第2節 高齢者,障害者,外国人等が安心して暮らせる環境の整備

本編 > II > 第1部 > 第9章 > 第2節 高齢者,障害者,外国人等が安心して暮らせる環境の整備

第2節 高齢者,障害者,外国人等が安心して暮らせる環境の整備

1 高齢者が安心して暮らせる環境の整備

総務省では,高齢者や障害者が情報通信の利便を享受できる情報バリアフリー環境の整備を図るため,高齢者や障害者向けの通信・放送サービスに関する技術の研究開発を行う者に対し,助成を行った。

また,高齢者や障害者がテレビジョン放送を通じて情報アクセスの機会を確保できるよう,平成30(2018)年2月に策定した「放送分野における情報アクセシビリティに関する指針」を踏まえ,字幕番組,解説番組及び手話番組の制作等に対する助成を通じて,字幕放送,解説放送及び手話放送の拡充を図っている。また,毎年その実績を公表し,各放送局の自主的な取組を促進している。

経済産業省では,高齢者や障害者等の自立を支援し,介護者の負担軽減を図るため,福祉用具の開発及び実用化を支援した。

厚生労働省では,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)に基づき,65歳までの定年の引上げ,継続雇用制度の導入等の高年齢者雇用確保措置が着実に実施されるよう事業主への指導・支援に取り組んでいる。また,シルバー人材センターを通じて,高年齢者の多様なニーズに応じた就業の促進を図っている。また,社会福祉協議会が実施する高齢者の日常生活を支援する事業(日常生活自立支援事業)について,利用者ニーズに応じて地域包括支援センターや民生委員等とも連携し推進を図った。

国土交通省では,高齢者が安心して暮らすことができる住まいを確保するため,介護や医療と連携し高齢者を支援するサービスを提供するサービス付き高齢者向け住宅の供給を促進するとともに,住宅金融支援機構の住宅融資保険制度を活用した民間金融機関によるリバースモーゲージ14の推進により,同住宅への住み替えを支援している。

消費者庁では,消費生活上特に配慮を要する消費者である高齢者や障害者等の消費者被害の防止のため,消費者安全確保地域協議会(消費者安全法(平成21年法律第50号))が構築されるよう,地方公共団体に対する働きかけ,先進事例の公表及び手引きの周知等を実施し,地域の実情に応じた実効性ある見守り活動の実施促進を図った。さらに,独立行政法人国民生活センターでは,高齢者等の悪質商法被害や商品等に係る事故に関する注意情報及び相談機関の情報等を,報道機関への情報提供やメールマガジン「見守り新鮮情報」の発行等,多様な手段を用いて周知を図った。

文部科学省では,高齢者等の消費者教育を推進するため,消費者教育の取組事例等の情報提供などを行うとともに,地方公共団体へ文部科学省消費者教育アドバイザーの派遣を行っている。

内閣府では,政府が講じたユニバーサル社会の実現に向けた諸施策の実施状況を取りまとめ,公表した15

14所有する住宅及び土地を担保に融資を受け,毎月利息のみを支払い,利用者(高齢者等)の死亡等で契約が終了したときに,担保不動産の処分等によって元金を一括して返済する金融商品。住宅金融支援機構の住宅融資保険制度を活用する場合は,住宅の建設・購入等に関する融資に限られる。

15内閣府 ユニバーサル社会の実現に向けた諸施策の実施状況 https://www8.cao.go.jp/souki/barrier-free/bf-index.html

2 障害者が安心して暮らせる環境の整備

政府では,全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため, 平成30(2018)年3月に閣議決定した「障害者基本計画(第4次)」に基づき,障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進に政府一体で取り組むとともに,幅広い国民の理解を得られるよう,積極的な広報・啓発活動を行っている。

内閣府では,平成28(2016)年4月に施行された障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)の実効性ある施行のため,関係省庁や地方公共団体と連携しつつ,広く社会にその取組の働きかけを行っている。また,障害を理由とする差別の解消の一層の推進を図る観点から,事業者に対し合理的配慮の提供を義務付けること等を内容とする同法の一部改正法案を第204回国会(令和3(2021)年)に提出した。

