ジェンダーの主流化:アジア太平洋地域の良い事例・概要

本書は4つのセクションから構成されている。各セクションの冒頭にある概要には、そのセクションに関係する主要なジェンダー課題が明らかにされ、その課題とAPEC作業部会及び委員会の作業との関連が示されている。4つのセクションとは、中小企業(人材育成問題、貸付金へのアクセス、貿易の促進)、科学技術(女性のキャパシティ・ビルディングと従 来の分野以外への女性の参画の拡大)、食糧確保と地方の活性化(資源へのアクセス、貸付金、適切な技術、研修、カリキュラムのジェンダーの主流化)、労働市場(失業者に対する研修、プログラムの影響を評価するためのジェンダーの主流化)である。各事例には、ジェンダー課題、プロジェクトの目的、活動、成果、教訓を示したプロジェクトあるいは活 動の概要がまとめられている。問い合わせ先や主要なプロジェクト関係機関に関する情報も記載されている。

事例を通じて繰り返されるテーマには、<1>教育と研修へのアクセスに関するジェンダー課題、<2>貸付金、資源、情報及び市場へのアクセス、<3>女性の無償の活動を認めないようなイニシアティブによる女性の十分な参画に対する障壁、<4>より長期的にジェンダーの主流化を維持するための「適正な」組織化である。

事例作成にあたっては、AGGIのメンバー及びプロジェクトに参加する5人の「経済アドバイザー」が関与した。その他のプロジェクトには女性指導者ネットワーク(WLN)のメンバーと長年にわたるAPECプロジェクトの関係者が関わった。

「良い事例」のプロジェクトは以下の特徴を持つ。<1>ジェンダーに基づいた分析を適用し、性別データを活用し、女性の参画を増やすイニシアティブを例証した、<2>政策環境に影響 を与え、男女平等のためにより貢献するようにした、<3>革新的で他に適用できる持続的なアプローチを示した。

ジェンダーの主流化:事例からの展望

本書の事例が示すように、ジェンダーの主流化は手法や技術に留まるものではない。組織自体の機能と構造に目を向け、政策に対する考え方とアプローチの仕方を新たに開発する必要がある。いくつかの事例では組織にジェンダーを主流にするアプローチを示している。たとえば、中国農業大学地域開発学部、タイ信用組合連合(the Credit Union League of Thailand Ltd.)の事例である。他にも、アメリカ労働総同盟・産別会議の連帯センター(AFL-CIO Solidarity Center)はジェンダー評価プロジェクトをプログラムの企画と影響を評価する主要な要素として組み入れている。

 「なぜ」ジェンダー主流化が必要なのかについての理解を促すために、ジェンダー課題を明らかに「ジェンダーに中立な」政策及びプログラムの中で実質的に取り上げる戦略を取ることが多い。チリの女性問題省(SERNAM)では、公的交通機関におけるジェンダーの重要性を示すため上級行政官との会議を開催した。本書で描かれる事例は、政策や課 題におけるジェンダーの重要性が目に見えるようにすることを意図したイニシアティブを解説している。初期のAPECの「ジェンダープロジェクト」の多くはこれを目的としてきた。産業科学技術作業部会、人材養成作業部会、電気通信作業部会、漁業作業部会、中小企業作業部会は皆この種のプロジェクトに取りかかった。交通機関作業部会には5つのワーキ ンググループのプロジェクトがあり、APECジェンダー基準の適用がどのようにプロジェクトの提案と結果に影響を及ぼすことができるかを示す「ジェンダー手法キット」を開発している。

 ジェンダーの主流化は全ての生活の場面で女性が十分に参画することであり、あまり女性が参加していない分野での女性の参画を増すためのアクセスの問題に焦点を当てている。APEC地域の各政府はこの目的を達成するためにさまざまな戦略を採用してきた。香港では高級レベルの女性委員会は、政府の業務を検討して、行動のための優先順位を明 確にするという仕事を課されている。マレーシアの「女性ネットワーク作り」プロジェクトは、女性による革新的でボランティア主導の情報技術の利用を推奨する企画となっている。 ジェンダーの主流化はまた、女性が機械に適合するというより、技術や手法を女性のニーズに合うようにすることを意味する。ベトナムの家族学女性学センター(the Center for Family and women's Studies)では、ベトナム農民の大多数である女性のニーズと経済状況にもっとも適合する農機具を明らかにするための研究と実地試験に着手している。

事例からの教訓

事例で取り扱った課題は、グローバル化と貿易及び投資の自由化による幅広い構造変化の結果として、女性の経済活動に大きな変化を引き起こしたことを強調している。これらはプラス及びマイナスの双方の影響を含んでいる。つまり、輸出志向の産業における賃金雇用へのアクセス増加は有益な影響の例として挙げられることが多いが、この雇用の質が問われることも多い。女性による事業は商取引促進活動を通じて支えられているが、グローバルな競争力によって引き起こされた生産再編成のために打撃を受けたサブ・セクターに女性が集中している場合が多い。APECの水産業における女性プロジェクトでは、水産業への投資が女性のあまり参加していない大規模な水産活動の発展を重要視してきたことから、中小水産業における女性の利益が危ういということが認識された。

立案者やプロジェクトの責任者は、重要なジェンダー課題を明らかにするための手法を必要としている。多くの組織で行われているように、APECでは、作業部会と委員会のための「ジェンダー情報セッション」に組織的なキャパシティ・ビルディングが含まれている。本書の事例の多くは、ジェンダーを意識したプログラムが長期間にわたって持続するための手法と知識を全ての関係者がもつように、全ての関係者、つまり対象者だけでなく活動を行う組織、管理者及び職員のためのジェンダー研修を重視している。

