男女共同参画会議基本問題専門調査会

  • 日時: 平成14年10月23日(水) 16:30~19:15
  • 場所: 内閣府5階特別会議室

(開催要旨)

  • 出席者
    委員
    北村 節子 読売新聞社調査研究本部主任研究員
    住田 裕子 弁護士
    竹信 三恵子 朝日新聞企画報道部記者
    寺尾 美子 東京大学教授
    古橋 源六郎 (財)ソルトサイエンス研究財団理事長
    松田 保彦 帝京大学教授
    山口 みつ子 (財)市川房枝記念会常務理事

(議事次第)

  1. 開会
  2. 研究分野における女性のチャレンジ支援について
  3. 男女共同参画に関する基本的考え方について
  4. 閉会

(配布資料)

資料1
第15回男女共同参画会議基本問題専門調査会議事録(案)
資料2
「女性のチャレンジ支援策について」今後の検討の進め方(案) [PDF形式:3700KB] 別ウインドウで開きます
岩男会長
それでは、ただいまから男女共同参画会議基本問題専門調査会の第17回会合を開催させていただきます。
 内閣府の大臣政務官に阿南政務官が御就任になりましたけれども、おいでになりましたら一言御挨拶をお願いしたい と思います。
 それでは、議事に入らせていただきます。
 「女性のチャレンジ支援策中間まとめ」につきましては、前回の専門調査会において会長一任ということをお決めいた だきました。10月17日の男女共同参画会議において、今後の検討の進め方とあわせて報告をさせていただきました。御 報告申し上げましたら、かなり活発な意見交換がございまして、主な意見といたしましては、経済産業副大臣から、ポジ ティブ・アクションの中小企業の取組については、実態を踏まえた上で十分配慮するようにという御意見がございました。 また、財務副大臣より、女性は政治の分野においてもさらに積極的にチャレンジをしてはどうかという御意見であるとか、 あるいは、文部科学大臣からは、女子学生、女子生徒への支援策が提言されたけれども、中間まとめ後の大学等の研究 分野の検討に当たっては、研究者はもとより教育者としても女性のロールモデルを増やしていく必要があるので、能力、 意欲がある女性研究者が活躍できるように力を入れて検討してほしいという御要望がございました。この文部科学大臣よ りの御意見も踏まえまして、本日はまず研究分野における女性のチャレンジ支援策について検討を進めていきたいと思い ます。
 それでは、事務局から、研究分野における男女共同参画推進に関する全体の動向について御説明をいただいた後 に、原ひろ子先生から、日本学術会議の動向、女性研究者のキャリア形成についてお話をいただき、東北大学の辻村み よ子先生からは、東北大学における男女共同参画に関する取組についてお話をいただいた後に、研究分野全体について 御議論をいただくということで進めさせていただきたいと思います。
 まず、事務局から御説明をお願いいたします。
上杉審議官
資料の確認をさせていただきたいと思います。まず、資料1が、私がこれからご説明する最近の状況につ いて、資料2が原先生の、学術会議の話を中心とした資料です。資料3が、辻村先生からご説明いただく東北大学の動き を中心とした資料です。資料4として「諸外国における取組み状況について」ということですが、科学分野での女性の活躍 は世界的に共通の課題というわけで、これまで各国とも女性が科学にかかわることが十分ではなかった。しかし、これか らは非常に重要なことであるとユネスコでもうたわれているし、アメリカでもヨーロッパでも対策が進められているという資 料であります。
 資料5は、女性研究者の現状に関するデータ的な背景を集めたものです。例えば1ページ目は、女性研究者の比率と いうことで、大学や研究機関、企業等の研究所、いろいろありますが、全体としては1割程度。大学の場合は2割。企業等 では5割程度という状況です。他に、科学教育に関する資料、意識調査に関する資料を資料5にまとめておりますので、 後ほど討議のところでも活用していただければと思います。
 資料1は、女性研究者への支援の全体図を要約したものです。研究分野で女性研究者に活躍していただこうというこ とは、問題意識としてはかなりいろいろな提言等で指摘されております。最近の提言等の例としては、内閣府において男 女共同参画会議と並んで置かれた4大重要会議の一つである総合科学技術会議で策定された「第2次科学技術基本計 画」の中でも、女性研究者の活躍のために、環境の整備、採用機会の確保等が必要であるということがうたわれておりま す。これは、平成13年3月の閣議決定であります。その少し前の段階で、大学改革の路線を提唱した、当時文部省の大 学審議会の答申の中でも、多様な人材が必要であるということで、女性教員の採用について配慮していくことの必要性を 指摘しております。
 それから、学術審議会では、女性研究者の積極的育成・採用、あるいは、環境面の配慮、勤務形態の上限整備等、幾つ か指摘しております。このように、国の審議会等のレベルにおきましてもいろいろな問題提起がなされております。
 また、日本学術会議は研究者にとっても一番重要な組織の一つですけれども、そこから、平成6年にも提言がありました し、平成12年にも目標値の設定等に関する提言が行なわれているという状況で、これは後ほど原先生から詳しく御紹介 がございます。
 それから、最近になりまして、学会あるいは大学等の機関の立場からの動きがかなり出てきております。その1つの節目 になると思われるのが、「男女共同参画 学協会連絡会」という組織がこの7月に発足し、つい先日も会合がございまし て、遠山文部科学大臣、坂東局長が参加して発言いたしました。研究者の活動で最も重要な場として学会があるわけで すが、その中でも、理工系の学会を中心として、12の学協会、その後も随時増えてきておりますが、横の連携をとって科 学技術の分野で女性が活躍できる研究環境づくりをしようと。そのための連絡組織を持とうではないかということでスター トしました。その前段階としては、個別の学会の動きがあるわけで、現在、注目すべき動きをしているものとしては応用物 理学会があります。この応用物理学会の中で、男女共同参画委員会というものができまして、今後、学会員の意識の向 上、あるいは学会活動でそういったことを討議していこうということを議論しております。そのほかいろいろな学会で同様の 動きが生まれ始めております。
 2枚目です。今度は、大学における取組です。研究機関というと、大学のほかにも、現在は独立行政法人の国立の研究 所をはじめ、民間企業等がございますけれども、大学の中では国立大学協会が注目すべき動きをしておりまして、平成12 年に男女共同参画を推進するための提言をしております。
岩男会長
それでは、阿南政務官がおいでになりましたので、一言御挨拶をお願いいたします。
阿南政務官
このたび、内閣府の大臣政務官を拝命いたしました阿南一成でございます。委員の皆様方におかれまし ては、お忙しい中、御出席をいただいて熱心に御討議をいただいていることを心から感謝申し上げます。
 本専門調査会におきましては、今年1月に小泉総理大臣からの指示を受け、暮らしの構造改革の一環として、女性の チャレンジ支援策について検討を進められているとお伺いしております。10月17日に開催されました男女共同参画会議に 報告されました「女性のチャレンジ支援策について(中間まとめ)」においてうたわれております、「女性のチャレンジは男性の元気、社会の活気」というキャッチフレーズについて、私も全く同感に思います。
 10月以降は、研究分野等における女性のチャレンジ支援策について検討をなさるとお伺いしております。引き続き皆様 方に活発な御議論を行なっていただき、すばらしい成果が得られることを心から期待をしております。どうぞよろしくお願い いたします。
岩男会長
ありがとうございました。
上杉審議官
それでは、続きを御説明させていただきます。
 この国立大学協会の平成12年の提言は、女性教員比率を20%まで引き上げるということや勤務環境の改善、セクハラ 対策の徹底等、男女共同参画の観点からの大学としての取組みを掲げたものでありまして、現在、国立大学協会の方で 継続的に各大学の状況を調査してフォローアップしようという動きをしております。
 個別の大学や研究機関でもいろいろな動きが出ておりまして、その代表的な例として東北大学のことが書いてござい ますし、詳しくは後ほど辻村先生からお話をいただきます。そのほか、名古屋大学でもワーキングチームを設置し取組を 進めていること。研究所としては、これは旧科学技術庁の国立研究所で、現在は独立行政法人ですが、放射線医学総合 研究所でもこのような取組みを始めております。探せばほかにもたくさんございますけれども、代表的な例を三つ並べて おります。
 このように、現在はいろいろなところで問題意識が高まってきて取組みが始まった状況ですが、実態は、変わる速度が 遅いのではないかという感じもするわけで、そこをどのように国としてかかわっていくかが課題であろうと思います。
 どのような論点があるかということですが、今まで各所で言われた点と、これまで私どもがチャレンジ支援策ということ で中間まとめに至るまで議論してきた論点をご説明いたします。
