特集 新たな生活様式・働き方を全ての人の活躍につなげるために~職業観・家庭観が大きく変化する中、「令和モデル」の実現に向けて~

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第3節 「令和モデル」の実現に向けて

第1節、第2節で確認したとおり、男性の長時間労働、家事・育児等を理由に働き方を変える女性等、高度成長期・昭和時代の働き方、雇用慣行が依然として残っている一方で、若い世代を中心に、生活様式、働き方についての考え方が変わってきている。これは、これまでに行われてきた男女共同参画に関する法整備等の成果が表れてきているものと考えられる。

我が国の未来を担う若い世代が、理想とする生き方、働き方を実現できる社会を作ることこそが、今後の男女共同参画社会の形成の促進において、重要である。そのためには、マクロ的にはあまり表れない小さな芽であっても、若い世代の意識の変化を認識し、その芽をつぶさないように、時代に合わなくなっている慣行等を変えていかなければならない。若い世代で、意識の上での男女共同参画は進んできていることが確認できたが、結婚し、さらに子供を持っている人たちの間では、男女間の意識や行動の差異が大きくなる。家族を形成することにより、固定的な性別役割分業や意識が表面化しているように見える。結婚し、子供を持つことになっても、生き方、働き方を「昭和時代」に戻していくことがないようにしなければならない。

(変革のチャンス)

若い世代を中心に意識が変わってきていることに加え、コロナを経て、社会全体の意識も変わりつつある。

長い間推奨されながらもなかなか進まなかったことがコロナ下で一気に進んだ。例えば、企業のテレワーク導入率は、令和元(2019)年は約2割にとどまっていたが、令和3(2021)年で5割を超えた(特-53図再掲)。地方移住相談件数は、令和3(2021)年度は、調査開始以降、最多の件数となった32。しかし、現在、テレワーク実施率はコロナ感染拡大期よりも下がり、地方移住については、東京都で3年ぶりに転入超過が拡大33するなど、コロナとの共存の中で、一部、コロナ前に戻る動きもみられる。とはいえ、家族の姿が変わっている今、生活様式、働き方を元に戻すのではなく、コロナ下の経験から学び、コロナ前よりもより良い状態にすることが必要である。

未曽有の少子化危機34は憂慮すべき事態であるが、社会全体で働き方を見直す動きにつながっている。今こそ、全ての人が希望に応じた生き方、働き方を選択できる社会、女性も男性も希望に応じて、家庭でも仕事でも活躍できる社会を実現する変革のチャンスである。

32総務省「令和3年度における移住相談に関する調査結果(移住相談窓口等における相談受付件数等)」より。調査開始は、平成27(2015)年度。

33総務省「住民基本台帳人口移動報告 2022年(令和4年)」より。

34令和4(2022)年の出生数は、初めて80万人を割り込み、過去最少となった(厚生労働省「人口動態統計速報」)。

(全ての人にとっての問題)

これまで、女性活躍や仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)について考える際には、主に女性、特に夫婦と子供から成る世帯の女性の置かれている状況、就業継続や仕事と家庭の両立に着目されることが多かった。しかし、単独世帯が増加する中、男女問わず、自分の親の介護と仕事を両立することが必要となる人が増加している。ひとり親世帯が増加する中、夫婦間ではなく、ひとりで仕事と育児を両立させる必要がある人も増加している。今こそ、ワーク・ライフ・バランスは、女性だけでなく、男性や、多様なライフコースを歩んでいる全ての人にとっての問題でもあると、改めて認識する必要がある。これまで、官民の努力により両立支援制度の整備等が進められてきた結果、育児や介護を行っている人も、仕事を継続しやすくなってきている。しかし、両立支援制度の利用が女性に偏り、その他の人々の働き方が変わらなければ、性別役割分担の固定化につながるおそれがある。また、育児や介護等の事情を抱える人に配慮した取組は、配慮された側のキャリアロスや、職場の不公平感につながりかねない。事情を抱えた人への支援や配慮も必要だが、同時に長時間労働等を見直し、柔軟な働き方を浸透させることで、全ての人が働きやすい環境を作ることこそが、育児や介護等を行う人にとっても働きやすく、キャリアも追求できる環境を作ることにつながると考えられる。

