第2節 女性活躍推進法によって広がりつつある女性活躍推進の取組

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第2節 女性活躍推進法によって広がりつつある女性活躍推進の取組

1.女性活躍推進法の意義と特徴
(女性の活躍推進のための積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の必要性)

男女雇用機会均等法の施行から30年が経過し,法制度の整備は大きく進展したが,なお実態面での男女の格差は残っている状況にある。また,我が国では,女性は出産・育児等による離職後の再就職にあたって多くが非正規雇用になることなどが,雇用の不安定化や低賃金といった問題を生じさせるばかりでなく,キャリア形成を通じた女性の十分な能力の発揮を阻む一因となっている。女性の就業率は,近年,大きく上昇したものの,就業する女性に比して,管理的職業に就く女性の数が欧米諸国等に比べ低い水準となっている。働く場面において女性の力が十分に発揮されているとはいえない状況であり,働くことを希望する女性が,その希望に応じた働き方を実現できるように社会全体として取り組むことが重要である。また,少子高齢化の進展に伴い,将来の労働力不足が懸念される中,日本の持続的発展のために,企業の収益性・生産性を高めなければならないが,そのためにも,女性の活躍推進を早急に推し進め,女性の力を最大限に発揮していくことが喫緊の課題である3

これまでも,男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)等に基づき,活動に参画する機会に係る男女間の格差を改善するため,積極的改善措置(ポジティブ・アクション)が行われてきた。例えば,国連のナイロビ将来戦略勧告(平成2年)を踏まえて設定された「社会のあらゆる分野において,2020年までに,指導的地位に女性が占める割合が,少なくとも30%程度になるよう期待する」という目標(平成15年6月20日男女共同参画推進本部決定)の達成に向けて,政府は,女性の国家公務員の採用・登用や国の審議会における女性委員の登用など,自らが直接取り組むことができる分野について具体的な目標を設定し取組を推進してきた。企業等においても,様々なポジティブ・アクションが行われてきたが,企業等の取組はあくまでも各事業主の自主性に委ねられていた。これまでの施策と女性活躍推進法との大きな違いは,就業分野における女性の活躍推進には,事業主の役割が重要であるとの考え方の下,公的部門のみならず,企業等も含めた事業主に対して,女性の活躍に関する状況の把握や課題の分析,行動計画の策定,情報の公表等を義務付け,ポジティブ・アクションの実効性を高め,女性活躍に向けての取組を一過性のものに終わらせることなく着実な前進を目指していることである。

3女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針(平成27年9月25日閣議決定)において,「働きたいという希望を持ちつつも働いていない女性や職場でステップアップしたいと希望する女性等,自らの意思によって働き又働こうとする女性が,その思いを叶えることができる社会,ひいては,男女が共に,多様な生き方,働き方を実現でき,それにより,ゆとりがある豊かで活力あふれる,生産性が高く持続可能な社会の実現」を目指すとされている。

(女性活躍についての「見える化」の重要性)

企業における女性の活躍状況の「見える化」は,平成26年1月に内閣府「女性の活躍『見える化』サイト」が開設され,女性活躍やワーク・ライフ・バランスの実態を表す指標と女性登用に関する目標を企業名入りで掲載されてきたこと,27年3月期の有価証券報告書から役員の男女別人数及び女性比率の記載が義務付けられたこと等に示されるように,女性活躍推進法の施行前から進められてきた。女性活躍推進法によって,国や地方公共団体,301人以上の労働者を常時雇用する事業主は,自らの組織における女性の活躍推進のための事業主行動計画の策定・公表,女性の活躍状況に関する情報の公表等が義務付けられることになった。こうした女性の活躍状況に関する情報の公表等の義務付けによって,企業における女性活躍についての「見える化」を推進させ,各企業の女性活躍の状況や取組に関する情報を求職者や投資家が得られやすくなり,市場を通じた企業に対するモニタリングが働くことで,各企業が女性活躍推進に自律的に取り組む潮流をつくることも女性活躍推進法の目指すところである。

2.国や地方公共団体における取組
(女性活躍推進法の下での公務部門の役割や求められる取組)

女性活躍推進法は,国や地方公共団体,301人以上の労働者を常時雇用する事業主に対して,女性の活躍推進に向けた「事業主行動計画」(以下「行動計画」という。)の策定・公表等を義務付けている。行動計画の策定にあたって,各事業主は,まず,自らの事業における女性の活躍についての現状把握や課題分析を行い,その結果を勘案し,女性の活躍推進に向けての数値目標や取組を行動計画に盛り込むこととされている。加えて,女性の職業選択に資するため,女性の活躍に関する情報の公表が義務付けられている。

女性活躍推進法では,事業主は,国・地方公共団体の機関等からなる「特定事業主」と,企業等からなる「一般事業主」の2つに分けられている。公務部門での女性の活躍は,我が国の政策方針決定過程への女性の参画拡大という意義を有するものであるとともに,一般事業主に対する率先垂範の観点からも着実な取組が求められる。このため,事業主に求められる状況把握として,特定事業主には,一般事業主が行うこととされる4項目4のほか,今後取組を推進していく上で重要となる3項目を加えた計7項目について,状況把握し,課題分析することが求められている(I-特-13表)。また,行動計画には,特定事業主,一般事業主ともに,計画期間,数値目標,取組内容及び実施時期を定めることとされている。最も大きな課題と考えられるものを優先的に行動計画の対象とし,数値目標の設定等を行うこと,できる限り複数の課題に対処していくことが効果的とされている。一般事業主に対する率先垂範の観点から,特定事業主のうち各府省等には,行動計画において,少なくとも,女性職員の採用・登用,男性職員の育児休業取得率,配偶者出産休暇及び育児参加のための休暇取得については数値目標の設定が求められている。さらに,特定事業主は,毎年少なくとも1回,行動計画に基づく取組の実施状況を公表することが求められており,その際,数値目標を設定した項目については,その進捗状況も明らかにすることが望ましいとされるなど,積極的に公表することが求められている5。公務部門による率先垂範は,国だけでなく,地方公共団体にも期待され,地方公共団体には,地域の一般事業主をリードする行動計画の策定が求められている。

I-特-13表 特定事業主が把握する項目・情報公表する項目別ウインドウで開きます
I-特-13表 特定事業主が把握する項目・情報公表する項目

4一般事業主に対しては,女性職員の採用割合,継続勤務年数の男女差,超過勤務の状況,管理職の女性割合の4項目がまず把握する項目とされている。

5国,地方公共団体の行動計画や情報公表は,内閣府の「女性活躍推進法『見える化』サイト」において,一覧により掲載されており,国,都道府県,市区町村の女性の採用・管理職割合,男女別育児休業取得率,超過勤務の状況等の女性の活躍状況に関する情報が比較可能である。

(国における取組)

特定事業主とされる国の機関としては,府省等の行政機関のほか,最高裁判所や衆参議院事務局等が49機関あり,全ての機関が行動計画を策定済みである。ここでは,各府省等の取組を中心に見てみる。女性の活躍に向けての府省横断的な取組は,女性活躍推進法の施行の十数年前より実施されてきた。「男女共同参画基本計画」(平成12年12月12日閣議決定)に基づき,人事院が策定した「女性国家公務員の採用・登用の拡大に関する指針」(13年5月21日)を踏まえ,女性国家公務員の採用・登用についての取組が始まった。取組の拡大のため,「女性のチャレンジ支援策の推進について」(15年6月20日男女共同参画推進本部決定)において,「社会のあらゆる分野において,2020年までに,指導的地位に女性が占める割合が,少なくとも30%程度になるよう期待し,政府は,民間に先行して積極的に女性の登用等に取り組む」こととされ,それに続く「女性国家公務員の採用・登用の拡大等について」(16年4月27日男女共同参画推進本部決定)において,「政府全体としての目標を設定し,目標達成に向けた具体的取組を定めるなどして,総合的かつ計画的な取組を推進すること」が決定された。この決定を受けて取りまとめられた「各省庁人事担当課長会議申合せ」(16年4月28日)には,女性国家公務員の採用・登用の拡大のための目標及び具体的取組が盛り込まれ,17年度以降,女性国家公務員の採用・登用状況6,女性職員,男性職員それぞれの育児休業の取得状況等,政府全体としての取組の進捗状況が府省等別の状況も含めて毎年1回公表されてきた。女性活躍推進法に基づき,各府省等は,特定事業主として行動計画の策定等が義務付けられることになったが,女性活躍推進法の施行によって,従来からの女性職員の採用・登用等の取組を着実に拡大させていくことが重要である。女性活躍推進法の成立・施行に先行し,「国家公務員の女性活躍とワークライフバランス推進のための取組指針」(26年10月17日女性職員活躍・ワークライフバランス推進協議会決定。28年1月28日一部改正。)が決定され,これに基づき,各府省等は,32年度末までを視野に入れた取組内容等を盛り込んだ「女性職員活躍とワークライフバランス推進のための取組計画」(以下「取組計画」という。)を策定し,公表することが義務付けられている。この取組計画において,各府省等は,女性職員の採用・登用に関する目標数値,男性職員の育児休業取得率,配偶者出産休暇及び育児参加のための休暇に関する数値目標を設定しなければならない。各府省等は取組計画に基づく取組の実施状況を毎年度1回フォローアップすることとされており,併せて内閣人事局は各府省等の取組状況を取りまとめ,公表することとされ,27年度末までの取組状況より公表されている。

「国家公務員の女性活躍とワークライフバランス推進のための取組指針」は,女性活躍推進法の成立・施行等を踏まえて改正され,各府省等が取組計画等に基づき従来から進めてきた取組は,女性活躍推進法により特定事業主として各府省等に求められる取組と整合的かつ一体的に推進されることが可能となっている。大半の府省等において,女性活躍推進法に基づく行動計画は取組計画と一体的に策定されているため,行動計画の計画期間は一律に平成32年度末である。行動計画に盛り込まれている目標についても,女性活躍推進法により各府省等に対して数値目標を設定することとされている4項目(女性職員の採用,女性職員の登用,男性職員の育児休業取得率,男性職員の配偶者出産休暇及び育児参加のための休暇取得)については,取組計画において既に数値目標の設定が求められていたこともあり,全ての府省等が数値目標を設けている(I-特-14表)。必ず数値目標を設定しなければならない4つの項目以外にどのような項目に数値目標が設定されているのかについて,各府省等の行動計画を比べると,年次休暇の取得に関する数値目標は多くの府省等が設定している。定時退庁の実施やテレワークの活用に関する数値目標については,総務省,文部科学省,厚生労働省,国土交通省が設定している。

