第2節 多様な働き方・暮らし方

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第2節 多様な働き方・暮らし方

(仕事と家庭生活の理想と現実)

第1節では,少子高齢化の進展により,高齢者を始めケアが必要となる層が増え,それを支える現役世代が減少する現状を見た。また,共働きが増えている一方で,育児や介護等の家庭生活においては,男性の参画が少なく,結果として多くの女性が育児や介護のために離職しているなど,負担が大きくなっている現状を見た。その中でも,子供ができてもずっと職業を続けたいと思う女性が増加していることを見た。

「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方に「賛成」あるいは「どちらかといえば賛成」と答える者は,長期的には減少傾向にあるものの,平成26年には女性で43.2%,男性で46.5%となっており,仕事と家庭生活を夫婦で分担するとの考え方も多く存在する(I-3-2図参照別ウインドウで開きます)。一方,現役世代の減少下で,日本社会が持続的に発展していくためには,「仕事」か「家庭生活」かといったいずれかの選択ではなく,一人で何役も担わなければならないケースが増えてくることも考える必要がある。

生活において「仕事」,「家庭生活」又は「地域・個人の生活」のどれを優先するかについての国民の意識を見ると,男女共に「『仕事』と『家庭生活』をともに優先」等の複数の活動をバランスよく行うことを希望する者の割合が半数以上となっている。しかし現実は,女性は「家庭生活」優先が45.3%,男性は「仕事」優先が37.7%と,「仕事」か「家庭生活」のいずれか一方を優先せざるを得ない人が多くなっている(I-特-14図)。

I-特-14図 働き方・暮らし方の希望と現実別ウインドウで開きます
I-特-14図 働き方・暮らし方の希望と現実

I-特-14図 [CSV形式:2KB]CSVファイル

今後は,男女が共に,「仕事」か「家庭生活」のいずれか一方を優先せざるを得ない状況を見直し,個人の様々な状況に応じて「仕事」と「家庭生活」のバランスがとれる多様なライフコースを選択できるようにする必要がある。

コラム2 さんきゅうパパプロジェクト

(多様な分野での女性の活躍)

前節で触れたように,働きたい,あるいは働く能力があるにもかかわらず働いていない女性が少なからず存在しており,これはいわば日本の社会の損失とも言えるが,こうした状況を解消し,幅広い分野で女性の活躍が可能となる社会を作っていくことが重要である。

産業別に就業人口の女性比率を見ると,医療福祉は75.3%,宿泊業,飲食サービス業は62.1%となっている一方,電気・ガス・熱供給・水道業は13.8%,建設業は15.0%となっている(I-特-15図)。こうした中で,従来,力仕事等様々な理由により伝統的に女性が少なかった産業や職業であっても,女性の参画が進む動きも出てきている。例えば,従来女性の少なかった保安職の女性割合について長期的な変化を総務省「国勢調査」により見てみると,女性の自衛官,警察官等,消防員2は大きく増加しており,平成22年には自衛官で1.4万人,警察官等で1.9万人,消防員で0.3万人となっている。自衛官,警察官等及び消防員の女性比率について,昭和60年と平成22年を比較すると,自衛官は2.1%から6.0%へ,警察官は3.1%から7.5%へ,消防員は0.5%から1.8%へと増加している(I-特-16図)。

I-特-15図 産業別就業者の女性比率別ウインドウで開きます
I-特-15図 産業別就業者の女性比率

I-特-15図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-16図 女性の保安職の人数及び割合の推移別ウインドウで開きます
I-特-16図 女性の保安職の人数及び割合の推移

I-特-16図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

コラム3 「けんせつ小町」が変える建設業

また,科学技術立国日本を支える基盤として,研究者に占める女性の割合を見ると,平成27年に14.7%となっており,長期的に漸増しているものの,諸外国と比較すると低い水準に留まっている(I-6-6別ウインドウで開きます7図参照別ウインドウで開きます)。科学技術は将来の成長の基礎となるものであり,それを支える人材を養成していくことは重要であるが,現状では大学等で女性が理工系を選択する割合は低い水準にとどまっており(I-6-4図参照別ウインドウで開きます),今後,理工系を選択する女性を増やしていくことも重要である。

コラム4 理工系分野へチャレンジする女性を応援!「リコチャレ」

また,従来,ケアが必要とされ,社会から支えられる側にまわりがちであった高齢者,障害者等が,その持てる個性と能力を十分生かし,自身も生きがいを感じられるように活動の場を拡大していくことも重要である。そのための多様で柔軟な働き方の実現に向けての取組は,女性が働きやすい環境づくりにもつながると考えられる。

