第4節 女性の活躍を支える環境

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第4節 女性の活躍を支える環境

1 制度の整備と利用の状況

(1) 育児・介護支援の仕組み

(育児向け措置の整備状況)

平成24年7月1日から全面施行された改正育児・介護休業法25により,事業者に対して, 3歳未満の子どもを持つ雇用者に対する短時間勤務の措置及び所定外労働の免除が義務付けられた。

25育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号)

厚生労働省「雇用均等基本調査(事業所調査)」(平成23年)によると,平成23年10月1日現在,30~99人の規模で16.7%, 5~29人の規模で40.2%の事業所において,育児のための所定労働時間の短縮措置等26が未導入であった(第1-特-37a図)27

26厚生労働省「雇用均等基本調査(事業所)」(平成23年)では,育児休業に準ずる措置,育児に要する経費の援助措置,事業所内保育施設,始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ,育児向けフレックスタイム制度,所定外労働時間の免除,短時間勤務制度を,育児のための所定労働時間の短縮措置等として分類している。

27改正育児・介護休業法は,常時雇用者が100人以下の事業主には,平成22年7月1日から24年6月30日まで施行猶予が設定されていた。


措置の内容別に見ても,改正育児・介護休業法で義務付けられた短時間勤務制度及び所定外労働の免除について, 5~29人の規模の事業所で半数弱が,30~99人の規模の事業所で約4分の1が,平成23年10月1日時点で未導入であった(第1-特-37b図)。ただし,中小企業では,制度が未導入でも運用で柔軟に対応している場合が少なくない28

28日本政策金融公庫総合研究所「中小企業の女性雇用に関する実態調査」(平成24年)による。また,同調査によると,最近3年間に 出産した女性のうち74.8%が,出産後も同じ企業で就業を継続している。

第1-特-37図 事業所規模別育児のための所定労働時間の短縮措置等の状況:事業所単位(平成23年) 別ウインドウで開きます
第1-特-37図 事業所規模別育児のための所定労働時間の短縮措置等の状況:事業所単位(平成23年)

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(介護休暇の整備状況)

平成24年7月1日から全面施行された改正育児・介護休業法によって,介護休業(対象家族1人につき93日まで)に加えて介護休暇制度(家族1人につき1年当たり5日まで, 2人であれば1年当たり10日まで)が事業主に義務付けられた29

29常時雇用者が100人以下の事業主に対して平成22年7月1日から24年6月30日まで施行猶予が設定されていた。


厚生労働省「雇用均等基本調査(事業所調査)」(平成23年)によると,平成23年10月1日時点において,やはり事業所規模が小さいほど介護休暇制度の整備が遅れていた(第1-特-38図)。一方,500人以上の規模では,制度を導入済みの事業所の約1割が法定を上回る日数を上限として設定している。

第1-特-38図 事業所規模別介護休暇制度規定の有無:事業所単位(平成23年) 別ウインドウで開きます
第1-特-38図 事業所規模別介護休暇制度規定の有無:事業所単位(平成23年)

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(育児関連措置の利用しやすさと家族の支援)

厚生労働省「第10回21世紀成年者縦断調査」(平成23年)によれば,正規雇用者では,育児休業について,「利用しにくい雰囲気である」が1割強,「どちらとも言えない」が2割強となっており,利用に際して心理的な要因が影響する可能性があることがうかがわれる(第1-特-39図)。短時間勤務制度及び育児のための勤務時間短縮については,育児休業に比べて制度が未整備であるケースが多く,かつ, 3割強が「利用しにくい雰囲気がある」と答えている。

第1-特-39図 妻の職場の仕事と子育ての両立のための制度等の状況(平成23年) 別ウインドウで開きます
第1-特-39図 妻の職場の仕事と子育ての両立のための制度等の状況(平成23年)

