男女共同参画会議基本問題専門調査会

  • 日時: 平成14年4月12日(金) 9:30~12:10
  • 場所: 内閣府3階特別会議室

(開催要旨)

  • 出席者
    会長
    岩男 壽美子 武蔵工業大学教授
    会長代理
    八代 尚宏 (社)日本経済研究センター理事長
    委員
    竹信 三恵子 朝日新聞企画報道室記者
    寺尾 美子 東京大学教授
    樋口 恵子 東京家政大学教授
    古橋 源六郎 (財)ソルトサイエンス研究財団理事長
    松田 保彦 帝京大学教授
    山口 みつ子 (財)市川房枝記念会常務理事

(議事次第)

  1. 開会
  2. 経済分野における女性のチャレンジ支援について 
  3. その他
  4. 閉会

(配布資料)

資料1
「女性のチャレンジ支援策」に関する検討の進め方 [PDF形式:7KB] 別ウインドウで開きます
資料2
八代会長代理ヒアリング資料 [PDF形式:109KB] 別ウインドウで開きます
資料3
影響調査専門調査会関連資料 [PDF形式:108KB] 別ウインドウで開きます
資料4
国民生活金融公庫総合研究所ヒアリング資料 [PDF形式:1050KB] 別ウインドウで開きます
資料5
「女性と仕事の未来館」資料
資料6
神奈川県立かながわ女性センター「女性と起業」に関するアンケート調査報告書(抄) [PDF形式:368KB] 別ウインドウで開きます
資料7
経済産業省関係資料 [PDF形式:56KB] 別ウインドウで開きます
資料8
第6回男女共同参画会議基本問題専門調査会議事録(案)

(議事内容)

岩男会長
それでは、時間になりましたので始めさせていただきたいと思います。 本日は第9回の基本問題専門調査会でございます。
 まず、4月2日に行われました男女共同参画会議の御報告をしたいと思います。会 議におきまして、私から『「女性のチャレンジ支援」に関する検討の進め方』について御 報告をいたしました。席上小泉総理から改めて「ガールズ・ビー・アンビシャス。野心的 意欲を持ってこれから頑張ってほしい。女性が元気が出ると男性も元気が出るので、 そういう社会を目指して審議をしてほしい」という、御発言がございました。官房長官か らも同じような御発言があったと思います。
 意見交換の後に、私どもが提案をいたしました検討の進め方について御了承をいた だいております。
 それでは、八代会長代理から「女性のチャレンジ支援について現行制度上の障害と 対応の方向」ということでお話をお願いいたします。
八代会長代理
私としては、なぜ経済学者がこういう問題をやるのかという、この機 会にそもそも論からお話しさせていただきたいと思います。
 まず「女性のチャレンジ支援について現行制度上の障害と対応の方向」というタイト ルでございますが、今の「女性のチャレンジ支援」政策の基本的考え方として、仮に、 現行の社会制度を前提としたままで支援を行うとすれば、それは明らかな限界がある のではないか。やはり、今の社会制度自体の基本的な問題を変えなければいけない と考えられますが、そのときに、雇用慣行等の民間の制度慣行を変えなさいという啓 発活動ももちろん大事ですけれども、まず政府自身が責任を持つ公的な制度の責任 の方がより大きいのではないか。その改革を重視するというのがこの調査会の大きな 役割ではないかと思います。
 男女共同参画会議は、男女共同参画の視点から現在のあらゆる制度を見直すとい うことが使命であって、そういう意味では、今、各省がやっていること自体を徹底的に 見直して共同参画の観点から何ができるのかということを考える。それは決して各省 庁が今やろうとしている構造改革と矛盾するものではないというふうに思っておりま す。
 2番目で、まず税とか社会保険制度でありますけれども、配偶者控除の見直しという のは、これに企業の配偶者手当がかなり連動しておりますので、企業に配偶者手当を やめるべきですよという啓発をするよりも、政府自体が税制を変えるということが非常 に大きなインパクトがある。これは企業の配偶者手当がなぜあるのかというときに、 38%の企業が税制あるいは社会保障制度に合わせていると答えている。税制とか、 社会保険制度を変えれば、民間のこういう慣行にも大きな影響があるだろうということ がわかります。
 それから、税制の問題は社会保険の被扶養配偶者に対する優遇制度である第三号 被保険者とか、健康保険及び介護保険の第二号被保険者の被扶養者制度、これを連 動しているわけで、いずれも年金改革、あるいは医療保険改革等でも今、問題になり つつあります。また、サラリーマンと自営業との社会保険制度の分立が大きな問題に なっていますが、その統合を妨げている一つの要素が自営業の地域保険は個人単位 であり、サラリーマンは世帯単位であるということからきています。仮にサラリーマンも 個人単位になれば、それだけ制度の統合も容易になる。それから何といっても、夫の 賃金で妻を養い、夫が引退したら、夫の年金で妻を養うという今の世帯単位の考え方 は、女性が働き出すと、ある意味では、2人分の賃金や年金を世帯で受給するというこ とになって、過大な給付になる危険性がある。従って、夫の年金だけで夫婦の生活費 のほとんどをカバーするような公的年金の給付水準の決め方自体に年金問題の本質 がある。これは年金制度で想定する標準世帯を、現行のような片稼ぎ世帯ではなく て、共働き世帯にして、夫と妻の年金を合わせて老後の生活を維持する。これだけ で、年金制度や医療保険制度の問題が解決に近づくわけです。
 それからもう一つの社会保険の問題点は、社会保険の適用対象となる雇用者が今 非常に狭い。労働時間は通常の就労者の4分の3以上、所得は年収130 万で線が引 かれ、いずれも満たさない人が三号になるわけですけれども、この範囲が広すぎる。し たがって、130 万円の壁、あるいは4分の3の労働時間のシーリングを意識して、この 範囲内にとどまってパートタイムで働くことが極めて合理的になっている。これは言うま でもなく、働く能力と意欲のある人がフルに働けないという障害になる。そういう意味で も、社会保険の適用対象となる雇用者の範囲を大幅に広げれば、それだけ第三号と か、被扶養者の範囲が急速に縮まるということになる。
 こうした議論は、税制調査会や社会保障関係の審議会でも議論が進んでいる。です から、それをさらに促進するために、男女共同参画会議が明確な個人単位というもの を打ち出すと、さらにそういう審議会等での議論がスピードアップするという可能性があ ります。逆に、こういう男女共同参画にかかわる問題について、今大きく変わろうとして いるときに、この調査会が強くアピールしないということは、長期的にはむしろ問題にな るかと思っております。
 そういう意味で、税・社会保険の方は進んでいるのですが、問題は3番目の雇用で あって、ここが実は一番大きなポイントになろうかと思います。これは労使の基本的な 合意で決めることで、政府がやれることは税とか、社会保険制度に比べてかなり少な いわけでありますので、その点、どういうふうにアプローチするかということであります。 そのときに、日本的雇用慣行というものをどう評価するのか。これは非常に遅れたシス テムだから変えなければいけないというふうに考えるのか、あるいは、これは極めて合 理的な仕組みであり、それを壊してまで、男女共同参画ということを言うことを国際競 争力を落としてまでもやっていいのかという批判が出るわけです。その前提には、雇用 慣行の合理性というものをきちんと考える必要があろうかと思います。
 私の結論は、日本的雇用慣行それ自体は極めて経済合理的な仕組みである。なぜ 合理的な仕組みかと申しますと、長期雇用保障、年功賃金という慣行は、それ自体に 価値があるのではなくて、それは企業内の訓練を最も効率的にするための仕組みで あるというふうに考えられます。欧米型の流動的な労働市場の場合は、どちらかという と、個人が自らの技能を形成することに投資したり、あるいは転職を繰り返すことで技 能を高めていって、高い賃金を要求する。
 それに対して、日本の多くの企業では、未熟練の大卒とか、高卒の人を雇って、長 期にわたる企業内訓練で熟練労働者に仕立てあげていくということがこれまで効率的 に行われてきたと思います。長期的な訓練を通じて熟練形成をするわけですから、当 然ながら雇用保障という不可分である。ただ、それだけでは不十分であって、労働者 が企業の負担で形成した熟練を持ち逃げするということも防げなければいけないわけ で、途中で辞めたら損をする仕組みというのが重要なわけです。これが年功賃金だと 思われます。年功賃金というのは、2つの意味がありまして、1つは年をとるとともに賃 金が平均的に上がっていく。これはある意味では生産性の上昇に対応しているという 面もあるわけであります。それから、より大きな年功賃金の機能というのは企業内で の労働者の閉じ込め効果である。
