特集 仕事と健康の両立~全ての人が希望に応じて活躍できる社会の実現に向けて~

本編 > 1 > 特集 > 第3節 両立支援は新たなステージへ

第3節 両立支援は新たなステージへ

女性の就業者数は令和5(2023)年時点で3,051万人と、10年前に比べて344万人増加している30。第1節で確認したとおり、正規雇用比率も、近年、全体的に上昇してきており、正規雇用労働者として就業を継続する女性が増えてきている。また、若い世代の意識は変化しており、若い年代の女性ほど、就業継続意欲、昇進意欲、管理職になることへの意欲が高く、若い年代の男性ほど、家事・育児等への参画意欲が高くなってきている31,32

これらの変化については、仕事と家事・育児等の両立支援策など、これまでの男女共同参画推進に関する諸施策の成果等が表れてきているものではないかと考えられる。男女ともに、希望に応じて、家事・育児等を担いつつ、これらと仕事やキャリア形成との両立が可能になるようにしていくことが重要な課題であり、現在の若い年代の男女がより上の年代になったときにも、これらの意識を持ち続けられるように後押しする必要がある。

現状では、女性の正規雇用比率は上昇しているものの、依然として25~29歳をピークとし、年代が上がるとともに低下するL字カーブを描いており、この時期に働き方を変えたり、キャリアを中断・断念していたりする状況が残っていることがうかがえる。

妻に就業継続意欲があり、育児休業制度等を利用した後に、職場復帰を予定していたとしても、夫が長時間労働で帰宅が遅い等の様々な事情から、家事・育児等の多くを妻が一人で負担せざるを得ず、復帰をためらう状況は今なお存在している。

また、現在までに仕事と育児に関する両立支援制度は様々に拡充されてきており、それらの支援制度の活用により、小学校入学までの期間は乗り越えられたとしても、小学校入学と同時に子供を預けられる時間が短くなったり、利用できる両立支援制度が少なくなったりして、仕事と育児の両立が難しくなる、いわゆる「小1の壁」等もあると指摘されている33

一方で、男性が家事・育児等に参画したいと考えたとしても、長時間労働や仕事への責任感、同僚や上司の理解や支援を得られないこと等から、家事・育児等への参画を諦めている可能性もある34。今後は、「男女とも仕事と子育てを両立できる職場」を目指す必要がある。

また、男女を問わず仕事と育児の両立支援制度を活用する者のサポートを行う企業や、周囲の同僚に対する支援も重要である。両立支援制度の拡充により、当該制度を活用している者と周囲の同僚との間に、不公平感が発生・拡大すると、仕事と育児の両立に関して周囲の同僚からの理解や支援を得ることが更に難しくなり、育児と両立させようとしている本人のキャリア継続やキャリアアップを阻害し、ひいては「働きながら子供を産み育てる」という選択を諦めざるを得なくなる可能性すらある。一方で、業務負担増による、周囲の同僚の健康やモチベーションへの悪影響は、可能な限り減らす必要がある。

一般的に、年齢が上がるにつれて、何らかの不調や病気にかかるリスクは上昇する傾向にあるが、少子高齢化の進展によって、働く人の年齢構成は変化しており、雇用側にとっても、雇用者の健康管理が、今後ますます重要になってくる。

第1節、第2節で確認してきたとおり、女性と男性とでは、健康課題は、その内容も課題を抱えやすい時期も同じではない。

女性の場合は、個人差は大きいものの、月経周期による月単位の不調のほか、妊娠・出産期、更年期等のライフステージごとに、女性特有の健康課題に直面し、これらの課題は、子育て期や仕事上のキャリア形成・キャリアアップの時期と重なることが多い。一方、男性の場合は、一般的に女性と比べてキャリア形成・キャリアアップの時期において健康課題に直面することは少なく、変化も緩やかである。この男女の差異が、男性が多い職場において、女性の健康課題についての認識が進まない一因となっている可能性がある。

