第3節 ポストコロナ時代における男女共同参画の未来

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第3節 ポストコロナ時代における男女共同参画の未来

第1節では,就業をめぐる環境の変化について,労働市場への影響等から概観し,第2節では,生活をめぐる環境の変化について,女性に対する暴力,家事等の分担の状況,満足度等から概観した。この節では,新型コロナの感染拡大に対する政府の取組について整理した上で,コロナ下で改めて注目されることとなった「新しい働き方」や「新しい暮らし方」について,ジェンダーの視点から整理・分析し,ポストコロナ時代における男女共同参画の未来を考察する。

1 政府の取組

令和2(2020)年以降の新型コロナの感染拡大を受け,我が国では,内閣総理大臣を本部長とし,全ての閣僚からなる「新型コロナウイルス感染症対策本部」(令和2(2020)年1月30日閣議決定)を設置し,令和2(2020)年4月7日の緊急事態宣言11発出をはじめとして,国民の生命を守るため,これまで水際での対策,まん延防止,医療の提供等について総力を挙げて講じてきた。

また,新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(令和2(2020)年3月28日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)において,「政府及び関係機関は,各種対策を実施する場合においては,国民の自由と権利の制限は必要最小限のものとするとともに,女性や障害者などに与える影響を十分配慮して実施するものとする。」との文言が盛り込まれたほか,「新型コロナウイルス感染症対策の実施に関する重要事項」として,「感染者・濃厚接触者や,診療に携わった医療機関・医療関係者その他の対策に携わった方々に対する誤解や偏見に基づく差別を行わないことの呼びかけ」を行うことなどを掲げた。

コロナ下の女性への影響が特に深刻であることを受けて,女性や困難な問題を抱える人々に対する政府の各種取組が行われることとなった。

内閣府では,令和2(2020)年9月に有識者による「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会(以下,「コロナ研究会」という。)」を立ち上げ,以降,第1節,第2節で概観したウィズコロナの時代における各種問題について議論を重ねてきた。令和2(2020)年11月には,女性の自殺者数が急増したこと等を受けて,自殺やDV(配偶者暴力)等の各種相談体制やひとり親家庭への支援の強化,休校・休園の判断時における女性・子供への配慮等を含む,政府に対する「緊急提言」がまとめられた。政府は,令和2(2020)年12月に閣議決定した経済対策に自殺やDV(配偶者暴力)の相談体制の強化や「ひとり親世帯臨時特別給付金」の給付等を盛り込み,令和2(2020)年度第3次補正予算等で措置した(コラム2参照)。

令和3(2021)年1月7日の緊急事態宣言に伴い示された「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」には,コロナ下における女性の厳しい状況を踏まえて,新型コロナウイルス感染症対策の実施に関する重要事項として「特に,女性の生活や雇用への影響が深刻なものとなっていることに留意」するとの文言12や,「性犯罪・性暴力」の被害者に対する支援等,コロナ研究会における緊急提言の内容が新たに盛り込まれた。

令和3(2021)年3月には,社会的不安に寄り添い,深刻化する社会的な孤独・孤立の問題について,政府全体として総合的かつ効果的な対策を検討・推進するため13,新たに任命された孤独・孤立対策担当大臣を議長とする「孤独・孤立対策に関する連絡調整会議」が開催されることとなった。

また,新型コロナの影響が長引く中で,女性や非正規雇用労働者の雇用への影響の深刻化や,生活の困窮による自殺や孤立等の課題に対応するため14,「新型コロナに影響を受けた非正規雇用労働者等に対する緊急対策関係閣僚会議」が開催されることとなり,生活困窮,ひとり親世帯等への支援,休業者・離職者等への雇用支援,職業訓練の強化・ステップアップ支援等が盛り込まれた非正規雇用労働者等に対する緊急支援策が打ち出され,予備費で措置された。

11新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)第32条第1項の規定に基づき,新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態が発生した旨を宣言したもの。

12令和3(2021)年4月23日には,新たに「必要な支援を適時適切に実施する」との文言が加わった。

13孤独・孤立対策に関する連絡調整会議の設置趣旨より。

14新型コロナに影響を受けた非正規雇用労働者等に対する緊急対策関係閣僚会議設置趣旨より。

2 新しい日常に向けて

(1) 新しい働き方に向けて

(ア) テレワーク等

(テレワーク実施状況の変化について)

