平成19年版男女共同参画白書

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米国におけるワーク・ライフ・バランス施策の転換点 ―フォード財団の研究―

米国企業が今日のワーク・ライフ・バランスにつながる取組を始めたのは,1980年代後半であった。米国においては当時,子育て中の女性の職場進出が進み,一方で,産業構造の変化に対応するため企業は優秀な人材を求めていた。ここに労働者側と企業側のニーズが一致し,企業は,女性が仕事と家庭責任とを両立することを支援するようになったが,その内容は専ら育児支援であった。このような「ワーク・ファミリー・バランス」施策は,対象が子どもを持つ女性に限られるなど限定的であったが,次第に男性の従業員も広く利用できるようなものとなり,「ワーク・ファミリー・バランス」から,労働者の仕事と私生活全般との両立を意味する「ワーク・ライフ・バランス」に変わっていった。

こうしてワーク・ライフ・バランスの施策は揃ったものの,労働者,雇用主双方が,ワーク・ライフ・バランス施策を,仕事と私生活との両立に困難を抱えている従業員に対する「福祉的」な取組であると理解し,企業にとっては負担でしかないという捉え方が一般的であったため,従業員の利用は停滞し,会社側の取組も次第に後退していった。

このように停滞していたワーク・ライフ・バランス施策に新たな方向性を示すきっかけとなったのが,1993年から3年間行われたフォード財団の研究であった。同研究は,ワーク・ライフ・バランス施策そのものではなく,どのように仕事のやり方を変えれば期待する効果が出せ,同時に私生活を充実させることができるかを基本コンセプトに,ワーク・ライフ・バランス実現に向けて仕事のやり方を見直すという発想で行われ,「仕事の再設計」というトレーニングプログラムを開発し,チーム,個人,管理職及び経営トップが,仕事と理想的な社員像についての既存の価値観・規範を見直し,習慣的な仕事のやり方を見直し,仕事の効率と効果を向上させ,同時に仕事と私生活の共存をサポートする3段階の実行が必要だとしている。

米国におけるワーク・ライフ・バランスに関する取組は,この研究を機に,企業が業績を伸ばすための経営戦略の一部となっていった。