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コラム3
女性活躍とフェムテック
女性は年齢によるホルモンバランスの変化とともに、特有の健康課題がある。代表されるものに、月経関連症状、更年期症状がある。中でも、月経に関しては、個人差はあるものの、おおよそ12歳から38年間の付き合いとなり1、多くの女性が月に1回、3日から1週間にわたって、月経及び関連症状に悩まされている。この悩みの根源は、月経によって引き起こされる子宮収縮に伴う痛み・貧血、経血漏れへの対処、経血に伴う不快感など実に様々である。月経は、女性にのみ起こる生理現象であり、その不調の程度も人によって異なる。我が国では社会的・文化的背景から、月経につらい症状が伴っても、自身で我慢し対処すべきことである、他人や異性に知られることは恥ずかしいことである、と女性自身も捉えがちである。女性が、月経のような健康課題と付き合いながらも、社会で更に活躍し続けるために、何が必要だろうか。
本題に入る前に、女性特有の健康課題の社会的なインパクトについて確認してみる。経済産業省によると、女性特有の健康課題による労働損失等の経済損失は、社会全体で年間約3.4兆円と試算されている2。我が国においては、令和5(2023)年時点で、就業者数の45.2%が女性3であり、多くの女性の共通の悩みは、いまや社会全体の課題といえるだろう。
また、社会は、有償労働だけでなく、無償労働によっても支えられている。女性特有の健康課題によって、仕事のみならず、家事・育児・介護や地域活動等、社会活動全般にも影響があると思われる。
近年、女性の健康課題における解消策の1つとして、「フェムテック」と「フェムケア」が注目されている。
「フェムテック」とは、「Female(女性)」+「Technology(技術)」の造語で、生理や更年期など女性特有の悩みを先進的な技術で解決することを指す。
例えば、月経周期管理アプリでは、月経周期の把握により、自ら快適に過ごすための準備や対処が可能になる。オンラインによる健康相談や婦人科受診では、受診までの時間が節約できるほか、受診への心理的ハードルも下がるなど、女性の健康課題解消の一歩となる。
一方、「フェムケア」は、特定のテクノロジーによらず、様々な方法で女性特有の健康課題をケアする製品・サービスの総称である。
フェムケア製品が発揮する効果の具体例の1つとして、デリケートゾーンに直接挟んで使用する経血漏れ防止に特化した製品を紹介する。月経は、一般的に月経開始後の2日目が最も経血量が多いとされており、女性は対策として、月経専用のサニタリーショーツの利用、経血量の多い日用の大型ナプキンの装着やこまめな交換などを実施しているが、経血量の多さやナプキンのずれにより、経血が漏れて衣類等を汚してしまうことが少なくない。それが、このフェムケア製品を活用すると、デリケートゾーンに密着するため、アクティブなスポーツをしても、自転車に乗って強くペダルを漕いでも、経血が漏れにくい。また、ナプキンとの併用により、吸収力がアップする。身体を動かす職種であったり、職場で長時間の会議があったり、自らのタイミングで職場のトイレに行きにくい環境や職種の女性の悩みを解決する一助となり得る。この悩みからの脱却、フェムケア製品による安心感の醸成により、働く女性のパフォーマンスが維持・向上できる可能性は高い。
フェムテック・フェムケアの活用は女性自身によるセルフケアだけではない。自社の従業員の生産性向上のため、企業が積極的に導入する動きもある。例えば、女性従業員専用の予防医療サービスを導入している企業がある。女性特有の健康課題について、アプリを通じた情報提供、ウェブ問診によるセルフケア、チャット相談を通じて医療機関受診までをサポートしてくれるというものである。女性活躍を推進する上では、女性の悩みを解消し、能力を最大限に生かすための支援体制構築や環境整備は重要であろう。職場の中で全てを解決させることは難しいが、最新のテクノロジーの活用により、「職場が女性特有の健康課題について相談できる機会を提供する」ことは可能である。
政府としても働く女性への支援を加速させている。経済産業省では、令和3(2021)年度から、フェムテックを活用した働く女性の就業継続支援事業(補助事業)を実施している。先進的な取組を実施している企業や自治体の中には、妊活・不妊治療の相談サポートサービスやストレス状態を可視化できるアプリ、匿名で参加できるオンライン婦人科相談サービス等を試行することで女性の健康課題と仕事の両立に向けた支援の裾野が広がりつつある。
月経 | 吸水ショーツ、月経カップ、布ナプキン |
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月経痛緩和アイテム | |
月経周期管理アプリ | |
オンライン診療(ピル処方) | |
不妊・妊活 | 排卵日予測検査薬 |
妊娠検査薬 | |
妊孕カ・卵巣年齢検査キット | |
出産・産後 | 陣痛トラッカー、電動搾乳機 |
骨盤底筋トレーニング製品 | |
更年期 | ホットフラッシュ対策製品 |
尿漏れ対策製品 | |
骨盤底筋活性化製品 | |
全般 | オンライン健康相談 |
オンライン診療(産婦人科など) |
(備考) 経済産業省等各種資料を参考に作成。
人生において、就職・結婚・出産・子育て・介護等のライフステージは様々である。キャリア形成という観点では、異動・昇進、転職、雇用形態の変化等があり、個別的でより複雑な状況が生じている。加えて女性は、特有の健康課題がキャリア形成の障壁となる可能性がある。上述したとおり、「フェムテック」及び「フェムケア」は、女性活躍において、課題解消の一助となり得る。
内閣府の調査によると、若い年代では月経への困りごとに対して、上の年代と比較してフェムテック・フェムケア製品を活用していることが分かった(図2)。管理職と更年期症状とがリンクする40代及び50代においては、更年期に関連する製品の充実及び活用が期待される。
今後、女性特有の健康課題に関する調査研究が進むことで、男女ともに女性の健康課題に対する知識・理解が深まり、更に社会的にも認知され、解決に向けた輪が広がっていくだろう。かつては、あらゆる世代の女性が女性特有の健康課題に向き合い、自身で乗り越えてきた。時代が遷移した今、男女がお互いの声に耳を傾け、尊重しあう姿勢が求められている。男性も女性も健やかに活躍できる、真にインクルーシブ(包摂的)な社会の実現が望まれる。
1 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」
2 経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について(令和6年2月)」
3 総務省「労働力調査(基本集計)」