第5節 女性の活躍に向けた今後の課題等

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第5節 女性の活躍に向けた今後の課題等

1 諸外国における最近の関連施策の動向

2008(平成20)年秋のいわゆるリーマンショックに端を発した世界的な金融危機とそれに伴う景気後退を契機に,国際的にも,女性の活躍を今後の経済成長の原動力と捉えた取組や議論が官民を問わず広がりを見せている。

例えば,APEC(アジア太平洋経済協力)では,女性と経済をテーマにしたハイレベルの会合38を相次いで開催するなど,社会の持続可能性を高め,経済成長の原動力となり得るのは女性の活躍であるとの認識を共有している。EUにおいても,経済活動において女性の潜在力が十分にいかされておらず,女性自身だけでなく広く経済にとっても損失になっているとの認識を背景に,2010(平成22)年から10年間の成長戦略である「Europe 2020」(欧州2020)にも関連付けて,経済分野での女性の活躍を促すための様々な取組が行われている。

38「女性と経済サミット」(2011(平成23)年・米国),「女性と経済フォーラム」(2012(平成24)年・ロシア)等。


女性の活躍を進めるための取組には,各主体の自主性を重んじるものから法令に基づく義務として行われるものまで各国に様々なタイプが見られる。以下では,主要先進国において近年取組が進みつつある主な関連施策を概観する。

(企業の情報開示等を通じた女性の活躍促進)

企業に対して女性に関する情報を行政当局に報告するよう求めたり,コーポレート・ガバナンス(企業統治)等の観点から資本市場に情報を開示するよう促したりすることで,企業における女性の活躍を促進する仕組みが見られる。

例えば,韓国では,政府が企業に対して,従業員や管理職のそれぞれに女性が占める割合に関するデータの作成・届出を求め,それらの割合が一定の水準39に達しない企業に対して改善策の策定と実施を要請している。オーストラリアでは,2012(平成24)年から,従業員100人以上の企業に法律で定められた男女共同参画に関する6項目に関する報告書を政府に提出することを義務付ける仕組みが導入された40。報告書が提出されない場合は,企業名の公表や,政府と契約や補助金受給に係る資格を失うといった措置も用意されている。

39当該企業が属する企業規模又は産業平均の6割。

40報告書の記載対象となるのは,(ア)職場における男女比,(イ)取締役会や理事会等(governing bodies)の男女比,(ウ)男女平等賃金(男女間の給与の違い,同一価値労働同一賃金),(エ)従業員の契約条件,フレキシブルな働き方の取組,家族やケア責任への支援,(オ)職場におけるジェンダー平等に関する従業員との協議,(カ)その他大臣が定める事項,の6項目である。

また,英国,オーストラリア等では,上場企業が自主的に取締役会における女性の割合に係る目標等を設定・公表して事業年度ごとにその進捗状況を開示することを通じて,女性の活躍促進を後押ししている(第1-特-46表)。

第1-特-46表 男女別データの情報開示を求める取組 別ウインドウで開きます
第1-特-46表 男女別データの情報開示を求める取組

41Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council amending Council Directives 78/660/EEC and 83/349/EEC as regards disclosure of nonfi nancial and diversity information by certain large companies and groups, COM(2013)207 final。ここでは,役員登用における多様性の向上のために,情報開示と社外取締役への女性登用に関するクオータ制の両方を検討していくことが述べられている。


(役員会42における多様性(ダイバーシティ)の確保)

42ここでは,取締役会及び監査役会(監査役設置会社の場合)を指す。


企業における役員会は,経営全般に最も重要な役割を担う組織であり,その在り方は,株主や投資家にとって大きな関心事である。近年,同質的な人的構成による役員会よりも,様々なバックグラウンドや属性をもつ者によって構成される役員会の方が多様な価値を受容しやすく,市場変化への適応力やリスク耐性の点で一般に優れているとの考え方も広まりつつある。女性役員の登用は多様性(ダイバーシティ)の確保の一つと位置付けられ,欧州では,法律によって企業の役員会に一定の割合以上の女性の登用を義務付けるクオータ(quota:割当て)制の導入が進んでいる(第1-特-47表)。

第1-特-47表 各国における役員クオータの概要 別ウインドウで開きます
第1-特-47表 各国における役員クオータの概要

43Proposal for a Directive of the European Parliament and of the Council on improving the gender balance among non-executive directors of companies listed on stock exchanges and related measures, COM(2012)614 final。


(企業へのインセンティブ付与による支援)

