平成19年版男女共同参画白書

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第3節 女性がより活躍できる環境に向けた取組

第2節では,各分野における日本の女性の登用が国際的に見て遅れていること,また,その背景として,育児期の男女の働き方や,パートタイム労働のあり方等に課題が残されていることが明らかになった。本節では,これらの課題に対する各国の取組を中心に整理・分析する。

1 ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)のための取組

ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)とは,男女がともに,人生の各段階において,仕事,家庭生活,地域生活,個人の自己啓発など,様々な活動について,自らの希望に沿った形で,バランスをとりながら展開できる状態のことである。

女性が社会で活躍するためには,雇用の場における平等を進めるほか,前提となる環境整備として仕事と育児,介護等の両立支援,労働時間制度を中心とする制度の整備及び男性を含めた働き方の見直し等,多岐に渡る取組が必要である。女性の労働力率が逆U字カーブを示す国では,子育て支援制度,労働時間制度等が,育児期の就業継続を可能にしている。そこで,ここでは,各国のワーク・ライフ・バランスの取組のうち,子育て支援制度,労働時間制度,パートタイム労働制度を取り上げる。

(各国の子育て支援制度)

保育サービスのあり方は,国によって様々である。スウェーデンは公的な保育施設が充実している一方で,米国は民間の多様な保育サービスが充実しており,対照的であるが,ともに利用率は高くなっている。英国,フランスは,次いで利用率が高くなっているが,認定保育ママによる家庭的保育が主流のフランスと,集団保育が並存している英国というように形態は多様である。

出産・育児休業制度もまた,働く親にとって,仕事と育児・家庭の両立を図る制度として重要な施策の1つである。

出産休暇制度は,ほとんどの国で導入されているが,休暇の期間は国によって異なり,また,給付水準についても,シンガポール,フィリピン,マレーシア等で賃金の100%を支給する一方,オーストラリア等給付のない国もあり,様々である。

育児休業制度が充実している国としては,スウェーデンがあり,両親合わせて480日間という期間の長さに加えて,給付水準も賃金の80%と高く,利用率も高くなっている。ノルウェーは,やや期間が短いが,スウェーデン同様給付水準は高い。ノルウェー,スウェーデンともに,パパ・クォータ制が導入されており,ノルウェーの場合,全体の育児休暇期間のうち,父親に6週間,スウェーデンの場合,両親に60日ずつが割り当てられている。割当分を取得しなければその期間の休暇や給付を放棄したとみなされるため,ノルウェーでは有資格者の父親のうち約90%が利用するなど,父親の育児参加を促す効果があがっている。また,フランスでは,養育休暇が両親合わせて最長3年間取得でき,就業の要件に応じて給付がある。ドイツでは,子が8歳になるまでの間,両親合わせて最長3年間(給付は2年間,所得制限あり)の休業がとれる。日本では,子が1歳に達するまで(一定の場合には,子が1歳6か月に達するまで)の間,育児休業を取得する制度があり,また,一定の要件を満たす育児休業取得者に対しては,雇用の継続を目的として,休業前賃金の40%相当額(平成19年10月より暫定的に同50%相当額に引き上げ予定)が給付される。なお,米国,オーストラリアは休業給付制度がなく,フィリピン等アジア諸国には育児休業制度自体がない国も多い。

第1-特-27図 各国の子育て支援制度等 別ウインドウで開きます
第1-特-27図 各国の子育て支援制度等 第1-特-27図 各国の子育て支援制度等

(各国の労働時間制度)

実労働時間が従来から短い国としては,ノルウェー,スウェーデン等北欧諸国と,オーストラリアなどがあるが,その他のヨーロッパ諸国では,EU労働時間指令(1993年制定,2003年改正,2005年改正案提出)を受けて,労働時間の短縮化の動きが見られる。その内容は,124時間につき最低連続11時間の休息期間を付与,26時間を超える労働日につき休憩時間を付与(付与条件は加盟国の国内法や労使協定で規定),37日ごとに最低連続24時間の週休及び11時間(1日の休息期間)の休息期間を付与,41週間の労働時間について,時間外労働を含め,平均48時間以内の上限を設定(算定期間は4か月),最低4週間の年次有給休暇を付与等となっている。