また,政府が講じたユニバーサル社会の実現に向けた諸施策の実施状況を取りまとめ,公表した(第9章第2節参照)。

警察では,高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号。以下「バリアフリー法」という。)に基づき,高齢者,障害者等が道路を安全に横断できるよう,音響により信号表示の状況を知らせる音響信号機,視覚障害者等の安全な交差点の横断を支援する歩行者等支援情報通信システム(Bluetoothを活用し,スマートフォン等に対して歩行者用信号情報を送信するとともに,スマートフォン等の操作により青信号時間の延長を可能とするものを含む。),信号表示面に青時間までの待ち時間及び青時間の残り時間を表示する経過時間表示機能付き歩行者用灯器,歩行者・自転車と車両が通行する時間を分離して交通事故を防止する歩車分離式信号等のバリアフリー対応型信号機の整備を推進している。また,標示板を大きくする,自動車の前照灯の光に反射しやすい素材を用いるなどして見やすく分かりやすい道路標識・道路標示の整備や横断歩道上における視覚障害者の安全性及び利便性を向上させるエスコートゾーンの整備を推進している。

国土交通省では,バリアフリー法に基づき,政令又は省令で定める移動等円滑化基準への新設する施設等に対する適合義務及び既存の施設等に対する適合努力義務を定めるとともに,「移動等円滑化の促進に関する基本方針」(平成23年国家公安委員会,総務省,国土交通省告示第1号。以下「基本方針」という。)において令和2(2020)年度末までの整備目標を定め,バリアフリー化を推進している。

こうした中,ハード対策に加え,移動等円滑化に係る「心のバリアフリー」の観点からの施策の充実などソフトの対策を強化する「高齢者,障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和2年法律第28号)が第201回国会(令和2(2020)年)において成立し,令和3(2021)年4月1日の全面施行に向け関係政省令を公布した。

また,基本方針について,新しい整備目標を策定するため,有識者,高齢者・障害者等団体等が参画する検討会において議論を重ね,ハード・ソフト両面でのバリアフリー化を一層推進する観点から,各施設等について地方部を含めたバリアフリー化や「心のバリアフリー」の一層の推進等を盛り込み,令和2(2020)年11月に最終取りまとめを行い,同年12月に告示を公布したところであり,令和3(2021)年4月より5年間の新しい整備目標に基づき,バリアフリー化を一層推進している。

また,市町村が作成する移動等円滑化促進方針及び基本構想に基づき,移動等円滑化促進地区及び重点整備地区において面的かつ一体的なバリアフリー化を推進している。さらに,バリアフリー施策のスパイラルアップ(段階的・継続的な発展)を図りながら住まいづくり,まちづくり,都市公園,公共交通機関,道路交通環境の整備を推進している。

高齢者,障害者,妊婦や子供連れを始めとする誰もがスムーズに通行できるよう,多様なニーズ調査を行い,道路構造の工夫等を盛り込んだ事例集を策定し,道路のユニバーサルデザイン化を推進している。加えて,平成27(2015)年2月に閣議決定された「交通政策基本計画」において,バリアフリー化の更なる推進を図ることとされている。

厚生労働省では,近年,障害者の就労意欲が着実な高まりを見せる中で,より多くの就職希望を実現するとともに,本人の希望に応じた職業生活を送ることができるようにするため,障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号。以下「障害者雇用促進法」という。)や「障害者雇用対策基本方針」(平成30年厚生労働省告示第178号)等を踏まえた就労支援について,企業ごとのニーズに合わせた,準備段階から採用後の定着支援まで一貫した「企業向けチーム支援」やハローワークと地域関係機関との連携による「障害者向けチーム支援」の推進,障害者就業・生活支援センターにおける就業と生活両面の一体的な支援,精神障害者,発達障害者,難病患者等の多様な障害特性に対応した就労支援等を充実・強化することにより,一層の推進を図っている。

また,平成28(2016)年4月より施行された,障害者雇用促進法に基づく雇用分野における障害者の差別禁止や合理的配慮の提供義務について,引き続き周知・啓発に取り組むとともに,必要に応じて都道府県労働局やハローワークにおける助言・指導等の取組により,引き続き,その着実な実施を図っている。