I-特-14表 国の機関の特定事業主行動計画における数値目標の設定項目別ウインドウで開きます
I-特-14表 国の機関の特定事業主行動計画における数値目標の設定項目

6女性国家公務員の登用状況については,平成17~19年度は指定職相当,本省課室長相当職以上(17,18年度は本府省課長,準課長相当職以上),20~26年度はこれらに加え,本省課長補佐相当職以上,本省係長相当職以上(20,21年度は本省課長補佐相当職,本省係長相当職),27年度はこれらに加え,本省課室長相当職,国の地方機関課長・本省課長補佐相当職の女性割合が公表されている。また,28年度は第4次男女共同参画基本計画で新たな目標が定められたことを踏まえ,指定職相当,本省課室長相当職,国の地方機関課長・本省課長補佐相当職,係長相当職(本省)の女性割合が公表されている。

情報の公表について,特定事業主は13項目7(女性職員の採用割合,継続勤務年数の男女差等)の中から,事業主自らが項目を選択し公表することとされているものの,情報公表の項目は,行動計画の策定の際に状況把握・課題分析した項目の中から選択することが基本とされている。また,求職者が容易に閲覧できる方法によって公表することとされ,各府省等のホームページ等において公表されている。各府省等による情報の公表について,特定事業主が状況把握すべきとされている7項目についての公表状況を比べると,内閣官房,内閣府,消費者庁,厚生労働省は,7項目全てを公表している。また,女性活躍推進法の施行前より,「国家公務員の女性活躍とワークライフバランス推進のための取組指針」に定められた項目である,女性職員の採用割合,各役職段階の職員の女性割合,男女別の育児休業取得率,男性職員の配偶者出産休暇等の取得の4項目は,全府省が公表している(I-特-15表)。

I-特-15表 国の機関が特定事業主として情報公表している項目別ウインドウで開きます
I-特-15表 国の機関が特定事業主として情報公表している項目

国の行政機関以外の最高裁判所や衆参議院事務局等の特定事業主行動計画の内容について,どのような項目に数値目標が設定されているのかという点から見ると,男性職員の育児休業取得,男性職員の配偶者出産休暇等の取得,年次休暇の取得の3項目は,8機関全てが数値目標を設定している。情報の公表について,衆議院事務局と国立国会図書館は特定事業主が状況把握すべきとされている7項目のうち6項目について公表し,1項目のみの公表となっている機関もある。

7内閣府令第61号(平成27年11月9日)により定められている。

(地方公共団体における取組)

地方公共団体の機関や長について,特定事業主行動計画の策定等が求められる事業主は,地方公共団体の長,議会の議長,警視総監又は道府県警察本部長,教育委員会等がある。都道府県47団体,市区町村1,741団体の全てが行動計画を策定済みである。特定事業主としての地方公共団体の取組として,ここでは都道府県知事が特定事業主として,警察職員や教育関係職員等を含まない,首長部局の職員を対象として策定した行動計画の内容や情報の公表等について見てみることとする。

「指導的地位に女性が占める割合を30%程度とすること」の達成に向けては,国,地方公共団体ともに着実な取組が重要である。地方公共団体は,子育て・教育,介護・医療,まちづくり等,住民生活に密着した行政を担っており,従来の定型化された仕組みに対し,女性の柔軟な発想が求められていること,また,既に多くの女性の採用が進んでいることから,各役職段階での女性職員の活躍は,地方公共団体の経営戦略にとっても重要な課題となっている。地方公共団体においても,女性管理職は少ないことから,行動計画において,女性職員の管理職登用についての数値目標は43団体で設定されている。女性の管理職登用についての数値目標を設定していない団体においても,課長補佐相当職等の女性職員の登用についての数値目標は設定されている(I-特-16表)。

I-特-16表 都道府県の特定事業主行動計画における数値目標の設定項目別ウインドウで開きます
I-特-16表 都道府県の特定事業主行動計画における数値目標の設定項目

多くの都道府県においては近年の取組もあり,女性管理職の割合は上昇しているものの,その水準は都道府県間で大きなばらつきがある。「第4次男女共同参画基本計画」(平成27年12月25日閣議決定)においては,地方公務員の女性登用について,都道府県の本庁課長相当職に占める女性の割合を32年度末までに15%にするという目標が設定されている。鳥取県は20.2%,東京都は19.9%と,この目標値を上回っているが,全国平均は9.3%であり,長野県は4.4%,和歌山県は4.5%で,9団体でも5%台と,依然低い水準の団体も少なくない8(I-特-17図)。次に,各都道府県の行動計画に設定されている女性職員の管理職登用の数値目標9について,その水準を女性職員の管理職登用の現状を示す代理変数として,各都道府県の本庁課長相当職に占める女性の割合と比較した10。行動計画の計画期間が団体により1,2年のずれがあることに留意が必要であるが,女性職員の管理職への登用に都道府県間で大きなばらつきがある状況を反映し,数値目標の水準も都道府県間で大きな違いがある。三重県は30%と極めて高いが,現時点で既に「第4次男女共同参画基本計画」の目標値を上回る鳥取県と東京都のほか,神奈川県,岐阜県は数値目標を20%としており,「第4次男女共同参画基本計画」の本庁課長相当職の目標値と同じく「15%」以上の管理職登用目標を持つ団体は17である。

I-特-17図 地方公務員(都道府県)の課長相当職に占める女性の割合と特定事業主行動計画の目標値別ウインドウで開きます
I-特-17図 地方公務員(都道府県)の課長相当職に占める女性の割合と特定事業主行動計画の目標値

I-特-17図[CSV形式:2KB]CSVファイル

8平成28年度現在の数値。課長相当職の女性割合には,警察本部,教育委員会等を含む。

9行動計画に設定されている女性職員の管理職登用についての数値目標は,知事部局の目標である。

10管理職には,課長相当職に加え,部局長・次長相当職も含まれるが,行動計画の数値目標には課長相当職と部局長・次長相当職を合わせた管理職として目標を設定する団体が多い。

都道府県の行動計画において,女性職員の管理職の登用についての項目以外でどのような項目に数値目標が設定されているのかを見ると,38団体が男性職員の育児休業取得と男性職員の配偶者出産休暇等の取得のいずれの項目にも数値目標を設け,岐阜県では,育児休業職員の代替職員の配置率100%との目標も併せて設けている。他方,青森県,東京都,山梨県の3団体は,男性職員の育児休業取得と男性職員の配偶者出産休暇等の取得のいずれの項目についても数値目標を設定していない。また,労働時間の削減に向けて,25団体が年次休暇取得について,18団体が時間外勤務の削減について,数値目標を設けている。仕事と育児等との両立を推進するための基盤整備として,妊娠・出産・育児に関する制度等についての理解を出産や育児を控えた職員のみならず,管理職も含め,職員に広く浸透させるための数値目標を設定する団体もある。

情報の公表について,まず,特定事業主が状況把握すべきとされている7項目についての公表状況を見ると,13団体が7項目全てを公表している。男性職員の育児休業取得と男性の配偶者出産休暇等取得の2項目は,46団体が両方又はこの2項目のいずれかの公表を行っている。また,事業主行動計画策定指針に定められた13項目のうち,大阪府は13項目全て,青森県は12項目を公表し積極的に情報公表を行っている。

3.都道府県推進計画・市町村推進計画について
(女性活躍推進法の下での地方公共団体の推進計画や協議会の役割)

我が国全体として効果的に女性の活躍を推進するためには,国が実施する施策に加え,地方公共団体が地域の特性を踏まえ主体的な取組を進めていくことが重要である。また,地域創生には女性の活躍が鍵であり,活力ある地域社会の実現に向けて女性の活躍を推進する意義は大きい。女性活躍推進法では,地方公共団体が女性の活躍に向けての取組を計画的かつ効果的に進めるため,都道府県推進計画,市町村推進計画を策定することが望ましいとされている。さらに,地域の関係機関がネットワークを形成し,女性の活躍に向けて,地域の実情を踏まえた取組を進める枠組として協議会を組織することができる。協議会の構成員は,各協議会それぞれの判断によるが,協議会の設置を契機に,地方公共団体が,地域における多様な主体と連携を図りつつ,女性の活躍のための総合的な支援体制を構築していくことが望まれる。

推進計画の策定は,地方分権の観点から地方公共団体に対しての努力義務となっているが,都道府県計画については,47都道府県のうち,45団体で策定済み,2団体で平成29年度中に策定予定となっている(29年3月31日現在)。市区町村別では,447団体と全市区町村の25.6%で策定済みであり,全市区町村の13%にあたる227団体が29年度中に策定予定となっている(29年3月31日現在)。協議会については,都道府県では32団体,市区町村では45団体で設置されている(29年3月31日現在)。

(地方公共団体の推進計画及び計画に基づく具体的取組)

地方公共団体においては,女性活躍推進法に基づき策定した推進計画を着実に実施するため,様々な取組が進められている。ここでは,「地域女性活躍推進交付金」(内閣府)を活用し実施されている事業も交えながら,女性の活躍推進に向けた積極的な取組のいくつかを紹介する。

女性活躍推進法による一般事業主行動計画の策定は,301人以上を常時雇用する事業主に義務付けられている一方,300人以下の事業主には努力義務となっている。このため,企業における女性活躍推進の取組が,大企業にとどまり,中小企業を含め十分に広がらないのではないかとの懸念を持つ地域が多い。こうした中,女性活躍推進法の施行を転換期ととらえ,大企業のみならず,中小企業においても女性活躍の機運を醸成し,取組を拡大することが,地域全体としての女性の活躍推進に不可欠である。