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非正規雇用者について見ると,正規雇用者に比べて全般的に各種措置が未整備である30。ただし,措置がある場合,それぞれの措置について5割前後の回答者が「利用しやすい雰囲気がある」と回答しており,気兼ねなく育児関連措置を利用できるケースもあることがうかがわれる。

30平成17年の育児・介護休業法の改正によって一部の期間雇用者が適用対象になった。厚生労働省「雇用均等基本調査」(各年度)によると,17年度から19年度にかけて,女性の育児休業取得率が72.3%から89.7%に2割近く上昇している。また,厚生労働省「人口動態調査」(平成23年)によれば,17年まで低下し続けていた合計特殊出生率が,18年以降緩やかながら上昇に転じている。


また,国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査(夫婦調査)」(平成23年)によれば,就業しているかどうかにかかわらず,女性は第1子出産後に38.9%が自分の母から,22.8%が夫の母親から,それぞれ頻繁に,あるいは日常的に子育てを手伝ってもらっている。


(2) 男性の育児・介護への参加

(男性の労働時間の短縮化)

職場における有配偶の女性の働き方は,夫の家事参加への度合い,特に夫の家事従事時間の影響を受ける。労働時間が長いと,男性が家事従事時間を持つことは難しい。OECDによると,2010(平成22年)年における我が国の年間平均労働時間(男女計)は1,733時間であり,加盟34か国中短い方から第19位である31

31OECD Statistics(http://stats.oecd.org/)による。

男性の平均週間就業時間を世代別に見ると,同じ年齢階級における就業時間は前の世代より短い(第1-特-40a図)。

また,週間就業時間が60時間以上の就業者の割合を見ても,若い世代ほどその割合が減ってきており,若い世代ほど平均して労働時間が短くなってきていることがうかがわれる(第1-特-40b図)。

第1-特-40図 妻の職場の仕事と子育ての両立のための制度等の状況(平成23年) 別ウインドウで開きます
第1-特-40図 妻の職場の仕事と子育ての両立のための制度等の状況(平成23年)

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総務省「労働力調査」(平成25年3月)によれば,男性の正規雇用者の平均週間就業時間が46.0時間であるのに対して,非正規雇用者は29.9時間となっている。非正規雇用者の割合は男性でも近年上昇傾向にあり,平均週間就業時間の減少傾向に影響を与えていると考えられる。

(家事関連時間の変化)

総務省「社会生活基本調査」によれば,平成13年から23年にかけて有業者で有配偶の男性の家事関連時間は増加したものの,女性との差は依然として大きい(第1-特-41a図)。

定義が異なるため厳密な比較は困難であるが,家事関連時間を諸外国と比較してみると,我が国の男性は主要欧米諸国の約半分である一方,我が国の女性はやや長めとなっている(男性に関しては第1部第3章 第1- 3- 6図参照)。

(共働き男女のライフステージ別の家事関連時間)

共働きの男性の1日における家事関連時間は,子どもの成長に伴うライフステージの変化にかかわらず短い(第1-特-41b図)。

第1-特-41図 有業・有配偶者の1日当たり平均家事関連時間(男女別) 別ウインドウで開きます
第1-特-41図 有業・有配偶者の1日当たり平均家事関連時間(男女別)

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他方,共働きの女性の家事関連時間は,男性と比べて全般的に長く,特に末子が就学前の時期に目立って長くなっている。

(育児休業・介護休暇の取得の状況)

厚生労働省「雇用均等基本調査(事業所調査)」(平成23年度)によれば,女性の出産者に占める育児休業取得者(申請中を含む)の割合は87.8%であるのに対して,男性の場合は2.6%にとどまっている。

育児休業を取得した期間を見ると,女性の場合は,10~12か月が32.4%,12~18か月が24.7%で,10~18か月を合計すると57.1%に上っている。一方,男性の場合は,81.3%が1か月未満となっている(第1-特-42図)。

第1-特-42図 取得期間別育児休業後復職者割合(男女別,平成22年度) 別ウインドウで開きます
第1-特-42図 取得期間別育児休業後復職者割合(男女別,平成22年度)