女性の活躍促進に積極的に取り組む企業の活動を促進するため,政府が補助金の給付や税制上の優遇等を行ったり,様々な制約から小規模でビジネスの基盤が弱いものも多いという女性の経営する企業の実態を踏まえ,公共調達において女性が経営する小規模な企業を優先的に調達先とするといった形で支援を行っている国もある。

例えば,英国やドイツでは,従業員の育児費用を補助した企業に税制上の優遇措置が適用されており,韓国では,企業内保育所の開設,コンサルティング,育児休業を取得した従業員の代替要員の確保,出産等により離職した女性が復職するための支援等に要する費用について企業に補助金が支給されている。

米国では,2000(平成12)年に大統領令44において,政府調達契約において女性が経営する企業と契約する割合を5%に引き上げるという目標を示した。その後,2010(平成22)年には「女性契約促進規則」を制定し,女性が経営する小規模企業との契約額が最も低い83業種に焦点を当て,この目標達成に向けた実効的な取組を行っている(第1-特-48表)。

44大統領令13157 女性が所有する小規模事業の機会拡大令。


第1-特-48表 企業へのインセンティブ付与による支援 別ウインドウで開きます
第1-特-48表 企業へのインセンティブ付与による支援

以上のほか,男女共同参画等を推進する計画やポジティブ・アクションの策定及び実施を企業に義務付けている国(スウェーデン,スペイン,英国,カナダ等)や,男女の賃金格差の解消のために企業のセルフチェックやコンサルティングを行うコンピュータ上のツール(アプリケーション)を提供している国(ドイツ,スイス)も見られる。

2 我が国における最近の取組・議論

女性の活躍を経済再生・活性化に関連付け,質・量双方の側面から女性の潜在力を引き出そうとする議論・取組は,ここ数年,我が国においても活発に展開されてきている。

(第3次男女共同参画基本計画等)

第3次男女共同参画基本計画(平成22年12月17日閣議決定)では,基本的な方針の中で,少子高齢化による労働力人口の減少への対応,グローバル化や消費者ニーズが多様化する中での新たな価値の創造といった質・量両面の観点から,女性の能力発揮への期待と必要性が改めて強調されている。

男女共同参画会議では,こうした認識の下,基本問題・影響調査専門調査会の下にワーキング・グループを設けて,女性の活躍による経済社会の活性化をテーマに議論を行い,平成24年2月に専門調査会としての報告を取りまとめた。同報告では,新たな分野や働き方における女性の活躍,制度慣行の見直し・意識の改革,多様な選択を可能にする教育・キャリア形成支援,ポジティブ・アクションの更なる推進等に取り組むべきことなどが指摘され, 3月にはこれを受けて,男女共同参画会議として政府に求める取組を決定した。

(「女性の活躍促進による経済活性化」行動計画の策定,その後の取組)

平成24年5月からは,経済活性化に資する取組に焦点を当てて具体化・加速化を図るため,関係閣僚で構成する女性の活躍による経済活性化を推進する関係閣僚会議45が開催され, 6月には「女性の活躍促進による経済活性化」行動計画~働く「なでしこ」大作戦~が取りまとめられた。

45平成24年5月21日内閣総理大臣決裁に基づき開催。国家戦略担当大臣及び内閣府特命担当大臣(男女共同参画)を共同議長として,外務大臣,文部科学大臣,厚生労働大臣,農林水産大臣及び経済産業大臣で構成。


同行動計画は,日本に秘められている潜在力の最たるものこそ「女性」であるとの基本的な認識に立ちつつ,男性の意識改革と,実質的な機会均等を実現するための積極的改善措置(ポジティブ・アクション)とを車の両輪として女性の活躍を促進すること,国家公務員から率先して行動を起こして,民間企業・団体,地方公共団体等にも取組を広げていくことを取組の柱として打ち出した。

同行動計画は7月に閣議決定された「日本再生戦略」に反映され,直ちに取組や検討が始められた46(第2部第2章第3節第4節等参照)。

46日本再生戦略「日本再生に向けた改革工程表」において2012(平成24)年内に策定することとされた「女性の活躍促進による経済 活性化」行動計画に係る工程表は策定されていない。


(女性の活躍促進を加速するための新たな動き)

第二次安倍内閣は,女性の力の活用や社会参画の促進が日本の強い経済を取り戻すために不可欠との認識に基づき,全ての女性がその生き方に自信と誇りを持ち,輝けるような国づくりを目指すとの方針の下,女性活力・子育て支援担当大臣を初めて設け,地方での開催を含む若者・女性活躍推進フォーラム等を通じて幅広い意見を集めながら,成長戦略に盛り込むべき具体策の取りまとめを進めた。