 これまでの日本の雇用システムというのは、労働者の定着率を高め、熟練形成も保 障されますし、また労使の協調関係も維持できて、プラスの面が非常に大きかったわ けであります。
 ただ、問題はその持続性であり、過去の高い成長のときには、投資の収益率が高く て、どんどん教育訓練をすることが合理的であったと考えられますが、当然、成長率が 低下すれば、最適な投資水準は下がるわけです。そういう日本的雇用慣行の対象と なる労働者の比率を今企業は見直しているわけで、コアとなる労働者は極力減らし、 派遣とか、パートとか、あるいは業務自体のアウトソーシングという形で固定的な労働 者と流動的な労働者の組み合わせを今変えようとしている状況ではないかと思いま す。その意味で日本の雇用慣行は合理的だから不変だという考え方に対して、合理 的だから経済社会環境の変化に対応して、別の合理的な形に変わっていくというよう な形で日本的雇用慣行の対象となる労働者の比率の低下が今生じているのではない かと思っております。
 次に、日本的雇用慣行の公平性ということなんですが、一般に日本的雇用慣行とい うのは極めて公平な制度だという通念がございます。これは賃金格差が小さいという 意味ですが、これはあくまでも組織の中での話であって、大企業と中小企業の格差、 企業間賃金格差というのは日本は非常に大きいわけですし、それから男性と女性との 格差、あるいは正社員とパートとの格差も非常に大きいわけです。ですから、大企業と いう内部労働市場の中では公平な制度と言えるかもしれませんが、労働市場全体か ら見れば、むしろ不公平な面も大きいわけであります。
 なぜそういうことが起こるのかというのは、様々な理論がありますけれども、結局、今 生き残っているのは統計的差別(スタティスカル・ディスクリミネーション)という考え方 であります。つまり、個人が同じ能力を持っているかどうかがそもそもわからないという 情報の不確実性が一つあるということです。個人の能力というのは雇ってみなければ わからない。アメリカのように簡単にレイオフできる社会であれば、雇ってみて能力が ないとわかれば解雇すればいいんですけれども、日本のように、終身雇用前提として 一たん雇ったら、定年まで解雇できないという原則の雇用システムの下では、能力が 低い人を雇うことのコストは非常に大きいわけです。だから、日本の企業は新卒採用 に時間をかけ、お金をかけているように、スクリーニングが重要である。そのスクリーニ ングの手段として何を使うのかというときに、ペーパーテストとか、面接もありますけれ ども、より基本的な手段としては、その特定の社員候補者が属しているグループの平 均的な能力で個人の能力を見る。これが統計的差別理論であります。平均的にみれ ば、男性と女性の間では、女性の場合は結婚する、あるいは子どもが生まれると企業 を辞める可能性が大きい。どんなに企業が高い賃金を払って、あるいは本人が辞めた くないと思っても、例えば夫が転勤した場合、あるいは子どもが病気になった場合、い ろんな経済外的な要因によって仕事を継続できないケースが男性よりも当然高いだろ う。そうなると、日本の企業が多大のお金をかけて訓練した熟練労働者が途中で辞め てしまわれる危険性が高い。一生懸命訓練した人が途中で辞めてしまわれると、企業 としては非常に損失がある。ですから、リスクの高い労働者は、よほどの別の根拠が ない限りは雇わない方が企業にとって合理的であるということであります。
 この統計的差別理論という、つまり個人の能力や意欲を外見で判断できないから、 その属する集団の平均値で判断するという行動が、これまでの日本的雇用慣行のもと で男女間の賃金格差の一つの大きな要因になっているのではないか。特に終身雇用 というのは、雇用を保障される人にとっては結構なことなんですが、逆にそれだけ中途 採用機会が狭まる。正社員よりも能力が高いパートタイムの人でも、なかなか正社員 になることができないという点ですから、一たん結婚して子どもを産むために、企業を辞 めた人は、子育てが終わった後、再びもとの賃金に復帰するということが非常に難し い。その意味で、男女格差の問題と少子化の問題は不可分であって、そういうことが 事前にわかっているから、女性が結婚とか出産をあきらめて、そのまま男性と同じよう に企業に残るという選択をすることが今の少子化につながっているのではないか。
 ここまでは経済的な考え方でなぜ今差別があるのかということを一つの理論として考 えたわけでありますけれども、それは言うまでもなく、差別を正当化することではない。 そういう企業も行動を理論的に説明することは、どこを押せばそれが変わるかという政 策提言に結びつくことになります。一つは、現状の制度を所与としても、もっと企業間 の競争を促進する。企業間の競争を促進するということは、できるだけ質の高い労働 者を選ぶためのコストを自動的に企業に課すわけです。なかなかいい人が来てくれな ければ、それだけ一生懸命リクルートしなければいけない。そういうときには、女性だ からだめだ、黒人だからだめだとか言っていられないわけで、できるだけ個人情報の 収集をしなければいけない。その意味では競争政策が基本ではないか。
 もう一つのやり方は、差別の立証責任を雇用主側に転嫁するということで、例えば、 ある人をなぜ採用しなかったのかというときに、今、企業は全くそれを立証する必要は ないわけですね。しかし、これからは、差別された方ではなくて、する方に差別をしてい ないということを立証する責任がある。立証責任を事業者側に転嫁するということが考 えられるわけであります。そうなると、転嫁された雇用主側は、自分の差別していない ということを立証するためには、もっと個人情報を集めなければいけない。これは採用 のときもそうですし、昇進とか、配置転換のときにもそうである。そういう意味で立証責 任の転嫁一つで随分世の中が変わると思います。
 そんなことをしたら、しかし企業の負担が大きすぎるのではないかという批判があり ますが、それに対して、私はどっちみちそれは必要なことであると考えます。これは結 局、今の雇用のシステムが能力主義向かっているわけですが、能力主義を実現する ためには当然個人の情報を集めなければいけませんし、きちんと個人の働き方を把握 しなければいけない。ちゃんと把握していれば、当然差別していないということも立証 は容易である。そういう意味では、差別の立証責任を転嫁するということは一時的に企 業に対して負担を強いることになるように見えるかもしれませんが、それはどっちみち 能力主義経営の転換のためには必要なコストなわけで、長期的に見れば、企業にとっ てプラスになる面もあるのではないかという言い方もしております。
 それから、同時に労働市場側の変化であって、今20歳の人が60歳で辞めるまでの 間、自分の企業が存続している可能性はどんどん小さくなっている。そういうときに生 涯を通じた後払い賃金というのは、労働者にとって非常にリスクが大きい。労働者の 側でも、もっと流動化を前提にした賃金体系ということのニーズが高まっているかと思 います。
 それから、当然低成長のもとでは、夫だけの収入では家族を養えないわけですし、 特に家族が一人の働きだけの賃金だけに依存しているというやり方は極めてリスクが 大きいわけで、共働きというのが合理的なやり方になっていることは既に言われてい るわけであります。そうした中で個人単位の働き方、あるいは個人単位の社会保障と いうものへの世の中の変化が今動いているわけです。
 それから最近の動きでは、ワークシェアリングということが言われているわけでありま すが、これは単に正社員の雇用を守るためと狭く捉えるのではなく、長過ぎる夫の労 働時間を短くして、短過ぎる、あるいは全く働いていない女性の労働時間を長くするこ とで、家庭の中でのワークシェアリングを進めることが同時に企業の中のワークシェア リングにもなるわけです。これは労働市場全体が今向かっている変化を加速させると いう形でワークシェアリングの問題を考える必要がある。
 そのためには、やはり規制緩和が一番効率的です。今の規制というのも、税制と同 じように、夫が働いて妻子を養うという世帯を暗黙のうちに想定しているわけです。厳 格な雇用保障であるとか、あるいは派遣労働に対する規制であるとか、そういうものも すべて今の日本的雇用慣行を守るための規制であるわけで、そういう規制を見直すと いうことが本当の意味でのワークシェリングを促進することにもなる。