 現状及び阻害要因は、まず共通事項として、女性研究者支援について総合的、継続的な検討がなされていないというこ と。先ほど来、総合科学技術会議等、審議会の答申等を御覧いただいたわけですけれども、これからも学術会議や国大 協の議論は続くわけですし、それを国の立場でも、総合科学技術会議あるいは文部科学省における科学技術・学術審議 会といったところとうまくつながりを持ちながら、総合的な検討がなされることが必要だろうという方向性が考えられるかと 思います。それから、各大学や研究機関の場においても、例えば男女共同参画推進の担当を決めるとか、委員会を設け る等、組織として取り組んでいくといったような体制を整備していく必要があるのではないかということが第1点でありま す。
 2つ目には、御承知のように、現状として学長、教授といった上のクラスへの女性の進出が、全体としても少ないし、そ の中でも上のクラスが少ないわけです。また、人事の面でもいろいろな問題が指摘されております。また、固定的役割分 担意識から実際の仕事の面でも問題があるのではないかということが挙げられます。
 それに対して、支援策の1つとしては、ポジティブ・アクションの積極的な採用、あるいは、方針決定過程への参画促進 等、組織として目標、取組みを決めて、それを実施していく。あるいは、そういった情報を集約するとか、研究機関の評価 の際にそういった取組みを考慮するといったことがあるのではないかということが考えられます。
 それから、人事が大きなポイントの一つになるわけですけれども、これについては、こういった研究機関における人事 は、まさに教育研究をよくすることが第1の観点で、そのために今現在、大学改革とか科学技術システムの改革といった ことが言われております。そういったシステムの改革が、今の流れのように、透明かつ公正な評価システムの確立という ことで進んでいけば、女性研究者で意欲と能力のある人が登用されていくことにつながるのではないかといった方向性が あるかと思います。他には、公募システムや、任期制に関する方向性があろうかと思います。
 次に「意識」の問題です。アンケート調査などをしますと、職場の意識が問題だという指摘が女性研究者から多いので すけれども、対策としては、上とも重なりますが、まずは実態や問題点を把握して明らかにして分析し、それに対する広報 活動等を進めていくといった取組みが必要ではなかろうかということであります。また、女性研究者のロールモデルはまだ まだ数が少ないですので、そういったロールモデルやネットワーク形成を支援していくことが考えられます。
 次に「横へのチャレンジ」です。この研究分野を選択することそのものが、いわば、横へのチャレンジ、新しい分野への チャレンジとも言えるのですけれども、その中でも、さらにどういった阻害要因から進出が少ないのか、あるいは、これか ら女性研究者がもっとがんばっていく余地があるのかといったところ、その辺をもう少し議論してはどうか。
 それから、よく言われることですが、理工系が特に少ないということが挙げられます。理工系の問題については、理工 系へ行こうとする女子学生を拡大するという教育に関する問題が出てくるわけで、初等・中等教育から大学、大学院とい う中で、教育と進路指導をあわせてどういう工夫をしていく必要があるかといったような方向性があるかと思います。
 次に「研究環境の改善」があります。研究環境としては、まさに研究そのものの環境として、研究費の配分、あるいは、 研修や留学の機会等で配慮していくという点。それから、手洗い等の施設整備も当然あるだろうということが考えられま す。
 次に「両立支援」は、女性研究者が経験する困難の中でも一番典型的なことは、出産・育児期をどう乗り切るかという ことで、ちょうどその時期は、研究者としてもいろいろなアイデアが出てくるし、研究者としての訓練も集中的にされる期間 で、ここをうまく乗り切る方策を考えなければならないわけです。まず、方向性としては出産・育児期における研究者への 柔軟な対応ということで、なかなか休みにくい環境に対しては、代替要員を確保するとか、あるいは、出産後の休んでいる 時期に在宅ワークができるようにするとか、短時間勤務ができるようにするといったようなこと。
 2点目は、保育サービスということが仕事と子育ての両立支援でもよく言われるわけですけれども、研究機関の周辺 に柔軟な形態の保育サービスが受けられるようにしてはどうかということ。それから、よく当事者の方々から声が聞こえる のは、研究費を受けているときに育児休業になってしまうと、その期間が有効に使えないし、場合によってはお金も返さな ければならないという状況もありえます。そういうときに何らかの配慮が考えられるかどうかという点もあると思います。
 最後に「その他」として、さまざまな問題に対して、相談できる相談窓口等の体制も整備する必要があるのではないか ということが考えられると思います。
 私からは以上でございます。
岩男会長
ありがとうございました。
 それでは、引き続き、原ひろ子先生から御説明をお願いいたします。
原先生
チャレンジ支援の中に、学術研究、教育の分野が項目として入って、本当にうれしく思っております。どうぞよ ろしくお願いいたします。
 今回は、日本学術会議の動きを中心に御報告いたします。資料2の初めのところにございますように、第10期(1975 年1月―1978年1月)、第12期(1981年1月―1985年7月)の女性科学研究者の地位向上に関する要望が提出されまし た。第12期には、猿橋勝子先生が女性で初めて日本学術会議の会員になられましたが、第10期にはまだ会員ではあり ませんでした。そのころ伏見康治先生たちが会員で、猿橋先生たちのグループとの交流の中で第10期の「声明」が出た わけです。第12期以降、女性会員は細々と続いています。添付資料にあるように第15期(1991年7月―1994年7月)に女性会員が4人になった時期に、「女性科学研究者の環境改善の緊急性についての提言(声明)」が出ました。
 そのときに、日本学術会議は女性会員を増やすべきだと会員210名が自ら声明したにもかかわらず、第16期(1994年7 月―1997年7月)に島田淳子さんがお1人で広報委員その他の委員になられたりということがありまして、島田先生が大 変忙しくなりました。それで、島田会員をサポートしようと第15期に女性会員だった一番ヶ瀬康子先生たちが中心となっ て、一番ヶ瀬康子先生がNGOである「女性科学研究者の環境改善に関する懇談会」(JAICOWS)を結成しました。ここに お配りしてあります、『女性研究者の可能性をさぐる』(JAICOWS編1996、ドメス出版)の9ページをお開きください。 JAICOWSは、現在と過去の日本学術会議の会員と研究連絡委員会の女性有志に限っております。なぜ男性を入れない のかとか、例えば生理学会などでは、この問題に関心を持っている人はたくさんいるからもっと広げるべきで、このような 閉鎖的なものはいけないのではという点について随分議論してきました。ちょうど私は、文化人類学民俗学研究連絡委員 会の委員としてこのJAICOWSの創設に参加してまず庶務担当をしました。
 次に、17ページを御覧ください。「女性科学研究者の環境改善の緊急性についての提言(声明)」が、この15期の終わ りに出た提言の内容です。ここに書かれている内容は、今なお課題として残っています。ですが、ここにはセクシュアル・ ハラスメントは入っていませんでした。
 次に、お手元の資料2の2ページを御覧下さい。現在、日本学術会議は第18期(2000年7月―2003年7月)で、2000年 7月からの3年間ですが女性会員は7名おります。他に研究連絡委員会がございますが、第18期の研連委員の女性は 156名になっております。第15期33名、第16期88名でした。これは、日本学術会議会長が会員・委員の選出のたびに、女性の研連委員を増やすようにとか、女性の学術会議会員の候補者を出すようにという文書を、各学会にお出しになったこ との成果でもあります。つまりトップの意思の重要性です。
 資料2の5ページに、第17期(1997年7月―2000年7月)に、尾本恵市委員長が中心になって、「女性科学者の環境改 善に関する特別委員会」(女性科学者特委)ができました。日本会議には7つの特別委員会があるのですが、その中の 一つとしてこれ設置され、日本学術会議として総会決議で出した提言声明と要望でございます。
 さて、『男女共同参画社会 キーワードはジェンダー(財団法人日本学術協力財団2001)』という本を御覧ください。こ れは、尾本恵市特別委員会委員長のもとに、研究環境の改善には何が必要かということを議論いたしました際に、委員た ちが、執筆したものです。例えば、東壽太郎、末松安晴、崎山亮三、鶴田満彦、黒川清などの方たちがそれぞれ御自分 の分野で何ができるかを考えられました。
 末松安晴先生は、当時は高知工科大学の学長で、大学が創設されたばかりでしたので、教員募集の際に女性に応募 してもらいたいということを公募の文書にお書きになられ、いろいろな分野から応募があったそうですが、一般教育関係に は女性の教授、助教授も採用できたけれども、工学の分野では1人採用できただけで、やはり候補者にそこまでの人が 育っていないのかということでした。
 その委員の岡村甫先生は、その土木工学の領域では、女子の大学院生がやっと入ってきたばかりだから、クォータ制 をとろうとしても無理だと。そこで積極的改善措置という発想、つまり、前よりは今が少しよくなる、来年は今よりももう ちょっとよくなるという方向で、それぞれの分野で適正規模の増加を図ることを考えることが現実的であるし、大学院の学 生指導に際して、「女性はどうせだめだ」とか、私立大学の場合だと、「授業料を払ってくれるお客さんとしてはいいけど、 最後にこの学問を担ってくれる人としては女性にあまり期待するのはやめよう」と。そういう心の持ち方を変えていこうとい うことで、男性の先生たちは非常に熱心でした。
