平成22年版男女共同参画白書

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第5節 女性の活躍と企業の活性化

企業において女性の参画を進めることは,業績への良い影響も期待される。これは直接的な影響というよりも,女性が活躍できる企業風土が業績に良い影響を与えているものと考えられる。なぜなら,女性が活躍できる企業風土の実現のためには,実際には働き方全体を見直し,多様なライフスタイルを持つすべての人にとって働きやすい組織づくりを行うことが必要だからである。このような取組が仕事の効率性を高めると考えられ,また,多様な人々の能力・発想をいかすことが,新たなアイデア・付加価値を生み出すことにつながると考えられる。

(企業における女性の参画と活性化)

企業における女性の参画と企業業績について,これまで様々な分析が行われているが,女性の参画が企業業績に良い影響を与えているとする結果も示されている。

例えば海外の調査では,役員会における女性比率の高い企業では業績が良いことを示すもの(コラム8を参照)がある。我が国では,経済産業省の男女共同参画研究会が「女性の活躍と企業業績」(平成15年)において女性比率と利益率などとの関係について分析を行っている。この分析では,女性比率が高い企業において利益率も高い関係がみられたが,女性比率の高さは利益率が高いことの「見せかけの要因」であって,両者にこのような関係がみられる「真の要因」は女性が活躍できる企業風土であることを指摘している。

また,内閣府経済社会総合研究所が2008(平成20)年に実施した調査の結果では「両立支援施策」と「公平な評価制度」の両方をあわせて実施している企業群においては,そうでない企業群においてよりも,2004(平成16)年から2007(平成19)年の一人当たり経常利益の上昇が10ポイント以上である企業の比率が高いことを示している18。このことは,女性を含む多様な人材の活躍を可能とする制度や企業風土の構築への寄与が期待される制度をあわせて実施することで,企業の業績へよい影響があることを示しているものと考えられる。

男性も含めた仕事のやり方を見直すなどの取組を行い,女性が活躍できる風土をもっていることが,結果として企業の業績に良い影響を与えているものと考えられる。

18 内閣府経済社会総合研究所「ワーク・ライフ・バランスと生産性に関する調査」結果(2009年5月)より。従業員300名以上の民間企業を対象に調査を実施し,回答のあった457社を対象とした分析。2004(平成16)年時点の「両立支援制度」と「公平な評価制度」の両方を合わせて実施している企業群では2004(平成16)年から2007(平成19)年の一人当たり経常利益の上昇が10ポイント以上である企業の比率が57%であることに対し,前者のみ実施している企業群における同様の比率が45%,後者のみ実施している企業群の同様の比率が46%,どちらも実施していない企業群の同様の比率が48%であった。

コラム8 【企業における女性リーダーの重要性】組織の上位役職への女性の参画が高い組織はパフォーマンスが高い-女性リーダーを増やす取組(非営利組織C(米国)・特定非営利活動法人J(日本)の取組,ノルウェーのクオータ制)

コラム9 【企業事例】女性の活用と仕事の見直しを一体的に進め,良い効果を上げた事例

(仕事全体の見直しの必要性)

女性が出産・育児を経て就業を継続し,能力を発揮していくためには職場環境を整備することが必要で,男性も含めた働き方全体の見直しを行うこと,そのメリットが組織に属する多様なライフスタイルを持つすべての人に及ぶ必要がある。

例えば,組織の中に,長時間労働が必要な職場や役職が多く存在していれば,子育て期間中の女性はそうした職場で働いたり,役職に就くことは困難になり,能力発揮の機会も限られることになる。したがって,すべての職場や役職で例外なく長時間労働の是正を進める必要があるが,そのためには組織全体として業務の効率化や生産性の向上を進めることで労働時間の短縮を実現する必要がある。これによって,組織に属するすべての人が,子育てに限らず,趣味・学習やボランティア活動など多様な形で生活の充実を図ることが可能となる。

また,育児・介護休業制度を利用しながら,キャリアアップも可能な組織とするためには,管理職も含めてあらゆる立場の人が制度を利用できるような職場環境が必要である。今後,基幹的な立場にいる社員・職員が急に介護休業を取るようなケースが増える可能性を考えれば,そうした組織づくりは,組織の危機管理の観点からも重要となるだろう。

(多様な人々の能力発揮につなげる仕事と生活の調和)

実際に,多様な人々の能力発揮による企業・組織のパフォーマンス向上を目指し,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)や女性の活躍を促進している企業では,組織を挙げて仕事全体の見直しを進めている。

第1-特-26図は,内閣府が実施した企業インタビューを基に,取組全体のイメージを示したものである20。具体的には,社内ニーズの把握に基づいて社員にとって使い勝手の良い制度を工夫するとともに,制度を利用しやすい環境整備や休暇を取得しやすい職場環境づくりなどの取組を進めることが必要である。

