平成20年版男女共同参画白書

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第3節 女性が中心的役割を果たす地域活動の重要性

これまで地域における女性の活躍の現状,女性が中心となって活躍する地域活動の特徴をみてきた。ここでは,今後の地域の変化に伴う,女性が中心となって活躍する活動の重要性の高まりについて述べ,そのような活動が進化するためのポイントと行政に求められる役割について考察する。

(地域をめぐる急速な変化)

人口減少,少子高齢化の進展,産業構造の変化,人々のライフスタイルの変化等の中で,人々にとって身近な暮らしの場である地域は急速に変わってきている。経済的,社会的活力の低下や産業力の低下といった課題を抱える地域も多くなってきている一方,近隣との関係,世代間の交流といった人々のつながりが希薄化し,従来はこうしたつながりが担ってきた互いに助け合い,安心・安全な暮らしを守り,人を育てる機能が失われつつある。

(女性が中心的役割を果たす地域活動の重要性の高まり)

地域において,こうした変化が今後一層進展することが見込まれる中,地域が抱える様々な課題を解決し,豊かで持続可能性のある社会を構築していくために,女性が中心となって活躍する地域活動の重要性は今後ますます高まると考えられる。そのように考えられる主な理由として,次の三点を挙げることができる。

第一に,このような活動は,地域の実情に合致した主体的な取組であるということである。地域は様々な課題を抱えているが,地域の多様化が進む中,その課題は地域によって一様ではない。それぞれの地域に根ざし,その実情・ニーズに的確にきめ細かに対応した地域の主体的な取組でないと,取組の効果は限定的なものにとどまってしまうだろう。その意味で,地域の女性自身から発した,身近なものを大切にし,育てていこうという気持ちと身近な地域や生活に密着した視点に基づく,主体的な活動の展開は,地域の課題解決にとって重要な意義がある。

第二に,多様な主体や新しい視点を活かすことができるということである。女性が中心となって展開する地域活動は,地域に根ざした多様な主体を緩やかにつなぐことによって,それぞれの強みの活用や新しい視点の導入を図る。これによって,これまで十分に活かされていなかった力を活かし,これまで気付かなかった新しい視点や発想を活かすことができる。新しい視点や発想は,地域の新しい魅力や可能性を発見することに役立つ。こうした緩やかなつながりは,希薄化した地域のつながりを再生し,その機能を回復する。きめ細かなコミュニケーション能力と高い調整能力に基づく女性のリーダーシップは,こうした緩やかなつながりを持続させ,発展させる。

第三に,波及効果や浸透効果が大きいということである。女性が中心的な役割を果たして実践する地域活動は,地域に根ざした地道に日々継続して実践される活動である。こうした地域に根ざした地道に取組の蓄積は,容易に変わることが難しい意識の変革をもたらし,そして,人々の行動を変え,大きな波及効果や浸透効果を地域にもたらす。地域活動によって育成された人材が,更なる活動を展開する。場合によっては,そうした人材が政策・方針決定の場に参画することにより,政策や方針の決定を通じて,地域により大きな波及効果を創出する。こうした波及効果や浸透効果は,地域に幅広く着実な変化をもたらし,地域の抱える課題を解決し,地域を支える大きな力となる。

(女性が中心的役割を果たす地域活動が進化するための5つのポイント)

女性が中心的役割を果たす地域活動が,持続し,様々な成果を地域にもたらし,更なる活動を展開し,進化を遂げていくためのポイントとして次の五点を挙げることができる。

第一に,多様な主体の参画を確保し,緩やかなネットワークを形成・持続することである。地域団体,NPO,行政等多様な組織・団体,異なる世代の個人等,多様な主体の参画を確保し,ネットワークを形成し,持続させることによって,それぞれの主体の強みを活かし,新しい視点・発想を活かすことができる。そうした強みや新しい視点・発想の活用があいまって大きな広がりを持った活動に結実していく。まさにダイバーシティの価値を活かすことができるのである。そうした各主体の強みや新しい視点・発想は新たな活動を生み,更なる活動展開につながる。地域における一つの課題の解決にとどまらず,別の課題の解決へと活動の幅も広がる。

第二に,中心的役割を果たす女性にコミュニケーション能力や調整能力に富んだ新しい「連携・協働」型のリーダーシップがあることである。第一のポイントである,多様な主体の参画の確保や緩やかなネットワークの形成・持続のためには,多様で対等な主体間をつなぐ新しい型のリーダーシップが中心的役割を果たす女性に求められる。具体的には,多様な主体が活動の目的や意義等について意識を共有し,その下に結束できるよう,活動の理念を明確に打ち出すきめ細かなコミュニケーション能力に加えて,その時々のニーズに応じて各主体の強みを活かす高い調整能力や的確で柔軟な対応能力が求められる。

