平成18年版男女共同参画白書

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第1節 子育て期の女性の労働の現状

ここではまず,女性の年齢階級別の労働力率の推移,出産前後の女性の就業パターンなど,子育て期を中心とした女性の労働の現状をみる。次に,仕事と家庭に関する男女の意識の変化を明らかにし,さらに,労働力人口が減少する中で,女性の人材活用が重要であることに言及する。

1 子育て期の女性労働力率

(日本の女性労働力率はM字カーブを描く)

日本の女性の労働力率を年齢階級別にみると,子育て期に当たる30歳代前半で低下するM字型カーブを描く。1975年にはこのM字型カーブの底は25~34歳であったが,2004年には30~39歳が底となり,また,底が上がってきているという変化はみられる。このような変化は,女性の晩婚・晩産化による子育て期年齢の上昇や,少子化による子育て期間の短縮などによるものと考えられる。

外国の女性の1970年代からの年齢別労働力率の推移をみると,全体として労働力率は概ね上昇している。年齢階級別に各国女性の労働力率の変化をみると,米国,スウェーデンについては,1980年代には既に逆U字カーブを示している。英国,ドイツについても,2004年には完全にM字カーブの底が消滅して逆U字カーブを形成している。このように,欧米諸国において逆U字カーブを示している要因としては,働き方の柔軟性が高いことや,地域の子育て環境が充実していることなどが考えられる(第1-特-1図)。

第1-特-1図 各国年齢階級別女性労働力率 別ウインドウで開きます
第1-特-1図 各国年齢階級別女性労働力率

また,ILOのデータによれば,15歳から64歳の女性の労働力率は先進各国では近年概ね大きく上昇している。日本においては1975年の49.7%に対し2004年は60.2%と上昇傾向にあるが,先進各国の上昇率には及んでいない(第1-特-2表)。

第1-特-2表 各国女性労働力率(15~64歳) 別ウインドウで開きます
第1-特-2表 各国女性労働力率(15~64歳)

(女性の就業希望者総数は360万人,子育て期の就業希望者は多い)

就業希望者数を労働力人口に加えて算出した潜在的労働力率では,労働力率にあったM字のくぼみは少なくなり,台形に近くなる。就業希望率でみても,30歳代で高くなっており,子育て期の就業希望者は多い(第1-特-3図)。女性の就業希望者の総数は360万人で,うち25歳から54歳までが245万人となっている。

第1-特-3図 女性の年齢階級別潜在的労働力率別ウインドウで開きます
第1-特-3図 女性の年齢階級別潜在的労働力率

2 仕事と家庭に関する男女の意識の変化

世論調査の結果から,女性の就業に関する国民の意識変化を見てみる。

女性が職業をもつことについての考えは,男女ともに,「子どもができても,ずっと職業を続ける方がよい」と考える「継続就業」支持が,「子どもができたら職業をやめ,大きくなったら再び職業をもつ方がよい」と考える「一時中断・再就職」支持を,平成16年に初めて上回った。男性は前回調査(平成14年)もこの回答が最も多かったが,女性の回答で「継続就業」支持が最多になったのは,調査開始以来,初めてのことである(第1-特-4図)。これは,この考え方に賛成する40歳代,50歳代の女性が大幅に増えたことによるもので,世代を超えて,生涯を通じて女性が職業をもつことを肯定的にとらえる意識が女性の間でも増加しているといえる。

第1-特-4図 女性が職業をもつことについての考え別ウインドウで開きます
第1-特-4図 女性が職業をもつことについての考え

一方,現在育児中の者も多いと思われる30歳代女性の回答では,平成16年調査でも「子どもができたら職業をやめ,大きくなったら再び職業をもつ方がよい」との回答が43.4%と最多になっており,「子どもができても,ずっと職業を続ける方がよい」は40.5%となっている。

3 出産前後の女性の就業の変化

(女性の勤続年数は長期化)

女性雇用者の勤続年数は長期化傾向にある。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(平成17年)によると,平成17年の雇用者のうち女性の平均勤続年数は8.7年(昭和60年6.8年)であった。男性は13.4年(同11.9年)となっている。

女性の雇用者構成を勤続年数階級別にみると,昭和56年には勤続年数1~2年が最も多かったが,平成17年では5~9年が最も多くなっており,10年以上の勤続年数の勤続者割合も上昇傾向にある(第1-特-5図)。

第1-特-5図 勤続年数階級別雇用者構成割合の推移 別ウインドウで開きます
第1-特-5図 勤続年数階級別雇用者構成割合の推移

(出産前後を通じて継続就業している女性は23%)

一方,出産を機に離職する女性も多い。厚生労働省「出生前後の就業変化に関する統計(人口動態統計特殊報告)」(平成15年度)によると,第1子の出生1年前に有職であった母親について,出生1年半後まで一貫して母親が有職である割合は23%,一時離職して出生1年半後までに再就職した割合は13%となっている(第1-特-6図)。また,妻が25歳から49歳までの世帯について,子どもがない世帯と末子が0歳から2歳の世帯で妻の有業率をみると,子どもがいる世帯では子どもがいない世帯の半分以下となっている(第1-特-7表)。

第1-特-6図 第1子出生1年半後の就業パターン 別ウインドウで開きます
第1-特-6図 第1子出生1年半後の就業パターン

第1-特-7表 子どもの有無別妻の有業率 別ウインドウで開きます
第1-特-7表 子どもの有無別妻の有業率

(出産時に女性が離職する理由)

