第1節 女性を取り巻く社会情勢

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第1節 女性を取り巻く社会情勢

(高齢者を支える現役世代人口の減少)

総務省統計局「国勢調査」によると,平成27年(2015年)の日本の総人口は1億2,711万人(速報値)となっているが,国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計(24年1月推計)」(中位推計)によれば,平成60年(2048年)には1億人を割り,平成72年(2060年)には8,674万人になることが見込まれている。少子高齢化により,我が国の人口構造が大きく変化する中で,高齢者を始めとするケアを必要とする人口が増加し,それを支える現役世代の人口が減少している。ここで,現役世代を20~64歳とした上で,現役世代人口の65歳以上人口に対する比,すなわち,1人の高齢者を何人の現役世代で支えているかを見てみると,昭和25年(1950年)にその比が10.0人だったものが平成7年(1995年)には半減して4.3人となるなど急速に減少し,さらに平成22年(2010年)には2.6人となっている。今後も,平成32年には2人を切り,72年には1.2人まで低下すると見込まれている(I-特-1図)。持続的発展のためには,現役世代,中でも大きな潜在力を持つ女性の活躍が喫緊の課題となっている。

I-特-1図 1人の高齢者を支える現役世代の人数の推移別ウインドウで開きます
I-特-1図 1人の高齢者を支える現役世代の人数の推移

I-特-1図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

(女性を取り巻く様々な状況の変化)

少子高齢化の中で,昭和45年から平成26年にかけての女性を取り巻く状況の変遷を見ると(I-特-2図),女性の平均寿命は74.66年から86.83年へと大きく伸び,総人口に占める65歳以上人口の割合である高齢化率も7.1%から26.7%(平成27年)と大幅に上昇している。一方,女性の平均初婚年齢は24.2歳から29.4歳と5歳以上上昇し,平均第1子出生年齢は25.6歳から30.6歳となり,初婚年齢の上昇と呼応する形で高くなっている。晩婚化,晩産化の影響も受け,厚生労働省「人口動態調査」によると,合計特殊出生率は昭和45年の2.13から平成26年には1.42となっている。

I-特-2図 女性を取り巻く状況の変化別ウインドウで開きます
I-特-2図 女性を取り巻く状況の変化

I-特-2図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

(M字カーブの形成)

女性のライフステージの各段階と就業の関係を考える上で,女性の年齢階級別労働力率を見てみると,日本は諸外国と異なりM字型のカーブを描いている(I-2-3図参照別ウインドウで開きます)。

日本のM字カーブは,長期的に見ると,必ずしも昔からそうした形状であったわけではなく,高度成長期頃にできあがってきたものであり,I-特-3図はその変遷を見たものである。

I-特-3図 女性の労働力率の変化別ウインドウで開きます
I-特-3図 女性の労働力率の変化

I-特-3図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

大正9年には,15~19歳の女性の労働力率は7割近くあり,年齢が上がるとともに労働力率が低下する傾向にあった(右肩下がり)。昭和30年には,それまでに中等教育への進学が急速に進んだこと(I-6-1図参照別ウインドウで開きます)を背景に,15~19歳の労働力率が下がって20~24歳の労働力率が上がり,M字カーブの左側の山が形成された。高度成長期の40年には,25~29歳,30~34歳の非労働力化が進み労働力率が50%を切ったことや,40歳代の労働力率が上がった結果,M字型がはっきり確認できるようになった。平成22年には,M字の底が上がって70%近くに達するとともに,M字の底の年齢層が昭和40年の25~29歳から35~39歳に上がっている。

高度成長期には,出産・育児のためにいったん労働市場から退出し,その後パート等の家計補助的な働き方で再び労働市場に戻るという動きが増えてきたことが,こうした動きの背景にあると考えられる。