令和2(2020)年4月の緊急事態宣言(以下,「第1回緊急事態宣言」という。)を境に,我が国では,多くの就業者が在宅勤務等のテレワークを経験することとなった。テレワークについては,新型コロナの感染拡大前においても,テレワークに関する助成金の支給等,これまでも推進のための様々な施策等が講じられてきたが,第1回緊急事態宣言時に出勤者の7割削減のため,テレワーク7割実施目標が示され,これまでテレワークを実施したことのなかった就業者も含めて,全国的にテレワークが実施されることとなった。

それでは,実際の実施状況はどのように推移しているのだろうか。1「第1回緊急事態宣言前(新型コロナウイルス感染症拡大前)」,2「宣言中」(令和2(2020)年4月~5月),3「宣言後」(令和2(2020)年11月~12月調査)の3時点におけるテレワーク実施率を見てみる。

まず男女別で見ると,女性は,1第1回緊急事態宣言前19.1%,2宣言中37.0%,3宣言後35.3%,男性は,1第1回緊急事態宣言前16.3%,2宣言中43.6%,3宣言後38.1%となっている。男女で比較すると,1第1回緊急事態宣言前は女性のテレワーク実施率の方が高かったが,2宣言中と3宣言後は男性のテレワーク実施率の方が高いことが分かる(I-特-45図)。

I-特-45図 3時点でのテレワーク実施率の変化(就業者)別ウインドウで開きます
I-特-45図 3時点でのテレワーク実施率の変化(就業者)

I-特-45図[CSV形式:1KB]CSVファイル

雇用形態別では,正規雇用の女性は,1第1 回緊急事態宣言前17.3 %, 2 宣言中38.1%,3宣言後32.2%,正規雇用の男性は,1第1回緊急事態宣言前16.0%,2宣言中44.1%と女性より6%ポイント高く,3宣言後37.5%と女性より5.3%ポイント高くなっている。非正規雇用の女性は,1第1回緊急事態宣言前20.6%,2宣言中36.0%,3宣言後38.0%,非正規雇用の男性は,1第1回緊急事態宣言前18.2 %,2宣言中40.6%,3宣言後41.5%であった。さらに,雇用形態別の1週間のテレワーク実施回数を見てみると,1第1回緊急事態宣言前と比較して,2宣言中,3宣言後,正規・非正規雇用男女いずれも実施回数が増えていることが分かる(I-特-46図)。

I-特-46図 雇用形態別 3時点でのテレワーク実施率の変化・実施回数の変化別ウインドウで開きます
I-特-46図 雇用形態別 3時点でのテレワーク実施率の変化・実施回数の変化

I-特-46図[CSV形式:4KB]CSVファイル

配偶者の有無別テレワーク実施率の変化を見てみると,「配偶者がいる女性」と「配偶者がいない女性」とでは,どの時点においても「配偶者がいる女性」の方が5%ポイント近く高いことが確認できる(I-特-47図)。

I-特-47図 配偶者の有無別 3時点でのテレワーク実施率の変化(就業者)別ウインドウで開きます
I-特-47図 配偶者の有無別 3時点でのテレワーク実施率の変化(就業者)

I-特-47図[CSV形式:2KB]CSVファイル

また,「小3以下の子供がいる」女性と,「小3以下の子供がいない」女性とでは,どの時点においても「小3以下の子供がいる」女性の方が2%ポイント以上高いことが確認できる(I-特-48図)。

I-特-48図 小3以下の子供の有無別 3時点でのテレワーク実施率の変化(就業者)別ウインドウで開きます
I-特-48図 小3以下の子供の有無別 3時点でのテレワーク実施率の変化(就業者)

I-特-48図[CSV形式:2KB]CSVファイル

以上から,男女とも,雇用形態別に見ても,第1回緊急事態宣言を経て,テレワークが進み,一定程度定着してきていること,子育て中の女性の活用率が上がっていることがうかがわれる。

(地域別・産業別・年収別のテレワーク実施状況について)

テレワークが一定程度定着してきていることがうかがわれるとはいえ,地域別・産業別等で状況は異なる。1新型コロナウイルス感染症拡大前の令和元(2019)年12月,2第1回緊急事態宣言解除後の令和2(2020)年5月,3令和2(2020)年12月のそれぞれの時点のテレワークの実施状況を中心に見てみる。