 それから、東壽太郎先生は、国際関係法学の方ですけど、その学会では、学会の理事や評議員を年齢によるクォータ を設定する。そうすると、おのずと若い世代において女性の比率が上がったといわれました。
 資料2の17ページを御覧ください。第18期に、先ほど御紹介しましたように「ジェンダー問題の多角的検討に関する特 別委員会」が設置されました。社会学の蓮見音彦先生が委員長で、池内了先生と私が幹事をしております。その下に ワーキンググループをつくりました。第17期の尾本委員長の「女性科学者特委」のときに、女性研究者の環境改善を論じ たのですが、今期は、特別委員会で学術におけるジェンダーの問題を論ずることにしているので、女性研究者の環境問 題はワーキンググループで議論しております。
 次の第19期の会員を選出するに先立っての学協会登録申請の登録カードの2番目の項目として「代表者」とございま すが、そこに、男女の性別を書いてくださいということをお願いしたわけです。その次をめくっていただきますと、6番目の項 目ですが、そこにやはり男性の人数、女性の人数を書いていただきたいということ。その次のページの (3)では、学術刊行 物の編集委員も、男性が何人、女性が何人ということを書いていただきたいということ。理事会評議員など役員についても 同様に書いていただきたいということで、いわゆるジェンダー統計をつくっていただきたいとお願いしたのです。
 ただし、学会によりましては、入会申込書に性別を書かない方針の学会もあるし、今は把握していないけどこれから把握 するつもりだという学会もあるので、この際にアンケートもとりました。「登録カードに理由が書いてあればいい」ということ と、「女性の比率が低いと、登録学術団体として認めませんというような制限をするものではありません。男女の比率がど うであれ、きちんと条件を整えていれば、学術団体としては認定されるけれども、男女の数字を示してください。今のところ 統計をとっていないので、約何人という推定数でもいいです」ということで第19期日本学術会議会員推薦管理会に登録 申請カードの変更を行っていただきました。
 日本学術会議の事務局としては、これに答えてくる学会は20%ぐらいだろうと当初思っていたけれども、半分以上の学 会がきちんと答えて下さっているそうです。それについての統計処理は、これからジェンダー特委で行なうこととしておりま す。
 次の資料になりますが、この登録申請カードの後に「66」と出ているページを御覧ください。名古屋大学の天文学の池 内先生がジェンダー特委のワーキンググループの委員長ですが、学術会議の会員に、総会があるたびに、時には草色、 時には黄色の1枚紙のアンケートを配ることにしております。そこで、「学会の大会が開催される際の、保育サービスにつ いてどう思いますか」、「あなたの関係する学会では保育サービスをなさっていますか」等についてを回答してもらいまし た。
 次のページをめくっていただきますと、専門分野別の回答率が興味深いんです。資料の67ページの下の方ですが、一 番低いのは33%第5部工学系です。
 それから、別の資料になりますが、「88」と打ってあるページをお開きください。「研究者の別姓使用に関するアンケート 結果について」も、総会のときにアンケートしたものです。これらの結果は文部科学省にもお知らせしています。先ほどの JAICOWS でも、保育室についてとか、別姓使用についてとか、セクシュアル・ハラスメントについてなどの、シンポジウム を重ねて開いております。先ほども御紹介がありましたように、平成15年度に向けての科学研究費の申請書では、研究 者の氏名として通称を使うことができるようになりました。このように小さいことながら大事なことが一歩一歩進んでおりま す。
 また資料を少しめくっていただきますと、これは『女性研究者のキャリア形成』(keiso shobo1999)という、文部省の科 学研究費をいただいて研究した結果の一部です。このプロジェクトには24人のJAICOWSの諸分野のメンバーが参加し て、研究分担者となり、私が総括をさせていただきました。その「本研究から見えてきたこと」の部分に関しまして、非常に 大事なのが、257ページに示したことです。その左側に「研究活動を阻害している要因」、右側に「研究遂行に必要な要 因」とございます。つまり、阻害要因と促進要因の分析を行ないました。これが、先ほど上杉審議官がお話しになった、研 究分野のチャレンジの内容と重なるわけです。
 さらに「第3章 研究活動の実態」です。「さらに、子供に関連する項目についてみてみる」と、「女性の場合は、子供が いる人の方がいない人よりも業績指標の平均値が低く、高いランクの人の割合少ない」とあります。さらに、「一方、男性 の場合、業績指標の平均値は、子供が4人の人が0.7688と飛びぬけて高く、子供が2人または3人いる人の方が、子供 が1人である人よりも高い」とあります。つまり、男性研究者は、子どもの数が多ければ大きいほど研究にいそしむ。がん ばる。女の場合は、子どもがいると、研究の進展に関して阻害要因になっているという数字が出ました。ここでは、御説明 申しませんけれども、サンプリングの方法や回答者の属性も出ております。全体で言うと、男性回答者は年齢が少し高 く、40、50、60歳代の方が答えてくださっていて、女性回答者は30代、40歳代の方が答えてくださいました。そもそも女性 は当時、50歳代、60歳代に回答者の絶対数が少なかったわけです。それで、年齢の格差も見られるわけです。40、50、 60歳代の男性たちは、子どもがいればいるほどお仕事に邁進して、一生懸命に研究して業績も上げているということで す。
 それから、この調査で回答してくださった男性回答者は、学会などで責任ある地位にいらして、やはり女性研究者が育 たなければいけないという気持ちをお持ちの方が答えてくださっているのかも知れません。20歳代から四十二、三歳ぐら いまでの男性は、自分の研究が忙しいから、「こんな分厚い調査票には答えられない」ということだったかと思います。こ のように、回答者の属性にかなりの偏りがございますが、いろいろおもしろい結果が出て、日本学術会議における、ジェン ダー特委とか、女性科学者研究環境改善特委とかにおいてまじめに読んで頂いております。
 席上配付になっている資料に、どなたかから御説明があるかもしれませんけれども、『科学技術分野における女性研 究者の能力発揮』という、都河明子さんが代表におなりになって、三菱総研の担当で調査をお始めになりました。これは、 今後もっと詳しい分析が進められていくということでございますので、『女性研究者のキャリア形成』の研究の後に次ぐ大 きな仕事となると思います。
 なお、私どもがまとめました『女性研究者のキャリア形成』の本の前には、やはり科研費で、10年ぐらい前に、猿橋勝 子先生たちの大きなチームが関西の物理学の方たちを中心として大きな研究をなさり、その成果は何冊かの冊子や本に なっています。その一番初めの報告書は、手書きで表の数字も書いてあるものでガリ版刷りです。隔世の感がございま すが、猿橋先生たちがそうやって、女性研究者のキャリア形成に関する日本でのパイオニアとして仕事をなさり始めてい たということに関して、自分たちでこういう研究をすればするほど頭が下がる思いです。
 日本学術会議としましては、今後、「ジェンダー特委」で、研究者のあり方という側面だけではなくて、学術研究そのも ののあり方にジェンダーの視点を入れるとはどういうことかということを1つの課題としています。
 その例は『学術の動向』の2002年4月号での「学術の再点検-ジェンダーの視点から(その1)-」という特集です。ジェ ンダーの視点に立った場合、発達心理学、財政社会学、社会政策研究、医学、法学、開発研究その他の領域ではどうか が論じられています。原則として毎月1回開催されるジェンダー特委で、神野直彦さん以外の男性委員も研究あるいは実 践なさった結果をこれから御発表くださることになっているので、2003年の4月号に、ジェンダー関係の特集が『学術の動 向』に掲載することになっています。以上が、今の日本学術会議での動きでございます。
岩男会長
ありがとうございました。それでは、引き続き、辻村みよ子先生から御説明をお願いいたします。
辻村先生
辻村でございます。今日は、東北大学の男女共同参画委員会副委員長という立場で伺いました。私の専門 は憲法学でございまして、女性の人権、ジェンダー法学に関心を持っておりますので、皆様方がこの問題を審議してくださ いましたことに敬意を表させていただきたいと思います。
 略歴表をつけておきましたが、私個人は、1999年に東北大学に移りました。ちょうど私が行きましたときに、もうすでに 男女共同参画の取組みが始まっておりました。まず、「背景・経緯」ですが、お手元の資料では、参考資料1が、先般、9 月28日に原先生などをお迎えして行ないました大学主催のシポジウムの際に配布したパンフレットでございます。この1 ページ目に総長の挨拶がありまして、7ページ目に、委員会の委員長である副総長の経過説明が載っておりますので、 後ほどお読みいただければと思います。
 東北大学は、大正2年には門戸開放で全国で初めて女性の学生を入れた大変輝かしい伝統を持っているにもかかわ らず、国大協の調査では99校中90位であった。平成10年から取組みが始まっておりますから、この調査結果はその後に 出ているわけですが、いつのまにか女性の教官が非常に少ない状況が生まれてしまったということでございます。それ で、平成13年から委員会をつくりまして、13年度の報告書として、今年の3月に提言を出しました。わずか1年間の活動で はありますけれども、提言を出しまして、その一環として、先日、シンポジウムを開きました。
