平成22年版男女共同参画白書

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第6節 「出番」と「居場所」のある社会の実現に向けて

本節では,女性の就業をめぐる問題等の解決が経済成長の恩恵を様々な人々が享受できる機会を高め,「出番」と「居場所」のある社会の実現につながることを示すとともに,女性の潜在力をいかすための取組の方向性を明らかにする。

(女性で高い相対的貧困率)

結婚や家族をめぐる変化,雇用・就業を巡る変化,グローバル化など経済社会が大きく変化する中,生活上の困難な状況に置かれた人々が幅広い層に広まっており,かつ,その状況は多様化し,深刻化していると考えられる。加えて,経済の低迷や雇用情勢の急激な悪化が,困難な状況に置かれる人々を更に生み出し,またその状況を悪化させてしまっていることへの懸念がある。男性・女性などによって置かれている状況に違いのあることへの留意も求められている。

相対的貧困率21の男女別・年齢別の特徴をみると,ほとんどの年齢層において男性に比べて女性の方が相対的貧困率が高く,その差は高齢期になると更に広がる(第1部第5章 第1-5-1図参照)。世帯類型別には,高齢単身女性世帯や母子世帯で高くなっている(同第1-5-2図参照)。ひとり親世帯の貧困率について,他の先進国では有業者世帯の貧困率は無業者世帯と比べ低い傾向があるが,日本では有業者世帯と無業者世帯の貧困率にあまり差がないという特徴もある(同第1-5-4図参照)。

21 「相対的貧困率」とは,等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯員の割合を算出したもの。なお,絶対的な貧困水準を表すものではなく,所得の中央値の半分を下回る所得しか得ていない者の割合を示す相対的な指標であり,預貯金や不動産等の資産は考慮していない。

(女性の労働をめぐる問題)

このように女性において貧困に陥りやすい背景の一つには,女性の労働をめぐる問題がある。女性は非正規雇用が多いという就業構造の問題があり,また,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が図れない状況では,女性が出産・育児を経て就業を継続し,あるいは再就職して職業能力を高めることは難しい面がある。さらに,税制・社会保障制度が女性の就業調整をもたらす影響もある。

非正規雇用については,相対的に低賃金で雇用が不安定になりがちであること,一度非正規雇用に就くとその状態を繰り返しやすいこと,能力開発の機会が少ないことなどの問題が指摘されている。

1990年代以降の非正規労働者の急速な増加の中で,女性に占める非正規労働者の割合は半数を超えるまでになっているが,非正規労働者から正規労働者への移行状況については,男性よりも女性の方が低い傾向がみられる。

(非正規雇用をめぐる状況の変化)

近年,非正規雇用をめぐる状況は大きく変わりつつある。

第1-特-29図は,男女別・年齢階級別に非正規雇用比率の推移をみたものである。男女とも各年齢層で比率は上昇しているが,特に男女の若年層(15~24歳,25~34歳),女性の高年層(55~64歳)で上昇していることが特徴的である。男女別,配偶関係別にみると(第1-特-30図),未婚や死別・離別の女性において上昇が大きく,配偶者のある男性においても上昇がみられる。これら生計を担う立場にあると考えられる人々の中で,低収入で不安定な非正規雇用という人々が増えていると考えられる。

また,男性は非正規労働者の方が有配偶者の割合が低いことも特徴的である(第1-特-31図)。非正規雇用により経済的に安定しないことが,希望する人が結婚して家族を形成することへの障害となっていることも考えられる。

第1-特-29図 男女別・年齢階級別非正規雇用比率の推移別ウインドウで開きます
第1-特-29図 男女別・年齢階級別非正規雇用比率の推移

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第1-特-30図 男女別・配偶関係別非正規雇用比率の推移別ウインドウで開きます
第1-特-30図 男女別・配偶関係別非正規雇用比率の推移

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第1-特-31図 雇用形態別有配偶者の占める割合(平成19年,男性)別ウインドウで開きます
第1-特-31図 雇用形態別有配偶者の占める割合(平成19年,男性)

▲CSVファイル [Excel形式:1KB]CSVファイル

(「ディーセント・ワーク」の実現に向けて)

今後は,正規・非正規といった雇用形態等にかかわらず,経済成長の恩恵を様々な人々が享受できる機会を高めていくことが求められ,そのためには誰もが「ディーセント・ワーク(人間らしい働きがいのある仕事)」を得ることができる社会を構築していく必要がある。

ディーセント・ワークとは,働く機会があり,持続可能な生計に足る収入が得られること,家庭生活と職業生活が両立できること,安全な職場環境や雇用保険,医療・年金制度などのセーフティネットが確保されること,自己啓発の機会が得られ得ること,また公平な扱いや男女平等の扱いを受けること,などとされている。

ディーセント・ワークの実現には,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を進め,女性が安心して働き続けられる環境整備とともに,非正規労働者全体の処遇の改善を進める必要がある。具体的には,雇用形態にかかわらず,それぞれの職務や能力に応じた適正な処遇,労働条件が確保され,誰もが職業能力を高めるための教育機会や退職や傷病等に対する必要な保障等を得られる必要がある。