世論調査結果や30歳代の女性の就業希望者が多くみられる状況からすると,継続就業を希望していた者も多いのではないかと推測される。

日本労働研究機構が平成15年に発表した「育児や介護と仕事の両立に関する調査」によると,「出産1年前には雇用者で現在は無職」かつ「就学前の子どもがいる女性」に聞いたところ,仕事をやめた理由としては,「家事,育児に専念するため,自発的にやめた」が最も多いが,「仕事を続けたかったが,仕事と育児の両立の難しさでやめた」を始め,それ以外の理由も半数近くなっている(第1-特-8図)。継続就業を希望しながら,仕事と家庭の両立の困難等により,やむなく退職している場合も多いことがうかがわれる。

第1-特-8図 仕事をやめた理由 別ウインドウで開きます
第1-特-8図 仕事をやめた理由

(コラム:子育てと生涯所得)

4 男性の家事・育児参加の状況

4歳から小学校までの子を持つ女性(専業主婦を含む)の夫について,通常働いている日の家事や子育て時間をみると,0~15分以内が51.6%と過半数を占めている(第1-特-9図)。一方,1日7時間以上勤務している女性では,夫の家事・子育て時間が60分以上である割合が高まっていることから(第1-特-10図),女性の仕事と子育ての両立のためには,男性の家事・育児参加が進むことが重要であると考えられる。

第1-特-9図 夫の家事・育児時間 別ウインドウで開きます
第1-特-9図 夫の家事・育児時間

第1-特-10図 女性の出勤日1日あたりの勤務時間別:夫の1日の家事・育児時間 別ウインドウで開きます
第1-特-10図 女性の出勤日1日あたりの勤務時間別:夫の1日の家事・育児時間

また,男性の労働時間が長い問題もある。年齢階級別の平均週間就業時間と週60時間以上就業者の割合をみると,30歳代が最も就業時間が長く,週60時間以上働く者の割合も30歳代で高い。さらに,平成7年と比べても,30歳代から40歳代で週60時間以上働く者の割合は増加している状況にある。育児期の男性の就業時間は長く,女性が就業時間を調整することにより子育てを行っている状況がうかがえる(第1-特-11図)。

第1-特-11図 男性の年齢階級別就業時間(非農林業) 別ウインドウで開きます
第1-特-11図 男性の年齢階級別就業時間(非農林業)

5 女性の活躍は日本社会の活力

(人口減少と労働力人口減少)

今後人口減少に伴う社会構造の変化が見込まれる中で,労働者を採用する企業側にとっては,将来的に女性を含めた多様な人材の活用が必要不可欠になることが予想される。

我が国では予想を上回るペースで少子化が進行し,平成17年には戦後初めて総人口が減少に転じたと見込まれている。平成62年の総人口は1億59万人と,昭和40年代初頭と同水準になると見込まれている(第1-特-12図)。

第1-特-12図 総人口の推移 別ウインドウで開きます
第1-特-12図 総人口の推移

また,労働力人口については,平成17年の労働力人口の6,650万人のうち,男性は3,901万人と8年連続で減少しており,人口の高齢化とあいまって,今後もさらに減少が続くと予想される。また,厚生労働省の推計によると,女性や高齢者の労働市場への参加が現在と同水準で推移した場合,平成42年の労働力人口は5,597万人となると見込まれる(第1-特-13図)。このような労働力人口の急激な減少は,我が国の産業の活力低下を招くと同時に,高齢化による社会保障給付の著しい増大が見込まれる中,社会保障制度の維持も困難になり,国民生活に大きな影響を及ぼすことになると考えられる。

第1-特-13図 労働力人口の推移と見通し 別ウインドウで開きます
第1-特-13図 労働力人口の推移と見通し

(女性労働力で労働力人口の減少を緩和できる)

労働力人口の減少を食い止める方策としては,若者,女性,高齢者などが労働市場に積極的に参加できる環境を作ることが考えられる。とりわけ,女性は現在も就業を希望しつつも社会参加していない層が大きく,また,能力の高い労働者も多いと思われる。

厚生労働省の試算によると,労働力率が平成16年と同じ水準で推移した場合の平成32年の労働力人口は6,037万人となる。これに対し,女性の労働市場参加が進む場合として,平成32年の男女の労働力率の差が半分になったと仮定して計算した場合,平成32年の労働力人口は6,608万人となる(第1-特-14図)。いずれも平成12年の実績は下回るものの,女性の労働力率が向上することで,労働力人口の減少をかなりの部分緩和することができると推測される。就業を希望する女性の就業実現が望まれるところである。

第1-特-14図 労働力人口の推計 別ウインドウで開きます
第1-特-14図 労働力人口の推計

平成18年4月から定年の引き上げが開始される一方,企業では,1947年から49年までに生まれたいわゆる「団塊世代」が2007年以降に大量に退職することから,「2007年問題」として危機意識が高まっており,特に正社員規模が300人以上の企業の4割近くが危機意識を持っている。危機意識を持つ要因としては「意欲のある若年・中堅層の確保が難しい」が最も高く,具体的な取組としては雇用延長,中途採用をあげている企業が多くなっている(第1-特-15図)。

第1-特-15図 「2007年問題」に対する企業の意識,取組 別ウインドウで開きます
第1-特-15図 「2007年問題」に対する企業の意識,取組

ここまでみてきたように,我が国の子育て期の女性の労働力率は依然低位にとどまっており,出産前後での継続就業が進んでいない現状にある。しかしながら,仕事と家庭に関する男女の意識変化は着実に進んでおり,労働力人口の減少といった社会構造の変化がみられる中で,意欲のある女性が社会で活躍していくことは女性本人にとって望ましいことであるばかりでなく,企業や日本の経済社会全体にとってプラスであることは言うまでもない。女性が活躍できる道をより広く開いていくことこそが日本社会の活力につながるのである。

(コラム:企業の成長戦略)