平成24年版男女共同参画白書

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第2節 被災者の状況

1 避難所の状況

東日本大震災による避難者数は,発災1週間後に38万6,739人(警察庁調べ)となっており,平成24年3月8日現在では,親族・知人宅等への避難者も含めると,1万8,244人となっている(第1-特-16表)。なお,東日本大震災による避難者数については,男女別の内訳は把握されていない。

第1-特-16表 避難者数の推移 別ウインドウで開きます
第1-特-16表 避難者数の推移

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避難所等での生活に関しては,自衛隊が,全国の地方公共団体及び民間から提供される救援物資を,各避難所に配分した。被災地方公共団体を通じてのニーズ把握が困難であったため,女性自衛官を含む派遣部隊が避難所を戸別訪問するなどにより,できるだけ具体的に被災者が必要とする救援物資ニーズの把握に努めた。

また,警察では,避難所や仮設住宅での生活が長期間にわたることから生じる様々な問題を解消し,被災者の安全・安心を確保するため,全国の警察において女性警察官を中心とする部隊を編成し,避難所を訪問して,被災者からの相談に対応するなどの被災者支援活動を行った。

中央防災会議「防災対策推進検討会議」の中間報告(平成24年3月)では,避難所によって運営に大きな差があり,日頃から行政と地域住民が一体となった訓練を実施していた避難所では,円滑な運営が行われたことが指摘されている。発災直後は,地域の婦人団体(女性団体),婦人(女性)防火クラブ,日本赤十字社奉仕団等,日頃から地域活動を行っている団体の女性たちが,自主的又は自治会等からの要請により,避難所等における炊き出しや物資の仕分け等を行った。

被災地への交通手段が確保されてからは,全国から救援物資が届けられ,個人・団体がボランティアとして避難所等での支援活動に当たった。

コラム3 「きずな隊」(生活安全特別派遣部隊)が深めた絆

コラム4 被災地への医療関係者の派遣(災害支援ナース等を中心に)

コラム5 福島原発避難者を迎えて女性消防団の活躍(女性団員ならではの配慮)

今回の震災では,住民が一時的に身の危険を回避した避難場所に長く滞在したこと,被災者のニーズの変化に十分対応できなかったことなどから,避難所における生活環境の改善が遅れたと指摘されている。

前出の内閣府・消防庁・気象庁「津波避難等に関する調査」(平成23年)によると,災害直後からの避難所での生活について困っていることとしては,女性は,「シャワーや入浴があまり出来ない」(49.5%),「プライバシーが確保されていない」(39.0%),「トイレの数が少ない」(27.8%)の割合が男性に比べて高くなっており,女性の方が避難所での生活について不便と感じている人が多くなっている(第1-特-17図)。

第1-特-17図 災害直後からの避難所での生活について困っていること(男女別,複数回答) 別ウインドウで開きます
第1-特-17図 災害直後からの避難所での生活について困っていること(男女別,複数回答)

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また,避難所の設計・運営の中心を担うことが多かった自治会長は,岩手県,宮城県及び福島県では96?97%程度が男性であり,女性等への配慮が必要であるとの認識が十分浸透していなかったことも指摘されている。

内閣府では,平成23年11月から24年3月にかけ,被災地及び被災地を支援した地方公共団体,民間団体等を対象に,「男女共同参画の視点による震災対応状況調査」を実施した。同調査では,避難所運営の責任者に女性が加わっていないことから,(ア)女性の要望や意見が重視されない傾向にあったこと,(イ)女性用の物資が不足していても女性が要望することを躊躇する傾向にあったことが報告された。また,固定的な性別役割分担意識から,がれき処理は男性が担当し,避難所の食事準備は女性が担当することと固定化され,かつ,がれき処理には日当が支払われるのに対し,食事準備には対価が支払われないことが多かった。

一方で,(ア)女性や子育て家庭のニーズを踏まえて,避難所に女性専用スペースや授乳室,女性用の洗濯物干し場を別に用意したり,間仕切りを活用してプライバシー確保に努めた事例や,(イ)炊事当番を有償ボランティアとして在宅避難者も含め一般公募し,シフト制とした事例も報告された。また,民間団体と連携して,比較的早い時期から妊産婦・乳児を対象とした避難所や福祉避難所を開設した地方公共団体もあった。

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同調査では,岩手県,宮城県,福島県及び各県の市町村を対象に,東日本大震災時に備蓄や支援物資に対してどのような要望があったかを尋ねたところ,粉ミルク,小児用おむつ,おしりふき,離乳食等の乳幼児用品について,女性からの要望が多くなっていた(第1-特-18図)。