就業面では,技術革新や働き方の見直し等によって,今まで就業が難しかった分野でも広く活躍できる環境が生まれている例もある。

また,就業だけではなく,地域活動の活性化等を通じて,知識と経験等も生かしながら活躍の場を広げていくことも重要と考えられる。

コラム5 技術革新がもたらす支え手の拡大

コラム6 多様な働き方が創り出す高齢者の活躍

コラム7 働き方の工夫で広がる障害者の可能性

2総務省統計局「国勢調査」に定義されるもので,消防組織法に規定される「消防吏員」とは定義が異なる。具体的には「消防吏員」とは,消防本部及び消防署に置かれる職員のうち,階級及び服制を有し,消防事務に従事する一般職の地方公務員であり,「国勢調査」に含まれる私設消防員は含まない等の違いがある。このため,「消防員」と「消防吏員」では女性数及び女性割合が異なっている。図表についても同様の定義である。

(多様な働き方・暮らし方に向けて求められる変革)

少子高齢化により1人の高齢者を支える現役世代の数が少なくなる中,現役世代が「仕事」か「家庭生活」かではなく,1人で何役も担うことができるようにしていくための鍵となるのは,長時間労働や,画一的な働き方を変革し,一人ひとりの事情に応じた職業生活を営むことができる社会を実現していくことである。

育児,介護等の様々な事情により,就業に当たって時間や場所に制約を受ける者が増加していくことが懸念される一方で,ICT(情報通信技術)の発達等により,時間や場所にとらわれない働き方が可能となる環境も生まれている。

テレワークは,その例として活用が期待されるが,テレワークを導入している企業の割合を見ると,平成26年末で11.5%となっている(I-特-17図)。また,時間制約のある人でも働くことが可能となる仕組みとしてフレックスタイム制を導入している企業割合を見ると,平成27年に4.3%となっている(I-特-18図)。それぞれの割合は,ここ10年ほど高まりを見せていないものの,テレワークに対する労働者のニーズは高い。一般社団法人日本テレワーク協会「働き方に関する調査」(平成27年12月)によると,業務でメールを使う就業者のうち在宅勤務をしている者は8.9%に過ぎないが,在宅勤務をしていない者のうち59.1%が,在宅勤務を「ぜひやってみたい」又は「まあやってみてもよい」としている。また,実際にテレワークを導入して効果があったと回答した企業は84.2%となっているなど,テレワークを導入したメリットを感じている企業は多い(I-特-19図)。

I-特-17図 テレワ-クを導入している企業の割合の推移別ウインドウで開きます
I-特-17図 テレワ-クを導入している企業の割合の推移

I-特-17図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-18図 フレックスタイム制を導入している企業の割合の推移別ウインドウで開きます
I-特-18図 フレックスタイム制を導入している企業の割合の推移

I-特-18図 [CSV形式:9KB]CSVファイル

I-特-19図 テレワ-クを導入した効果別ウインドウで開きます
I-特-19図 テレワ-クを導入した効果

I-特-19図 [CSV形式:8KB]CSVファイル

また,企業内の制度を整えるだけでなく,働き方に対する多様なニーズを認め合うことも重要と考えられる。例えば,育児を行う場合,保育所に預けることができたとしても,子供が急に病気になり預かってもらえないなど,突発的に仕事を休まざるを得ない事態も生じ得る。また,働き盛りの男性であっても,急に親の介護が必要となり従来の働き方では対応できない事態に直面する人が増加していくことも懸念される。多様な働き方へのニーズに対応して様々な選択を可能とする企業を応援することや社会全体の気運を高めることにより,男女が安心して働ける環境を整えていくことも重要と考えられる。

以上で見てきたように,長時間労働の削減を始めとする働き方改革は,様々な活動に当たって時間や場所に制約を受ける者であっても当たり前に働き,多様な暮らしが実現できる,男女とも暮らしやすい社会の実現に向けて極めて重要な課題である。多様な働き方・暮らし方の実現は,我が国社会が様々な変化への対応力を高め,力強く発展を続けるために必要であり,少子高齢化が進む中で我が国にとって必須の変革である。こうした変革を通じて,女性も男性も,さらには高齢者や若者も,障害や難病のある人も,誰もが暮らしやすく,また誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現に向け,関係する取組を力強く進めていく必要がある。

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