京都府においては,女性活躍推進法の施行に先駆け,平成27年3月に,京都の経済団体と京都府,京都市,京都労働局等が連携し,「輝く女性応援京都会議」を発足させるとともに,同会議の構成団体が地域における女性の活躍推進に連携して取り組むにあたっての基本的な考え方を示したものとして,「京都女性活躍応援計画」が策定された(コラム1)。「京都女性活躍応援計画」は,女性活躍推進法に基づく京都府及び京都市の推進計画として,「輝く女性応援京都会議」については女性活躍推進法に基づく協議会として位置付けられている。京都府及び京都市では,地元企業の大多数が従業員300人以下の規模である。行政が地域の中小企業に対して女性活躍の実情を調査したところ,女性活躍推進法に沿って行うこととされる女性活躍に関する現状把握や課題分析,行動計画の策定等に関するノウハウを持ち合わせていないことや,女性の活躍推進の取組にかける人的余裕がないことが各社に共通する課題として浮かび上がってきた。そこで,300人以下の企業による自主的な一般事業主行動計画の策定に対する支援が,推進計画において最優先事項と位置づけられ,地域の中小企業の一般事業主行動計画の策定をきめ細かに支援する取組が進められている。同時に,将来の管理職候補となる女性社員の育成について,個別の中小企業では資金やノウハウが限られているため,企業を超えた人材育成が進められている。また,女性活躍を進める上での必要条件として,長時間労働の削減があるが,総務省「就業構造基本調査(平成24年)」によれば,年間就業日数200日以上の雇用者のうち,週間就業時間60時間以上の者の割合は,男性は京都府(19.1%)が全ての都道府県の中で最も高く,女性も京都府(6.4%)が東京都(7.2%)に次いで全国2番目の高さであった。このため,長時間労働の削減を含めた職場環境の改善のため,中小企業が京都府知事による「『京都モデル』ワーク・ライフ・バランス認証」を取得するための支援等も行われている。

徳島県では,県内に大企業の立地が少ないこともあり,女性活躍推進法が施行されたとしても,地元企業において女性の活躍推進が広がらないのではないかという懸念があった。そこで,女性活躍推進法の認知度について,県民を対象としたアンケート調査を実施したところ,女性活躍推進法についての認知度が低いという結果が得られ,また,中小企業では女性活躍のインセンティブが浸透していないことが分かった。こうした状況把握を踏まえた課題分析を通じ,中小企業による自発的な一般事業主行動計画の策定を増やすための前提として,啓発イベントに比重を置いた取組が進められている。

地域において女性の活躍を推進していくためには,地域の強みを活用し課題を解決していく視点も重要である。徳島県では,全国トップクラスのブロードバンド環境という地域の強みを活かした取組が進められている。女性の活躍には,多様で柔軟な働き方ができることが欠かせない。そこで,ICT技術を活用したテレワークを推進するため,就労を希望する母親等が,テレワークに必要な技能をeラーニング等で習得できる育成研修を受講できるようにするだけでなく,地域にテレワークの仕事を創出するため,地元企業に対して,テレワーカーを活用できる仕事を提案できる能力を備えたコーディネーターの養成にも取り組んでいる。

女性の就業率は,この10年間に,全ての都道府県で大きく上昇したが,鳥取県においては,他県に比べ,人口減少がより急速に進む中,将来の労働力不足が懸念されることから,積極的な取組が従来から行われてきた。こうした努力もあり,鳥取県の女性の就業率は,全国を大きく上回っている。女性活躍推進法の施行に先駆け,平成26年7月には,「輝く女性活躍加速化とっとり会議」を設置し,28年3月には,同県が今後取り組むべき施策の方向と具体的な取組を定めた「鳥取県女性活躍推進計画」を策定し,取組を一層強化している11。鳥取県は,女性の就業率が国内のみならず国際的にも高い水準でありながら,管理的職業従事者に占める女性の割合は全国を下回り,女性管理職の増加が大きな課題である。地元企業の大半は中小企業であることから,地域全体として女性管理職を増やすには,中小企業各社の取組が不可欠である。推進計画においては,企業における管理的地位に占める女性の割合について,32年までに,従業員10人以上の企業においては25%以上,従業員100人以上の企業においては30%以上といった数値目標が設定されている。目標達成に向けて,官民挙げて県内の女性活躍の機運の盛り上げや実践に向けた取組として,「イクボス」トップセミナーや,女性の能力・意識向上のための研修会等を実施している。また,女性管理職を増やすためには,女性が離職せずキャリア形成することが必要である。そこで,中小企業において産休育休代替職員を確保するため,社会保険労務士等の資格を有する「育休取得アドバイザー」を地元企業に派遣し,育休が取得しやすいような企業内の環境整備に向けたノウハウを提供するとともに,代替職員登録制度を設け,産休育休代替職員を求める企業の求人と,働く意欲のある高齢者等の求職とのマッチングの取組が進められている。

滋賀県においては,生産年齢人口(15~64歳)の女性の就業率は全国とほぼ同水準である。しかし,30代の就業率は全国を下回り,また,職に就いていない女性の多くが就労を希望している実態がある。女性の活躍推進のために優先的に取り組むべき課題として,子育て期の女性の就労促進がある。これを受け,男女共同参画計画と一体的に策定した女性活躍推進計画である「パートナーしがプラン2020」には,重点推進目標値のひとつとして,25~44歳の女性の就業率を平成22年の66.4%から32年度までに73.0%に引き上げる数値目標が設定されている。子育て世代の就業の拡大のため,在宅ワークや在宅勤務,起業など雇用・就業形態の多様化に向けた支援が進められている。また,女性の活躍推進のための基礎として,固定的な性別役割分担意識の解消も不可欠である。「男性は仕事をし,女性は家庭を守るべき」という考え方に同調しない人の割合を32年度までに7割に引き上げる数値目標も設定されている。

女性活躍推進法に基づく推進計画を策定し,協議会を活用し地域全体として女性活躍を推進する積極的な取組は,基礎自治体でも進められている。北九州市では,女性の就業率の向上を目指し,女性が創業しやすい環境づくりとして,創業前から創業後間もない時期にある女性創業者への継続的支援を行うとともに,女性活躍推進法に基づく行動計画の策定を念頭とした中小企業の人事担当者等に対するワークショップの開催等が行われている。

広島市においても,女性が働きがいのある安定した仕事を持てるよう,仕事と家庭の両立,正規雇用化,職場定着・継続就業等に向け,地元中小企業の支援や良質な職場環境づくりの推進に取り組んでいる。具体的には,市内の企業を対象に,女性の活躍促進に向けた取組の必要性をテーマとしたシンポジウムの開催,女性の活躍しやすい職場環境づくりに係る研修会及び無料相談会の開催を行っている。

住民や地元企業の実情をきめ細かく把握して課題分析し,これを踏まえて課題を解決しようとする取組は,中小規模の自治体でも進められている。石川県小松市は,鉄鋼・機械関連の企業が多く立地し,子育て支援策の充実もあり,女性の就業率が全国を大きく上回る地域であるが,平成27年実施のアンケート調査から,地元企業の管理職に占める女性の割合が全国を下回るだけでなく,最近の動向として減少に転じていることが判明した。女性の登用が進んでいない状況を変えるため,女性管理職向けの育成事業の対象を女性経営者や女性管理職から,管理職候補となる若手の女性社員を含めた層にも拡大するとともに,女性起業家への支援も拡大させている。

岐阜県山県市では,若年世代の市外への転出傾向が続いていることもあり,地元企業における人材確保が喫緊の課題となっている(コラム2)。そこで,市内の子育て中の女性の再就職に向けて,地元企業におけるインターンシップ事業をスタートさせ,市内の子育て期の女性と人材難の地元企業との就労マッチングに取り組んでいる。

コラム1 「女性活躍応援マネージャー」の伴走支援(京都府・京都市)

コラム2 インターンシップ事業が切り開く女性の再就職(岐阜県山県市)

11「鳥取県女性活躍推進計画」は,女性活躍推進法に基づく推進計画として,「輝く女性活躍加速化とっとり会議」は女性活躍推進法に基づく協議会として位置づけられている。

4.民間企業等における取組
(一般事業主の役割や求められる取組)

女性の職業を通じた活躍を推進するためには,活躍の場を提供する主体である民間事業者等において積極的かつ主体的な取組が進められることが必要である。これを実現するため,女性活躍推進法によって,常時雇用する労働者12が301人以上の民間事業者等は一般事業主13として,(1)自らの事業における女性の活躍に関する状況把握,課題分析,(2)状況把握,課題分析を踏まえ,計画期間,数値目標,取組内容,取組の実施時期を盛り込んだ行動計画の策定,策定・変更した行動計画の非正社員を含めた全ての労働者への周知及び外部への公表,(3)行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出,(4)女性の活躍に関する情報の公表が義務付けられることになった。常時雇用する労働者が300人以下の事業主に対しては,努力義務となっているが,女性の活躍推進の裾野を広げるため積極的な取組が期待される。

12正社員だけでなく,パート,契約社員,アルバイト等の名称に関わらず,以下の要件に該当する労働者も含む。
1)期間の定めなく雇用されている者
2)一定の期間を定めて雇用されている者であって,過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者又は雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者

13一般事業主とは,国及び地方公共団体以外の労働者を雇用して事業を行う全ての事業主を指し,個人事業主にあってはその事業主個人,会社その他法人組織の場合はその法人そのものを指す。独立行政法人,日本郵政公社,国立大学法人,大学共同利用機関法人及び地方独立行政法人は一般事業主に該当する。

(301人以上の民間事業者等における行動計画の策定や情報公表の取組)

一般事業主は策定した行動計画について,非正社員を含む全社員に周知するとともに,インターネットの利用等により,外部に公表しなければならない。また,一般事業主は,事業主行動計画策定指針に定められた14項目から1項目以上をインターネット等により公表することが求められる。いずれの項目を公表するかは各事業主の選択に委ねられるが,行動計画の策定のために状況把握・課題分析した項目から選択することが基本とされている。また,求職者の企業選択に資するため,情報の公表項目が行動計画と併せ一体的に閲覧できるようにすることが望ましいとされている。インターネットを利用し,女性活躍推進法に基づく「情報公表」や「行動計画の公表」を行う方法としては,自社のホームページや厚生労働省がインターネット上に開設している「女性の活躍推進企業データベース」(以下「データベース」という。)への掲載がある。データベースは,一般事業主が直接アクセスし,「情報公表」や「行動計画」の掲載等,情報の随時更新ができ,一般の閲覧が可能である。