第1-特-18図 備蓄や支援物資に対する要望(男女別,複数回答) 別ウインドウで開きます
第1-特-18図 備蓄や支援物資に対する要望(男女別,複数回答)

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コラム6 企業における支援物資にも工夫

支援物資に関しては,避難所等に届く支援物資の分配に係る情報等が,避難所に避難せず在宅で生活している者には伝達されにくいなど,在宅者に困難な状況があった。

2 応急仮設住宅の状況

応急仮設住宅(以下「仮設住宅」という。)は,平成24年4月17日現在,5万3,077戸が着工済み(うち5万2,858戸完成)となっている。

前出の内閣府・消防庁・気象庁「津波避難等に関する調査」(平成23年)によると,仮設住宅での生活について困っていることとしては,「空調設備が整ってなく,部屋の中が暑い」は,女性47.9%,男性40.0%と女性の割合が高くなっている。一方,「特にない」は,女性8.2%,男性13.9%と,男性の割合が高くなっている(第1-特-19図)。

第1-特-19図 仮設住宅での生活について困っていること(男女別,複数回答) 別ウインドウで開きます
第1-特-19図 仮設住宅での生活について困っていること(男女別,複数回答)

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また,「今,気になっていること」を尋ねたところ,女性は,「生活支援策を早く示して欲しい」(48.2%),「余震や余震による津波への備えを進めて欲しい」(40.0%),「洪水・土砂災害や高潮災害等の二次災害に対する備えを進めて欲しい」(29.9%),「子供の学校の見通しが知りたい」(12.0%)と回答した割合が,男性に比べて高くなっている(第1-特-20図)。

第1-特-20図 今,気になっていること(男女別,複数回答) 別ウインドウで開きます
第1-特-20図 今,気になっていること(男女別,複数回答)

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仮設住宅は,砂利道や玄関・風呂の段差等,バリアフリー化されていないことから,高齢者,障害者等にとって生活上の困難があったほか,前出の内閣府「男女共同参画の視点による震災対応状況調査」(平成23年)では,(ア)仮設住宅の責任者の多くが男性で,女性が主体的にコミュニティ運営に関わっている例が少ない,(イ)仮設住宅内に乳幼児や学童が安心して過ごせる場所が不足している,(ウ)集会所等での集まりに男性の参加が少なく,孤立化の懸念があることなどが報告された。

一方,(ア)ストレスの軽減と孤立化の予防を目的に,仮設住宅の入居者と周辺の住民を対象とした継続的な交流会を開催した事例や,(イ)仮設住宅の集会所等で赤ちゃんを連れて集う場を開催したり,男性を対象とした料理教室や子どもへの学習支援を実施した事例,(ウ)支援員が戸別訪問し,安否確認を行うようにした事例等もあった。仮設住宅の集会所等に女性たちが集まり,手仕事で製品を作り,販売した売上げの一部が作り手の収入となる活動も行われている。現金収入だけでなく,やりがい・生きがいづくりにつながっている。

なお,これらの支援は,仮設住宅に入居している者以外には行き届きにくいが,同様の支援が必要であることが指摘された。

仮設住宅を訪問する支援員

3 人口移動の状況

平成23年における岩手県,宮城県及び福島県の転入・転出超過数(平成23年の1年間における日本人の都道府県間の移動者数)について,年齢5歳階級別に見ると,岩手県では,前年に比べて転出超過数が大幅に増加している区分はないが,宮城県では20~24歳及び25~29歳で,転出超過数が大幅に増加している。

また,福島県では,全ての年齢区分で転出超過となっている。中でも0~14歳は転出超過数が前年に比べて大幅な増加となっている。男女別に見ると,0~14歳では,女性4,577人,男性4,463人と男女の差がそれほど大きくないのに対し,その親世代の中心となる25~44歳の転出超過数は,女性6,628人,男性4,514人で,女性が男性を大きく上回っている。子育て世代の女性が子どもと共に県外等に転出している様子がうかがわれる(第1-特-21図)。

第1-特-21図 岩手県・宮城県・福島県の転入・転出(都道府県間)の状況 別ウインドウで開きます
第1-特-21図 岩手県・宮城県・福島県の転入・転出(都道府県間)の状況

