第1節 経済再生における女性の役割

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第1節 経済再生における女性の役割

1 我が国経済を取り巻く状況

我が国の経済や社会の構造は,バブル経済崩壊後の20年ほどの間に,大きな変化を遂げている。これを(1)経済全体の変化,(2)企業・雇用面での変化,(3)世帯における変化,の3つに分けて概観する。


(1) 経済全体の変化

我が国経済は,バブル経済崩壊後の低成長とデフ レの持続と並行して,経済のサービス化とグローバル化の進展等,その構造が大きく変化している。

平成2 年以降の産業別の名目GDPの構成比を見ると,製造業の割合が28.2%から20.0%に低下する中で,サービス業の割合が17.0%から26.1%へ,10ポイント近く上昇している(第1 -特- 1 a図)。

経済のグローバル化も顕著である。かつて国内で完結していることが多かったサプライチェーンは,今や近隣諸国はもとより世界規模に拡大し,生産拠点の海外移転も活発に行われている1

1日本銀行「国際収支統計」で直接投資残高の推移を見ることによって,海外で日本企業の事業が拡大していることをうかがうことができる。


(2) 企業・雇用を取り巻く環境の変化

耐久消費財が広く普及した今日,個人や世帯の消費は横並びから個人の嗜好に基づくものへと変化し,製造業の生産形態は少品種大量生産から多品種少量生産への移行という大きな流れが続いている。また,生産技術や情報通信技術(ICT:InformationCommunication Technologies)の発展・普及に伴い,製造作業や事務作業における定型業務が効率化され,就業者の業務も知的作業中心へと変化している。

企業が対象とする市場は,もはや国内にとどまらない。海外の市場は規模が大きく,急速な経済成長が続いている地域もある。消費者の嗜好や商習慣が我が国とは異なる海外市場において競争に勝ち抜くためには,これまでとは異なる戦略が必要となる。他方で,ICTの発展・普及等によって株式市場のグローバル化が進み,我が国の企業においても株主に占める外国法人等の割合が増加している(第1-特- 1b図)。このような中で,企業には,製品・サービスの開発や市場の開拓,更に経営全般において多様な視点を確保する,いわゆるダイバーシティ経営が求められている。

また,長らく我が国特有の雇用慣行の一つであると考えられてきた長期雇用慣行に近年変化が見えつつあるとされ2,労働市場の変革が今後も進むと考えられる。

2長期的雇用慣行の変化については多くの実証研究が行われているが,使用するデータによって分析結果が異なることが指摘されている。


(3) 世帯を取り巻く環境の変化

世帯構成や家計においても変化が起きている。

世帯構成の面から見ると,典型的な核家族という印象がある夫婦と子供から成る世帯は,近年減少が続いている。代わって単独世帯が増加しており,平成22年には3世帯に1世帯の割合に達している。総務省「国勢調査」によると,一般世帯の平均世帯人数は,昭和55年の3.22人から平成22年の2.42人に減少している(第1-特- 1c図)。

また,共働き世帯の増加が続いており,平成9年以降は男性雇用者と無業の妻から成る世帯を上回っており,近年その差は益々広がっている(第1部第2章 第1- 2-19図参照)。

家計の面から見ると,二人以上の世帯のうち勤労世帯3における男性世帯主の1か月当たりの収入は,平成12年の44.6万円から24年の39.5万円へと減少している。

3世帯主が会社,官公庁,学校,工場,商店等に勤めている世帯をいう。世帯主が社長,取締役,理事等会社団体の役員である世帯は含まない。


第1-特- 1図 我が国経済を取り巻く環境 別ウインドウで開きます
第1-特- 1図 我が国経済を取り巻く環境

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コラム1 女性が中心になって進められた新商品の開発事例

2 経済分野における女性への期待

我が国経済を取り巻くこのような大きな環境変化の中で,経済成長の担い手としての女性の可能性が注目されている。

まず,女性の就業が拡大し,より多くの女性が新製品・新サービスの開発に参画することによって,多様な経験や価値観が反映され,これまでになかった新しい市場が開拓されることが期待される(コラム1参照)。

また,少子高齢化が進行する中,今後に見込まれる生産年齢人口の減少による影響を女性の就業拡大によって緩和することができる。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(出生中位・死亡中位)によれば,平成24年から54年の間に, 0~14歳の年少人口と15~64歳の生産年齢人口がそれぞれ減少(年少人口:599.3万人減,生産年齢人口:2,418.8万人減)する一方で,65歳以上の老年人口が795.1万人増加すると見込まれる(第1-特- 2図)。また,総務省「人口推計(平成24年10月1日)」によれば,平成23年10月1日から24年9月30日の1年間における人口減少は28.4万人であったが,国立社会保障・人口問題研究所による前述の推計によれば,54年には年間で100万人超の減少が予想される。

