第2節 コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題~生活面~

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第2節 コロナ下で顕在化した男女共同参画の課題~生活面~

この節では,前節に続き,緊急事態宣言等を契機に顕在化した課題について把握するため,コロナ下の人々の生活に関する状況を概観する。生活をめぐる環境の変化を確認するため,女性に対する暴力や男女別の自殺者数の推移,家庭内の家事等の分担状況等について見ていく。

1 生活をめぐる環境の変化

(1) 女性に対する暴力の状況

女性に対する暴力は,重大な人権侵害であり,決して許される行為ではない。現在,コロナ下の生活不安やストレス,外出自粛による在宅時間の増加等により,DV(配偶者暴力)相談件数が増加しており,女性に対する暴力の増加や深刻化が懸念されている。

(ア) DV(配偶者暴力8

内閣府が令和3(2021)年3月に公表した「男女間における暴力に関する調査報告書」9(以下,「男女間暴力調査」という。)によると,「これまでの配偶者からの暴力の被害経験」については,22.5%の人が「あった」と答えている。この結果を男女別に見ると,女性の「あった」は25.9%,男性の「あった」は18.4%となっており,女性の約4人に1人で被害経験があるなど,女性の方が被害経験者の割合が高くなっている。さらに,女性の約10人に1人は何度も配偶者からの暴力の被害を受けている,という結果も出ている。

コロナ下のDV(配偶者暴力)相談件数は増加しており,全国の配偶者暴力相談支援センターと後述する「DV相談プラス」に寄せられた相談件数を合わせると,令和2(2020)年度は19万0,030件で,前年度比で約1.6倍に増加している(I-特-28図)。

I-特-28図 DV(配偶者暴力)相談件数の推移別ウインドウで開きます
I-特-28図 DV(配偶者暴力)相談件数の推移

I-特-28図[CSV形式:2KB]CSVファイル

また,警察庁が令和3(2021)年3月に公表した配偶者からの暴力事案等の相談等状況を見ると,令和2(2020)年の相談等件数は8万2,643件(前年比+436件,+0.5%)となり,平成13(2001)年の配偶者暴力防止法施行後,最多となっている。

このような状況を踏まえ,内閣府では,令和2(2020)年4月より,新たな相談窓口として「DV相談プラス」を開設している。「DV相談プラス」は,24時間の電話相談対応,WEB面談対応,10の外国語での相談対応を行っているほか,電話ができない場合にも相談できるようにSNS・メール相談も行っている。

また,最寄りの配偶者暴力相談支援センター等につながる全国共通電話番号の「DV相談ナビ」については,利用者の利便性を高めることを目的に,令和2(2020)年10月より,従来の10桁から「#8008(シャープ・はち・ぜろ・ぜろ・はち)」に短縮番号化し,「はれれば」の語呂合わせで周知を図っている。

8配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(令和元年法律第46号)においては,「配偶者」には,婚姻の届出をしていないいわゆる「事実婚」を含む。また,離婚後(事実上離婚したと同様の事情に入ることを含む。)も引き続き暴力を受ける場合を含む。このほか,生活の本拠を共にする交際相手(婚姻関係における共同生活を営んでいない者を除く。)からの暴力について,同法を準用することとされている。また,生活の本拠を共にする交際をする関係を解消した後も引き続き暴力を受ける場合を含む。

9内閣府において,平成11(1999)年度から3年に1度実施している一般統計調査。全国の20歳以上の男女5,000人を対象に,無作為抽出により調査を実施。

(イ) 性犯罪・性暴力

男女間暴力調査によると,無理やりに性交等をされた被害経験のある女性は約14人に1人に上る。被害を受けた時の相手は,「まったく知らない人」が全体の約1割,女性では「交際相手・元交際相手」が約3割,男性では「通っている(いた)学校・大学の関係者」が約2割であった。