 今の「女性のチャレンジ支援」というのは、今の労働市場で起こっている変化を一層 加速させるために必要な制度改革であって、それは規制であり税制であり社会保険で ある。ですから、そういうことを外して、いわば各省のやっていないことで男女共同参画 会議が「女性のチャレンジ支援」を仮に重点的にやろうとすれば、それは余り効果がな いのではないか。そういう意味では、制度自体に切り込む必要があるのではないかと いうことであります。
岩男会長
ありがとうございました。大変明快な御説明をいただきましてありがとう ございました。
 このテーマにつきましては、影響調査専門調査会でも議論が進んでおりますので、 その検討状況について市川参事官から御説明をいただいて、その後、今の八代先生 の御説明についても御質問を伺いたいと思います。
内閣府(男女共同参画局市川参事官)
男女共同参画社会基本法では、社会にお ける制度または慣行が男女の社会における活動の選択に対して及ぼす影響をできる だけ中立的なものにするというようなこともございますし、それから、国や社会における 制度または慣行が男女共同参画社会の形成に及ぼす影響に関する調査研究を推進 することに努めるようにということになっておりまして、こうしたことを受けまして、影響調 査専門調査会では、女性のライフスタイルの選択に特に影響が大きいと思われます税 制、社会保障制度、雇用システムに関しまして検討を行ってきております。
 まず「1.検討の背景」とございますけれども、高度経済成長の過程で女性は専業主 婦、男性は雇用労働という役割分担を行う世帯の比率が増えまして、職場でも長期継 続雇用が標準とされ、女性は補助的役割ということでございまして、こうした役割分担 を念頭において制度・慣習が形成されたわけでございますが、1970年代半ば以降、雇 用者世帯の専業主婦の比率は低下、90年代以降には雇用者及び自営業の共働き世 帯数が専業主婦世帯数を大きく上回るようになるということでございまして、かつての 役割分担を前提とした制度・慣行は実態に適合しない度合いを広げているということで ございます。例えば、103 万円問題だとかの現象が見られまして、制度・慣行の見直 しが不可欠であるということでございます。
 この見直しをしますと、どういう意義があるかと申しますと、まず1としまして、多様化 する各世帯のニーズへの対応が可能となって、2として二人で働いて所得変動のリス クは分散できる。3として世帯の所得全体の増加につながる可能性があって、4番目と して企業にとっては経営上、重要な戦略となってきているということ。5番目としまし て、労働供給の拡大を通じて経済全体の発展につながりまして、6として、結果として 社会保障の持続可能性の増大にもつながるということでございます。中立性を確保す ると個人の選択の機会が増大するとともに、家庭、企業、国の各レベルで豊かさにつ ながる鍵になるということでございます。
 「3.検討項目と主な議論」でございますけれども、まず、基本的考え方は、税・社会 保障制度は世帯配慮の縮小を含めて個人単位化を進めることを基本とすべきではな いか。
 2番目としまして、雇用システムの待遇等の性別格差を解消すること。それから実情 に沿わない賃金・福利制度を世帯単位から個人単位に改めるべきではないか。具体 的には、家族手当ですとか、そういったことが問題になるわけでございます。
 個別的に、ではどうすべきかというような議論に関しましては、まず税制でございま すけれども、日本の税制は個人単位ということにはなっておるのでございますけれど も、世帯への過大な配慮が含まれているのではないか。具体的には、配偶者控除、 配偶者特別控除は見直すべきではないかということでございますけれども、見直ししま した際の制度変更が国民の負担に与える影響を調整するように配慮することが必要で ある。
 それから社会保険でございますが、これは年金が中心でございまして、まず第三号 被保険者制度は抜本的に見直すべきではないか。それから、短時間労働者にも厚生 年金の適用を拡大すべきではないか。3番目ですが、遺族年金の掛け捨て問題でご ざいますけれども、厚生年金加入といった選択肢の魅力を高めるべきではないか。そ れから遺族年金でございますけれども、十分な移行期間・移行措置を用意しつつ見直 すべきではないか。それからさらに、夫婦間の年金分割についても検討すべきではな いかという議論がございます。
 最後に、雇用システムでございますけれども、日本的雇用慣行は現在急速に変化し ているのではないか。一方で正社員がパートタイマー等の非正規雇用に置き換えられ ているのではないか。
 それから2番目としまして、ワークシェアリングは一時的に雇用を維持するという観点 だけではなくて、中長期的には男女共同参画や個人の生き方、働き方など社会全体 のあり方に関わる課題でもあって、このための環境整備が必要ではないか。
 それから3番目としまして、企業による家族手当等は個人単位化及び処遇の公平と 相容れるものではなくて、見直されるべきではないか。最後に雇用形態や処遇全体の 見直しが必要ではないかというふうにしております。
 以上でございます。
岩男会長
ありがとうございました。御質問、御意見を伺いたいと思います。
寺尾委員
夫が今まで非常に長期の投資を受けて熟練度を上げて長時間働いてい たわけですね。ワークシェアリングで妻と夫の働いていた時間を半分こ、あるいは3分 の1と3分の2こして同じ収入を得ようとしたときに、妻はその投資は受けていないわけ ですね。つまり一人の人間が受けて、それが全エネルギー、24時間はそこに貢献した 方が効率的ではないか。それから今までの高度成長期の夢をもう一度というふうに考 えている人たちがいるとすれば、その人たちにとっては、なぜこの新しい方が合理的な のかわからないと思うんです。それから、今、賃金カットをします、リストラをしますと、 だから、奥さん働くようにならないと困るでしょうと言われたときには、ただでさえ失業 者が多くなっているところに、妻たちが仕事を求めて入っていったら、日本はどうなるの か。その辺はいかがでしょうか。
八代会長代理
なぜ昔の働き方でいけないのかというのは、それは結局、過去の 高い経済成長のもとでは合理的であったけれども、もはや新しい環境のもとでは、長 時間働いて企業がもっぱら訓練する労働者は従来と比べれば相対的に必要度が低下 しているということです。大部分の人にとっては、長期雇用・年功昇進という働き方とい うのはもう望めないことになっている。何が効率的な働き方は、経済社会環境の変化 のなかで変わってくると考えます。
 同時に、そういう働き方というのは製造業的な働き方ですね。特定の企業の中でし た通用しない熟練というのは、例えば自動車の工場とか、電機の工場とかです。ホワ イトカラーの働き方、あるいは今急速に増えているサービス産業の働き方というのは、 特定の企業ではなくて、企業一般に適用できるような熟練度がより重要になってきて いるのではないか。これは情報化社会になればそうなるわけですけれども、みんなが 共通のソフトを使い、共通の機械を使って働くという仕事がどんどん増えているわけで す。
 それからサービス業というのは、お客に対して多様なサービスを提供するというのが 高付加価値サービスの特徴ですから、画一的な質の高い耐久消費財をつくるという製 造業の工場とは働き方が違うわけで、そちらにとってはむしろ特定の企業だけで訓練 を受ける技能よりは、一般的な学校であるとか、あるいは専門学校であるとか、そうい うところの技能がより重要になってきている。ですから、労働に対するニーズが変わっ てきているというのが第二の点だと思います。
 それから奥さんが働けば失業者が仮に増えるじゃないかというのは、パイが一定で あればということであって、それはサービス業中心の社会というのは、それだけかつて の製造業の働き方に比べれば、一人当たりの労働時間が短くなって、たくさんの労働 者がいるわけですね。コンビニなんかは、営業時間が長いわけですから、一人の正社 員では到底対応できない。しかし二人の正社員にしては労働時間が短いわけで、い わば短時間の人が複数いるような働き方が今どんどん増え雇用のパイ自体が拡大し ているわけですね。また、一つは賃金の問題で、長時間働く人に高い賃金を払うという 仕事は今急速に減っている反面、短い労働時間の人に長時間働く人と比べれば少な い賃金を払うという職場は今急速に増えているわけで、長期的には決して失業増加に はつながらない。賃金の伸縮性、働き方の伸縮性が今十分対応していないからミス マッチの失業が増えているので、むしろ、こういう新しい働き方はミスマッチ失業を減ら すのに貢献する説明できるのではないかと思います。
岩男会長