地域別のテレワーク実施率は,2令和2(2020)年5月に,全国・東京都23区・地方圏いずれの地域においても急速に上がった。特に東京都23区では50%近くが実施している。その後,令和2(2020)年12月はいずれの地域も低下しているが,令和元(2019)年12月時点を上回る実施率となっている(I-特-49図)。令和3(2021)年1月の緊急事態宣言(以下,「第2回緊急事態宣言」という。)発出地域とその他地域の就業者を男女別で見ても,同様の傾向が見られる(I-特-50図)。

I-特-49図 地域別のテレワーク実施状況の変化(就業者)別ウインドウで開きます
I-特-49図 地域別のテレワーク実施状況の変化(就業者)

I-特-49図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-50図 地域別 3時点でのテレワークの実施率の変化(就業者)別ウインドウで開きます
I-特-50図 地域別 3時点でのテレワークの実施率の変化(就業者)

I-特-50図[CSV形式:2KB]CSVファイル

産業別のテレワーク実施率は,産業別で相異がある。多くの業種において,2令和2(2020)年5月に急速に高まり,その後低下している。令和2(2020)年12月時点では,情報通信業が65.6%と最も実施率が高い一方,保育関係,医療・福祉,運輸業の実施率は低い(I-特-51図)。

I-特-51図 業種別テレワーク実施率の推移(就業者)別ウインドウで開きます
I-特-51図 業種別テレワーク実施率の推移(就業者)

I-特-51図[CSV形式:1KB]CSVファイル

年収別のテレワーク実施率を見ると,年収が高くなるにつれ,テレワークの実施率が高くなる傾向があることが分かる(I-特-52図)。

I-特-52図 本人年収別 令和2(2020)年12月時点のテレワーク実施状況別ウインドウで開きます
I-特-52図 本人年収別 令和2(2020)年12月時点のテレワーク実施状況

I-特-52図[CSV形式:1KB]CSVファイル

従業員の規模別については,従業員数99人以下の会社の方が,100人以上の会社よりも1第1回緊急事態宣言前のテレワーク実施率が高く,2第1回緊急事態宣言中に更に高まったままとなっている。一方,従業員数300人以上の会社では,2第1回緊急事態宣言中に急速にテレワーク実施率が高まったが,3宣言後少し減少している(I-特-53図)。

I-特-53図 会社の従業員規模別 3時点でのテレワークの実施率の変化別ウインドウで開きます
I-特-53図 会社の従業員規模別 3時点でのテレワークの実施率の変化

I-特-53図[CSV形式:3KB]CSVファイル

(テレワークのメリットとデメリット)

テレワークを推進するには,テレワークのメリットとデメリットを確認する必要がある。テレワーク経験者は,テレワークのメリットとして,「通勤が不要になる」82.6%,「休憩時間・隙間時間を有効活用できる」58.3%,「息抜きや気分転換がしやすい」44.6%と回答し(I-特-54図),デメリットとして,「テレワークできない又は合わない職種である」40%,「社内での気軽な相談・報告が困難」38.4%,「取引先等とのやりとりが困難(機器,環境の違い等)」31.6%と回答している(I-特-55図)。

I-特-54図 テレワークのメリット(テレワーク経験者)別ウインドウで開きます
I-特-54図 テレワークのメリット(テレワーク経験者)

I-特-54図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-55図 テレワークのデメリット(不便な点)(テレワーク経験者)別ウインドウで開きます
I-特-55図 テレワークのデメリット(不便な点)(テレワーク経験者)

I-特-55図[CSV形式:2KB]CSVファイル

(男女別のテレワークの認識の違い)

テレワーク推進の流れを男性の家事育児参画の促進につなげるには,男女間のテレワークへの認識の違いを確認しておく必要がある。

テレワークを経験した就業者の女性と男性について,テレワークを経験して感じたことを比較する。男女間で4%ポイント以上の差となっている項目のうち,女性が感じている割合が高いものが「光熱費等の出費が増える」,「家事が増える」,「自分の時間が減ることがストレス」等であり,女性についてはマイナス要素が高い。一方,男性については,「通勤時間分を有意義に使える」,「通勤が少なくなりストレスが減る」,「家族と一緒の時間が増えてよい」等のプラス要素と,「時間のメリハリがつかず,勤務時間外も働いてしまう」,「自分の仕事のスペースを十分に確保できない」等のマイナス要素がある。女性は,家庭生活においての課題を感じ,男性は仕事についての課題を感じていることが分かる(I-特-56図)。