常用雇用の労働者が301人以上の行動計画の策定等が義務付けられている対象事業主は15,771であり,このうちの99.8%に相当する15,740が行動計画の届出を行っている(平成28年12月末現在)。これらの義務対象事業主のうち,データベース上で,「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行う事業主が3,875(義務対象事業主の24.6%),「行動計画の公表」のみを行い「情報の公表」を行わない事業主が2,320(同14.7%),「行動計画の公表」は行わず「情報の公表」のみを行う事業主が1,511(同9.6%)となっている。義務対象事業主のうち,データベース上に何らかの情報を掲載する事業主,つまり,「行動計画の公表」「情報の公表」の両方,もしくはいずれかを行う事業主は7,706(同48.9%)となっている(I-特-18表)。

I-特-18表 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」に登録の事業主数(301人以上)別ウインドウで開きます
I-特-18表 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」に登録の事業主数(301人以上)

I-特-18表[CSV形式:1KB]CSVファイル

データベースへの「行動計画の公表」「情報の公表」の掲載の有無との視点から義務対象事業主を分類すると,(1)データベース上で「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行う事業主,(2)「行動計画の公表」のみを行い「情報の公表」を行わない事業主,(3)「行動計画の公表」は行わず「情報の公表」のみを行う事業主,(4)行動計画の届出は行っているものの,データベースへの掲載を行っていない事業主,(5)行動計画の届出を行っていない事業主の5つになる。5つのうち,最後の(5)に該当する事業主数は僅かであることから,義務対象事業主について大きくは,(1)から(4)の4つのグループに分類できる。事業主はデータベースに登録する際には,企業名,企業規模(人数)14,業種,本社所在地についての情報を必ず登録する必要がある。この情報を活用し,義務対象事業主の中で,データベースに登録する企業の業種や掲載している情報について簡単に分析する15

データベースに登録する事業主数を業種別に整理すると,登録数が多い順に,製造業2,179(登録事業主に占める割合28.3%),卸売業・小売業1,318(同17.1%),サービス業(他に分類されないもの)161,181(同15.3%),医療・福祉676(同8.8%),情報通信業466(同6.0%)となっている。さらに,各業種において,データベース上で「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行い,情報開示に積極的であると捉えられる事業主の数をみると,多い順に製造業1,178,卸売業・小売業592,サービス業(他に分類されないもの)561,情報通信業296,金融業・保険業253となっている。業種別にデータベースへの登録事業主に占める「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行う事業主の割合を見ると,金融業・保険業が68.6%,不動産業・物品賃貸業65.2%,情報通信業63.5%となっている(I-特-19図)。

I-特-19図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」に登録の事業主数(業種別,301人以上)別ウインドウで開きます
I-特-19図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」に登録の事業主数(業種別,301人以上)

I-特-19図[CSV形式:1KB]CSVファイル

14データベースでは,事業主が企業規模を登録しているため,常時雇用する労働者数ではなく,従業者数等の規模を登録している場合もある。

15行動計画を都道府県労働局に届け出ている事業主について,企業規模や業種等についての情報が厚生労働省から公表されていないため,ここでは「女性の活躍推進企業データベース」に掲載されている企業情報に基づき分析することとしている。

16廃棄物の処理に関わる技能・技術等を提供するサービス,物品の整備・修理に係る技能・技術を提供するサービス,労働者に職業をあっせんするサービス及び労働者派遣サービス等が含まれる。

義務対象事業主は,前述のとおり,データベースへの掲載の有無から大きく4つのグループに分けられるが,データベース上で「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行い,情報開示に比較的積極的であると捉えられる事業主(登録事業主数3,875)のグループを対象に,情報公表されている項目数と情報公表する項目の種類を分析した。データベースには13項目に分類されて掲載されていることから17,データベース上の13項目の分類を用いて分析すると,1事業主あたりの情報公表は平均5.2項目であり,1項目のみを公表する事業主が717(データベースへの登録事業主総数の18.5%)と最も多い一方,13項目全ての公表を行う事業主数は192(同5.0%)であった。(I-特-20図)。規模別で比較すると,企業規模が大きいほど,公表項目数が多くなる傾向にある。「5,001人以上」の事業主では,13項目全ての公表を行う事業主が全体の15.8%を占めるとともに,全体の4割程度の事業主が13項目のうち,10項目以上の公表を行っている。

I-特-20図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」において情報公表される項目数別ウインドウで開きます
I-特-20図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」において情報公表される項目数

I-特-20図[CSV形式:1KB]CSVファイル

17事業主行動計画策定指針では,情報公表項目として14項目が定められているが,データベースでは,「男女の平均継続勤続年数の差異」と「10事業年度前及びその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合」が別の項目ではなく,「男女の平均継続勤務年数の差異又は男女別の採用10年前後の継続雇用割合」と一つの項目とされて,13項目として整理されている。

次に,データベース上で「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行う事業主がどのような項目について情報公表を行っているのかを調べてみると,13項目のうち,一般事業主が行動計画の策定にあたり状況把握すべきとされる4項目((1)採用した労働者に占める女性の割合,(2)継続勤務年数の男女差等,(3)超過勤務の状況(労働者一人当たりの各月の法定時間外労働時間等),(4)管理職の女性割合)について,「5,001人以上」と「1,001~5,000人」の大規模な企業では,この4項目が情報公表の項目として選択されることが多い上位4項目であった(I-特-21図)。この4項目以外では,「労働者に占める女性労働者の割合」についても公表する事業主が多く,「501~1,000人」「301~500人」の企業では,4項目の一つである「一月当たりの労働者の平均残業時間」よりも公表の割合は高くなっている。

I-特-21図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」における各項目の情報の公表割合(規模別,301人以上)別ウインドウで開きます
I-特-21図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」における各項目の情報の公表割合(規模別,301人以上)

I-特-21図[CSV形式:2KB]CSVファイル

(300人以下の民間事業者等の自主的な取組)

女性活躍推進法では,行動計画の策定等が常時雇用の労働者300人以下の事業主に対しては努力義務とされているが,こうした300人以下の事業主のうち2,155は自主的に行動計画の策定・届出を行っている(平成28年12月末現在)。自主的に行動計画を策定・届出する事業主のうち,データベース上で「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行う事業主は834(自主的に行動計画の届出を行う事業主に占める割合38.7%),「行動計画の公表」のみを行う事業主は725(同33.6%)であった18(I-特-22表)。さらに,300人以下の事業主のうち,100人以下の事業主について,「10~100人」と「10人未満」との合計でみると,データベース上で「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行う事業主は626,「行動計画の公表」のみを行う事業主は469と,小規模企業による自主的な行動計画の策定・届出が始まっている19

I-特-22表 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」に登録の事業主数(300人以下)別ウインドウで開きます
I-特-22表 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」に登録の事業主数(300人以下)

I-特-22表[CSV形式:1KB]CSVファイル

18データベースに「情報の公表」のみを行う事業主は683であるが,データベース上で検証はできないものの,行動計画を策定せずに情報公表のみを行っている場合が含まれる。

19厚生労働省において,行動計画の策定・届出を行う事業主について,301人以上の事業主,300人以下の事業主のいずれにおいても企業規模や業種は公表されていない。なお,一般に,行動計画の策定・届出を行う事業主のうち,データベースに行動計画の掲載等を行う事業者については,データベースから企業規模や業種がわかる。

常用雇用者数が300人未満の国内企業は約408万社20であることから,既に自主的に行動計画の策定・届出を行う事業主数は中小企業全体で見ると僅かであるが,こうした女性の活躍推進を自主的に進めようとする中小企業が増加し,女性活躍推進の裾野が広がることが期待される。自主的に行動計画の策定・届出を行う300人以下の事業主のうち,データベース上で「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行う事業主の割合は38.7%であり,301人以上の義務対象事業主のうち,データベース上で「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を企業の割合(24.6%)よりも大幅に高く,情報開示の積極性がうかがえる。

「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を公表している事業主を業種別に見ると,建設業が199と最も多く,これに続き,サービス業(他に分類されないもの)は124,製造業は106,卸売業・小売業は80で多い(I- 特-23図)。300人未満の企業に占める各業種の割合を考慮すると,建設業やサービス業(他に分類されないもの)において,情報開示が積極的であると言える。

I-特-23図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」に登録の事業主数(業種別,300人以下)別ウインドウで開きます
I-特-23図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」に登録の事業主数(業種別,300人以下)

I-特-23図[CSV形式:1KB]CSVファイル

20総務省「平成26年経済センサス-基礎調査」においては,常用雇用者数による企業規模の区分は,0~4人,5~9人,10~19人,20~29人,30~49人,50~99人,100~299人,300~999人,1,000~1,999人,2,000~4,999人,5,000人以上の11区分となっている。このため,299人以下の企業規模となる,0~4人,5~9人,10~19人,20~29人,30~49人,50~99人,100~299人の7区分のいずれかに分類される企業の総数を,女性活躍推進法に基づく行動計画の策定等が努力義務とされる300人以下の事業主の総数と便宜的に比較している。

300人以下の事業主がデータベース上に掲載する「情報の公表」の項目数や情報公表する項目の分野について,データベース上で情報公表を行う301人以上の事業主と比較してみた。300人以下の事業主においても301人以上の事業主と同様に,行動計画の策定にあたり状況把握すべきとされる4項目((1)採用した労働者に占める女性の割合,(2)継続勤務年数の男女差等,(3)超過勤務の状況(労働者一人当たりの各月の時間外労働時間等),(4)管理職の女性割合)の公表割合が高いが,この4項目以外の「労働者に占める女性労働者の割合」の公表割合も高い。301人以上の事業主では,公表割合が高い順から,「継続勤務年数の男女差等」「採用した労働者に占める女性の割合」となるのに対し,300人以下の事業主では,「採用した労働者に占める女性の割合」が最も高く,「労働者に占める女性労働者の割合」も同程度に公表割合が高い(I-特-24図)。

I-特-24図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」における各項目の情報の公表割合(301人以上,300人以下)別ウインドウで開きます
I-特-24図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」における各項目の情報の公表割合(301人以上,300人以下)

I-特-24図[CSV形式:9KB]CSVファイル

5.企業における女性の活躍状況についての「見える化」
(資本市場における女性活躍企業の評価の動き)

