「共同参画」2016年11月号

「共同参画」2016年11月号

特集

女性に対する暴力をなくす運動について~女性に対する暴力の根絶に向けた取組~
男女共同参画局推進課暴力対策推進室

毎年11月12日~25日は「女性に対する暴力をなくす運動」期間です。漫画家の西原理恵子さんからの特に若い女性に向けたスペシャルメッセージとともに、女性に対する暴力の根絶に向けた政府の取組をご紹介します。

女性に対する暴力について

女性に対する暴力(配偶者等からの暴力、性犯罪、ストーカー行為、売買春、人身取引、セクシュアルハラスメントなど)は、女性の人権を侵害するものであり、決して許されない行為です。女性が安心して暮らせる環境を整備することは、女性活躍推進の大前提であり、政府は女性に対する暴力の被害者支援を行うとともに、暴力を容認しない社会環境を整備するための教育や啓発活動にも力を入れています。

女性に対する暴力をなくす運動

政府では、女性に対する暴力の予防と根絶に向けて、毎年11月12日~25日までの2週間、地方公共団体、女性団体及びその他の関係団体との連携、協力の下、「女性に対する暴力をなくす運動」(平成13年男女共同参画推進本部決定)を実施しています。

この運動に合わせて、地方公共団体等関係団体によるイベントや講演会等も催されます。

内閣府ではポスター及びリーフレットを作成し、国の関係機関や地方公共団体等に配布します。また、いくつかの鉄道会社の駅構内においてもポスターの掲示を行います。

今年のポスターは、「愛されていると思っていない?配偶者やパートナーからの“暴力のサイクル”は、ひとりでは抜け出せません。」をテーマとしています(裏表紙参照)。

デザインは、今年も「毎日かあさん」でおなじみの漫画家・西原理恵子さんが作成しています。また西原さんには、暴力に悩んでいる主に若い女性に向けて思いを語っていただきました(4ページに掲載)。

運動期間の初日である11月12日には、東京タワーや東京スカイツリーを運動のイメージカラーであるパープルにライトアップします。

パープル・ライトアップには、暴力根絶の呼びかけと、被害者に対して「ひとりで悩まず、まず相談をしてください。」というメッセージが込められています。

昨年は、28都道府県50か所のタワーや城などがライトアップされましたが、今年はさらに多くの施設でライトアップが行われる予定です。実施施設はホームページに掲載いたします。もし、お近くでパープル・ライトアップをご覧になる機会がありましたら、是非、SNS等を通して多くの方と共有し、「ひとりで悩まないで」というメッセージの周知にご協力をお願いいたします。(http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/index.html

暴力のサイクルと女性に対する暴力の現状

殴る、蹴るといった身体的暴行だけが暴力ではありません。心理的攻撃(大きな声で怒鳴る。無視する。連絡をすぐに返さないと怒る。携帯のやり取りを勝手に見る。)、経済的圧迫(相手のお金を自分のもののように使う。)、性的強要(無理やり性的な行為を強要する。)も暴力です。

今年のポスターデザインは、配偶者やパートナーからの“暴力のサイクル”を表しています。

暴力の後、相手が謝ったりすると、被害者は、相手は心を改めて「もう暴力はない。」「自分にも悪いところがあった。」と考え、もう一度信じようと思います。

しかし、時間がたつにつれ、相手は次第にイライラして、緊張が高まり、被害者は、「また暴力を振るわれるのではないか。」と恐怖感を募らせ、おびえるようになります。

こうして、ぎくしゃくする時期が続くと、何かのきっかけで、緊張がピークに達し、相手が再び暴力を振るうようになります。

このような状況が繰り返されると、たとえ暴力が激しくなっても、なかなかひとりではこの“暴力のサイクル”から抜け出すことができなくなると言われています。また、家族や周りの人たちにも暴力の被害が及ぶこともあります。もしかして自分も…と思ったら、ひとりで悩まず、まずはご相談ください。

内閣府が平成26年度に実施した「男女間における暴力に関する調査」によると、交際相手がいた(いる)という人のうち、交際相手から、「身体的暴行」、「心理的攻撃」、「経済的圧迫」、「性的強要」のいずれかの被害を受けたことがあると答えた人は、女性が19.1%、男性が10.6%となっています。

一方、被害を受けたことがあると答えた人に、被害の相談の有無を聞いたところ、相談しなかった人は、女性39.3%、男性55.0%、全体で45.1%でした。(図1)

相談しなかった女性の主な理由は、「相談するほどのことではないと思ったから」(41.2%)、「自分にも悪いところがあると思ったから」(27.9%)、「自分が受けている行為がデートDVとは認識していなかったから」(26.5%)となっています(図2)。


図1 交際相手からの被害の相談の有無


図2 交際相手からの暴力被害について相談しなかった女性の理由(複数回答)