I-特-56図 テレワークを経験して感じたこと(テレワークを経験した就業者)別ウインドウで開きます
I-特-56図 テレワークを経験して感じたこと(テレワークを経験した就業者)

I-特-56図[CSV形式:1KB]CSVファイル

妻が無業の家庭では,妻の方が「家事が増える」,「自分の時間が減ることがストレス」,「家族といる時間が長いことがストレス」,「配偶者・パートナーが家事・育児に協力的でなくストレス」等,マイナス要素がより顕著となっている(I-特-57図)。

I-特-57図 テレワークを経験して感じたこと(夫がテレワーク実施者・妻が無業)別ウインドウで開きます
I-特-57図 テレワークを経験して感じたこと(夫がテレワーク実施者・妻が無業)

I-特-57図[CSV形式:1KB]CSVファイル

(テレワーク導入と男性の家事・育児時間の変化)

テレワーク導入による男性の家事・育児時間への影響を見てみる。テレワークを継続している男性の家事・育児時間は,令和2(2020)年5月に増加し,同年12月もほぼ同水準となっているが,テレワークを中止した男性の家事・育児時間は,令和2(2020)年5月に若干増加したものの,同年12月には減少している(I-特-58図)。

I-特-58図 テレワークの継続状況別 男性の家事・育児時間の変化の推移(平均値)別ウインドウで開きます
I-特-58図 テレワークの継続状況別 男性の家事・育児時間の変化の推移(平均値)

I-特-58図[CSV形式:1KB]CSVファイル

(今後のテレワーク継続意向)

今後のテレワーク継続意向を見ると,就業者全体の36.7%がテレワーク実施を希望している(I-特-59図)。男女別で見ると,小3以下の子供がいる男女はともに,「今後もテレワークをしたい」が39.2%と,テレワークの継続に積極的である(I-特-60図)。

I-特-59図 今後のテレワーク実施希望(令和2(2020)年12月時点のテレワーク実施状況別)別ウインドウで開きます
I-特-59図 今後のテレワーク実施希望(令和2(2020)年12月時点のテレワーク実施状況別)

I-特-59図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-60図 今後のテレワーク継続意向(小3以下の子供の有無別)(就業者)別ウインドウで開きます
I-特-60図 今後のテレワーク継続意向(小3以下の子供の有無別)(就業者)

I-特-60図[CSV形式:1KB]CSVファイル

ポストコロナ時代を見据えると,テレワークの役割はますます重要であり,使用者が適切に労務管理を行いながら,労働者が安心して働くことのできる形で良質なテレワークを推進し,定着させていくことが必要である。厚生労働省では令和3(2021)年3月25日にガイドラインの改定15を行った。

15テレワークの推進を図るためのガイドラインであることを明示的に示す観点から,ガイドラインのタイトルを「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」に改定し,労務管理全般に関する記載の追加等を行った。

(地方移住)

新型コロナの感染拡大によって,地方移住への関心は高まったのだろうか。1新型コロナウイルス感染症拡大前の令和元(2019)年12月,2第1回緊急事態宣言解除後の令和2(2020)年5月,3令和2(2020)年12月のそれぞれの時点を見てみると,地方移住への関心が高まっていることが分かる。特に20歳代の高まりが大きい。また,東京圏在住で地方移住に関心がある人の地方移住への関心の理由は,「人口密度が低く自然豊かな環境に魅力を感じたため」28.8%と最も高く,「テレワークによって地方でも同様に働けると感じたため」24.1%,「ライフスタイルを都市部での仕事重視から,地方での生活重視に変えたいため」17.9%の順に高く,また,「現住地の感染症リスクが気になるため」15.5%,「感染症を契機に地元に帰りたいと感じたため」6.2%と新型コロナ感染拡大に直結するものも見られる(I-特-61図)。実際に居住地を変えた人は,その理由として,「コロナウイルスの影響を避けるため」「家にいる時間が長く手狭になったため」「テレワークがしづらい状況だったため」と,新型コロナ関連の理由が入ってきている(I-特-62図)。

I-特-61図 地方移住への関心と理由別ウインドウで開きます
I-特-61図 地方移住への関心と理由

I-特-61図[CSV形式:2KB]CSVファイル

I-特-62図 居住地の変化別ウインドウで開きます
I-特-62図 居住地の変化

I-特-62図[CSV形式:1KB]CSVファイル

(イ) 人材育成,就労支援~デジタル,社会福祉などの成長分野等へのシフト

(成長分野等へのシフト)