我が国においては,少子高齢化による人口減少社会への突入の中で,日本企業の中長期的な収益性・生産性を高めることが従来に増して重要である。企業の持続的な成長と中長期的な投資リターンの拡大に向け,平成26年2月には機関投資家の行動原則である「スチュワードシップ・コード」が策定・公表され,27年6月からは東京証券取引所における全ての上場企業に対する「コーポレートガバナンス・コード」の適用が開始された。中長期的な投資のリターンを引き上げるためには,企業の将来的な収益環境の予測が不可欠であり,銘柄判断において非財務情報の比重が増している。資本市場において中長期投資を重視する動きは国際的に高まっており,環境(E),社会(S),コーポレート・ガバナンス(G)の要素からなる情報を投資判断に組み入れるESG投資は国際的に資本市場の潮流となっている。「コーポレートガバナンス・コード」では,企業の行動原則として,株主はもとより幅広い「ステークホルダーとの適切な協働」を通じた企業価値の向上が明記され,「社内における女性の活躍推進を含む多様性の確保を推進すべきである」とされている。27年3月期の有価証券報告書から役員の男女別人数及び女性比率の記載が義務付けられた。また,24年度から,東証一部上場企業の中から女性活躍推進に優れた上場企業を「なでしこ銘柄」として経済産業省と東京証券取引所が共同で選定・公表する取組も行われている。27年9月,年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が,スチュワードシップ責任を果たす一環として,国連が提唱している責任投資原則に署名し,資金運用において投資先企業のESG(環境・社会・ガバナンス)を適切に考慮することを公表したことに代表されるように,我が国の資本市場でESG投資が拡大しつつある。女性の活躍推進は,多様な人材を活かすマネジメント能力や環境変化への適応力があるという点から,ESGの重要な要素であり,株価指数の構成銘柄の選定において,各企業の女性活躍推進の状況や取組が考慮されることも少なくない等,各企業の女性活躍についての情報に対する投資家のニーズは高まっている。

企業における女性の活躍状況の「見える化」を推進することで,求職者や投資家が企業間の比較をしやすくなり,女性の活躍推進に積極的に取り組む企業が,求職者や投資家から評価を受け,有能な人材や多くの資金を集めやすくなるといった,情報開示によりマーケットメカニズムが作用し,企業の収益性・生産性の向上につながるという流れが多くの企業に広がり,社会全体として女性の活躍が自律的に加速・拡大していくことが期待される。

(「女性の活躍推進企業データベース」における情報充実についての重要性)

企業における女性の活躍状況の「見える化」については,内閣府「女性の活躍『見える化』サイト」の開設をはじめとして,女性活躍推進法の施行前から進められてきた。女性活躍推進法の施行に伴い「女性の活躍『見える化』サイト」の情報は厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」に移管された。「女性の活躍推進企業データベース」では,女性活躍推進法に基づく「行動計画の公表」や「情報の公表」を事業主自らが随時掲載でき,一般に公開されている。「女性の活躍推進企業データベース」に掲載されている企業情報の状況を見ると,女性活躍推進に基づき行動計画の策定等が義務付けられている事業主(義務対象事業主)について,同データベース上に「行動計画の公表」と「情報の公表」の両方を行う事業主は3,875と全体の4分の1程度であり,「行動計画の公表」「情報の公表」のいずれかのみを行う事業主を含めても,7,706事業主と義務対象事業主の半数程度の登録になっている(I-特-25図)。

I-特-25図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」への登録状況(301人以上)別ウインドウで開きます
I-特-25図 厚生労働省「女性の活躍推進企業デ-タベ-ス」への登録状況(301人以上)

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今後,「女性の活躍推進企業データベース」上で「行動計画の公表」や「情報の公表」を行う企業が増加するとともに,各社が掲載する自社の女性活躍の状況や取組についての情報の充実によって,求職者や投資家等が,同データベース上で各企業の女性活躍についての情報を一元的に閲覧でき,企業間の比較が行いやすくなることで,結果的に企業に対するモニタリングが働きやすくなる。求職者や投資家等による市場を通じたモニタリングが有効に働き,企業による女性活躍の取組を加速・拡大させていくため,「女性の活躍推進企業データベース」での情報の充実をはじめとする「見える化」の推進が一層重要となる。

6.企業における女性の活躍を推進するためのインセンティブの付与
(女性の活躍推進に積極的に取り組む企業の認定~「えるぼし」認定~)

行動計画の策定・届出をした一般事業主について,女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良な事業主は,都道府県労働局への申請により,厚生労働大臣の認定を受けることができる21。認定を受けた企業は,厚生労働大臣が定める認定マークである「えるぼし」を商品などに付けることができる。認定のための評価項目は,(1)採用,(2)継続就業,(3)労働時間等の働き方,(4)管理職比率,(5)多様なキャリアコースの5つであり,認定段階は,評価項目の基準を満たす項目数に応じて3段階ある。5つの評価項目の全てを満たす場合には,評価が最も高い「認定段階3」,3~4の評価項目を満たす場合には「認定段階2」,1~2の評価項目を満たす場合には「認定段階1」となる(I-特-26表,I-特-27表)。「えるぼし」の認定企業は平成28年12月末現在で215社であり,内訳は,「認定段階3」が145社,「認定段階2」が70社,「認定段階1」の企業はない。

I-特-26表 「えるぼし」認定の基準別ウインドウで開きます
I-特-26表 「えるぼし」認定の基準

I-特-27表 「えるぼし」認定の段階別ウインドウで開きます
I-特-27表 「えるぼし」認定の段階

21申請は各都道府県労働局で随時受け付けており,基準を満たせば,都度認定される。

「えるぼし」認定企業を企業規模別にみると,常時雇用者数が1,001~5,000人が96社(認定企業総数に占める割合44.7%),5,001人以上が62社(同28.8%)と,1,001人以上の大企業が認定企業総数の7割超を占める(I-特-28図)。他方,女性活躍推進法による行動計画の策定・届出が努力義務となっている300人以下の企業においても12社が認定を受けている。認定企業を業種別にみると,「金融業,保険業」が47社(認定企業総数に占める割合21.9%)と最も多く,続いて,「卸売業,小売業」が45社(同20.9%),「製造業」が38社(同17.7%),「情報通信業」が32社(同14.9%),「サービス業(他に分類されないもの)」が19社(同8.8%)と,これらの5つの業種で認定企業全体の84%程度を占める(I-特-29表)。総企業数に占める業種別の企業数の割合を考慮すると,「金融業,保険業」が他産業に比べ,積極的に認定を取得しているといえる。

I-特-28図 企業規模別の「えるぼし」認定企業数と認定企業総数に占める割合別ウインドウで開きます
I-特-28図 企業規模別の「えるぼし」認定企業数と認定企業総数に占める割合

I-特-28図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-29表 業種別の「えるぼし」認定企業数と認定企業総数に占める割合別ウインドウで開きます
I-特-29表 業種別の「えるぼし」認定企業数と認定企業総数に占める割合

I-特-29表[CSV形式:1KB]CSVファイル

(「えるぼし」認定企業の経験から得られる課題)

「えるぼし」認定企業について,「認定段階3」の企業は145社,「認定段階2」の企業は70社であった。「認定段階2」の取得のためには,5つの評価項目のうち,3~4の項目の基準を満たさなければならないが,「認定段階2」の70社のうち,4つの評価項目の基準を満たす企業は54社,3つの評価項目の基準を満たす企業は16社であった(I-特-30表)。見方を変えれば,「認定段階2」の企業は,1~2の評価項目の基準を満たせなかったため,「認定段階3」が取得できなかったことになる。「えるぼし」認定企業の企業名や認定段階については,厚生労働省や都道府県労働局のホームページにおいて公表されているが,都道府県労働局のなかには,管内の認定企業について,5つの評価項目のうち,いずれの項目の基準を満たしたのか,どの程度の水準(数値)で当該評価項目の基準を満たしたのか,基準を満たせなかった評価項目があるのはどのような理由によるものなのか,といった詳しい情報を公表しているところもある。企業が認定取得の取組を通じて得た課題は,他の企業にとっても課題となっていることが少なくない。そこで,「認定段階2」の70社について,都道府県労働局のホームページ上の公表情報や,内閣府男女共同参画局が認定企業に必要に応じて行ったヒアリングに基づき,女性の活躍推進に積極的な企業でありながら,「認定段階3」を取得できなかった理由を分析し,認定取得にあたっての各企業の課題を整理してみた。

I-特-30表  「えるぼし」認定段階2の企業の基準達成状況と各評価項目の基準を未達成の企業数別ウインドウで開きます
I-特-30表  「えるぼし」認定段階2の企業の基準達成状況と各評価項目の基準を未達成の企業数

I-特-30表[CSV形式:1KB]CSVファイル

「認定段階2」の70社について,5つの評価項目のうち,「継続就業」と「管理職比率」については,いずれの項目も30社が,「採用」の項目については24社が基準に達していなかった。女性の活躍推進に積極的に取り組む企業にとっても,「継続就業」「管理職比率」「採用」の項目についての基準を満たすのは容易でないようである。そこで,「認定段階2」の認定企業にヒアリングを行い,「採用」「継続就業」「管理職比率」の評価項目の基準を達成するため各社が苦慮している事情を聴取した。「採用」の評価項目については,(1)女性の応募者が多いが,採用は男女のバランスを重視するため,結果的に女性の競争倍率が高くならざるを得ないこと,(2)足下では女性の採用を増やしたが,直近3事業年度分の競争倍率が基準となっているため,過去の事業年度の実績の影響で基準を満たせないこと,といった課題があげられた。「継続就業」の項目については,(1)仕事と育児等との両立支援の取組を本格的に始めたのがこの数年であるため,まだ数値の上で成果が出るには至らず,男性に比べ女性の勤続年数が短くなってしまうこと,(2)24時間体制での工場での交代勤務の雇用管理区分について,性別に関わらず募集を行っているが,女性の応募がないため,結果的に社員構成が男性のみとなってしまうこと22があげられた。「管理職比率」の項目については,(1)自社において,管理職に占める女性比率を徐々に引き上げているが,女性の多い業種であるため,基準となっている当該業種の平均値を上回るのは容易ではないこと,(2)理系出身の社員が多い企業のため,従来から女性の応募者数が少なく,管理職の年次に達する女性社員が依然,少ないこと,(3)女性の採用・育成の取組を始めてから10~15年程度であり,管理職手前の段階となる人材がようやく育成されてきたところで,管理職の年次に達する人材がいないことが課題としてあげられた。