労働市場が非常に流動化するときに、企業の側では個人に関わる情報 を収集しておかなければいけない。この労働者はどれだけの能力がある人なのかとい うことを合理的に判断できなければいけない。それはおっしゃるとおりだと思うんですけ れども、それは果たしてフィージプルなのか、そういう個人情報をどうやって実際に企 業は抱え込むのか。それを収集するには相当なコストがかかるわけですね。ですか ら、恐らく企業の中ではそんなことをしないでヘッドハンターを雇うとか、いろんな形で あるところで個人情報の収集を任せるというような新しいビジネスになるというふうに思 えばいいのかもしれないんですけれども、そこら辺の個人情報の収集というのはどうい うふうに実際にワークするんですか。
八代会長代理
一つはシステムの問題であって、単に毎年とか四半期ごとに個人 をきちんと評価して、その評価のレコードを人事部がとっておくということに過ぎないの であって、どういう評価システムを開発するか、あるいは改善するかは外部のいろんな 人材ビジネスの会社から支援を受ければいいわけです。問題は大変だというのはおっ しゃるとおりで、今の年功制の方がずっと評価コストが安いわけで、年をとれば自動的 に上げるのであればコストは要らない。ただ、これからはまさに個人が多様化してき て、その多様な個人をいかにうまく使うかということが企業に求められているわけです から、これは必要なコストですね。例えば、外資系の会社では個人情報の収集、つま り毎年の人事評価にたくさんの時間とお金をかけているわけで、それだけ企業の利益 を上げるために必要なコストとみなしているわけです。これまでの日本の企業はそこに コストをかけない代わりに、無駄な人を雇っておくというか、あるいは、適材適所に人材 を配置しないという形で別のコストを払ってきたわけです。ですから、それはコストのか け方次第ではないかということです。
古橋委員
従来の年功序列的な雇用もできる企業も当然あるということでいいんで しょうか。
八代会長代理
おっしゃるとおりです。企業間や労働者間でもばらつきは大きい。ア メリカでも、フランスでも、日本的雇用慣行に近いような働き方の企業は幾つもあった わけで、それは結局、高い成長の企業ですね。ですから、高い成長を遂げている企業 では雇用も保障するし、賃金も上がっていくわけで、問題は平均的に見てそういう企業 の数が今後減ってきて、フラット賃金の企業が増えていくというバランスの問題だと思 います。
古橋委員
今の世論は企業の能力を考えず何かそういうのが残っているから、全体 でそれがいいんだというような意見が出るところが問題なんですよね。
八代会長代理
そうですね。
竹信委員
私も八代委員のおっしゃった税制と大枠から変えていくと、これをここで 打ち出すのは賛成なんですが、そのときに、出ていっても何とかなる、出ていっても希 望がある、こういう仕組みをやりましょうということをセットにして出していくことが必要だ と思うんです。今かなり税制と年金の問題が盛り上がっていますので、そこをプッシュ していくということをしつつ、これをこちらは提案します。だから大丈夫という機能をここ でやるのはいいかなと。それはリチャレンジになると思うんですけれども、ということを 提案します。
 それからもう一つ、規制緩和なんですが、終身雇用でずっといなければ損する仕組 みを維持するということがこれまでやってきてきますよね。それと、もっと流動性を持た せるために短期雇用をたくさんつくって解雇しやすい仕組みをつくろうという意見がもう 一つあって、もう一つは、長くいないと損だからやめないので、倒産しそうな企業の人 は退職金をもらってみんなやめてしまうんですよ。ですから、自発的にやめていける、 転職可能でしかも常用雇用、安心して働けるというオプションもあるんだよということを もっとリチャレンジのなかで言っていってあげると安心すると思うんです。そういったこと を少し規制緩和でも盛り込んでいく必要があるんじゃないかなと思うんですけれども。
八代会長代理
おっしゃることはもっともですが、ただ注意しなければいけないの は、なぜ変えなければいけないかというと、過去のシステムが維持できないから変え なければいけないので、こうなったら必ずいいことになりますよという保障するというの は非常に難しいわけです。どっちみち我々の生活は過去の夢のような高い成長の時 代から下がっていくわけですから、できるだけ今後の選択肢を広げる形で新しい事業を 生み出していくことしか言えないんじゃないかと思うんです。大事なことは個々の企業 ベースで雇用保障するのではなくて、労働市場全体で雇用を保障する。それは結局マ クロの政策と同時に、中途採用機会を広げるということで、従来型の特定の企業に 沿った雇用保障というのはもはや無理だと思いますね。
竹信委員
それは私も異論はないです。しかも確実に保障するということはもちろん 誰にもできないので、こういうオプションがあると、代替案はあるんだということのイメー ジをちゃんと出して、そのためにこれとこれをやりましょうよということが必要だと思うん です。
岩男会長
チャレンジの機会をいろいろと用意して応援をするということだろうと思う んですね。
竹信委員
女性の使い勝手をどこかの団体なり勢力がちゃんと言いませんと必ずこ ぼれてしまうんですね。企業の使い勝手、または従来の世帯主の男性の使い勝手は もちろん言う団体がありますが、ちゃんとそういう政策をつくっていく中で、そういうことを きちんと言っていかないといけないということだけを付け加えておきます。
八代会長代理
それは徹底した情報公開ですよね。そういう女性を使い捨てるよう な企業はここですよということがわかるような仕組みにする。ただ、政府がそれをしたら また大変なことになるから、逆に言えば、それをするのが民間の人材ビジネスだと思う んです。ですから、今の人材ビジネスを規制するような、制度を緩めてどんどん労働者 に対してサービスを提供する会社が増えるようにする。もちろん、うそをついてはいけな いし、不当なことをやらないように情報公開を政府が枠をつくるというのは大事だと思い ます。
岩男会長
それから、前回の参画会議で、村井大臣から税制・社会保険を変えてい くということに対して、現状の方がいいんだという人たちが非常にたくさんいる。そういう 人たちの反対というのがあるということを十分に考えていかなければ無理ではないか という御指摘があったということは併せて御紹介をしたいと思います。
松田委員
前提として必要だと思うのは、差別の場合には差別をして得な人がい て、それがいわば社会的な力をもっていろいろな制度の運用とかに実際に当たるとい うような面があって、それがまだ崩れていない。経済合理性だけでそういうものが単純 に消え去ると思わないんですが、要するに差別して得をするというのは、例えば企業に とっても、均等法ができる前に、一番に女性の社会進出を要求したのは第三次産業の 経営者なんですが、これは単に女性という優秀な労働力を入れるのではなくて、安く 入れられると。同じ仕事なら女性の方が、しかも三次産業は女性と男性の間に差がな いどころか、女性の方がむしろ能力がある。なおかつ、同じことをやらせるなら安く3分 の2ぐらいの費用でできると。これはいいことだから、大いに労基法の制限とか撤廃し ろというのが主張だったわけです。その前提が崩れないで経済合理性と言っている限 りは、雇用の拡大という意味での差別はなくなるかもしれないけれども、賃金格差とい う差別というのはなくならないのではないか。同一価値労働、同一賃金という原則を少 なくとも内部労働市場においては徹底させるべきであり、そういうことを前提にしない限 り、差別というのものの是正というのはなかなか難しいのではないか。
八代会長代理
元々、経済学は同一価値、同一賃金を前提とした学問であり、それ になっていないとしたら、それは独占が起こっているからという考え方なんですね。で すから、独占をやめるために競争を促進すれば必ず同一価値労働、同一賃金になる。
 ですから、競争を促進することで独占をやめさせる。それからサービス産業の人が安い 賃金で女性を雇えるから要求したということですけれども、逆にそうすると、どんどん サービス業の間で競争が促進されて、無制限の労働供給が起こらない限りは、結果 的に必ず賃金は上がるはずなんですね。もちろん時間がかかるというのはおっしゃると おりなんですが、ただ、それを無視していきなり法律でやったら、今度は隠れた女性差 別が起こるだけなんだと思うんです。
松田委員
法律で今の同一価値、同一労働賃金を実現させると言っているのでは なくて、情報の提供というのが必要なんじゃないか。女性の能力に対する正当な評 価、これは家事労働であれ何であれ、労働というものがお金に換算するとこうなるとい う、一生働いているからとか、企業に対する忠誠心があるからとかというのではなく て、この仕事の持っている質と量とそういうものを、きっちり分析して、これとこれは違っ た仕事かもしれないけれども、数値的にすれば全く同じものであって、いわば、それに よって生み出す価値は同じなんだということを徹底して報提供するということが必要に なっているんじゃないかというふうに思います。
