平成23年版男女共同参画白書

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第2節 地球社会の「平等・開発・平和」への貢献

1 「ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ」に基づく取組の推進

(1) 基本的な考え方

開発途上国における社会通念や社会システムは,一般的に男性の視点に基づいて形成されていることが多く,様々な面で女性はいまだ脆弱な立場に置かれている。

開発における男女の平等な参加と公平な受益に向けて努力することは,一義的にはその国自身の課題であるが,開発援助を実施するに当たっても男女共同参画の視点を考慮することが必要である。こうした観点から,我が国は平成17年3月に「ジェンダーと開発(GAD:Gender and Development)イニシアティブ」を策定し,個々の人間に着目した人間の安全保障の視点に基づき,全ての政策・事業においてジェンダーの視点に立った活動が行われるよう,企画・立案・実施・モニタリング・評価のあらゆる段階で開発課題やニーズ,インパクトを明確にしていく「ジェンダー主流化」を推進している。


(2) 推進のための取組

ODAにおいてジェンダー平等の視点を反映するには,援助対象国における男女共同参画の現状を的確に把握することが重要である。具体的な取組として,援助対象国99公館に配置している「ODAジェンダー担当官」を活用し,平成17年度よりジェンダー平等の視点に配慮した好事例等を集め,その情報を関係者間で共有するようにしている。

ODAの実施機関として,独立行政法人国際協力機構(JICA)は,ジェンダー平等や女性の地位向上を目的とする協力事業を実施している。この一環として,各セクター・課題における事業のインパクトが男性・女性の双方に及ぶよう,それぞれが抱える問題やニーズの違いなどの把握に努めており,その結果が協力事業の計画・実施・評価サイクルにおいて適切に反映されるように仕組みを整えつつある。

開発援助事業の実施に当たっては,女性など社会的に弱い立場にいる人々が負の影響を受けることがないように,環境社会配慮ガイドライン等に基づいて配慮している。さらに,各部署(在外事務所,国内機関を含む。)に配置している「ジェンダー責任者」,「ジェンダー担当者」への働きかけを強化し,開発途上国におけるジェンダー平等や女性の地位向上に貢献する協力事業の実施を促進している。また,ジェンダー平等の視点を組み込んで効果を上げた協力事業の成功例の収集,各開発セクター・課題と男女格差との関係を説明する具体例の収集,他援助機関との積極的な連携・意見交換を通じた事例・手法の研究,職員その他援助関係者に対する研修等といった取組を行っている。


(3) 様々な枠組みを活用した援助の実施

我が国は人間の安全保障を推進する国として,二国間及び多国間協力を通じ,開発途上国におけるジェンダー平等と女性の地位向上に向けた取組を支援している。具体的には,無償資金協力(草の根・人間の安全保障無償資金協力及び日本NGO連携無償資金協力を含む。),有償資金協力,専門家の派遣等の技術協力,国連人間の安全保障基金やUNDP・日本WID基金(2003年に日・UNDPパートナーシップ基金に統合)等,様々な援助枠組みを活用し,より効果的な事業の実施を図っている(二国間協力については第2-12-1表,多国間協力については本章2(2)参照)。

第2-12-1表 様々な枠組みを活用した援助の実施
第2-12-1表 様々な枠組みを活用した援助の実施

また,我が国は,人間の安全保障に直結する地球規模の課題として,特にミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向けて,進捗が大きく遅れているMDG5(妊産婦の健康改善)を含む保健分野における取組を重視している。これに関連して,2010(平成22)年6月のG8ムスコカ・サミットにおいて,「ムスコカ・イニシアティブ」の下,母子保健分野で,2011(平成23)年から5年間で,最大500億円規模(約5億ドル相当)の支援を追加的に行うことを表明した。また,「保健と開発に関するイニシアティブ」が21年度をもって終了したことを受け,2010年9月のMDGs国連首脳会合において,保健関連MDGsの達成に貢献するための新たな国際保健政策を発表し,2011年からの5年間で50億ドルの支援を実施することを表明した(世界基金への当面最大8億ドルの拠出及びムスコカ・イニシアティブの下での支援を含む。)。新国際保健政策では,産前から産後まで切れ目ない手当を確保する母子保健分野における具体的な支援モデル(EMBRACE)を提唱し,今後,国際機関,ドナー,市民社会等と共に43万人の妊産婦の命を救うための支援を実施していく。

