「共同参画」2015年 7月号

「共同参画」2015年 7月号

特集2

「暮らしの質」向上検討会提言について
内閣官房すべての女性が輝く社会づくり推進室

「すべての女性が輝く政策パッケージ」に基づく「暮らしの質」向上プロジェクトの一環として、有村治子女性活躍担当大臣の下で開催された「暮らしの質」向上検討会における議論の結果を平成27年5月25日に取りまとめました。

内閣官房では、「すべての女性が輝く政策パッケージ」(平成26年10月10日すべての女性が輝く社会づくり本部決定)に基づく「暮らしの質」向上プロジェクトの一環として、有村治子女性活躍担当大臣の下で開催された「暮らしの質」向上検討会において、暮らしの質の向上に資するハード、ソフト両面の工夫、その実現化を進めるための方策について検討を行ってきました。本提言は、同検討会における議論の結果を取りまとめたものです。

1.総論

すべての女性が輝くためには、女性が生き生きと暮らすことが重要です。また、東日本大震災という未曽有の経験をした我々日本人にとって、すべての女性が輝くということは、特別のハレの日だけ輝くということでなく、日々生き生きと暮らすという意味での輝きでありたいし、そのために心穏やかに過ごせることが大切です。

本検討会では、このような考え方の下、暮らしの質を向上させるための方策について、3つの分科会において検討を行いました。具体的には、第1分科会においてハード面(空間的側面)から、第2分科会において、ソフト面(情報や支え合いの側面)から施策を中心に検討を行うとともに、第3分科会において、持続可能な社会に継続的に変えていくための民間の創意工夫を喚起するという観点から検討を行ったところです。

2.空間づくり

人間にとって「食」が大切であるのと同様、その出口である「排泄」は本来最も重要な行為の一つです。普段のトイレ環境で排泄ができなくなることを想像してみれば、排泄がいかに人間の尊厳にも関わる行為であり、個々人の暮らしの質に強く影響を与える重大事か想像できるでしょう。また、女性は、トイレ空間で実に様々なことを行っており、トイレ空間の在り方は、女性の暮らしの質に大いに影響を与えているといえます。このため、女性が暮らしやすい空間へと転換する象徴として、トイレを中心に取り上げ、その現状を通観した上で、施策の方向性、個別施策を検討しました。

(トイレ空間の概観)

商業施設等のトイレ空間については、集客力の向上につながることもあり、快適なものへとシフトする改修の動きが見受けられますが、こうしたインセンティブの働きにくい公共トイレについては、改修がなかなか進まず、総じていえば、快適とは言い難い状況となっています。例えば、学校のトイレは、校舎の老朽化等で6K(暗い、こわい、くさい、汚い、窮屈、壊れている)と言われ、トイレを使いたくない子供たちが多い現状があります。また、排泄を恥ずかしいものとする認識も相まって暗く汚いトイレはいじめの温床になるとの指摘もあります。さらに、洋式便器よりも和式便器が多い学校は約6割に上るというデータに象徴されるように、学校のトイレの改修は進んでいません。

また、多くの人にとって公衆トイレや公園トイレは、汚い、危険といったイメージがあります。現在、こうしたイメージを払拭すべく、公衆トイレの快適さを向上させるという動きが生じています。例えば、群馬県においては、NPOぐんまと連携して、公共施設、道の駅、登山口、駅等のトイレを観光振興の一翼を担うホスピタリティ(おもてなし)として位置づけ、2003年度からビジタートイレの認証制度を導入し、清潔、安心安全、見つけやすさ、使いやすさに分類される約25の認証基準に照らして2013年度までに184か所のトイレを認証しています。認証されたトイレについては、2年更新、継続的チェック、認証の補助要件化等の工夫を行い、清掃精度の向上等の効果を上げています。

図1 小学校のトイレ形態


(防災の視点)

トイレ空間の快適さが著しく損なわれる可能性が高いのは、特に被災時です。発災から6時間以内に7割弱の者がトイレに行きたくなるというデータもあります。水の使用を制限せざるを得ない状況下で災害に対応したトイレが不足していると、短時間でトイレ環境が悪化することから、トイレをなるべく使わないよう、飲食を控え、健康被害へとつながることすらあります。また、排泄物の処理が適切になされないとトイレ空間が不衛生となり、感染症が拡大するリスクも増大します。

