NEWSLETTER(創刊号)

7 東アジア女性問題国内本部機構上級担当官会議 報告

  1. 総理府では第4回世界女性会議において日本政府代表が公約した「国境を越えたパートナーシップの形成」を実現するために、平成8年度から標記会議を開催していますが、本年はその第4回会議が6月17日から19日まで開催されました。会議には海外からブルネイ、インドネシア、ラオス、マレイシア、ミャンマー、モンゴル、フィリピン、シンガポール、大韓民国、タイ、ヴィエトナムの11か国の女性問題国内本部機構から各1名、及び国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)から「開発と女性」問題の担当官の計12名の参加がありました。
  2. 会議では、域内各国での北京行動綱領の実施状況について意見・情報交換が行われました。これは、今秋のESCAPハイレベル政府間会議、更に来年6月の女性2000年会議を前にして域内の現状を相互把握するのに貴重な機会となりました。参加者はこの後、つくば市において開催された「いばらき国際女性会議」に参加し、自国の女性問題の現状や施策等について、約1,500 人の聴衆を前に発表・討議を行いました。
  3. 尚、会議においてESCAP担当官から、北京行動綱領の実施状況に関し、国連に提出された各国の回答(本号2ページ参照)を基にした分析が報告されましたので、以下にその抜粋を掲載します。

1995年の北京行動綱領採択を受けて、アジア太平洋地域の各国政府は、それぞれの開発段階や政治経済状況、社会的文化的背景などの事情に応じ、行動綱領の実施に向けてさまざまな取り組みを展開している。

* * * * * *

開発途上国では、健康・教育の分野における基本的な人材能力開発、マイクロクレジット(小口貸付)を始め女性による経済的資源の活用に便宜を与えるような諸制度の整備、貧困対策の政策やプログラムの実施に関心が高い。

数多くの国が共通して取組んでいる重大問題は、女性に対する暴力(及び一部地域では女性と子供の人身売買)、家族法、雇用法および特に女性に対する暴力に関連する刑法などの見直し・改正をはじめとする女性と法律の問題、HIV/AIDS予防など女性の健康に関する新たな問題、職業・専門訓練を含む女性・女児の教育と技能養成、政策形成・意思決定過程への女性の参画などであった。

ESCAP加盟の先進諸国にとって関心の高い問題領域は、家族と仕事の責任の両立、家庭支援、情報化時代に向けた訓練、および骨粗鬆症、癌、生涯を通じた健康、女性の高齢化などの健康問題であった。

* * * * * *

では、具体的な成果は見られたのだろうか。多くの国では、進展が図られたと報告している。女性の識字率や就学率の上昇、教育における男女平等の改善、乳幼児死亡率・妊産婦死亡率の低下、リプロダクティブヘルス・サ-ビスの利用機会の拡大、出生率の低下などは、具体的に女性の地位向上を示す例である。

女性の仕事は総じて目に見えにくいものであるにもかかわらず、公式な経済活動、零細企業や起業家活動への女性の参画は増大した。ただし、1996年以降東アジアおよび東南アジアの製造部門における女性の雇用は以前に比べ低迷している。

女性はまた、サービス産業および情報技術関連活動にも進出し、雇用を増やした。コミュニティ・レベルの意思決定過程および地方自治への女性の関与も増大したと報告されている。

女性の人権に対しても関心が高まり、法識字および法改革の推進について数多くの活動が報告されている。女子差別撤廃条約 については、1995年以降新たに11カ国が批准し、どの国も条約の義務の遂行に努力しており、新たな前進が図られたといえる。

行政への女性の参画も進み、一部諸国で意思決定のトップレベルに女性が就くなどの進展があった。また、女性が選挙・政治に参加するための教育活動についても、成果が報告されている。

* * * * * *

  • このような成果を挙げることができた背景は以下の通りである。:
    • 1) 域内諸国の3 分の2 以上が、北京行動綱領の12の重大問題領域のすべてもしくは大半を盛り込んだ国内行動計画を採択したこと。また、国内調整委員会など、実施のための機構を設置したこと。しかしながら、国内行動計画が実行に移されておらず、あるいは国家開発計画に組み込まれていない諸国も一部にある。
    • 2) 政府、NGO、諮問グループ、職業団体や経済団体、労働組合相互の対話や協力が増大したこと。北京会議の結果、域内の女性団体の活動が増大し、女性に対する経済的、社会的不平等の撤廃を明確に求めるロビー活動を展開する動きが活発化していることは、注目に値するであろう。しかし、これらの団体の多くは、依然として主流となっておらず、また資源不足により十分な活動ができない状況にあることも事実である。
    • 3) 国内の組織機構が強化されたこと。国内のフォーカルポイントの3 分の1 以上が政府組織の中で格上げされ、およそ20カ国が州( あるいは省や県) 、地区あるいは農村レベルの部局を設置して強化されるなどの事例に、その証左を見ることができる。しかしながら、一部の国内本部機構( ナショナル・マシナリー) は、国家の計画立案および政策形成過程において主流から取り残されている傾向にあり、また時に、資源不足に苦しんでいる。
    • 4) 人権国内委員会などの人権に関する機関が設置され、女子差別撤廃条約や児童の権利条約の実施のための具体的な施策や機構が整備されたこと。

