平成24年版男女共同参画白書

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第2節 被災者の状況

1 避難所の状況

避難所の設計・運営の中心を担うことが多かった自治会長は,岩手県,宮城県及び福島県では96?97%程度が男性であり,女性等への配慮の必要性の認識が十分浸透していなかったことが指摘されている。

内閣府では,平成23年11月から24年3月にかけ,被災地及び被災地を支援した地方公共団体,民間団体等を対象に,「男女共同参画の視点による震災対応状況調査」を実施した。同調査では,避難所運営の責任者に女性が加わっていないことから,ア女性の要望や意見が重視されない傾向にあったこと,イ女性用の物資が不足していても女性が要望することを躊躇する傾向にあったことが報告された。また,固定的な性別役割分担意識から,がれき処理は男性が担当し,避難所の食事準備は女性が担当することと固定化され,かつ,がれき処理には日当が支払われるのに対し,食事準備には対価が支払われないことが多かった。

2 応急仮設住宅の状況

仮設住宅は,砂利道や玄関・風呂の段差等,バリアフリー化されていないことから,高齢者,障害者等にとって生活上の困難があったほか,前出の内閣府の調査では,ア仮設住宅の責任者の多くが男性で,女性が主体的にコミュニティ運営に関わっている例が少ない,イ仮設住宅内に乳幼児や学童が安心して過ごせる場所が不足している,ウ集会所等での集まりに男性の参加が少なく,孤立化の懸念があることなどが報告された。

3 人口移動の状況

平成23年における岩手県,宮城県及び福島県の転入・転出超過数(都道府県間の移動者数)は,岩手県では,前年に比べて転出超過数が大幅に増加している年齢区分はないが,宮城県では20〜24歳及び25〜29歳で,転出超過数が大幅に増加している。

福島県では,全年齢区分で転出超過となっており,中でも0〜14歳は前年に比べて大幅な増加となっている。男女別に見ると,0〜14歳では,女性4,577人,男性4,463人と男女の差がそれほど大きくないのに対し,その親世代の中心となる25〜44歳の転出超過数は,女性6,628人,男性4,514人で,女性が男性を大きく上回っている(第3図)。

第3表 岩手県・宮城県・福島県の転入・転出(都道府県間)の状況

4 雇用の状況

岩手県,宮城県及び福島県における有効求職者数(平成24年2月)は,前年同月と比較すると,女性は10.8%増に対し,男性は2.4%減となっている(第4表)。

第4表 岩手県・宮城県・福島県の雇用動向(男女別)

雇用保険受給者実人員(平成24年2月)は,女性3万4,256人,男性2万4,060人で,男性は前年同月の約1.7倍であるのに対し,女性は約2.3倍で,男性に比べて女性の増加率が高く,女性の方がより厳しい雇用状況となっている(第5表)。

第5表 岩手県・宮城県・福島県の雇用保険受給者実人員(男女別)

沿岸部のハローワークでは,女性の求職者数が比較的多い食料品製造の職業では,有効求人倍率は低くなっている。一方,建設・土木の職業等では有効求人数が有効求職者数を上回っているが,女性の求職者が極めて少ないなど,女性の被災者の希望する仕事と求人の多い仕事とにミスマッチが見られる(第6図)。

第6表 ハローワーク別の有効求人数・有効求職者数

5 心の健康の状況

被災者の健康状態について,厚生労働省研究班が「東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査」として,岩手県陸前高田市及び宮城県石巻市の住民を対象に調査を行った。

同調査について,男女別で集計したところ,震災前後の成人の飲酒量の変化は,全体として変化のない者が多いが,陸前高田市,石巻市共に,飲酒量が増加している者は,女性が3%台であるのに対し,男性では約7~12%と高くなっている(第7図)。

第7表 飲酒量が増加した人の割合(陸前高田市,石巻市)(男女別)

また,睡眠障害が強く疑われる者は,陸前高田市では,女性44.4%,男性27.7%,石巻市では,女性50.2%,男性32.4%となっている(第8図)。

第8表 睡眠に関する状態(陸前高田市,石巻市)(男女別)

さらに,こころの状態(心の元気さ)を測る指標の点数分布を見ると,個別の対応が必要とされる13点以上の重症群は,陸前高田市では,女性7.0%,男性3.3%,石巻市では,女性8.4%,男性6.0%となっている(第9図)。

第9表 こころの状態(陸前高田市,石巻市)(男女別)

このように,震災による健康への影響は,睡眠障害,心の元気さ共に,男性よりも女性でより強い影響が見られる。

6 犯罪被害・暴力被害等の状況

岩手県,宮城県及び福島県における刑法犯の認知件数(平成23年度)は,各県共に前年度から約14〜20%減少しており,全国よりも被災3県の減少率が高くなっている(第10表)。

第10表 岩手県・宮城県・福島県における刑法犯の認知件数

性犯罪についても,強姦,強制わいせつの認知件数は,おおむね前年度に比べて減少している(第11表)。

第11表 岩手県・宮城県・福島県における性犯罪の認知件数

内閣府では,平成23年5月10日から岩手県,同年9月1日から宮城県,24年2月11日から福島県において,地方公共団体及び民間団体と協働し,全国の相談員の協力を得て,電話や面接により,東日本大震災による女性の様々な不安や悩み,女性に対する暴力に関する相談事業を行っている。「配偶者のアルコール依存が進み暴力がひどくなった」,「自宅が全壊して移り住んだ環境に配偶者がなじめず,イライラして当たり散らされる」,「震災で住まいと仕事を失い,別居していた配偶者と同居したが暴力に耐えられない」,「震災後に元交際相手が支援物資を持って駆け付けてくれ,心細さからよりを戻したが,暴力がひどくなり怖い」などの相談が寄せられている。