APECにおける女性の統合のためのフレームワーク(仮訳)

ジェンダー分析ガイドに使われている3つの段階は、人材養成ワーキンググループ(HRDWG)によって作成された“プロジェクトの管理と実行を強化するためのガイド"から引用されている。

“ジェンダーを意識したアプローチ(すなわち、ジェンダーをプロジェクトの各段階を通じて一変数として組み入れる)"と“ジェンダー中立的なアプローチ"の相違の理解を助けるために、各問に例が含まれている。それらはECOTECHの優先事項の分野に関係している。それらは、例示を目的としており、網羅的に示すものではない。様々な分野におけるジェンダーへの配慮の例を提供するために、3つの各段階にはそれぞれ異なるプロジェクトの分野が含まれている。

第一段階:プロジェクトの設計(例:目標と目的の設定、調査・研究、行動と成果の決定)

例:地方の総合的経済成長

ジェンダーの視点を確保するため、以下のことを考慮する:

  • ⅰ)目標と目的の設定
    • どのような問題に取り組むべきか?目標と目的はターゲットとしている人口集団を性別に分けて明確に反映しているか?
      ジェンダー中立:雇用創出、生産性向上及び作物の多様化を通じて、食料安全保障と地域社会の所得の向上を目指す。

      ○ジェンダーを意識:農業生産システム全体における女性と男性の異なる役割を考慮に入れながら、雇用創出、生産性向上、作物の多様化を通じて、食料安全保障と地域社会における男性と女性の所得の向上を目指す。

    • プロジェクトが扱う“問題"を誰に相談するか?解決策の策定とプロジェクトのすべての局面に男性と同様女性も直接関与しているか? ジェンダー中立:地域社会サービス、地域農業者団体、協同組合、地方指導者協議会(Council of local leaders)

      ○ジェンダーを意識:女性と男性の協会双方の代表
      (例:女性のボランティアグループ、チャイルドケアサービス、女性の所得創出のグループを含む地域共同体サービス、女性協会(Women's Institute)を含む地域農業者団体、女性の協同組合や小額金融の協同組合、地域の指導者、女性の非公式の指導者の地域社会における協議会など。)

成功の秘訣:youth, elderly, farmers, stakeholders のようなジェンダー中立の言葉は、ジェンダーについて示唆されることを隠しがちで、ジェンダー分析に誤りをもたらすことがあるので注意すること。

ジェンダー分析はプロセスの最後に追加されるものでも、分析に特別に付加されるものではない。それはプロジェクトの各段階に体系的に統合されるものである。

  • ⅱ)調査研究
    • 地域社会における男性と女性、少年と少女を取り巻く環境はどうか、両者はどのように異なるか? ジェンダー中立:地域社会における住人についての情報を収集(例:職業、資産・所得水準、貯蓄・負債、教育・識字の水準、世帯数・規模、地域での孤立したコミュニティ)

      ○ジェンダーを意識:職業、資産・所得の水準、貯蓄・負債、教育と識字の水準、世帯数・規模、片親世帯の数、地域における民族的・文化的に特徴的・孤立したコミュニティについて、性別のデータを比較する。

    • 地域社会や世帯において誰がどのような仕事をしているか(例えば、子供及び老人のケア、無償労働など)?プロジェクトはそれらの役割に影響を与えるか? ジェンダー中立:耕作、機械の運転・メンテナンス、労働(年間、臨時)、輸送、マーケティング

      ○ジェンダーを意識:農業生産システム全体、世帯の食料安全保障、世帯単位のあるいは小規模の農産物加工やマーケティング、農業外の雇用、地域社会活動における女性と男性の相対的な役割と分業を評価する。

    • 地域社会において、誰が何を所有しているか?誰が資源へアクセス出来るか? ジェンダー中立:信用、設備、土地、水や森林、調査・研究、訓練

      ○ジェンダーを意識:公式及び非公式な信用、設備、土地、水や森林、調査・研究、訓練機会を含む資源への女性と男性の相対的なアクセスしやすさの精査

    • 資源にアクセスしたり、またそれを管理する際に女性と男性が直面する制約は何か? ジェンダー中立:金融、信用、識字、科学技術、訓練を含む制約の評価

      ○ジェンダーを意識:時間、交通の便、金融、信用・担保、識字、資産所有、科学技術、訓練不足、家庭責任、文化的・宗教的制約を含む、女性と男性が直面する異なる制約を評価する。