現在、我が国の女性においては、子育てを行うことと、キャリアの追求のどちらかを選択しなければならない場合が多く見受けられる。労働力人口の減少が見込まれる中、女性が子育てかキャリアかを選択しなければならない状況は、女性が希望する生き方を叶えられていないだけでなく、少子化対策という観点からも、我が国経済の成長という観点からも、損失が大きい。男性においても、主に若い世代において家事・育児参画の意欲が高まっているものの、長時間労働等の慣行により実現が叶っていない。加えて、第1節で見たとおり、働き盛りといわれる年代で、経済・生活問題や勤務問題を理由とした自殺が多いなど、長時間労働等の慣行は、男性の心身の健康にも影響を及ぼしている。男性もまた、男女共同参画社会の恩恵を受けられておらず、希望する生き方を実現できていない。結婚してもしなくても、子供を持っても持たなくても、性別を問わず、仕事か家庭の二者択一を迫られることなく、自分らしく活躍できる環境が求められている。

(「昭和モデル」から「令和モデル」へ)

「男性は仕事」「女性は家庭」という、いわゆるサラリーマンの夫と専業主婦から成る家庭を前提とした制度、固定的な性別役割分担を前提とした長時間労働や転勤を当然とする雇用慣行等を「昭和モデル」だとすると、職業観・家庭観が大きく変化する中、全ての人が希望に応じて、家庭でも仕事でも活躍できる社会への変革が実現した姿が「令和モデル」であると言える。「令和モデル」の早期実現に向けて、特に優先すべきことは、以下のとおりである。

第一に、男女ともに自分の希望が満たされ、能力を最大限に発揮して仕事ができる環境の整備である。

生活様式・働き方に対する人々の意識は変化してきており、特に若い世代の未婚の男女では、生活時間の使い方について、実態も意識も大きな差がない。しかし、結婚し、さらに子供が生まれると、女性は家事・育児と仕事を両立することを目的に働き方を変える場合が多く、その結果、我が国では女性の非正規雇用労働者の割合が大きいのが現状である。女性がライフイベントの変化にかかわらず、自分の希望が満たされ、能力を最大限に発揮できるようにするためにも、柔軟な働き方の浸透、勤務時間にかかわらず仕事の成果を評価され、昇進を目指すことができる環境の整備が必要である。

また、我が国においては、指導的役割に占める女性の割合が諸外国と比較して低い。女性活躍のための取組は一朝一夕には成らず、中長期的な視点を持つことが必要不可欠である。しかし、各国の企業役員に占める女性比率の推移を見ると、欧米諸国は10年以上前から取組を加速しており、我が国は、諸外国に大きく遅れを取っている(特-76図)。この状況を変えるために、加速度的に取組を進めていくべきである。

特-76図 諸外国の役員に占める女性の割合の推移別ウインドウで開きます
特-76図 諸外国の役員に占める女性の割合の推移

特-76図[CSV形式:1KB]CSVファイル

一方、育児や介護のために一旦労働市場から退出することを希望する人も、今後も存在し続けることが見込まれる。これらの人が再就職を希望する際、また、就業を継続している女性がキャリアアップを目指す際に、能力やスキルを向上できるよう、リスキリング等の機会を提供することも重要である。なお、単に講座・講義等の場の提供だけでなく、育児・介護等の心配をせずにリスキリング等に参加できる仕組み、集中できるような工夫・配慮、上司等の周囲の応援・後押しも求められる。

第二に、男女ともに仕事と家事・育児等のバランスが取れた生活を送ることができることである。

長期的に見ると男性の平均給与額は下がっていることに加え、このところの物価高の影響もあり、片働きで家族を支えることが現実的に難しくなってきており、これからはますます共働き世帯が増加することが見込まれる。しかし、国際的に見ても、我が国の男性の労働時間は長く、これを改善しなければ、男性が家事・育児時間を増やしたいと考えていても、増やす余地が無く、実現が難しい。また、女性に家事・育児負担が偏っていることにより生じている、特に子育て期の女性と男性の仕事時間の差は、女性の社会での活躍の遅れにつながっている。女性に家事・育児の負担が偏ることの弊害は、学校休校等の措置が取られたコロナ下でも明らかになった。さらに、長時間労働や家計を支える責任の、男性への負担は大きく、有償労働の負担を軽減し、男女間で分担することは、男性の心身の健康にも資すると考えられる。一方、平日の男性の家事・育児時間が長くなるほど、出産後の妻の離職率が低下することも明らかになっている(特-77図)。男女双方が現在の働き方を変えることで、女性の社会での更なる活躍、男性の更なる家事・育児参画を追求していく必要がある。長時間労働の是正は急務である。