事例は異なる分野の異なる規模のプロジェクトを扱うが、以下のような全てに共通する問題、戦略、教訓がある。

*家族や家庭での世話や養育(無償労働)に対する女性の責任についての社会的文化的な期待は、女性のその他の経済活動への参画に対して広範囲に及ぶ影響力を持つ。

  • プロジェクトの企画の際、計画者や政策立案者は、無償労働が多くの女性(男性も増えているが)の時間や機動性に与える影響を理解する必要がある。例えば、APECの女性起業家に関する調査(Bang Jee Chun、1999年)は、女性企業家の特性の分析において年齢、婚姻区分、子供の有無を特に言及している。このような情報は、研修プログラムへの参加おける女性の時間や機動性の制約を理解し、考慮するために重要である。この事例としては、アメリカのAFL-CIO連帯センターが教育プログラムを女性がより出席しやすい 週末に、また年長の子供を連れてくることを認めて開催したという事例がある。

*性別データの収集は、セクターにおける男性と女性のそれぞれの経済的役割を明確にするための第一歩となる。

  • プロジェクトの初期段階において、活動の全レベルにおける女性と男性の参画に関するデータを集めることによって、男性だけでなく女性の役割を明らかにすることは、女性と男性が平等に受益するような戦略を開発するために重要である。性別データはジェンダー分析に不可欠なインプットである。ジェンダー分析は、プロジェクト・プロポーザルの公式な要請に組み入れられる情報や、ジェンダー関連の活動の項目をプロジェクトの予算と契約に確実に含めるようにする情報を提供するものである。プロジェクトの初期に行うジェンダー分析は、女性の参画の経過状況を測るための基礎データも確立する。

    アメリカ国勢調査局の支援を得て、APECのジェンダー統合に関するアドホック・アドバイザリー・グループ(AGGI)は、ジェンダー統計の分析と評価に関して2001年に2週間の研修ワークショップを開催した。

*ジェンダーの主流化への強力なコミットメントは重要である。

  • 効果的なジェンダーの主流化は、上級レベルからのコミットメントと説明責任だけでなく、男女平等に関する組織的な政策と組織的な枠組みに対するの強力なコミットメントにより始まる。プロジェクトレベルでは、ジェンダー分析のための資源が企画立案段階でプロジェクトに割り振られること、また女性の参画に関する重要な点が公式提案依頼書(RFP)に 含まれることを確実にするために、政策枠組みはプロジェクト指導者からの強いコミットメントによって裏打ちされなければならない。

*女性の参画についての目標設定は目的達成のための効果的な戦略である。

  • 女性の参画のために目標を設定することは、特にモニタリングと進捗状況の定期的な報告が行われるときに、良い結果を導くの要素となり得る。この目標設定という要素により、石油ガス技術移転プロジェクト(中国とカナダ)の関係者は、実際に女性が石油ガスセクターのどこで雇用されているかを評価し、上級専門家研修に参加するために必要不可欠な研修を女性が受けることを保証するステップを明確にすることを容易にした。

  • 目標はそのセクターでの女性の状況を明確にするジェンダー分析後あるいは調査実施後に設定すべきである。

*ジェンダー研修は長期的に成果をあげるために重要である。

  • 目標設定は目的達成のための重要な手法であるが、成功したパイロット・プロジェクトを持続可能なプログラムにしていくためには、ジェンダー研修への投資と、長期的に女性の参画を増やすような組織的な枠組みへの支援が必要である。成功したプロジェクトでは、プロジェクト終了後も引き続きネットワーク作りや情報交換への支援とともに、組織関係者 のための一般的及びより上級レベルでの研修を重視している。

  • 政策立案者はジェンダー分析のための方法を必要としている。本書に掲載された多くのプロジェクトは、方法の開発と研修の実施のために外部のジェンダー専門家からの支援を求めている。

  • 世界銀行、連邦事務局(the Commonwealth Secretariat)、国連開発計画(UNDP)などの国際機関には専門的知識や資料が豊富にある。本書の事例にあるプロジェクトの多くも 地元のジェンダー専門家がプロジェクトのニーズに合わせた研修プログラムの開発支援に従事した。

*女性を参加者とする。

  • 参画の問題に取り組む際に多くのAPECフォーラが直面するのは、プロジェクトに助言できる女性、また専門家として及び参加者として参加できる女性を特定するという問題である。(フィリピン、タイ、ベトナム、カナダによる)輸出促進の事例のように、女性参加者は組織内の異なるレベルから集まる。たとえば、貿易ミッションは女性の企業所有者とともに女性の経営者をターゲットにした。「参画」を再考することで多くの可能性が開かれる。たとえば、管理経営についての研修プログラムは管理者や経営者になる可能性のある者を含んだので、つまり才能はあるけれどもまだ昇進していない女性をターゲットにすることができた。参加している組織は女性が上級の研修を受ける候補になれるように、女性のキャパシティ・ビルディングへの投資を促している。

  • APECフォーラは、女性のためのNGOと大学の女性学部と共に、各国の女性問題省、各国内及び国際的企業、専門職の女性協会にも資料を問い合わせることができる。APEC女性指導者ネットワーク(WLN)は女性ビジネス専門職指導者のデータベースというAPECのもうひとつの新しい資料を作成している。多くの事例が政府機関、民間部門、学術あるいは研究機関、女性グループとの協力による成功例を示している。

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