若者・女性活躍推進フォーラム(第1回)(提供:内閣広報室)

コラム8 「ダイバーシティ経営企業100選」・「なでしこ銘柄」(経済産業省)

内閣総理大臣は,平成25年4月19日,男女共に仕事と子育てを容易に両立できる社会の実現が重要との考えを示した上で,女性の活躍の推進に関して要請を行い49,これに続いて行われた成長戦略スピーチでは,女性の活躍を成長戦力の中核に位置付け,待機児童解消加速化プラン,希望に応じて子育てに専念した後の職場復帰支援,子育て後の再就職・起業支援といった取組を打ち出した。

49日本経済団体連合会,経済同友会及び日本商工会議所に対し,(ア)子どもが3歳になるまでは,希望する場合には,男女とも育児休業や短時間勤務を取得しやすいようにすること,(イ)「2020年30%」の政府目標の達成に向けて,全上場企業において積極的に役員・管理職に女性を登用することとし,まずは,役員に一人は女性を登用すること,の2点について要請した。

内閣総理大臣のリーダーシップによるこうした政策方針の提示を受けて,女性の活躍を推進するための関連施策が可能なものから順次展開されており(第2部第5章,第6章,平成25年度 男女共同参画社会の形成の促進施策第5章等参照),従来の取組の強化・加速化,新たな取組の具体化も図られている。

前述の若者・女性活躍推進フォーラムでは,産業競争力会議50における成長戦略の検討に資するため, 5月19日の第8回会合でそれまでの議論を集約し,女性の活躍促進に向けた施策については,(ア)女性の活躍促進や仕事と子育て等の両立支援に取り組む企業に対するインセンティブ付与等,(イ)女性のライフステージに対応した活躍支援,(ウ)男女が共に仕事と子育て・生活を両立できる環境の整備という3つの観点から,直面する課題の抜本的解決に向けた具体的方策を盛り込んだ提言を取りまとめた。

50我が国産業の競争力強化や国際展開に向けた成長戦略の具現化と推進について調査審議するため,平成25年1月から,日本経済再生本部の下で開催(議長:内閣総理大臣,関係閣僚と民間議員10名で構成)。


コラム9 国際機関による相次ぐ提言

512011年1月に発足した国連機関で,世界,地域,国レベルでのジェンダー平等と女性のエンパワーメントに向けた活動をリード,支援,統合する役割を果たしている。


3 今後の課題と取組の方向性

女性の活躍は,現下の成長戦略の中核に位置付けられている。我が国において,女性の活躍を進めることの重要性が経済政策との関係でこれほど注目を集めるのは初めてといってよい。

主要国において,経済停滞から抜け出す原動力として経済分野における女性の一層の能力発揮に活路を見い出し,近年,様々な取組が進められている。我が国は,女性の活躍を示す各種指標でそれらの国々に既に水をあけられつつある。人的資源,中でも女性の能力を存分にいかすことのできない社会が,グローバル競争の中で,経済成長に必要な投資や優秀な人材を世界中からひきつけることは難しい。国内だけで活動している企業も人も,国際的な大競争の影響から逃れることはできない。

もとより日々の生活に対する満足や充実感は経済的な要素のみで決まるものではないが,もう一度日本経済が力強く成長できるようになるには,「女性が輝く日本」をつくらねばならない。

以下では,今後特に重点的に取組を進めていくべき分野を中心に,これまでに見た現状から浮かび上がった課題と今後の対応の方向性について述べる。


(1) 女性の活躍促進をめぐる課題

(女性が就業を継続することの難しさ)

我が国においては,男女を問わず大多数の者が雇用者の立場で就業している。自営業者にあっては,自らの経営判断の一環として活動の継続・中断・再開を行うが,雇用者の場合は,職位,賃金等が就業を継続することによって形成される自らのキャリアやスキル等に密接に結び付いていることが多い。

近年やや改善傾向が見られるとはいえ依然として雇用者の労働時間が長く,他方で,育児,介護,家事といった役割が女性に偏っている現状においては,雇用者である女性が就業を継続することは容易ではない。労働市場における流動性が低い現状においては,一旦退職すると,育児等が一段落して再び仕事に就く際に,勤務形態は柔軟であっても正規雇用者に比べて賃金水準が低く,雇用が不安定な非正規雇用者となることが多い。