コロナ下の性犯罪・性暴力に関する相談件数は増加しており,性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの令和2(2020)年度の相談件数は5万1,141件で,前年度比で約1.2倍に増加している(I-特-29図)。

I-特-29図 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの全国の相談件数の推移別ウインドウで開きます
I-特-29図 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの全国の相談件数の推移

I-特-29図[CSV形式:1KB]CSVファイル

こうした中, 政府においては, 令和2(2020)年6月に決定した「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」に基づき,令和2(2020)年度から令和4(2022)年度までの3年間を,性犯罪・性暴力対策の「集中強化期間」として,被害者支援の充実,加害者対策,教育・啓発の強化等の実効性ある取組を速やかに進めていくこととしている。

内閣府では,令和2(2020)年10月より,ワンストップ支援センターの全国共通短縮番号「#8891(シャープ・はち・はち・きゅう・いち「はやくワンストップ」)」を導入し,周知を図っている。あわせて,若年層の性暴力被害者が相談しやすいよう,令和2(2020)年10月より,SNS相談「Cure Time(キュアタイム)」を試行実施している。

(2) 自殺の状況

(男女別の自殺者数の推移)

平成31(2019)年1月以降の自殺者数の推移を見ると,女性は令和2(2020)年6月以降,男性は令和2(2020)年8月以降,前年同月差で増加傾向にあることが分かる。また,男女ともに,令和2(2020)年10月に自殺者数が大幅に増加している。一方,増加幅を男女で比較すると,女性の自殺者数の増加幅の方が大きい。また,令和2(2020)年の自殺者数を見ると,男性は前の年と比べて23人減少しているが,女性は935人増加している(I-特-30図)。

I-特-30図 自殺者数の推移,自殺者数の前年同月差の推移別ウインドウで開きます
I-特-30図 自殺者数の推移,自殺者数の前年同月差の推移

I-特-30図[CSV形式:3KB]CSVファイル

自殺者数の推移を年齢階級別に見ると,女性は令和2(2020)年7月以降,おおむね全年齢階級で増加している(I-特-31図)。自殺者数の推移を職業別に見ると,女性は「無職者」,男性は「無職者」に加えて「被雇用者・勤め人」の割合が高い(I-特-32図)。無職者の内訳を見ると,女性は「年金・雇用保険等生活者」,「その他の無職者」に加えて「主婦」が多く,男性は「年金・雇用保険等生活者」,「その他の無職者」に加えて「失業者」が多い傾向にある(I-特-33図)。学生・生徒等の推移では,男女ともに,「大学生」,「高校生」が多くの割合を占めている(I-特-34図)。

I-特-31図 年齢階級別自殺者数の前年同月差の推移別ウインドウで開きます
I-特-31図 年齢階級別自殺者数の前年同月差の推移

I-特-31図[CSV形式:4KB]CSVファイル

I-特-32図 職業別自殺者数の推移別ウインドウで開きます
I-特-32図 職業別自殺者数の推移

I-特-32図[CSV形式:3KB]CSVファイル

I-特-33図 「無職者」の自殺者数の推移別ウインドウで開きます
I-特-33図 「無職者」の自殺者数の推移

I-特-33図[CSV形式:3KB]CSVファイル

I-特-34図 「学生・生徒等」の自殺者数の推移別ウインドウで開きます
I-特-34図 「学生・生徒等」の自殺者数の推移

I-特-34図[CSV形式:2KB]CSVファイル

自殺者数の増減を見ると,令和2(2020)年度は前年度と比べて,女性は「無職者」が648人増加,「被雇用者・勤め人」が443人増加し,男性は「被雇用者・勤め人」が199人増加しており,女性の方が男性より増加している。女性は,「無職者」の中では「主婦」が最も増加(261人増加)しており,「学生・生徒等」の中では「高校生」が最も増加(69人増加)している(I-特-35図)。また,「被雇用者・勤め人」の内訳を見ると,女性は「事務員」,「その他のサービス職」,「販売店員」,「医療・保健従事者」等が,男性は「土木建設労務作業者」,「運輸従事者」,「食品・衣料品製造工」等が,特に増加している(I-特-36図)。さらに,同居人有無別の自殺者数の推移を男女で比較すると,女性の方が「同居人あり」の自殺者数が増加していることが分かる(I-特-37図)。