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4 雇用の状況

岩手県,宮城県及び福島県における平成24年2月の有効求職者数は,前年同月と比較すると,女性は10.8%増に対し,男性は2.4%減となっている。有効求人数はかつて無い高水準となっており,就職件数は,前年比で見ると,季節要因による変動はあるが,男女共に一貫して増加傾向にある(第1-特-22表)。

第1-特-22表 岩手県・宮城県・福島県の雇用動向(男女別) 別ウインドウで開きます
第1-特-22表 岩手県・宮城県・福島県の雇用動向(男女別)

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また,雇用保険受給者実人員は,平成24年2月時点で女性3万4,256人,男性2万4,060人で,男性は前年同月の約1.7倍であるのに対し,女性は約2.3倍で,それ以前から男性に比べて女性の増加率が高く,女性の方がより厳しい雇用状況が続いている(第1-特-23表)。

第1-特-23表 岩手県・宮城県・福島県の雇用保険受給者実人員(男女別) 別ウインドウで開きます
第1-特-23表 岩手県・宮城県・福島県の雇用保険受給者実人員(男女別)

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沿岸部のハローワークでは,生産工程・労務の職業が有効求人数,有効求職者数共に他の職業に比べて多くなっているが,女性の求職者数が比較的多い食料品製造の職業では,有効求人倍率は低くなっている。一方,建設・土木の職業等では有効求人数が有効求職者数を上回っているが,女性の求職者が極めて少ないなど,女性の被災者の希望する仕事と求人の多い仕事とにミスマッチが見られる(第1-特-24図)。

第1-特-24図 ハローワーク別の有効求人数・有効求職者数(平成24年1 月) 別ウインドウで開きます
第1-特-24図 ハローワーク別の有効求人数・有効求職者数(平成24年1 月)

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理由としては,もともと女性の雇用の場であった水産加工業等が,津波の影響等により甚大な被害を受け,いまだ本格的な事業再開に至っていない事業所が多いことなどが考えられる。

平成23年3月に大学や高校等を卒業して4月に就職予定だった人のうち,東日本大震災の影響により内定を取り消されたり,入職(入社)時期が繰下げ(延期)となった人は,他の地域に比べ東北地方で多くなっている(第1-特-25表)。

第1-特-25表 東日本大震災による新卒者内定取消し等の状況(平成22年度) 別ウインドウで開きます
第1-特-25表 東日本大震災による新卒者内定取消し等の状況(平成22年度)

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厚生労働省では,避難所等への出張相談等の実施や,合同就職面接会を実施するなど,就職支援を行うとともに,雇用創出基金を活用し,復旧事業を通じた雇用創出を図った。平成23年12月末時点で,震災等緊急雇用対応事業により,岩手県,宮城県及び福島県において2万4,115人(女性1万1,433人,男性1万2,682人)の雇用機会を創出した。県別で見ると,雇用創出数は,岩手県では,女性40.0%,男性60.0%と女性が男性に比べて低くなっているが,宮城県及び福島県では,男女はほぼ半数となっている(第1-特-26表)。

第1-特-26表 岩手県・宮城県・福島県の震災等緊急雇用対応事業雇用実績 別ウインドウで開きます
第1-特-26表 岩手県・宮城県・福島県の震災等緊急雇用対応事業雇用実績

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また,厚生労働省では,被災地の復旧・復興や成長が見込まれる分野の人材育成のため,岩手県,宮城県及び福島県において,これまでに約1万6,000人に対して公的職業訓練(公共職業訓練,基金訓練及び求職者支援訓練)を実施した(平成23年4月から24年3月までに開講したコースの実績(速報値))。

コラム7 高齢者や子育て等の支援(雇用創出基金を活用した事例)

5 心の健康の状況

被災者の健康状態については,厚生労働省研究班が「東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査」として,被災者の健康管理と今後の災害対策の立案への活用を目的に,被災者の健康状態について長期間の追跡調査を実施している。

このうち,岩手県陸前高田市の18歳以上の住民約4,800人を対象とした調査と宮城県石巻市の18歳以上の住民約1,400人を対象とした調査について,男女別で集計したところ,震災前後の成人の飲酒量の変化は,全体として変化のない者が多いが,陸前高田市,石巻市共に,飲酒量が増加している者は,女性が3%台であるのに対し,男性では約7~12%と高くなっている(第1-特-27図)。

第1-特-27図 飲酒量が増加した人の割合(陸前高田市,石巻市)(男女別) 別ウインドウで開きます
第1-特-27図 飲酒量が増加した人の割合(陸前高田市,石巻市)(男女別)