 詳細は資料にありますが、お手元の資料の後ろから2枚目の紙に漢文のようなものが書いてございます。これは非常 に興味深い資料ですので、お目にかけたいと思ってコピーをしていただきました。先ほどの、原先生編『女性研究者の キャリア形成』という本の 257ページで、これがちょうど説明されております。大正2年に初めて東北大学が帝国大学に女 子を入れたとき、初代の沢柳総長がこの方針を決めたわけですが、文部省が2代目の総長に宛てて手紙を出したその内 容です。
 本文の後ろから4行目に、「女子を帝国大学に入学せしむることは前例なきことにて頗る重大な事件に有り」と書いて あります。そして、「これ大いに講究を要し候と存ぜられるに付」ということで、意見を聞きたいということで、大事件で、本当 にやるのかという問い合わせが来たにもかかわらず、東北大学はやると言って3人の女子学生の入学を認めた。
 その3人が皆さん師範学校の出身だったりしまして、卒業後、日本女子大とお茶の水女子大にお入りになって、後々、数 学と化学ですけれども、大変有名な研究者におなりになり、たくさんの女性研究者を育成されたということで、現在では、お 茶の水とか日本女子大でもその研究もされておりますし、その名前がついた賞も日本女子大では出ているようです。
 そういうことで、東北大学としては、初心忘れるべからずということで、その後、何とかしようという取組みが始まったわけ でございます。
 現状でございますけれども、国大協の調査でランキングが出ました。これは皆さんの席上配付資料の中に出ていると 思いますが、国大協の報告書の25ページ辺りからランキング表が出ております。国立大学99校のランキングが出ており まして、東北は当時は90位ということでショックを受けたわけですが、帝大系は全体に大体低いです。トップは、お茶の水 女子大とか奈良女子大とかで、当然といえば当然のところでございます。京都大学が88位、東大は73位と、いずれもずい ぶん低いところに主要大学があります。これはどういうことなんだろうかということを、また後ほど考えてみたいと思いま す。
 さまざまな理由が考えられて、理科系に女子学生がいないから仕方がないといった議論が内部では出てきます。しか しながら、この国大協の調査では、教員の女性比率と大学院生の女性比率との比を出しています。そうしますと、学生が いないから女性研究者、女性教官がいないのは仕方がないという抗弁は成り立たないことになります。そのことが、この 国大協の調査ではっきりと出ております。主立ったところが、大体3枚目に重なっていることの理由を考えていかなければ いけない。旧帝大は比較的規模が大きいところですから、ここでパーセンテージが低いということは、実数にすれば相当 差があるということです。
 したがいまして、今日は東北大学の現状をということでございますが、恐らくは、ほかの大学も旧帝大系は似たりよった りだとお聞きくださっても結構かと思います。それぞれに取組みをしているところもあるし、していないところもあるようでご ざいますけれども、国大協調査では、講師以上の女性教官の比率が 2.3%。全体の平均が 6.6%でした。もちろん、お茶 の水などは36%とか、そういったところが引き上げているわけですから、平均が 6.6%になっていますけれども、いかに全 体が少ないかがわかります。東大は73位で 4.5%、京大は88位でございます。
 ただ、その後、こういう表が出ますと、全体として、女性がいないのは異常なことだとわかったのだろうと思いますが、私 が東北大学に参りましたのが平成11年度ですが、そのころはすでに増加傾向にありました。女性教授について、このパン フレットの中にまとめてございます。8ページを見ていただければわかりますけれども、確かに、世代が上がるほど、教授 になるほど女性が少ないのでありますけれども、8ページの下に、折れ線グラフで出ておりますが、次第に増えておりま す。これは相乗効果といいますか、よその学部も増え始めればということでございまして、平成9年度には、 750人ぐらい いる教授の中で女性は5人でしたが、私が行きましたときには16人になっておりましたし、今年は18人になっております。 率にすると非常に低いわけですが、女性教官を見たことがないというような環境、例えば評議会などはそうですが、そうい う環境にあって、教授が出てきたということは改革の流れがあるということでございます。
 講師以上で女性がゼロのところが、平成13年度では31部局中14ございます。やはり医学系や理科系です。女性教授 がゼロのところも、31部局中23部局もあるという状況がございます。これは、参考資料2の6ページ辺りから数字が出て おります。全体として増えております。
 参考資料2の9ページには、平成14年度の部局ごとの比率が出ております。部局によって規模がものすごく違いますか ら、一律に部局ごとのパーセントを出して比べることに対しては、内部では結構抵抗があります。例えば部局の人員が3 人とか6人とかいうところで、男性が3人で 100%、女性は0%なんて出されたら、これはやはりちょっと違うのではないか ということがありますので、実態に即した検討が必要ではないかということでございます。
 今日は事務職員については省きますけれども、我々の取組みの中では、事務職員も除外しないで検討することにして おります。とりわけ東北大学の場合、ほかでも医学部があるところではそうかと思いますけれども、附属の大学病院には 女性の看護士(旧称看護婦)の方が 800人くらいおられますので、技術者 900人中 800人が女性ですから、全部をなら すと比率的にはそう悪くないということが起こってきたりいたしますので、数字だけで見ることはなかなかできません。
 実際には、東北大学の特徴は、理科系の部局が非常に多く、理科系が中心の大学だということです。実際、文科系は 4学部でございまして、文科系が限られているために、学生の比率と比べるとその特徴が非常にはっきりしてまいります。 学生は、文科系4学部にかなり集中しております。例えば学部学生ですと、文学部では44.5%を女性が占めております。 教育学部では56.1%。法学部では26%。これに対して、工学部では 7.7%というように、非常にばらつきがございます。
 同じように、大学院につきましても、文系4研究科につきましては、27%から48%の間でございますが、工学研究科は 7.4%です。医学系は27%で結構高いです。薬学も27%と高い。ですから、学生が少ないから女性教官がいなくても仕方 がないという議論は、この学生の比率を見れば、それは違っているということがわかります。薬学とか医学系は、女性の 院生がそれぞれ27%ぐらいいます。ところが、女性教授がゼロとか1でございまして、これはやはり数字だけの調査では とてもわからないということです。実態がどうなのか、採用、昇進、その他の実情をきめ細かく見ていくことが必要になると わかりました。
 我々の委員会ができましてすぐに、部局長アンケートを実施いたしました。部局長に対して、こういう現状をあなたはど う評価しているのかという質問をしましたところ、57%が「評価していないが、やむを得ない」という回答に○をつけている わけです。改善すべきかと聞くと、「是非する」ではなくて、「できればしたい」が68%になります。ですから、少し腰が引け ている。
 「やむを得ない」といった弁解といいますか、正当化理由がやはりあります。これが何かといいますと、学問の性格だとい う形で出てまいります。学問の性格、部局の性格だと。もう1つは、学生構成員との問題。要するに、学生が少ないから と。これは説得力がないことは先ほど申しましたけれども、部局の性格、学問の性格というところをどのように乗り越える かが問題になっています。
 実際にはどういうことかと申しますと、やはり理科系の場合には、部局にもよると思いますが、実験とか重労働がある ようです。夜間の実権とか、夏休みもない、長時間労働・重労働があるから女性には無理でしょうと、あなたは本当にでき るのですか、という形になっているようです。本委員会のワーキンググループ長をしております医学部の教授が1人おり まして、医学部では女性教授は彼女が初めてですが、彼女に聞きましても、やはり臨床系は無理だと。女性は臨床はだ め。研究系ならば大丈夫だということだったようで、結構、学問の特質を理由として道をふさいでいます。
 これについては後で申しますが、チャレンジのことと関係があるのですが、女性ががんばれば、それを後押ししてあげ れば何とかなるということではないのです。女はだめだと思っている学問領域の全体の意識、制度、あり方を全面的に変 えなければ、がんばろうと思っている人を後押ししてもなかなか動かないということです。
 我々は、そういう現状を踏まえまして、今度は、 5,000人を対象とした非常に大がかりなアンケート調査を昨年10月に 実施いたしました。これは、資料1の9ページに大体の結果を表示しております。結果をまとめるのが大変で、女性の看護 士の方など職種に応じた結果を3次元クロスで出して、裏表を印刷しても厚さが4cmぐらいになるような報告書になってし まいました。余りに分厚いために、評議会で配っても誰も読んでくださらないということですけれども、一応、何となく傾向が 出ております。
 女性の方は、「できればしたい」ではなくて、何とかしなければだめだ、ぜひとも変えてほしいという希望を述べた人が非 常に多いということです。これは9ページにも若干出ております。