    • 誰が恩恵を受けるか?誰が損するか?プラスの効果を増やし、マイナスの効果を軽減したり、なくすために、どのようにプロジェクト設計を調整できるだろうか? ジェンダー中立:移転、土地利用権の喪失、所得喪失及び科学技術の影響

      ○ジェンダーを意識:移転、土地使用権の喪失、所得喪失、文化的財産の喪失、科学技術、労働時間、家庭責任の、男性と女性に対する異なる影響の精査

成功の秘訣:性別の定性的、定量的なデータを収集すること

  • ⅲ) 行動と成果の決定
    • プロジェクトが、APECにおける女性の統合のためのフレームワーク及び大臣会合の共同声明を含むAPECの他のジェンダー関連のコミットメントと整合的か、また、それに基づいているか? ジェンダー中立:APECの政策や優先事項と関連がなく、もしくはジェンダーをプロジェクトにおける一変数として特別には考慮していない。

      ○ジェンダーを意識:ジェンダー分析のガイド及びその他の関連する文書と同様APECのフレームワークがプロジェクトの全ての局面に関与する人々に利用可能となっている。プロジェクトを通じて、それらの適用が監視される。

    • 地域社会における主要な意志決定権者が誰か?また、結果、成果、プロジェクトの最終的な成功に影響を与えるようなどのような変化を取り入れるべきか? ジェンダー中立:地域社会の指導者、地域の団体・銀行組織からの支援を求める。遊牧農業から集約的・定着農業システムへの変化、相互扶助の伝統、新技術への適応などのような、プロジェクトの受入を制限する可能性がある慣行・要因の評価。

      ○ジェンダーを意識:女性を含む地域社会の公式・非公式な指導者、女性の組織を含む地方の団体、女性の協同組合を含む地方の銀行組織からの支援を求める。相互扶助の伝統、親族に対する責任、土地所有、女性の伝統的役割に関する認識のように、プロジェクトの受入を制限する可能性がある社会・文化的な信仰や慣行の評価。

    • プロジェクトの影響を監視するためにジェンダーに敏感な指標が使われているか? ジェンダー中立:団体での参加、地域社会の関与といった、共通に使われている定量的な指標を強調。

      ○ジェンダーを意識:チャイルドケア、家事、地域社会活動のような、女性の“目に見えない"あるいは無償の労働を定性的、定量的な指標判別する。データは女性あるいは男性にとってどのような行動や活動がより効果的かを判別するために分析される。

成功の秘訣:プロジェクトが女性と男性に与える潜在的な結果を見極め、提示し、また、予期されるリスクの大枠を示し、それらに取り組むための戦略を開発するために、計測可能なターゲットとジェンダーに敏感な指標を設定すること。

第二段階:プロジェクトの実行(例:ワークプランの作成、課題の提示、資源の配分、管理と監視)

例:教育と訓練

A.ジェンダーの視点を確保するために以下のことを考慮すること。

  • ⅰ) ワークプラン、課題、資源配分
    • 完全で平等な参加を促進するためにプロジェクトの資源、メカニズム、恩恵に対して女性も男性もアクセス出来るか?誰がプロジェクトの資源を管理するか? ジェンダー中立:プロジェクトの活動は男性、女性あらゆる人に開かれている。

      ○ジェンダーを意識:プロジェクトはチャイルドケアの提供、OJT訓練、輸送、補助金、文化に特異的なプログラムもしくは不利なグループに対する特別のプログラムのような支援システムや特別な措置を含む。

    • プロジェクトの活動が伝統に縛られない教育、訓練及び仕事の分野への平等なアクセスを確保しているか? ジェンダー中立:プロジェクトは伝統に縛られない分野における訓練と雇用の機会をすべての女性と男性に提供する。

      ○ジェンダーを意識:プロジェクトはジェンダーに敏感で文化を意識したアプローチや特別な措置を開発している。認定付与、訓練と資格のコスト、交通の便、夜間コース、訓練施設の位置、コミュニティによる受け入れ可能性、習慣と文化の影響、カリキュラム、教育者のジェンダー感受性、女性の参加を促進する必要性などの要素を考慮している。