さらに,女性の就業に伴い,従来主に女性が家庭で担っていた介護・育児・家事等の一部が市場化された場合,関連産業における需要が拡大し,経済に影響を与えることが考えられる(特集第3節2(3)参照)。

第1-特- 2図 30年ごとの人口の増減(昭和57年→平成24年→54年) 別ウインドウで開きます
第1-特- 2 図 30年ごとの人口の増減(昭和57年→平成24年→54年)

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3 経済分野における女性の活躍の現状

(1)女性の就業の現状

(全体の傾向)

平成24年における全就業者に占める女性の割合は42.3%であり,海外の主要国と比べて大きな差は見られない(第1-特- 3図)。平成15年から24年の間の就業者数の増減を見ると,男性が103万人減少する一方で,女性は57万人増加している。ただし,管理的職業における女性の割合は近年漸増傾向にあるものの,欧米諸国のほか,シンガポール,フィリピンといったアジア諸国と比べても低い水準にとどまっている。

第1-特- 3図 就業者及び管理的職業従事者における女性割合 別ウインドウで開きます
第1-特- 2 図 30年ごとの人口の増減(昭和57年→平成24年→54年)

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(産業別の状況)

平成14年以降の就業者数の変化を産業別に見ると,男女とも,製造業で大きく減少し,医療・福祉で最も増加している(第1部第2章 第1- 2- 7図参照)。特に,医療・福祉では女性の増加が目立っている。

平成24年においては男性では,製造業(20.1%),卸売業・小売業(14.3%),建設業(11.9%)で割合が高くなっている一方,女性では,医療・福祉(20.0%)及び卸売業・小売業(19.7%)が最も多く,製造業(11.5%)がこれに続いている(第1-特- 4a図)

(職種別の状況)

職業別に過去10年間の就業者数の変化を見ると,男女とも,最も減少した職種は運輸従事者,製造作業者,労務作業者等であり,就業者数が増加した職種は,専門的・技術的職業と保安職業・サービス職業である4

4平成21年1月に職業分類が改訂されたこと,及び23年以降のデータに新しい推計人口基準が適用されていることにより,データは完全には連続していない。


平成24年における就業者の職種別割合を見ると,男性では,生産工程従事者で就業者が著しく減少しているにもかかわらず依然としてその割合が最も多く(17.8%),専門的・技術的職業5(15.0%)と販売従事者(14.0%)がこれに続いている。女性についても,事務作業のIT化の進展等に伴い事務従事者数は減少しているとは言え,依然としてその割合が最も高く(27.0%),近年就業者が増加しているサービス職業(19.1%)と専門的・技術的職業(17.6%)がこれに続いている(第1-特- 4b図)。

5専門的・技術的職業には,研究者,技術者,医師,看護師,弁護士,公認会計士,保育士,教員,芸術家等が,保安職業には自衛官,警察官等が,サービス職業には家庭生活支援サービス,ホームヘルパー,美容師,クリーニング,接客・給仕等が含まれる。


第1-特- 4図 産業別及び職業別の就業の状況(男女別,平成24年) 別ウインドウで開きます
第1-特- 4 図 産業別及び職業別の就業の状況(男女別,平成24年)

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(2)雇用における女性

(事業規模別の状況)

平成24年現在,雇用者数における女性の割合は42.8%となっている。長期にわたる景気の低迷を受けて男性の雇用者数が横ばいから微減傾向にあるのに対して,女性はおおむね増加傾向が続いている。

農林漁業分野を除く雇用者を勤務先企業の従業者規模別に見ると,女性は男性に比べて小規模な企業に雇用されている割合が多いものの(第1-特-5a図),近年は,従業者100人以上の企業に雇用される女性の数が徐々に増加している。

(雇用形態別の状況)

雇用形態における状況を見ると,非正規雇用6は,女性の半数以上を占める一方,男性では約2割となっている(第1-特- 5b図)。

6総務省「労働力調査」における非正規の職員・従業員を指す。パート,アルバイト,労働者派遣事業所の派遣社員,契約社員及びその他が含まれる。それぞれの分類は,勤め先の呼称に基づく。


第1-特- 5図 従業者規模別及び雇用形態別の雇用の状況(男女別,平成24年) 別ウインドウで開きます
第1-特- 5 図 従業者規模別及び雇用形態別の雇用の状況(男女別,平成24年)