第三に,意識改革・行動改革である。活動によって意識が変わり,行動が変わり,それが新たな活動の展開につながる。例えば,家族の意識が変わることによって,中心的な役割を果たす女性の活動を家族が積極的にサポートするようになることや,ネットワークを構成する主体が,活動の意義を認識し,「世帯や組織の代表は男性」といった固定的役割分担意識等これまで持っていた意識を変え,それに伴って行動を変え,それが新たな活動展開へとつながるといったことが考えられる。

第四に,人材育成の好循環を創出していくことである。実際に活動に携わることを通じて,人々が力をつけ,その人々が更なる活動を展開するという好循環を生み出す。例えば,活動に携わったことで,第二のポイントであるコミュニケーション能力や調整能力に富んだ新しい型のリーダーシップを身に付け,それによって,活動の核となる役割を担うようになる。活動に携わった人々の中から,地方議会議員や審議会委員,農業委員等,地域における政策・方針決定過程に参画する人が育ち,政策・方針決定過程において活躍し,それが新たな活動の展開につながるケースもある。

第五に,活動の成果や活動に対する積極的な評価である。活動が成果を生み出し,活動に携わる人々がその成果を実感することでやりがいや楽しみを見いだし,更なる活動を展開する。或いは,活動に対して各方面から積極的な評価を受けることにより,携わる人々が活動の意義を改めて見直し,モチベーションを上げることで,活動が持続し,活性化され,更なる活動の展開につながる。

(行政に求められる様々な支援)

こうした活動が進化するためのポイントに加え,行政にも女性が中心となって活躍する地域活動について支援するため,次のような役割が求められる。

第一に,地域に活力をもたらし,地域の課題の解決につながるような女性が主導する地域活動に対して,行政は様々な形で支援していくことが求められる。

具体的には,女性が中心となって活躍する地域に根ざした取組について,多様な主体をつなぐネットワークのコーディネートの役割を担ったり,多様な主体に対し交流の場を提供したり,ネットワーク形成に資する情報を提供したりする。

行政が地域の課題や地域に住む人々のニーズについての情報を提供したり,その活動に関連する専門家を活動現場に派遣したりすることにより,より地域のニーズに合った活動とし,また,活動を強化する。意識啓発や広報を実施することで活動によってもたらされる意識改革の波及効果を更に大きなものとする。

行政が地域に活力をもたらし,地域の課題の解決につながるような実践的な研修や講習を行うことにより,こうした地域の活動に携わる人材を育成していく。また,育成した人材に対して,政策・方針決定過程への参画等,様々な機会を付与していく。

加えて,活動の価値を行政が積極的に認め,評価し,活動主体に様々な機会を付与していくことも重要である。例えば,表彰をしたり,後援を行ったり,活動内容を広報誌やイベントで取り上げたりすることが考えられる。

こうした行政による様々な形での支援が活動を持続させ,刺激を与え,活動に新たな発展を創出する。

第二に,地域活動に参加しやすい環境づくりである。地域の活動に参加する意欲はあるが,情報やきっかけがないといった人々のために,情報提供やきっかけ作りを地域の実情に合わせてきめ細かく行政が行っていく必要がある。また,勤労者の多くは時間がないという理由でボランティア活動に参加できていないことから,地域活動への参加のための時間などが持てるよう,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現に向けた取組も求められる。加えて,男女共同参画についての意識啓発を行政が積極的に図っていくことは地域におけるこうした活動の基盤ともなる。

(女性が中心となって展開する地域活動の今後の可能性)

身近な地域に密着した視点や柔軟な発想に基づき,地域において女性が中心となって展開する活動は,様々な成果を地域にもたらし,人々の意識を変え,行動を変え,人々を成長させ,更なる活動の展開を生む。多様な主体の強みを活かし,これまで気付かなかった新しい視点や発想を活かすことができ,地域の新しい魅力や可能性を引き出すことに役立つ。こうした地域に根ざした活動の進化は,性別や世代を超えて,すべての人々が喜びや責任を分かちつつ,豊かで活力ある男女共同参画社会の形成にも資する。活力の低下,つながりの希薄化等,多くの課題が深刻化する地域において,女性が中心的役割を果たす活動は地域を活性化させ,地域の様々な課題を解決する鍵となるに違いない。

女性が主導し,緩やかなつながりの核となって展開する地域に根ざした活動は,これからの地域にとって,多くの可能性に満ちている。

コラム 地域における女性の活躍への支援~カンボジアの事例から~