理工チャレンジ 女子中高生・女子学生の理工系分野への選択

先輩からのメッセージ

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先輩に質問!
黒田慶子プロフィール写真
  • 黒田 慶子(くろだ けいこ) さん
  • 神戸大学大学院 農学研究科
  • 応用植物学講座 森林資源学研究室 教授

専門は森林病理学、樹木組織学。マツ材線虫病(マツ枯れ)、ナラ枯れなど、樹木の萎凋病の発病メカニズムを研究する一方で、予防医学の観点から森林の健康維持に取り組んでいます。2010年11月まで、(独)森林総合研究所の関西支所地域研究監として、近畿中国地域の森林保全の推進を担当してきました。同年12月から神戸大学に移りました。

農学系分野を選択した時期・理由

子供の頃から虫捕り、魚釣りなどの遊びを通じて、様々な生き物に馴染んでいました。小学校高学年では、父と一緒にラジオを組み立てたり、科学クラブで花火作りや博物館見学などを楽しみました。高校2年生のころ、木原均博士が小麦の先祖を突きとめた話から植物の遺伝に興味を持ち、進路を農学部に決めました。

大学の第一希望の学科に入れなかったのですが、樹木の組織学や生理学に興味を持ち、大学と大学院では、樹木細胞の寿命や傷害への反応について光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて研究しました。大学院は自由な発想を重視する環境で、独自の実験に没頭することができました。また、コンピュータ(大型機に電話回線で接続の時代)を利用した樹木識別システムの設計にも取り組みました。

博士課程の時に、農林水産省の林業試験場(現在の森林総合研究所)で病理解剖 ***病気に感染した樹木を解剖して発病原因を探る手法*** を非常勤で担当したのがきっかけで、森林病理学の世界を知りました。「微生物が大木を枯死させる」そのメカニズムの研究に興味がわきました。博士課程の4年目、つまりオーバードクター1年の時に公務員上級職(現在のI種)を受験して農水省に採用され、研究官として林業試験場に配属されました。

現在の仕事(研究)の魅力やおもしろさ

マツ材線虫病やナラ枯れなど、樹木の萎凋病(急激に枯れる病気)の発病メカニズムや抵抗性について追求してきました。特定の微生物が樹木の中にはいると、木部樹液の流れが止まって枯れます。病原体を接種した樹木組織の観察や成分分析を続けて、ある現象を説明する証拠を見つけたときの興奮。それが次の研究の駆動力になります。研究とは理詰めの仕事です。自分のたてた予想(仮説)はどこから見てもつじつまが合うのか、自分に問い続けることが重要で、先入観や短絡的な思考は命取りです。考えて実験する、結果を見てまた考えるというふうに、過程を楽しみつつ成果を出していくのが研究の魅力だと思います。

大きな成果をあげた研究者から、「根気と粘りが研究者として最も重要。頭が良いかどうかよりも。」と、しみじみ言われたことがあります。結果を出すことをあせると、不充分なデータで誤った解釈をしてしまうことがあるからでしょう。研究者の適性があるかどうかの目安になると思います。

私の研究の基盤は顕微鏡観察ですが、それだけでは証拠がつかみにくいので、時には新しい研究手法にチャレンジします。その一つが、医科大学と共同で取り組んだMRI(核磁気共鳴画像法)の応用でした。人間の脳の撮像と同じ条件では樹木内部のきれいな画像が撮れないため、撮像条件の決定に何年もかかりました。このようなチャレンジが新しい発見につながるので、実用化までの過程は大変でも楽しいのです。

最近は、研究対象をややマクロな世界にも広げています。里山や人工林を健康に維持するにはどうすれば良いのか、予防医学的な観点からの取り組みです。研究の成果を実際に森林に適用して、予測通りになるかどうか見ていきます。研究論文を書くことは研究者の仕事ですが、それと同時に、「成果を社会に役立つ形にする」ことが重要です。森林の環境保全機能(CO2吸収など)には期待が高まっていますが、単に「大切に見守る」だけでは森林は維持できないため、里山整備のNPO団体などに科学的根拠のある手法を伝えることも積極的に行っています。

森林総合研究所では、採用から約25年間研究を続けてきましたが、2010年12月から神戸大学に移り、森林資源学研究室の教授を務めることになりました。今後は、研究だけでなく学生の教育も担当します。研究技術や考え方などを伝えるとともに、学生の皆さんからも刺激が得られることを、楽しみにしています。

MRIで撮影したコナラの断面/白い部分には水分が多い

女子中高生・女子学生の皆さんへのメッセージ

日本では大学進学で理科系分野を選択する女性が少なく、また、女性研究者や女性管理職の割合が他国と比べて極めて低いのですが、いくつか理由があると思います。女性研究者と出会う機会がほとんどないので、進路の選択肢に入りにくいのでしょう。私の場合、大学の生物学系研究室に所属していた母の友人からの情報が、進路の決定に役立ちました。私たちも情報を発信していきますが、このページをご覧の皆さんは、積極的に情報を求めて下さい。

「男女の役割分担意識(女は家庭に)」が女性の側にも残っていると感じることがあります。男性には「家族を養う責任者」という世間のプレッシャーがある一方で、女性には成人後の自立について真剣に考える環境が整っていないのではと、気になります。今は、仕事か家庭(育児)かと選択する必要はなく、両立できる時代です。大学合格を目標にするのではなく、その先のことを考えながら進路を選択し、辞めずに続けることを前提に職業のことを考えて欲しいと思います。自分に適した進路を見つけるには、「子供の頃から時間を忘れて没頭できたことは何か」と、思い返してみるのも良いでしょう。また、理科が好きでも、高校生の頃に数学から逃げてしまう例をよく見るのですが、先の目標があれば、早々とあきらめないで頑張れるのではと思います。

私には娘が1人います。学会(研究発表)には子連れで参加してきましたし、小学生だった娘をつれて京都から札幌に転勤もありました。その娘は今、大学生で就職活動中です。心配は無用です。まず、興味のあることに向かって、行動してみてください。

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