「昭和モデル35」下においては、正規雇用労働者の多くは男性であり、会社に貢献することが美徳とされ、長時間働き、会社の命に従って転勤することは当然であった。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という固定的性別役割分担意識があり、家事・育児等や自身の健康管理を専業主婦である妻に任せ、夫は仕事にまい進すべきという風潮があった。この時代は、男性と同じ立場で働く女性が少なかったため、職場環境自体が、誰もが常に職場に出勤していることが前提となっており、自身の健康も家庭のこともあまり心配しなくてよい男性に合わせたものとなっていたことから、代替要員は必要ないと考えられていた。

そのような状況下では、個々人は他人の業務までを請け負うことが難しく、一たび誰かが欠けると、同僚に相当な負担が掛かる状況が発生する。あるいは、業務内容の共有や標準化が進んでいないため、休暇を取得した分の業務の遅れを、その後に個人で取り返す必要が生じる。このことが、休暇の取りにくさや、不調を抱えながらも隠して我慢して働くという風潮の根源となっていたと考えられる。また、「自分にしかできない業務がある」、「他人には任せられない業務を担当している」すなわち「代わりがいない」と考えることが、社会における個人としての誇りであり、存在価値となっており、代わりの人でも対応できるようにすることを阻んでいた可能性も考えられる。

そのような環境下では、働く女性が、業務に支障が出るほどの月経に伴う不調を抱えていたとしても、あるいは、不妊治療と仕事の両立、更年期に伴う健康課題と仕事との両立に困難を感じていたとしても、声を上げにくく、たとえ声を上げたとしても、周囲からの理解を得られにくく、正規雇用労働者としての就業やキャリアアップを諦めざるを得なかった可能性がある36

また、「女性は弱い」、「頼りにできない」との印象が形成され、キャリアアップの障害となることを恐れ、健康課題や「子供を産み育てたい」という希望を隠しながら働かざるを得ない状況に置かれていた可能性がある。

コロナ下を経て、テレワーク等の柔軟な働き方が社会に浸透し、家事・育児・介護と仕事の両立については、周囲の理解や支援を得やすくなってきているが、女性特有の健康課題等については、慣習的にも話題に出すことが半ばタブー視されてきたこともあり、周囲の理解が得られているとは言い難い状況にある。

また、ライフステージごとに様々な健康課題に直面する女性が多い中、女性を採用・登用しないという安易な選択肢ではなく、柔軟な働き方の取組の推進によって、仕事と健康の両立がしやすい職場づくりが重要であることは論をまたない。

そして、女性だけでなく、健康や体調に不安を抱えている男性も同様であると考えられる。「男性は弱音を吐いてはいけない」、「弱音を言わず働くべき」37等のアンコンシャス・バイアスから、不調を抱えていたとしても、自身の健康課題を認めづらく、周囲にも相談しにくい環境にあると推測される。

また、団塊の世代が後期高齢者に差し掛かりつつある現在、仕事と介護との両立も重要な課題となっている。現在もなお、家族の介護の担い手の中心は女性だが、近年は男性の介護者も増加しており、働きながら介護をしているワーキングケアラーは、男女ともに特に50代以上で多くなっている。男女ともに、正規雇用労働者として生き生きと働き続けるために、ワーキングケアラーの労働生産性の低下や離職を防止するための仕事と介護の両立支援も極めて重要になってくる。介護を個人のみで抱えるべき課題とするのではなく、社会全体で支えていくことが必要であろう。

誰もが、自らが希望する生き方を選択でき、家庭と仕事、自分自身の健康のいずれをも犠牲にすることのない社会へと移行する必要がある。

そのためにも、依然として根強く残っている長時間労働の是正等、「昭和モデル」の働き方を改め、希望する誰もが、フレックスタイム制や時差出勤、テレワークなどの柔軟な働き方を選択できるようにしていく必要がある。

