平成24年版男女共同参画白書

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はじめに 平成23年度を振り返って

男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)の制定から十余年の年月を経て,政策・方針決定過程への女性の参画の遅れ,雇用や教育の分野における男女間の様々な格差,仕事と生活の不均衡等多くの点で問題状況が徐々に改善していることを示すデータを見ることができる。女性に対する暴力に関する問題のように社会問題として広く認識されるようになり,政策的な取組が本格化しているものも少なくない。

しかしながら,国際的な比較で見れば,保健や教育のように以前から我が国の女性が上位を保っている項目もあるものの,男女共同参画の度合いを加えた各種の指数における我が国の順位が長年にわたって低迷していることから明らかなとおり,様々な取組や努力にもかかわらず,これまでの改善のピッチは多くの分野で必ずしも満足できるものとはなっていない。災害時の対応や防災施策に男女共同参画の視点を反映させていくことも,本格的な取組がようやく緒についたところである。

職場,家庭,地域社会など社会のあらゆる分野で,女性と男性が対等な構成員として意欲に応じて活躍できる社会を実現するためには,国,地方公共団体,企業,NPOその他の民間団体や個人による一層の取組の強化・加速化が必要である。

平成23年度は,第3次男女共同参画基本計画の開始年度であり,計画達成に向けた第一歩を踏み出す年となった。男女共同参画社会の形成の促進に向けて,国内的にも国際的にも,第1章以下で記すとおり,様々な取組が行われた重要な一年であった。また,23年3月に発生した東日本大震災という未曽有の災害とその後の復旧・復興に向けた取組の中で,被災地や地域における男女共同参画の重要性が改めて強く認識されるようになった。

1 東日本大震災に対応した男女共同参画の視点を踏まえた様々な取組(特集参照

平成23年3月に発生した東日本大震災では,高齢者を中心に女性の死者が男性の死者を上回り,人口移動の面からも女性の方が男性よりも震災の影響が強くうかがえるなど,女性は,子ども,高齢者,障害者等の災害時要援護者と同様に,負の影響を受けることが認識された。また,避難生活やその後の復旧・復興プロセスにおいて,女性には男性とは異なるニーズや配慮が必要であることも改めて浮き彫りとなった。

そうした状況の中,中央・地方を問わず,災害への対応においてこれまで必ずしも十分に意識されてきたとは言えない男女共同参画の視点を様々な仕組みや取組の中に取り込んでいこうとする動きが各地で見られた。

平成23年6月に成立した東日本大震災復興基本法の基本理念には,「被災地域の住民の意向が尊重され,あわせて女性,子ども,障害者等を含めた多様な国民の意見が反映されるべきこと」が明記され,新たな「防災基本計画」(平成23年12月中央防災会議決定)においても,避難場所の運営における女性の参画及び女性や子育て家庭のニーズに配慮した運営,応急仮設住宅における女性を始めとする生活者の意見を反映することなどが盛り込まれている。具体的な取組として,女性や子育てのニーズを踏まえた災害対応や避難所運営の好事例等に関する情報提供,女性の様々な悩みや女性に対する暴力に関する相談事業等も行われた。

他方で,国を始めとして防災や復興に係る意思決定の場での女性の参画割合はいまだ低調な状況にあり,今回見られたような上記取組を継承・発展させて将来にいかしていくためにも,東日本大震災からの復旧・復興や,国・地方それぞれの防災関連施策において,男女共同参画の視点を一層積極的に取り入れていくことが期待される。

2 第3次男女共同参画基本計画の推進等

我が国の男女共同参画社会の形成に係る取組は,男女共同参画社会基本法に基づき策定される男女共同参画基本計画を基に進められている。平成22年12月に閣議決定された現行の第3次男女共同参画基本計画においては,重点分野ごとに設けられた82項目の成果目標と161の参考指標とをあわせてその推移をフォローアップすることで,その実効性を確保することとしている。

第3次男女共同参画基本計画の策定時における各成果目標の現状値は,それ以前と比較すれば相応の進展が見られるものが少なくない。例えば,国の審議会等委員に占める女性割合,女性公務員の採用・登用,民間企業の管理職に占める女性の割合,高等教育機関への女性の進学率,男女間の賃金格差等を示すデータは長期的には上昇又は改善傾向を示しており,女性の労働力率に表れるM字カーブの底上げも見られる。

他方で,男性の育児休業取得率や出産前後の女性の就業継続割合のように目に見えるような変化が明確には表れていない分野もある。出産等を契機に就業を中断した女性が再び働き始める場合,必ずしも本人の希望に沿わずパート・アルバイト等の非正規雇用につくことも少なくなく,生涯を通じたキャリア形成や資産形成に影響を及ぼすことが懸念される。固定的性別役割分担意識はいまだに根強く,また,女性に対する暴力をめぐる状況も依然として深刻と言わざるを得ない。

