「共同参画」2015年 7月号

「共同参画」2015年 7月号

連載 その1

NATOでの勤務 (3)
NATO事務総長特別代表(女性、平和、安全保障担当)補佐官 栗田 千寿

「女性・平和・安全保障担当NATO事務総長特別代表」補佐官としての勤務において、関連会合への参加や特別代表と要人との会談への同席などの機会はもちろん、関連イベントや平素の業務から学ぶことや驚きの多い日々を過ごしています。

連載第1回(5月号)でもお伝えしたように、ジェンダーというと女性のものと思われがちですが、欧州やNATOでは決してそうではありません。5月、NATOの作戦を司る欧州連合軍最高司令部(SHAPE:Supreme Headquarters Allied Powers Europe)で、「セブン・バイ・シェイプ(Seven by SHAPE)」というイベントが開催されました。この「セブン」は、女性の権利のため活動した7人の女性-ナイジェリア、アフガニスタン、ロシア、パキスタン、カンボジアなど-の物語を7人が語る朗読劇として、女性のエンパワーメント(励まし、動機づけ)のため世界各地で公演されてきました。元々女性の物語ですから、女性たちが朗読し、おそらく観客も女性が多かったものでしょう。しかし、NATOでは一味違います。

4人の男に集団レイプされた後、裸同然で家路につかされたパキスタンの女性。この土地では「名誉のため」こんな女性は命を絶つのが慣習でした。朗読するのはポーランド陸軍少将。ロシアでは家庭内暴力(DV)は当たり前、死ぬか殺されるまで続く暴力から女性たちを救おうとロシアで初めてのホットラインを作った女性の物語は、英国空軍中将から。7人の女性を取り巻く状況と苦悩が、並行して7人の男性の口から語られます。そんなことがあっていいのか、と観客がため息をつき疲れた頃、生き生きと再現された7人の女性たちは、それぞれの世界で周囲の抵抗に勝利を収めます。ある人は国会議員に選出され、ある人は大臣となり、また民主主義のための基金の設立に成功し、それぞれが女性の人権のため、大きな一歩を踏み出す姿が描かれ、拍手のうちに物語は締めくくられました。

ジェンダーというのはまるで大海原のような幅広い概念なので、男女限らず「よくわからない」「女性の問題」と敬遠されがちです。しかし、世界の人口は男女半々で構成されているように、ジェンダーに関する課題はもちろん女性のみでは解決できない、と言い切ることができます。まずは男性が問題認識を持ち、心(ハート)から関与するよう変化を促すことは重要、そのため女性の半生を男性が演じるこの公演はインパクトが大きかったようです。公演後の聴衆からは、出演者の6人の将軍と1人の上級曹長(軍下士官のトップ)を讃える声が絶えませんでした。そして、このようにジェンダーに理解ある男性が周囲の男性に影響を与えていくからこそ、世界は着実に変わっていくのだと考えています。


セブン・バイ・シェイプの公演



公演後の将軍たちと


執筆者写真
くりた・ちず/同志社大卒業後、平成9年陸上自衛隊入隊。第5高射特科群(八戸)、第2高射特科群第336高射中隊長(松戸)、国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)軍事連絡要員、統合幕僚監部防衛計画部防衛課防衛交流班等を経て、平成26年12月よりNATO勤務。