M字の底が上がった背景を見るために,総務省「労働力調査」により配偶関係別に昭和47年と平成27年の状況を比較してみると,25~29歳については,昭和47年には有配偶の割合が未婚を上回っていたが,平成27年には未婚が有配偶を上回り,晩婚化が進んだ影響が見てとれる。30~34歳及び35~39歳についても未婚者の労働力が増加しており,M字の底が上がった一因となっている(I-特-4図)。

I-特-4図 女性の配偶関係別・年齢階級別労働力率別ウインドウで開きます
I-特-4図 女性の配偶関係別・年齢階級別労働力率

I-特-4図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

(育児・介護をめぐる状況)

育児や介護等,家庭生活において様々な事情を抱える人の就業状況は男女で大きく異なる。平成24年において未就学児の育児を行っている人の割合を見ると,女性は10.3%,男性は7.6%となっている。また,育児を行っている者の有業率は,男性は98.5%であるのに対し,女性は52.3%にとどまっており,男女で大きな差がある。この有業率を年齢階級別に見ると,男性は各年齢階級で大きく変わらないが,女性は25~29歳で47.7%,40~44歳で56.7%となるなど,年齢とともに上昇しており,子育ての手が離れるにしたがい,有業者が増えていることが示唆される(I-特-5図)。

I-特-5図 育児を行っている人の割合・育児者に占める有業者の割合別ウインドウで開きます
I-特-5図 育児を行っている人の割合・育児者に占める有業者の割合

I-特-5図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

また,平成24年において介護を行っている人の割合を見ると,女性は6.2%,男性は3.8%となっている。また,介護を行っている者の有業率は,女性で44.9%,男性で65.3%と,育児ほどではないが,男女で20%ポイント程度の差がある。介護をしていない者の有業率は,女性で48.7%,男性で69.2%となっており,介護をしている者に比べ,女性で3.8%ポイント,男性で3.9%ポイント高くなっている(I-特-6図)。

I-特-6図 介護を行っている人の割合・介護者に占める有業者の割合別ウインドウで開きます
I-特-6図 介護を行っている人の割合・介護者に占める有業者の割合

I-特-6図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

平成23年における6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連に費やす時間を見ると,1日当たり1時間7分となっているが,スウェーデン(3時間21分)やドイツ(3時間),米国(2時間58分)等の他の先進国と比較して極めて低水準にとどまっている(I-特-7図)。また,6歳未満の子供を持つ夫について,家事や育児の1日当たりの行動者率を見ると,「家事」については,妻・夫共に有業(共働き)の世帯で19.5% ,夫が有業で妻が無業の世帯で12.2%となっており, 18年と比較してもわずかな上昇にとどまっている。「育児」については,妻・夫共に有業(共働き)の世帯では32.8%,夫が有業で妻が無業の世帯では29.6%となっており, 18年と比較してやや増加しているものの,妻の就業状態にかかわらず,約7割の夫が行っていないことがわかる(I-特-8図)。このように,男性の家庭生活への参画が重要な課題となっている。

I-特-7図 6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間(1日当たり,国際比較)別ウインドウで開きます
I-特-7図 6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間(1日当たり,国際比較)

I-特-7図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-8図 6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連行動者率別ウインドウで開きます
I-特-8図 6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連行動者率

I-特-8図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

コラム1 一人で育児と介護を同時に担う「ダブルケア」

(第1子出産を機に6割の女性が離職,介護離職9万人のうち8割近くが女性)

働きたい女性が,仕事と家庭生活の二者択一を迫られることなく働き続け,その意欲と能力を十分に発揮することは重要な課題である。こうした中で,第1子出産前後の就業継続状況をみると,正規職員ではその割合は増加傾向にあるものの半数程度に留まり,またパート・派遣は正規職員に比べて就業を継続する割合は低くなるなど,全体で見ると第1子出産を機に約6割の女性が離職する傾向には大きな変化が見られない(I-3-4図参照別ウインドウで開きます,I-特-9図)。