第1節で見てきたように,コロナ下の女性の雇用への影響は非常に大きい中で,コロナ下においても医療・福祉,情報通信業等,就業者数が増加している産業がある(I-特-3図参照別ウインドウで開きます)。有効求人倍率を見てみると,第1回緊急事態宣言後,飲食業関連の職業を中心にサービスの職業の減少幅が非常に大きいが,介護サービスの職業については,3.4倍以上で推移しているほか,新規求人数も毎月6万6,000人以上で推移しており,ニーズが高い。また,IT関連の転職求人倍率も非常に高い(I-特-63図)。今後,このようなニーズのある分野や成長分野等へのシフトが重要であり,そのためには,人材育成,マッチング,勤務環境の改善等が必要である。

I-特-63図 有効求人倍率・新規求人数(職業別)/転職求人倍率(職種別)(業種別)別ウインドウで開きます
I-特-63図 有効求人倍率・新規求人数(職業別)/転職求人倍率(職種別)(業種別)

I-特-63図[CSV形式:11KB]CSVファイル

所定内給与額は,男女別,雇用形態別で格差があり(I-特-64図),情報通信業,医療・福祉に焦点を当てて,所定内給与額を経験年数別に見てみると,男女間格差に加え,介護関連の職業の所定内給与額が総じて低くなっていることが分かる(I-特-65図)。

I-特-64図 所定内給与額(雇用形態別・年齢階級別)別ウインドウで開きます
I-特-64図 所定内給与額(雇用形態別・年齢階級別)

I-特-64図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-65図 所定内給与額の推移(産業別・勤続年数階級別)(職業別・経験年数階級別)別ウインドウで開きます
I-特-65図 所定内給与額の推移(産業別・勤続年数階級別)(職業別・経験年数階級別)

I-特-65図[CSV形式:2KB]CSVファイル

(2) 新しい暮らし方に向けて

(ア) 家事・育児・介護

(仕事・家事・育児時間の変化)

第1回緊急事態宣言を経て,1日の時間の使い方に変化は生じたのだろうか。男性の家事・育児参画は進んだのだろうか。ここからは,1日の時間の使い方について,有業者全体と夫婦と子供から成る世帯の仕事のある1日の時間の使い方を見てみる。

令和2年度調査(令和2(2020)年11月~ 12月調査)と令和元年度調査(令和元(2019)年12月調査)を比較すると,有業者全体では,仕事時間は,女性15分減少,男性25分減少し,家事時間は大きな変化はなし,育児時間は女性20分増加,男性21分増加と男女ともに増加した。夫婦と子供から成る世帯では,仕事時間は,女性36分減少,男性25分減少,家事時間は大きな変化はなし,育児時間は女性30分増加,男性24分増加となっており,仕事時間が減少した分,育児時間が増加し,男性の育児参画が進んだように見える。ただし,女性の育児時間も同様に増加しており,また家事時間については変化がないことから,女性が男性の2倍以上,家事・育児をしている傾向は,第1回緊急事態宣言前も宣言後も変わらない(I-特-66表)。

I-特-66表 1日の時間の使い方別ウインドウで開きます
I-特-66表 1日の時間の使い方

I-特-66表[CSV形式:2KB]CSVファイル

(介護の状況)

介護については,介護時間を,令和2年度調査(令和2(2020)年11月~12月調査)と令和元年度調査(令和元(2019)年12月調査)で比較すると,有業者全体では,女性22分減少,男性16分減少し,無業者全体では女性16分増加,男性19分増加となっている(I-特-66表)。介護頻度については,「有配偶者・介護対象有」で見てみると,女性の方がどの項目においても「ほぼ毎日・毎回する」割合は高いものの,家事や育児ほどの男女差は見られない(I-特-67図)。

I-特-67図 令和2(2020)年12月時点の介護頻度(介護対象有)別ウインドウで開きます
I-特-67図 令和2(2020)年12月時点の介護頻度(介護対象有)

I-特-67図[CSV形式:2KB]CSVファイル

(男性の家事参画について)