I-特-35図 自殺者数の増減1別ウインドウで開きます
I-特-35図 自殺者数の増減(1)

I-特-35図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-36図 自殺者数の増減2別ウインドウで開きます
I-特-36図 自殺者数の増減(2)

I-特-36図[CSV形式:2KB]CSVファイル

I-特-37図 同居人有無別自殺者数の前年同月差の推移別ウインドウで開きます
I-特-37図 同居人有無別自殺者数の前年同月差の推移

I-特-37図[CSV形式:1KB]CSVファイル

厚生労働大臣指定法人いのち支える自殺対策推進センターが令和2(2020)年10月21日に発表した「コロナ禍における自殺の動向に関する分析(緊急レポート)10」によると,令和2(2020)年の自殺の動向は,例年とは明らかに異なっているという。具体的には,令和2(2020)年4月から6月にかけては,社会的不安の増大で自身の命を守ろうとする意識の高まり等により自殺者が減少した可能性があること,同年7月以後は,様々な年齢階級の女性の自殺者が増加傾向にあり,特に「同居人がいる女性」と「無職の女性」の増加が目立つことなどが挙げられている。女性の自殺の背景には,経済生活問題や勤務問題,DV(配偶者暴力)被害や育児の悩み,介護疲れや精神疾患など,様々な問題が潜んでいるとされ,コロナ禍において,そうした自殺の要因になりかねない問題が深刻化したことが,女性の自殺者数の増加に影響を与えている可能性があると分析されている。このほか,ウェルテル効果と呼ばれる自殺報道の影響によって自殺が増える現象が見られること,令和2(2020)年8月に女子高校生の自殺者数が増加したこと,緊急小口資金の貸付けなど政府の各種支援策が自殺の増加を抑制している可能性があることなど,様々な指摘がなされている。

また,同センターでは,令和2(2020)年10月に自殺者数が大幅に増加した原因について,新型コロナの影響により社会全体の自殺リスクが高まっていること(自殺の要因となり得る,雇用,暮らし,人間関係等の問題が悪化していること)に加えて,相次ぐ有名人の自殺及び自殺報道が大きく影響した可能性(ウェルテル効果の可能性)が高い,と考察している。

10本報告書については,「コロナ禍における自殺の動向を精緻に分析するために必要なデータが揃っておらず,現時点における分析は不十分なものとならざるを得ない。また分析を進めるほどに,時間をかけて詳細な分析を行う必要性に直面しているところだが,現時点で分かったことだけでも早めに公表すべきと判断し,今回,中間的な報告を行うことにした。」などの留意点が記されている。

(3) 家事等の分担の状況

(家庭内の家事等の分担状況)

総務省「平成28年社会生活基本調査」によると,6歳未満の子供を持つ夫の家事・育児関連時間は,平成28(2016)年は共働き世帯の夫で82分,夫有業・妻無業世帯の夫で74分となっている。いずれの世帯も,平成18(2006)年以降の夫の家事・育児関連時間は増加傾向にあるが,妻と比較すると低水準である(I-特-38図)。

I-特-38図 6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間の推移(共働きか否か別)別ウインドウで開きます
I-特-38図 6歳未満の子供を持つ夫婦の家事・育児関連時間の推移(共働きか否か別)