また、育児と仕事の両立を希望する者については、個別の意向を踏まえつつ、育児休業・産後パパ育休(出生時育児休業)の取得に加えて、勤務時間帯や勤務地の意向確認、短時間勤務制度や子の看護休暇、さらには、育児休業からの復職支援等により、子育て中も就業を継続できる取組を推進していくことが必要であろう。

介護についても、仕事と介護の両立支援制度の活用により、介護をしながらも労働生産性を著しく低下させることなく、就業を継続することができるような支援が必要であろう。同時に、両立支援制度利用時の業務分担や代替要員の確保、勤務間インターバル制度38の導入等による子育て中の者の業務を代替する同僚の心身の健康への配慮、育児休業取得者及びその周囲の同僚に対するマネジメントや評価の見直しにも積極的に取り組む必要がある。

また、女性役員や管理職への登用を推し進めるためにも、職場における健康支援についても、従来の男性中心のものから、男女それぞれの特性を踏まえた支援に切り替えていくという視点が重要であろう39

従来の仕事と家事・育児等の両立支援を健康の視点で捉え直してみると、仕事と健康の両立が難しい職場環境では、労働生産性の低下や離職40といった課題が顕在化しやすく、女性の登用も円滑に進み難い。

本人や職場が一人一人の健康に配慮することは、男女ともに、自らの理想とする生き方を実現し、活躍する上で重要なことである。そのためには、働き方やその背景にある企業文化も職員の健康に配慮したものにシフトしていくことが重要であろう。

30 総務省「労働力調査(基本集計)」

31 若い世代における意識の変化については、「令和5年版男女共同参画白書特集-新たな生活様式・働き方を全ての人の活躍につなげるために~職業観・家庭観が大きく変化する中、「令和モデル」の実現に向けて~」で分析している。

32 一方で、仕事にまい進していた男性が、家事・育児等に参画することによって感じる焦燥感、取り残された感、社会との隔絶感等のストレスにも留意が必要である。

33 こども家庭庁と文部科学省では、次代を担う人材を育成し、加えて共働き家庭等が直面する「小1の壁」を打破する観点から、放課後児童クラブの待機児童の早期解消、放課後児童クラブと放課後子供教室の一体的な実施の推進等による全ての児童の安全・安心な居場所の確保を図ること等を内容とした、「新・放課後子ども総合プラン」(平成30(2018)年9月策定)等に基づき、放課後児童対策を推し進めてきたが、令和5(2023)年5月時点で、利用できなかった児童(待機児童)が約1.6万人存在している(こども家庭庁「令和5年放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況(令和5年5月1日現在)」)。

34 男性が育児や介護、家事、地域活動に積極的に参加するために必要なことについて、男性では若い年代ほど、「男性による育児・家事などについて、職場における上司や周囲の理解を進めること」、「労働時間の短縮や休暇制度、テレワークなどのICTを利用した多様な働き方を普及することで、仕事以外の時間をより多く持てるようにすること」を挙げる者の割合が高い(内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」(令和4(2022)年11月調査))。

35 「令和5年版男女共同参画白書特集-新たな生活様式・働き方を全ての人の活躍につなげるために~職業観・家庭観が大きく変化する中、「令和モデル」の実現に向けて~」の中で、「『男性は仕事』『女性は家庭』という、いわゆるサラリーマンの夫と専業主婦から成る家庭を前提とした制度、固定的な性別役割分担を前提とした長時間労働や転勤を当然とする雇用慣行等を『昭和モデル』だとすると、職業観・家庭観が大きく変化する中、全ての人が希望に応じて、家庭でも仕事でも活躍できる社会への変革が実現した姿が『令和モデル』であると言える。」としている。

36 調査によると、月経に関わる不調による生活への支障が大きいほど、「健康課題による仕事への影響・支障」として、「就いていた仕事を自ら辞めた(転職含む)」を挙げる者の割合が高いほか、「女性特有の健康課題に対して、職場にどのような配慮があると働きやすいと思うか」について、「生理休暇を取得しやすい環境の整備(有給化や管理職への周知徹底など)」や上司及び社員全体の理解を挙げる者の割合が高くなっている。