第2節で概観したとおり(I-特-39図参照別ウインドウで開きます),第1回緊急事態宣言中は男性も家事時間が増えたとの回答が2割となっていた。有配偶者の令和2(2020)年12月の家事頻度を見てみる。令和2 年度調査(令和2(2020)年11月~12月調査)と令和元年度調査(令和元(2019)年12月調査)を比較すると,有配偶者及び小3以下の子供がいる世帯において,男性で家事を「まったくしない」という割合が全ての項目において僅かではあるが減少しており,男性の家事参画が増加する兆しがみられる(I-特-68図,I-特-69図)。

I-特-68図 令和2(2020)年12月時点の家事頻度別ウインドウで開きます
I-特-68図 令和2(2020)年12月時点の家事頻度

I-特-68図[CSV形式:2KB]CSVファイル

I-特-69図 小3以下の子供有 令和2(2020)年12月時点の家事頻度別ウインドウで開きます
I-特-69図 小3以下の子供有 令和2(2020)年12月時点の家事頻度

I-特-69図[CSV形式:2KB]CSVファイル

(家庭内の家事・育児分担の変化)

令和元(2019)年12月の新型コロナ感染拡大前と令和2(2020)年12月と比べて,18歳未満の子を持つ親の家事・育児に関する家庭内の分担の変化を見てみる。「新型コロナウイルス感染症拡大を契機に役割分担が変化し,現在もその変化がおおむね継続している」は16.3%となり,「新型コロナウイルス感染症拡大を契機に役割分担が変化したが,現在はおおむね元に戻っている」は9.4%であった。役割分担が元に戻った理由として,「自分の職場の変化」が28.6%と最も多く,続いて「配偶者の職場の変化」が25.3%,「子供の環境の変化(学校再開等)」が24.7%となった(I-特-70図)。

I-特-70図 家庭内の家事・育児分担の変化(18歳未満の子を持つ親)別ウインドウで開きます
I-特-70図 家庭内の家事・育児分担の変化(18歳未満の子を持つ親)

I-特-70図[CSV形式:1KB]CSVファイル

令和元(2019)年12月の新型コロナ感染拡大前と令和2(2020)年12月と比べて,家事・育児に関する家庭内の役割分担の変化を見てみると,「夫」「夫と妻」の家事・育児の役割が増加した世帯の約42%が「夫婦の関係が良くなった」としている(I-特-71図)。

I-特-71図 家庭内の家事・育児分担の変化と夫婦関係の変化別ウインドウで開きます
I-特-71図 家庭内の家事・育児分担の変化と夫婦関係の変化

I-特-71図[CSV形式:1KB]CSVファイル

(イ) 結婚への関心・家族

妊娠届出数については,令和2(2020)年5月から7月に大幅な減少が見られた。同年8月から10月にかけては下げ幅は軽減している。また,結婚への関心を見てみると,新型コロナ感染拡大前と比べて,全体では,「関心が高くなった」は7.3%(第1回),7.8%(第2回)となり,最も高かったのは20歳代で,それぞれ12.4%(第1回),11.7%(第2回)となっている(I-特-72図,I-特-73図)。

I-特-72図 妊娠届出数の推移別ウインドウで開きます
I-特-72図 妊娠届出数の推移

I-特-72図[CSV形式:1KB]CSVファイル

I-特-73図 結婚への関心(未婚者)別ウインドウで開きます
I-特-73図 結婚への関心(未婚者)

I-特-73図[CSV形式:1KB]CSVファイル

令和2(2020)年12月時点の幸福度を配偶者の有無別で見てみると,得点7点以上(幸せ寄り)の割合は,「配偶者がいる女性」で52.4%,「配偶者がいる男性」で52.8%,「配偶者のいない女性」で28.9%,「配偶者のいない男性」で21.6%となっている(I-特-74図)。

I-特-74図 令和2(2020)年12月時点の幸福度別ウインドウで開きます
I-特-74図 令和2(2020)年12月時点の幸福度

I-特-74図[CSV形式:1KB]CSVファイル

コロナ下で対人関係の直接的なつながりが希薄になる中,家族関係を求める動き,家族の存在を心の拠り所にしている人が多いことがうかがわれる。一方で,外出制限により家族が一日中家にいることが,ストレスの要因となっている女性もいた。もともとうまくいっている家族にはプラスに働き,問題を抱える家族においてはその問題が顕在化した結果と考えられる。