また、相談した女性の主な相談先をみると、「友人・知人」(53.8%)、「家族や親戚」(21.4%)などとなっている一方、「警察」(4.0%)、「配偶者暴力支援センター(婦人相談所等)や男女共同参画センター」(0.6%)となっており、身近な人には相談していても、専門の相談機関にはあまり相談していない結果が出ています。

このように、暴力を受けていても相談していいか悩んでいる人や、自分が受けている行為が暴力であると認識していない人が多く、被害が潜在している状況がうかがえます。

“暴力のサイクル”の中にいる当事者は、なかなかひとりで抜け出すことが難しいため、暴力を受けていることに気付いていない方や誰にも相談できず悩んでいる方が、あなたの周りにいましたら、是非、相談窓口の情報をお伝えください。

―内閣府ではDV相談ナビによるサービスを実施しており、全国共通の電話番号(0570-0-55210)(ここにでんわ)にかけていただくと、お近くの相談窓口である配偶者暴力相談支援センターなどにつながります。(http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/dv_navi/index.html

スペシャルメッセージ

あなたが普通だと思って我慢していることが、実は暴力かもしれません。絶対にひとりで悩まず、相談してください。
西原 理恵子
漫画家

─こんにちは。西原理恵子です。今年も女性に対する暴力をなくす運動に寄せて、一言言わせていただきます。よろしくお願いいたします。

西原理恵子インタビュー

─特に、若い女の子に、お母さんの立場から言いたいです。高校生になって、大学生になって、彼氏ができます。女の子って、彼氏が急に怖いことを言ったりした時、「私がいけないんじゃないか。」とか、「カップルだから喧嘩はある。」と思って、どうしても我慢してしまうことが多いんです。でもね、その中には、あなたが絶対に受けてはいけない行動や行為が含まれている場合も多くあります。だから、そのような時は絶対に悩まずに専門家に相談をしてください。

<殴られなくても暴力はあります。>

─私もそうだったけど、「殴られてないのに相談していいのでしょうか。」って、判断がつかない女の子ってすごく多いんですね。そう思う子、いっぱいいると思うんですけど。暴力には、殴る以外の暴力もたくさんあります。例えば、あなたを大きな声で脅す、交友関係を制限する、お父さんやお母さんやあなたの大事な友達の悪口を言う、あなたの携帯をのぞく、あなたの人格をおとしめる、あなたを自分の持ち物のように扱う、あなたのお金を自分のものであるかのように使う、こういうことはすべて暴力です。専門家に必ず相談してみましょう。そうすれば相談員さんが様々な暴力の事例を知っていますから、あなたを良い場所に的確に導いてくれます。殴られなくても暴力はあります。それに気づいてください。

─暴力にはサイクルというものがあって、最初は楽しくてラブラブで仕方がないけど、そのうち些細な喧嘩が起こる。イライラしていたのが、もうちょっとすると、すごく怖いことを言われたり、物を投げられたり、何か壊されたり、あなたが傷つくようなことをされてしまう。そのあとまた仲直りする。だからそれを喧嘩なんじゃないかなと思っている子達って結構多いんです。でもそれを放っておくと、どんどんどんどん、暴力がひどくなっていくんですね。気が付いたらどうしようもなくなっていて、あなたの家族やあなたやいろんな人が大変な目に合うような恐ろしいことになってしまう場合もあります。

西原氏イラスト1

<暴力のサイクルから抜け出すためには、専門家に相談を。>

─相談は早ければ早いほどいいんです。絶対に親に言いたくないとか、若い女の子だったら、心配をかけたくないこともありますよね。そういう時にこそ専門家に電話をかけてください。言いたくなければ匿名でもいいんです。友達に相談してもあんまり解決しません。暴力のサイクルっていうのはプロが解決しないと、一人ではなかなか抜け出せません。それだけは心に留めておいて。そしてあなたの周りでも、誰かにつきまとわれたりとか、変な電話をかけられたり、暗に恐怖を感じるような目に遭っている子達がいたら、一言そういう相談窓口があることを教えてあげてほしいですね。

─決して、あなたはそんなひどい目にあわなければならないような人間ではありません。毅然として立ち向かわなければいけないのですけれど、ひとりじゃ怖くてできない。それはすごくわかります。そんな時に相談員さんに相談できるんだってことを、頭の隅っこにおいといてください。あなたが普通だと思って我慢していることが、実は暴力だということがたくさんあります。

西原氏イラスト2

─西原理恵子さんからの上記メッセージは内閣府のホームページでご覧いただけます。

http://www.gender.go.jp/policy/no_violence/no_violence_act/index.html


西原 理恵子
漫画家
さいばら・りえこ/
武蔵野美術大学卒業。88年デビュー。「毎日かあさん」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞や手塚治虫文化賞短編賞。「いけちゃんとぼく」「上京ものがたり」など映像化作品、「この世でいちばん大事な『カネ』の話」「スナックさいばら おんなのけものみち七転び八転び編」など著書多数。13年ベストマザー賞文芸部門。