 それから、女性教官をどのように採用するかについても、例えば同じレベルだったら女性を採るということではどうなの かとか、あるいは、女性を優先的に採りましょうという考え方はどうですかという質問に対しては、男性の中では非常に抵 抗があります。これに対して女性の回答の第1位は、同等水準なら女性を採用すべきだという答えが38%になっておりま す。男性回答の第1位は、そういう優先採用は認められないということで、その辺りに違いが出てきております。
 その 5,000人の対象の中には職員が半分以上でございますので、やはり希望としては、育休の徹底、学内保育園の 設置の希望が非常に多くて、教官の課題が特化した形で出てきたわけではないと思います。 1,000人ぐらいが保育園をつ くってほしいという回答でございましたので、これは恐らくは職員の女性の希望であったと思います。
 ただ、委員会としては、今後どのように進めていくかを模索しつつさまざまな活動をしてまいりました。お手元の資料に は、ほんの一部でございますけれども、これまでの取組みをまとめたもの、これは昨年のものですが、報告書で出したも のを付けてございます。参考資料2の10ページから書いてあります。
 まず我々は、ワーキンググループを3つ、委員会内につくりました。広報と啓発をするワーキンググループ、実態調査 をするワーキンググループ、3つ目は、後ほどお話ししますが、相談窓口等のワーキンググループでございます。今日で は問題がどんどん出てきておりまして、現在は、委員会内のワーキンググループは6個に分かれております。すなわち、 両立支援・保育園問題のワーキンググループ、それから、報告書作成ワーキンググループ、それから、後ほどお話ししま す、沢柳賞といいますか、奨励賞のワーキンググループという形で、ワーキンググループに分かれて取り組んでまいりま した。
 これは、全学組織の委員会でございますから、必ずしも関心があった人だけが集まっているわけではありませんが、 やはり女性が40%を超えているような委員会でございまして、大学としては画期的な委員会です。非常に熱心で、毎日の ようにどこかのワーキンググループから、メール会議という形で議論が出てきておりました。皆さんこんなに熱心に、もち ろん男性教授も含めてでございますが、取り組んでくださって、感動するぐらいの取り組み方でございます。そのようなこ とをしております。
 そして、1年間で大急ぎでアンケート結果をまとめ、「報告書(提案)」に付けました。報告書は、国大協の報告書や、そ の他名古屋大学のホームページなどに出ておりました取組みとか、関係のものを参照させていただいてまとめました。
 お手元の参考資料2の1枚目にありますように、13項目にわたって提言をいたしております。これは4月に東北大学の 評議会で承認されました。先ほど、女性を見たこともないという言い方をしましたが、評議会で女性が発言するのはそれが 初めてだったようですが、私が行きまして、 100人ぐらいのところで、この問題について質疑応答をいたしました。
 そういったことが非常に大事だと私は思っています。慣れていただくといいますか、こういう問題から遠ざかっていない で、これに巻き込んでいく方法をとりまして、とにかく部局長さんたちにまず理解していただくということを始めました。
 その提案の中の第1は、部局の特殊性が非常に大きいことにかんがみて、全部局でワーキンググループをつくってい ただいて、部局ごとの問題を洗い出してもらうということをしました。そして、その部局ごとで困ったこと、あるいは、とりわけ 理系のような、女性教官が少ない分野ではワーキンググループで分析を行ない、そして、分析結果を男女共同参画委員 会に出して頂く。委員会では、それに基づいて検証を行なって評議会などに報告していったり、今後どういう措置をとった らいいかを提言・支援をしようということを考えて進めてまいりました。
 その他、5の「具体的課題と取り組み」とあわせてお話しした方がいいと思いますけれども、たくさんの課題がございま して、全部この13項目の提言で出しました。本当に女性教官がいないようなところで、ジェンダー学をやってくださいとか、 ワーキンググループをつくってくださいとか、講演会を開いてくださいとか、かなり抵抗があるかなと思いましたけれども、報 告書はすんなりと承認されました。例えば、女性更衣室をもっと増やすように書いたところを「男女の更衣室」と書き直す などの多少の修正をいたしましたけれども、問題なく通していただきました。
 その後、今年度に入りましたら、これをどのように実現するかということで、早速、各部局では、女子トイレ、更衣室はど うなっているかという調査や、ワーキンググループは本当にできたかどうかといった調査をしております。非常に大きな組 織でございますので、全体を動かしていくのはなかなか大変ですけれども、そういう一つの機構づくりを進めているという ことだと思います。
 もう一つ申しますと、相談窓口を試行的に開きました。ただ、男女共同参画委員会規定が資料2の15ページにあります が、この委員会は何ら権限を持っておりません。したがって、勧告権限や部局長の召還権限等ということも全くありませ ん。だから、相談窓口を開いても、重大な相談が来ても何もできないということです。ただ、何もできないけれども、それで もいいかという形で、試行期間として相談窓口を開きましたら、今のところは3号まで相談が来ております。
 これはかなり深刻なものもあり、提言に及ぶものもありましたが、これは今後の課題でございまして、機関権限を少し 強めることを検討するなど、セクハラ委員会などとも協調しながらやっていく必要があるかと個人的には考えております。
 その他、保育園の問題等たくさんの取組みを継続しております。とりわけ、ジェンダー学を開講することも今年からいた しました。学内でいろいろな分野でジェンダー学に関連する人たちがいるはずだということで、学内のスタッフで担当可能 な人の一覧表をつくっていただいたり、インターネット講座等いろいろなことをやっております。
 これは委員会とは別ですが、去年、私が責任者となって、大学教育開放講座という市民向けの講座「ジェンダーと法」 というインターネット講座を始めました。大学にはいろいろな専門スタッフがいるわけですから、男女共同参画問題につい ても、学内の男女共同参画を推進するというだけではなくて、専門技術に基づいて啓発するという大きな任務があるわけ で、このジェンダー問題の研究を進めることも当然のことです。
 そういったことから、9月のシンポジウムの目玉として、学内外に向けて東北大学宣言を出しました。これは参考資料1の 裏ページに掲げてあります。これは、シンポジウムの最後に総長に読み上げていただきました。そのなかで、沢柳賞という 形で、学内の研究のみならずエンパワーメントの取組みについても奨励賞を与えるということを考えました。これは現在企 画中ですが、こういった形でムードを盛り上げて、新しい取組みを始めているところでございます。
 今申しましたシンポジウムについては、資料の後ろから2枚目にありますが、原先生においでいただきまして大変盛況 に終わりました。朝日新聞の宮城版ですけれども、大きく取り上げていただいております。「今、再び先駆けへ」というタイト ルで、こういう記事が出されてしまったら後には引けないだろうという環境をつくっていくねらいがございました。
 こういった取組みは名古屋大学でもなさっておりまして、当日、名古屋大学の方もいらしていただきまして、この2日後に 名古屋大学でシンポジウムが行なわれました。そこでは、東大の大澤真理さんが講演をされました。
 次に、何が問題かということですが、私は、個々の大学内の小さなところでは済まないようなことがある。例えば昇進差 別があったら、その差別を是正しましょうという問題では済まないようなことがあると考えております。それは、先ほどから 出ている、大学という教育研究機関が果たすべき責務ということです。これは、言うまでもなく、基本法を実現していく担い 手として、この研究機関が実際に何をすべきなのか。
 今までの議論は、うちの大学は女性教官が少ないから何とかして比率を上げましょうというレベルの話です。私は、そ れにとどまってはいけないと考えます。大学が社会に対して男女共同参画を率先してやっていくのみならず、理論的にも、 それを啓発していく、引っ張っていく役割を果たさなければいけない。したがって、地域との連携とか、自治体との連携、あ るいは、他大学との連携、そういったことで、まずこの責務を担わなければいけない。そういった意識を持ってもらわなけ ればいけないと思います。
 ですから、この道のりは非常に長いと思っております。東北大学のシンポジウムでは、大雨で、土曜日の午後という条 件があったわけですけれども、 500人ぐらいしか集まりませんでした。全体の教職員が 5,000人、学生も入れれば大変な 規模です。部局長クラス副総長クラスもいらっしゃいましたから、かなりインパクトはあったと思います。ですけれども、全 体としてはまだまだで、いらっしゃらない人たち、意識のない人たちを、どのようにこの問題に気づかせ、進めていくか。こ れは大変なことだろうと思いますけれども、目標は大きく、例えば女子学生が何%になったのかに応じて女性教官が ちょっと増えた、というような問題ではないと思います。
 ですから、レジュメの6の「一般的・総合的課題」の (3)ですけれども、今日一番最初に御報告くださったように、教育研 究分野については、あらゆる種類の関係機関が一丸となって取り組んでいく必要があると思っております。私はたまた ま、日本学術会議の研連委員をしておりますし、大学評価・学位授与機構評価委員などもしております。大学内では、法 人化の委員会に特別にポジティブアクションで女性枠をつくっていただいて私が入っているのですけれども、そういったと ころで大学評価が問題になったときに、評価項目としてそもそも、ジェンダーバランスを改善するとか、男女共同参画を推 進するという観点を入れていかなければいけないのですが、それが今までは女性がいなかったこともあって、そもそも 入っていないことに気がつきました。