I-特-38図[CSV形式:1KB]CSVファイル

こうした中,小学校3年生以下の子供を持つ夫婦について,第1回緊急事態宣言中(令和2(2020)年4月~5月)とそれ以前を比較して,緊急事態宣言中の一日の時間の使い方がどのように変化したかを調査した結果を見ると,緊急事態宣言中の家事時間と育児時間は,夫と妻いずれも「減った」と回答した割合より「増えた」と回答した割合が高かった。また,家事時間が「増えた」と回答した割合は,妻が30.8%で夫が24.6%であった。育児時間が「増えた」と回答した割合は,妻が31.2%で夫は26.2%であった。このように,家事時間,育児時間が「増えた」と回答した割合をそれぞれ夫と妻で比較すると,いずれも夫より妻の方が大きい結果となった(I-特-39図)。

I-特-39図 1日の時間の使い方変化~第1回緊急事態宣言中(令和2(2020)年4~5月)とそれ以前を比べて~別ウインドウで開きます
I-特-39図 1日の時間の使い方変化~第1回緊急事態宣言中(令和2(2020)年4~5月)とそれ以前を比べて~

I-特-39図[CSV形式:2KB]CSVファイル

次に,令和2(2020)年4月~5月の第1回緊急事態宣言中の心理状況について,小学校3年生以下の子供がいる有配偶の男女で比較すると,「家事・育児・介護の負担が大きすぎると感じたこと」が「何度もあった」又は「ときどきあった」と回答した男性は19.8%である一方,女性は37.5%であった。そのほか,「自分が家族に理解されていないと感じたこと」,「健康を守る責任が大きすぎると感じたこと」が,それぞれ「何度もあった」又は「ときどきあった」と回答した女性の割合は,男性の割合よりいずれも5%ポイント以上高かった(I-特-40図)。

I-特-40図 第1回緊急事態宣言中(令和2(2020)年4~5月)の心理状況別ウインドウで開きます
I-特-40図 第1回緊急事態宣言中(令和2(2020)年4~5月)の心理状況

I-特-40図[CSV形式:2KB]CSVファイル

コロナ下の心理状況の変化については,別の調査でも明らかになっている。生活全体の満足度は男女ともに低下しているが,特に20代女性で大幅に低下している(I-特-41図)。また,コロナ下より前の時点と比較して不安が増していることについて調査した結果を見ると,全体的に男性より女性の不安が増している傾向にある(I-特-42表)。雇用形態別に見ると,全体的に正規雇用労働者より非正規雇用労働者の不安が増している傾向にある(I-特-43表)。

I-特-41図 感染症影響下の満足度の変化別ウインドウで開きます
I-特-41図 感染症影響下の満足度の変化

I-特-41図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-42表 令和元(2019)年12月(感染症拡大前)に比べて不安が増していること(男女別)別ウインドウで開きます
I-特-42表 令和元(2019)年12月(感染症拡大前)に比べて不安が増していること(男女別)

I-特-42表[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-43表 令和元(2019)年12月(感染症拡大前)に比べて不安が増していること(雇用形態別)別ウインドウで開きます
I-特-43表 令和元(2019)年12月(感染症拡大前)に比べて不安が増していること(雇用形態別)

I-特-43表[CSV形式:1KB]CSVファイル

コラム1 女性の家事等の時間増加は世界共通

(4) 満足度の状況

(家族と過ごす時間の変化と子育てのしやすさや生活全体の満足度の関係)

家族と過ごす時間の変化と,子育てのしやすさや生活全体の満足度の関係を見ると,男女で異なる結果が見られる。

男性の場合は家族と過ごす時間が増加した方が「子育てのしやすさ満足度」,「満足度(生活全体)」の低下幅が小さい一方,女性の場合は家族と過ごす時間が増加した方が「子育てのしやすさ満足度」,「満足度(生活全体)」の低下幅が大きいことが分かった(I-特-44図)。

I-特-44図 家族と過ごす時間の変化と「子育てのしやすさ満足度」・「満足度(生活全体)」の変化別ウインドウで開きます
I-特-44図 家族と過ごす時間の変化と「子育てのしやすさ満足度」・「満足度(生活全体)」の変化

I-特-44図[CSV形式:1KB]CSVファイル

新型コロナの感染拡大の性別による影響の違いを踏まえていく必要がある。