37 内閣府「令和4年度性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」では、約3割の男性が、「男性は人前で泣くべきではない」と回答している。

38 勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保しようとするものであり、「労働時間等設定改善法」(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号))が改正され、平成31(2019)年4月1日より勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務となっている。一定のインターバル時間を確保することで、従業員が十分な生活時間や睡眠時間を確保でき、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることができるとされている(厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」から引用。)。

39 例えば、個別インタビューでは、「体調や月経周期によって、柔軟に勤務時間が変更できるフレックスタイム制や、体調不良時にすぐに横になれる休養室があれば利用したい」という声があった。

40 調査によると、働いたことがあり「健康でないと思う」者の中では、女性23.2%、男性23.9%が「就いていた仕事を自ら辞めた(転職含む)」ことがあると回答している(特-44図再掲)。

(自らの健康維持のために)

これまでみてきたとおり、健康は、自らの理想とする生き方を実現する上で重要な基盤となるものであり、全ての人が、健康課題に対する正しい知識を習得し、自らの健康増進に自発的かつ積極的に取り組めるようにすることが重要である。人生100年時代において、健康でいられる期間をできるだけ延ばすために、若い頃から、自らの健康と向き合い、健康増進に取り組む必要があり、定期的な健康診断等の受診や適切な通院等による疾病の早期発見、早期治療が重要となる。

働いていない人や、パートやアルバイトなどで働いているため、勤務先での定期健康診断の受診機会がない人は、市町村や学校等が実施する健康診断等の機会を活用し、結果を健康管理に生かすことが重要である。

また、若年層においては、自分の将来を考え、妊娠の計画の有無にかかわらず、妊娠・出産の知識を持ち、自分の身体への健康意識を高めること(プレコンセプションケア)も必要である。

さらには、将来の家族の介護に向けて、介護に直面する前の早い段階から、介護に関する知識を習得し、仕事と介護の両立支援制度に関する情報を得ておくことも重要である。家族の介護が必要となった場合、介護の期間は長期間にわたることが多く、また、育児とは異なり、時間の経過とともに、負担が増える状態になる場合が多い。持続可能な介護のためにも、早くからケアマネジャーの役割や利用できる介護サービスを含めた知識の習得が必要となっている。

(仕事と健康の両立のために)

仕事と健康の両立のために、職場では次のことが重要になってこよう。

1つ目は、女性と男性それぞれの健康課題に関する研修・啓発等の実施である。第1節、第2節で確認したとおり、男女ともに様々な健康課題が存在する。健康に関する正しい知識を習得することが、働きやすい職場を構築するための第一歩であり、特に職場のマネジメントを行う管理職にとっては必須である41。部下が健康課題を抱え、隠したままで業務を遂行することは、本人の労働生産性の低下は言うまでもなく、周囲にも影響を及ぼす可能性がある42ほか、組織としての急な休暇・欠勤リスクを増大させることになる。

また、現在はまだ、管理職が男性であることが多いため、月経に伴う不調や女性に多い更年期障害、働く世代に多い女性特有の病気や不妊治療に関する部下の悩みを理解することは難しい43。さらに、女性特有の健康課題は、個人差が大きいため、同じ女性であっても、自身の健康課題が無い又は症状が軽い場合には、周囲の女性の深刻な不調や健康課題に関わる悩みを理解することが難しいケースもある。

月経等の女性の健康課題については、概して学校教育の保健体育でのみ扱われ、それ以降の情報のアップデートが行われていない場合が多く、また、女性自身も本人の経験のみに基づく知識に限定されている場合が多い。働く女性が増加した現在、改めて、職場における男女の健康課題に関する研修等の実施と、雇用する側・雇用される側双方の積極的な受講が求められる。また、研修等の際に情報交換の場を設け、悩みを共有することで心の負担が軽減されることもある44