 だから、それを入れていくためには、いろいろなところでマニュアルをつくって、これは当然入らなければいけないんだとい う方向に行くことが非常に大事なことで、学会も含めて、あらゆる機関が共同歩調で取り組んでいくことが必要だと思いま す。
 この点ではやはり国大協が女性教員比率、女子学生比率の各国立大学別一覧表(平成10年度)をつくってくださった ことはショック療法になりました。ただ、そのショック療法にはなったけれども、まじめにやろうとしているところと、そうでない ところがあります。先ほど金沢の話が出ましたが、私は去年、日本学術会議の仕事で金沢大学の学長と一緒にシンポジ ウムをやりました。金沢大学はまじめに、国大協の、10年間で20%を実現するにはどうしたらいいかというシミュレーショ ンをしていらっしゃるんです。これから定年で辞めていく人を全部女性で埋めても、やはり届かないのだそうですが、私は そのシミュレーションをやっているということだけでもすごいと思いました。
 全然やっていないところもあります。これはやはり、文部科学省からも、やっているところとやっていないところは何かの 形で差をつけるぞというプレッシャーをかけていただきたい。かつ、東北大学などは、今は90位ではなく、もっと上がってい るということを示していただきたい。目標があるからがんばっているんですね。ですから、どんどんサーベイしていただい て、何位か上がったところを褒めるということをしていただければ、みんながんばって改善するのではないかと思っており ます。
 次に、東北大学とは若干離れますが、「 (1)「大学:教育機関における男女共同参画問題の意義と特性(女性のチャレ ンジ支援との関係)」と 「(2)ポジティブ・アクションの妥当範囲と有効性」については、今後、基本問題専門調査会で詳しく 検討していただきたいと思っております。
 それは、女性のチャレンジ支援という形でこの問題を扱うことは必要ですが、多分、大学研究機関の場合は、これだけ では済まないだろうということです。先ほど申しましたように、チャレンジというのは、がんばる女性を後押しするというイ メージがどうしても強いですよね。私から言わせれば、がんばる女性をはねつけてきた構造を改めていかなければいけな い。そうすると、女性はチャレンジするというアプローチだけでは動かないんです。ですから、意識の改革もありますし、時 間がかかることです。研究教育機関の特徴として、時間が非常にかかる。例えば、ノーベル賞を何人出したいということで 文科省が、50年で30人と目標をたてています。ところが、女性研究者がノーベル賞を取れるようになるか。例えばその中 に女性研究者を15人入るようなことを目標に上げた場合、何をすべきかということを考えたら、これは途方もないことであ ることがわかると思います。
原先生
いいえ、途方もないことではないかもしれませんよ。
辻村先生
そういうことを考えてやっていかなければいけないですよね。
 ですから、研究機関の場合は特別だと思います。なぜ特別かというと、能力主義という問題があること、制度が古いと いうことです。最初に、国大協の調査で帝国大学がなぜ後ろの方にいっぱいいるのかという話をしたのですが、はっきり申 しまして、権威主義といいますか、言葉はちょっときついかもしれませんが、後継者養成の段階で、徒弟制度、家父長制 度のように長男に跡を継がせるということがあるのではないか、ということです。弟子を養成するときに、これはシンポジウ ムにも出てきていたのですか、男性と女性の弟子が2人いて、どっちを自分の後継者にするかというと、絶対に男性にす るというのが正直なところです。女性は辞めていくかもしれないからでしょう。だから、そういう状況をどうやって打ち破るか ということです。
 もう1つ。研究教育機関の場合に考えなければいけないのは、能力主義のことです。これはアンケートをとって痛感し ました。能力主義でなぜ悪いか、大学研究機関が能力主義を捨ててもいいのか、したがって、大学研究機関ではポジティ ブ・アクションは使ってはいけないんだという意見が非常に多いです。
 これは、私なりに答えますと、女性が少ないということは、女性に能力がなかったからではなくて、ジェンダー・バイアス がかかっているから女性の比率が低かったわけですから、パーセンテージが低いことをもって、やはり女性は能力がな かったんだとは言えない。もちろんこのように反論はできます。しかしながら、この能力主義が基本であるという研究教育 機関におけるポジティブ・アクションのあり方は、極めて重要な理論課題であろうと思っております。
 私も、別のところで、地方公共団体の公募研究で、世界のポジティブ・アクションの研究を今やっておりまして、来年は 報告書を出す予定でおりますが、ポジティブ・アクションがどこに使えるかということです。実は、総理府の男女共同参画 基本法部会で、平等とは何かについて話したことがありますけれども、国会議員のクォーター制も恐らくは憲法違反の可 能性がある。スイスやイタリア、フランスでは違憲判決が出ております。そこでフランスは憲法改正をして、パリテを実現し たわけです。日本はまだ全然そういう問題まで行っていないけれども、どういうことをやれば、法律に反したり、憲法に違 反したりするのかという問題があります。
 そこで、ポジティブ・アクションが、こういう研究教育機関ではどういう形で使えるのかということです。例えば、女性の 医師が必要だからといって、国家試験の合格点について女性の点を甘くすれば弊害があることは言うまでもありません。 劣勢のレッテルを貼るわけです。そうすると、女医さんは怖いという話になってしまって、本当に能力がある女医さんまで も被害を受けることになります。ですから、ここではポジティブ・アクションは使えません。教授も同じです。同じ能力ならば 女性を採るわけですけれども、ちょっと劣っても、あの人は女性だから教授になれた思われたら、これは非常に迷惑な話 です。
 そうすると、そういうポジティブ・アクョンの使い方は問題があります。だから、どういうところが使えるかということです。 これは、学会の理事会などが境界線としていい例です。学会の理事会では、能力もあって業績もある人が理事になりま す。アドミニスレーションの要素もありますから女性も入る必要があります。ところが、我々が学会で女性の理事をどうし ましょうかと言っていると、「能力もないのに、女だからといって入れていいのですか」と発言をする人がやはりいます。
 そうすると、選挙で選ばれて入っている人もみんなそうだと思われるわけです。そういうポジティブ・アクション的な制 度をとったこと自体が弊害になりかねません。ですから、その辺の調整が非常に難しいという問題があります。したがっ て、日本学術会議とか審議会とか、純粋の能力もあるでしょうけど、研究能力以外の要素が入っているようなところでは、 クォーター割当制とかポジティブ・アクションは使える。ですけれども、使えないところはどこなのか、どう使えるのかという ことを、今後考えていかなければいけないと思っております。
 また、もう一言申し上げれば、女性のチャレンジ支援策の中間まとめを読ませていただきまして、企業でのポジティブ・ アクションは男女雇用機会均等法20条の問題がありますから、企業ではポジティブ・アクションをこれからやろうというこ とになりますが、そのときのポジティブ・アクションの概念が非常に気になりました。
 中間まとめの14ページに、「ポジティブ・アクションに取り組む企業」というものがありますが、ここに書いてあることが 本当に全部ポジティブ・アクションになるのかということを非常に疑問に思いました。これは、積極的改善措置を積極的に 後押しする施策だとしてこれに含めており、極めて広義のポジティブ・アクションの概念になると思います。
 ところが、ポジティブ・アクションというのは、13ページでは、優遇措置ではありませんと言い切っていますけれども、あ る意味、優遇措置であるがゆえに逆差別の問題があって、アメリカやヨーロッパでも訴訟になり、判決が出ました。私は法 律学者ですからそこら辺りに関心があるわけですが、そこの境界線が今は問題になっているわけです。ですから、14 ページに書いてあることはどれも訴訟になる余地がない、あたりまえのことで、はっきり言って、積極的な支援策です。積 極的支援策=ポジティブ・アクションとしてしまったら、ポジティブ・アクションの本質が消えてしまうのではないかという危 惧を持ちます。
 ですから、企業が積極的に取り組んでいるのはいいのですが、厳密な意味でのポジティブ・アクションとして取り組ん でいるのかどうかは、今後、御検討いただきたいと思います。憲法違反かどうかが議論になっている事例では、女性を優 遇したことによって、男性が訴えてきたような事例で、ドイツの公務員法などで、同じレベルで、しかも女性が極めて少な い職種の場合、女性が優先される、優遇されると公務員法に書いてあります。これはEC裁判所に提訴されて、EC裁判所 で、これはEC指令に反しないという判決が出ている。そのようなことがぎりぎりのところです。要するに、ポジティブ・アク ションは優遇しても逆差別にならないという、やはり特別措置ということです。
