コラム1 生活時間の国際比較

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コラム1

生活時間の国際比較


我が国においては、無償労働時間が女性に、有償労働時間が男性に偏っており、このことが女性の社会での活躍、男性の家事・育児への参画を阻害する一因になっている可能性があることは、ここまで見てきたとおりである。ここでは、経済協力開発機構(OECD)の生活時間の国際比較データを元に、複数の地域にまたがる、11か国の生活時間を比較し、我が国の男女の生活時間の特徴を見ていく。

地域
北米 米国、カナダ
欧州(北欧以外) 英国、フランス、ドイツ、イタリア
北欧 ノルウェー、スウェーデン、フィンランド
アジア 日本、韓国

初めに、各国の男女の無償労働時間と有償労働時間の合計時間(以下「労働時間」という。)を見ると、我が国の労働時間は、11か国中、米国に次いで2番目に長く、男女別に見ても、男女ともに米国に次いで2番目に長い(図1)。

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(図1)労働時間の国際比較

(図1)[CSV形式:1KB]CSVファイル

有償労働時間と無償労働時間の内訳を見ると、我が国は、有償労働時間が11か国中最も長く、一番短いイタリアの2倍以上となっている。男女別に見ると、特に男性の有償労働時間が他の国と比較して著しく長いが、女性の有償労働時間も11か国中、2番目に長い(図2)。一方、無償労働時間に目を向けると、我が国は11か国中、韓国に次いで2番目に短い。特に男性の無償労働時間が突出して短いことによる影響が大きいが、女性の無償労働時間も各国と比較して必ずしも長いわけではなく、我が国の男女の労働時間の長さは、有償労働時間が長いことに起因するものと考えられる(図3)。

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(図2)有償労働時間の国際比較

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(図3)無償労働時間の国際比較別ウインドウで開きます
(図3)無償労働時間の国際比較

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有償労働時間と無償労働時間の女性の分担割合1を見ると、諸外国においても、有償労働時間は男性に偏り、無償労働時間は女性に偏る傾向が見られる。しかし、我が国の有償労働時間の女性の分担割合は37.5%と11か国中で最も小さい一方で、無償労働時間の女性の分担割合は84.6%と11か国中で最も大きく、諸外国と比較しても、男女間での有償労働時間と無償労働時間の分担のバランスが極端であることがうかがえる。国別に見ると、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーの北欧諸国では、男女の有償労働時間、無償労働時間の分担割合が半分に近い一方で、日本、韓国、イタリアでは、有償労働時間が男性、無償労働時間が女性に偏る傾向が特に強い。なお、スイスの非営利団体「世界経済フォーラム」が公表しているジェンダー・ギャップ指数(GGI)2を見ると、北欧諸国は上位にいる一方で、日本、韓国、イタリアは11か国中、下位に位置している(図4)。

(図4)有償労働時間と無償労働時間の女性の分担割合及びジェンダー・ギャップ指数(GGI)別ウインドウで開きます
(図4)有償労働時間と無償労働時間の女性の分担割合及びジェンダー・ギャップ指数(GGI)

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続いて、労働時間以外の生活時間を見てみると、我が国は男女ともに睡眠時間が11か国中最も短く、労働時間が長い分、睡眠時間が短くなっていることが推察される。他方、男女ともに睡眠時間が最も長いのは、米国である(図5)。米国は、男女ともに労働時間も11か国中、最も長い一方、飲食に費やす時間が11か国中、最も短い。なお、男女ともに飲食に費やす時間が11か国中、最も長いのはフランス、2番目に長いのはイタリアであり、両国とも飲食に米国の2倍以上の時間をかけている(図6)。

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(図5)睡眠時間の国際比較

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(図6)飲食時間の国際比較

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米国は、マクドナルドやケンタッキー・フライドチキンといった世界的なファストフードの文化の発祥の地である。また、フランスの美食術3は、誕生日や結婚式、記念日などの個人や個人の集団の生活における最も大切な時を祝うための社会的慣習とされ、イタリア料理・食習慣も含む地中海食4は、家族や友人など皆で食卓を囲みゆっくりと楽しみながら美味しい時間を共有するという食事のスタイルに特徴があるとされており、いずれもユネスコの無形文化遺産に登録されている。これらのことは、米国での飲食時間が短く、フランス、イタリアでの飲食時間が長いことと無関係ではないだろう。

男女の生活時間は、各国によって大きな違いがあるが、その国々の文化や人々の考え方とも密接な関わりがあるため、正解を求めることは難しい。しかしながら、男女共同参画社会の形成の促進のためには、男女間で有償労働時間と無償労働時間を公平に分担することも重要である。特に、我が国においては、国際的に見て、男性の有償労働時間が著しく長いことが特徴であり、これを改善しない限りは、男性の無償労働時間を増やすことは難しいと考えられる。逆に、男性の長時間労働を改善することで、男性の無償労働時間を増やす余地が生まれるだけでなく、女性の有償労働時間の分担割合も上がり、男女共同参画社会の形成の促進に資すると考えられる。

1(女性の労働時間)/(女性と男性の労働時間の合計)×100で算出。

2Gender Gap Index。以下の4分野からなり、男性に対する女性の割合を示す。1経済分野(労働参加率の男女比、同一労働における賃金の男女格差、推定勤労所得の男女比、管理的職業従事者の男女比、専門・技術者の男女比)、2教育分野(識字率の男女比、初等、中等、高等教育の就学率の男女比)、3健康分野(出生児性比、健康寿命の男女比)、4政治分野(国会議員(下院)の男女比、閣僚の男女比、最近50年における行政府の長の在任年数の男女比)。測定可能な国数は、146か国。

3Gastronomic meal of the French。

4Mediterranean diet。キプロス、クロアチア、スペイン、ギリシャ、イタリア、モロッコ、ポルトガルの地中海沿岸の国々の伝統ある食文化。