また,子育てに関しては外部のサービスに頼らざるを得ないことも多くなっている。保育への需要は増え続け,平成29年度末にピークを迎えるものと見込まれている。特に都市部ではその受け皿が量的にも質的にも十分とは言えず,待機児童問題が深刻になっている。

さらに,現在は,女性が離職する理由の多くが結婚,出産・育児であるが,家庭における介護も多くの場合,女性に担われている。今後,高齢化が一層進んでいく中,そうした役割分担が変わらなければ,とりわけ人口の多いいわゆる第一次ベビーブーム世代(昭和22年から24年生まれの者)の高齢者介護の問題が本格化するようになると,女性の就業と介護の問題の関わりも一層大きなものとなってくる。

(十分に進んでいない意思決定過程への女性の参画)

学校卒業後の最初の就職に当たって,男性に比べて女性は正規雇用者となる割合が低く,正規雇用者であることが多い管理職の候補となり得る人材において,女性は男性よりも絶対数が少ない。数において少ない女性が出産,子育て等をきっかけとして更に仕事を離れてしまえば,管理職への登用の前提となるキャリアやスキルの形成,組織内外のネットワーク等の点で,それらのライフイベントにかかわらず就業を継続することが一般的な男性との差が大きくなる。50歳代後半頃からは親の介護と仕事との両立が難しくなり,昇進を断念せざるを得なくなることも考えられる。

また,組織内での経験や評価を基に内部の人材から昇進させていく企業にあっては,長時間労働を前提とした評価の考え方の下では,子育て中の女性のように限られた勤務時間の中で生産性高く働いて帰宅する従業員が,家庭での役割を配偶者に委ねて長時間職場にとどまっている従業員に比べて評価されにくいと考えられる。

仕事を一旦離れることでキャリアやスキルの形成が中断する場合,育児や介護等の役割を担いながら仕事を続けている場合,いずれの場合も,女性が管理職,役員といった立場で意思決定過程に参画していくための環境は十分に整っていない。

(女性の進路選択,起業等における課題)

各種のデータからは,到達した教育段階によって,正規雇用者の割合,賃金の水準や年功カーブ(年齢を重ねることによる賃金の上昇の程度)等が異なることが見てとれ,その差は男性よりも女性において大きい。

教育は,生涯を通じた知識・スキルの習得の基盤ともなっており,個人が自らの将来についてどのような教育を受けるか,どの程度の教育段階に到達するかといった点は,男女共にライフステージを通じて活躍を続ける上でポイントの一つと言える。

他方で,企業が求める分野において,そもそも女性が少ないという状況も見られる。例えば,女性技術者を積極的に採用しようとする企業の中には,大学・大学院等において業務に対応する理工系の分野にもともと女性が少ないため,人材の確保に苦労している企業が少なくない。

女性は,非正規雇用の割合は,子育てが一段落した後の世代だけでなく20歳代の新卒時点においても男性に比べて高い。男女を問わず一旦非正規で就職してしまうと,キャリア形成やスキルアップの点で正規雇用者との間に差ができてしまうことが多く,それが原因となって,その後の生涯を通じて就業や,職位,賃金,資産形成等に幅広く影響を与え続けることが懸念される。

子育て等による就業中断後を含めて働き方の選択肢には「起業」もあり,女性の新しい視点によるビジネスが経済に新たな成長をもたらし,社会の変革を促すことや,東日本大震災の被災地で復興の原動力となることが期待されている。他方で,一般に就業経験の浅い女性が起業しようとする場合,開業資金の調達,経営ノウハウ等の点で男性以上に困難な場合が多く,特に事業と育児,家事等との両立を図る必要がある場合には,事業を断念したり,事業リスクを限定して成長性の限られる事業にとどまらざるを得ないといったケースも少なくない。

(企業による自主的な取組に際しての課題)

消費者ニーズの多様化,労働力人口の減少,優秀な人材の確保や組織活性化の必要性等を背景に,近年,女性の活躍推進をCSR(企業の社会的責任)や企業イメージの向上としてではなく,経営戦略の柱に据えて取り組んでいる企業が目立つようになってきている。

企業を取り巻く内外の厳しい経営環境も見据えれば,将来にわたっての企業価値,持続可能な成長可能性という点で,中長期的には,女性を含む多様な人材の力を引き出すことのできる企業の方がそうでない企業よりも優位に立つと考えられる。他方で,女性活躍を推進するための制度や職場環境の整備のために,一時的には様々なコストが必要となることも多い。