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また,睡眠障害が強く疑われる者は,陸前高田市では,女性44.4%,男性27.7%,石巻市では,女性50.2%,男性32.4%となっている(第1-特-28図)。

第1-特-28図 睡眠に関する状態(陸前高田市,石巻市)(男女別) 別ウインドウで開きます
第1-特-28図 睡眠に関する状態(陸前高田市,石巻市)(男女別)

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さらに,こころの状態(心の元気さ)を測る指標の点数分布を見ると,個別の対応が必要とされる13点以上の重症群は,陸前高田市では,女性7.0%,男性3.3%,石巻市では,女性8.4%,男性6.0%となっている(第1-特-29図)。

第1-特-29図 こころの状態(陸前高田市、石巻市)(男女別) 別ウインドウで開きます
第1-特-29図 こころの状態(陸前高田市、石巻市)(男女別)

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このように,震災による健康への影響は,睡眠障害,心の元気さ共に,男性よりも女性でより強い影響が見られる。

岩手県,宮城県及び福島県における自殺者数は,福島県では平成23年5月の自殺者数が前年同月と比べて38.8%となっている。年間の自殺者数は,各県共に前年度の自殺者数を下回っている(第1-特-30表)。

第1-特-30表 岩手県・宮城県・福島県の月別自殺者数 別ウインドウで開きます
第1-特-30表 岩手県・宮城県・福島県の月別自殺者数

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東日本大震災に関連する自殺者数(平成23年6月~24年2月)は,女性14人,男性43人となっている(第1-特-31図)。

第1-特-31図 東日本大震災に関連する自殺者数の男女別割合 別ウインドウで開きます
第1-特-31図 東日本大震災に関連する自殺者数の男女別割合

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6 犯罪被害・暴力被害等の状況

岩手県,宮城県及び福島県における刑法犯の認知件数(平成23年度)は,各県共に前年度から約14~20%減少しており,全国よりも被災3県の減少率が高くなっている(第1-特-32表)。

第1-特-32表 岩手県・宮城県・福島県における刑法犯の認知件数 別ウインドウで開きます
第1-特-32表 岩手県・宮城県・福島県における刑法犯の認知件数

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性犯罪についても,強姦,強制わいせつの認知件数は,おおむね前年度に比べて減少している(第1-特-33表)。

第1-特-33表 岩手県・宮城県・福島県における性犯罪の認知件数 別ウインドウで開きます
第1-特-33表 岩手県・宮城県・福島県における性犯罪の認知件数

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岩手県,宮城県及び福島県における配偶者暴力相談支援センターの相談件数は,宮城県及び福島県では前年度に比べ減少しているが,岩手県では前年度に比べて約1.2倍と増加している(第1-特-34表)。

第1-特-34表 岩手県・宮城県・福島県における配偶者暴力相談支援センターへの相談件数 別ウインドウで開きます
第1-特-34表 岩手県・宮城県・福島県における配偶者暴力相談支援センターへの相談件数

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内閣府では,平成23年5月10日から岩手県,同年9月1日から宮城県, 24年2月11日から福島県において,地方公共団体及び民間団体と協働し,全国の相談員の協力を得て,電話や面接により,東日本大震災による女性の様々な不安や悩み,女性に対する暴力に関する相談事業を行っている。

「女性の心のケア ホットライン・いわて」に寄せられた相談は888件(平成23年5月10日から24年3月31日まで),「東日本大震災 心の相談 ホットライン・みやぎ」に寄せられた相談は1,166件(23年9月1日から24年3月31日まで),「女性のための電話相談・ふくしま」に寄せられた相談は364件(24年2月11日から3月31日まで)となっている。これらの相談件数の合計は2,418件で,配偶者からの暴力に関する相談(203件)やその他の暴力に関する相談(42件)も含まれている(第1-特-35表)。中には,「配偶者のアルコール依存が進み暴力がひどくなった」,「自宅が全壊して移り住んだ環境に配偶者がなじめず,イライラして当たり散らされる」,「震災で住まいと仕事を失い,別居していた配偶者と同居したが暴力に耐えられない」,「震災後に元交際相手が支援物資を持って駆け付けてくれ,心細さからよりを戻したが,暴力がひどくなり怖い」などの相談もある。

第1-特-35表 岩手県・宮城県・福島県における女性の悩み・暴力相談実施状況 別ウインドウで開きます
第1-特-35表 岩手県・宮城県・福島県における女性の悩み・暴力相談実施状況

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コラム8 福島県における女性のための電話相談