災害時に防災拠点となる公共施設のうち約6割が文教施設で占められています。学校が避難所となった場合、高齢者等にとって和式便器は負担が大きい、節水に対応できていない等、学校のトイレは、被災時まで考えた場合、大きな課題を抱えています。

図2 仮設トイレが被災自治体の避難所に行き渡るまでの日数


図3 震災当日の避難所のトイレ

(出典)第1分科会(第3回)資料3 日本トイレ研究所提出資料


(国際貢献の視点)

目を海外に転じると、2012年には衛生的なトイレが使えない人口は約25億人、日常的に野外排泄する人口は約10億人にのぼるとも言われており、これらの地域における排泄環境は快適さとは程遠い状況にあります。

例えば、日常的に野外排泄を行う環境では、生活用水などを通じて感染症が広がる可能性が高く、人々が生命の危険に晒されています。また、学校に女子トイレのない環境では、女子が安心して就学することは困難であり、女性は十分な教育を受けられないまま、その地位が低く据え置かれることとなります。さらに、野外排泄の環境や、屋外のトイレを使わざるを得ない環境では、夜間の使用も多く女性が性暴力や人さらいの危険に晒されることも多く存在します。途上国における排泄環境の未整備は、上述のような衛生、教育、性暴力といった様々な問題の温床となっています。

水洗トイレを設置するには、一般的には上下水道を整備する必要がありますが、我が国の企業が開発・保有する無水型・循環型のトイレの技術によって、上下水道を整備しなくてもトイレ環境を整備することが可能であり、最終的に排泄物を肥料として使用する循環型であれば、農業生産も上げることが可能となります。こうした技術を活用することによってインフラ未整備の地域で暮らす人々の生活の向上に直接寄与することが可能です。また、途上国の人々の安心・安全といった生活の向上や女性の地位向上に真面目に取り組む日本というソフトなイメージを世界に発信することができます。

例えば、アフリカの上下水道インフラの未整備地域においては、それまで「Flying Toilet」と言い、ビニール袋に排泄物を入れ、排泄物の山に投げ上げるという不衛生な排泄環境にありました。ところが、同地域において循環型無水トイレを導入し、同時に鏡を設置するなど快適なトイレ空間を設けたところ、トイレ空間で女性が身だしなみを整え、明るいコミュニケーションの場となるなど、女性の生活に大きな変化が生じたという報告があります。もともとの環境では、排泄に関わる空間に女性が集まるという現象は想像し難かったことを考えると、排泄環境一つで、人々の暮らしは大きく変わりうるということが言えるでしょう。

図4 Flying Toilet

(出典)JICA資料


(成長戦略・経済成長の視点)

国内の快適なトイレ空間づくりが進むことにより、更に経済成長の好循環を生むことも可能となると考えられます。

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、訪日外国人の増加が見込まれますが、この機会に、日本の「おもてなし文化」を凝縮・具現化した温水洗浄便座、擬音装置、節水型便器を実際に使用してもらうことにより、こうした日本製品の世界市場におけるシェアを一層拡大することが期待できます。また、こうした高機能製品に裏打ちされた快適なトイレ空間は、「おもてなし文化」という我が国のソフトパワーを発信する良い媒体としても機能するでしょう。

2020年に向けて観光客が訪れる様々な場所で快適なトイレ空間への改修が進めば、快適なトイレ空間が心の豊かさにもたらす好影響への認知が広まり、改修の機運が醸成され、国内市場でも好循環を生むと考えられます。

(地方創生)

さらに、快適なトイレ空間には集客力があることにかんがみれば、地方自治体において、公衆トイレの新設・改修、清掃活動の充実は、観光客の誘致や移住の促進に資することが期待されます。既に先進的な自治体においては、快適なトイレ環境を目指して、認証制度導入や新設・改修、清掃活動の強化といった様々な取組が始まっており、こうした取組が一層確かなものとして定着することが望まれます。

上記を踏まえ、快適なトイレ空間に向けた基本的な考え方を定める、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた改修・整備、機運醸成を行うなどの取組(ジャパン・トイレ・チャレンジ)が提言されています。