新国際保健政策と同時に,我が国は新教育協力政策2011-2015も発表した。現在も学校に通うことのできない子どもの半数以上が女子であることを受け,同政策では「スクール・フォー・オール(School for All)」モデルの下,脆弱な立場に置かれることの多い女子にとっても通いやすい学習環境を実現することを目指している。

2 国連の諸活動への協力

(1) 会議・委員会等への協力

2010(平成22)年10月,女性・平和・安全に関する国連安保理決議第1325号が採択10周年を迎えたことから,安保理閣僚級公開討論が開催され,我が国からは菊田真紀子外務大臣政務官が出席し,女性の保護と参画の強化を通じた平和の実現についての我が国の考え方や取組について,ステートメントを行った。また,2010(平成22)年10月から開催された第65回国連総会第三委員会における「女性の地位向上」に関する議論に,我が国も積極的に参加した。さらに,2011(平成23)年2月から3月にかけては,「完全雇用とディーセント・ワークへの女性の平等なアクセスの促進のためを含む教育,訓練及び科学・技術への女性と女児のアクセス及び参画」をテーマに,第55回国連婦人の地位委員会(CSW)が開催された。我が国からは橋本ヒロ子日本代表がステートメントを行い,我が国の取組を紹介するとともに,議論に積極的に参加した。


(2) 国連機関・基金等への協力

2010(平成22)年7月の国連総会決議によって,ジェンダー関係の国連4機関を統合して「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのための国連機関(UN Women)」を設立することが決定され,同機関は2011(平成23)年1月より正式に活動を開始した。我が国は,2010年11月に行われた選挙の結果,初代執行理事国に選出され,2011年1月の執行理事会にも積極的に参加した。平成22年度には,国連婦人開発基金(UNIFEM,UN Womenに統合)に対して,49.8万ドルの拠出を行い,これに加え,2011年1月,アフガニスタンにおける女性に対する暴力撤廃支援のため,450万ドルをUN Womenに対して拠出した。

また,平成22年度は日・UNDPパートナーシップ基金に146万ドルの拠出を行った。これまでに74か国,89件のプロジェクトに対し,総額2,281万ドルの支援を行っている。さらに,我が国は,国連教育科学文化機関(UNESCO)に信託基金を設置し,アジア,アフリカを中心に世界各地において教師教育や識字教育など途上国における人材育成事業に協力しているほか,財団法人ユネスコ・アジア文化センター及び社団法人日本ユネスコ協会連盟においても,成人非識字者の約3分の2を擁するアジア・太平洋地域の女性に対する教育の普及に積極的に協力している。

これらに加え,国連に設置した人間の安全保障基金を通じ,特にジェンダー平等に焦点を当てたプロジェクトをこれまで43か国において42件,計約7,534万ドルの支援をしている。

また,3月8日の国際女性の日に内閣府特命担当大臣(男女共同参画)からのメッセージを寄せた。

3 女性の平和への貢献

我が国は,平和を推進する国際機関の役割の重要性及び紛争時において最も支援を必要とする人々は女性や子どもであることを考慮し,人間一人一人に着目し人々の保護及び能力強化を行う人間の安全保障の視点から,女性に対する支援を行っている。例えば,国連難民高等弁務官事務所(UNHCR),国連児童基金(UNICEF)等の人道支援国際機関に対して積極的に協力しているほか,我が国が国連に設置した人間の安全保障基金を通じて国連婦人開発基金(UNIFEM, UN Womenに統合)等がコロンビアにおいて実施する女性を含む脆弱なグループの人間の安全保障状況を改善するプロジェクト等を支援してきた。

また,防衛省・自衛隊では,女性の自衛官及び事務官等を国際平和協力活動の現場に派遣している。近年では,平成22年1月に発生したハイチ大地震に対する国際緊急援助活動(医療・空輸活動)の実施に際して女性自衛官12名及び女性事務官2名を派遣したほか,23年2月からは国連ハイチ安定化ミッション(MINUSTAH)の自衛隊施設部隊要員として女性自衛官6名を派遣してきた。さらに,同年3月には,女性自衛官の個人派遣としては初めて国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)における軍事連絡要員として1名を派遣している。

