「共同参画」2016年12月号

女性の経済的エンパワメント・各国の取組(8) 決定権をもって使う
立命館大学法学部 教授 大西 祥世

2016年10月に世界経済フォーラムが発表した日本の男女平等度は、世界で111位でした(注1)。前年度から順位を6つ下げたことに驚きましたが、その要因は政治や経済分野において決定権をもつ女性の割合が他国に比べて極端に少ないことです。近年、日本でも女性活躍促進に積極的に取り組まれていますが、他の国ではもっと加速度を上げて前進しているので、結果的に日本の順位が下がりました。

(注1) The World Economic Forum, The Global Gender Gap Report 2016, 2016.

現在の世界では、ビジネスの決定権をもつ取締役の女性割合がすでに30%超の目標に達していきいきとしている企業もあれば、トップが企業間の壁を越えて一緒に実現をめざす例もあります。「30%クラブ」(注2)という2010年にイギリスで発足した企業トップの国内ネットワークは、女性が取締役として活躍する能力を習得するための支援プログラムを、そのキャリアの早期から実施して、実際に養成された人材を積極的に登用しています。業種を超えて、トップどうしで連携してこの課題に取り組むことが、自らのビジネスの基盤となる社会の持続的な発展に必要である、という問題意識から誕生しました。

(注2) https://30percentclub.org

フェイスブック社COOのシェリル・サンドバーグはその著書『リーン・イン』において、女性はチャンスが巡ってきても遠慮しがちであったり、責任を担うことに消極的であったりするので、もっと決定権をつかんで、実際に行使することに積極的になろうと呼びかけています(注3)。自らのキャリア形成の経験と、経営者らしい視点からのメッセージです。

(注3) シェリル・サンドバーグ『リーン・イン』(日本経済新聞社、2013年)。

国内外の多くの企業では、取締役からすそ野を広げて、上級管理職や管理職の女性割合を増やすために積極的に取り組んでいます。その主な方法は、たとえば、(1)候補者のプールを増やす、つまり、管理職の担い手候補者をなるべく多く養成すること、(2)パイプラインを明確に構築する、つまり、(1)によって増えた候補者が昇進する道筋をつけること、(3)上記(1)(2)を実現するために新規採用者の男女比を6:4にすること(注4)です。雇用が流動的な欧米でも、新規採用者の男女比率を定めて、人材を養成しようという点が注目されます。

(注4) UN Women, Corporate Parity Report 2016, 2016.

ところが、こうした取組を推進しようとすると、育児や介護の担い手である社員が優遇されて、その分の負担が他の人に降りかかるために、「働きやすい職場づくり」とは真逆になってしまうこともあります。これは世界共通の課題です。

そこで、日本のある大手メーカーは、部長クラス以上では、自分の次にその職位に就く候補者3人を推薦する際に1人以上は必ず女性とするというルールを導入しました。そうするとふさわしい女性の社員を探して育てることになり、上記の(1)と(2)が円滑に進むようになりました。また、あるグローバルなコンサルティング会社は、男性がその働き方やビジネスの進め方を見直して構造を変える必要があるとして、2016年に男性がメンバーの80%を占める「主に男性のグループ」を立ち上げました。管理職の男性が、自らのハッピーなキャリアを積み重ねるための課題としてダイバーシティやインクルージョンの方法について議論をすることで、女性の活躍推進の実効性を高めようとしています。

こうした企業の努力がさらに活発になって拡がり、日本の男女平等度が反転して上昇すればうれしいと思います。

執筆者写真
おおにし・さちよ/立命館大学法学部教授。博士(法学)。専門:憲法、ジェンダーと法・政策、議会法。国連「女性のエンパワメント原則」リーダーシップグループメンバーとして活動。主著:『女性と憲法の構造』(信山社、2006年)、「国連・企業・政府の協働による国際人権保障」国際人権27号(2016年)、「『政治的,経済的又は社会的関係において,差別されない』の保障」立命館法学355号(2015年)等。