3 男女共同参画の未来

新型コロナの感染拡大により,世界規模で日常生活に大きな変革が起こった。ワクチン接種が広まり,収束に向かえば,また元の日常に戻れるのかもしれない。しかし,今後も,感染症のリスクは残る。このコロナ下で顕在化した様々な男女共同参画の課題を解決し,未来を切り開いて行かなければ,ジェンダー・ギャップ指数120位16の我が国は,更に世界に後れを取ってしまうおそれがある。

第1節で概観した通り,就業面では,サービス業,非正規雇用労働者の女性割合が高いことに加え,学校の休校等が,女性の雇用へ大きな影響を与えたことが明らかになった。女性の所得の減少が家計への厳しい影響につながった家庭もあった。とりわけ,ひとり親世帯は厳しい状況に置かれた。

前述した「コロナ研究会」17の報告書では,女性の雇用,所得,家計を直撃した要因を分析している。具体的には,我が国の家族形態が変容し,ひとり親世帯や単身女性が増加していることに加え,共働き世帯における女性の収入が家計に占める割合も高まっており,女性の収入の減少が直に家計に大きな影響を与えるなど,社会構造が変化しているが,それにも関わらず,依然として固定的な性別役割分担意識等に基づく構造的な問題が存在し,それが様々な困難の根底にあることを指摘している。

また,同報告書は,「社会の諸制度の前提ともなっているジェンダー格差を所与とする規範や慣行にメスを入れない限り,ポストコロナのニューノーマルな世界において我が国は一歩も二歩も大きく後れをとることになる。」と警鐘を鳴らしている。

第2節では,コロナ下でDV(配偶者暴力),性犯罪・性暴力に関する相談件数が増加したこと,女性の自殺者が増加したことを概観した。緊急事態宣言による外出自粛や在宅時間の増加等がDV(配偶者暴力)の増加につながるなど,コロナ下での女性に対する暴力の増加・深刻化が懸念される。暴力の被害を受けた女性や心身の健康に深刻な不安を抱えることとなった女性への相談・支援体制の充実が,喫緊の課題である。

第3節で概観した通り,我が国では,緊急事態宣言に伴う外出自粛を契機に,テレワークが普及・定着しつつあり,仕事時間の減少は,男性の家事・育児参画を促した。男性の家事・育児参画は,良好な家族関係の構築のきっかけとなっている。しかしながら,テレワークの継続希望率は男女とも高いものの,緊急事態宣言が解除されると元に戻っていく傾向も見受けられ,後戻りさせない政策・仕組が政府,労使双方に必要である。

また,テレワークによって柔軟な働き方が可能になったことで,女性が働きやすくなった。一方,家事・育児等の時間・分担が女性に偏ったまま,家族と過ごす時間が増えることにより女性の家事・育児時間が増加し,新たな負担増加にならないよう留意が必要である。夫婦間の家事・育児分担は,まずは家庭内の話し合いにより解決されるべき問題であるが,政府,企業においても,男性の育児休業取得促進や働き方改革などにより,男性が家事・育児参画しやすい環境づくりへの後押しが求められる。

現在は,産業構造の転換点でもある。デジタル等成長分野への女性の雇用のシフトは,女性のスキルアップが伴えば,勤務環境の改善,収入増加,地位向上につながることが期待される。既に女性のデジタル人材育成やマッチング等の就労支援等,各種施策が講じられているが,一層強力に推し進めていく必要がある。また,慢性的な人手不足の介護分野への雇用のシフトを進める上では,勤務環境の改善が重要である。

新型コロナという未曽有の危機とそれに伴う経済社会の構造変化は,女性の地位向上を図るチャンスでもある。この流れを後押しするよう,時期を逸せず,ジェンダー視点を踏まえた政策を次々と打つ必要があり,そのためには,意思決定の場における女性の参加,女性の政治参画も重要である。この機に,ポストコロナ時代を見据えた男女共同参画を強力に進め,我が国の一人ひとりがこの国に生まれてきて良かったと思える社会,誰一人取り残さない社会を実現する。そこにこそ,男女共同参画の未来がある。

16第1章第3節(国際的な指数)参照

17本節1,コラム2参照。

コラム2 コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会の役割と意義

参考1 「令和2年度 男女共同参画の視点からの新型コロナウイルス感染症拡大の影響等に関する調査(内閣府男女共同参画局委託調査)」

参考2 「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(第1回,第2回)(内閣府政策統括官(経済社会システム担当)調査)」