I-特-9図 出産前有職者の就業形態別妻の就業継続率別ウインドウで開きます
I-特-9図 出産前有職者の就業形態別妻の就業継続率

I-特-9図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

また,総務省「労働力調査(詳細集計)」(平成27年)によると,平成27年における女性の非労働力人口2,887万人のうち,301万人が就業を希望しており,現在求職していない理由としては,「出産・育児のため」が最も多く32.9%となっている(I-2-7図参照別ウインドウで開きます)。

介護・看護を理由として過去1年以内に離職した者の状況を,総務省「労働力調査(詳細集計)」により見ると,平成27年には9万人となっており,その内訳は,女性7万人,男性2万人で,女性が8割近くを占める1(I-特-10図)。働く意欲がありながら働けない人の存在は,少子高齢化が進む我が国にとって大きな損失と言える。

I-特-10図 介護・看護を理由とした離職者数の推移(男女別)別ウインドウで開きます
I-特-10図 介護・看護を理由とした離職者数の推移(男女別)

I-特-10図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

15年に1度実施される「就業構造基本調査」(平成24年)によれば,平成23年10月から24年9月の1年間に介護・看護が理由で離職した者は,10.1万人(男性2.0万人,女性8.1万人)となっている。

(子供ができてもずっと職業を続ける方がよいと考える人の増加)

女性の就労に関する意識の変化を見ると,平成4年には,「子供ができたら職業をやめ,大きくなったら再び職業をもつ方がよい」と回答する者が45.4%と最も多く,次いで「子供ができても,ずっと職業を続ける方がよい」が26.3%であったが,26年には「子供ができても,ずっと職業を続ける方がよい」と回答する者の割合が45.8%,「子供ができたら職業をやめ,大きくなったら再び職業をもつ方がよい」が32.4%と,逆転しており,女性が育児をしながら働くことに対する意識に変化が見られる(I-特-11図)。このように,出産や育児のライフイベントに関わりなく仕事を続けたいという女性の意識が高まる一方で,実際には出産等で離職を選択しているケースが多く見られ,女性の職業への思いと現実の行動との間のギャップが大きくなっていることがうかがえる。

I-特-11図 女性の就労に関する意識の変化(女性)別ウインドウで開きます
I-特-11図 女性の就労に関する意識の変化(女性)

I-特-11図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

(長時間労働の動向)

男女の長時間労働の動向を見ると,週間就業時間60時間以上の雇用者の割合は,長期的には男女とも緩やかな減少傾向にあり,平成27年には女性は2.7%,男性は12.5%となっているが,子育て期と重なる30歳代や40歳代の男性ではその割合が高く,それぞれ15.6%,16.1%となっている(I-特-12図)。しかし,年間就業日数が200日以上の男性就業者について就業形態別の動向を見てみると,就業時間が週60時間以上の割合は必ずしも減少傾向にあるとは言えない(I-特-13図)。非正規雇用者数の割合が長期的に増加傾向にあること(I-2-4図参照別ウインドウで開きます)が長時間労働の長期的な減少傾向の一因となっていると考えられる。

I-特-12図 週間就業時間60時間以上の雇用者の割合の推移(男女計,男女別)別ウインドウで開きます
I-特-12図 週間就業時間60時間以上の雇用者の割合の推移(男女計,男女別)

I-特-12図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-13図 年間就業日数200日以上の就業者の就業形態別週間就業時間の推移(男性)別ウインドウで開きます
I-特-13図 年間就業日数200日以上の就業者の就業形態別週間就業時間の推移(男性)

I-特-13図 [CSV形式:1KB]CSVファイル

長時間労働を前提とした働き方では,仕事と家庭生活との両立は困難であり,男性自身の家庭生活への参画を困難にするとともに,女性が就業したり,就業継続できなくなるなど,家庭生活以外の活動への参画・活躍に影響を与えていると考えられる。長時間労働の削減は,男性自身にとっても,ワーク・ライフ・バランスや地域活動,自己啓発等の時間の確保等の観点から重要であり,男女が共に暮らしやすい社会に向け,大きな課題である。