特-77図 出産後の夫の家事・育児時間別妻の離職率別ウインドウで開きます
特-77図 出産後の夫の家事・育児時間別妻の離職率

特-77図[CSV形式:1KB]CSVファイル

男性の育児休業取得の促進も必要である。育児休業取得については、男性の家事・育児への参画を促進する効果が期待されると同時に、実際に取得した男性からは、「仕事から離れることで価値観が広がる」といった、プラスの効果も聞かれる。しかし、20~30代の男性が1か月以上の育児休業を取得しない理由を見ると、「収入が減少してしまうため」と「職場に迷惑をかけたくないため」が約5割となっている(特-78図)。育児休業取得の推進や男性の家事・育児への参画に関する取組を促進するために、民間企業でも育児休業取得者の担当業務を引き継いで業務が増加する他の社員に応援手当を支給する、男性を対象に育児体験研修を行うなど、様々な工夫がされ始めている。このような事例から学ぶと同時に、職場での業務の見直し35や、効率的な業務配分を行い、更なる取組の促進を図っていくことが重要である。

特-78図 1か月以上の育児休業を取得しない理由(既婚20~30代男性)別ウインドウで開きます
特-78図 1か月以上の育児休業を取得しない理由(既婚20~30代男性)

特-78図[CSV形式:1KB]CSVファイル

第三に、これらを下支えする前提としての、女性の経済的自立である。

そのためには、まずは男女間賃金格差の是正である。これまで見てきたとおり、男女間賃金格差の存在は、性別役割分担を固定化する要因となり得ることからも、是正が必要である。令和4(2022)年度、政府は常用労働者301人以上の一般事業主(民間企業等)及び全ての特定事業主(国・地方公共団体等)に、男女の賃金の差異に関する情報の公表を義務化した36。これを契機に、各事業主が、現に存在している格差が本当に合理的なものかどうかを改めて確認し、不合理な格差がある場合には、その解消に向けた取組を一層促進していく必要がある。同時に、これまでも取り組んできた同一労働同一賃金についても徹底を図り、女性が多い非正規雇用労働者の待遇を改善することも重要である。男女間賃金格差の是正のためには、リスキリングによる能力向上支援及びデジタル人材の育成など、成長分野への円滑な労働移行も重要である。

また、就業調整を行っている非正規雇用労働者の女性がいることを踏まえれば、いわゆる「年収の壁」に代表されるような、女性の就労の壁となっている制度・慣行についても、見直しを進めていくことが必要である。

増加しているひとり親については、希望する全てのひとり親世帯が養育費を受領できるようにすることが重要である。前述の認識の下、養育費受領目標を設定したところであるが、養育費を支払うのは当然のことであるという意識を定着させる必要がある。

「令和モデル」の実現には、上記のほか、誰もが勤務時間中、子供を安心して預け、安心して働ける社会の仕組み(乳幼児の保育施設だけでなく、学童保育施設等、児童が放課後や長期休み期間に過ごす施設も含む。)、介護の心配をせずに働ける社会の仕組み、自営業者やフリーランス・ギグワーカー等が安心して働ける環境の整備、各種手続・申請のオンライン化等の簡素化等々、男女共同参画施策だけでなく、こども・子育て施策、働き方改革、税・社会保障制度等、ソフト・ハード両面、個々別ではなく、相互の関連を見ながら同時並行で、官民総力を挙げて推進していくことが求められる。

性別を問わず、希望に応じて、家庭でも、仕事でも活躍できる社会の実現、既婚者も非婚者も(未婚者も)、子供のいる人もいない人も、誰もが活躍できる社会の実現こそ、日本社会が目指すべき姿である。

世界情勢も、我が国の経済情勢も先行き不透明な中、現状では何も解決しない。新しい動きに気付き、制度・慣行を今の時代に合ったものに変え、新しい発想、新しい叡智を取り入れ、全ての人が活躍できる社会、「令和モデル」への転換の先にこそ、我が国の更なる成長がある。

特-79図 「令和モデル」の実現に向けて別ウインドウで開きます
特-79図 「令和モデル」の実現に向けて

35第4回こども政策の強化に関する関係府省会議(令和5(2023)年3月22日開催)資料4では、我が国では、属人的業務が多く、引き継ぎがしにくいことが男性の育児休業取得の妨げになっている可能性が指摘されている。

36特定事業主については、令和5(2023)年4月1日施行。

コラム6 休み方考察~サバティカル休暇

コラム7 令和5(2023)年G7栃木県・日光男女共同参画・女性活躍担当大臣会合開催について

コラム8 女性活躍と経済成長の好循環実現に向けた検討会について

参考 「令和4年度 新しいライフスタイル、新しい働き方を踏まえた男女共同参画推進に関する調査」(内閣府男女共同参画局委託調査)