岩男会長
それでは、次の議題の「女性の企業に対する支援」に移りたいと思いま す。
 国民生活金融公庫総合研究所の高橋主席研究員においでをいただいておりますの で、「女性起業家の現状と経営的特徴」ということで御説明をお願いします。
高橋主席研究員(国民生活金融公庫総合研究所)
おはようございます。国民生活 金融公庫総合研究所の高橋と申します。
 私の専門である女性の起業家の日本における現状、それから可能な限り、起業先 進国であるアメリカとの比較を交えながら説明をさせていただきたいと思います。
 タイトルは「女性起業家の現状と経営的特徴」ということで、「女性起業家」という言 葉を使わせていただいておりますけれども、この中身は、女性の自営業主と女性が社 長である法人と、その2つを含んだものであるという御理解でお聞きいただければと思 います。
 まず初めに申し上げておきたいことの1番目として、いわゆる女性の起業家ということ が最近マスコミ等でも非常に注目されているわけですけれども、例えば欧米などで は、出版物とか、論文なんかの「はじめに」は、いわゆる女性起業家は新しい成長セク ターであるというところから書き出しが始まるケースが多いんですけれども、残念なが ら日本の場合は、利用可能な統計で見る限りは、実際、女性の起業活動は減少して いる。
 次は包括的な情報がないものですから、いわゆる"点"情報
 によって多様なイメージがつくり上げられていることが2番目の特徴かと思います。
 3番目は、それと密接に関係するわけですけれども、経営者として女性に関するデー タが我が国ではほとんどないというような状態です。その経営に関する官庁統計として は、財務省及び総務省で個人企業、それから法人企業を対象とした統計があるわけ ですけれども、経営者の性別を尋ねる項目が全くない。それに対してアメリカではサー ベイ・オブ・ウィメン・オブ・ビジネス・エンタープライズという統計がありまして、5年に一 度包括的な女性の経営者に関する統計があるわけです。ですから、ここで申し上げる いろんな数字は、本当に限られた、日本で利用可能なデータを使ってのお話ということ で御理解いただきたいと思います。
 まず女性の起業家ということを考えたとき、その数はどうなっているかということです けれども、自営業主に限ってみた場合には、これは残念ながら減少傾向にあるわけで す。自営業主には、いわゆる内職もありますし、人を全く雇っていない自営業主の方も おりますし、それから、人を雇っている自営業主の方もいらっしゃるわけですけれども、 どれをとっても減っている、増えていないという現象です。
 これがほかの国、特にOECDに加盟しているような先進国と比べてどうなのかという と、OECDが出しているEMPLOYMENT OUTLOOKの2000年版で90年から97年にかけての 女性の自営業主の増減率を見ていただきますと、日本は-2.8 %。ほかにイギリスが -1%となっておりますけれども、イギリスの場合は、80年代でサッチャー政権のとき に、かなり積極的な開業支援策をとって、実は80年代に9%近い増加を示しおりまし て、その反動という特殊要因があるわけですけれども、日本の場合はそういう特殊要 因がないにもかかわらず、先進国の中では、男性も含めてなんですけれども、女性自 営業主が減少している。
 今日の対象となる女性の起業家ですけれども、それには自営業主と法人経営者が 含まれるということですが、法人経営者については、女性の社長の数は増加傾向にあ ります。ただ、これも女性の社長の数をダイレクトに調査した統計はございませんで、 実は国税庁の資料から法人企業数全体をとって、あと民間の調査機関である帝国 データバンクの調査から女性社長割合をとって、それを掛けたものですので、いわゆる 推計値になるわけです。それで、女性の自営業主の方と女性の社長の、トータルでど うなっているかということですけれども、一言で言うと、どんなとり方をしても減少傾向に あることは間違いない。いわゆる非農林自営業主と法人とすべて足したものも90年代 減少しておりますし、内職を除いた自営業主と法人を足しても、これは横ばいになりま す。それから企業的経営を行っていると思われる雇用のある自営業主と、法人の数を 足してもほとんど横ばい、やや減っている。そのような現状になっております。利用可 能な統計で女性の経営者というのは多分日本では減少しているだろう。少なくとも他 の先進国のようには増えていないだろうということが言えるのではないかなと思いま す。
 次に、アメリカと比較してみますと、アメリカで農林業、法人もすべて込みの数字で女性起業家がどのように最近推移しているかというのを見てみますと、約15年間、1982 年から97年にかけて3倍近い数になっております。
 それで、日本とアメリカの比較をすると、82年同士で比べると、日本もアメリカも約 253 万人ということでほとんど同じだったわけですけれども、97年の統計を見ますと、 その差は日本の場合は減少して、アメリカの場合は急増しているということで3倍以上 の差がついている。自営業主に占める女性の割合を見ても、アメリカは82年から97年 にかけて26%から34%というふうに急激に増えておりますし、日本はほとんど変わっ ておりません。そのような現象です。
 ですから、これも数が増えればいいという問題ではないんだと思うんですけれども、 (経営者というのは非常にリスクの多いものですし、失敗すると大変なことになります ので、)ただ、数の推移だけ見ると、アメリカと日本ではこのように大きな差がついてい るということが言えます。
 それで次に、必ず議論になるのは、何でアメリカではこんなに増えて、日本では増え ていないんだということですけれども、これはいろいろなファクターが絡んでいて、特定 要因に決めつけるのは危険ですが、背景としてどんなことがあったかという程度でコメ ントをさせていただきます。アメリカは日本と比べて女性の社会進出が受け入れやす いとか、受け入れられているとか、そういうような話があるわけですけれども、フォー チュンの500社で見ても、女性がCEOを務めているのはHPのフィオリーナさんを含め て4名しかいないということですし、それから別の統計で見て、トップクラスの管理職に ついている女性の割合というのは5%程度ということですね。
 それに引きかえ、学歴などを見ると、既にアメリカでも女性の男性の逆転現象が起き ているわけですけれども、そういうような意味で、ガラスの天井と言われているものが 存在するのは事実だと思います。アメリカのカタリスト協会が、いわゆるキャリアを積ん で創業された方に行ったアンケートを見ても、ガラスの天井を意識して、独立されたと いう方が3割ぐらいいらっしゃる。それから、離婚率の増加というのも当然あるのかな と。60年代から80年代にかけてかなり離婚が増えている。経済的自立の要請が高 まったということもあると思います。ただ、80年代に一たん高まった離婚率というのは 90年代にかけて低下していますので、その中でまた女性の起業家が増えていますの で、離婚率がどのようにその起業に影響しているのかがはっきりとしたことはわからな いわけですけれども、そのようなこともあるかもしれない。
 それからあと、経済的な要因としては、勤務所得に比べて自営所得が相対的に増え たという調査結果もありますし、それからロールモデルというものが日本に比べて豊富 である。例えば、90年代後半に株式を上場した企業の約2割ぐらいは、アメリカの場合 は女性が社長です。古くはエステローダの創立者とか、19世紀初頭に重化学工業の 分野でもフォーチュン500 社に名を連ねるような企業に育て上げた女性の存在とか、 そういうようなロールモデルもアメリカの場合は多分豊富だと思います。
 それから3つ目としましては、連邦政府の取組というのも日本よりかなり活発だと思 います。ただ、女性というのは、アメリカのいろんな調査の中では、マイノリティという一 つのカテゴリーで調査されているわけですけれども、マイノリティと言われると、女性の 前に人種問題がきていますので、アメリカは人種問題の差別を解消するためにいろい ろな法律とか、制度がつくられてきて、その流れの中で女性の問題がかなり考えられ てきたという経緯があります。日本とは同列に考えられないと思いますけれども、いわ ゆる雇用機会均等法のほかに、融資に対して差別をしてはいけないといった融資機会 均等法などもあるわけですし、政府調達における一定の割合を女性に対して確保して いこう。多分目標値は5%だったと思いますけれども、そのようなことも行われていま す。