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他方,厚生労働省「雇用均等基本調査」(平成23年度)によると,常用労働者に占める介護休暇取得者の割合は,女性は0.22%,男性は0.08%と男女共に低い水準にとどまっており,男性は女性に比べると更に低い。

(男性の家事等への参加に必要な条件)

内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」(平成24年)によると,男性が家事等に積極的に参加するために何が必要か,という問いに対して,男女各年齢階級とも,「夫婦や家族間でのコミュニケーションをよくはかること」及び「男性が家事などに参加することに対する男性自身の抵抗感をなくすこと」を上位に挙げている。

男性は,長時間労働の傾向が強い30歳代を中心に,労働時間の短縮の必要性を挙げている。女性は,30歳代では労働時間の短縮が3番目に多く挙げられているが,それ以外の年齢階級では上位3位までには入っておらず,男女間で認識の差が見られる。


(3) 税制・社会保障制度が及ぼす影響

配偶者控除・配偶者特別控除32を始めとする税制や第3号被保険者制度等の社会保障制度33等も,有配偶の女性の就業に影響を与えているという指摘がある。

32配偶者控除・配偶者特別控除に関しては,配偶者の給与収入が年103万円以下の場合は,配偶者控除の対象となり,本人の所得から38万円が控除される。103万円超141万円未満の場合は,配偶者特別控除の対象となり,本人の所得から控除される金額が配偶者の給与収入に応じて段階的に減少し,141万円以上の場合は控除の対象外となる。

33第3号被保険者に関しては,国民年金の第2号被保険者に扶養されている配偶者の収入が130万円を超えると第3号被保険者の資格を失い,配偶者自身が国民年金に加入し保険料を支払うことになる。

有配偶の女性の年間雇用所得の分布を見ると,各年齢階級において100万円付近で高くなる傾向が見られる(第1-特-43図)34。また,これを教育別に分けると,大学卒以上の女性では特定の金額に集中する傾向は見られず,100万円近辺に集中する傾向は,どの年齢階級でも大学卒未満の女性に見られる。

34ただし,この中には,制度にかかわらず100万円前後の所得を得ることを意図して働いている女性がいることなども考えられる。

第1-特-43図 有配偶の女性の年間雇用所得の分布(平成22年) 別ウインドウで開きます
第1-特-43図 有配偶の女性の年間雇用所得の分布(平成22年)

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2 柔軟な就業・勤務形態

(1) 自営業・起業

(人口に占める自営業主数の割合)

総務省「労働力調査(基本集計)」(平成24年)によると,男女とも,年齢が高いほど人口に占める自営業主数の割合も高い(第1-特-44a図)。女性についても,M字カーブは見られない。

(起業/廃業による雇用創出/喪失効果)

自営業は,ライフステージにかかわらず柔軟な働き方ができる形態であるとともに,事業を起こす/廃業することによる雇用創出/喪失という新陳代謝を通じて,経済の活性化にも貢献すると考えられる。

個人事業主を男女別に見ると,新規雇用創出・喪失数に関しては男性の方が大きいが,新規雇用創出・喪失率については,事業主が女性の場合の方が男性の場合よりも高くなっている(第1-特-44b図)。

第1-特-44図 自営業及び起業の状況 別ウインドウで開きます
第1-特-44図 自営業及び起業の状況

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さらに,個人経営の新設事業所数を産業別に見ると,総務省「事業所・企業統計調査」(平成18年)及び総務省「経済センサス-基礎調査」(平成21年)によれば,男女とも飲食店業が最も多いという点で共通しているが,これに次いで多い産業については男女で差が見られる35。男性は医療業,飲食料品小売業が続くのに対して,女性では洗濯・理容・美容・浴場業,その他の教育・学習支援業が続く。