フランスでは,「週35時間労働法」(2000年施行)に基づき,労働時間の短縮が行われており,ワークシェアリングを通しての雇用の創出や,仕事と生活の調和を可能にする要因となっている。

アジア諸国を見てみると,労働法制は整備されている国が多く,法定労働時間もフィリピン,韓国で1日8時間,マレーシアで1日8時間から12時間までとヨーロッパ諸国と大きな差はない。しかし,韓国,シンガポールについては,日本と並んで実労働時間が長く,法定労働時間以外に,長時間労働の慣行や時短に関する意識等,他の要因が関連していると考えられる。

(パートタイム労働制度)

女性の年齢別労働力率が逆U字型を示す国においては,育児期にパートタイム労働に従事する女性の割合が高い。さらに,日本で一般的なように正社員として働いていた職場を退職するのではなく,正社員の身分のままフルタイムからパートタイムに転換し,仕事を継続できる制度となっている。このシステムが,育児期の女性が仕事を辞めずに継続就業していくことを容易にしていると考えられる。仕事と生活の調和の実現のためには,働き方の見直しが不可欠である。パートタイム労働制度の整備は,そのための大きな鍵といえる。

スウェーデン,ドイツ,英国等ヨーロッパ諸国では,1997年のEUパートタイム労働指令の影響を受け,パートタイム労働法が整備されている国も多く,パートタイム労働者の均等待遇,不利益処遇の禁止のほか,フルタイム労働とパートタイム労働の相互転換がスムーズに行えるようになってきている。スウェーデンでは,8歳以下もしくは基礎学校の第1学年に通っている子どもがいる時は,通常の労働時間を本来の4分の1にまで短縮可能となっている。

(ワーク・ライフ・バランスその他の取組)

米国では,家庭は個人の領域との考え方が強いため,政府や自治体の介入は小さく,生産性の向上や人材確保の観点から企業が独自にワーク・ライフ・バランスに取り組んできたが,2003年9月の108回議会・上院決議第210号において,「仕事と個人生活の調和を支援することは,全国の労働者(労働生産性)にとって,最重要事項であり,大統領は10月を「全国仕事・家庭月間」と定める布告を出すべきである」と決議され,国の政策の中にワーク・ライフ・バランスが位置付けられた。この決議を受け,同年秋には,ワーク・ライフ推進同盟(Alliance for Work/Life Progress:AWLP),フォーチュン誌,及び全米ビジネス協会(American Business Collaboration:ABC)の構成企業が,「ナショナル・ワーク・ライフ・イニシアティブ」(National Work-Life Initiative:NWLI)を開始した。NWLIは,仕事と生活の調和の問題は組織と個人の双方の成功にとって重要であることを企業に認識させようとする全国的なキャンペーンである。NWLIは,全ての経営者が健康的な職場環境を整備するための情報提供等の支援を行うことにより,仕事,個人,地域の充実を目指している。

英国においても,米国同様,ワーク・ライフ・バランスは,労使間の自主的な決定に委ねるべき私的領域の事柄であって,政府が介入すべきではないという考え方が従来から根強かったが,ブレア政権は,「福祉から就業へ」(welfare to work)という政府の基本方針に合致することもあり,2000年より「ワーク・ライフ・バランス・キャンペーン」を推進している。具体的には,ワーク・ライフ・バランス施策の導入を検討する事業主に対して,政府によって選定されたコンサルティング企業による無料コンサルティングの機会を与える「チャレンジ基金(The Challenge Fund)プログラム」を創設し,雇用主がワーク・ライフ・バランスを実施する際の問題解決のために金銭的な支援を行う等,ワーク・ライフ・バランスを下支えするための条件整備を行った。また,労働規制の制定,出産・育児休暇などの法改正,経済的支援の引き上げ,保育所整備等,総合的な対策も導入している。2003年には,フレキシブル・ワーク法を施行し,6歳までの子を持つ親に労働時間帯や働く場所の希望を要求する権利を与え,2004年には,ワーク・ライフ・バランスとも連動した「子育て支援10か年戦略」を打ち出すなど,両親の選択肢を増やす取組を進めている。