 それから、男女共同参画基本法では男とも女とも書いてないわけですが、13ページにも書いてありますように、一方の 性のみに優遇措置をした場合ということが典型的なポジティブ・アクションです。アメリカでも、アファーマティブ・アクション については広義と狭義がありますけれども、それがあるからこそ訴訟にもなって問題になっているわけです。
 ところが、それを捨象してといいましょうか、薄める形で一般化するのは運動論的には意味があります。ですけれども、 これがポジティブ・アクションになってしまったら、本当のポジティブ・アクションは使えなくなってしまうのではないでしょう か。緩いところで妥協してしまうと、強いポジティブ・アクションは使えなくなると思います。ですから、将来にわたって、ネガ ティブなポジティブ・アクションではなくて、ポジティブなポジティブ・アクションの方も、すなわち、逆差別や憲法違反にな るかもしれないくらいのポジティブ・アクションはどうするつもりなのかということを、どこかで一度徹底的にやらないといけ ないと思います。
 それをこの会に期待させていただきたいと、基本部会のときから思っておりました。やはりそれはとこかでやっておかな いと、韓国などでもやっていますので、政治の議席のクォーターとかの問題もやがて日本にも出てくると思います。それを どこかで議論しておかないといけない。大学とは少し離れてしまいましたけれども、大学においても、先ほど言ったような能 力主義との関係で、重大な問題があるだろうと考えております。
 時間の制限がありますので、たくさんお話し申し上げたいことがありますけれども、この辺りで失礼いたします。
岩男会長
どうもありがとうございました。
 それでは、研究分野全体について、ただいまの原先生、辻村先生のお話も踏まえて御発言をいただきたいと思いま す。
 辻村先生のただいまの御指摘については、今後またいろいろお教えいただきたいと思いますので、よろしくお願いいた します。
山口委員
辻村先生、女性の科学者は実験よりも理論、家に帰っても紙で書けるというか、そういうことの方が多いこ とは私も直接聞いていますが、子育てとか研究をしていく上で家庭という大きな問題があると思います。そのため、実際に 自分は実験をやりたいけれども、理論で行くしかない。こうしてもらいたいというような何か声を聞いていますか。
辻村先生
私のところでは具体的に聞いておりませんけれども、これは日本の労働一般にかかわることです。本当に 夜中もやらなければいけない仕事であるのか。サラリーマンの場合、「24時間働けますか」と言われるけど、本当は24時 間働かなくてもいいわけで、夜働かなければいけないから女性はできないという理論を使うのは、やはり違うのではない か。一般的な労働形態の見直しという方向もあますし、研究形態については、これも個別的な見直しがあると思います。
 しかしながら、実際には、例えば病院の先生であれば男性も女性も夜勤は当然あると思います。実際に東北大学の研 究室でも、更衣室を見たことがありますが、女性の更衣室はちゃんと泊まれるように布団も置いてあるということをしてお ります。それはみんなしなければいけないのですが、それを女性を排除する理由に使われないための反論といいますか、 調査は必要になると思います。これは労働形態との関係です。
 もう1つは特性との関係があります。女性は理科系には向かないのかという調査として、例えば女性の脳、男性の脳と いう話をすれば、向かないという議論もあるのですけれども、実際にそうなのかということです。これはやはりジェンダーの 話で、生まれつきそうなのではなくて、そのように育ってきているわけです。例えば子どものときに、男の子は虫で遊ぶけ ど、女の子はお人形さんで遊んでいたら、大学生になっても虫が怖いという女子学生がいる。そうすると、「ほら、やっぱり 女性にはこういう生物学は無理だ」と言うのですが、それはやはり育った環境によるもので、本質的に女性はすべて、例 えば虫がつかめないからそういう職には就けないというような短絡的な結論にならないような議論や調査は必要かと思っ ております。
竹信委員
がんばる女性をはねつける構造を何とかするとおっしゃっていましたよね。それはメディアとそっくりなので同 じだと思います。それをやるために、これまでの御経験から、どのようなことが必要だと思いますか。
辻村先生
そう簡単に一言で言うことはできなくて、とにかく意識改革、教育等、すべてです。やはり意識面は非常に大 きいです。さらに意識面だけでなく、制度面の改革が必要です。この制度面は、下から盛り上がって制度改革ができれば いいですけど、やはりなかなか動かない場合には、上からの引っ張りといいますか、何か予算措置で差をつけるとか、大 学評価のような形で目に見える形で差をつけて、やむを得ず行わなければいけないという状況に持っていくこと等いろいろ あると思います。
 それから、具体的にこのチャレンジの中で両立支援ということが出てくるわけですけれども、私の印象では、性別役割 分業が日本社会には蔓延しているから、保育園をつくって、育児休暇を女性の80%が取ることをチャレンジ支援の目的に して、80%の女性が取れればそれでいいかというと、そうではない面があります。そこで80%の女性が取ってしまえば、性 別役割分業を打破するという目的からは逆行することになります。
 ですから、それを変えていくためには、保育園を建てましょうとか、育休を女性がたくさん取れるようにしましょうという方 向ではだめで、方針といいますか、目的をある程度はっきりさせていって、やはり役割分業を変えるという目的ならば男性 に取ってもらう。北欧のように、男性に対して、有給で何カ月間かあげますといったら、日本の男性だって喜んで取るので はないでしょうか。 それでみんなが育休を取る環境をつくっていく。
 だから、これは目標設定の仕方次第なんですね、やはり。チャレンジの仕方にもいろいろあって、個別に救済していくな らば、女性が育休を取って、女性が保育園に連れていくという形での役割分業を残したままでの女性支援もできると思い ますが、もう少し長い目で見れば、役割分業を変えるためには、むしろ男性に取ってもらって、男性が育児参加をすること が必要になりますので、そういう方向を見定めた施策が必要になりますし、保育園や学校などでも意識改革が迫られるこ とになると思います。
岩男会長
一言説明を申し上げたいと思います。チャレンジ支援というときに、がんばりなさいという後押しをすることだ けではなく、私たちはチャレンジ支援を社会やくらしの「構造改革」と位置付けておりますので、当然、阻害要因としていろ いろな、その構造に内在する問題をまず取り除かないといけない。その両面で考えておりますので、そこを御理解いただ ければと思います。
辻村先生
私もその点は 100%賛成でございます。阻害要因を取り除く形での支援はしなければいけないけれども、阻 害要因を取り除くことにウエートを置いていかなければ、この研究者の問題はできないだろうというのが、私が言いたかっ たことです。その場合に、研究機関の特性という阻害要因があるのかどうかについての研究が要るでしょう。ですから、女性が起業するとか、民間起業で何%ということは、わりと早く成果が出るかもしれないけれども、研究者というのはそう簡 単には成果が出てこないかもしれません。大学院生は増えるとは思いますが、就職ができないですから、オーバードク ターとかポストドクターの問題はあるようです。
北村委員
今のところにかかわることだと思いますが、例えば企業などのポジティブ・アクションのようなものに比べる と、かなり専門性が高いことで、外部から、専門性が高いことについて「見えにくい」という雰囲気がありますね。誰もが納 得して、これは女性を増やさなければいけないと持っていく回路として、例えば、これは企業などでよく言うことですけれど も、「女性的な視点を加えることによってその事業に多様性が生じる」という言い方があると思います。ただ、その辺りは、 さっきの「脳が違う」ということに立脚してしまうような変なねじれのところがありまして、その辺は戦略としてどうなのかとい うことが1つ。
 それから、さっきデータの中で、子どもが多い男の先生の方が研究にがんばるというお話がありましたね。
辻村先生
96、97年のころに40歳以上だった方でです。
北村委員
それは結局、恐らく専業主婦を抱えている先生だということだと思いますが、そういうことで言うと、もしかした らこれは男女差別であると同時に、年齢的な違いが非常に大きい分野ではないかという気がします。
 最初の質問と別の意見になって申し訳ないのですが、そうすると、女性に関しては、出産・子育ての時期から時間差を つけて、研究に一番いそしめる時期が、子育ての見通しがある程度ついた後に来るようなシステムを、これは男女どっち でもいいのですが、女性がそれを選択できるような時間差システムみたいなものをつくることは可能なのか。そのときに問 題になるのは、頭脳の働きが一番活発なときが、年齢的に若い時期なのか、この時期なのかというような定説みたいなも のがあるのかということも、私は知りたい気がしますが、いかがなものでしょうか。
辻村先生
最初の「見えない」というのはそのとおりでございまして、隣の研究室でやっていることがなかなかわからな いということになっていますから、人事についてもそういう構造をそのまま持ってしまえば、外からはなかなか批判もできな い。ですから、例えば公募にするとか、人事委員会形式みたいなものを広範に取り入れ、その人事委員会で例えば候補 者を挙げるときには必ずジェンダーバランスを、例えば候補者に女性を半分入れましょうということを、ある程度一般ルー ル化していくような方向で全体の議論を持っていく。そういったことを上の方から出していくことが有効かもしれません。そ こでは意識が重要だろうと思います。