    • プロジェクトの予算のどの程度が女性に特異的なニーズに取り組む活動に配分されているか? ジェンダー中立:活動はトータルの予算の配分の範囲内で見積もられ、予期していない状況をカバーするための既定の割合が当初から設定される。

      ○ジェンダーを意識:活動と予算の配分は、プロジェクトの目的と目標、男性と女性双方にとっての公平な成果の達成に貢献する、また、逆にそれを阻害する要素、そして、男性と女性にとって平等な機会と結果を確保するために必要な特別な措置を考慮に入れている。

  • ⅱ) 監視
    • プロジェクトのデータ収集と指標はプロジェクトの女性と男性に与える影響及び女性と男性の参画状況を測定するものとなっているか?女性は資源の利用に加わっているか? ジェンダー中立:データは性別に収集されても表わされてもいない。指標は、年齢層と教育レベルの間の規則的で単純な関係を仮定している標準的な在学者数(初等もしくは中等学校に在学している子供の数を、その教育レベルに該当する年齢層の子供の総数に対するパーセンテージで表したもの)を使っている。

      ○ジェンダーを意識:データは性別で分けられている。一般に用いられている教育、識字の指標に加えて、純在学者数(ある学校教育レベルに登録され、かつ、そのレベルに該当する年齢層に属している子供の総数を、同じ年齢層の子供の総数に対するパーセンテージで表した在学者割合)、レベルごと、また、より高等な教育レベルでは専攻分野ごとの在学者統計を含む。

成功の秘訣:“ジェンダー"分析は、女性及び男性双方に適用される。

第三段階:プロジェクトの評価と結果の伝達(例:評価の基準、勧告、フォローアップ、コミュニケーションと情報の普及)

例:小額金融と零細企業の育成

A.ジェンダーの視点を確保するために、以下のことを考慮すること:

  • ⅰ) 基準、勧告、フォローアップ
    • 評価報告はプロジェクトの女性及び男性に及ぼす影響をどの程度文書にまとめられるか?ジェンダー中立の用語あるいはジェンダーを意識した用語が使われているか? ジェンダー中立:プロジェクト報告は、コミュニティに対する影響を評価し、ジェンダー中立の用語を使い、結果や成果に影響を与えるジェンダーの要素を説明し評価しようとしていない。

      ○ジェンダーを意識:プロジェクト報告は女性と男性に対する異なる影響を評価する。例えば、施設、土地、科学技術、情報、市場、ビジネスの実践に関する訓練機会、財務計画及び生産拡大手段に対するアクセスの相違など。プロジェクト報告は特に女性が直面する制約、例えば、信用の獲得、時間、金融、識字、資産の所有、担保、文化的あるいは宗教的なもの(例えば、女性は自分のローン契約を結ぶことや担保に使われる資産を正式に所有できない)についての変化も評価する。

    • プロジェクトが女性と男性両方に対して意図された結果をどの程度達成したか? ジェンダー中立:プロジェクト報告はまず定量的に集計されたデータを用い、女性と男性の特殊性をジェンダー中立な用語、例えば、participants, credit users, lenders, entrepreneurs, market vendors, laborers, workersのような用語によって、まとめてしまっている。

      ○ジェンダーを意識:プロジェクト報告は、女性と男性に対する結果と長期的な成果を測るための定性的及び定量的な性別のデータに基づいている。(測るべき結果及び長期的な成果とは、例えば、職の創出、新しいビジネス、分業、ローンへのアクセスや受け取る額、要求される担保、金利、起業に関するスキル、個人所得、コミュニティの経済成長、女性や女性団体の参加)

  • ⅱ) コミュニケーションと情報の普及
    • コミュニケーションの方法は、男性と同様に女性にも適切か? ジェンダー中立:情報の普及とプロジェクトの結果の伝達は、全ての関心の団体及びプロジェクトの参加者に対して行われる。

      ○ジェンダーを意識:情報の普及やプロジェクト結果の伝達は、識字の程度、様々なメディアへのアクセス、文化的慣行を考慮するとともに、女性の団体、女性の起業家、女性の組合を含む。

成功の秘訣:手法に精通し、その適用に自信を得るのに時間をかける。

ジェンダー専門家に支援を求めること。

ジェンダー分析はプロジェクトに付加価値をつけるものであり、また、それはただ単に常識であるということを忘れないこと。

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