* * * * * *

このように北京行動綱領の目標の達成においては、大きな進展はあるが、まだ満足すべき水準には程遠い。とりわけ後発開発途上国や経済体制の移行期にある経済基盤の脆弱な諸国では、その達成状況には大きなばらつきがある。貧困は依然多くの国において、国の弱体化を招く最も深刻な要因となっており、貧困女性の数は増加の一途をたどっている。

また、低賃金、低水準の資格、質の悪い労働、限られた職種に止まる雇用機会、劣悪な労働条件、季節的部分雇用などを特徴とする労働市場が女性用市場として次第に形成されつつある。

現在アジア地域が見舞われている経済危機によって、ますます多くの女性が貧困と社会的絶望に追い込まれることが再び懸念されている。より深刻な影響を受けた国にあっては、リストラや貧困が女性の専売特許となる傾向が危惧される。女性の人身売買、強制移住とそれに付随する社会悪が、深刻な問題となっている。

レイプなど極悪な暴力をはじめ、女性に対する暴力は、地域において依然根強い深刻な問題である。南アジアの大半の国では、女性に対する暴力が増加し、暴力を巡る問題に共通性が見られる傾向が報告されているが、暴力撲滅対策が成功した例はわずかしか報告されていない。また、女性の政治的エンパワメントについても、権力・意思決定レベルへの女性の参画は、著しく進んでいるとは言えず、進展は遅々としている。

* * * * * *

  • 北京行動綱領の完全かつ有効な実施を阻む要因として各国はいくつかの指摘を行っている。それらは以下のとおりである:
    • 1) とりわけ、開発プロセスにおける事実上すべての部門・段階における政策形成者および意思決定者に、ジェンダーに対するステレオタイプな捉え方が根強く残っていること。根強く残る家長制の考え方が男女平等の実現を阻んでいる。
    • 2) 達成度を図るために、ジェンダーに敏感な指標を用いた継続的モニタリングと定期的な評価が必要となるが、その点の整備がまだ不十分なこと。政府の各種機構のあらゆるレベルに、ジェンダー分析ツール、チェックリスト、モニタリングおよびアカウンタビリティの仕組みを導入することが必要である。
    • 3) 政策形成プロセス、とりわけ意思決定レベルにおける女性の参画が不十分であること。その原因としては、(a) 女性自らが伝統的な職種に選んでいること、(b) 法律上のみならず事実上の性差別、および(c) 家族の責務が挙げられる。
    • 4) 市場の自由化や構造調整をもたらしたマクロ経済政策は、輸出指向産業や起業家活動分野において女性に新たな雇用の道を開いたが、他方、(例えば健康や教育の分野における)「利用者負担」の政策や民営化の推進による公的部門の縮小など、公共支出を削減するための経済改革施策は、結果として、女性を開発の便益からますます社会的に排除するような状況をもたらしていること。
    • 5) 金融・経済危機は、男女に異なる影響を及ぼしたが、それに対して、ジェンダーの視点に敏感な政策やプログラムが今なお、ほとんど欠如していること。

* * * * * *

最後に、各国は、アジア太平洋における北京行動綱領の実施状況は、グローバリゼーションと域内における金融危機の影響分析抜きには、評価することはできないと指摘している。金融危機が女性に与えた影響は、男性とは異なる側面を有し、また被害の程度も甚大であり、地域においてこれまで女性のために獲得してきた経済的、社会的利益に深刻な脅威をもたらした。

このように、北京行動綱領の実施状況に関する評価は、一言で総括しきれるものではない。楽観視できる兆候も認められるものの、女性の地位向上と男女平等の達成が、域内諸国にとって、依然として優先されなければならない課題であることに変りはない。

内閣府男女共同参画局 Gender Equality Bureau Cabinet Office〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)
法人番号:2000012010019