コラム6 休み方考察~サバティカル休暇

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コラム6

休み方考察~サバティカル休暇


祝祭日を含む休日と休暇の状況を国際比較してみると、我が国は、いわゆる「国民の祝日」(16日)1と年次有給休暇(10日)2を合計して26日間となっている。諸外国と比較して、祝日は多い方である。また、法定最低年次有給休暇は10日となっているが、勤続年数に応じて付与日数が増加することになっており、勤続年数6.5年以上の場合は20日付与され、諸外国と同程度の日数になる。しかし、有給休暇の実際の平均取得日数となると、20日以上取得している諸外国と比較して8.6日と非常に少ないものとなっている(図1)。

(図1)休日・休暇の状況(国際比較)別ウインドウで開きます
(図1)休日・休暇の状況(国際比較)

(図1)[CSV形式:1KB]CSVファイル

我が国内の状況を見てみると、労働者1人平均年次有給休暇取得率の年次推移は、平成28(2016)年以降増加に転じ、上昇を続けているが、業種間で差が出ており、例えば、宿泊業、飲食サービス業では付与日数も取得日数も短くなっている(図2)(図3)。

(図2)労働者1人平均年次有給休暇取得率の年次推移別ウインドウで開きます
(図2)労働者1人平均年次有給休暇取得率の年次推移

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(図3)労働者1人平均年次有給休暇の取得状況別ウインドウで開きます
(図3)労働者1人平均年次有給休暇の取得状況

(図3)[CSV形式:1KB]CSVファイル

次に、法定休暇・休業(年次有給休暇、産前・産後休業、育児休業、介護休業、子の看護休暇等)以外に付与される特別休暇のうち、「サバティカル休暇」に目を向けてみる。

政府が令和4(2022)年6月7日に閣議決定した5か年計画「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」の中で、「サバティカル休暇」について記載されている。

「サバティカル休暇」のサバティカル(sabbatical)は、旧約聖書に登場する「安息日」の意味のラテン語に由来し、明治13(1880)年に米国ハーバード大学で始まった、研究のための有給休暇が起源とされ、1990年代に離職対策として欧州企業で広まったと言われている。

我が国では「長期休暇」「研修休暇」などと訳されることもあり、内閣府、厚生労働省、経済産業省、文部科学省等で、ワーク・ライフ・バランス、人材育成、リカレント(学び直し)、仕事活性化等、個別の観点から研究・検討されてきた(参考)。

既に、各大学において、「サバティカル休暇」制度の導入、利用する教職員が見受けられ、続いて、このところ、企業でも取り入れる動きが散見される。「サバティカル休暇」も含まれると思われる「教育訓練休暇制度」の導入状況を見ると、全業種で約8割が「導入していないし、導入する予定はない」としている(図4)。

(図4)教育訓練休暇制度の導入状況別ウインドウで開きます
(図4)教育訓練休暇制度の導入状況

(図4)[CSV形式:1KB]CSVファイル

令和3(2021)年6月に育児・介護休業法が改正され、更なる育児休業等の取得の推進が図られているところであるが、家族の姿が変化し、人生が多様化している中、育児・介護をしていなくても、「サバティカル休暇」等の長期休暇を取得する手段があることは、様々なメリットをもたらすと考えられる。例えば、現在の仕事を中断して他に目を向け、得た経験は、その後の仕事はもちろん、長い人生の糧となるのではないか。また、社会に還元されれば、我が国の成長につながる可能性がある。長期休暇取得は当たり前、お互い様という風潮が社会で醸造されることで、育児をしている人にとっては、心理的に育児休業等を利用しやすくなるのではないか。また、長期休暇期間中の代替要員の確保に努める仕組みが作られることになり、さらに多くの人が長期休暇を取りやすくなり、それぞれの事情に応じて、家庭のため、仕事のために休暇を活かし、全ての人のワーク・ライフ・バランスの実現にも資するのではないか。