ドイツにおいては,ワーク・ライフ・バランスの取組は,主にファミリー・フレンドリー施策に関するものである。近年まで,ドイツの取組は,他の先進国よりも遅れていたが,最近では積極的に各種の施策を推進している。ドイツ政府は,財界,労働組合などと,2003年夏に「家族のための同盟」を結成し,政府だけではなく各方面を広範に巻き込んで,具体的には,1優良事例の分析とその紹介,2社会的影響の試算,3企業コンクールの実施,4地域連携の促進を行っている。また,2005年5月に家族省が出した報告書「持続可能な家族政策」では,企業人事政策の仕事と家庭の両立等を目指した時間政策,女性の機会費用の補償を主眼とする経済再分配政策,「家庭生活型」から「社会保育型」への転換を図る保育政策の混合政策を重視している。

オーストラリアでは,ワーク・ライフ・バランスの政府の取組は,仕事と家庭との両立を重視したものになっている。1992年には,仕事と家庭の両立に関する賞を創設し,柔軟な労働制度を採用した企業等に対し,年に1度,雇用・職場関係大臣が表彰を行っている。また,政府のウェブサイトにより,労働者のワーク・ライフ・バランスに役立つ情報提供を図っている。さらに,近年は,特に労働組合等の間でワーク・ライフ・バランスの気運が高まっている。2004年12月には,労働組合評議会が,「仕事と家庭の両立に関する試案」をオーストラリア労使関係委員会に提出し,労働者が仕事と家庭を両立できるような方策を福利厚生制度に盛り込むよう提起した。

シンガポールでは,2000年から「ワーク・ライフ・ハーモニー・イニシアティブ」として,労働省を中心に,パートタイム労働や育児支援等の取組を総合的に進めている他,ワーク・ライフ・バランスに関して,枠組みや法律,企業等に対するガイドライン,好事例や調査研究結果等を含む情報を一箇所で提供するポータル・サイトを設け,情報提供の便を図っている。

(取組の成果)

こうした取組によりワーク・ライフ・バランスが確立されることによりもたらされる効果は,女性だけにとどまらず男性にも,また,労働者だけにとどまらず経営者にも広く及ぶ。

米国のNWLIは,ワーク・ライフ・バランスに関する様々な取組が企業に及ぼす影響について,成功事例や研究結果を収集・公開しているが,中には,時短によって生産性が倍増した企業や,緊急時育児プログラムの導入により,4年間で521%の投資収益率を記録した企業の例も紹介されている。

日本においても,働く場におけるワーク・ライフ・バランスの効果が認識され始めている。職場環境と仕事の満足度の関係に関する調査によれば,職場が「子育てする人が働きやすい」「女性登用が進んでいる」環境である方が,既婚女性のみならず,既婚男性や独身男女も仕事の満足度や意欲が高い(第1-特-28図及び第1-特-29図)。

第1-特-28図 職場環境(子育てしやすい,女性登用)と仕事への意欲 別ウインドウで開きます
第1-特-28図 職場環境(子育てしやすい,女性登用)と仕事への意欲

第1-特-29図 職場環境(子育てしやすい,女性登用)と仕事満足度 別ウインドウで開きます
第1-特-29図 職場環境(子育てしやすい,女性登用)と仕事満足度

(コラム:米国におけるワーク・ライフ・バランス施策の転換点)

2 女性の登用促進のための取組

女性の登用促進のための取組として,ポジティブ・アクション(積極的改善措置)がある。ポジティブ・アクションとは,一般的には,社会的・構造的な差別によって,現在不利益を被っている者に対して,一定の範囲で特別の機会を提供すること等により,実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置のことをいうとされている。米国等では,ポジティブ・アクションではなく,アファーマティブ・アクションと呼ばれている。日本では,男女共同参画社会基本法により積極的改善措置を定義し,国及び地方公共団体の責務と位置づけている。また,男女雇用機会均等法においても,別途,「女性労働者に係る措置に関する特例」としてポジティブ・アクションを規定している。

ポジティブ・アクションの概念は幅広く,厳格なものから緩やかなものまで多様な手法がある。クォータ制(割当制)は,厳格な手法であり,性別等を基準に一定の人数や比率を割り当てる制度である。日本においては,男女共同参画会議の有識者議員について規定している。ゴール・アンド・タイムテーブル方式は,女性の登用等に関する一定目標と達成までの期間の目安を示して実現に努力するものであり,より緩やかな手法である。日本では,平成17年12月に閣議決定された男女共同参画基本計画(第2次)の中に,「社会のあらゆる分野において,2020年までに,指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する。」という目標が明記されている。具体的には,審議会の委員や,公務員の採用・登用等でこの方式が用いられている。その他,広い意味でのポジティブ・アクションとしては,女性の応募の奨励,能力向上のための研修や,仕事と家庭の両立支援・環境整備などがある。

