コラム2 女性活躍の3つのステージ ~資生堂の働き方改革と21世紀職業財団の調査結果より~

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コラム2

女性活躍の3つのステージ ~資生堂の働き方改革と21世紀職業財団の調査結果より~


株式会社資生堂(以下「資生堂」という。)は、創業時より女性の能力発揮や継続就労を支援してきた。ここでは、同社の働き方改革と公益財団法人21世紀職業財団(以下「21世紀職業財団」という。)の調査結果から、女性活躍の3つのステージについて考察する。

資生堂は、平成26(2014)年4月に「男女ともに育児・介護をしながらキャリアアップ」することを推進する一環として、美容職の働き方改革の取組を開始した。

同社では、平成4(1992)年の育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号。以下「育児・介護休業法」という。)の施行の前から、他社に先駆けて、法律を上回る充実した内容の仕事と育児・介護の両立支援制度を導入し、継続して運用の充実を図ってきた。その背景としては、育児期の社員がこれらの制度をしっかり活用しながら、仕事と育児の両立という段階から、その先に位置付けられる「より影響力の大きな」「より貢献度の高い」仕事に挑戦して自らのキャリアアップを図って欲しいという会社側の考えがあった。

働き方改革を開始する前、同社の育児時間制度を利用している美容職の多くは、平日の早番のシフトに入った上で、育児時間取得により17時に帰ることで、仕事と育児との両立を行っていた。しかしながら、育児期にある美容職は、繁忙時間帯である遅番や休日のシフトに入らないことで担当できる業務が限られ、スキルアップやキャリア形成の機会が阻害される傾向にあった。また、育児時間制度の利用者が増加する中、遅番や休日勤務が独身の美容職と子育てを終えた美容職に集中することで、これらの人達は仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が進まず、育児時間取得者との不公平感を生じさせていた。

育児期の社員にもキャリアアップを目指して欲しいという考えから導入した両立支援制度が、結果的に性別役割分担を固定化し、利用者のキャリアロスを招いている。このような問題意識から、同社は、育児時間取得者にも遅番、土日・休日勤務を検討してもらうという働き方改革を実施した。その結果、美容職の夫の家事・育児参画が進み、時短勤務中の美容職1,200名のうち約98%が働き方を見直し、遅番・土日勤務有りのシフト勤務へ移行した。また、このことに伴い、育児短時間勤務者であっても、業績をあげれば昇進できることが認識されるという効果があった。

資生堂の女性活躍戦略は3つのステージに分けられる。第1ステージは、子供が生まれると女性は働き続けるのが難しく、働き続けるにしても家庭を犠牲にせざるを得ない状況である。第2ステージは、子育て支援が整い、子育てをしながら誰もが働き続けられる状況である。そして、第3ステージは、「男女ともに育児・介護などをしながらもしっかりキャリアアップでき、仕事で会社に貢献できる」状態であり、前述の働き方改革は、第2ステージから第3ステージへの移行を表している(図1)。

(図1)資生堂の女性活躍推進のあゆみ別ウインドウで開きます
(図1)資生堂の女性活躍推進のあゆみ

我が国では、平成の前半、第1子出産前有職者の約6割が出産退職していた。しかしながら、女性活躍推進法や働き方改革関連法に基づく企業の取組、保育の受け皿整備、両立支援等、これまでの官民の積極的な取組により、直近では、第1子出産前有職者の約7割が就業を継続できるようになっているのは、これまで見てきたとおりである(特-11図再掲)。

一方で、就業継続はできても、出産や育児を機にキャリアが停滞してしまい、思うように活躍できない、いわゆる「マミートラック」の問題(キャリアロス)が存在することが課題としてある。21世紀職業財団がミレニアル世代1で子供のいる夫婦を対象に実施した調査2によると、女性全体の46.6%、総合職の約4割が「難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もない」状況(いわゆる「マミートラック」の状況)に陥っている。ただし、女性総合職について、過去における「一皮むける経験3」の有無別に見ると、「一皮むける経験」がある場合は、「キャリア展望がある」人の割合が高く、「キャリア展望がない」人の割合が低い(図2)。