北村委員
それは1つの方策ですよね。女性を活用する納得性みたいなものは、いかがでしょうか。
辻村先生
それについては、女だからどうとかではなくて個人差なんですよね。女だからという性別に根ざした議論は 私はしない方がいいと思っています。だから、個人差だけれども、個人で優れた女性研究者がいた場合、これは個人とし てではなくて、女だからだめなんだという烙印を押すことで今までは見ていた。
原先生
女性だから将来性も不安だと。
辻村先生
そうそう。若い研究者がいた場合、個人として見ないで、女性の属性で見てしまうから、今後は結婚して子ど もができるかもしれない、研究をやめるかもしれないから育てない。男女の両方がいたときに、男性の方に期待してしまう ということがありますから、そこの構造を変えるためには、もちろん女性のがんばりもありますが、女性だってちゃんとした 成果が出ているという、ロールモデル化をするということが必要です。それから、奨励賞についても、女性の研究成果を、 これは別に女性だから研究したわけではないけれども、女性が主体の場合でもやっぱ良い成果が出るじゃないかというこ とを示す上で重要です。
 そういったことを知らしめていかなければいけないということで、時間があったらいろいろ例をお話ししたいと思います が、私などは憲法学会で、30年ぐらい前に、研究者になりたいと言ったら、女性には憲法は無理だ。民法であればいいけ ど、憲法は無理だと。なぜかというと、憲法は国法学だからだと。天下国家の問題を研究するのに女は無理だという論理 で、就職がなかなかできなかったりということがありました。
 それでは、その後は増えたかというと、余り増えていないんです。私が東北大学に移ったきっかけの1つは、当時、国 立大学法学部で女性の憲法の教授は1人もいなかったので、私が移れば第1号になるので、そのインパクトはあるだろ う、その状況は変えていかなければいけないと思ったからです。
 別に、女だから、男だからということでもなく、どんどん研究成果を発表していけば、女性もやれることがわかりますので。 そうなってくると、がんばるしかないということになりますけれども。その限りでは、さっき言った、がんばる人を支援するこ とは非常に大事なことで、奨励賞をつくったり何かして支援していくということを進めていかなければいけないと思っていま す。
 だから、個と全体ということでは、個も大事だし、全体の枠組みも変えていかなければいけないと思います。
北村委員
例えば企業などで、女性を商品開発室に入れなさいというときには、女性はユーザーとして、今まで男性サ ラリーマンがネクタイを絞めて考えていたこととは違う発想をする人種だからみたいなことがあって、それが一定の説得力 を持っていたところもあると思います。そうすると、先生のお考えでは、少なくとも、学問の世界では、そういった戦略はとら ない方がいいということでしょうか。
辻村先生
それはケース・バイ・ケースだと思います。例えば医学部などでは、女性の患者さんは女医さんに診てもら いたいという問題があるでしょう。そうすると、女性の体についての研究も、今までは男が中心になってやってきたけれど も、女性の医師とか女性の教授が婦人科系の研究をすることはやはり必要だということもあるでしょうし、同じように、薬学 でもそういう領域があるでしょう。例えば法律分野でも、家族の問題でも、刑法についても、女性の視点でも見ていかなけ ればいけないという問題はたくさんありますので、女性の特性を生かした分野はもちろんあります。
 ところが、難しいのは、私は女性だから女性のことをやりますとやっていくと、領域が分かれますね。例えば、女性の人 権は女性の研究者だけが研究するとなると、これは学問にとってもマイナスです。ですから、私などは、自分の分野で は、女性の人権のことを書くときに私に原稿依頼があったら、なるべく私は書かないで男性の先生に書いていただく。男の 人が女性問題を書くというようにしていかないと、女だけが集まって女の問題をやっていると見られ、世の中はなかなか変 わらない。そこでもまた役割分業ができてしまいます。それはしないようにするということです。
原先生
北村委員のおっしゃるように、どういうストラテジーがあるか、どういう論理構築をして納得していただくかという 点ですが、研究者の世界は、しっかりした研究実績を出すことで初めて人々は納得しますから、本当に土台からしっかり することが大切です。ということは、大学院の修士課程、博士課程のときの研究に関する教育をしっかりして、男性でなけ ればできないと思われている分野にしっかりした女性研究者が次々と育っていくようにすると、10年後に、驚くほど変わり ます。学会の理事や評議員に、事務能力がある人がなるんですけど、その男女構成も違ってくるだろうし、大学とか研究 所での採用人事も変わってくるだろうから、どうしても10年の計が必要だと思います。
 もう1つ大事なのは、古橋委員と会議が始まる前にお話ししていたのですが、日本人女性でノーベル賞級の方は潜在 的にいらっしゃると思うんです。そういう方を推薦して、出していく。それは女性研究者たくさんいらっしゃる学会の研究者に 対するインパクトになるような気がします。そういう広い、国際的な見地で、日本の外で活躍している日本人女性研究者 でもいいんです。利根川進氏は、スイスのバーゼルでなさったときの研究がノーベル賞につながっているんですよね。で すから、早道は、外国で活躍している日本女性研究者をこの二、三年で探すことかと思っています。
岩男会長
ノーベル賞ではないのですが、例えば国際機関、世銀のようなところで経済学のPhD.をもつ日本人の女性が非常に活躍しておられて、その実績を持って日本の大学に教授として迎えられるとか、いろいろなケースがあります。 このように男性は余り行きたがらない穴場みたいなところがある。あるいは、政府機関のシンクタンクなども随分研究者を 擁しているわけですから、そういうところにも優秀な方がいらっしゃいますので、大学機関に限らず、もっと対象を広げる と、もう少し横へのチャレンジの場があるだろうと思います。
辻村先生
私どものシンポジウムの中で、工学研究科の教授が、今のポストのままで人事をやっているとなかなか上 がってこないから、新しいポストをつくっていくのがいいということを言われました。産学連携とかそういったことでどんどん 新しい研究分野をつくり、新しいポストをつくっていく。そうすれば、ゼロから誰かを引っ張ってこれるということです。そうい うことをどこかで支援していくこともいいことかもしれませんね。
住田委員
国立大学は公務員であることで、兼業規制がかなり厳しく、また、起業するときにも、最近は大分流れが変 わってきたと思いますが、難しいということです。自由な研究をしたい方で、特に女性の場合は私立大学にいらっしゃると いった形があります。辻村先生の場合は本当によかったと思いますが、逆のケースも結構ありまして、暴力の方にいらっ しゃる小西先生などはまさにそうなんです。
 私自身は、実際は大学はもっと、実務界産業界、それらの第一線の現場と人事交流があって、ダイナミックに動いた方 が、男性にとっても女性にとってもいいと思いますが、どうも私の知人の大学関係者は生え抜きを尊び、定着性を尊ぶ。 要するに、古い体質のときには、東大法学部であればエスカレーターで上に上がっていく方の方が尊敬されるような雰囲 気があります。今日は寺尾先生などの御意見をぜひ聞きたかったのですが。あの方は希有な例で、結局、それに続く方 が法学部では出ていないということがあります。
 そのようなことで、今まではそうであったことはしようがないと思いますが、これからは、研究者を先ほどの公募のよう な形とか、ほかでどんどん回っていっていただくことが、本当は研究のためにもいいのではないかと、私は個人的にはそう 思っています。
辻村先生
これはどこかで調査をしていただけるといいのですが、例えば夫婦の研究者をどのように配置するかという 話では、まだ日本では夫婦は同じところではだめだという雰囲気があります。なぜだめなのかよくわからないのですが、分 野が違っても、教授会に夫婦がいたらいけないみたいなことがあります。アメリカやヨーロッパでも、何年か前は、夫婦が 同じ大学ということはなかったらしく、転勤がなかなかできなかった。ところが、アメリカでは今、同じ大学に2人をペアで、い い人を抜いてくるということをやり始めたそうです。
 東北大学にはそういう方がいらっしゃるんですけれども、そういう例が増えてくれば、流動性を高めるということで、家庭 環境ということを重視した人事といいますか、そういうことができれば随分楽になるかもしれません。女性研究者でも、例 えば地方の場合には別居結婚を強いられるために就職を諦めたりするようなことがあるのかもしれませんね、地方の場 合には。特に、公募が来ても、地方で遠くだったりすると、家族があるとなかなか行けないということがあるのではないで しょうか。
岩男会長
まだいろいろ御発言があると思いますが、時間の制限もありますので、本日議論が足りなかった御意見は、 ファックスで事務局にお寄せいただきたいと思います。それから、次回の冒頭でこの続きを少し議論する必要があると思っ ております。
 原先生、辻村先生、大変お忙しい中を御出席いただきましてありがとうございました。今日いただきました御意見を踏ま えて検討を重ねていきたいと思いますので、またよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
 それでは、本日の基本問題専門調査会を終わります。
 長時間、どうもありがとうございました。

(以上)