娠中からの虐待防止,3不育症・流産や死産へのグリーフケア,4周産期の新生児蘇生に関する知識と技術を獲得する4回シリーズの2~3か月の短期プログラムから始まった。平成21(2009)年度からは1年間のプログラムとなり,開始から10年以上が経過する中で,社会のニーズに対応して,妊産婦のメンタルケア,遺伝カウンセリング,性教育やLGBTに関する教育,子育て広場でのボランティアなども講座内容に盛り込まれている。年間約30回の集中セミナーやグループワークを実施しているが,仕事や家庭,学部での学業等と両立しながら受講できるようEラーニングでの学習や休日・夜間を利用した超音波検査などの演習・実習も取り入れている。

受講生には,現場で一定の経験を積んだ産科スタッフが多いが,子育てなどを理由に現場を離れていた主婦もおり,さらに助産コースの大学院生も加わる。背景の違う者が学び合うことで得られるものは大きいと考えられ,プログラムを運営する側としては,各種の効果を期待している。実際に,現場を離れていた女性が最新の知識や技術を得ること,産科スタッフと一緒に学び現場感覚を取り戻すことにより自信を得たり,産科スタッフが子育て中の母親の感覚から刺激を得たり,学生が社会人と一緒に学ぶことにより実際に働くイメージが具体化されて離職防止につながったりといった成果も見られている。

岡山大学のような大学院における助産師の養成課程には,将来,管理職的な立場になる助産師を育てるという役割もあり,学生時代からリカレント教育プログラムに参加することにより,病院の中だけでは見ることのできない広い視野を持つことを可能にしている。助産師の中には,「生涯お産に関わりたい」,「現場を大切にしたい」という思いから,管理職へのキャリアアップを望まない人もいる。その場合も,特に現場に近いリーダーには,現場の経験と,出産や子育てを取り巻く様々な医療的問題,社会的問題への知見の双方を有することが必要となっている。リカレント教育プログラムは,潜在助産師にとって就労支援であるとともに,就労している助産師にとっても,広範な領域の課題を体系的に学ぶことで実務の向上につながる示唆を得たり,大学というアカデミアに再び入ることで行政機関や医療機関,又は研究者等とつながる機会を得たりできるという点で,現場を率いるリーダーになるステップとしての効果が期待されている。

主産した女性と赤ちゃんに寄り添う助産師の写真

超音波シュミレーション装置での演習の写真

超音波シュミレーション装置での演習

1公益社団法人「日本看護協会」ホームページより。