 あとは歴史的な背景も無視できないと思うんです。植民地時代のいろいろな調査を 見ますと、都市部のアングロサクソン系という限られたところですけれども、半分以上 が女性だったとか、未亡人の遺産についての確保、夫を失った場合に、女性は子ども が成人するまでその財産の使用権を認める。そういうことがベースになって実質的な 経営者として経営を切り盛りしてきた例もございます。歴史的な深さというのは日本よ りもあるのかなという感じはしています。
 次に、女性の経営者の特徴的なことをざっと見ていきたいと思うんですけれども、事 業分野を見ますと、小売・飲食・個人向けサービスが多いのは、日本もアメリカも共通 な特徴です。ただし、日本とアメリカの違いというのは、やはり男性にメイルドミネー テッド・インダストリーと言われる男性支配型産業においても、女性の割合がアメリカの 場合は急ピッチで増えているというのが日本と違う特徴です。
 戦略的な部分ですけれども、女性の場合はやや事業の拡大志向が弱いという結果 もあります。ただ、私どもが行っている新規開業実態調査では、創業してから1年半程 度の企業が対象になっておりますが、アメリカでは、最近設立された企業ほど拡大志 向においては男女差がないという調査結果もあります。しかし、少なくとも我々の調査 では拡大志向が弱いと、そのような特徴があるということです。
 次、経営の場合は経営資源の調達ということで、ヒト、モノ、カネをどうやって集める かというのも非常に重要なところなんですけれども、女性の場合は男性に比べて個人 的なネットワークを活用して、人材なんかを確保しているケースがやはり目立つという ことです。
 それから、お金の問題については、女性は男性に比べてアクセスが困難なのかと か、そのようなことはエピソソード的にはたくさんあるわけですが、日本では、そういうも のを包括的に調査したものは、少なくとも私が知る限りないです。アメリカでは、一つは 観察された事実としてどうも女性経営者は男性経営者に比べてフォーマルな資金を使 う割合が少ない。それが一つの結果です。
 それに対する解釈としては2つ大きく分かれていて、それは女性だからアクセスが難 しいという結論が出ているもの、もう一つは、女性、男性という性によるものではなく て、女性というのは成長志向が比較的弱いとされる飲食店とか、開業動機まで戦略的 なものがそもそも余り拡大したくない。そういうような要因で事業を始める人が多いの で、銀行はそういうような企業に対しては余り魅力を感じないので、積極的に融資しな いんだと。いわゆるジェンダーの問題ではなくて、開業業種とか、戦略的なものが要因 になっているという調査結果はあります。
 金融機関のアクセスに関する問題が女性か男性かの問題なのか、それとも、そもそ も起業そのもののいろんな戦略的な要因とか、経営能力の問題なのかというのは、こ れからはエピソード的な話をまとめて判断するのではなくて、しっかりした調査に基づ いて判断していかなければいけないことではないかと思います。
 次に、女性によって経営されている企業の経営成果はどうなのかということですけれ ども、これも統計で見る限り、かなり男性と違うわけで、所得の低い層に女性は集中し ています。ただ、これは内職も含んだ数字ですので、一概でこれで何が言えるかという ことはあれなんですけれども、アメリカでも女性企業と男性企業を比べるとかなりの差 があるのは事実ですので、これも日本だけの特徴というふうに考えない方がいいと思 います。
 それから、年収も低いですね。配偶者がいる女性経営者の場合を比べると、配偶者 がいる男性経営者と比べて家族収入は同じなんですけれども、その内訳を見ると、女性の場合は男性と比べて低いということです。女性の経営者の平均年収というのは男性と比べると低いです。これが実態です。
 それからキャリアですけれども、女性の場合は非キャリア型の開業が多いです。パー トタイマーと専業主婦と家族従業員、家事手伝いが創業前のバックグラウンドである割 合というのは女性の場合は20%ですけれども、男性の場合は3%ですし、管理職とか 役員をやっている割合は男性と比べてかなり低い。そいう意味で、一般的にキャリアと 呼ばれているものを積む経験チャンスというのは女性は少ない。そういう中で独立して いるというのが実態だと思います。
 それから、どういう動機で創業しているのかというのを男性と女性で比べたものです けれども、例えば、家族と過ごす時間を増やせるという動機で独立された方は女性の 方が多いですし、事業分野を決めた理由についても、「好きだから」とか、「趣味や特技 が生かせる」という割合は男性と比べて多いわけです。
 今申し上げたようなことを総合すると、女性経営者というのは拡大志向が弱い。事業 分野を見ると小売や飲食店の方が多い。非キャリア型の独立が多い。それから、そも そもの開業動機がライフスタイル追求型が多いということです。
 それから、女性起業家が増えることは社会的にどのような意味があるのかということ ですけれども、女性起業家ならではの事業分野というのはやはり幾つかあるわけで、 女性の起業家が開拓した事業、新しい事業分野が増えれば、それだけ経済発展につ ながる。
 それからあと、女性の活用においても、どうしても男性の経営者というのは女性を女 の子扱いして能力をフルに発揮させない傾向があるというのもいろいろ指摘されている ことです。男性の場合、女性が仕事中に泣き始めるとなだめちゃうけれども、女性の場 合は泣くのは幾ら泣いてもいいから仕事をやりながら泣いてよと厳しく言う。それによっ て女性が発奮して能力を発揮する。そんなような話があります。
 先ほど日本全体は創業率が非常に低くて、それがいろいろな形で政策的な課題で 取り上げられているわけですけれども、開業率を見ると、女性と男性はかなり違って、 全体では低いんですけれども、女性の場合は10%ぐらい。男性が3%ぐらいということ でかなり開きがあって、開業率を引き上げる上でも女性の影響は大きい。
 それから、支援について申し上げなければいけないのですが、一言で言うと、支援を するにしても段階に応じた支援が必要ということで、つまり成人女性があって、その中 で何人かが開業したいなと思って、開業したいなと思っている人が全員開業するわけ ではなくて、開業したいなと思って開業できるまでは何人かは落ちこぼれるわけです。 開業しても、その中で残る人と残らない人がいて、残った中で成長する企業と成長しな い企業がある。開業率を増やすということが一つの目標として掲げられるのであれば、 現在は低いというのが観察された事実としてあるわけですので、どこをいじればいいか ということを見極めなければいけないということです。つまり、そもそもなりたいという人 が少なければ、これは幾ら経営資源のアクセスを容易にしても、なりたいという人がそ もそも少ないわけですから、余り効果がないということですし、生き残りの割合が非常 に低いということであれば、むしろ違った面で支援をしていかなければいけないです し、女性の経営者による成長企業が少ないということであれば、また違う対応があると 思うんです。今はどの部分が一番問題になっているかということを見極めるというのが 非常に重要だと思います。
 最後に、女性の場合、いわゆる経営活動、起業活動というのは大きく分けると、どん なことをやりたいかということを発見して、それに対する経営資源、ヒト、モノを集めて、 それからビジネスの仕組みを組み立てていくわけですけれども、女性の場合は、事業 機会の認識という点では、かなり男性より優れた面があるのかなと。やはり違う角度 でいろいろ社会現象を見ていますので、そういう面では事業機会の認識という面で は、かなり女性の場合、非常に高いポテンシャルを持っていると思うんです。ただ問題 は、やはりヒト、モノ、カネへのアクセスとか、事業を始めた場合のビジネスの仕組みを 組み立てていくというのは、今まで訓練されていない分だけ弱いところがあるのではな いかということで、この2つを強化していくことが重要かなと思います。
 それから最後には、起業活動、創業というのは非常に光と影の部分があるということ ですし、アメリカも女性労働者の多くは雇用者として吸収されていますので、やたらと 創業しなさい、創業しなさいと勧めるのはいかがなものかなと思いますし、先日も事業 を失敗した女性と会う機会がありましたけれども、ストレスで体重も2倍ぐらいになっ て、髪の毛も抜けてしまって、本当にかわいそうな状況になっている。失敗するとそう なってしまうわけですので、そういう面を認識して考えなければいけないということで す。