22男性のみ又は女性のみの雇用管理区分がある場合,平均勤続年数を男女で比較することができないため,「継続就業」の基準を満たすことができない。

(公共調達等を通じたポジティブ・アクションの推進)

女性活躍推進法では,公共調達における公平性及び経済性を確保しつつ,女性活躍推進に積極的な一般事業主に受注の機会の拡大を図ることにより,一般事業主の自主的なポジティブ・アクションを後押ししようとしている。このため,公共調達のうち,国が価格以外の要素を評価する調達(総合評価落札方式,企画競争)を行う場合には,「えるぼし」認定企業等,ワーク・ライフ・バランス等推進企業は加点評価される。平成28年度末までに,国の26機関全てにおいて加点評価の取組が開始されたほか,独立行政法人等においても,28年度中に加点評価の取組が開始されており,29年度中に,全ての独立行政法人等において,原則全面実施される予定である23。また,女性活躍推進法において国に準じた取組が努力義務とされている地方公共団体についても,28年3月,内閣府男女共同参画局長から各都道府県知事・政令指定都市市長に対し,国の公共調達に関する取組に準じた取組を行うように依頼しており,同年11月1日現在,都道府県では1団体,政令指定都市では4団体で国の基準に準じた加点評価の取組が実施されている24。「えるぼし」認定企業は,国や地方公共団体における公共調達の加点評価に加え,日本政策金融公庫からの設備資金や運転資金の借入において,基準利率から0.65%低い利率での低利融資を受けることができる。都道府県や政令指定都市のなかには,国の公共調達に関する取組に準じた取組のほか,独自の認定制度等により,ワーク・ライフ・バランス等推進企業を公共調達で加点評価する取組を実施している団体もある。都道府県では17団体,政令指定都市では12団体で,総合評価落札方式において独自の加点評価の取組が実施されている(28年11月1日現在)。さらに,社会全体でワーク・ライフ・バランス等の実現に向けた取組を進めるため,2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会や民間企業等の各種調達においても,国と同様の取組が進むよう働きかけを行っている。

23「すべての女性が輝く社会づくり本部」(平成28年3月22日)において,「女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針」が決定され,本指針に基づき,同日,内閣府特命担当大臣(男女共同参画)が,「女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する実施要領」を定めた。同月25日に,男女共同参画局長から各府省に対し,各府省及び所管の独立行政法人等において,取組指針及び要領に基づき,取組を進めるよう依頼を行った。

24都道府県は2団体,政令指定都市は1団体が,国に準じた加点評価の取組を今後実施予定としており,都道府県は9団体,政令指定都市は4団体が検討中である。

7.中小企業における女性の活躍推進に向けた取組の促進

厚生労働省の分析25によれば,女性の活躍に向けて多くの企業に共通する課題として,「女性の採用の少なさ」「第一子妊娠・出産前後の就業継続の困難さ」「男女を通じた長時間労働」「女性管理職の登用」があげられ,こうした課題への各企業の対応策として,まず,自社の現状を分析した上で,(1)女性の採用が少ない職種等について,数値目標を立てる等により,女性の採用比率を高めること,(2)配置部署の拡大や幅広いジョブローテーション等で,女性社員の職域拡大や育成を図ること,(3)社員のニーズを踏まえた両立支援や長時間労働の削減等により,女性社員の定着を図ること,(4)数値目標の設定や管理職候補に対する研修等により,女性の管理職登用を図る等の取組を行うことが示されている。

常時雇用する労働者が300人以下の一般事業主の場合,行動計画の策定・公表等は努力義務であるが,少子高齢化が進み,働き手が減る中で,有能な人材を確保し企業競争力を高めるためには,300人以下の企業においても,女性活躍の重要性が理解され,取組を加速させていくことが重要である。しかしながら,多くの中小企業では,法律の趣旨や目的が十分に周知されていない,あるいは,法律の趣旨は理解されていても,事務処理負担が大きい,ノウハウが少ないといった課題がある。そこで,厚生労働省では,中小企業に対して女性活躍推進法に基づく取組方法や行動計画策定,「えるぼし」取得等についての理解を深めてもらい,各社での実践に役立ててもらうため,委託事業により各都道府県において中小企業の人事労務担当者向けのセミナーの開催や,女性活躍推進分野の企業支援専門家である「女性活躍推進アドバイザー」による個別相談の体制を整備している。また,女性活躍推進に取り組む企業を講師とした女性活躍推進の具体的な取組内容や企業経営における利点等についてのシンポジウムが全国4か所で開催された。

300人以下の企業を対象として,自社における女性の活躍に関する状況把握・課題分析を行った上で,課題解決にふさわしい取組目標(数値目標を達成するための取組)及び数値目標を盛り込んだ行動計画を策定・公表し,取組を行った結果,目標を達成した企業に対して,取組目標達成時と数値目標達成時に段階的に助成金を支給する支援策も実施されている26

地方公共団体においても,女性活躍推進法に基づく都道府県推進計画等において,中小企業における女性活躍推進を重要な柱に位置づけ,行動計画の策定のための支援等を積極的に行う自治体もある。さらに,業種の間で,就業者数に占める女性割合等に差異があり,女性活躍推進を巡る現状や課題も業種別に違うことが少なくないため,所管業界の実情をよく知る行政機関と業界団体・企業との連携事業も有効な手段となる。国土交通省における取組の一例として,官民が連携して取組を行う「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」(国土交通省と建設業5団体が策定)や,行政機関が情報発信や普及啓発等を行う「トラガール(女性ドライバー)促進プロジェクト」がある。

こうした行政による支援は中小企業における女性活躍の推進に資するものであるが,当然ながら,各企業の主体的な取組が最も求められる。そこで,行動計画の策定等が努力義務でありながら,自主的に行動計画の策定等を行い,女性活躍推進に積極的に取り組んでいる中小企業の事例を集め,各企業がどのように課題解決に取り組んでいるのかという視点から整理を行い,他の中小企業にも参考になりうるヒントとしてまとめてみた(I-特-31表)。事例としてあげた企業等では,女性が少ない業種・職種における女性の採用拡大,女性の職域拡大や育成,正社員転換等を通じた女性の継続雇用,女性の管理職登用の拡大といった多くの中小企業が直面する大きな課題に対して,各社独自の知恵を出し,同業他社との連携等も活用しつつ,課題解決のために意欲的な取組が進められている。

25平成27年度厚生労働省委託事業「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画策定支援マニュアル」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

26平成28年度は,取組目標達成時に30万円,数値目標達成時に30万円を支給した。なお,常時雇用する労働者が301人以上の企業については,数値目標達成時のみ助成金を支給している。

I-特-31表 女性活躍推進に積極的な中小企業の経験から得られるヒント別ウインドウで開きます
I-特-31表 女性活躍推進に積極的な中小企業の経験から得られるヒント

事例1

印刷業界で他社に先駆けて女性営業職を採用
株式会社金羊社(印刷業,従業員数290人,東京都大田区)

えるぼし

昭和61年の男女雇用機会均等法の施行を機に,前社長が,優秀な人材を広く集めるために,性別に関係のない人材登用を始めた。印刷業界では女性の営業職の前例がほとんどなかったため,当初は取引先の理解を得ることに苦労したが,営業能力には性別による差はなく,半年で,それが実例をもって証明される結果となった。

印刷業は力仕事が多く,男性中心の職場だったが,オートメーション化を進め,女性の職域が拡大した。そのため女性社員が増えたが,職域が拡大しても,女性自身が職場のリーダーになることに対して戸惑いがあったため,リーダー育成の仕組みづくりとして,複数の社内委員会を立上げ,若手・中堅社員に全体の運営・管理や議事進行を任せることで,マネジメントの経験を積ませた。これが良い訓練の場となり,男女ともに若手社員が,管理職への意欲を持つ契機となった。管理職に占める女性比率が8.6%(46名中4名)と,業種平均(4%)を上回る。生え抜きの女性役員も誕生し,女性管理職にとってロールモデルとなっている。

平成29年2月,厚生労働大臣より「えるぼし」の最高段階に認定された。

事例2

普通免許で運転できる小型トラック配備等,女性が応募しやすい環境整備
株式会社脇地運送(運輸業,従業員数100人,広島県広島市)

近年,不規則な勤務形態や賃金水準が低いといった理由で,トラック運転手への応募が減る中で,性別を問わず,意欲ある人材の確保が課題となっていることから,他社に先駆けて,厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」で情報公表と事業主行動計画の公表を行った。同社のホームページでは,「女性支援」のページを設け,国土交通省「トラガール促進プロジェクト」の趣旨に賛同し,女性ドライバーの採用・育成に力を入れていることを発信している。

女性ドライバーには,積込,検品,配送,納品までの行程を一人で行いやすいよう,日用雑貨や家庭用品等の軽量の荷物を積み合わせて異なる配送先に運搬する,いわゆる「小口配送」を担当させるといった工夫をしている。また,以前は,トイレの入口が一つで,中で男性用,女性用に分かれる構造だったが,トイレに入りづらいとの女性社員の声を受け,男性用と女性用のトイレの場所を別にし,併せて和式から洋式に変えるなどの工夫をした。

普通免許でも運転できる小型トラック(AT車)を導入し,普通免許でドライバーとして働けることをハローワークの求人票に記載することなどで,女性の採用を進めている。平成29年3月現在,2名の女性ドライバーが勤務し,30年度末までに更に1名以上の新規採用を行う計画である。

事例3

女性の活躍が周知されたことで,女性の職人志望者の応募が増える好循環
有限会社原田左官工業所(建設業,従業員数42人,東京都文京区)

左官業界では,高齢化による職人の急減が大きな課題となっている。約30年前に,同社の事務職の女性から,現場に出てみたいとの申し出があったのを機に,男性の仕事という意識を変え,女性を職人として積極的に登用し,それが,ベテラン職人の在籍と技術の継承にも寄与している。

育成方法は先輩の仕事ぶりを見て体で覚えるというのが従前の技術継承のやり方であったが,仕事と家庭との両立で時間の制約がある女性や,「見て盗む」やり方に馴染めない若者も増えている。現場に出る前に技術を身に付けるため,ベテラン職人の動きをビデオで撮影し,その動きを真似て練習を行う「モデリング」を導入し,技術の習熟と継承を図っている。現在,8名の女性左官職人が在籍し,同社の女性左官職人が,職人として技能を磨き活躍する姿が様々なメディアで取り上げられ,多くの人に知られることで,女性の職人志望者が集まるという好循環も生まれた。この好循環を継続するために,いち早く,厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」で情報公表を行った。