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雇用形態を従業上の地位別に見ると,総務省「労働力調査」(平成25年3月)によれば,男性の場合,役員を除く一般常雇(契約期間が1年を超える有期の契約及び無期の契約)2,664万人のうち「正規雇用」かつ「無期の契約」は2,161万人であり,一般常雇に対する割合は81.1%である。これに対して,女性の場合,一般常雇2,023万人のうち「正規雇用」かつ「無期の契約」は972万人であり,一般常雇に対する割合は48.0%となっている(第1-特- 6図)。

第1-特- 6図 雇用形態と従業上の地位(男女別,平成25年3月) 別ウインドウで開きます
第1-特- 6図 雇用形態と従業上の地位(男女別,平成25年3月)

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また,「非正規雇用」(女性:1,277万人,男性:610万人)のうち,女性では3分の1に当たる454万人が,男性では2割に当たる123万人が,それぞれ「一般常雇」かつ「無期の契約」である。


(3) 女性管理職の状況

管理的職業従事者(男女計)は,平成4年の260万人をピークに減少を続けており,24年にはピーク時の約6割に当たる153万人となった。女性も8年をピークに減少し,24年における人数は17万人となったが,男性に比べて減少の幅は緩やかである。長期にわたる景気停滞に伴う人件費削減や,事業環境の変化に迅速に対応するための組織のフラット化等を背景に管理的職業従事者全体が大きく減少しており,女性の割合は相対的に上昇傾向にある(第1-特- 7a図)。

管理的職業従事者の増減を産業別に見ると,男女とも,就業者人口が大きく減少した業種において管理的職業従事者数も減少している。ただし,男性では,金融業・保険業・不動産業及びサービス業においては,就業者数が大きく減少していないにもかかわらず管理的職業従事者数が減少している7(第1-特- 7b図)(第1部第2章 第1- 2- 7図参照)。

7第1-特- 7b図におけるサービス業には,第1-特- 4a図における宿泊業・飲食サービス業,医療・福祉及びサービス業(他に 分類されないもの)等が含まれる。

第1-特- 7図 管理的職業従事者数等の推移(男女別) 別ウインドウで開きます
第1-特- 7 図 管理的職業従事者数等の推移(男女別)

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(4) 自営業・農林漁業

(自営業)

平成24年における自営業主数の対人口割合は,男性では7.9%,女性では2.4%となっている。男女別に自営業主の多い産業を見ると,男性では,上位から農林漁業,建設業,卸売業・小売業の順になっており,これらの産業合計で5割を超える。一方,女性では,生活関連サービス業・娯楽業,卸売業・小売業,教育・学習支援業となっている(第1-特-8図)。

第1-特- 8図 自営業主数の産業別割合(男女別,平成24年) 別ウインドウで開きます
第1-特- 8 図 自営業主数の産業別割合(男女別,平成24年)

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コラム2 農山漁村で活躍する女性農業者の事例

(農林漁業)

農林水産省「農業センサス」によると,平成18年以降,農業従事者に占める女性の割合は約50%で横ばいが続いている。農林水産省「新規就農者調査」によると,新規就農者に占める女性割合は,21年以降20%前後で推移している。また,農林水産省「漁業就業動向調査」によれば,漁業従事者における女性割合は15%程度の水準で漸減傾向にある。


(5) 海外における就業

外務省「海外在留邦人数調査統計」(平成24年速報版)によると,随行家族としてではなく自らの就業・就学等のために海外に在留する長期滞在者は,平成23年10月1日現在で49.8万人となっており,36.2%を女性が占めている。女性の海外就業者・就学者では,留学生・研究者・教師が8.7万人と最も多くなっている。女性の海外就業者では,民間企業関係者が3万人強と最も多いが,男性の雇用者が多いため,民間企業関係者全体に対する女性の割合は12.8%となっている。女性就業者割合では自由業及び専門的職業関係者が39.9%でその他を除いて最も高く,漸増傾向にある10。また,人数は少ないが,政府関係機関職員に占める女性の割合も30%を超えている(第1-特- 9a図)。

10自由業及び専門的職業関係者には,僧侶,文芸家,弁護士,合気道師範等,芸術家,建築家,医師等が含まれる。


国連等の国際機関職員は特に女性の割合が高く,専門職以上の日本人職員の半数以上を女性が占めている(第1-特- 9b図)。

第1-特- 9図 海外における就業の状況 別ウインドウで開きます
第1-特- 9 図 海外における就業の状況

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