(図2)現在のマミートラックの状況(女性、コース別、一皮むける経験別)別ウインドウで開きます
(図2)現在のマミートラックの状況(女性、コース別、一皮むける経験別)

(図2)[CSV形式:1KB]CSVファイル

また、第1子出産後復帰した際に「マミートラック」にいると感じたものの、現在は「キャリア展望がある」女性が「マミートラック」を脱出できた理由を見ると、最も多い理由は、「定時退社だけでなく、必要な時には残業するようにした」(30.1%)であり、「時短をやめて、フルタイムで働くようにした」(25.2%)、「上司からの働きかけがあった」(24.3%)、「上司に要望を伝えた」(23.3%)がこれに続く(図3)。

(図3)マミートラックを脱出できた理由 別ウインドウで開きます
(図3)マミートラックを脱出できた理由

(図3)[CSV形式:1KB]CSVファイル

さらに、配偶者(夫)の家事・育児と、本人(妻)のキャリアアップへの影響を見ると、配偶者(夫)が子供の保育園や幼稚園への「お迎え」をしている割合が週の20%以上(週1回以上「お迎え」している)である女性は、0%(「お迎え」をしていない)の女性に比べ、自分がキャリアアップできていると思う割合が高い(図4)。

(図4)配偶者(夫)の「お迎え」割合別本人のキャリアアップ状況(キャリアアップできていると思う割合)別ウインドウで開きます
(図4)配偶者(夫)の「お迎え」割合別本人のキャリアアップ状況(キャリアアップできていると思う割合)

(図4)[CSV形式:1KB]CSVファイル

21世紀職業財団は、女性が第1子出産後もキャリア展望を失わずに活躍するためには、仕事復帰後も仕事の難易度を下げずに仕事での成果を出せるよう支援を行うこと、フルタイム勤務でも無理なく仕事と育児の両立を可能とする働き方や柔軟な働き方の導入が重要であると提言している。加えて、男性が家事・育児に参画し、週1回でも女性が子育ての心配をせずに、仕事に専念することができると、女性のキャリア形成に好影響があることが示唆されると考察している。

以前、我が国においては、多くの女性は第1子出産を契機に退職していた。これが我が国の女性活躍の第1ステージだとすると、第1子出産後も就業継続が可能となった現在は、第2ステージにいると考えられる。しかしながら、我が国の就業者に占める女性の割合は、令和4(2022)年は45.0%であり、諸外国と比較して大きな差はないものの、管理的職業従事者に占める女性の割合は、諸外国と比べて低い水準となっている(特-32図参照)。コロナを経て、柔軟な働き方が浸透した今こそ、第3ステージ、就業継続が可能となった女性たちが、第1子出産後もキャリア展望を失わずに活躍できる社会に移行するべき時であると考えられる。

1調査研究においては、ミレニアル世代を調査時26~40歳(昭和55(1980)年~平成7(1995)年生まれ)と定義している。調査を実施した21世紀職業財団によれば、当該世代は、男女雇用機会均等法の第1回目の改正(平成11(1999)年)後に就職し、次世代育成支援対策法(平成17(2005)年)、男女雇用機会均等法の第2回目の改正(平成19(2007)年)後に子育てをしていること、家庭科を男女共修で受けていることから、その上の世代と比べると、男女平等の環境の中で働き、子供を育てていると考えられる。

2公益財団法人21世紀職業財団「~ともにキャリアを形成するために~ 子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究」(令和4(2022)年2月公表)。

3調査研究においては、以下のような、仕事の能力が大きく伸びたり、自信を持った経験のことを、「一皮むける経験」としている。「入社初期段階の異動」、「部門を横断するような大きな異動」「プロジェクトチームへの参画」「問題のある部門での大きな業務の改善や再構築」「昇進・昇格による権限の拡大」「新規事業・新市場・新分野のゼロからの立ち上げ」「海外勤務」「その他」。