特に,多様な人材の活躍を進めるためには,状況に応じて育児・介護休業,短時間勤務制度が柔軟に利用でき,意欲・能力に応じて新たな職域や昇進への挑戦が可能であったり,いったん退職した場合でも再雇用制度や中途採用の道がある,といった多様なキャリアパターンの提供が必要である。更にそうした多様な選択を可能とするための能力開発の機会が必要である。多様な働き方についての均衡処遇が確保されていることや,長期休業や短時間勤務の経験が,長期的なキャリアアップを阻害しないような人事評価上の配慮,身近なロールモデルの提示なども不可欠である。

なお,様々な休業制度等の利用を進める前提としては,長時間労働が是正され,有給休暇が取りやすい職場環境が構築されていることが重要である。労働時間の削減のためには時間当たり生産性を向上させる工夫が必要であり,組織内の業務の情報共有(「見える化」),優先順位の明確化,ITの活用による業務の効率化などによって,時間当たり生産性の向上につなげていくことも必要である。

こうした取組を実現するには,経営トップの内外への明確な意思表明が必要であり,職場のコミュニケーションの円滑化,信頼感の醸成,時間管理のスキル向上といった取組も進めていく必要がある。

20 詳細は男女共同参画会議仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)に関する専門調査会報告書「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進を多様な人々の能力発揮につなげるために」(平成21年7月)を参照。

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第1-特-26図 働き方全体の見直しのイメージ

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(女性の意欲を高める職場環境)

結婚・出産・育児に際しての女性の就業継続の判断や,管理職・専門職志向が高まるかどうかには,経済的な必要性もあるが,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進状況とともに,仕事のやりがいが感じられる,能力発揮の機会がある,といった職場環境も影響しているとみられる。

第1-特-27図は,内閣府が平成21年に実施した意識調査で,妊娠・出産・子育ての際に勤め先を辞めなかった女性に対してその理由を聞いたものである。「仕事を続けることが生活のため経済的に必要だったから」と答えた人が52.8%と最も多いが,職場環境に関する選択肢である「勤め先や仕事の状況が,働き続けられる環境だったから」が50.4%と二番目に多く,また仕事の内容に関する選択肢である「家庭と両立するための努力をしても続けたい仕事だったから」を20.5%の人が選んでいる。職場環境や仕事内容に関する理由を選んだ人に,更にその内容を聞くと,「仕事と家庭を両立して働き続けられる制度や雰囲気があった」が70.4%と最も多く,「同じような状況で仕事を続けている人がまわりにいた」(48.4%),「勤め先で頼られていると感じたり,働き続けるよう励まされることがあった」(31.2%)といった回答も多くなっている。

第1-特-28図は,同意識調査から現在仕事をしている女性について,現在の職場の状況と管理職志向の変化をみたものである。学卒時と現在を比較して管理職・専門職志向が強まったグループに注目すると,仕事の面で期待されていると感じたり能力を発揮する機会を多く体験しているとともに,仕事と家庭を両立しながら,仕事もキャリアアップできる環境であるとする人の割合が高くなっている。

第1-特-27図 女性が働き続けるために必要な職場環境別ウインドウで開きます
第1-特-26図 働き方全体の見直しのイメージ

▲CSVファイル [Excel形式:2KB]CSVファイル

第1-特-28図 女性の管理職志向を高める職場環境別ウインドウで開きます
第1-特-26図 働き方全体の見直しのイメージ

▲CSVファイル [Excel形式:2KB]CSVファイル

(多様な人々の発想による新たな商品・サービスの提供)

今までにない新たなアイデアや付加価値が生み出される過程には多様な情報が存在することが必要であり,多様な情報を集めるには様々な知識や経験,スキルをもつ多様な人材の存在が必要である。仕事全体を見直し,多様なライフスタイルを持つすべての人のための仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を進め,仕事のやりがいや能力発揮の機会がある職場環境を整備していくことの意義は,多様な人材を確保し,新しい価値を創造して新たな商品・サービスを開発・提供していくことにもある。

人材の多様化を図ることは,新しい価値を生み出すための一つの重要な仕掛けである(コラム10参照)。更にその能力をいかに引き出し融合させるか,仕事の進め方や管理の在り方,また女性を始め多様な人々が活躍できる企業風土の実現も重要である。

このような企業の取組や企業風土の効果を数量的に把握することは難しいが,本節の冒頭で示したとおり,女性の活躍が企業業績に良い影響を与えるとされることの背景には,以上のような仕組みが働いているものと考えられる。

コラム10 【企業事例】多様性のあるチーム構成がヒット商品の開発につながった事例