働き方、休み方も、人生100年時代に合ったものになるべきである。今後の「サバティカル休暇」等の長期休暇の普及に期待したい。

1「国民の祝日」については、内閣府ホームページを参照。https://www8.cao.go.jp/chosei/shukujitsu/gaiyou.html

2「年次有給休暇」については、厚生労働省ホームページを参照。https://work-holiday.mhlw.go.jp/kyuuka-sokushin/roudousya.html

参考 我が国における「サバティカル休暇」についての検討の変遷概要

平成16(2004)年6月30日

「職業生活活性化のための年単位の長期休暇制度等に関する研究会報告書」(厚生労働省)

平成22(2010)年7月30日

メールマガジン「カエル!ジャパン通信Vol. 10」(内閣府 仕事と生活の調和推進室)

・「フランスと日本の休暇制度」を特集し、フランスにおける「サバティカル休暇」の特徴を紹介

平成24(2012)年9月7日

「大学共同利用機関法人及び大学共同利用機関の今後の在り方について(審議のまとめ)」(文部科学省研究環境基盤部会)

・大学におけるサバティカルの実施状況

サバティカル制度を活用した取組例

平成29(2017)年3月13日

経済財政諮問会議 経済・財政一体改革推進委員会 経済社会の活力ワーキング・グループ

第2回(内閣府)

・議題2:サバティカル、教育訓練休暇について

〈論点〉

・今後、平均寿命・健康寿命の延伸に伴い、これまでよりも就業人生が長くなる一方で、先端技術の進歩のスピードは速く、スキルの陳腐化も進むと見込まれる中、教育訓練休暇の仕組みを広げることが必要ではないか。

・そのためには、企業側の代替要員の確保やその(及び有給の場合の)コストの確保、従業員の離職リスク等の課題をどのように克服していくか。

平成30(2018)年3月公表

「我が国産業における人材力強化に向けた研究会(人材力研究会)報告書」(経済産業省、中小企業庁)

[一部抜粋]

2.リカレント教育の推進

・企業による「サバティカル休暇」等の個人の学び直しや振り返りを支援するための制度整備を促進するため、そのような制度を整備する企業に対する助成の在り方について関係省庁と連携して検討する。

令和3(2021)年3月26日閣議決定

「第6期科学技術・イノベーション基本計画」

[一部抜粋]

5学び続けることを社会や企業が促進する環境・文化の醸成

○社員の学び直しに対し、サバティカル休暇の付与や経済的支援等を行う企業について、人材育成のリーディングカンパニーとして評価し、企業イメージの向上等につなげる方策を導入する。

令和4(2022)年6月7日閣議決定

「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」

[一部抜粋]

(5) 多様性の尊重と選択の柔軟性

多様性を尊重し、性別にかかわらず仕事ができる環境を整備することで、選択の柔軟性を確保していく。

1多様性の尊重

日本の大企業は、ともすれば、中高年の男性が中心となって経営されてきたが、これからは組織の中でより多様性を確保しなければならない。日本企業が多様性を成長につなげることを応援する。

同一労働同一賃金制度の徹底とともに、短時間正社員制度、勤務地限定正社員制度、職種・職務限定正社員制度といった多様な正社員制度の導入拡大を、産業界に働きかけていく。また、女性・若者等の多様な人材の役員等への登用、サバティカル休暇の導入やスタートアップへの出向等の企業組織の変革に向けた取組を促進する。

令和4(2022)年10月4日

「『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画』の実施についての総合経済対策の重点事項」(新しい資本主義実現会議)

[一部抜粋]

3.人への投資

・個人のリスキリングに対する公的支援について、人への投資策を5年間で1兆円の施策パッケージに拡充する。

○現在3年間で4,000億円規模で実施している人への投資強化策について、施策パッケージを5年間で1兆円へと抜本強化する。

○デジタル人材育成を強化し、現在100万人のところ2026年度までに330万人に拡大する。年末までに、デジタルスキル標準を策定し、見える化を図る。

○企業によるスキル向上のためのサバティカル休暇の導入を促進する。