3.ネットワーク

(問題・課題を抱える女性への情報提供の在り方)

生命や人権にかかわる問題(健康、DV、虐待、セクハラ、パワハラ等)、経済的問題(借金、貧困、失業等)、精神的問題(ストレス、家庭不和、地域社会からの排除等)など、人は様々な問題を抱えています。これらに対応した行政施策や相談窓口は、既に相当程度存在し施策の見直しも順次行われていますが、どのような場合にどのような支援があるのか、相談窓口がどこにあり、どのような相談を受け付けるのか、行政が取り扱わないまでも民間機関でどこが窓口なのか、といった行政情報自体、そもそも国民に十分認識されていません。そこで、問題・課題を抱えた女性に対する必要な情報の周知方法、内容の改善が必要です。具体的には、

  • ・「女性応援ポータルサイト」の継続的改善等、インターネット上での情報提供のワンストップサービス化を図り、幅広い情報ニーズに対応
  • ・必要な情報へのアクセスを積極的に促すため、相談窓口等の電話番号等周知ポイントを絞り込み、重点的な情報提供

といった施策が提言されています。

(地域、職場、家庭における「支え合い」)

人間が生きていく上で支え合うことは必要不可欠です。特に、少子化社会の我が国において、妊娠、出産、子育て等に係る地域、職場、家庭における「支え合い」が重要であり、まずはこのような支え合いを進めるための環境整備が必要です。具体的には、働く女性の妊娠、出産、子育て等に負の影響をもたらす違法行為や周囲の理解不足が見られること、長時間労働により、男性の育児等に振り向ける時間が相対的に少ない等時間的余裕が乏しいこと、女性が子育てしながら継続して働き続けやすい職場づくりやその支援体制が不足しているなどの問題点があり、少なくとも、これらを解決するための環境整備が必要です。このため、


  • いわゆるマタニティ・ハラスメントに対する厳正な対処とこれらの行為も含めた職場全体の理解不足の解消
  • 夏の生活スタイルを変革する国民運動の展開等、長時間労働を抑制し、多様な働き方の普及等による国民の生活スタイルの変革
  • 男性の育休取得等に係る支援策の拡充等、「支え合い」を自主的に進めるための情報提供や支援の充実

などの施策が提言されています。

4.活動しやすくする工夫

女性の暮らしに関して、試みに睡眠時間について見てみると、2009年の経済協力開発機構(OECD)のデータでは、日本人の平均睡眠時間は7時間50分で、韓国(7時間49分)に次ぎ、第3位を引き離した第2位の短さであり、OECD平均(8時間18分)より28分短く、かつ、年々減少の傾向にあります。しかも、女性に限れば、日本人は7時間36分で最短(第2位(韓国)は7時間42分)、OECD平均(8時間26分)と比べると実に50分も短く、日本人男性(7時間52分)と比べても16分も短い。日本の女性は、とにかく時間のやりくりに苦労している状況が浮かび上がってきます。

豊かでゆとりある家庭生活の実現に向けて、夫婦の時間、子育て時間、睡眠時間の確保、子育てサポート、妊婦の安心・安全、地域での取組の充実、暮らしやすい生活環境を実現するための取組を推進していくことは、すべての女性にとって重要です。女性が活動しやすくするためには、まず、このような状況を改善する必要があります。

その検討に当たっては、様々な視点が考えられますが、本検討会では、出産・子育てが、女性のライフイベントとして、その後の人生設計に大きな影響を与えていると考えられることに着目し、産前産後、子育て中、介護や困難な状況など、女性の置かれたシチュエーション別に、女性の「マインドセット」(教育、先入観などから形成される思考様式、心理状態)を解き、活動しやすくするための民間の創意工夫について提言するとともに、民間における様々な取組事例を紹介しています。

図5 睡眠時間の国際比較


5.今後に向けて

女性活躍の推進を更に加速させるための取組が6月26日(金)すべての女性が輝く社会づくり本部にて決定され、トイレ環境の整備を始めとする暮らしの質の向上の取組についても、これに盛りこまれました。今後、盛り込まれた施策を実行に移すため、関係府省庁や地方公共団体とともに連携しつつ、取組を進めてまいります。