2つ目は、健康診断等の受診に対する支援である。健康診断等を通じて、自分自身の健康状態について認識し、早めの対処を行うことは、自身のウェルビーイングにもつながる。雇用側には、健康診断等を受診できるよう、積極的なサポート等が求められる。また、第1節で確認したとおり、正規雇用労働者の健康診断等受診率は男女ともに9割となっているが、非正規雇用労働者では6~9割、無業者では2~6割となっており、職場や学校による健康診断等の受診機会の提供が無いケースへの対処が課題となっている45

3つ目は、健康に関する相談先の確保である。男女ともに自身の健康について認識し、気軽に相談できる相談先が必要である。そのためにも、産業医に継続的に相談できるなど、産業医等の一層の活用が望まれる。また、働く女性にとって、産婦人科が身近な存在になることは、女性特有の健康課題に関して相談できるようになり、働きやすさにつながるとともに、妊娠等に対する正しい知識の習得につながり、自らの希望するタイミングでの妊娠・出産の可能性を高めることができる。このことは、ひいては少子化対策にもつながる。

4つ目は、休暇の在り方である。労働者一人平均年次有給休暇取得率は、令和5(2023)年時点で62.1%となっているが、業種によって差があり46、多くの労働者がいまだに年次有給休暇を十分に取得できていないと感じている47

また、女性特有の症状のうち、月経時の不調に対して、我が国では「生理休暇」48の制度があるが、取得率は極めて低くなっている49。「『生理休暇』を申請することは、自らの月経周期を明かすことになるため、言い出しにくい」という声があるほか、女性のみに付与された休暇であるため、男性が多い職場ではなおさら取得しにくい、「生理休暇」は必ずしも有給ではないため、年次有給休暇が優先して使用されているなどの理由があるものと推察される50

41 個別インタビューでは、「男性上司の中に、不調を理解してくださる方がいらっしゃり、助かっている」、「男性上司であっても、上司の方から健康に関することなどを話してもらえると、自分からも相談しやすい」という声があった。

42 調査によると、健康課題による仕事への影響・支障については、男女ともに「人間関係がスムーズにいかなくなった」ことがあるとする者の割合が最も高くなっている。

43 個別インタビューでは、「男性上司であっても、上司の方から妻の不調等を話してもらえると、自分からも話しやすい」という声があったが、家族の姿が変化し、未婚率も上昇する中で、独身の男性上司も増えてきていると考えられる。

44 職場でほかにも同じような悩みを持つ人がいることが分かり、悩みを話せるだけでも安心できるという声もある。直接解決に結びつかなくても、悩みを共有でき、情報交換できる機会があることで心の負担が軽くなることもある(労働者健康安全機構・関東労災病院産婦人科働く女性専門外来 星野寛美氏へのヒアリングより)。

45 更年期障害だと思っていたら、健診の結果、実は貧血だった、婦人科系の病気だった。ということもある。全ての国民が、健康診断やがん検診を受診しやすい環境の整備が必要である(同上 星野寛美氏へのヒアリングより)。

46 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」

47 個別インタビューでは、「仕事を休みたくてもフォロー体制が無く、休んだ分だけ仕事が溜まっていく」、「体調不良の時に仕事を代われる人がいないから、休むことができず、我慢して働いている」、「休暇制度をいくら作っても、実際に休めないのでは意味がない。まずは仕事のやり方の見直しを行い、今ある有給休暇を取りやすくすることが大事」などという声があった。

48 労働基準法(昭和22年法律第49号)(抄)
(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)
第六十八条 使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。

49 女性労働者のうち、平成31(2019)年4月1日から令和2(2020)年3月31日までの間に生理休暇を請求した者の割合は0.9%、女性労働者がいる事業所のうち生理休暇の請求者がいた事業所の割合は、3.3%となっている。なお、令和2(2020)年度時点で生理休暇中の賃金を「有給」とする事業所の割合は29.0%で、そのうち全期間100%支給は65.6%となっている(厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」)。