 それから、実態を反映した支援策というのは重要です。ステレオタイプの認識でいろ いろやってしまうと非常に問題があるということです。女性はすぐ辞めてしまうとか、ど うせ拡大志向がないとか、経済全体に対して大した影響がないのではないかとか、副 業程度でやっているとか、いろんな議論があるわけですけれども、それも確かに点とし て見れば事実なんですけれども、全体としてどうなんだということがわかっていない。そ れには、実態調査をちゃんといかないとだめだということです。例えば、総務省とか財 務省のやっている経営関連の調査も、経営者の性を聞くとかえって差別になるのでは ないかとか、そんなような認識があるようなんですけれども、それをやっているといつま で経っても事実というのがわからないんです。わからないと政策も出せないということ で、最後は手前みそですけれども、そういうような認識に立って私どものシンクタンクで は、今年度の調査ですけれども、女性経営者に対して本格的な調査を1年間かけて やって、少しでも実態把握に努めていきたいなと思っております。以上です。
岩男会長
ありがとうございました。それでは、続きまして、政府がとっておられる施 策の紹介として、「女性の仕事の未来館」で行われている女性の起業支援について、 館長の樋口委員がおられますので、樋口委員から御説明をいただきたいと思います。
 それではよろしくお願いいたします。
樋口委員
本日ただいまの時間は「女性と仕事の未来館」館長として御説明を申し 上げさせていただきます。
 それで、「女性と仕事の未来館」のパンフレットに7つの事業が出ております。本日の テーマでございます起業支援と申しますと、すべてかかわってまいりますけれども、特 にカウンセリング、つまり相談事業、情報発信事業、キャリアアップ・起業、一番中心 は能力発揮事業というところでも、キャリアアップのセミナーですね。それから、昨年か ら始まりまして、再就職モデル開発事業、これもあえて言えば、女性のチャレンジとい うことで言いますとかかわってくるのではないか。ほかにも、能力発揮事業を中心にこ うした4つ、特にその中で入口としてはカウンセリング相談事業の中に、仕事をめぐる 相談は、例えば働く女性の心と体の問題も含めまして受け付けておりますけれども、 その中に総合相談を受けた上で起業の相談ということ。それこそ高橋さんのところの 方にもお願いしているのではないでしょうか。中小企業診断士とか・・・。
高橋主席研究員
個別起業相談は、たしか開館して最初の1年半は私ども月1回 行っていました。
樋口委員
そうですか、ありがとうございます。そういう具合にいろいろ専門家の方 をお願いいたしまして、まず起業の相談をお受けいたしております。それから、キャリア アップというのは、これから働き続けていくために転職をしたり、あるいはさらに管理職 を目指してというセミナーがあるわけでございますけれど、しかしその中に一つ、ちょう ど2000年1月に開館いたしましたころ、その少し前から女性に対する起業支援というこ とがかなり政策に載ってまいりましたし、自治体などでも女性への支援、このごろでは 農水省さんも女性の起業支援ということをなさっていらっしゃいますけれども、そういう 動きがございましたので、起業にもセミナーを割いております。割合と集まりなどもよろ しゅうございます。
 相談に来て、相談と総合的に研修を受けるということもあるわけでございますけれ ど、平成12年度ですから一昨年になりますか、例えば、どういうことをやっているかとい いますと、自分でビジネスを立ち上げるにはというテーマで、初めて事業を成功するた めの基礎知識、創業のステップ、事業計画の作成、資金調達の方法、こういう基本的 な話をいたしますと、20代から40代まで約61名ぐらいの人が集まっております。1年目 は大変細々と始めたものでけれども、今や起業支援事業というのは定着いたしまし て、相談時間は木曜日午後の5時~8時。そして全国の起業情報の収集・提供。起業 セミナーは、今言いましたような一般的な問題だけではなくて、例えば飲食店開業術 セミナーとか、介護保険以降、NPOを含めて介護ビジネスに参入する人などもおりま すから、いろんな形で具体的な事例を挙げて、効果的なマーケティング、マネージメン ト戦略、女性起業家の成功事例などといいますように、いろんな内容を入れて行ってお ります。
 こうしたセミナーの内容や相談の内容につきましては、それぞれ報告書が出ており ます。
 ここからが私の個人的感想ですけれど、まだ2年ですから、ここのセミナーからどうい う人が出てきたかという成功例も、失敗例と申しましょうか、そういうものをフォローして おりません。ですから、私はやはりぜひこのセミナー、1回60名、70名で何回もここ2年 にわたって打っておりますから、そうした人のフォローアップする追跡調査ができたらい いなと思っております。今、私どもは再就職支援として、再就職のモデル開発事業をや らせていただいておりまして、これは基本的には企業社会にどういう再就職できるか、 雇用者としてどう入れるかということで始めてはおりますものの、やはり私は再就職と なりますと、その再就職支援という意味でも起業を含めていいんじゃないだろうかとい うふうに考えております。
岩男会長
ありがとうございました。それでは、次に事務局から若干補足説明があ るということですので、それをお願いしたいと思います。
内閣府(男女共同参画局村上推進課長)
『「女性と起業」に関するアンケート調査 報告書』ということで、神奈川県のかながわ女性センターが実施したものでございま す。こちらは大分前から女性の起業のための事業、「仕事づくり講座」ですとか、「働き 方発見講座」などを実施していますので、その受講生を中心に、ほかに女性起業家団 体に加盟する人も含めて、起業者と断念した人、準備している方と分けて調査を実施 したものの抜粋です。
 特に興味深いのは、後ろから3枚目が起業して働きたいと思った理由、次に起業準 備時や起業してからの問題点、財務能力ですとか、自己資金の不足ですとか、そうい うものが挙がっておりますし、一番最後のページに、女性の起業時に必要な公的支援 について出ていますので、これも御参考になろうかと思います。これは平成13年に実 施しているもので、新しい調査でございます。
 それから資料7が、これは経済産業省関係の資料です。これは4月2日の男女共同 参画会議に提出された資料をお配りいたしております。女性などを対象とした起業家 支援資金と女性向け創業塾の実施状況について紹介したものでございます。
岩男会長
それでは、御自由に御質問、御意見をお願いしたいと思います。
山口委員
高橋さんのお話を伺っていて、本当に統計不足ですね。これじゃ、起業 支援の根拠が足りないので、やはりこことしてはできるだけ統計を、前からもいろんな 委員会で出ておりましたけれども、この際、男女別の統計をとっていくということをもう 一回確認をしたいというふうに思いますね。
 それで、高橋さんのお話の中でなりたい人が少ないと。これは、直観で何だと思わ れましたか。
高橋主席研究員
なる必要がなかったということ、つまり企業自体が生活給で家族 全体を養っていたことと、やはりなりたくてもなれなかったということの二つがあると思う んです。日本には長い歴史がありますから、今までのいろんな積み重ねがあって今が あるわけです。女性が働くこと自体に苦労した時代が長く続き、起業は勤務者として働 くよりも高度な働き方と考えられますから、難しいのは当然だと思います。さらに、社会 的に全然そういうものを支える仕組みがないし、偏見とか、特定のものの見方というの はずっと蓄積されてきたというのがやはり大きいんじゃないかなと思うんです。
山口委員
先ほど私は八代先生のお話の中と関係するんですが、高度経済成長期 で年率10%くらいの成長があった。そのとき誰もが言っているのは、男性は朝から夜 まで働いて、女性は完全に地域社会、子どもを養育、年寄りを全部見たと。この分担 があるということだけれども、それはある意味で経済成長に不可欠な状況だった。その 結果、私たちも豊かになってきたという部分は割合評価されているんですが、低成長 期になって、それがもう一回全部価値が崩れてしまったわけですけれども、ただ、そう いう成功例が成功と見ていいのではないかという部分が一つありますが、経済成長期 の女性の役割というものをどう再評価するかどうか、そこが1つ。
 それからもう一つ、一番申し上げたいのは無償労働ということ。今回の女性の起業に 対する支援策に関しては、無償労働というものを、男性も女性もあわせて考えて、これ から仕事に取り組まなければならないのではないかと思いますが、企業の経済効率を 優先として考えるときには、その無償労働というものを計算していないと。しかし、これ からの社会というのはその両方があって、初めてこういう新しい社会を構築するんだと いうことになると、男女共同参画のこここそ、無償労働をどういうふうに入れ込んでいっ た新しい起業支援で、これは女性にだけまたやってしまうとおかしいことになってしまう ので、男女共同参画ですから、男性に対してもそういう価値観を入れていった支援策を 考えるべきではないかと、私はそういうふうに思っております。