公正な人事評価で社員の意欲を高めるため,性別や年齢でなく,「職能マップ」に基づいて,一定の基準を満たした社員を管理職として登用する人事方針を採っている。管理職に占める女性比率は4割(10名中4名)と,業種平均(1.1%)を大きく上回る。

事例4

洗面・シャワーを設置するなど,現場で働く社員の就労環境を整備
株式会社長岡塗装店(建設業,従業員数25人,島根県松江市)

建設業を志望する若者が減り,社員の高齢化により,業務に必要な国家資格を有する社員がいなくなるのではという危機感を経営陣が持ったことから,女性役員の主導により,女性技術者を積極的に採用している。また,工事現場に一人以上必要とされる土木施工管理技士などの国家資格取得を支援すること等により,若手社員を計画的に育成している。管理職に占める女性比率は5割(4名中2名)と,業種平均(1.1%)よりはるかに高く,4年前に技術者として入社し,現場監理者となった女性社員も誕生している。

3名の女性技術者が勤務するが,現場に女性用の洗面・シャワー施設を設置するなど,女性が働きやすい環境整備を行い,女性技術者の就業を支援するとともに,平成29年度末までに,新たに女性技術者を採用する計画である。求職者などに,女性が活躍できる企業であることを知ってもらうために,厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」で情報公表と事業主行動計画の公表を行った。

事例5

同業他社との知見やノウハウの共有
全国低層住宅労務安全協議会(東京都墨田区)

全国低層住宅労務安全協議会は,新宿労働基準監督署を始め,東京労働局の協力の下,首都圏の住宅メーカーや専門工事店等が集まり,低層住宅建設の労働災害撲滅のための方策を協議するために平成元年に発足し,平成29年3月現在,大企業から中小企業まで63社が加盟している。27年8月から,官民の女性活躍の動きを受けて,各社の女性技術者を参加者とする「女性技術者情報交換会」を開催し,第1回会合には,各社から約40名の女性技術者が参加し,育児休業取得直後に,現場復帰するための休業中の知識や技術の維持の方法など,社内にノウハウや経験がないことについて他社の好事例の共有を行った。ヘルメットや安全帯などの保護具メーカーの社員が参加する機会も設け,工事現場の装備品の使いにくい点をメーカー側に直接伝えるなどの取組も実施した。27年11月には,同協議会の安全衛生研修会の場で,女性技術者情報交換会からの提言を発表し,情報交換会に参加していない企業の労務管理者等に対しても,工事現場の安全を確保しつつ,女性が働きやすい職場とするための工夫などを共有した。

本意見交換会は,平成28年度から,「じゅうたく小町部会」として同協議会の常設部会として活動している。

事例6

自社の中核である生産現場への女性の配置
朝倉染布株式会社(繊維工業,従業員数98人,群馬県桐生市)

えるぼし

繊維製品への染色業を行う同社は,これまでも,育児・介護の負担のある社員の継続就業に熱心に取り組んでおり,群馬労働局からの制度の案内をきっかけとして,「えるぼし」を申請・取得した。平成28年末現在,桐生市で唯一,「えるぼし」を取得している企業である。

染色後の検査や品質管理の業務には従来から女性社員が多く,取引先ごとに異なる検査基準等を把握するなど,技能と経験が求められる。スキルを持つ社員に長く働いてもらいたいという考えの下で,両立支援制度を充実させるほか,専門知識や技能水準を社内の資格要件等により評価し,面談の上,社内の人事委員会を経て,資格等級が一定以上の者を管理職に登用するなどの取組の結果,管理職の女性比率は12.5%(8名中1名)と,業種平均(6.5%)より高く,管理職の一つ手前の監督・指導職の女性比率は37.5%となっている。

他方,二交代制の染色と仕上げの生産現場に女性が少ないことから,女性の職域を拡大するため,女性が生産現場で働く際の問題点の調査や,女性社員の意向確認を行った上で,染色の現場に女性社員を新たに配置した。染色現場では,染色後の布が積まれた500キログラム近いワゴンを移動するなどの力仕事があるため,女性を配置するに当たり,新たにバッテリーカーを導入した。職場環境の整備は,男性社員の健康や安全を守るという副次的な効果もある。

今後は,染色後の布を乾燥・プレスする仕上げの現場でも,女性が働く際の問題点を調査し,問題を解決する措置を取った上で,女性社員の職域拡大を図るとともに,生産現場に配置された女性社員が,女性に向いている等の理由で特定の工程に長期間留め置かれることを避け,多能工化によるキャリア形成を支援する予定である。

事例7

軽量の器具や機材の導入等により,生産現場に女性を配置
株式会社太陽堂封筒(その他製造業,従業員数26人,東京都新宿区)

社長が女性であり,中小の印刷関連業者の全国団体である全日本印刷工業組合連合会の数少ない女性の役員を務めた経験を持つ。平成26年度に,同連合会の発案で,同連合会に女性活躍推進室が設置され,27年度までの2年1期間,同社長が初代室長を務めた。同連合会には,全国約5,000の印刷会社が加盟するが,力仕事が多い等の事情から多くは男性中心の職場であり,女性社員がゼロの職場等もあったことから,同社が事業主行動計画の策定を行うことで,他社の参考となり,女性活躍の取組が横展開される契機となり得るのではないかと考え,いち早く女性活躍推進の取組を進めた。

社内で経理や営業事務,製品検査など幅広い職種で女性社員が働くが,生産現場に女性の配置が少ない。女性の職域を更に拡大するため,軽量の器具,女性の体格等に適した加工機械,操作しやすい機材の導入など,生産現場で女性が働きやすい環境整備を進め,現在女性オペレーター3名が活躍し,平成30年度末までに,生産ラインに新たに女性社員を配置する計画である。

社員の4割が女性であるが,平成28年末現在,管理職の女性がいないため,管理職候補となる女性を対象に,管理職としての能力を身に着けるための教育を実施し,30年度までに,女性管理職の育成を図る計画である。

事例8

非正社員の積極的な正社員転換
株式会社エスプリライン(教育・学習支援業,従業員数266人,埼玉県川越市)

えるぼし

従業員に占める女性比率が59.8%(業種平均56.7%)と高く,管理職に占める女性比率も,66.7%と,従業員の女性割合を上回る水準であり,業種平均(17.3%)よりも大幅に高い。役員に占める女性の割合も3分の1(12名中4名)と高いが,多様な人材により職場が活性化するという考えの下,女性や外国人などの採用・登用を積極的に進めてきた人事方針の結果である。

いずれの業種でも,男女の勤続年数を比較すると,男性の方が長いのが通常だが,同社では,女性の方が男性より1年3か月長い。これは,直近3事業年度の間に,40名(うち32名は女性)の契約社員を正社員に転換するなど,性別や雇用形態に関わらず,優秀な人材を登用する取組を進めたことによる。

従業員数が300人近くまで増えたことがあり,早めの対応として人事担当者の判断の下,自主的に事業主行動計画の策定・届出を行った。女性社員が多く,育児休業の取得や女性管理職が当然という企業風土を優れた点として対外的に示し,優秀な人材の採用につなげるため「えるぼし」の認定も受けた。平成28年末現在,川越市で唯一,「えるぼし」を取得した企業である。

事例9

非正社員の正社員転換や管理職登用,幅広い職種転換
株式会社日本レーザー(卸売業・小売業,従業員数60人,東京都新宿区)

レーザー専門商社として,日本電子(株)(電子光学機器メーカー)の100%出資により創業したが,親会社が人事や予算の決定権を持つことで,柔軟な人材活用や適時の取引ができないとの問題意識から,平成19年,日本初のMEBO(Management and Employee Buyout; 従業員と経営陣が一体となって,買収対象の株式を買い取り,その企業の経営権を掌握すること)により,親会社から完全独立した。

現社長の社長就任時(平成6年当時)は債務超過に陥り,役員や社員だけでなく,重要な顧客も失った経験から,年齢や学歴,性別等に関わらず,公正な人事評価と能力主義を徹底した。その結果,派遣社員やパート社員から管理職への登用も行われ,経理課長は,派遣社員から正社員転換の社員であり,28年4月には,在宅勤務の非正社員が販促課長に就任した。女性の職域拡大のため,職種の転換も広く行われ,事務職として採用された女性が,営業職に職種転換している。仕事と育児や介護との両立が必要な社員であっても,一律に短時間勤務や出張等の免除をするのでなく,本人の意欲と能力に応じ,可能な限り,以前と同じ職務をこなしてもらうとの考えの下,育児をしながら海外出張を行う女性営業職もいる。他方で,事情によっては,フルタイム勤務が困難な社員もいるため,テレワークや短時間勤務,フレックス勤務などを導入したほか,配偶者の海外転勤を機に退社を悩んでいた女性社員に対し,海外の自宅をSOHOと位置づけてテレワークを認めたこともある。社員だけでなく,取引先や求職者にも,自社における女性の活躍や人材育成を知ってもらうため,厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」で情報公表と事業主行動計画の公表を行った。

管理職の3分の1(18名中6名)が女性であり,同業他社(業種平均は5.1%)と比べて,管理職への女性の登用等は進むが,後継者を育成するため,4段階(中堅社員・幹部・執行役員・経営トップ)毎に数か月~1年の外部研修を行うなど,初の女性執行役員登用も視野に,計画的な人材育成を進めている。

事例10

業界の全国ネットワークを活かし,信用金庫職員の再就職を支援
一般社団法人全国信用金庫協会(東京都中央区)

信用金庫は事業地域が限られた金融機関であるため,職員が,配偶者の転勤や親の介護のために遠隔地に転居する場合には,退職せざるを得ないケースが多い。そこで,全国264の信用金庫を会員とする全国信用金庫協会は,北海道から沖縄まで全都道府県に所在する信用金庫の全国ネットワークを活かし,職員が結婚や配偶者の転勤,親の介護など,やむを得ない事情による転居で退職せざるを得ない場合に,転居先にある信用金庫への再就職を支援する制度「しんきん再就職支援ネットワーク」を平成27年9月に発足させた。