女性の活躍が企業にとって中長期的にプラスに働くとしても,短期的にも一定の業績を上げる必要がある企業にとって,投資家,顧客,従業員といった様々なステークホルダー(利害関係者)にそうした取組が理解されることが不可欠である。そのためには,女性の活躍推進に取り組むことが企業の活動や職場にプラスの効果をもたらすことをステークホルダーに対して示していく必要がある。

コラム10 女性の活躍の鍵を握る中間管理職


(2) 女性の活躍促進のための今後の取組の方向性

女性が直面する課題を克服し,女性の活躍を我が国経済の活性化につなげるためには,女性のライフステージごとの課題に対応した施策を展開するとともに,企業における積極的な取組を促していくことが重要である。

女性の働き方は男性に比べてライフステージに応じて多様なことから,進学,就学,結婚,出産,育児といった人生の各段階を通じて自分らしい生き方や進路の選択ができるよう,男女共同参画の視点に立ったキャリア教育や,理工系分野を目指す女子中高生に対する支援を推進するとともに,社会人になってからのキャリア形成を支援していく必要がある。

結婚・出産・育児の各段階では,女性がキャリア 形成やスキルアップと子育てとを両立できるよう支援していくことが重要である。その際,仕事と家庭生活の両立を図る上で男女に共通かつ根底の問題とも言える長時間労働の抑制や働き方の見直し等を通じてワーク・ライフ・バランスを推進していくことも不可欠である。男女が共に総労働時間を抑制して,職場外での多様な生活体験や自己啓発も通じながら,時間当たり生産性を高めることが求められている。そうした中,子育て等を担いながら限られた時間の中で生産性を高めようと努力している男女の働き方が評価されるようになることも望まれる。個人がそれぞれの状況に合わせて社会での活躍の場を見い出せるよう,正社員と非正規社員といった両極端な働き方のモデルを見直し,職務に着目した「多様な正社員」モデルを普及・促進していくとともに,非正規雇用であっても自らのキャリアや職業能力を軸に,転職をした場合も生活の安定を図ることができるような労働市場の整備を図っていくことが重要である。

出産・子育て等を契機に一旦離職した女性に対しては,産業構造の変化等に対応した新たな技術・技能を身に付けることができるよう大学・専門学校等における社会人の学び直しのための教育訓練機会を確保するなど離職によるブランクや企業のニーズと本人の知識・スキルとの差を埋め合わせるための支援が重要である。起業や農業経営にチャレンジしようとする女性に対する支援も必要である。

女性の活躍促進や,仕事と子育て等の両立支援に取り組む企業を政策的に後押ししていくとともに,企業における役員,管理職等への女性の登用に向けた働きかけ,登用状況の開示促進等にも取り組んでいく必要がある。

上記の取組に当たっては,中小企業が置かれている経営環境に応じた取組や,母子家庭の母親のように特別の配慮が必要な人々への支援にも十分な留意が必要である。公務部門が自ら率先して女性の活躍促進に取り組み,民間における取組を先導していくことも重要である。

併せて,職場等における慣行や固定的性別役割分担意識を始めとする人々の意識,社会制度といった男女の働き方に影響を与えている要因にも幅広く目を向けて,女性が経済分野で能力を存分に発揮できる環境を整えていくことが必要である。

4 おわりに

成長の原動力として女性の活躍が進んでいけば,これまで女性と男性がそれぞれ担ってきた立場や役割も変わっていく。

より多くの女性が経済分野の活動に参画し,女性と男性が力を合わせる機会が増えていく中,職場では,男性が女性にその立場を譲ることもあれば,女性がこれまで担っていなかった責任を男性に代わって引き受けることもあろう。厳しい局面に立ち向かいながら,女性が一層やりがいのある仕事に携わるようにもなろう。家庭では,子育てや家事に関わりたいと思いながらこれまで仕事を優先してきた男性がその望みを叶え,あるいは,これまでは関心のなかった男性が苦労や悩みを抱えたりしながらも子育てや家事の楽しみに目覚めたりすることが多くなろう。地域での活動もより多様な経験,知識,ネットワーク等を持つ男女によって担われるようになろう。

そのような変化は,女性も男性も,その意欲に応じてあらゆる分野で活躍できる男女共同参画社会への過程であり,ひとりひとりの豊かな人生に通じる道のりでもある。

持続可能な経済成長を達成しつつ,職場で,家庭で,地域社会で,女性にも男性にも全ての人々にチャンスがあり,活躍できる社会の構築を目指して取り組んでいかなければならない。

コラム11 「女性のエンパワーメント原則」(WEPs)