平成22年版男女共同参画白書

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第4節 生活者の視点による新たな市場の創造

(新たな需要創造に求められる生活者の視点)

前節までにおいて,女性の潜在力が労働市場に量と質の両面からどのような影響を与え得るのか,言い換えれば,経済の供給面に対する女性の影響をみてきた。本節では,経済の需要面に与える女性の影響を検討する。

政府は,「環境・エネルギー」,「健康」,「観光・地域活性化」等を今後新たな需要を創造し得る分野と位置付けている。こうした分野で新たな需要創造につながる事例も増えてきている(コラム4)。

これらの分野は生活に密着する分野であり,需要の創造には生活者としての経験や視点が欠かせない。内閣府が平成22年3月に実施した意識調査によると,家庭において生計維持のための収入を担うのが主に男性である一方,家事の多くは女性によって担われ(第1-特-17図),また,家庭における買物についての意思決定の多くも主に女性によって行われている(第1-特-18図)。

女性は数の上では消費者の半数であるが,現状においては実質的に家計の管理を担うことが多く,また医療・介護についてもその多くを担ってきた。これらの分野の商品・サービスの購入・利用についても意思決定を行うことが多い。そのような女性の生活者としての経験,視点が,特に生活関連分野の社会的課題の解決と同時に新たな需要を創造する上で,今後不可欠の要素となっていくと考えられる。

生活関連分野の商品・サービスの需要側において,意思決定を行う者の多くが女性であることに比べると,既にみたとおり,提供側,すなわち企業等における女性の意思決定権者は格段に少ない。これらの分野の問題の解決や新たな需要の掘り起こしや創造を目指すには,商品・サービスの受け手側と作り手側との間で,例えば男性・女性という構成者のバランスを近づけ,相互の意思疎通を密にしていくことが重要である。

仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進などにより,男性の家事や育児・介護への参加を増やしながら,生活者としての経験や視点の共有化を図っていくことが必要である。同時に,就業の面での女性の参画の推進によって,作り手側の意思決定過程へも女性の参画を促進するなど,商品・サービスの受け手側と作り手側の双方において,双方の構成者の比率を近づける努力が,新たな需要の掘り起こし,創造といった観点からもますます必要になるであろう(コラム5)。

第1-特-17図 家庭における生活費,家事,育児の分担 別ウインドウで開きます
第1-特-17図 家庭における生活費,家事,育児の分担

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第1-特-18図 家庭における意思決定 別ウインドウで開きます
第1-特-18図 家庭における意思決定

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コラム4 【企業事例】人々のライフスタイルの変化に合わせた新たな価値の創造

コラム5 【企業事例】女性社員の起用による女性向け商品の開発と新たな顧客層の獲得(E社)

(消費における男女の特徴)

「環境・エネルギー」,「健康」,「観光・地域活性化」等は内需を中心とする経済成長において今後の成長分野と位置付けられるが,これらの分野における将来の消費意欲はどうであろうか。

今後の消費意向について内閣府調査の結果を図に示した(第1-特-19図)。環境・エネルギー分野にかかわる「(快適さを高める,家事を効率化する)家電製品」,健康にかかわる「バリアフリーのためのリフォーム」,「健康関連の器具・医薬品・健康食品など」,「医療関連サービス」,観光・地域活性化にかかわる「海外旅行」,「国内旅行」,「特別な外食」などにおいて,いずれも女性の方が「今後お金をかけたい」と答えた者の割合が高くなっている。

また,これらの商品・サービスの購入・利用の選択に当たり,どのような点を考慮するか尋ねたところ,「環境」や「安全性」を重視する者の割合は女性において高い傾向があった。消費意向では男性の方が高かった「自動車・二輪車」についても「環境」や「安全性」を考慮する者の割合は女性の方が高い。一方,男性はほぼすべての消費分野において,女性よりも「価格の安さ」を重視する傾向がみられた。