加えて,令和元(2019)年の障害者雇用促進法の改正により,障害者活躍推進計画の作成・公表義務が令和2(2020)年4月1日に施行されたことにより,各機関が定めた障害者活躍推進計画に基づき,各機関において障害者の活躍を推進する体制整備や,障害者の活躍の基本となる職務の選定・創出,障害者の活躍を推進するための環境整備・人事管理等の障害者雇用に関する取組を適切に推進している。また,改正障害者雇用促進法のうち,障害者雇用に関する取組が優良な中小事業主の認定制度(もにす認定制度)及び週所定労働時間が20時間未満の短時間労働者を雇用する事業主に対する特例給付金制度が創設されたことから,こうした新制度の円滑かつ適切な施行を進めている。これらの取組により,障害者にとって活躍できる職場環境の整備や定着支援等に係る取組を推進している。

3 外国人が安心して暮らせる環境の整備

法務省の人権擁護機関では,外国人に対する偏見や差別の解消を目指して,「外国人の人権を尊重しよう」を啓発活動の強調事項の一つとして掲げ,講演会等の開催,啓発冊子の配布等,各種人権啓発活動を行っている。また,日本語を自由に話すことの困難な外国人等からの人権相談については,新聞やインターネット等を用いて周知広報を行うとともに,全国50か所の法務局・地方法務局に10言語に対応した「外国人のための人権相談所」及び「外国語人権相談ダイヤル(ナビダイヤル:0570-090911(全国共通))」を引き続き設置するほか,「外国語インターネット人権相談受付窓口」については,令和3(2021)年3月から,対応言語を2言語から10言語に拡大して相談対応を行っている。

出入国在留管理庁では,人身取引が重大な人権侵害であり犯罪であるとの認識の下,引き続き,被害者である外国人について,関係機関と連携して適切な保護措置を講ずるとともに,被害者の立場に十分配慮しながら,本人の希望等を踏まえ,在留期間の更新や在留資格の変更を許可し,被害者が不法残留等の入管法違反の状態にある場合には,在留特別許可を付与するなど,被害者の法的地位の安定を図っている。

また,外国人が抱える様々な課題を的確に把握するために,専門家の意見等を踏まえつつ,在留外国人に対する基礎調査を実施するとともに,地方公共団体や外国人支援団体等幅広い関係者から意見を聴取し,共生施策の企画・立案に当たって活用することにより,日本人と外国人が安心して安全に暮らせる環境整備を進めている。

法テラスでは,人身取引被害者が,加害者に対して損害賠償請求を行うに当たり,当該被害者が日本に住所を有し,適法に在留している場合であって収入等の一定の要件を満たすときには,民事法律扶助が活用可能であること及び刑事訴訟において被害者参加制度を利用するに当たって,公判廷への出席に要する旅費等が支給されること(被害者参加旅費等支給制度),収入等の一定の要件を満たす場合には,国選被害者参加弁護士の選定を請求することが可能であること(被害者参加人のための国選弁護制度)について,多言語で情報提供し,その周知を図るとともに,これらの法的援助を実施した。

外務省では,日本で保護された外国人の人身取引被害者に対して,本人が希望する場合に母国等へ安全に帰還させるとともに再度被害に遭わないことを目的として,国連移住機関(IOM)への拠出を通じた帰国支援及び社会復帰支援を提供する事業を実施している。具体的には,被害者へのカウンセリング,ケースワーカーの派遣,通訳,帰国支援(渡航費を含む。)及び母国での自立・社会復帰支援(医療・教育・職業支援)等の支援が提供されている。

文部科学省では,毎年,全国の都道府県・指定都市教育委員会担当者を集めた連絡協議会や独立行政法人教職員支援機構における「外国人児童生徒等に対する日本語指導指導者養成研修」を実施しており,教育を取り巻く現状を知るとともに,取組の進んだ学校の実践事例を共有するなど,国際理解教育及び外国人の子供の教育の推進に努めている。