この制度を活用すれば,職員が転居後も信用金庫で働き続けたいとき,所属している(所属していた)信用金庫から,退職予定者(退職者)は転居先にある信用金庫の情報提供を受け,転居先にある信用金庫は退職予定者(退職者)の経歴等の情報提供を受ける。その結果,双方のニーズが合致すると,職員は転居先でも経験を活かし信用金庫で働くことができる。受入先の信用金庫にとっては,業務に必要な資格や同じ業界での経験を持つ即戦力の人材を確保できる。また,信用金庫業界では全信用金庫の約9割が同じシステムを利用していることから,職員にとっても再就職先でも使い慣れた端末で業務を行うことができるなど,信用金庫と職員双方にとってメリットが大きいものとなっている。

制度発足時から28年3月末までの半年で,9人が転居先の信用金庫に再就職し,配偶者の転勤により東京都から福岡県に転居したケース,結婚により静岡県の東部から西部に転居したケースのほか,親の介護のために静岡県から東京都に転居した男性職員のケースなどもある。

全国64の地方銀行間でも,信用金庫の取組に先んじて,27年4月に同様の制度が導入され,地域を超えて女性の経験や能力を活かす取組が地域金融機関の間で広がっている。

事例11

計画的な人材育成と管理職登用
社会福祉法人太田福祉記念会(医療・福祉,従業員数233人,福島県郡山市)

えるぼし

介護老人福祉施設や訪問介護事業所の経営を行い,職員に占める女性比率が78%(業種平均75%)と高く,管理職に占める女性比率も69.6%(23名中16名)と高い(業種平均42.9%)。

一般に介護分野は女性労働者の比率が高いが,質の高い介護サービスを提供するため,性別に関わらず,経験とスキルを持つ職員に長く働いてもらう必要があると考え,独自の介護専門職教育マニュアルを使用した6月以上の職場内訓練を行っているほか,一定の年次に達した職員にマネジメント分野を含めた外部講師による8~10回の研修を実施するなど,職員全員に配布した研修計画に基づき,計画的に人材育成を進めている。併せて,別の施設への定期人事異動等により,新しい職場環境を5~6年程度のサイクルで経験させることは,職員の仕事に対する意欲の維持にもつながっている。

既に女性管理職の数は多いが,組織の効率的運営を図る観点から,中間管理職を増やす必要があるため,平成28年4月より,管理職育成を目的としたキャリアパスや昇格制度を含む研修実施計画の説明を行い,面接による勤務評価結果に基づいた候補者への研修にも取り組んでいる。管理職に占める女性比率を,31年度末までに,7割以上にしたいと考えている。

福島県内で初めて「えるぼし」を取得した。介護は夜勤などがあり,きつい職場のイメージを持たれがちであるが,介護職員の離職率は業種平均16.5%(注)を大きく下回る2%台半ばで推移している。職員に,職場環境の優れた点を改めて認識させ,所属する誇りと働く意欲を高めてもらうとともに,優秀な人材を集めることにもつながるため,「えるぼし」を申請し,取得した。

(注)平成27年度「介護労働実態調査」(公益財団法人介護労働安定センター)

事例12

経営トップの強いリーダーシップによる女性幹部の育成
三州製菓株式会社(食料品製造業,従業員数247人,埼玉県春日部市)

えるぼし

平成28年4月に,全国で初めて「えるぼし」を取得した企業の一つである。

現社長が埼玉県の教育委員長を務める等,学校教育にかかわっていた際に,「優秀な女子生徒が多いのに,なぜ,社会に出ると女性は男性の補佐役になるのか」と疑問を感じていたことから,1980年代末にゼロだった女性管理職を,約20年間で5名(管理職は全体で18名,女性比率は27.8%)にまで増やした。女性管理職比率は,既に業種平均(4.7%)を大きく上回るが,引き続き,女性社員を対象としたキャリア研修等を行い,現在の管理職に続く層を育成することで,平成32年末までに,女性の管理職比率を35%以上とする計画である。

意欲と能力のある社員の正社員登用にも熱心に取り組んでおり,現在,女性正社員の27%がパート勤務からの転換者で,うち2名はアシスタントマネージャーの役職を得た。

管理職の女性が多い企業でも,女性は補助的立場に回る等の傾向があるため,女性の能力を引き出し,活躍する環境を作るには,トップの強いリーダーシップが必要であるとの社長の信念により,会議での男性発言禁止タイムや,商品企画を担う社員を全員女性とするなど,他社に見られない取組も実践している。こうした大胆な改革の結果,若手女性社員が開発した新商品が社全体の売上げの1割を超えるヒット商品となるなどの成果も生まれている。

事例13

管理職候補の女性に対するキャリア支援
マイコミュニケーション株式会社(金融業・保険業,従業員数226人,愛知県名古屋市)

えるぼし

愛知県安城市が発祥で名古屋市に本社を置き,東京・名古屋・大阪の三大都市圏に100店舗の保険サービスショップを展開している企業であり,社長自身が,子育てをしながら起業した経験から,意欲や能力のある女性にその力を発揮できる場を提供したいとの想いで,女性の採用や管理職の登用に取り組んでいる。

厚生労働省の「女性活躍推進アドバイザ-」の助言を受け,平成28年11月末に「えるぼし」を取得した。

管理職に占める女性比率が,業種平均の8%に対して同社は25%(16名中4名)と非常に高い。更に今後も管理職として活躍する女性を増やしたいと考えている。同社では,管理職を目指す意向を持つ女性社員と十分なヒアリングをした上で,研修や面接試験を行い,管理職に昇進させる育成プロセスを進め,平成30年9月末までに女性の管理職比率を4割以上にする目標に取り組んでいる。

事例14

公正な人事評価制度の下での役職登用
ヒューリック株式会社(不動産業,従業員数149人,東京都中央区)

えるぼし

平成28年4月に全国で初めて「えるぼし」を取得した企業の一つである。

労働力人口が減る中で,企業が生き残りを図るには,女性が働き続けられる環境整備が不可欠であるとの社長の強い意向の下で,女性活躍の基盤整備が進められた。女性管理職のロールモデルやキャリアパスの紹介を行うほか,管理職の手前の層に対して,管理職登用に向けた意識啓発や能力向上のための研修制度を導入した。中途採用された女性社員が,中心となって立ち上げた直営ホテル事業の成功などの実績を基に,管理職に昇格した事例に象徴されるように,性別や年齢,経歴に関わらず,意欲と能力のある社員を公正に評価し,登用する方針を徹底している。女性活躍を重点課題の一つと定め,自社のホームページで女性管理職比率等の情報公表を行っている。同社の管理職に占める女性比率は,平成27年度に10.4%(48名中5名),28年度に12.3%(65名中8名)と着実に増えている。

平成24年に本社ビル内に事業所内保育所を設置し,28年末現在,社員の子供4名に加え,近隣の子供も入所し,地域における女性活躍のための社会的なインフラ整備にも貢献している。

事例15

従業員の多様性,人格,個性を尊重し,女性活躍が進むことを発信
メック株式会社(その他製造業,従業員数186人,兵庫県尼崎市)

電子基板・部品製造用薬品の開発,製造販売を行う研究開発型企業である。企業行動憲章として従業員の多様性確保を掲げており,昭和44年の創業当初から,性別にこだわらず,必要な人材を採用・処遇する方針を採ってきた。女性の平均勤続年数が,平成22年度には業種平均並みの11.7年であったが,5年間に1.5年伸び,27年度に13.2年となった。管理職に占める女性比率は業種平均(5%)を大きく上回り,取締役,執行役員の経営幹部11名のうち3名が女性で,事業の中核である研究開発部門のトップ(執行役員)にも女性が就く。女性管理職が,一部の部署に偏るのでなく,事務部門,研究部門,営業部門と,幅広い部署・職種で活躍している。

コーポレートガバナンス報告書においても,女性の登用状況や従業員に占める女性比率などの情報を開示している。

女性活躍推進法をメインエンジンとした女性活躍の加速・拡大に向けて

近年,女性の就業率は,全ての年齢階級,全ての都道府県において上昇し,女性の就業は大きく拡大した。しかし,企業等において管理的立場に就く女性の割合は,海外と比べて低く,また,正規雇用で働きたいと考える非正規雇用の女性が男性を2万人上回る149万人いること等,働く女性がその希望に応じ能力を十分に発揮しているとはいえない状況である。少子高齢化が進み,労働力不足が懸念される中,我が国の持続的発展のためには,企業の収益性・生産性の向上が不可欠であり,女性を含めた多様な人材を活かしたダイバーシティ経営が成長の鍵になる。同時に,少子高齢化によって,一人ひとりにとって仕事と育児・介護等との両立のニーズが高まることから,男女ともに多様で柔軟な働き方を実現させることが求められる。

平成28年4月,「女性活躍推進法」が全面施行され,働く女性の活躍推進には,事業主の役割が重要であるとの認識の下,国や地方公共団体のみならず,企業等も含めた事業主に対して,女性の活躍に関する状況の把握や課題の分析,行動計画の策定・公表等を義務付ける等,女性の活躍推進のための制度的枠組みが構築された。国や地方公共団体,大企業において,行動計画の策定・公表等が行われ,国や地方公共団体による支援,「えるぼし」認定や公共調達等を通じたポジティブ・アクションの推進もあり,2,100あまりの中小企業27が自主的に行動計画の策定・届出等を行った。人手不足の深刻化により,有能な人材を確保し企業競争力を高めることは中小企業にとって喫緊の課題であり,中小企業による自主的な行動計画の策定・届出等の取組が広がっていくことが重要である。女性の活躍状況やその課題は地域によって異なるため,都道府県推進計画・市町村推進計画の下,多様な主体が参画する地域の実情に応じた取組が進められるとともに,地域における民間事業者の大半は中小企業であることから,地域における女性活躍推進にとっても中小企業による取組の広がりが不可欠となる。「見える化」を推進し,資本市場や労働市場を通じて,女性の活躍に取り組む企業に対するモニタリングが有効に働き,より多くの企業が自発的に女性の活躍に取り組むようになることも重要である。少子高齢化が進む中で,社会の多様性と活力を高め,我が国経済が力強く発展していくため,女性活躍推進法の施行を契機に女性活躍推進の取組をさらに推し進め,企業や地域が自律的に女性活躍に取り組む流れを確立させ,社会全体として女性の活躍が加速・拡大していくことが必要である。

27平成28年12月末現在。