ここでは,ポジティブ・アクションのうち,女性議員増加のための取組,女性公務員の採用・登用拡大の取組,審議会等における女性委員増加のための取組,管理的職業従事者の増加のための取組について比較する。

(女性議員増加のための取組)

諸外国で行われている女性議員の選出を増やすための取組のうち,主なものとして,クォータ制がある。

各国のクォータ制には様々な形態や方法があるが,憲法又は法律により規定する場合と,政党が自らの党綱領などにより規定する場合に分けられ,また,方法については,党内の役員や党内選挙の候補者に女性を割り当てる方法と,対外選挙における候補者名簿に女性を割り当てる方法の2つがある。クォータ制を導入する場合,最も効果がある形態や方法等については,各国の女性の議会への参画状況や社会的背景を反映して様々である(第1-特-30表)。

第1-特-30表 女性議員増加のための取組 別ウインドウで開きます
第1-特-30表 女性議員増加のための取組

ノルウェーでは,変則一院制の議会を持ち,選挙制度は選挙区比例代表制となっている。1981年にノルウェー初の女性首相となったグロ・ハーレム・ブルントラント首相が,クォータ制を活用して強力に女性の登用を推進して以来,女性の公的機関への進出が顕著となり,現在では,社会左翼党,ノルウェー労働党等の主要政党が,クォータ制を党規約に記し,候補者名簿への登録を男女交互に行っている。

スウェーデンは,一院制の議会を持ち,完全比例代表制で選挙が行われている。1984年に自由党が選挙名簿におけるクォータ制を導入し,1980年代後半から1990年代にかけて,他の主要政党でもクォータを導入した結果,国会議員に占める女性の割合が大幅に増加した。

ドイツは,二院制の議会を持ち,小選挙区制の要素を加味した比例代表制を採用している。1980年代後半以降,主要政党がクォータ制を導入し始め,着実に女性議員が増加した。それまでも,各政党において党内の女性の地位向上に関して取組が進められていたが,はかばかしく進展しなかったことから,事前に詳細な検討が行われた後,クォータ制が最終的な手段として導入されており,女性の政治参画への気運は高まっていたといえる。

フランスは,二院制で,上院は比例代表制,下院は小選挙区制を採用している。1999年,憲法を改正し,選挙によって選出される議員職と役職への男女の均等なアクセスを促進する規定を盛り込んだ。2000年以降,この原則を具体化する法律が整備され,選挙が実施されている。具体的には,比例代表選挙については男女交互名簿によるクォータ制,小選挙区2回投票制の国民議会議員選挙については,政党・政治団体に対する公的助成金の調整によって,政党・政治団体にインセンティブを与えている。

英国は,二院制で単純小選挙区制をとっている。1990年代に入って,労働党が様々な方法でクォータ制を導入したことから女性議員数が倍増した。同党は,1999年の選挙において,隣接する二つの選挙区を一括りとみなし,党内選挙で最も多くの票を獲得した女性候補者に一つの選挙区で立候補する権利を与え,最も多くの票を獲得した男性議員にもう一つの選挙区で立候補する権利を与える制度を導入した。

韓国は,一院制で,小選挙区比例代表並立制であるが,日本と同様に女性議員の割合が低い状況にあったが,近年では積極的にクォータ制を導入,強化している。2000年の政党法改正により,比例代表議席(46議席)については比例代表選挙名簿の30%を女性とする割当制を導入し,小選挙区(227議席)にも政党が30%以上推薦する努力規定を設けたが,女性議員は依然として低い割合にとどまっていた。しかし,2004年の第17代国会議員選挙を前に,再度政党法を改正し,比例代表の女性割当を50%にまで引き上げたこと等により,第17代国会議員選挙において国会議員に占める女性の割合は13%と大きく増加し,2007年5月現在,比例の繰上げ当選により14%となっている。さらに2005年には,政党法に規定されていた上記割当ての規定を公職選挙法に移管した。