50 個別インタビューでは、「グループ内に自分しか女性がいないため、ほかの人が使えない休暇を自分だけが使うということに引け目を感じている」、「生理休暇は自分の月経周期を申告しているようで取りづらい。名前が変われば取得しやすくなるのではと思う」、「『生理休暇』という制度があるのは良いが、月経に限らず月経前症候群(PMS)等も含めた女性特有の不調に関して休みが取れる休暇であると良い」、「女性特有の不調に対する休暇制度があれば、安心して仕事に集中することができる」、「更年期障害休暇があれば良い」という声もあった。月経に限らず、月経、PMS、不妊治療、更年期症状、その他の疾患の通院・検査・簡単な手術等を含め、健康に関することであれば、男女ともに誰もが取得できる休暇であると使い勝手が良くなることも考えられる。なお、企業によっては、既に「生理休暇」以外の名称に変更し、更に用途を拡大した上で運用している例もみられる。

(管理職として働くための条件)

仕事と健康の両立については前述のとおりであるが、有業者のうち、「現在より上の役職に就きたい」とする者の管理職として働くための条件をみると、男女、年代を問わず「管理職でもきちんと休暇がとれること」を挙げる者の割合が最も高くなっている。

それ以外の項目についてみると、20~39歳女性では、「在宅勤務・テレワーク等が管理職でも柔軟に活用できること」、「出産・子育てと管理職として働くことへの両立支援~配慮があること」、「フレックスタイムなど始業・終業時間が柔軟であること」、「産休・育休・介護休暇の取得によってキャリアが中断されないような体制・配慮」等を挙げる者の割合が高く、40~69歳女性では「フレックスタイムなど始業・終業時間が柔軟であること」、「管理職でも残業や長時間勤務が極力ないような体制・配慮」等を挙げる者の割合が高くなっている。

特に20~39歳女性では「出産・子育てと管理職として働くことへの両立支援~配慮があること」、「産休・育休・介護休暇の取得によってキャリアが中断されないような体制・配慮」、「家事・育児・介護を配偶者と分担できること」が40~69歳女性及び男性に比べて高くなっている。

一方、男性は、「管理職の残業や長時間勤務にも給与反映があること」、「管理職でも残業や長時間勤務が極力ないような体制・配慮」、「フレックスタイムなど始業・終業時間が柔軟であること」等を挙げる者の割合が高くなっており、長時間労働への配慮や柔軟な働き方を求める声が多い。

男女ともに、長時間労働の是正及び柔軟な働き方の推進が望まれるほか、育児・介護等が女性に偏っている現状では、女性の活躍推進、女性の管理職登用のためには、仕事と育児・介護等との両立への一層の支援が必要とされている。

長時間労働の是正や柔軟な働き方の推進により、男性の家事・育児等への参画が進み、女性の家事・育児等の負担が軽減されれば、より一層の女性の活躍が期待できる(特-68図)。

特-68図 どんなことがあれば管理職として働けそうか(男女、年齢階級別・有業者のうち昇進意欲のある者)別ウインドウで開きます
特-68図 どんなことがあれば管理職として働けそうか(男女、年齢階級別・有業者のうち昇進意欲のある者)

特-68図[CSV形式:2KB]CSVファイル

(健康に関する新たな動き)

近年、大企業を中心に、健康経営の取組が広がりつつある。第2節で確認したとおり、健康経営の効果は様々なところで表れており、今後、この動きを中小企業にまで広げていく必要がある。

また、個々の職員が抱える健康課題に由来する労働生産性の低下を最小化し、生き生きと働ける職場にしていくためには、フレックスタイム制、時差通勤、テレワーク等を活用した柔軟な働き方の推進とともに、仕事と家事・育児・介護等の両立のために、仕事だけでなく、家事・育児等においても一層のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の導入が考えられる51

さらに、女性特有の健康課題をテクノロジーの力で解決するための製品・サービスであるフェムテック等、健康課題の克服というニーズは、新たなビジネスチャンスとなり得るとも期待されている52