このことは女性が貧困に陥りやすい状況を解消していくことに加え,男性の非正規労働者の生活の安定にもつながるものと考えられる。

(女性の就業支援に向けた「新しい公共」)

特に相対的貧困率が高い母子世帯の母等,困難な状況に置かれた人々が意欲と能力とに応じて労働市場や様々な社会活動に参加できる社会を目指すには,その就労について必要に応じ支援する取組を進めていくことが必要である。その際,国や地方公共団体だけでなく,市民,NPO,企業などが積極的に公共的な財・サービスの提供主体となろうとする「新しい公共」の実現が求められている。企業が自らの本業を通じ,NPOの活動と連携することで幅広い層への効果的な支援の提供を実現するケースも見られる(コラム11)。これらの例では,支援を受ける人,ボランティアとして活動を支える人,ビジネス上のノウハウ,支援を必要とする人に届ける仕組みや経験などが相互につながることで,連携する者のそれぞれにとって得るものがある取組とすることが可能となっている。

これらの取組が,「出番」と「居場所」のある社会の実現を通じて,内需を中心とする経済成長の新たな支えとなっていくことが望まれる。

コラム11 【企業事例】困難な立場にある女性への支援


(女性の潜在力をいかすための取組)

今回の特集でみてきたように,女性の潜在力は非常に大きいものであり,我が国において,将来にわたり持続可能で多様性に富んだ活力のある社会を構築するためには,女性の潜在力の発揮に着目することが重要となる。このため,女性の参画促進の重要性と必要性についての理解の促進や固定的性別役割分担意識の解消を図りながら,M字カーブの解消に向けた女性の就業継続支援,仕事の質の向上,女性の能力発揮促進のための支援,雇用等の分野における男女の均等な機会と待遇の確保,政策・方針決定過程への女性の参画の拡大,女性の起業に対する支援体制の充実,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進,様々なライフスタイルの選択に中立な社会制度の構築,貧困等様々な生活上の困難な状況に置かれた人々への対応など,女性の潜在力をいかすための取組を積極的に進めていく必要がある。これらの取組は相互に密接に関連するとともに,社会全体で推進していく必要がある。国や地方自治体はもとより,それぞれの地域において,市民,NPO,企業などが主体的に取り組むとともに,連携していくことが重要である。

これらの取組により,女性の参画が進んでいけば,その潜在力が改めて社会で認識されることになり,社会システムの見直しとあいまって,更なる参画促進へとつながっていくだろう。こうした好循環が我が国の経済・社会の活性化に向けての大きな推進力の一つとなる。

(地域の実情に応じた取組の重要性)

以上のような様々な取組を行う上で重要なのが地域の視点である。地域によって女性を取り巻く環境は大きく異なり,当然ながら求められる対応も異なる。

例えば,女性が仕事と家庭を両立しやすい環境づくりを行う,という場合,都市部では,保育所の待機児童が多いため,保育所に入れないことが仕事に復帰する場合の問題となる。

一方地方圏では,経済の地盤沈下が深刻化しており,人口も,平成8年以降21年まで14年連続で3大都市圏22へ転出超過となっている(総務省「住民基本台帳人口移動報告」)。こうした中では,既にみてきたような生活・地域密着の視点からの女性の起業など,女性の活躍の促進が,地域経済の活性化にも重要である。同時に,地域における女性の活躍の場を広げるためには,地域の経済活性化により,就労の機会を増加させるという視点も重要である。

22 ここでいう3大都市圏とは東京圏(東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県),大阪圏(大阪府,兵庫県,京都府,奈良県),名古屋圏(愛知県,岐阜県,三重県)を指す。

(社会全体のシステム改革の必要性)

男女共同参画社会基本法の施行から10年以上が経過し,我が国における女性の参画も徐々に進んできているが,その進捗は緩やかであり,必ずしも十分とはいえない状況にある。人口減少社会の到来や昨今の経済情勢など我が国を取り巻く環境が変化する中で,経済・社会の活性化のためにも男女共同参画社会の形成を促進していかなければならない。そのためには,これまで男女共同参画があまり進まなかった理由について十分検証を行った上で,実効性ある施策を推進する必要がある。その理由の一つとして,「男女共同参画社会=働く女性の支援」という印象を与えてしまったため,男女共同参画が男性や専業主婦などあらゆる立場の人々にとって必要なものであるという認識が広まらなかった,といった点が指摘されている。男女共同参画社会の実現は,男性や専業主婦などを含めた,あらゆる人々にとっての課題である。例えば,家庭において,男性の家事・育児参加が進むことは,家族間のコミュニケーションをより推進させ,親子の愛情をはぐくむ契機にもなると考えられる。子育てが一段落した専業主婦の方々が働こうとするとき,あるいは,地域活動や自己啓発に取り組む際にも,男女共同参画の視点は欠かせないものとなる。