また,外国人児童生徒等教育の充実に関しては,平成31(2019)年4月に中央教育審議会に対し,新しい時代の初等中等教育の在り方について諮問が行われ,増加する外国人児童生徒等への教育の在り方についても検討し,令和3(2021)年1月26日に「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~」(答申)が取りまとめられた。また,「日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針」(令和2年6月閣議決定)に基づき,外国人の子供の就学促進等について地方公共団体が講ずべき事項を取りまとめた「外国人の子供の就学促進及び就学状況の把握等に関する指針」を策定し,同年7月に地方公共団体に通知した。

また,外国人児童生徒等の指導を担う教師が必要な知識を得られるような研修用動画コンテンツ及び来日・帰国したばかりの外国人児童生徒等や保護者が日本での学校生活等について理解を深められるような多言語による動画コンテンツを作成した。

この他の取組として,学校教育法施行規則(昭和22年文部省令第11号)において日本語指導が必要な児童生徒を対象とした「特別の教育課程」を編成・実施できるようにしている。また平成29(2017)年3月の「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」(昭和33年法律第116号)の改正により,外国人児童生徒等教育の充実のための教員定数の基礎定数化が図られ,平成29(2017)年度から令和8(2026)年度までの10年間で計画的に実施している。

さらに,就学に課題を抱える外国人の子供を対象とした,公立学校や外国人学校等への就学に必要な支援を学校外において実施する地方公共団体の取組への補助や,帰国・外国人児童生徒等の公立学校への受入促進,日本語と教科の統合指導や生活指導等を含めた総合的・多面的な指導の充実,多言語翻訳システム等ICTを活用した支援や外国人高校生に対する包括支援等の指導・支援体制の整備等に係る地方公共団体の取組等への補助も引き続き行っている。

加えて,外国人児童生徒等の集住化・散在化,それぞれにおける課題を解決する先進的なプログラムの開発を実施しているほか,学習指導要領に基づき,子供たちが広い視野を持って異文化を理解し,共に生きていこうとする姿勢を育てるために,国際理解教育を推進している。

文化庁では,我が国に居住する外国人が安心・安全に生活するために必要な日本語能力を習得し,日本社会の一員として円滑に生活を送ることができるよう,日本語教育の先進的取組に対する支援,日本語教室空白地域解消の推進,日本語教育人材の養成及び現職者研修カリキュラムの開発・活用や,都道府県・政令指定都市が,関係機関等と有機的に連携しつつ行う,日本語教育環境を強化するための総合的な体制づくりの推進を実施した。

厚生労働省では,ハローワークに通訳員等を配置し,きめ細かな職業相談体制の整備,多言語対応の更なる充実などを行い,外国人労働者の安定的な就労の促進に取り組んでいる。配偶者からの暴力被害者である在留外国人への適切な支援を確保するため,専門的な知識を持った通訳者の養成を行うための専門通訳者養成研修事業を推進している。

政府では,「人身取引対策行動計画2014」に基づき,関係行政機関が連携して,人身取引対策の取組を進めている(第8章第7節参照)。

4 性的指向・性自認(性同一性),女性であることで複合的に困難な状況に置かれている人々への対応

性的指向・性自認(性同一性)を理由として困難な状況に置かれている場合や,障害があること,日本で生活する外国人であること,アイヌの人々であること,同和問題等を背景として,女性であることにより更に複合的に困難な状況に置かれている場合について,被害者の救済を進めている。

法務省の人権擁護機関では,全国50か所の法務局・地方法務局に,専用相談電話「女性の人権ホットライン16」を設置して相談体制の一層の強化を図っている。

文部科学省では,学校教育において,人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(平成12年法律第147号)や同法に基づき定められた「人権教育・啓発に関する基本計画」(平成14年3月閣議決定,平成23年4月一部変更)に沿って,その教育活動全体を通じ,人権尊重の意識を高めるための指導を進めており,一人一人を大切にする教育の推進を図った。社会教育では,社会教育主事の養成講習等において,人権問題等の現代的課題を取り上げ,指導者の育成及び資質の向上を図っている。

16女性の人権ホットライン ナビダイヤル:0570-070-810(全国共通)