35総務省「事業所・企業統計調査」(平成18年)及び総務省「経済センサス-基礎調査」(平成21年)による。連結の方法は内閣府委託調査「『女性の活躍による経済社会の活性化』に関するデータ分析報告書」(平成24年3月)を参照。

コラム7 女性新ビジネスプランコンペティション(日本政策投資銀行)


(2) テレワーク

結婚・出産期以降の年齢階級において非正規雇用を希望する女性は,年齢を問わず,その理由として,「都合の良い時間に働ける」ことを上位に挙げている(第1-特-28図(再掲))。また,育児に当たることの多い30~44歳の年齢階級及び介護に当たることの多い50~54歳の年齢階級では「家庭の事情(家事・育児・介護等)や他の活動(趣味・学習等)と両立しやすい」ことが,45歳以上の年齢階級では「通勤時間が短いこと」等が,それぞれ理由の上位に挙がっている。

これらの条件が正規雇用においても満たされれば,各ライフステージを通じて正規雇用を継続できる可能性が広がると考えられる。そのような働き方として期待されるのがテレワークという勤務形態である。

(企業による導入状況)

総務省「通信利用動向調査(企業編)」(平成23年)によれば,テレワークを導入済みあるいは具体的に導入を考えている企業は全体の13.5%であり,低水準にとどまっている。従業者規模別で見ると,規模が大きいほどテレワークの導入が進んでおり,従業者数5,000人以上では半数近くの企業が導入済みか,あるいは具体的に導入を考えている(第1-特-45a図)。

同調査によると,調査企業全体では,「定型的業務の効率性(生産性)の向上」が理由として一番多く挙げられている(48.8%)。「通勤弱者(身障者,高齢者,育児中の女性等)への対応」(14.0%)は,「勤務者の移動時間の短縮」(40.7%),「非常時(地震,新型インフルエンザ等)の事業継続性に備えて」(27.7%)に次いで4番目に挙げられている。

導入済み企業の77.6%は,導入の効果があった(「非常に効果があった」+「ある程度効果があった」)と回答している。ただし,導入済み企業においても,実際にテレワークを利用している従業員はそれほど多くなく,同調査によれば,利用者が全従業員の5%未満である企業が全体の3分の2近くを占めている。

テレワークを導入していない86%の企業は,「テレワークに適した仕事がない」ことを未導入の最大の理由に挙げている(72.4%)。次いで,「導入するメリットがよくわからない」こと(19.3%),「情報漏えいが心配」であること(19.2%)が挙げられている。

(テレワーカーの状況)

国土交通省「テレワーク人口実態調査」(平成23年度)によると,平成23年の東日本大震災後にテレワークの利用者が急増し,同年における在宅型テレワーカー数36は雇用型と自営型を合わせて約490万人と推定され,就業者に占める割合は7.5%である。在宅型テレワーカーのうち,週20時間以上テレワークを行っている利用者は,雇用型,自営型とも約6割に上っている。

36ふだん収入を伴う仕事を行っている人の中で,仕事でICTを利用している人,かつ,自分の所属する部署のある場所以外で,ICTを利用できる環境において仕事を行う時間が1週間あたり8時間以上である人(狭義テレワーカー)のうち,自宅(自宅兼事務所を除く)でテレワークを少しでも行っている(週1分以上)就業者。


自営型狭義テレワーカーの約3割,雇用型狭義テレワーカーの4割弱が,育児や介護と両立しながら仕事が可能になることをテレワークのメリットとして挙げている一方,自営型狭義テレワーカーの2割弱,雇用型狭義テレワーカーの3割弱が,育児や介護をしながらだと,仕事の効率性・生産性が低くなると答えている(第1-特-45b図)37。また,非テレワーカーの約4分の1が,育児や介護をしながらだと仕事の効率性・生産性が低下する可能性がある,と回答している。

37「まったくそう思う」と「そう思う」の合計。

第1-特-45図 テレワークの状況 別ウインドウで開きます
第1-特-45図 テレワークの状況

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