平成23年度は,第3次男女共同参画基本計画の初年度であり,同計画で設定された成果目標の達成に向け,これまでの改善の歩みを確実なものとし,あるいは加速化させ,さらには現状の打開に向けて一層の取組をスタートさせる一年となった。第3次男女共同参画基本計画において喫緊の課題の一つとされた「ポジティブ・アクションの推進」や,国際的にも高い関心を集めている「女性の活躍による経済社会の活性化」については,新たな議論・取組も進められた。

我が国の国家戦略との関わりでは,「日本再生の基本戦略」(平成23年12月24日閣議決定),「社会保障・税一体改革大綱」(平成24年2月17日閣議決定)等において,女性を含む全ての人が社会に参加でき,お互いに支えあう全員参加型社会の実現を目指すことが打ち出された。また,第180回国会における内閣総理大臣施政方針演説(平成24年1月24日)においては,「『女性』は,これからの日本の潜在力の最たるもの」,「社会のあらゆる場面に女性が参加し,その能力を発揮していただくことは,社会全体の多様性を高め,元気な日本を取り戻す重要な鍵」との認識も示された。男女共同参画社会の実現は,引き続き内閣の最重要課題の一つとなっている。

3 男女共同参画に関わりの深い制度改革の動き

平成23年度を通じて,持続可能で安心できる社会保障を目指して社会保障と税の一体改革の具体化を目指した様々な検討が進められ,男女共同参画社会の形成に関わりの深い制度に新たな展開が見られた。

新たな子ども・子育て支援のための包括的・一元的な制度の構築については,社会の中で女性の能力を最大限にいかすとともに,安心して子どもを産み,育てられる社会を目指して「子ども・子育て新システム検討会議」の下で具体的な検討が進められ,平成24年3月に「子ども・子育て支援法案」等3法案が税制抜本改革法案等とともに第180回国会に提出された(第6章第2節参照)。年金制度に関しても,社会保障と税の一体改革の流れの中で,短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大や産休期間中の保険料免除等男女共同参画社会の形成に寄与する方向で制度改正のための法案が国会に提出された(第3章第1節参照)。

所得税・個人住民税に係る配偶者控除の見直しについては,今般の関連法案には盛り込まれていないものの,平成24年度税制改正大綱(平成23年12月10日閣議決定,12月24日一部改正)において「引き続き,抜本的に見直す方向で検討する」とされている。

4 国際的な動向への対応

男女共同参画社会の実現に向けた我が国の取組は,昭和50年(1975年)の国際婦人年以来,国際機関における議論や取組と連動する形で進められており,そうした動向は第3次男女共同参画基本計画等にも反映されている。また,その取組状況は,国連女子差別撤廃委員会の国別審査等の場にも随時報告されている。

2011(平成23)年度は,10月に女子差別撤廃委員会において,同委員会の最終見解(2009(平成21)年8月)についての我が国政府のフォローアップ報告に対する審査が行われた(第16章第1節参照)。また,2012(平成24)年2月から3月にかけて開催された第56回国連婦人の地位委員会(CSW)では,東日本大震災を経験した我が国が主導して提案した「自然災害におけるジェンダー平等と女性のエンパワーメント」決議案が採択された(共同提案国:我が国を含む50か国)。同決議は,より女性に配慮した災害への取組を促進することを目指したもので,東日本大震災から1年が経過する中で,我が国の震災の経験や教訓を各国と共有し,国際社会の理解を深めることに貢献した(特集コラム16参照)。

近年,国際社会においては,OECD(経済協力開発機構),APEC(アジア太平洋経済協力)を中心に,女性を経済成長の牽引役と位置付け,女性の経済参画の推進に積極的に取り組もうとする動きが盛んになっていることが注目される(第16章第3節4及びコラム参照)。

2011(平成23)年5月にフランス(パリ)で開催された「OECDフォーラム」ではジェンダーがテーマの一つとされ,9月に米国(サンフランシスコ)で「APEC女性と経済サミット」(WES)が開催された。ここで採択されたサンフランシスコ宣言は,女性の経済への完全参加を妨げる4つの主要課題を克服すべきことを明らかにし,その内容は,同年11月に開催されたAPECの閣僚会合や首脳会議の成果文書に反映されることとなった。こうした流れは,男女共同参画会議基本問題・影響調査専門調査会での議論にも適宜取り込まれている。

2012(平成24)年3月には,横浜市において,WESのフォローアップイベントとして「APEC横浜フォーラム:女性とリーダーシップ」を我が国が主催して開催し,この分野における国際的な議論にも貢献した。