「共同参画」2013年 9月号

「共同参画」2013年 9月号

連載 その2

男女共同参画は、日本の希望(5) 少子化対策としての男女共同参画─性別役割分業型家族の限界
中央大学・教授 山田 昌弘

日本では、少子化が深刻化しています。合計特殊出生率(註1)が、1.5を割り込む状態が20年間も続き、高齢化率は23%(註2)と世界一、人口減少も始まっています。

註1:合計特殊出生率は、女性一人あたり一生涯に産む平均子ども数を計算したもの。これが、2.1を下回ると、長期的に人口減少が始まる。日本では、高度成長期は、2を超えていたが、1993年以降、1.5以下の超低出生状態が続いている。2012年は、1.41。

註2:2010年の国勢調査で、65歳以上の高齢者が23.1%と世界一。日本と同じく長期的に出生率低下が続くイタリアとドイツが20%前後。出生率が高いアメリカは13%、少子化が始まったばかりの韓国でも11%程度である。

日本で少子化が長期化した理由には、さまざまな要因がありますが、大きな要因、いや、私は一番大きな要因が、男女共同参画の遅れだと判断しています。

先進国をみると、女性の活躍が進んでいる国、アメリカやイギリスでは出生率の低下はほとんどみられず、フランスや北欧諸国では一時低下しましたが、適切な政策によって出生率は回復しました。出生率が低い先進国は、日本を始めとして、イタリア、スペイン、韓国など、女性の労働力率が低い国ばかりです。

では、なぜ、先進国では、女性が活躍しない国ほど、出生率が低いのでしょうか。それは、高度成長期の工業社会に一般的だった「男は主に仕事、女は主に家事」という役割分業型の家族を形成することが経済的に無理、つまりは、男性の一人の収入では豊かな家族を維持することが難しくなっているからなのです。

工業社会では、会社の正社員である男性の収入は安定して増加しました。しかし、新しい経済が浸透すると共に、雇用が特に若い人の間で流動化します。正社員として安定的に勤められる職の数が減少し、正社員でも収入の増加が見込めなくなります。若年男性の収入が不安定化するのです。

アメリカや北西ヨーロッパでは、このような状況に対応するために、共働き化が進展しました。不安定になった男性の収入だけでは不十分だから、女性が仕事で得る収入が家族生活を維持するために必要になります。そのため、これらの国々では、女性が子どもを持っても十分な収入を得ながら働き続けられる環境を整えたのです。

さらに、社会保障で子育て家庭を経済的に応援したのです。

しかし、日本では、「夫は主に仕事で家族の収入を支えるべき」という意識が未だ根強いままです。それだけでなく、若い人の中で、専業主婦になりたいという意識は近年むしろ強まっています。その結果、未婚化が深刻化するのです。

日本の少子化は、結婚しない人が増えることによって起こりました。多少下がり気味とはいえ、今でも結婚した夫婦は、だいたい2人の子どもを育てています。30代前半の未婚率は、2010年で男性47.3%、女性34.5%となりました。子育て盛りの年齢層で、男性の二人に一人、女性の三人に一人が未婚ならば、少子化が起こります。(図1)

年齢別未婚率の推移


そして、日本では、未婚者の大部分は親と同居してます。そして、調査によると、未婚男性の非正規雇用率は高く、一人の収入で家族を維持するのは無理です。一方、未婚女性は男性以上に非正規雇用率が高く、「収入が安定した男性」でなければ結婚しようとしません。親と同居しながら、収入が不安定な男性は結婚を諦め、女性は収入が高い男性と出会うまで待っているけれども、待っていてもみつからない、というのが現状です。

これも、「男は仕事、女性は家事」という役割分業意識に囚われ、かつ、女性が結婚や出産で働き続ける環境が整ってないから結婚が少なくなるのです。つまり、男女共同参画が進んでないことが、日本の少子化の原因なのです。

註3:国立社会保障・人口問題研究所の出生動向調査によると、2010年の30-34歳の未婚男性の正社員率は、55.6%、無職率も11.2%である。(女性正社員率49.3%、無職率11.0%)

註4:明治安田生活福祉研究所の2010年の結婚に関する調査(対象20-39歳)によると、未婚女性が結婚相手の男性に求める年収は400万円以上を希望するものが7割を占めるのに、400万円以上の年収を稼ぐ男性は、四人に一人しかいない。(明治安田生活福祉研究所『生活福祉研究』2010 vol19.No.2)

やまだ・まさひろ氏
やまだ・まさひろ/東京大学文学部卒業。東京学芸大学教授を経て、2008年より現職。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を多角的に解析して打開策を提言し続け、パラサイトシングル、婚活、格差社会などという言葉を作り出した社会学者。男女共同参画会議民間議員等の公職を歴任し、現在、男女共同参画会議専門委員、日本学術会議連携会員。