オーストラリアにおいては,労働党が,2002年に,主要ポスト及び予備選挙候補者に40%クォータを導入し,女性の登用を進めている。

(コラム:アフリカで進む女性の政治参画)

(その他の特徴的な取組)

クォータ制以外の特徴的な取組としては,ドイツ,英国の政党において行われている現職の議員が候補者に対して教育的指導や経済的援助などを行うメンター制や,米国,英国でみられる民間団体による女性議員候補者への資金の援助や選挙キャンペーンの協力等がある。

米国では,1971年に,選挙に出る女性候補者のリクルート等,教育,選挙支援を行うNWPC(National Women’s Political Caucus)が設立され,その後,1985年に民主党の女性候補者に対して援助等を行う民間団体Emily’s Listが,1992年には共和党の女性候補者に対して援助等を行うWish Listが設立され,それぞれ資金援助や選挙キャンペーンの協力等を行ったことが,1990年以降の国内の女性議員の増加に影響を与えている。Emily’s Listは,オーストラリア等でも同様の仕組みができている。

英国では,1993年に労働党が国会議員になりたい女性のための財政支援を開始し,2000年にはメンター制を導入した。

ドイツでは,政党のみならず,州政府においても政治により多くの女性を参画させるためメンター制度を採用している。

また,スウェーデン議会では,議員の代理人制度が導入されていることから,議員が育児休暇を取得する際にも代理人がその議員の代理として活動することができ,仕事と家庭を両立しやすい制度となっている。

上記のように諸外国では,クォータ制を始め,様々な手法で女性の政治参画を促進する取組を行っている。

(各国での女性公務員の採用・登用拡大の取組)

女性国家公務員の採用・登用拡大に関する取組としては,一定の目標値などを定め,女性の採用・登用を促す方法と女性に対する研修や教育を充実させる方法が挙げられる(第1-特-31表)。

第1-特-31表 女性国家公務員等の採用・登用拡大のための取組 別ウインドウで開きます
第1-特-31表 女性国家公務員等の採用・登用拡大のための取組

ドイツでは,2001年に制定された連邦平等法において,一定の条件下でのクォータ制を認めている。

韓国においても,公務員試験任用令により,1996年から女性国家公務員の採用に関して数値目標を設定し,2002年末の期間満了に伴い,2007年まで延長され,採用目標比率も20%から30%に引き上げられた。また,2003年度からは,男性も対象にした「両性平等採用目標制」により,選抜予定人員が5名以上の採用試験における男女の合格者比率が30%に満たない場合,目標比率に達するまで追加合格させる制度が導入された。女性採用目標制が導入された1996年は,女性の国家公務員試験合格率が26.5%であったが,2004年には42.1%に増加した。

その他の取組として,スウェーデンでは,1995年以降,女性職員に対する研修,教育に力を入れており,英国でも,メンター制を導入するなど教育・指導に重点をおいている。また,韓国においては,女性の昇任・任用に積極的に活用するため,管理職女性公務員に関するデータベースを構築し,女性管理職の人材情報を提供している。

日本では,2005年に人事院が策定した「女性国家公務員の採用・登用の拡大に関する指針」に基づき,各府省は,2010年度までの目標を設定した「女性職員の採用・登用拡大計画」を策定している。また,「男女共同参画基本計画(第2次)」には,2010年度頃までの政府全体としての採用者に占める女性の割合の目安として,国家公務員採用I種試験の事務系の区分試験(行政・法律・経済)については30%程度との数値目標が盛り込まれており,政府は目標達成に向けた取組を進めている。

(審議会等における女性委員増加のための取組)

審議会等における女性委員増加のための取組を行っている国もある(第1-特-32表)。ノルウェーでは,2005年の男女平等法の改正により,10名以上で構成される公的な理事会,審議会及び委員会は,一方の性が全体の40%以上を占めるものとされ,クォータ制が導入されている他,韓国では,国・地方の各種委員会への女性登用につき,40%の目標率を設定している。また,日本でも,2020年までに,政府全体として男女いずれか一方の委員の数が委員の総数の10分の4未満とならない状態を達成するよう努め,そのための当面の目標として,2010年度末までに,女性委員の割合が少なくとも33.3%となるよう努めるという目標を設定している。