八代会長代理
最初の方の高度成長期の女性の役割というのは、先ほど申しまし たように、高度成長期というのは投資型の社会であった。しかも投資というのが特殊な 投資で企業内訓練というのがかなり主体だったんですが、企業内訓練というのは大量 生産できない。ですから、特定の人に限定して訓練しなければいけない仕組みであっ た。そういう意味で男性は仕事、女性は家事、子育てという垂直的分業関係が企業に とって合理的であったし、その結果、所得が増えれば、それは大部分の人にとっても 合理的であった。ただ、そこで犠牲になったのが多様性ということです。平均から外れ た人というか、多様性を求める人は常に犠牲になっていた。そういうもので、女性の方 でも専業主婦で満足している人がたくさんいたわけで、それがいけないということは何 もないわけです。それが今変わってきて、より多様性が重要になってきている時代に なってきているということだと。
 無償労働というのは、経済学の言葉に直すと、これは帰属所得の価値ということです ね。つまり市場労働で評価した非市場労働ということで、その意味で価値を生むこと は、ある意味で当たり前なんですね。つまり、専業主婦の仕事というのは、例えば、そ れを市場で購入したときに一定のコストがかかるわけですから、それと等しい生産を 行っているという形で経済学では、その意味ではきちんと評価されている。それ以上で もなく、それ以下でもないし、それを政策的にさらに何か評価すべきだという議論は私 はちょっとよくわからない。例えば、よく年金の第三号被保険者の制度を無償労働へ の強化を示したものだから必要と言う人がいる。しかし、私はむしろ主婦の家事労働を 評価すれば、それに税金を掛けることができるのではないか、つまり基本的にみんな で生産して、所得があれば税金を負担するのは当然でありますから、少なくとも無償 労働ということを評価するからそれに公的に補助すべきだという論理にはならないの で、無償労働をきちんと評価すれば、それは課税対象になるという方が私の理屈には 合うわけであります。
寺尾委員
八代先生のお話を伺っていて、こういうことなのかなと。工業化社会か ら、ポスト工業化社会に日本は変わろうとしているわけですね。それで工業化社会の イメージはつくりやすいわけで、要するに、いい製造品をつくって世界中に輸出すること によって日本は資源はないけれども、やっていける。一方、サービス業というのはなか なかわからないんですね。特に国内でサービス業をお互いにやり合っていたって、これ は多分プラスのものを生み出せないわけで、何も天然資源がないわけですから、多分 対外との関係でのサービス業というのお話だと思うんですが、サービス業で経済成長 ができるときのイメージがわかないんですね。なので非常に不安になる。つまり、どん どん産業の空洞化が進んで製造業が出ていってしまう。日本は一体何で食っていくの かというところのイメージがないんですね。
 一つは、先ほど八代先生がおっしゃった点なんですが、多様性というのがポスト工業 化社会には非常に重要だということだと思うんです。従来型の日本の産業、あるいは サクセスストリーのイメージがある人たちにとっては、どういうふうに日本は変わったら 経済成長、あるいは豊かな、現在の豊かさを維持していけるのか、あるいは急速に豊 かさを失って、ひどいことにならないで済むのかという、不安を抱いている人もいると思 うんですけれど、それに対してどういう産業構造に変わっていくと日本には可能性が出 てきて、そのことと男女共同参画との関係をはっきりつけて、ある程度言える範囲で 言っていくことというのは大事なような気がするんです。その一つが多様性で、もう一つ は先ほどおっしゃったサービス業においては、企業別ではなくて、ある業種別の共有 できる何かが必要だと。ソフトにしろ何にしろ、そしてその流動性という話だったと思う んです。
 それでひとつ質問なんですけれども、今日本企業がやっていることは、コアな部分に ついては従来型の働き方を残して代替可能な部分で、それというのは、私が思ってい るアメリカの産業のあり方とはちょっと違うんですね。アメリカの場合は、むしろコアな 部分といいますか、一番アイディアで勝負する部分が移転することによってキャリア アップしていく形ですよね。そういうイメージがアメリカについてはあるのですけれども、 今、日本の企業が行っている方向は、それと逆のような感じがするんですけれども、そ こはいかがでしょうか。
八代会長代理
経営の細かい点になると、私もいろんなケースがあってよくわから ないのですが、頻繁に転職する人もアメリカは非常に重視しているのは事実ですけ ど、やっぱりマネジメントスタッフというのは、継続的に就業している人と二本柱でやっ ていると思うのです。会社によっても随分違う。ですから、どっちがあるべきかというの ではなくて、それは寺尾さんのおっしゃる多様性であって、いろんな企業があってもい いということで、こうでなければいけないというのが、従来の日本的な考え方であって、 それはいろんな多様性を生むような仕組みに変わっていくということでは全く同じだと 思います。
寺尾委員
これは意見なんですが、多様性という点と、産業構造を展開していくとき に、能力主義になってきて人をきちんと評価するということができていかないと終身雇 用制も崩れてきませんし、能力主義に評価できるようになると、女性の機会が非常に 広がるということにもなりますので、ここの重要性も言っていくということも大事なので はないかと思います。
岩男会長
八代先生が、放っておけばとんでもないことになるので、現行のシステ ムはとにかく維持できないんだということを強くおっしゃいました。だから手を打たなけ ればいけないということなんですけれども、やっぱり明るさが見えるということが必要 で、人間を対象にしている専門の立場からからいうと、それ抜きではちょっと説得力を 持たないんですね。だから、ここで出していくのは、多様化というのも大事だけれども、 多様化だけでは説得力を十分持たないので、もっといろんな要因をここで出して、明る い未来に向けての姿を描くということをしないといけないんだろうというふうに思うんで す。
古橋委員
知恵の社会においては、知恵のない人たちはどうするのという不安が一 番あるわけですよね。そこをどうするかを考えてやらないといけないと思います。みんな が知恵、知恵というけれども、そこのところをどうするかという問題、そういう人たちも未 来は明るいんだよということが言えるような論理をつくってあげないといけないのではな いか。そこのところを次の機会に議論したいと思いますけれども、今日は高橋さんが せっかくおられますので、極めてテクニカルな話を教えていただきたい点が二、三あり ます。
 これから、私どもは統計をつくっていくということを専門部会でやることになるのでけれ ども、起業家の定義という問題についてどういうふうに考えられるのか。女性の社長さ んとか、自営業者というふうに言われておるけれども、英語では何と言っているので しょうか。
高橋主席研究員
いわゆる雇用形態に着目した呼び方としては、セルフエンプロイ メントというのがあって、それはエンプロイヤー、エンプロイーですか、雇用者の対比さ れる概念として自己雇用という、これが一つの大きなジャンルとしてあるわけです。もう 一つの大きな分け方というのは、公的な、いわゆる法律に基づいた形態としては、日 本でいう個人自営業主というのは、プロパイアターというのがあって、それに対比する ものとしてコーポレーションがあるわけです。自営業者とコーポレーションの代表者、こ の2つを起業家ととらえるのが一番一般的なのではないかなと考えています。
古橋委員
そこで、今後の政策を考えたときに、起業家に対する政策、あるいはベ ンチャーのいろんな政策もこれから出てくると思うんですけれども、それとの絡みにおい て、起業家というものに対して統計をとるときの定義をどういう点で考えたらいいかとい うのは、もしできたら後で書いていただいたのをいただけると大変ありがたいんですけ れども、それが第1点です。
 それから、事業機会の追求型と、生活手段追求型と、何でアメリカではそういう分け 方をしているのですか。
高橋主席研究員
これは、グローバル・アンテナプレナシップモニタリングという調査 で、いわゆるネセシティ型と、オポチュニティー型と分けていまして、ほかに生活手段 があるにもかかわらず、事業を始めた人がオポチュニティー型に分類して、ほかに生活 手段がなくて、やむを得ず自営を始める人をネセシティ型としていて、それを私の方で 意訳して、そこに述べさせていただいたということです。
岩男会長
それでは、本日の基本問題専門調査会はこれでおしまいにしたいと思 います。高橋さん、お忙しい中おいでいただきましてありがとうございました。

(以上)