女性が健康課題を抱えながらも働きやすい社会は、高齢者や障害がある人、男性にとっても働きやすい社会になることが期待される。

51 一例として、家事を補助する家電の開発や、子育て関連では、各種手続、学校への欠席連絡、保育園の連絡帳の電子化等。

52 経済産業省によると、令和7(2025)年時点のフェムテックによる経済効果は、約2兆円/年と推計されている(経済産業省「令和2年度産業経済研究委託事業働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査」)。

(今後の両立支援)

今後の仕事と家事・育児・介護等の両立支援は、女性や子育て期の男女だけに焦点を当てるのではなく、男性を含む全ての人の働き方を柔軟な働き方など、両立を実現できるような働き方に変えていくことが重要である。

前述のとおり、コロナ下を経て、テレワーク等が浸透するなど、柔軟な働き方に対する理解は進んできている。

しかし、依然として「長時間働くことが評価される」、「長期雇用の中で育成され、評価される」昭和文化に引きずられ、限られた時間で、効率良く成果を出し、柔軟な働き方をする人が評価される企業文化に切り替わっているとは言い難い。このため、柔軟な働き方をしながら成果を上げる従業員が登用される例を増やしていく必要があろう。

また、柔軟な働き方の代表例とされるテレワークや在宅勤務・フレックスタイム制は、活用や取得が難しい職種もあるが、柔軟な働き方が可能な職種であっても、依然として残る紙文化や、長時間労働・会社にいることを前提とした業務の進め方が、柔軟な働き方を阻む要因となっている。

男女問わず、子供の有無や健康状態を問わず、時間ではなく成果で評価される社会への移行が必要である。

加えて、特に女性が多い医療・福祉等を含むサービス業では、時間と場所を拘束される働き方が多いが、女性が就業を継続していくためには、そのような業種であっても、現行では難しいと思われている業務内容のオンライン化等を進めるなど、変革を促していく必要がある。

さらに、就業継続希望はあったものの、育児・介護、療養等で、やむを得ずキャリアが中断した場合に、元の職場に復帰しやすいような復職支援の仕組みが必要である。職務経験を積んだ人材は企業にとっても重要であり、育児・介護、療養等による離職を防ぐとともに、キャリアを中断した場合の復職支援や、短時間勤務であっても正規雇用労働者であり続けられる仕組み、フルタイムで働けるようになった際には、非正規雇用から正規雇用への切替えが可能になるといった雇用の仕組みを確保していくことが必要である。

他方、柔軟な働き方が浸透する中で、もっと頑張って働きたいと思っている人の意欲を削がないように留意する必要もある。

人生100年時代において、自らが健康であり、自らの能力を発揮できる環境であることは、生きがいの観点、経済的安定の観点からも非常に重要である。また、企業にとっては、少子高齢化が進展する中で、必要な労働力を確保し、労働生産性をより向上させるために、従業員の健康支援は必要不可欠である。健康経営に関する取組は、既に大企業を中心に行われているが、今後は、中小企業等での取組も拡大させていくことが重要である。

女性も男性も、仕事か家庭か、仕事か健康かなどの二者択一を迫られることなく、睡眠時間や自分のための時間等を削ることなく、持続可能な形で自らの理想とする生き方と仕事を両立することが可能となれば、キャリア継続、キャリアアップのモチベーションとなるだろう。

育児・介護との両立支援の制度は整いつつある今、いかに制度を有効に活用するかが問われている。両立支援は新たなステージを迎えている。

特-69図 両立支援は新たなステージへ別ウインドウで開きます
特-69図 両立支援は新たなステージへ

コラム3 女性活躍とフェムテック

参考1 「令和5年度 男女の健康意識に関する調査」(内閣府男女共同参画局委託調査)

参考2 「令和5年度 男女の健康意識に関する個別インタビュー調査」(内閣府男女共同参画局委託調査)