平成18年版男女共同参画白書

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企業の成長戦略

1 CSR(Corporate Social Responsibility)

企業は活動するに当たって,社会的公正や環境などへの配慮を組み込み,消費者,従業員,投資家,地域社会等のステークホルダー(利害関係者)に対して責任ある行動をとるとともに,アカウンタビリティ(説明責任)を果たしていくことが求められている。こうした考え方は「CSR(企業の社会的責任)」と呼ばれる。現在,ISO(国際標準化機構)においてCSRの国際規格化が検討されているところであり,企業における取組が盛んになっている。

CSRは社会からの要請であると同時に,取り組む企業にとっても大きな意義のあるものである。CSRに取り組むことは,リスクの低減や,新商品・サービス市場の開拓,優秀な人材の確保等につながり,それは企業イメージ,企業のブランド価値を向上させる。そして,総合評価としての企業評価を押し上げ,株式市場等における株価の向上あるいは安定化などにつながると考えられるのである。

平成17年に日本経済団体連合会が会員企業を対象に行った「CSRに関するアンケート調査結果」によると,CSRを冠した組織・委員会の設置やレポートの発行など,CSRを意識して活動している企業は75.2%にのぼっており,CSRの取組を実際に始めている企業が多いことがわかる。

CSRの取組のひとつとして,例えば,性別にかかわらず能力を発揮できる環境整備や,仕事と家庭の両立可能な職場環境の整備を積極的に行うといったことがあげられる。平成15年に経済同友会が会員企業を対象に行ったCSRに関する取組の自己評価結果によると,各企業の「女性役員比率」や「女性管理職比率」は非常に低い。また,仕事と家庭が両立できる環境の整備については,一通り取り組んでいるものの不十分な内容と考えているところが多い。

現状では,まだ十分とはいえない状況にあるが,企業価値を高める,優秀な人材を確保していくという観点から,CSRの一環として,雇用の多様性や仕事と家庭の両立などに取り組んでいくことは,企業にとって今後の重要課題といえる。また,性別にかかわらず男女の人材を活用するという点で,男女共同参画の理念とCSRの取組は近似性を持ったものであると考えられる。

2 ダイバーシティ(Diversity)

欧米においては既に多くの企業が経営に取り入れている「ダイバーシティ(多様性)」の観点だが,我が国の企業社会でも近年急速に浸透してきている。日本経営者団体連盟(現,日本経済団体連合会)が平成14年に発表した「ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」の報告においては,ダイバーシティの概念について,「従来の企業内や社会におけるスタンダードにとらわれず,多様な属性(性別,年齢,国籍など)や価値・発想をとり入れることで,ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し,企業の成長と個人のしあわせにつなげようとする戦略」と整理している。

企業の側から考えると,経済の成熟化や高齢化が進む中,終身雇用・年功序列賃金といったいわゆる日本型雇用慣行の維持が難しくなったことなどから,多様な人材を経営に活かす必要が生じている。また,労働者にとっても,個人の価値観が多様化する中で,自分のライフスタイルに合った働き方を実現したいというニーズが高まっていると考えられる。このように,企業と個人双方が求める人材活用の在り方がダイバーシティであるともいえる。

経済同友会も,平成16年に発表した「多様を活かす,多様に生きる」提言において,新しい働き方のモデルとしての「ダイバーシティ・マネジメント」の導入に取り組むべきとしている。また,ダイバーシティ・マネジメントの導入等により女性の就労が促進された場合,日本の経済成長率を0.2ポイント押し上げる効果があると試算している。

最近では,ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の考え方からも,ダイバーシティの重要性が認識されている。日本経済団体連合会の「経営労働政策委員会報告」(平成18年版)では,「男女共同参画の理念を踏まえて,性別にかかわりなく,個人の能力を十分に発揮することができる職場環境や制度づくりをすることが,「ダイバーシティ」(人材の多様性)を活かす経営を進めていくための第一歩となる。(中略)女性のみならず,男性,高齢者など,全ての従業員を対象に,ワーク・ライフ・バランスの考え方を企業戦略の一環として組み入れていくことが,長期的に見て,高い創造力を持つ人材を育成し,競争力の高い企業の基盤をつくることになる。」としている。

ダイバーシティの一環として女性の雇用・活用に積極的に取り組む企業は少しずつ増えてきている。女性の人材を積極的に育成・活用するため,ポジティブ・アクションやメンター制の導入,また,仕事と家庭の両立のための支援を充実する例も多くみられる。今後さらにこの考え方が浸透することで,再チャレンジしようとする女性に多くの門戸が開かれ,企業に成長をもたらす存在として活躍することが望まれる。

企業における取組の例

●自動車メーカーにおける取組

東京都に本社を置く自動車メーカー(従業員数32,117人)では,2004年に「ダイバーシティディベロップメントオフィス」を設立,ダイバーシティの推進を経営戦略と位置づけ,その第一ステップとして女性社員の能力活用に取り組んでいる。具体的には,女性のキャリア開発支援策としてキャリアアドバイザーによる面談や女性向け層別研修,ワーク・ライフ・バランスを支援するための職場環境や諸制度の整備・運用推進,ダイバーシティ意識の浸透と定着に向けた社内での啓蒙活動などを行っている。

●電機メーカーにおける取組

大阪府に本社を置く電機メーカー(従業員数47,867人)では,2001年に「女性かがやき本部(現,多様性推進本部)」を設置し,「多様性を認める風土の醸成」や「女性の経営参画の加速」,「新規事業・ヒット商品の創出」に取り組んできた。女性役付者・女性管理職を増やすために,数値目標を設定し,女性を計画的に登用,育成しており,また,女性幹部候補者層を対象に「エクゼクティブ・メンター制度」を設置し,勉強会や役員によるメンタリング活動を行っている。

●コンピュータ企業における取組

東京都に本社を置くコンピュータ企業(従業員数19,145人)では,1998年に組織化された本社人事部門の「ダイバーシティー」と社長直属の諮問機関「ウィメンズ・カウンシル」が連携し,女性社員比率及び女性管理職比率に数値目標を掲げて,女性の採用拡大や女性管理職育成のための各種セミナーの実施等に取り組んできた。また,仕事と家庭の両立のため,フレックスタイム制度,e-ワーク制度(一日の全部又は一部を在宅で勤務することを認める制度)及び短時間勤務制度等多くの支援策を導入し,社員自らワーク/ライフ・マネジメントができる環境を推進している。