第1-特-20図は,消費の際に考慮する点を性別に集計した結果を示したものである。

男性においてもライフスタイルの変化に応じた消費意向の変化がみられる。第1-特-21図は,20~40歳代の配偶者があり未就学児をもつ男性のうち,配偶者との間で自分が5割以上育児を分担すると回答している男性(「積極的に育児をする男性」)と「それ以外の男性」との間で将来の消費意向を比較したものである。これを見ると,積極的に育児をする男性はそれ以外の男性に比べて「国内旅行」,「海外旅行」などの観光関連分野のほか,「(快適さを高める,家事を効率化する)家電製品」,「育児関連サービス」,「子育てを楽しむための商品やサービス」などの生活に関連する分野で高い傾向があることが分かる。また女性においても,結婚,子育て後も仕事を持つかどうか,というライフスタイルの違いによる消費意向の違いがみられる。「海外旅行」,「国内旅行」などの観光関連分野に加え,「健康関連の器具・医薬品・健康食品など」,「医療関連サービス」などの健康関連分野,「子育てを楽しむための商品やサービス」,「子どもの教育費」などの子育て関連分野,「キャリアアップのための自己啓発」,「パソコン・携帯などの情報機器」などの分野において,職業を持ち続けたいとする女性の消費意向が高い傾向にある(第1-特-22図)。

以上のことから,女性や生活者の視点を取り込むことが環境・エネルギー,健康,観光といった成長分野における需要の掘り起こしにとって重要と考えられる。女性の労働市場への参加,男性の家事,育児・介護への参加,「イクメン(積極的に育児をする男性)」の増加など,人々のライフスタイルの変化の中には新たな需要創造のフロンティアが潜んでいる可能性が大きい。

第1-特-19図 今後お金をかけたい消費分野(性別) 別ウインドウで開きます
第1-特-19図 今後お金をかけたい消費分野(性別)

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第1-特-20図 購入に当たって考慮したい点(性別) 別ウインドウで開きます
第1-特-20図 購入に当たって考慮したい点(性別)

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第1-特-21図 今後お金をかけたい消費分野(男性,ライフスタイル別) 別ウインドウで開きます
第1-特-21図 今後お金をかけたい消費分野(男性,ライフスタイル別)

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第1-特-22図 今後お金をかけたい消費分野(女性,ライフスタイル別)

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(生活者の視点をいかした女性の起業)

近年,女性による起業が増加している。起業の開業関連分野を男女別にみると(第1-特-23表),男性では「建設業」,「製造業」,「情報通信業」,「卸売業」などで起業する者の比率が女性の同様の比率を上回っている。これに対し,女性では「小売業」,「飲食店」,「医療,福祉」,「サービス業」,「教育,学習支援業」などで同様の比率が男性の比率を上回っている。女性の起業分野は相対的に生活密着型の分野である。特に「医療,福祉」は,成長分野とされる「健康」に関連し,同様に「飲食店」,「宿泊業」などは「観光・地域活性化」に関連する。

一方,農村における女性の起業も増加している(第1-特-24図,第1-特-25図)。食品加工,販売・流通などの分野での起業活動が多いが,これらの活動の中には,その地域で自らが携わる農業・畜産などの「生産物」と,それを起点とする「食」,「観光」などを結び付けようとする動きや,単に売上げ拡大を目指すだけでなく,地域内・外の人々や組織のネットワーク化を図ることで地域の活性化につなげようとする取組がみられる(コラム7)。

以上のように,女性の起業には,生活者,あるいは地域の支え手として培った生活・地域密着の視点から,埋もれていた需要をビジネスとして掘り起こすという傾向がみられる。また,農村の起業の例にみられるように「安心,安全,健康」等にこだわる(女性)作り手の商品が,「安心,安全,健康」等にこだわる(女性)消費者に支持されるという循環が生まれることが考えられ,加えて,男性消費者の間にも生活者視点の共有から同様の価値に対する支持が広がることも考えられる。女性の労働市場への参加拡大や男性による生活者視点の共有化など人々のライフスタイル等の変化にあわせ,女性の起業の流れを後押しすることは,新たな需要の創造に寄与していくものと考えられる。

第1-特-23表 起業者の開業分野別割合(性別) 別ウインドウで開きます
第1-特-23表 起業者の開業分野別割合(性別)

第1-特-24図 農村女性による起業数の動向 別ウインドウで開きます
第1-特-24図 農村女性による起業数の動向

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第1-特-25図 農村女性による起業活動の内容 別ウインドウで開きます
第1-特-25図 農村女性による起業活動の内容

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コラム6 【女性の起業】自らの経験・体験をきっかけにした新たな価値の創造(ビジネスチャンス)

コラム7 【女性の起業】農村における女性の起業(食品加工,販売所,観葉植物生産卸,等)