第1-特-32表 審議会,委員会等の女性委員増加のための取組 別ウインドウで開きます
第1-特-32表 審議会,委員会等の女性委員増加のための取組

(管理的職業従事者の増加のための取組)

公的部門以外での管理的職業従事者の増加のための取組は,企業の自主的な努力を支援する形のものが多い(第1-特-33表)。

第1-特-33表 管理的職業従事者増加のための取組 別ウインドウで開きます
第1-特-33表 管理的職業従事者増加のための取組

ノルウェーでは,2005年末,政府が,より強力に男女共同参画政策を進めるため,一般会社法を改正し,一般株式会社(ASA)の取締会に40%クォータ制を導入した。これにより,2006年以降に設立された一般株式会社は,この基準を満たさなければ認可されないこととなり,それ以前に設置された一般株式会社も,2007年中にはこの基準を満たすよう指示されている。

米国では,1960年代から,人種別,性別等の構成の不均衡を是正するためにマイノリティーや女性のための積極的措置を求めるアファーマティブ・アクション6施策が実施されてきた。1965年の大統領令11246号(1967年の大統領令11375号により修正)により,連邦政府と年間5万ドル以上の契約締結を行う企業に対し,書面によるアファーマティブ・アクションの策定と執行を求め,労働省の部局がその監視を行うシステムが確立した。また,裁判所は,差別行為が認定された場合,適切なアファーマティブ・アクションを命ずる権限を付与されている。中小企業法でも,政府調達分野において,マイノリティーや女性の経営する中小企業に対する優遇措置が規定されているほか,企業等においては自主的にアファーマティブ・アクションが行われている。

日本においては,前述の「2020年までに,指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度」の目標における「指導的地位」の中には,企業等の管理職等も含まれており,政府として企業等の自主的な取組を奨励している。企業においても,ポジティブ・アクションによる女性の登用の取組が徐々に広がりつつある。平成15年女性雇用管理基本調査によると,日本でポジティブ・アクションを行っている企業の割合は29.5%と,3年前と比較してやや上昇しており,特に,5000人以上の大規模企業では74%が導入している。取組内容としては,「性別により評価することがないよう人事考課基準を明確に定める」,「女性がいない又は少ない職務について,意欲と能力のある女性を積極的に採用する」,「女性がいない又は少ない職務・役職について,意欲と能力のある女性を積極的に登用する」,「男女の役割分担意識に基づく慣行の見直し等,職場環境・風土を改善する」等が多くなっている。

女性の登用の促進は,女性自身だけでなく,質の高い労働力の確保や生産性の向上を通して,企業にも好影響をもたらすといえる。上記調査によれば,「既にポジティブ・アクションに取り組んでいる」あるいは「今後取り組むこととしている」とした企業のうち64.1%が,「社内でポジティブ・アクションを推進することが必要である」と考える理由について,「女性の能力が有効に発揮されることにより,経営の効率化を図るため」と回答している。また,21世紀職業財団の「企業の女性活用と経営業績との関係に関する調査」によれば,課長に占める女性比率及び過去5年間の女性管理職の増減と,企業の総合経営判断指標や成長性指標の間には密接な関係が見られており(第1-特-34図),女性が活躍できる企業風土や人事・労務管理施策が,企業の経営や成長に好影響を与えているとみられる。

第1-特-34表 女性社員の基幹化と経営パフォーマンスとの関係 別ウインドウで開きます
第1-特-34表 女性社員の基幹化と経営パフォーマンスとの関係

3 おわりに

日本においては,男女共同参画に関する基本法制は整備されているものの,政治・行政,働く場における女性の登用は諸外国と比較して決して高い水準にあるとはいえないことが明らかになった。

諸外国に目を向けると,多くの国が,女性が活躍しやすい環境整備を含めたポジティブ・アクションや,育児支援や労働時間制度,パートタイム労働制度等ワーク・ライフ・バランスを図るための先進的な取組を行っている。

女性の参画が企業の経営に好影響を与えている可能性や,仕事と生活との調和のとれた環境が仕事に対する満足感をもたらすことを指摘する調査結果も報告されており,男女が仕事にも家庭生活等にもバランスよく参画できるような環境を整備することにより,男女ともに自らが希望する生き方を選択し,活躍できる社会を構築することが必要である。

(コラム:カタリスト賞――企業における女性支援)