また,「夫は外で働き,妻は家庭を守るべき」といった固定的性別役割分担意識は,女性の参画促進にとっての課題であるとともに,ともすれば,男性に対して,「男性が主に稼ぐべき」,「男性は弱音を吐いてはならない」といった男性役割のプレッシャーとして重くのしかかる場合もある。

さらに,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進のためには,男性を含めた働き方全体の改革が必要である。

本特集では,女性の潜在的労働力や女性の消費意向を踏まえた需要の創造など主に女性と市場経済の視点からの分析や課題の検討を行った。男女共同参画を促進していくためには,家庭で担われている育児・介護などの経済的・社会的評価,収入だけではなく女性の資産形成の側面,自営業などの分野あるいは地域における男女共同参画の推進などの観点からの取組も重要となる。こうした課題については今回ほとんど触れることができなかったが,今後とも引き続き検討していく必要がある。

女性の参画を促進し,潜在能力が発揮できる社会を構築していくことは,多様性ある社会,人々がそれぞれのライフスタイルに沿った希望を実現できる社会をつくっていくことにつながる。すべての人々に出番と居場所がある社会の実現に向けて,今,改めて,男女共同参画の視点に立って社会全体のシステム改革に取り組んでいく必要がある。

(付注1)賃金総額の「女性/男性比率」の計算方法

1.データの出典

data

2.計算方法

pay

3.その他

労働時間や賃金格差のデータは国際的に厳密に概念が調整されているわけではないことに留意する必要がある。また,労働時間や賃金のデータは市場経済全体の男性に対する女性の比率を表すものと仮定して計算している。

(付注2)「男女の消費・貯蓄等の生活意識に関する調査」の概要

1.調査の目的

消費・貯蓄等,生活行動に関する男女の違いを調査し,女性の社会参画や男性の家事・育児参加の進展など,今後の男女のライフスタイル変化が経済・社会に与える影響を分析し,男女共同参画施策の検討の参考にする。

2.調査の概要

○調査対象者 全国の若年~中年(20歳~65歳未満)の男女

○調査方法 調査会社の登録モニターを対象としたインターネット調査

○調査時期 平成22年3月20日(土)~平成22年3月24日(水)

○調査委託機関 マイボイスコム株式会社

○地域・年齢・性別の人口構成比で割り付け,調査期間中に回収した計10,011件のサンプルを集計対象とした。

○回答に矛盾が生じないよう,アンケート画面には該当回答者のみに設問が表示されるよう制御したほか,回収後に論理チェックを行った。

3.調査事項

○基本的な属性

性別/年齢/婚姻状況/家族構成/教育/収入

○現在の就業状況や離職経験

現在の就業の状況/離職経験と離職理由,離職期間/今後の就業意向/どのような職場で働きたいか

○親族等との交流の状況

子世帯・親世帯・その他の親族世帯との同居・別居の別/別居の場合の時間距離/交流の内容と頻度/経済的支援の有無/

○女性の職業感,配偶者との生活費や家事・育児の分担,家庭における意思決定

女性のライフコースに対する意識/家庭における配偶者との役割分担に関する理想と実際/家庭における所得額と貯蓄額との割合の決定・商品購入に関する意思決定

○貯蓄・消費意向,将来の消費意向,商品購入時の重視ポイント

収入が増加した場合貯蓄をするか,消費をするか(増加する金額別)/将来お金をかけたい消費分野/商品の購入・サービスの利用に当たって重視する点

(付注3)「男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査」の概要

1.調査の目的

これから結婚,子育てといったライフ・イベントを経験する層及び現在経験している層として,若年~中年層を対象に,それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに,家庭内での役割分担等に対する意識の現状を分析し,今後の施策の参考とする。

2.調査の概要

○調査対象者 全国20歳~44歳の男女(現在学生でまだ社会人となっていない人を除く。)

○調査方法 調査会社の登録モニターを対象としたインターネット調査

○調査時期 平成21年2月27日(金)~平成21年3月5日(木)

○調査委託機関 株式会社日経リサーチ

○調査期間中に回収した計14,946件のサンプルのうち,人口構成比で割り付けた10,000件を抽出して集計対象とした。

○すべての設問を必須入力として実施しており,集計に際して「無回答」とした回答は,データチェックの際の論理エラー処理によるものである。

3.調査事項

○基本的な属性

性別/年齢/婚姻状況/世帯構成/教育/収入

○現在までの就業状況や就業経験

これまで経験してきた就業形態/初職(初めて仕事についてからの5年間で最も長く勤務した勤め先)・現職の状況(就業形態,職種,職場の状況,仕事の内容)/結婚や出産等で仕事を辞めた経験とその理由

○仕事に関する今後の希望と能力形成の状況

今後希望する働き方/そのために現在していること

○家庭内での役割分担等に対する意識

女性のライフコースに対する意識/配偶者との役割分担に関する意識と実際

○生活面に関する意識