4 国際分野における政策・方針決定過程への女性の参画の促進

我が国は,国際会議への政府代表団への女性メンバーの参加も積極的に進めている。2010(平成22)年第65回国連総会第三委員会においては,篠原梓氏を日本政府代表顧問に任命し,また,2011(平成23)年の国連婦人の地位委員会においては,橋本ヒロ子氏を日本代表に任命し,それぞれ政府代表団の一員として派遣した。なお,女子差別撤廃条約に基づき設置された女子差別撤廃委員会では,林陽子弁護士が委員を務めている。

また,日本人女性の国際機関への参画も進んでおり,国連を含む国際機関における日本人の女性職員数(専門職)は,1975(昭和50)年の19人から2010(平成22)年には470人と大幅に増加している。

5 あらゆるレベルにおける国際交流・協力の推進

(1) あらゆるレベルにおける国際交流・協力の推進

外務省では,平成7年度よりアラブ諸国との女性交流プログラムを実施しており,22年度は,看護分野でリーダーとして活躍してきたヨルダン,エジプト,パレスチナ自治区の女性からなる代表団が我が国を訪問し,我が国の看護関係者と意見交換を行った。

ASEAN(東南アジア諸国連合)のASEAN女性委員会(ACW:ASEAN Committee on Women)は,日本,中国,韓国の3か国を招いてASEAN+3女性委員会(ACW+3)を開催しており,2010(平成22)年11月,カンボジアのシアムリアップで第2回ASEAN+3女性委員会(ACW+3)会合が開催された。「ジェンダー主流化及びジェンダー予算化:成果,格差及び挑戦」をテーマに意見交換が行われ,我が国からも内閣府から男女共同参画社会の形成を促進するための取組等について報告を行った。

2010(平成22)年11月,フィリピンにおいて,国連統計部,フィリピン国家統計調整委員会の共催により,第3回ジェンダー統計グローバルフォーラムが開催された。我が国からも,内閣府から高齢化が進展する中での課題と男女別等統計(ジェンダー統計)の取組等についてプレゼンテーションを行った。また,2011(平成23)年2月に開催された第42回国連統計委員会において,ジェンダー統計に関するプログラムレビューが取り上げられ,我が国からも,内閣府から第3次男女共同参画基本計画の策定等の取組について紹介した。


(2) 女性の教育分野における国際交流・協力

独立行政法人国立女性教育会館では,アジア太平洋地域における男女共同参画を推進する女性教育の人材育成を目指してアジア太平洋地域の女性リーダーエンパワーメントセミナーを実施するなど,途上国における女性教育の推進の支援等を実施している。また,海外の関係機関との連携協力として,協定を結んでいる韓国両性平等教育振興院,フィリピン大学等との交流を深めるとともに,カンボジア王国女性省との協定を締結した。平成22年7月には,「研究分野における女性研究者のエンパワーメント」等をテーマとして日米の大学等研究機関より女性研究者を集めた「女性研究者のエンパワーメントと新領域創成に向けた日米シンポジウム」を開催し,ハワイ大学長の基調講演を行うなどして交流を深めた。

また,同年10月には「女性リーダーの育成に果たす教育の役割」をテーマとして,「平成22年度女性のエンパワーメント国際フォーラム」を開催した。

(3) 経済分野における国際協力

2010(平成22)年は日本がAPEC議長を務め,APECの3つの女性関連会合を開催した。9月に東京で第15回女性リーダーズネットワーク(WLN)会合が,また,埼玉県嵐山町で第8回男女共同参画担当者ネットワーク(GFPN)会合が,10月に岐阜市で女性起業家サミット(WES)が一連の流れで開催された。WLN会合ではAPEC首脳及び閣僚に向けて提言が採択され,提言を踏まえた女性の活躍の重要性について,APEC首脳宣言等ハイレベル会合の成果文書に反映された18

18 WLNについては,第1部第3章第1節のコラムを参照。